No.902543

「真・恋姫無双  君の隣に」 第65話

小次郎さん

均衡が遂に崩れる。
誰もが予期できなかった新たな戦場が。

2017-04-24 02:39:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7068   閲覧ユーザー数:5282

見えてきました、此度の戦の攻略目標である城が。

各地に兵を派遣した理由の全ての起因が、遂に目の前に現れました。

「亞莎ちゃん、敵が出て来ないけど、やっぱり籠城?」

「そのようです。野戦の対応も朱里さんと考案していましたが無難な籠城の選択を取ったようですね。それでも予期せぬ来襲ですから守将も平静ではいられないでしょう」

「先に潜入している朱里ちゃん達は大丈夫なのかな?」

「明命がついてますから大丈夫です、潜入工作で右に出る者はいませんから」

「そっか。じゃあ後は私次第だね」

「はい。よろしくお願いします」

五万の兵で城を囲み終え、準備は整いました。

今日明日中には陥とさないといけません、既に周辺の軍や城には伝者が走っているでしょうから。

仲国の中央付近に位置する、この平原を。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第65話

 

 

そんなっ!!

とてもじゃないけど信じられない報が届いた。

この鄴と本拠地南皮の中間にある平原が、華国の軍に攻められてるって。

「嘘だろっ、敵さんは目の前にいるじゃねえか!それに魏にも攻め込んでんだろ、どっから現れたってんだよ!」

本当にそうだよ、平原に五万の軍勢って、そんなの見逃す訳無いよ。

「賊が華国に扮装してるとかじゃないんですか?もしくは反乱軍とか」

「そうかっ、斗詩、きっとそうだぜ」

勿論それはそれで大問題だけど、それならそこまで強くないはずだから早期の鎮圧が可能だと思う。

「・・・いえ、一つだけ方法があります」

「于吉!」

「于吉さん!」

感情を押し殺してるのが分かる震えた声。

「水軍です。長江を下り外海に出て黄河を遡る、そして白馬津を陥とし北上すれば平原を攻める事が可能です」

 

 

三日間仕事に頑張って疲れ果ててるシャオに、果物を食べさせてあげながら私は事の真相を話す。

「お姉ちゃん、祭達って汝南への援軍じゃなかったの?」

「ごめんね。情報が漏れないように知ってるのは一部の者だけだったのよ」

華は関所を廃止してるから、どうしても情報は漏れやすい。

この建業がいくら仲から離れているとはいえ、どこかに必ず細作がいる。

細心の注意が必要だったのよ。

「でもさ、よくぶっつけ本番でそんな事したよね。失敗する可能性が高かったんじゃないの?」

「当然準備は念入りにしたわよ。商船と偽って実際に渡航したり、風や潮の流れとか河の特徴とかを調べたりね」

それでも大量の軍船で可能かどうか、賭けの要素もどうしてもあった。

無事に済んだ連絡が届いて、私も胸を撫でおろしてるもの。

 

 

実感が湧きません。

地図を見れば華国水軍の進軍経路は分かるけど、そんな事が本当に可能なの?

「なあ、斗詩。こんなのホントに出来んのか?」

文ちゃんの質問に私は答えられません。

水軍の核を担う孫家の海賊征伐は有名だけど、こんな大遠征は聞いた事がないよ。

と、とにかく至急対処しないと、領土内の兵は前線に集中させてて手薄になってるから。

このまま平原が陥ちたら、本拠地の南皮との最短連絡経路が断たれてしまいます。

留守を任されてる田豊さんは最善の対応を取ってくれるだろうけど、他の名家の人達が黙っているとは思えないし、血迷った行動を取ったりしたら南皮は大混乱です。

「落ち込んでる場合かっ!平原にも兵はそれなりにいる。直ぐに陥ちる訳じゃなかろう、急げば間に合うはずだ」

左慈さんの一喝に腰が抜けそうになります。

ですが、おかげで気持ちが切り替わりました。

その通りです、一日二日で陥ちる事は無い筈です、まだ間に合います。

「そうですね、左慈の言うとおりです。公孫賛さん、三万の騎兵を率いて急ぎ救援に向かってください」

「分かった。そういえば敵将は誰だ?元孫家の将か?」

そういえば確認してなかったよ、凄く動揺してたみたい。

「誰でも一緒だろ、城なんて簡単に陥ちっこないって」

「文ちゃん、油断大敵だよ」

「フッ、ですが文醜さんの仰る事は尤もですね。どんな名将でも平原規模の城を即日に攻略など無理な話です。それに進軍速度から考えましても大掛かりな攻城兵器も無いでしょう」

本当にそうだ、冷静に考えれば相当無理をした進軍だって分かります。

「あらあら、ようやく落ち着きましたの?相手は一刀さんですもの、これ位の事はしてきますわよ、わたくしの様に皆さんもドッシリと構えなくてはいけませんわ」

・・でも姫様、足が震えてますし顔色も悪いですよ?

私は何かを言おうとした文ちゃんの口を急ぎ塞ぎました。

「失礼致しました、袁紹様を見習うべく精進を重ねたく思います。では今後の対応・を・・・・・・」

于吉さん?

「どうしたんだ、于吉?急ぐから早く指示が欲しいんだが」

ですよね、どうしたんでしょうか?

「おいっ、于吉!」

「于吉?」

「于吉さん?」

先程の姫様のように、いえ、それ以上に顔色を悪くされる于吉さんに私達は声を掛けます。

暫くして于吉さんの口が動きました。

辛うじて聞こえる其の言葉は、

「・・います、・・・一人だけ、平原を直ぐに陥とせる将がいます」

 

 

連絡が届いたので、俺は役目の終了を告げに行く。

劉の牙門旗を掲げている将のところへ。

「あっ、一刀~」

「ちょっと姉さん、お役目、お役目」

ハハ、良かった、ボロが出る前に事が済んで。

「もう役目は終わりだよ、被っている髪を取ってくれていいから」

「よかったあ。暑くて大変だったんだよ、結構重たかったし」

「じゃあ、ちぃ達も何時もの服装に戻っていいのね?」

「あせらないの、戦が終わるまでは此の侭でいた方がいいわ」

普段着慣れない軍装や鎧は肌に合わなかっただろうな、でも人和の言うように安全の為にもう少しの間は着用してて貰いたい。

「桃香の役、お疲れ様、天和」

 

 

「戦場に居た劉備は影武者だと!」

「はい。関羽や張飛が居た事で当然一緒だと思わされていましたが、別人の扮装だったのでしょう」

「ちょっと待ってくれ、確かに遠目ではあったが私の目でも桃香を確認したぞ?」

白蓮さんと同様に私も劉備さんの姿を見かけてます、別人だったなんて信じられません。

「おそらく似たような雰囲気を持つ者だったのでしょう。顔馴染みの貴女でも分からなかったのですから」

劉備さんは独特な雰囲気を持ってたから、尚更疑うなんて考えもしませんでした。

「于吉さん!どうして劉備さんでしたら平原が直ぐに陥ちるというのですの!」

「そうだぜ、劉備なんて強くねえじゃねえか」

姫様や文ちゃんの疑問は私も同じ、どうしてですか?

于吉さんが説明してくれました。

以前に平原を傘下にした時の経緯を。

劉備さんが平原で取っていた行動を。

どれだけ劉備さんが平原の民の心を掴んでいたかを。

「・・桃香なら出来るかもな。・・違うか、桃香にしか出来ない!」

白蓮さんが認めました、紛れも無く事実だと。

あまりに常軌を逸した徳。

こんな事、報告されても信じられないよ。

于吉さんが統治の事を考えて握りつぶしてたのも当然だと思う。

「つまり、平原の民が劉備に呼応すると言うんだな」

「当然内応工作を行なっているでしょう。内に外、これでは一溜まりもありません」

 

 

華国に正式に臣下として認められた最初の戦で、いきなり最重要な役目を頂きました。

仲国の重要都市、平原を陥とす大将に。

私は戦が嫌いで、侵略の戦は特に嫌いだよ。

どんなに立派な理由があっても、やっぱり気が進まないんだ。

以前の私ならその気持ちを口に出してたと思う、責任から逃げたかったから。

でも私が憧れた人は、本当に人の上に立つ人の責任を行動で教えてくれたんだよ。

・・きっと言葉では駄目だった。

現実に目を向けろとか甘いとか、そんな風に言われても私は変われなかったよ。

私自身が自分の考えに囚われていたし、自分の言う事だけが正しいと主張する人には反発する材料を探すと思う。

「桃香様、降服兵の大半が華軍に加えて欲しいと言ってます。殆んどが平原出身の方達です」

「気持ちは嬉しいけど、予定外の事態は避けた方がいいよね。そうだ、一部の人達は治安維持を手伝って貰うよ。どうかな、朱里ちゃん?」

「はい、いいと思います。ではそのように伝えます」

潜入工作をしていた朱里ちゃんと明命ちゃんの活躍で、進退窮まった敵守将は敢え無く降服。

「桃香さんの敵兵への呼び掛けが戦意を挫くどころか、平原中に瞬く間に広まって民も兵も此方に寝返ってくれましたから」

「本当に凄かったのです。内応の約束が順調だったのも決起の早さも想定以上でした」

なんか照れちゃうよ、でも役に立てたのなら凄く嬉しい。

それに傷付いた人も少数で済んだと聞いたし良かった。

少数だからいいって訳じゃないけど、一刀様からそういう努力も出来るんだって教わった。

戦は力だけで勝つ事じゃないって。

「亞莎ちゃん、此処の守備固めはどう?前に平原は守備には向いてないって聞いた事があるんだけど」

「大丈夫です、今の仲国に平原を陥とす為の兵を用意は出来ませんので」

 

 

次々に炎上していく船、勿体無いかもしれぬが必要な事。

「ありったけの火矢を放て!全ての船を燃やし尽くせ」

白馬津を制圧し、次は対岸になる延津だ。

だが予想外の襲撃に敵の指揮系統は大混乱で兵数も少ない、戦闘と言える程にもならず勝利した。

「思春、此処は任せるぞ。儂は更に黄河を遡り渡河出来そうな箇所を全て潰しておく」

「ハッ」

祭殿を見送り、私は各指揮官より報告を受ける。

任務は完了、暫くは黄河上での待機だ。

 

 

幾つかの情報が入ってきて、ようやく全容が見えてきたわ。

難しい顔をしている冥琳に答え合わせをしてみましょ。

「つまり、ぜ~んぶ囮だったって訳?」

「ああ、そういう事だ。鄴攻めも、陳留も、汝南も、全てが平原を陥とす為の誘導だった訳だ」

開いた口が塞がらないわ。

王や数十万の兵を使って囮の戦、聞いた事も無い水軍での大遠征、無茶苦茶よ。

上手くいったから、で済む話じゃないわ。

「何で一刀はこんな事を実行したの?らしくなくない?」

堅実な印象が強いんだけど。

綱渡りもいいとこじゃない、考えてみれば兵力分散や二方面攻略なんて愚策よね。

「推測の域を出ないが、一刻も早い大陸統一の為だろうか」

「何で?平原を陥としたのはでかいけど敵地の真ん中よ。仲からしたら態勢を整え直して取り返せば済む話じゃない」

大国なのは伊達じゃないわ、民の多さは兵の補充が早いということ。

それに私達は兵糧は焼いたけど、そこまで仲の兵力は削れてないから大軍は健在よ。

「その態勢が整えられないんだ。約二十万の兵が黄河を越えていて戻れないんだぞ」

あっ、そっか。

華の水軍が仲の渡河用の船を全て燃やしたらしいから、国に戻りようが無いじゃない。

大軍を失い、平原を奪われた事で本土間の最短の連絡手段も失った。

・・仲は致命的な楔を打ち込まれたわ。

「逆に華は援軍を更に仲へ送るだろう、一国への攻めに専念出来るのだからな」

そうね、他戦場にいた桂花や稟の報告では、包囲されてただけで全然攻めてこなかったって。

包囲が解かれて退却したから、ようやく華琳に伝者が送れたんだし。

戦力は温存しまくりね。

「御遣いは仲との長期戦を避ける為に、一気に中心部を食い破る賭けに出たんだろう」

ん~、成程ね、なんか納得。

大元にあるのは一刀らしい平和への願い、乱世の早期終結って事かあ。

・・でも、それって残酷でもあるのよね。

一刀にとって私や華琳と戦う事は大事じゃないって事だから。

「平原攻略に成功した以上、華は当面仲に懸かりきりだ。我等がどうするかを決めねばな」

「それじゃ、官渡にいる仲の兵を接収するのはどう?」

「自分の故国が支配されてない兵が従うと思うか?」

無理ね。

「むしろ問題は兵糧が切れて瓦解寸前の其の軍だ。食べ物が無く国に戻れない、確実に野盗化するぞ」

え~、あんな数の野盗なんて冗談じゃないわよ。

「もしくは洛陽に向かって華に降服するかだ」

野盗化よりマシだけど、華の仲国制圧が更に早まるわね。

「それじゃ一昨年みたいに総力で華の本拠地の寿春を攻めるのは?」

「そんな余力がどこにある。魏の国力は戦争が続いていて現状維持が精一杯だ」


 
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