「天龍ちゃん、風邪引くわよぉ」
「いやぁ、もう食えねぇよ!」
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マイ「艦これ」「みほちん」
:55話<隻眼と天使>(改)
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私は風に当たるフリをして食堂のウッドデッキから外に出た。
空にはハッキリ月が出ている。今夜は珍しく風がない。私は、そのままデッキから中庭へ降りた。
美保鎮守府の中庭は、さほど広くはない。もともと美保湾の埋立地だからな。呉のような伝統的な鎮守府よりは遥かに小さい。
その狭い中庭で私はギョッとした。
「誰かが倒れている?」
……まさか事件?
いや、よく見たら、あの隻眼の艦娘がグウグウ寝ていた。なぁんだ一瞬、酔っ払いかと思ったぞ。
「気楽なものだな」
ここは軍隊だ。建前上、お酒があるはずがない。だが普通の食事だけでもう、お腹いっぱいになったのか?
「えーっと、天龍さんだっけ?」
念のために声を掛けてみた。当然、そのくらいで起きるはずがない。
そういえば以前、早朝に中庭で怒鳴っていたのも、この艦娘だったよな。荒ぶる娘、男勝りだな、この艦娘は。
「あらぁ、天龍ちゃん、こぉんなところにいたのォ?」
天使のような光る輪を頭に乗せた艦娘が向こうから、小走りに近寄って来た。
その「天使」は直ぐ私に気づくと会釈をしながら言った。
「あら司令ぇ、スミマセン。……私『龍田』と申しまぁす」
ちょっと失礼しますと言いながら彼女は天龍の身体を軽く抱き起こすと、その体を軽く揺さぶった
「天龍ちゃん、風邪引くわよぉ」
揺さぶり続けるが、反応が無い。少し肩をすくめた龍田さんは言った。
「この人、何するのも、もぉ、ひたすら一生懸命なの。精一杯食べたら、後はもう全力で寝てしまうんですね」
その後も龍田さんが何度か呼びかけると、やっと天龍は、
「いやぁ、もう食えねぇよ!」
とだけ応えた。
この天龍も普段「さん」付けで呼んだら利根のように「やめろぉ!」とか言って嫌がりそうだな。
「しようが無いわねぇ」
そう、私も内心『しょうがないな』と、思ってしまった。
ま、寝ている隻眼は、この天使に任せて。さりげなく立ち去ろうとしたら
「司令」
いきなり、龍田さんに呼び止められた。
「はい?」
私は振り返った。
「司令は、こちら出身ですよね?」
「ああ、そうだが」
「御存知かも知れませんが美保湾って海水浴のメッカなんですよねえぇ」
「はぁ……」
そういえば学生時代私は、たまに授業をサボって友人たちと美保湾で泳いでいたことを思い出した。
「あぁ。ま、そうとも言えるねえ」
正直、水泳が出来るほどのメッカかどうかは知らない。ただ弓ヶ浜は遠浅だからソコソコ水遊びくらいは楽しめたはずだ。
夏の美保湾は大山がよく見えて海は青くて、町にも近いから便利で良いんだよな。
龍田さんは寝ている天龍の髪の毛を、なでながら続けた。
「あたしも天龍ちゃんも旧いタイプの軽巡だから泳ぐのも得意なんですよ。あと水着も……」
「え?」
思わず声が出た。
龍田さんは、少し妖艶な笑みを浮かべた。青白い月明かりと彼女の頭上に黄色く光る輪の微妙な陰影。
まずい、ちょっと鳥肌が……だが直ぐに彼女はニッコリと微笑む。
「今度、みんなで海水浴にも行きたいですね」
龍田さんは鼻から抜けるような声で、こちらを見上げた。
「……あ、ああ。考えておくよ」
私の言葉に彼女は、とてもゆったりとした声で応える。
「どうぞ、よろしくおねがいします」
龍田さんの瞳は静かにキラキラしていた。山城さんや赤城さん、あるいは比叡とも違う龍田さんの瞳の輝き……妄想が爆発しそうだ。
「司令、呼び止めて申し訳ありませんでした」
彼女は、少し首を傾(かし)げて微笑んで言った。
この二人は何となく荒ぶる印象があったけど……改めて今夜は、二人とも存在感があって、かつ大人っぽい。(一人は夢の中へ轟沈しているが)それでいて期待するのは海水浴か?
青い月明かりにボウッと浮かび上がっている龍田さんと天龍……不思議な艦娘たち。何かキツネに詰まれたようだ。
「では行くよ」
「はい……私は暫く、ここに居ますから」
私は龍田さんに会釈をして再び、歩き出した。
中庭を過ぎて工廠の建屋を越えると、そこはもう海だ。ここが鎮守府の夜の埠頭だ。打ち寄せる波の音が心地良いのだが……それを打ち破るかのごとく男女が言い争うような刺々しい声が聞こえた。
尋常ではないな……と声のするほうへ近づく。
ん……やっぱりあの声は舞鶴らしかった。なんだろう、この罪悪感。ちょっとドキドキする。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。
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黒い髪の艦娘と舞鶴を追って外へ出た司令は中庭で不思議な艦娘たちに出会う。