「他人の評価は、すべてじゃありませんし」
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マイ「艦これ」「みほちん」
:第22話(改2.0)<艦娘と変化>
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「やれやれ」
私は両腕を上に伸ばした。
「せっかくの晴天だ。外に出ようか」
「そうですね」
青葉さんも頷(うなづ)いた。
秘書艦には内線で移動する旨を伝え、制帽を被って部屋を出る。
日陰になった廊下が万華鏡のようにキラキラしていた。
「海の光か」
「夏ですね」
さすが記者、反応が早い。
ここは小さな鎮守府なので執務室のある建物を出ると直ぐに海に面した埠頭である。やや離れた海上で訓練をしている艦娘たちの姿以外は閑散としていた。
私たちは植え込みと埠頭の境目にあるベンチに並んで腰掛けた。
「夏の日本海は静かだな」
「そうですね」
軽く制帽を被り直しながら聞いてみた。
「君の知る範囲で私のウワサって、何か聞いてるか?」
「えっと、司令官の噂ですか」
青葉さんは大きな瞳で私を見詰めながら言った。
「えっと、もちろん知ってますケド」
何か奥歯に物が挟まったような言い方だった。
「オフレコだろ? 遠慮なく言い給え」
情報通の彼女なら、いろいろ知っているだろうと私は思ったのだ。
埠頭で穏やかに打ち寄せる波の音。
一瞬、間があってから決意したように立ち上がった彼女。手を後ろに組み埠頭にゆっくり踏み出しながら答えた。
「えっと……『海軍一の弱腰』『舞鶴の負け犬』『回り道太郎』」
途中から指を折って数えていた青葉さん。私は脱力してベンチから、ずり落ちそうになった。
振り返った彼女を私は手で制した。
「さすが記者だな」
苦笑いした。
「よく出るものだ」
「あ、いやぁ」
ばつが悪そうに後頭部に手をやって苦笑いする青葉さん。
「いいよ、ありがとう……」
私は大きな、ため息をついた。
「正直、頭が痛いね」
「同情します。でも」
再び海のほうに顔を向けて彼女は言った。
「これって海軍さんのざっくりした、ご意見ですし」
水面(みなも)を見つめた青葉さんの上半身がキラキラと浮き上がる。
「他人の評価は、すべてじゃありませんし」
「そうだと良いが」
肩をすくめた私。微笑んだ彼女の青い髪の毛が風に揺れていた。
そのとき轟音を響かせた多数の戦闘機が空軍美保基地から飛び立つのが見えた。青い空と大山(だいせん)を背景に機体が太陽光を反射させている。
「あれはゼロ式か。今日は空軍も忙しいな」
手かざしで同じ方向を見ていた青葉さんは言った。
「そういえば先ほど対空機銃を積んだ陸軍の車が産業道路を何台も移動してました」
そして獲物を見つけたような顔になった。
「これはニュースになりますね!」
首を傾けながら悪戯(いたずら)っぽく笑う彼女。この好奇心の強さは鎮守府一番だろう。
「あ」
急に反応する青葉さん。何かを受信したらしい。
「司令、秘書艦より『作戦司令部までお越し下さい』との伝言をお預かりしました」
「分かった」
心地よい潮風を浴びながら敬礼した私は彼女と分かれて作戦司令部へと向かった。
「お待ちして居りました」
部屋に入ると秘書艦が待機していた。お互いに軽く敬礼をしてから私は椅子に腰掛けた。
彼女は手にした暗号解読文を見ながら報告する。
「艦隊司令部から今夜20:00より全軍、臨戦態勢をとるようにとの電文が着ています」
「なるほど」
続けて別の書類を見た祥高さんは言った。
「一方の電報では美保空軍基地へ、陸攻の着陸時間を伝える内容が、着たきりです」
「陸攻?」
壁際の通信機前には駆逐艦の寛代が居た。先ほどから盛んに何かを受信している。その隣には当直明けの大淀さん。何かを書き留めている。
(まだ粘っていたのか)
そんな彼女も振り返った。
「今朝は空軍からも高尾電探施設の情報が逐一、提供されてます」
「空軍から?」
意外な展開に思わず声が出た。
「こりゃ、きっと明日は雪だぞ」
私の言葉に、場の艦娘たちも頷いた。
改めて祥高さんが確認する。
「司令、今夜20:00から全軍『臨戦待機』ということで各班に通達して宜しいでしょうか?」
「そうしてくれ」
『はい』
秘書艦と大淀さんが敬礼した。
(上の連中は何か敵の情報を掴んでいるのか?)
よく分からないが一連の動きは尋常じゃない。
この雰囲気を察したのか待機中の各班から自主訓練の許可申請が次々と入る。ほどなく鎮守府上空では艦娘たちの訓練機が盛んに飛び始めた。
(訓練する艦娘は頼もしいな)
訓練の慌ただしさは嫌いじゃない。私も防人(さきもり)の血が騒ぐのだ。
父は空軍の操縦士だった。息子である私も志を同じくする軍人だから。
艦娘と私は一致団結して敵に立ち向かうのだ。
「同じ仲間か」
このとき私は急に、着任以来ずっと肩肘張っていたことを感じた。
(無理に構えることもない)
そう思うと気持ちが軽くなった。
青葉さんと話したのも良かったのだろう。
私の小さな変化を察知したのか寛代が大きな瞳で、こちらを見ていた。
ちょっと焦った。
(この艦娘も、ときどき私の心を見透かすように、こっちを見る)
その黒髪には窓からの光が反射していた。
(初めて出会った時より、いくらか表情が明るくなったな)
緩やかに腕を組んだ私は窓の外を見ながら呟いた。
「私と美保鎮守府も少しずつ変わっていくのかな?」
その言葉で作戦司令部の緊張が少し緩んだのだろう。寛代が少し微笑んでるような気がした。
外からは訓練機のエンジン音が断続的に続いていた。
以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほちん」とは
「美保鎮守府:第一部」の略称です。
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海軍では私の評価は低いが青葉さんは違った。一方、軍令部は敵の動きを察知したような命令を何度も送って来た。