(鄴)
右側面から大量の矢が飛んでくる。
「チッ、またかよ!」
兵に注意喚起して損害は減らせたけど、突進の勢いを完全に殺された。
仕方ない、戻って立て直すか。
「翠、私が出る。お前は少し休め」
「悪い、頼む」
華雄と持ち場を交代して兵を休ませる。
天幕で汗を拭って着替えを済ませる、ようやく人心地が付いて座り込む。
・・それにしても、本当にあいつら袁紹軍かよ。
反董卓連合じゃ数だけの雑魚だったのが戦う魚群になってた、それも半端じゃなく。
おまけに組み込まれてる匈奴や鮮卑の兵だ。
アタシら涼州出身者はアイツらの強さを身に染みて分かってるけど、計略には脆いところがあるのもよく知ってる。
でも挑発には乗らないし、たんぽぽの罠にも引っ掛からねえ。
勇猛に冷静な判断力がついてる、一体どうしたらあそこまで変わるんだよ。
牽制の為の戦だから無理する事はないけど、油断してたら咽笛をガブリと噛み付かれちまう。
・・厳しい戦いになりそうだぜ。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第63話
(官渡)
フハハハハハハハ、幾らでもかかって来るが良い。
華琳様が直々に築城されたこの砦、更に守りを託されたは私、魏武の大剣こと夏侯元譲だ。
最早完璧、二十万?足らん、足らんぞ、陥としたくば百倍の兵を連れてくるがいい。
それでも陥ちる事などありえんがな。
・・それにしても、流石は華琳様だ。
私が攻め込む側だったとしたら、この砦は非常に嫌なかんじがする。
左程大きくは無いものの、戦場に於いて著しく存在感がある。
無視して本隊を攻めようとすれば酷い目にあう、そう思えて仕方ないからな。
だが攻め口は狭く、否が応でも敵兵は私の前に立つ以外ない。
おっと、まとめて吹っ飛ばしたせいで二人ほど壁に叩きつけてしまった。
「春蘭様、土壁は壊しちゃ駄目です、華琳様や秋蘭様から念入りに注意されてたでしょ」
「うむ、そうだったな。季衣も気を付けるが良い」
強すぎるというのも考えものだな、予定以上の成果を挙げてしまう。
流石は私だ。
よし、砦が上手く機能している。
本陣への敵の攻撃に鈍さがある、これなら守る兵が農民兵で大勢を占めていても何とかなる。
仲との三倍以上の兵力差を埋める為には僅かな力も無駄に出来ない。
この官渡での戦で魏軍の軍師を任じられた私の責任を果たす為に。
「冥琳、貴女に本陣の指揮を託すわ。私も前線に出る」
驚いた、まさか華琳殿が雪蓮みたいな事を言うとは。
「華琳殿、それは無茶というものだ。何より私は客将だ、他の者が納得すまい」
評価してくれるのは有難いが、無理が過ぎる。
「・・一ヶ月よ」
「一ヶ月?」
「一ヶ月以内に仲を撃破して援護に向かう。それ以上は他が保たないわ。その為にも戦場の深い所まで潜り込む必要があるのよ」
それは、その通りだ。
いや、それしかないだろう。
まともに戦っていて此の難局は乗り切れない。
「分かりました、お引き受け致します」
「私と貴女が描く戦術が組み合った時こそ、我が軍の勝利への道標よ」
(汝南)
お兄さんも容赦ないですねー。
用意が不十分の時は貝のように閉じこもって、攻める時は戦う前から勝負が見えてるんですから。
攻め手は真桜ちゃんと沙和ちゃんですか、どうしたものですかね。
この汝南は籠城戦には向いてないですから、でも野戦は無理です、此方の兵が弱すぎます。
「どうしますかー、稟ちゃん」
「・・風、何か良い策はありませんか?」
「無いです。という訳で風は眠ります、く~」
「寝ないで下さい!」
「おお、余りに無理難題なので現実逃避してしまいました」
でも、本当に無いんですよ。
策を実行するには兵の練度が足りませんし、無理して行なえば換えって守備に穴を開けてしまいます。
稟ちゃんも同じ考えでしょう、気持ちは分かるのですが耐えるしか出来ないのです。
「辛抱強くいくしかないですよ」
「そうですね。華琳様が来られるまで何としても耐えて見せましょう」
(陳留)
ふむ、流石に魏国の本拠地だけあって守りは固そうだな。
とはいえ細作の報告では兵は農民兵が大半、守将も軍師が二人で強き将は居らぬとの事。
ならば討って出てくる事は無いとみてよい。
敵主力の殆んどは官渡に向かった、念の為そちらへの警戒を強めておくか、背後を取られては適わぬからな。
「桔梗殿、兵の配置は済んだのです」
「おお、すまんの」
この陳留攻めには筆頭軍師のねねが参謀として従軍しておる。
だが真の理由は陳留攻めの為ではない。
此度の戦は戦場が幾つもある。
それゆえ各軍が独自に判断を下さねばならないが、それでも全体としての連携を欠かすことは出来ん。
本国や各戦場などからほぼ中央に位置し、最も速く連絡がとれる我が軍は全体の指令部も兼ねるからだ。
・・全く、人生とは面白いものよ。
田舎の益州で細々と戦っていたわしが大陸の命運を決める戦の中心部におる。
徒花と思っていた我が生涯、浅慮な考えであった。
人の咲かす花に徒花などない、それぞれ形は違えど何時の日か実を成すのだ。
「桔梗様、魏軍より使者が参りました」
焔耶が伝達に来た。
「わかった、会おう」
再会した弟子は大きく成長を遂げていた。
苦しい思いを重ねたのだろう、身体に残る傷の多さが物語っていた。
それを乗り越え地に足をつけ人の心を知ろうとする姿は、わしが願って止まないものであった。
師として導く事の出来なかった我が身を不甲斐無く思うが、これ程の喜びはない。
焔耶よ、お主に芽生え始めた蕾は、どのような花を咲かせるのだろうな。
(鄴)
「仲の動きだが、速いな、雛里」
「は、はい。星さん、本陣の守りは凪さんにお任せして、何時でも出られる様に備えていて下さい」
北方異民族を取り込んだ仲軍の騎馬軍、対策は練っていましたが後手に回ってます。
特に一撃離脱を繰り返す弓騎兵は予想以上の厄介さです。
こちらの涼州騎馬軍も白兵戦では互角ですが、弓騎兵部隊は一段下です、その差が戦況に如実に現れてきました。
此方が陣を固めて無理には攻めなくても、縦横無尽に動く仲軍にどうしても翻弄され出血を強いられてます。
戦力が互角なら野戦の勝敗を分けるのは決断の速さ。
軍師である私の決断が将兵の力を生かしも殺しもします。
そして脳内に浮かぶ幾多の手から選択し、先の先、更にその先を読みます。
「星さん、愛紗さんの援護に向かいつつ隊を二つに分けてください。鈴々ちゃんの隊が敵右翼とぶつかったら、それぞれ円を描くように動いて敵の横腹を突いてください。そして・・・・・」
本陣から戦場が見渡せますように用意した高台で、わたくしの傍に控えていますのは左慈さんと于吉さん。
「おや?敵後方の左右から兵が?成程、狙いは弓騎兵ですか。ですがそうはいきません、チビさん、顔良さんに伝令を」
張り詰められた緊張感が場を支配してます。
良いですわ、良いですわ。
わたくしと一刀さんが戦うのです、弛緩した空気などありえませんわ。
華琳さんと戦った時の様な一方的な戦いなど興醒めですもの。
力と力、知と知が衝突しています激しき戦場。
正にこれこそ天下を懸けた戦ですわ。
「華雄軍にも動きが、張郃将軍に対応を、弓騎兵隊も援護に回るように」
于吉さんが次々に繰り出す鋭い指示。
此度の陣中は優秀な臣で固めてますので、いまのところ出番がありませんわね。
少し物足りませんが、主役はゆっくりと待つ事に致しましょう。
それからも華軍の動きに于吉さんが指示を出し続けて、依然戦況は有利かと思っていましたけど。
「今度は馬岱・・・、やられました!あれでは弓騎兵隊に逃げ場がありません!」
あら?出番ですわね。
于吉さんの読みを更に上回りますなんて、流石は一刀さんの臣ですわ。
ではわたくしの華麗なる戦い振りをと思いましたら、
「俺が往く」
「左慈、いくら貴方でもあの状況はいけません!無用な損害が増えるだけです!」
「違う!奴等が大きく兵を動かした所為で華の陣形は乱れてる。被害が抑えられないなら此方もそれ以上の損害を奴等に与えるだけだ!」
オーホッホッホッホッホ。
流石はわたくしの国の武の象徴、天下無敵の大将軍ですわ。
「左慈さん、許しますわ。于吉さん、貴方は少しでも弓騎兵隊を救う手立てを考えなさい」
わたくしの命令に于吉さんは礼を取りましたけど、左慈さんは無言で馬に乗り、
「続けっ!」
号令を発して敵陣へ猛進していきましたわ。
無礼ではありますけど許しますわ、お世辞しか言わない無能よりはましですもの。
・・さあ、咲かしてらっしゃい。
貴方の武の花を、この戦場に大輪として。
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あとがき
小次郎です。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今話ですが文頭に地名を入れさせていただいてます。
幾つも戦場が同時進行していますので少しでも分かりやすくなればと思い書き込みました。
ご感想、ご支援ありがとうございます。
ではまた次話も読んでいただけたら嬉しいです。
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各地で起こる戦。
力を、知を、心を振り絞る者達が戦を彩る。