鍼・戦国†恋姫†無双X 幕間劇その三
美濃岐阜城を出発し、枯れ野となった京を目指す連合。
その本隊とは別に使命を帯びて行動する隊が幾つか在った。
スバル隊もそのひとつで、任務は堺へ赴き街の状況を調査する事。
加えて、エーリカの護衛だ。
エーリカには西洋人に事態の説明と、今後の保護を約束する事を伝える任務が与えられていた。
途中までは本隊と同じ道程を行くので、現在は行軍の先頭を任されている。
「走れ!走れ!走るのらーーーーーっ!兎々がおまえら全員鍛え直してやるから覚悟するのらーーーーーっ!」
『『『はいっ!』』』
そして、各地の寄せ集め部隊であるスバル隊の兵の連携を図る為、行軍中も調練が行われていた。
兵達は声を揃え気迫の篭もった目で走り続けている。
「この短期間によくここまで纏められましたね、沙綾どの。」
白馬に跨がるエーリカが隊列の先頭集団から後ろを振り返り沙綾に感嘆の声を漏らした。
沙綾も馬を駆りエーリカと併走して、うむと頷く。
「兎々に夕霧という武田の指揮官が居るお陰じゃの。尾張、三河、河内、信濃、相模と各々の家人の寄せ集めで出身がバラバラであるが、信賞必罰と唱える兎々は分け隔て無く褒める所は褒め、叱る所は叱っておる。」
「越後の……沙綾どのの家人は居ないのですか?」
「儂の家人は越後に置いてきた。越後の冬は雪が多いので人手が必要なのでの。」
「そうなのですか……」
エーリカは雪の積もった越後の風景を思い描き、きっと絵画の様に美しいのだろうと陶酔した。
「家人を連れておらんのは他にもおるぞ。夕霧と犬子がそうじゃ。」
「犬子さんもですか!?夕霧さんは武田家の事情を聞いていますから判りますが、犬子さんは何故……」
「ほれ、この前来た利益じゃ。向こうの方が前田本家じゃからの。返したのじゃ。」
「ですが犬子さんは赤母衣筆頭では……」
言ってからエーリカは気が付いた。
母衣衆は織田の部隊であり、犬子はその隊長を任されていただけなのだと。
「そうじゃ。赤母衣は勿論、和奏の黒母衣も久遠さまの直属。和奏はまだ佐々家当主じゃから家人を連れておる。まあ、それでも犬子を慕う家人が数名残ったがの。」
「それは………犬子さんはこれから大変ですね……」
エーリカが申し訳なさそうに言うので、沙綾は笑ってエーリカの尻を叩いた。
「犬子自身が気にしておらんから、そう気に病むことはないぞ♪それよりも………」
沙綾が笑顔から渋面に変わる。
「スバル隊の兵数が足りん!只でさえ国に帰したり駿河に復興に割いたりで減っておったのに!前田衆が抜けてこの有り様じゃ!」
そう言って指差すのは駆け足の集団。
数は二百人強。
「隊としては充分な人数だと思いますが……」
「スバル隊の小娘どもをよく思い出せ。口を開けば先鋒先鋒とさえずるヤツが多いのに、この人数で先鋒など賜ったらとてもではないが務まらんわ!」
戦の規模にも拠るだろうが、今は九州で数万の鬼と戦う事を前提に言っているので、確かに兵数が足りているとは言えない。
「ですが士気はとても高いですよ。この調練でもやる気がとても伝わってきます♪」
「やる気のぉ…………おい、三日月!」
呼ばれた三日月が笑顔で馬を寄せる。
「なんだー、うささん♪」
「おぬし、ちょっと兵を鼓舞するのじゃ。」
「みんな頑張ってるもんなー♪はげましてやるかー♪」
三日月は下がって兵の先頭まで来ると、振り返って声を上げる。
「みんなーーーーー!頑張れーーーーー!」
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおっ』』』
「いい返事だぞーーーー♪最後まで走りきれたら頭をなでてやるなっ♪」
『『『うっひょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ♪♪♪』』』
三日月の一言で兵から伝わる熱気が高まった。
「三日月さま頭を撫でてもらえるーーーーっ♪」
「お、おれは暁月さまにっ!」
「おれは絶対鞠さまにっ!」
「ど、どうしよう!途中で脱落して八咫烏隊の馬車に拾ってもらって介抱されようと思ってたのに……」
「おまえそんな事考えてたのか!しかしそれも捨てがたい!」
「ばっきゃろーーー!お嬢だ!小夜叉お嬢が一番に決まってんだろうがっ!」
「小夜叉さまがほめる姿を想像できないんだが………」
「罵られて槍でどつかれるのがいいんじゃねえかっ!」
「「「おまえ……………………最高だぜっ♪」」」
兵達………いや、変態紳士達は前方で馬を駆る
その姿は正に人参を目の前にぶら下げられた馬。
エーリカは笑顔を引き吊らせ、言葉が上手く出て来ない。
「ええと……………その…………」
「今のスバル隊にはこんなのばかりじゃからの。新たに加わる兵が付いてこれるのか………そもそもスバル隊に志願してくる者がおるか心配じゃな……」
「…………昴さんはその辺りをどうお考えなのでしょう……
「昴か?」
沙綾はすっと兵の中を指差した。
「幼女最高ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ♪」
兵に混じって幼女からのシゴキを堪能していた。
「あれが幼女以外の事を考えると思うか?」
「そ、そうですね……………」
エーリカは曖昧な返事をすると前を向き、堺での自分の役目に考えを切り替える事にしたのだった。
さて、その昴はと言うと、ただ兵と一緒に兎々のシゴキを堪能していただけではなく、虎こと加藤清正と檜こと福島正則も調練に参加しているので、二人の武人としての素質を確かめる為に近くで見ているのだ。
「虎ちゃんも檜ちゃんも汗ひとつかいてないわね♪」
「おれも檜も毎日走って鍛練しとったがや♪」
「あたいらにはこれくらい、へでもにゃあでよ♪」
二人共昴に対する緊張がすっかり消えて尾張訛りで話せる様になっていた。
「でも、おれら、こんな軽装でほかの人達に申し訳にゃあよ……」
「昴さま、あたいら
「気にしない気にしない♪今日は二人の素質を見極めるのが目的なんだから♪体の動きがしっかり見えないと意味が無いのよ♪」
「そんでこの服なんなも?」
「それは皇帝陛下が私の国に広めた天の国の鍛練服!ブルマーよっ♪」
そう。
虎と檜は紺のブルマーと白いTシャツを着ていた。
胸にはしっかりと名前を書いた布が縫い付けてある。
「ぶるまあ……なも?」
「天の国の着物っ!?なんだしらんけど、どえりゃあカッコええでよっ!」
「これで筋肉の動きも確認できるからね♪」
そう言いつつ見ているのは二人のブルマー…………やっぱり二人の姿を堪能していただけの様だ。
「(お頭………あんたやっぱり凄えぜっ!)」
「(俺らあんたに一生付いて行くぜっ!)」
「(お頭っ!あんたは神だっ!)」
周囲の変態紳士達は涙を流して昴を讃えていた。
そんな光景をもう二人の新入隊者であるねねと小竹がエーリカ達の居る先頭で馬上から眺めていた。
「虎と檜はいいにゃもなあ………ねねもあの服着たかったにゃも………」
「そ、そう?」
手綱を握る小竹は顔を赤くして背中に抱き付くねねに応えた。
「小竹ちゃんは着たいと思わないにゃも?」
「わ、わたしはちょっと………恥ずかしいかな………それにわたしもねねちゃんもこんなに走れないでしょ?」
「そうにゃも………でも、ねねも昴さまにいいとこ見せたいにゃも!」
「わたし達は裏方だから………」
落ち込むねねを励ましたいが具体的な案が思い付かず言葉に詰まる。
「そのお手伝いは私にお任せをっ♪」
突然聞こえた声に振り向くと、馬に自分の足で併走する年上の女性が居た。
「私は昴さまの忍で幼女の下僕、名を戸沢白雲斎。通称を栄子と申します♪私の事は呼び捨てで栄子でも雌豚でもお好きにお呼び下さい♪」
何やら理解し難い言葉も聞こえたが、周りが騒ぎ出さないのでこの栄子がスバル隊の一員なのだと理解する。
「はじめましてにゃも。浅野寧にゃも。通称はねねにゃも。」
「はじめまして。木下小一郎長秀、通称は小竹です。」
「ねねさま♪小竹さま♪お二人とも実に可愛らしい♪」
「あ、ありがとうございます………それで手伝うと言うのは……」
「一足先に今日の目的地へ赴き、皆さまをお迎えする準備を行うのです♪」
「それならねねにもできるにゃも♪」
「わたし達の初仕事だね♪がんばろう、ねねちゃん!」
喜ぶ幼女二人に栄子は萌え立ち、口の端からヨダレを垂らしている。
「それではこの栄子が馬よりも速く連れて行ってあげましょう♪」
と言った次の瞬間にねねは栄子の胸に抱かれ、小竹は背中に背負われていた。
「えええぇぇええええっ!?」
「どえりゃあにゃも!これが忍術にゃも!?」
一瞬で馬の背から移動した二人は、自分の事ながら何をされたのか全く判らず目を白黒させている。
「おい、栄子!二人を無事送り届け、しっかり護衛をできたら褒美に踏んでやるぞ!」
今度は沙綾から理解不能な言葉を聞かされ小竹とねねは更に混乱した。
「ありがとうございまあっすっ♥それじゃあねねさま♪小竹さま♪イキますよおっ♥ひゃっほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっぉぉぉぉぉぉぉぉ………………」
栄子は奇妙な歓喜の声を上げながら、あっと言う間に街道の彼方に消えてしまった。
三人を見送った夕霧が苦笑しながら沙綾とエーリカに寄って話し掛ける。
「うさどのは栄子の扱いがすっかり上手くなったでやがりますな。」
「コツさえ掴めば結構容易いぞ♪まあ、油断は出来んがの♪」
エーリカも栄子が雹子と同じ嗜好の人間だと理解しているのでそこには触れず、別の気になる事を口にした。
「ですが、あの早技………あれがニンジャの技なのですね。」
「あれくらい綾那にもできるですよ?」
横からさも当たり前だと綾那に真顔で言われて、エーリカが驚き目を剥く。
「見せてあげるのです♪ほらっ♪」
綾那の掛け声と同時に蜻蛉切りと鎧と袈裟懸けにしている巨大な数珠が姿を消した。
「ええっ!?」
「「あ〜、そう言や星が似た様な事出来たな。あいつの場合は離れた場所の相手を一瞬で目の前に引き寄せる技だったけど。」」
エーリカの胸元に居座る二体の宝譿が思い出したと声を揃える。
宝譿が喋って動き回る時点で何でも有りだなと、エーリカは諦めの息を吐いた。
「………………そういう物なのだと納得します……」
「さすが中尉は理解が早いんだな♪」
「は?中尉?」
「あ、間違えたです!何でかエーリカって言おう思ったのに中尉って言っちゃったですよ!」
何処かの外史から綾那に記憶の流入が有った様だ。
しかし、さほど深刻な事態では無いので、綾那のボケとして笑いが起こっただけでこの事は全員の記憶から直ぐに忘れ去られたのだった。
それから半刻してスバル隊は江北の坂田郡石田村に在る寺に到着した。
「みんな待ってたにゃもよーー♪」
「飲み水と食事の準備ができてます♪」
寺の前に用意された十数個の大きな水瓶に兵達が集まって喉の渇きを癒していく。
「幼女様が用意してくれた水!」
「これぞ正に聖なる水っ!」
「ぷはあっ!幼女様の聖水が五臓六腑にしみわたるぅうううううっ!」
普通の井戸水なのだが、変態紳士達は喉の渇き以外も満たされている様だった。
「ご苦労さま、ねねちゃん♪小竹ちゃん♪これからもこうして支えてね♪」
「「はい♪」にゃも♪」
ねねと小竹は役に立て、昴に褒められ笑顔で頷いた。
「昴さま、お疲れさまです。将の皆さまは寺の中でおくつろぎください♪」
栄子はそう言ってエーリカや沙綾達を寺の境内に招くと昴にそっと近寄った。
「(昴さま♪手筈は整えております♪)」
「(ありがとう、栄子♪で?)」
「(二人。もちろんとっても可愛い子ですよぉ♥)」
「(うふふ♪会うのが楽しみだわあ♥)」
変態筆頭の二人がニヘニヘしながら門をくぐり誰にも気付かれない様に本堂へ向かう。
本堂の前に出ると二人の幼女が畏まって立っていた。
歳は暁月や雀と同じくらいだ。
「石田様、大谷様、孟子度さまがいらっしゃいました♪」
栄子が声を掛けると二人は静かに体を向けて深々とお辞儀をする。
「はい。お初にお目に掛かります。我が名は石田佐吉…三成と申します。通称は
綺麗な黒髪を七三に分け銀縁の眼鏡を掛けた如何にも真面目そうな幼女は、見た目通り畏まった挨拶をした。
「はじめまして♪
対して、もうひとりは赤みがかった髪をポニーテールにしたソバカス顔の女の子で、年相応の人懐っこい笑顔を見せる。
「この度は我が主君、浅井新九郞様より天人孟子度様、並びにスバル隊の皆様のお世話を仰せつかりました。ただ、誠に申し訳ない事に母石田正継、姉石田正澄は連合の本隊をお迎えするべく殿の補佐のため長浜城へ赴いております。母と姉の代わりをわたくしとこの吉継で誠心誠意務めますが、若輩者故手の行き届かぬ処があると思いますので、何卒ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。」
「も〜、羽多は堅いなあ♪」
「うん、小矢ちゃんの言う通りよ♪そんなに畏まらなくていいからね♪」
「ですが孟子度様は…」
「あっ!私の通称は昴よ♪」
昴はまだ自分が通称を呼んで良いと言ってなかったと気付き微笑んで言うと、羽多の体から少し力が抜けたのが判った。
(緊張してたんだ♪じゃあもっと言葉を掛けてあげればいいかな♪)
「その……昴様は天人としても敬う方ですが、今川治部大輔様、三好右京大夫様の良人君であらせられます。その様な方に粗相が有っては主君の顔に泥を塗り、わたくしが腹を斬ったくらいでは済みません。」
「そこまで言うなら羽多ちゃんの自主性を尊重するわ♪」
「う、羽多ちゃん?………」
浅井家は眞琴を始め体育会系な気質が強いので目下の者に敬称を付ける事が無いので羽多はちゃん付けで呼ばれ戸惑った。
「ごめんなさい、昴さま。この子石頭で♪あ、小矢の自己紹介は長くなるから、先ずは中に入っておくつろぎください♪ほらほら、羽多もお茶の準備して!」
小矢に促され三人は本堂の中へと進み、羽多は言われた通りお茶の準備で一度離れ、小矢が客間に案内した。
昴が上座に座り、栄子が脇に控えた所で羽多がお茶の道具を持って入室する。
前以て準備していたとは言えこの早さはかなり急いだに違いない。
しかし羽多は茶器の音を立てる事無く涼しい顔をしている。
「それでは先ずこちらのお茶をお飲みください。」
大振りの湯呑みにたっぷりと入った
昴にとっては幼女が淹れてくれたお茶である。
至高の甘露と飲み干した。
「では次にこちらをどうぞ。」
さっきより小さめの湯呑みに温かいお茶が出され、昴は勿論有難く頂いた。
「最後にこちらの熱い茶でお寛ぎください。」
昴は羽多を愛でながら一気に飲み干した。
「あ……………」
「ふう♪とっても美味しかったわ♪次は羽多ちゃんの聖水を飲ませてくれると嬉しいなあ♪」
「清水ですか………山から湧き水を汲んできます。」
羽多が立ち上がり掛けた所で昴は手で制した。
「それは次の機会にね♪今はさっき小矢ちゃんが言ってた自己紹介を聞かせてもらおうかしら♪」
「はい♪」
羽多の気配りが昴の変態気質によって無意味になってしまったが、羽多の淹れたお茶が既に最高のお持て成しになっているので結果は全く変わらない。
羽多はその事に気付いていないが、次の機会を貰えたと秘かに闘志を燃やしていた。
そんな羽多の気持ちに気付きながら小矢は昴に話し始める。
「先にお手伝いに来てくれたねねちゃんって、小矢の従姉なんですよ♪」
「…………………へ?」
昴は全く予想外の情報に思考が一時停滞した。
「ねねちゃんの実家の杉原家の方なんですけどね♪小矢のお父さんが杉原家からの婿養子なんです。」
昴が栄子に振り向くとニヤリと笑い返してくる。
どうやらその辺りは調査済みの様だ。
「それじゃあ、お市さまが浅井家に輿入れされたときは安心したでしょ♪」
「それが違うんですよ♪大谷家はついこの間まで六角家の家臣だったので♪」
「ええっ!?」
小矢は屈託無く笑っているが、祉狼が四鶴こと六角義賢を調略していなければ、もしかすると小矢は今ここに居なかったかも知れないのだ。
「蒲生の慶さまにも良くしていただいて、あ♪小矢の幼名は慶松っていうんですよ♪慶さまと松さまから名前をいただいたんです♪」
「はぁ〜〜………なんて言うか………縁があるのねぇ………あれ?それじゃあ羽多ちゃんと知り合ったのは?」
「四鶴さまが久遠さまに観音寺城を明け渡してからです♪このお寺に習い事をしに通う様になったら羽多が居て友達になりました♪」
「そうだったの。とても仲がいいからもっと前からの友達だと思ってたわ♪」
「羽多ってなんかほっておけなくて♪頭がいいのに無愛想で誤解されやすいんだから♪」
「小矢が無神経でお節介なだけだ。」
小矢が笑って肘で小突くと羽多は仏頂面で言い返した。
羽多の雰囲気が誰かに似ていると思っていた昴は、不意にそれが詠だと気が付いた。
尤も小矢の立ち位置は月ではなく霞に近いとも思っている。
「あ、そうそう!小矢は羽多に会うより先に昴さまをお見受けしてるんですよ♪」
「それって………もしかして五個荘で?」
「はい♪民のために鬼退治に毎日出かけられるお姿を見て、小矢も一緒に鬼退治がしたいってずっと思ってました!だから今日のお役目をいただいたときはスゴく嬉しかったです♪」
思わぬ所で幼女の気を引けていた事に驚くと同時に、これは堺でもと期待が膨らんだ。
そこに廊下をパタパタと走る足音が聞こえて来た。
「小矢ちゃん!羽多ちゃん!足軽さんにご飯あげたにゃも♪次はみんなにご飯を出すにゃもよーー!」
「おれも手伝うぞーー!」
「あたいもあたいもーー♪」
「三人ともお寺でそんなに騒いじゃダメーーーー!」
ねね、虎、檜、小竹の声が聞こえたと思ったら元気良く障子が開け放たれた。
「小矢ちゃんも羽多ちゃんもいっしょに食べるにゃもっ♪」
「それは出来かねます。」
間髪入れずに羽多がキッパリと言い切った。
座ったままの羽多は口をへの字に結んで振り向きもしていない。
その態度に虎と檜はカチンときて羽多を睨んだ。
しかし言われた当のねねは笑って羽多の前にペタンと座り正面から顔を見る。
「そんなこと言わずにいっしょに食べまい♪そん方がおいしいにゃも♪」
「いえ、わたくしは皆様に給仕をいたします。」
羽多は顔を逸らし、感情の篭もらない声で拒絶した。
「おみゃぁ………ねねさまが優しゅうさそっとるに、その態度はなんぎゃ……」
「断るんでも言い方があんやろ!」
ついに虎と檜がキレた。
「虎!檜!控えなさい!昴さまの御前でしょっ!」
小竹が慌てて二人の前に立ち塞がったので殴り掛かるのは止められたが、二人は今にも小竹の制止を振り払いそうな雰囲気だ。
そんな二人にねねが振り向いて笑い掛けた。
「虎と檜は勘違いしてるにゃも。羽多ちゃんは恥ずかしがってるだけにゃもよ♪」
見れば確かにそっぽを向いた羽多の顔は赤くなっている。
虎と檜はそれでも納得がいかなかった。
パンッ!
「はい!ちょっと待ったっ♪」
手を叩いて昴が場を制すると全員が注目した。
「虎ちゃんと檜ちゃんの気持ちは判るわ。二人ともねねちゃんが好きだから仕方ないわよね♪」
立ち上がって二人の頭を優しく撫でると、虎と檜の顔から険が取れてフニャリと笑顔になる。
「羽多ちゃんは眞琴さまからいただいたお役目を頑張ってこなそうとしてるの。そこは判ってあげてね。」
「「…………うん……」」
昴は笑顔で頷くと、今度は羽多の前に屈んだ。
「羽多ちゃんの頑張りを私も応援する。」
羽多の頬に優しく手を添え、眼鏡越しの瞳を覗き込む。
「あ………ありがとうございます…………」
「だけど、私も羽多ちゃん小矢ちゃんと一緒にご飯が食べたいんだあ♪そこで、提案なんだけど♪」
羽多は息の掛かる程の距離の昴の顔に見蕩れ、周りのねね、小竹、虎、檜、小矢は口づけをするのではとドキドキして動けなくなっていた。
「みんなーー♪石田佐吉羽多三成ちゃんと大谷紀之介小矢吉継ちゃんです♪仲良くしてあげてねーー♪」
食膳を並べた大広間で、昴が羽多と小矢を紹介した。
スバル隊の幼女達は皆一様に笑顔だが、無邪気に新しい友達が出来たと喜ぶ者、また嫁が増えるのかと悩む者、二人がどの様な者なのかと考えを巡らす者と内心は様々だ。
「二人が眞琴さまの家臣なのは判ってると思うけど、小矢ちゃんって元々は六角家の家臣で、しかもねねちゃんの親戚なのです!人の縁って不思議よねえ♪」
栄子が見付けて来たんだろうと殆どの者が心の中で思っていた。。
「みんなお腹空いてるでしょうから、話は食べながらしましょう♪それじゃあ、いただきます♪」
『『『いただきます!』』』
全員が唱和し手を付ける中で、エーリカだけが食前のお祈りをしている。
犬子と綾那の横には大きなおひつが置かれ、和奏や栄子がせっせとご飯のおかわりをよそってあげていた。
上座に座る昴の両隣に羽多と小矢が落ち着かなげに座っている。
落ち着かない理由は上客の横に座ると言うのも有るが、これからする事も関係が有った。
「そ、それでは昴様。ご飯をどうぞ。」
「あ〜ん♪」
顔を赤くした羽多が茶碗から米をひとつまみ昴に食べさせる。
「それじゃあお返しね♪はい、あ〜ん♪」
「…………あ〜ん………」
恥ずかしそうにモグモグと食べる姿に昴はご満悦だ。
「次は小矢の番です♪昴さま、あ〜ん♪」
「あ〜ん♪モグモグ♪ん〜〜〜〜美味しいわあ♪じゃあ、小矢ちゃんも♪あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」
これが昴の示した折衷案だった。
給仕と同時に一緒の食事も出来るからと押し通したのだ。
勿論本当の理由は幼女とイチャコラしたいからである。
だが、それ以上の目論見も昴は考えていた。
羽多と小矢が茶碗を持ったまま席を立ち、隣の鞠と熊の前に移動する。
「は、初めまして。羽多でございます。」
「うんなの、羽多♪鞠って呼んでほしいの♪」
「はい、鞠さま。あ〜ん。」
「あ〜ん♪」
「初めまして♪小矢です♪」
「ワイの通称は熊やんけ♪あんじょうしたるで、ワレ♪」
「はい♪よろしくお願いします♪あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」
こうして酒を酌み交わす様に、食事を食べさせ合う事で親睦を深める効果を狙ったのだ。
昴と栄子には幼女同士があ〜んをする光景が、食事以上にエネルギーを補給出来るという効果まで付随した。
そうして見守る中、羽多がねねの前にやって来る。
「ねねさま。先程は申し訳ありませんでした。心中まで察していただいたというのに、あの様な態度を取ってしまい……」
「ねねは気にしてないにゃも♪ねねと羽多ちゃんはお友達にゃも♪」
「あ…ありがとう………ございます!」
(ねねちゃんには謝れたわね♪先ずは第一関門突破。さて、虎ちゃんと檜ちゃんにはどうかしら?)
羽多を応援する気持ちで、昴は行動を見守っている。
「先程は申し訳なかった。わたくしは友と呼べる相手が小矢しか居なくて………ねねさまの笑顔が眩しすぎて、恥ずかしくなって………その………」
「間違っとるで、おみゃあ!」
虎に強い口調で否定され、羽多は身を竦める。
「ねねさまが友達って言うたがね♪」
「え?………」
「もうあの小矢っちゅうのだけが友達じゃねぇがや。まあ、おみゃあ見とれば友達おらんのはよう判るがの♪じゃからおれも友達になっておみゃあの悪いとこ直したりゃあすわ♪」
「…………虎殿……」
「どのなんていらん!虎でええ♪おれもおみゃあを羽多呼ぶでよ♪」
「虎がええとこばっか持っていきよる!あたいも友達じゃ♪」
檜も我慢出来ずに横から割り込んで豪快に笑った。
「では………虎、檜………ありがとう♪」
羽多が初めて見せた笑顔に、ねね、虎、檜が一瞬見蕩れた。
「羽多ちゃん、笑った方がカワイイにゃも♪」
「ようし、食え食え♪」
「あたいは羽多にごはん食べさせてもらおまい♪あ〜ん♪」
ことの成り行きを不安な気持ちで見守っていた小竹はホッとしたのと同時に、昴がここまで考えて羽多にこんな事をさせたのだと気が付いた。
そっと振り向くと、昴が小竹と目を合わせ頷く。
(昴さま……………この方の気配りと優しさは本当に凄い………何よりスバル隊の持つ一体感が心地良い♪…………ねねちゃんは昴さまに会った時からそれを見抜いてたんだね♪…………お姉ちゃんには申し訳ないけど、私はずっとスバル隊に居たい…………)
そんな小竹の想いを昴が嗅ぎ取らない訳が無い。
「ねねちゃん!小竹ちゃん!虎ちゃん!檜ちゃん!羽多ちゃん!小矢ちゃん!私のお嫁さんになってっ!」
「はいにゃもっ♪」
ねねはまるで脊髄反射の様に即答する。
しかし、他の五人は言葉の意味が頭に届くまで少し掛かった。
「お、おれはもちろん喜んでっ!」
「あ、あたいもっ♪」
「わ、私も………その…………お願いしますっ!」
昴の嫁達は、ねね、虎、檜、小竹の四人はもうそうなるだろうと予想していたから驚きはしない。
しかし、羽多と小矢へ出会ったその日の内に求婚するとは思っていなかったので動揺が走った。
「小矢は前から憧れてたからもちろんお受けします♪」
小矢の返事に綾那が大きく頷いた。
「小矢は綾那とおんなじですね♪一目惚れをしてから暫く会えなくって、ずっと会いたいって想い続けて♪綾那は小矢を応援するですよ♪」
「ありがとうございます♪」
残るは羽多唯一人。
何と言って良いのか迷って額から脂汗を流している。
果たしてこんな大事な事を家族に相談もせず決めて良いのかと。
「自分の気持ちを吐き出しゃええがや♪」
虎に笑顔で言われて羽多の心が決まる。
「好きですっ!わたくしを貰って下さいっ!」
顔をまっ赤にし、ギュッと目を閉じて言い切った。
ノリの良い三日月や雀などが声を上げて喜んだ。
反対に唯一の部外者であるエーリカは突然の成り行きに唖然としている。
「さ、沙綾殿………昴さんの嫁取りはいつもこんななのですか!?」
「いつもという訳では無いが、儂も出会ったその日に嫁になった口じゃからの。強い事は言えんのじゃ、かかか♪」
浅井家の家臣を勝手に嫁にして大丈夫だろうかとエーリカは心配になる。
「ご飯を食べ終わったらみんなでお風呂に入りましょうね♪」
『『『おおーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ♪』』』
そんなエーリカの心配を余所に、幼女達の気持ちは新人の初夜に向けられていたのだった。
あとがき
スバル隊が新人を加えて戦力が強化されました!
昴と栄子の変態度も強化されてますけどwww
今回一番苦労したのは何と言っても
名古屋弁ですw
地元の方が見たら間違ってると思われるでしょう。
このセリフはこうした方が良いというアドバイスなど頂ければとっても嬉しいですm(_ _)m
今回の新キャラ
石田佐吉三成 通称:羽多
正史の三成は家康に負けて悪人扱いされた不遇の人ですね。
最近は真田丸のお陰で見直されてきている様です。
子供の頃はお寺に預けられていたとされていますが、当時はお寺が学校や学習塾みたいな役割をしていたので、本当は勉強のために通っていただけらしいです。
この外史でもその説を採りました。
通称の羽多ですが、これは三成の奥さん『うた』から貰いました。
大谷紀之介吉継 通称:小矢
病気で皮膚が壊死して顔を隠していたというのは有名ですが、この外史ではソバカスになりました(^-^)
知勇兼備の名将なので、元気で頭も良い子です。
通称の小矢は吉継の妹の小屋から貰いました。
音が小夜叉と被るのでちょっと悩んだのですが採用しました。
《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》
佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)
佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)
佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)
各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)
森蘭丸
森坊丸
森力丸
毛利新介 通称:桃子(ももこ)
服部小平太 通称:小百合(さゆり)
斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)
三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)
蒲生賢秀 通称:慶(ちか)
蒲生氏春 通称:松(まつ)
蒲生氏信 通称:竹(たけ)
六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)
三好右京大夫義継 通称:熊(くま)
武田信虎 通称;躑躅(つつじ)
朝比奈弥太郎泰能 通称:泰能
松平康元 通称:藤(ふじ)
フランシスコ・デ・ザビエル
白装束の男
朝倉義景 通称:延子(のぶこ)
孟獲(子孫) 真名:美以
宝譿
真田昌輝 通称:零美
真田一徳斎
伊達輝宗 通称:雪菜
基信丸
戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子
小幡信貞 通称:貝子
百段 馬
白川 猿
佐竹常陸介次郎義重 通称:美奈
浅野寧 通称:ねね
木下長秀 通称:小竹(こちく)
加藤清正 通称:虎
福島正則 通称:檜(ひのき)
前田慶次郎利益 通称:似生(にう)
松風 犬
前田利久
柳生但馬守宗厳 通称:舟(ふね)
木造左近衛中将具政 通称:柚子(ゆず)
載斯烏越(さしあえ) 通称:撫子(なでしこ)
石田佐吉三成 通称:羽多(うた)
大谷紀之介吉継 通称:小矢(こや)
次の投稿は幕間劇その四。一葉と幽のお伊勢参りと言うか北畠具教との邂逅の予定です。
絶対に話し合いだけじゃ終わらないですねw
Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7951961
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今回もロリ回ですwww
三成と吉継が登場しますのでお楽しみに♪
これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い】から続くシリーズです。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。
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