No.895814

鍼・戦国†恋姫†無双X  本編 其の壱

雷起さん

今回からが本編です。
日の本の転移によって起こった問題が一部発覚し、九州に向かう連合に立ちはだかる諸問題も浮かび上がります
タグに有る新キャラが登場しますのでお楽しみに。

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い】から続くシリーズです。

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2017-03-04 04:20:31 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2479   閲覧ユーザー数:2243

 

 

鍼・戦国†恋姫†無双X  本編 其の壱

 

 

 ザビエルを倒しはしたがその為にこの外史が消滅する罠を発動させてしまった。

 しかし、吉祥の咄嗟の判断で鬼の居る日の本を一刀たちの居る外史へと転移させる事で回避する事が出来た。

 鬼が他の外史へ行くのも防いだが、久遠達の居る日の本に新たな混乱を与えたのも事実である。

 連合は九州を目指して関東を出発するよりも先に、帝へ事の次第を伝える為に幽を使者として送り出し、諸大名へも手紙を出した。

 更に情報収集と、現状何が起こっているのか民衆へ知らせる為に各地へ草を放っている。

 そして連合の本隊が岐阜城に到着した所で徐々に報告が集まり出し、幽も京から戻って来た。

 但しその帰参は予想よりもかなり早く、しかも大手門から天守まで馬を下りずに駆け抜けるという急ぎっぷりだった。

 美濃に入り句伝無量が届く距離になった所で各国主の集合と吉祥とも話が出来る様に昴の水晶玉の用意を伝えた。

 天守に在る評定の間に、一葉、久遠、美空、光璃、眞琴、延子、十六夜、雪菜、葵、鞠、熊が集まり、更に天人衆である祉狼、聖刀、昴、貂蝉、卑弥呼、そして当主の補佐である詩乃、雫、紗綾、白百合、悠季、秋子、夕霧、一二三、湖衣も駆け付け、水晶玉の用意もされて吉祥と朱里、更に一刀たちが映っている。

 

「皆様、急ぎお集まり頂き恐縮にございます!」

 

 幽の余りの慌て振りと、句伝無量で伝えず直接口頭で伝えねばならない程重大な報せを持ち帰ったと察しが付いた。

 

 

「単刀直入にご報告いたします。京が…………無くなりました!」

 

 

 幽は強い口調で言い切った。

 全員が驚愕したのは言うまでも無い。

 その中で一葉が幽の主として問い返した。

 

「幽!京が鬼に襲われたのかっ!」

 

「いえ、そうではございませぬ!言葉通り、京が消え失せておるのです!」

 

 殆どの者が一葉と同じ事を思っていたので、幽の言葉の意味が理解出来ず混乱する。

 

「それがしが見て来た事を順を追って報告いたしましょう………関東を立ったそれがしは東海道を西に向かいました。しかし、観音寺城を越えた所である噂が耳に入ったのでございます。京が忽然と姿を消したと………それがしも初めは意味が判らず、とにかくこの目で確かめようと足を早め目にしたのは……人家のひとつも無い枯れ野でござった。」

 

『『『…………………………………』』』

 

「もっと良く確かめる為、大文字山に登り見渡しましたがやはり鴨川と桂川がゆるゆると流れるだけ。清水寺は健在でしたので急ぎ訪れ住職に話を聞きました所、その日地鳴りが聞こえ出したと思ったら突如濃い霧に覆われ、徐々に霧が晴れてくると京の一切が消え失せていたそうでございます。それがしは急ぎこうして戻って参ったのですが、その道中にこれはと思い至り吉祥様に確認せねばと思っておりました。」

 

 幽が水晶玉に映る吉祥こと管輅を見て背筋を伸ばす。

 

「京は五山の結界を始め、幾重もの結界により護られておりました。故に転移の術から逃れたのでは?」

[そうね……その通りよ。でも………そっか、そうなったんだ。]

「おや?その仰り様は吉祥様も予想外の事態であると………」

[あの時は無我夢中だったからそんな細かい所まで調整してられなかったし♪どうなったか私も知りたかったのよね♪]

「結構いい加減ですなぁ………ですが帝を鬼からお救い出来たと納得しておきますか。」

 

 幽の言葉に熊が首を捻る。

 

「帝が日の本からおらんようなってしもたんやないけ、ワレ!それでどこがお救いしたコトになんねん、ワレ!」

 

 その問いには白百合が微笑んで答えた。

 

「熊さま、日の本から消えたのは我らでございますぞ。忘れて仕舞いがちではございますが、我らは外史の壁を越え、千三百年の時も遡ったのです。京に住まう者達の目から見れば我らが突如消えて驚いている事でしょう♪」

「う〜ん………なんや難しいけど、帝が御無事ならそれでええわ♪」

 

 今の熊と白百合の会話でこの場の殆どの者が現状を把握する。

 その中で祉狼は意味が判らず腕を組んで首を捻っているのを一葉は見て微笑んだ。

 

「成程の♪帝釈天が主様を『新たなる日の本の王』と呼んだ意味に合点がいったわ♪」

「え?今、熊は日の本の帝が無事だって言ったじゃないか。あれは帝釈天の冗談だろ♪」

「主様は相変わらずじゃの………まあ、そこが愛しいのじゃがの♪さて、主様よ。確かに帝は無事じゃが、それは余らがつい先日まで居た外史に居るからじゃ。この外史にはおらんのじゃから主様が『新たなる日の本の王』であるぞ♪」

「それはおかしいだろ。一葉が将軍なんだから日の本の王は一葉だ。」

 

 祉狼はまだ自分が日の本の王になるなど全く信じていない。

 しかし、それを納得させるのは現征夷大将軍である一葉の役目なのだ。

 

「良いか、主様よ。ザビエルを倒した英雄は誰じゃ?日の本の民を鬼から人に戻しておるのは誰じゃ?何より我ら当主が主であると認めておるのは誰じゃ?」

「それは………」

 

「華旉伯元祉狼!そなたじゃ!余らは皆、主様が目指す国作りならば喜んで力を振るおうぞ!」

 

 一葉の言葉に祉狼はどう答えたら良いのか戸惑い周りを見る。

 愛する人達の笑顔の中から久遠が頷き祉狼に語り掛けた。

 

「祉狼。初めて出会った日、お前は言ってくれたな。我の目指す『皆が笑って暮らせる世』を作るのに協力すると。ひとりでも多く生き延びさせる為にと。」

「ああ、言った………だけどあれは……」

「ならば今がその時だ!あの時の我の選択が正しかったと胸を張らせてくれ!祉狼っ♪」

 

 久遠は最後に笑顔で締め括った。

 祉狼が今まで見て来た久遠の笑顔の中でも最高の笑顔で。

 祉狼は悩み言葉に詰まる。

 その姿を全員が静かに見守り返事を待った。

 

「…………………………それは……俺が王様になっても治療をして良いって事だよな?」

 

『『『…………………………………………………ぷっ♪』』』

 

 きっちり三秒の間を置いて全員が吹き出し大爆笑が巻き起こる。

 

「あっはっはっはっはっはっ♪それでこそ祉狼だっ♪安心しろ♪我らお前の妻が思う存分治療の出来る国を整備してやる♪」

「そうかっ♪あっ!でも、俺みたいな政が全く判らないのが王様になっても良いんだろうか……」

 

[[[そんなの気にする事無いぞ、祉狼♪俺たちもそうだったんだからな♪]]]

 

 水晶玉に映る一刀たち三人が笑顔で言った。

 

「一刀伯父さんっ!」

[[[話は全部聞いてたぞ♪男だったら奥さんの期待に応えてみせろ!]]]

 

「うんっ♪判ったよ、一刀伯父さんっ♪」

 

 祉狼の力強い返事に評定の間が歓声に包まれた。

 

 

 

 

 歓声が落ち着き今後の方針を話し合おうとした所で、使い番が評定の間に走って来た。

 

「申し上げます!たった今、松永弾正少弼様のご家臣、柳生但馬守殿が早急のご用件と参上されました!」

「但馬が?」

 

 白百合は少し考えたが、直ぐに上段に振り返る。

 

「但馬は我の家臣にしては珍しく生真面目な奴でのぉ。その但馬が早急と申すからには余程の事と思うのだが、通して構わぬか?」

「デアルカ。許す。」

 

 使い番が一度下がり、直ぐに柳生但馬守宗厳が通され平伏する。

 歳の頃は久遠と同じ、服装は主の白百合と正反対でキッチリと着物と袴を身に着け、如何にも真面目と見える女性だ。

 

「此度は公方様、並びに国主のお歴々にお目通り叶いました事、誠に…」

「挨拶はよいから早う用件を申せ。まっこと但馬は真面目すぎる。」

「はっ!お許しを頂きましたので、早速用件を申し上げます。先日…」

「ああ、待て!面を上げよ!」

 

 宗厳は返事をする間も平伏したままで、一向に顔を上げようとしない。。

 連合内のいつもの雰囲気に慣れて忘れていたと一葉が慌てて顔を上げさせた。

 

「はっ!先日、かの地鳴りが起こりし時に奈良にて一軒の館が突如現れ、中に居た者を保護致しました。」

 

 京が消えたと聞いたばかりなのに、今度は奈良に館が現れたという報告に久遠達日の本の者は同じ事を連想した。

 三国志の時代の日の本は大和王朝時代である。

 当時の都は奈良であり、垂仁天皇か仁徳天皇が即位していた筈なのだ。

 その保護された人物がまさかと思ったのである。

 

「その者は載斯烏越(さしあえ)と名乗り、お館様の御夫君の国へも海を渡って行ったと申しており、これは火急の事態と思いこちらに連れて参りました。」

「連れて来たのか?貴様にしては軽率だのぉ。」

「はっ!持ち物に天人衆の方々と関わり深き物が御座いましたので、疑う余地無しと判断致しました!」

 

「デアルカ。ではここに通すがよい。」

 

 久遠は宗厳が嘘を言っているとは思っていないが、その載斯烏越と名乗る人物が本物か訝しんでいた。

 この時代の人間なのは多分嘘では無いだろうが、載斯烏越の名を騙っている可能性も有る。

 正式な朝廷の使者として大陸に渡り戻って来た人物ならば、当然知名度が高いに違いない。

 載斯烏越を名乗っている人物が『実はたまたま訪問していた時にこの事態に巻き込まれた』のかも知れないのだ。

 丁度都合良く水晶玉で晋に繋がっているので、久遠は本人確認をあちらに任せるつもりだ。

 

「ささっ!載斯烏越殿、お教えした礼法をお忘れ無く。」

「は、はいっ!………え、ええと………ここで一度頭を下げるんでしたっけ?」

 

 宗厳に連れられ角髪を結った少女がやって来た。

 

[載斯烏越ちゃんっ!]

「諸葛亮さまっ!!」

 

 水晶玉には一刀たちに代わり朱里が大きく映っていて、載斯烏越はその姿を見た途端に目から大粒の涙を溢した。

 

「うわぁあああああああん!諸葛亮さまぁああああああ!」

 

 大声で泣き出した載斯烏越を見て久遠は警戒を解くと同時に、その境遇に同情したのだった。

 

[安心して、載斯烏越ちゃん。そこには太子の聖刀くんと華陀さんの息子さんの華旉伯元くんが居るから。]

「………グス……太子様と華伯元様が?」

 

 しゃくり上げつつ顔を上げれば、載斯烏越が房都の玉座の間で見た一刀たちと同じ服を着た青少年と少年を見付ける事が出来た。

 二人が優しい笑顔で頷くのを見て載斯烏越の気持ちにまた少し安心が広がる。

 と、その時。視界の隅に巨大な影が在る事に気が付いた。

 

「ひっ!ひぃいいいいいいいいっ!ひひひ!卑弥呼様っ!!」

 

 載斯烏越は驚いて腰を抜かし、ワタワタと後退る。

 

「むむ!その歳で私を知っておるとは………」

 

 載斯烏越の年齢が見た目通りならば生まれた時には卑弥呼は倭に居ない筈である。

 久遠達の載斯烏越を見る目が再び険しくなったが、ここで宗厳が助け船を出した。

 

「お待ちください。載斯烏越殿が卑弥呼様の姿を存じているのは、先程申し上げた持ち物をご覧になればご理解頂けます。」

 

 そう言って宗厳は風呂敷包みを差し出し、落ち着いた仕草で包みを解いた。

 現れたのは派手な塗装をされた木箱で、それを見ただけで祉狼、聖刀、昴、貂蝉は納得した。

 蓋には『出羅玖珠(デラックス)!絡繰卑弥呼人形!光る!回る!関節十カ所稼働!』と書かれている。

 その蓋を開けると中から誰が見ても卑弥呼と判る人形が姿を現した。

 

「おおっ!これは見事な像だのお♪」

 

 目利きの白百合が感嘆の声を漏らし、久遠や一葉などの当主達も目を輝かせて絡繰卑弥呼人形に魅入っている。

 しかし、詩乃や雫などは眉を潜めてボソボソと囁き合っていた。

 

「その人形は真桜伯母さんが自ら作った物だ♪希少品なのによく手に入ったな♪」

「い、いえ!これは…」

 

[あ、それは私がお土産に紛れ込ませておいたのよね♪]

 

 水晶玉に吉祥が再び現れ、朱里の横でドヤ顔をしている。

 

[はわわ!?吉祥さん!?いつの間にそんなご迷惑……じゃなくて……ええっと……]

[絡繰卑弥呼ちゃん人形が有れば倭で内乱鎮圧に役立つと思って♪]

 

「確かに効果は覿面でした………私の家に誰も来てくれなくもなりましたけど……」

 

 載斯烏越は再び涙を流して項垂れた。

 しかし、直ぐに気を取り直して朱里と吉祥の映る水晶玉に顔を寄せる。

 

「諸葛亮様!管輅様!何が一体どうなっているのか説明して下さいっ!」

 

[[は……はい………]]

 

 泣き腫らした顔で迫られ、朱里と吉祥はたじろいで返事をしたのだった。

 

 

 

 

 吉祥は三国志の時代の倭と戦国時代の日の本が入れ替わったと説明した。

 但し、緊急事態だった為、鬼の存在する場所と祉狼達を中心に照準を合わせはしたが、京や載斯烏越の様に何等かの影響により転移しなかった場所も発生してしまったのだった。

 祉狼達が先日までいた外史では日の本が突然大和時代にまで戻ってしまった事になるが、外史そのものが無くなってしまうよりマシだろう。

 また突然、千三百年も未来に飛ばされた倭の人達も転移が行われ無ければ、崩壊した外史から放たれた鬼が現れ滅ぼされてしまうのだ。

 

「……帝がご存命で、朝廷が健在だと言うなら百歩譲って納得いたします…………ですけど!何で私はこんな事になったんですっ!?」

[恐らく載斯烏越さんは他の倭の人達より我々と関わりが深かった為に、こちらに残る事になったと思われます。]

 

 外史研究会の一員でもある朱里はそう推測して伝えた。

 

「そうですか…………もしかしたら卑弥呼様の像が有ったからではと思ったのですが………」

[載斯烏越さんも房都の市であの人形が売られているのを見たでしょう♪そんな力はありませんよ♪ねえ、吉祥さん♪]

[も…………モチロンダヨーー……………]

 

 吉祥は視線が泳いでいた。

 そんな遣り取りをしている間、久遠達は祉狼に卑弥呼人形の事を訊いている。

 

「祉狼。房都ではあの人形が売られているのか?」

「ああ♪そこに有るのはさっきも言ったが特製だけど、手頃な値段のは普通に売ってるぞ♪貂蝉と卑弥呼の人形は子供達に大人気なんだ♪」

「そうなんですか、兄さまっ♪ボクも欲しいなあ♪」

「床の間に飾りたいよね、まこっちゃん♪」

 

 浅井家の当主を皮切りに、各当主が次々に同じ様な事を言い出した。

 これを聞いていた家臣達は皆、頼むから止めてくれと願うばかりだ。

 

「(これ程までにご当主の方々の心を動かすとは……)」

「(雫……私は今、かの運慶快慶がこの像に出会わなかった事を心から感謝しています………)」

 

 詩乃に言われて雫は想像した。

 寺の本堂に盧遮那仏ではなく、絡繰卑弥呼人形と絡繰貂蝉人形が置かれている画を。

 雫は引き吊った笑顔に冷や汗を流した。

 

[そんな訳で載斯烏越ちゃん。今の日の本の王様はそこに居る祉狼くんなんだけど、載斯烏越ちゃんは祉狼くんに保護してもらうわね♪]

 

『『『っ!!?』』』

 

 吉祥の言葉に聞き捨てならないと祉狼の嫁達が一斉に振り返る。

 

「よ、よろしいのですか?」

 

 載斯烏越が祉狼に振り向くと、祉狼は笑って応えた。

 

「勿論だ♪こんな状態の載斯烏越さんを放り出せる筈無いだろ♪」

「あ、ありがとうございます!伯元様!」

「俺の事は祉狼と呼んでくれ♪」

 

「えっ!?」

 

 載斯烏越がとても驚いた顔をしたので祉狼は首を捻る。

 

「どうしたんだ?俺は何か変な事を言ったかな?」

「あ、あの………真名を………そ、それは私に……なれと仰せで……」

「あれ?載斯烏越さんは日の本の人だから通称………」

 

 二人の会話の意味に気が付いた詩乃が慌てて声を上げた。

 

「祉狼さま!載斯烏越殿に通称の習慣は有りません!」

「そうなのか、詩乃?」

「載斯烏越殿の時代はまだ祉狼さまのお国と同じなのです!」

「それなら教えれば良いだけじゃないか♪載斯烏越さん、この日の本では真名を通称とも言って気安く呼んでも良いんだ♪だから気にしないで俺の事は祉狼で呼んでくれ♪」

 

 そうは言われてもいきなり気持ちを切り替えられる筈が無い。

 祉狼、聖刀、昴は一刀たちという柔軟な思考の人間と暮らしていたから対応出来たのだ。

 それを載斯烏越にも求めるのは酷という物だが、載斯烏越も外交を任されるだけの人物である。

 何とか気持ちを落ち着けて、通称という風習に慣れようと即決した。

 

「そ、それでは………し、祉狼様……………私の真名、いえっ!通称は撫子(なでしこ)と申しまう!よ、よろひくおねがいひまふっ!」

 

 しかし、どうしても異性と真名を交換すると意識してしまい、顔をまっ赤にしてカミカミで告げたのだった。

 その姿を見て祉狼の嫁達は遠からず載斯烏越も落ちるだろうと諦めの溜息を漏らし、白百合が面白そうにククッと笑いを漏らす

 

「さて、そうなりますとこの中で撫子殿と一番言葉を交わしておる但馬を傍に置いた方が宜しかろう♪但馬、ご挨拶申し上げよ。」

「はっ!」

 

 宗厳が再び前に出て祉狼に平伏する。

 

「改めまして。我が名は柳生但馬守宗厳。通称を(ふね)と申します。大和国、柳生の郷の土豪にて、礼法に至らぬ処がございますが平にご容赦下さいませ。」

 

 至らないどころか実に真面目で堅苦しい挨拶に、久遠や一葉はよく白百合の下で働けるなと思い、同時に堅苦しいのが苦手な祉狼とは合わないだろうと安堵もする。

 現に祉狼が困った顔をしていた。

 

「ええと、舟さん。済まないが…」

「祉狼さま♪」

 

 祉狼がいつもの様に気安くしてくれと言おうとしたのを白百合が遮った。

 

「この但馬なのだが、柳生の郷には二つの顔がござっての。ひとつは国衆としての顔。もうひとつは裏柳生という忍の里。但馬はその双方を仕切っておる。」

「え?それは思春伯母さんみたいだな♪」

 

 祉狼が興味を引かれたのを見てまた久遠達に緊張が走る。

 

「はっはっはっ♪残念ながら但馬本人は忍の技を習得しておらぬ♪」

「そうなのか……」

 

 祉狼が本当に残念そうな顔をしたので、久遠達は安堵の息を吐く。

 

「しかし、剣はかなりの腕であるぞ♪恐らく公方様にも引けを取らんであろうな♪」

「ほほう、白百合♪ならば余が直々に試してやろう♪」

 

 一葉は白百合が舟を祉狼の嫁にと画策しているのは読めていた。

 だからと言って自分の腕と比べても引けを取らないと言われては看過できない。

 

「まあそう慌てなさるな♪まだ但馬の紹介の途中でございますぞ、公方様よ♪」

「ほほう………聞いてやるから言うてみよ。」

「この但馬、実に面白き剣の道を目指しておりましての。その名も活人剣(かつにんけん)と申しております♪」

 

「「活人剣?」」

 

 祉狼と一葉は同時に聞き返した。

 しかし、そのニュアンスは正反対で、祉狼は興味を持って、一葉は胡散臭そうに。

 

「元は禅宗の教えであり、殺人刀は先の先、活人剣は後の先と言うのが本来の考え方なのだが、但馬は更に一歩進めて相手を殺さず手や足を斬る事で戦闘不能にする不殺の剣としたのだ。」

 

「成程♪」

「むむむ………」

 

 一葉は祉狼と初めて出会った時の事を思い出していた。

 そして詩乃も祉狼が追っ手から助けてくれた時の事を思い出している。

 今更言うまでもなく、不殺の戦闘は祉狼の戦い方なのだ。

 

「侍大将と忍の棟梁で有りながら、本人は不殺の剣の道を(きわ)めんとする♪この反骨の志が我の興味をそそり重用しておる理由でございまする♪」

 

 白百合はまたクツクツと喉で笑うが、舟は表情を変えず静かに佇み一言も発しない。

 

「しかし、我も聖刀さまの妻となり、そろそろ大和を熊さまにお返しして房陵の都へ移る支度をしなければならぬ。そこで但馬にはこれまで尽くしてくれた褒美に活人剣の新たな目標を与えてやろうと思うてのお♪」

「それはまさか………」

 

 一葉の口元が引き吊るのを見て白百合がニヤリと笑う。

 

「祉狼さま。但馬を祉狼さまの弟子にして、ゴットヴェイドーを叩き込んで下されよ♪活人剣の更に上の人を生かす、鬼となった者を人に戻す剣技を此奴ならば編み出せると我は期待しておりまする♪」

 

 一葉は嫌な予想が的中して焦り、祉狼を横目で伺う。

 するとそこには瞳に炎を燃やして熱血モードに突入している祉狼が居た

 

「舟さん!どうだっ!?やってみるかっ!?」

 

 炎の凰羅を全身から吹き上げ、祉狼は立ち上がって舟に問い掛ける。

 

「はっ!この柳生宗厳!世の為!人の為!石に齧り付いてでもゴットヴェイドーを習得して御覧に入れますっ!」

 

 それまでの落ち着いた雰囲気から一転、舟も激しい凰羅を身に纏い深々と頭を下げた。

 

「判ったっ!それじゃあ早速修行に『『『待てぇええええええええええええっ!!』』』」

 

 流石に一葉や久遠達が飛び出し、祉狼を止めようと評定の間は大騒ぎになってしまった。

 

 

 

 

 騒ぎが治まるまで四半刻を要し、結局祉狼は舟と、ついでに撫子を連れて修行に行ってしまった。

 修行と言っても井之口の町に行って祉狼が治療するのを見るだけなのだが、久遠達は小波を監視役に付ける事しか出来なかった。

 ぐったりと疲れ切った祉狼の嫁達だが、京が無くなったと判った現在、今後の各地への対応方針を早急に決めねばならない。

 そこに麦穂、四鶴、(ちか)の三人が参上した。

 

「申し上げます。伊勢より木造左近衛中将殿が参られました。」

 

 伊勢の調略を担当した麦穂、また伊勢とは隣国で関わりの深い四鶴と慶が案内役を買って出たのである。

 その三人に連れられて現れたのは久遠と同い年位の女性だ。

 

「公方様、並びにお歴々、此度は北方、東方での鬼との大戦(おおいくさ)、誠にお疲れ様でございました。この木造具政(きづくりともまさ)、戦勝を謹んで言祝ぎ申し上げます。」

 

 公家武将である具政は礼法に則り、見事な所作で挨拶をする。

 しかし、疲れ切った一葉達には鬱陶しいだけだった。

 

「堅苦しい挨拶はよい、柚子(ゆず)。余と貴様の仲じゃ。楽に致せ。」

「は、はあ………ではせめて、お初にお目に掛かる方々にご挨拶だけでも。」

 

 具政は改めて評定の間に居る国主達に頭を下げる。

 

「伊勢国北畠家家老、戸木城城主、木造左近衛中将具政。通称を柚子と申します。」

 

 美空や光璃といった初めて顔を会わせる者は丁寧に挨拶を返すが、一葉や久遠といった顔見知りは気怠げに言葉を返した。

 

「幽どの、皆様お疲れのご様子ですが、やはり連戦に継ぐ連戦の上、関東から西国に向かう行軍の為なのでしょうね……」

「いやいや、そうではござらんよ。何ぶん旦那さまが激しいもので♪」

「ま、まあ………やはりお若いから……」

「幽っ!何を誤解を招く言い方をしておるっ!その通りで有れば余はもっと溌剌としておるわっ!」

「誤解の方向がおかしくはございませんかな、一葉さま?」

「主様の愛を受け止めきれぬ貧弱者と侮られては、鹿島新当流皆伝の剣豪将軍と謳われた余の沽券に関わるからの♪おお、そうじゃ。姉弟子殿はどうしておる、柚子よ。」

「実はその事も今日はご報告しに参りました………」

 

 柚子の表情が曇ったのを見て一葉から溜息が漏れた。

 

「また駄々を捏ねておるのか、具教(とものり)は?まったく、しょうの無い姉弟子殿じゃの……」

「一葉さまは言ってて耳が痛くはなりませぬか?」

「何を言うておる!幽にとっても姉弟子であろうが!具教に比べれば余の我が儘など可愛かろうが!」

「まあ………確かに………」

 

 目の前の遣り取りを見て、雪菜がそっと隣に居る十六夜に囁く。

 

「(なあ、十六夜ちゃん。今の話に出てきてるのって北畠権中納言様のことだべ?オラよく知らねぇんだけんど……)」

「え、え〜と………確かあの木造さんの実のお姉さんで………後は……」

 

「(北畠権中納言具教様。伊勢国主にして塚原卜伝様より鹿島新当流を学び、その剣術は大名の中では随一と言われるお方ですよ♪)」

 

 二人の背後に一二三がそっと近付き教えてくれた。

 

「(鞠にとってもお姉ちゃん弟子なの♪卜伝先生から奥義一之太刀を教えてもらえた、たったひとりの弟子なの♪)」

 

 更に鞠も加わった。

 

「(それって一葉さまより強いってことだべ!?そんなすんげぇ人がおっただか………)」

「(でも何だか今、ワガママも一葉さま以上だって言ってた様な………)」

「(それが権中納言様の困った所でねぇ………何でも家臣の止めるのも聞かずにひとりで伊勢の鬼を討伐に出掛けて根切りにしたそうですよ♪)」

「(ひ、ひとりで!?)」

「(お、御家流でしょうか……?)」

「(先程鞠さまが仰られた一之太刀を御家流とするならばそうでしょうが、一之太刀は飽くまでも剣技だと聞いております。)」

「(何だか桐琴さんや小夜叉ちゃんみてぇだなや。)」

「(ああ、それは当たっておりますよ♪歩き巫女の報告を聞くと性格は桐琴殿と良く似ているみたいです。)」

「「………………………………」」

「(そうそう♪伊勢の鬼を根切りにした後、志摩、紀伊に足を伸ばし、そこの鬼を根切りにしてから大和の山中でも鬼を根切りにして大河内城に戻ったとか♪)」

「(妹の木造さんからは想像できねぇだ……)」

「(でも、それだけの方がどうして連合に参加しなかったのかな?)」

「(それは権中納言様が久遠さまと松永殿を嫌いだと公言されていましたからねぇ♪)」

「(ああ、んだで妹の木造さんが間に入って条約を結んだだか。)」

 

 雪菜達は柚子に気の毒そうな目を向ける。

 

「所で、京の噂はもうお耳に入っていますか?」

「それがしがこの目で見て参りましたよ。恐らく柚子殿の聴いた噂通りでござる。」

「そうですか…………姉上もその噂を耳にし、今度は帝の敵討ちに九州へ行くと今にも出奔しそうな勢いで………」

 

 柚子は疲れた顔で愚痴を溢す。

 

「あんな剣術バカは放っておけ!………と言いたい所だが、具教が鬼の毒にやられて鬼と化したらそれこそ信虎や義重どころでは済まされんしの…………仕方有るまい。ここは余と幽で説得に行くとするか。」

「まあ、姉弟子を諫めるのは妹弟子としての務めでしょうからな。」

 

「だったら鞠も行くの!」

 

 鞠が元気に手を上げるが、一葉と幽は首を横に振った。

 

「そんなぁ!鞠も妹弟子なの!」

「そのお気持ちはお察しいたしますが、鞠さまが行かれますと昴どのも同道されますな?」

 

 言われて昴は大きく頷いた。

 

「鞠ちゃんひとりを行かせないわ!」

「で、そうなるとスバル隊も同道されますでしょう?」

 

 幽が今度は夕霧と沙綾を見る。

 

「当然でやがる!」

「道中の村々で幼女が次々と神隠しになる怪事件が起こってはたまらんじゃろ?」

 

「さすれば小夜叉どのと、かの人が出会い間違いなく刃を交えるでしょう。ああ、見える!二人の争いに巻き込まれ壊滅していく町や村が………」

「…………判ったの……」

 

 鞠が納得して引き下がる。

 つまり、北畠具教はそういう人物だと鞠も思っているという事だ。

 幽と一葉が鞠に微笑み掛け頷いた。

 

「と言う訳で、拙者と一葉さまは権中納言殿を説得に行って参ります。伊勢、志摩、紀伊を連合に参加させる意味でも全力を尽くしましょう。」

 

「さて、そうなると東海、畿内で残る問題は、長島、甲賀、伊賀、そして本願寺と堺だな。」

 

 久遠の言葉を受け、先ず詩乃が発言する。

 

「その中で甲賀は四鶴さまと慶どのが既に手を打ち、連合への参加を取り付けております。伊賀は小波が説得に当たっていますが、伊賀の勢力は甲賀ほどまとまっておりませんので少々難航しています。続いて長島ですが一向宗願証寺の勢力が強く、交渉はしていますが石山本願寺をどうにかしないと駄目ですね。逆に言えば石山本願寺を味方に付ければ全国の一向宗がこちらに付くでしょう。ただ石山本願寺との交渉では少々懸念が……」

 

 言葉を止めた詩乃が美空を見た。

 

「え?それって越中の土山御坊の事?あそこは御山御坊と同じで鬼の巣窟に成り果ててたのよ?」

「いえ、その前から美空さまは一向一揆に対し苛烈な対処をなさっておいでですので……」

「御大将!だからあの時やり過ぎだって言ったじゃないですかあっ!」

「うるさいわよ、秋子!一揆の鎮圧なんてどこもやってる事でしょっ!」

「光璃の知る限り、美空が一番容赦無い。」

「ちょっと光璃!?」

 

 場が騒然としてきたので雫が助け船をだす。

 

「まあ、その様な状況でも何とかするのが軍師の役目です♪必ずや石山本願寺を説得してご覧に入れましょう。それに交渉という点ではむしろ堺の方が難敵だと思われます。」

「会合衆が相手か………掛ける時間が無いからな。向こうも今の連合を敵に回しても利が無いと判っていよう。使者はもう送ってあるのだ。こちらの出方は返事次第だな。」

 

 久遠の言葉に皆が納得して頷く。

 

「では疾く準備を終わらせ!先ずは空き地となった京を押さえようではないかっ!」

 

『『『応っ!!』』』

 

 こうして次の目的地へ向けて出発の準備が加速された。

 

 

 

 

 一方、海の向こうの大陸。一刀たちが総大将を務める晋国軍の動きは次の通りである。

 房都から一刀たちは二手に分かれて出発した。

 魏軍は先ず洛陽に入り、そこから船で黄河を下っている。

 蜀軍と呉軍は船で漢水から長江へと出て河口に向かっている。そのまま海から沿岸を北上して朝鮮半島を目指す予定だ。

 同時に各地からそれぞれの道を使い数多の軍が朝鮮半島を目指していた。

 沿岸の防衛も強化され鬼の渡来に備え、また港から兵を乗せた船も出航して集結地へと向かっている。

 緑一刀と赤一刀は長江を下る楼船の船室で、通信を終えて画像の消えた水晶玉を前にし椅子の背もたれに体を預け大きくひと息吐いた。

 

「お疲れさまです、ご主人さま♪」

「「朱里こそお疲れさん♪でも、載斯烏越ちゃんには悪い事したなぁ……」」

 

 先程の岐阜城の水晶玉に映っていた紫一刀は、魏軍の船の中から通信をしていたのでここには居ない。

 二人の一刀たちは向かいの椅子に座る朱里に労いの言葉を返すが、載斯烏越の境遇を思うと申し訳ない気持ちで一杯になる。

 聖刀達の居た外史を消滅の危機から救う為、また多くの外史を鬼の脅威から守る為に自分たちの居る外史に鬼を封じ込め殲滅する。

 その為に倭を犠牲にするのは『小を殺して大を生かす』事なのだと頭では判っている。

 だからと言って犠牲に対して心を痛めないのは人でなしではないか。

 今回この外史から消えた人々は他の外史に移動しただけだから死んでいないと言う者も居るだろうが、その人達の人生、その外史の辿るべき歴史を大きく変えてしまったのだ。

 その責任は皇帝である自分が負わなければならない。

 聖刀、祉狼、昴を助けたいというエゴだったのではと責められれば甘んじて受け入れよう。

 親が子供を守るのは当たり前なのだから。

 

「そんな顔をするな。お前たちだけに責任を押し付けたりはせんよ♪」

 

 船室に入って来た冥琳が笑って一刀たちの肩を叩く。

 冥琳の後ろには穏、亞莎、雷火、雛里、詠、音々音、美羽、七乃という蜀と呉の軍師が揃っていた。

 

「載斯烏越には気の毒だと思うけど、今はこっちもそれ処じゃ無いでしょ!」

 

 詠が手を腰に当て、眉間に皺を刻んで一刀たちに詰め寄る。

 怒っている様でいて心配しているのはもう誰もがお見通しだ。

 

「一刀さま!祉狼くんの頑張りを無駄にしない為にも、日の本の子達と力を合わせて鬼を討伐しましょう!」

 

 亞莎の声にはいつも以上に力が篭もっていた。

 亞莎にとって祉狼は勉強と格闘術の両方を教えた愛弟子だった。

 尤も政治軍略の勉強は出来が悪く、勉強の息抜きに教え始めた格闘術ばかり上達する困った生徒だったが。

 そんな祉狼が昔の自分の様でつい入れ込んでしまうのだ。

 

「「ああ、そうだな!今は鬼を全て排除する事に集中するっ!」」

 

「でも、向こうは進軍速度が遅いですねぇ。」

 

 気張った一刀たちに水を差したのは七乃だった。

 

「「そう言うなよ、七乃。向こうは山あり谷ありの上、道もこっち程整備されてないんだ。」」

「そうじゃぞ、七乃。それにこちらには真桜の開発した船も有るのじゃ。」

 

 晋建国以来、道路の整備は最も力を入れた事業だけあり、その成果がここで発揮されていた。

 美羽の言う船とは、蒸気機関のスクリュー船だ。

 現在乗っている楼船もその恩恵に与っており、そのスピードは帆船とは比べ物にならないくらい速い。

 

「「物理面以上に目的地に向かう途中の国との交渉が一番の関門だけどな。」」

「その辺りも含めて支援策を練っている。纏まり次第、娘達にやらせるつもりだ。」

 

 冥琳が意地の悪い顔でニヤリと笑う。

 

「「それで眞琳達全員と二刃に駕医も曹魏の方に行ったのか。一足先に上陸出来ると聞いたらそりゃ頑張るだろうな……じゃあ、早速その支援策を協議しようか♪」」

「うむ♪それはだな…」

 

 蜀呉の軍師が席に着き会議が始まった。

 

 緑一刀と赤一刀の牙門旗を立てた楼船を中心に、大小数百の船が蒼天の下で雄大な長江に波を立てて突き進んで往く。

 目指すは海。そして日の本。

 鬼ヶ島と化した九州へ。

 

 

 

 

 場面は美濃岐阜城へ戻る。

 評定を終えた久遠達はそれぞれ準備の進捗を視察に向かった。

 だが…………。

 

「おい………何で我について来る。」

 

 久遠が振り返ると一葉、幽、美空、光璃、朔夜、葵が居る。

 

「それは目的地が同じだからじゃない?」

 

 朔夜が笑って答えると、久遠はジト目で睨んだ。

 

「余計な事を口走る様なら叩き出すからな!」

「あら、私だって励ますつもりなんだけどなぁ〜♪」

 

 久遠は信用出来ないと睨むのを止めない。

 

「大丈夫よ、久遠。」

「さすが美空ちゃん♪庇ってくれるなんて、名月を養子に出した甲斐が…」

 

「その時は私も手伝うから♪」

 

「美空ちゃんヒドい!」

 

 などと言いながらやって来たのはゴットヴェイドー隊。

 テキパキと指示を出す結菜を見付け、先ずは声を掛けた。

 

「結菜!」

「久遠♪……皆さんお揃いで……」

 

 やって来たのが久遠だけでは無かったので結菜は少し戸惑った。

 

「ひよの様子はどうだ?」

「ダメね。もう何も手に付かないって感じよ。」

 

 久遠達はひよ子を見舞いに来たのだった。

 病気や怪我という訳では無い。

 昨日、ひよ子の妹の小竹と従妹の虎と檜、その友だちのねねがスバル隊に入ったと挨拶に来たのだ。

 その瞬間からひよ子は魂の抜け殻になってしまった。

 

「おい、ひよ。我が判るか?」

 

 ゴットヴェイドー隊隊舎の縁側でぼうっと座っているひよ子へ心配そうに声を掛けるが反応が無い。

 

「ひよの妹の事だが………」

「っ!」

 

 ひよ子の体がビクンと反応し、瞬時に首が久遠に向いた。

 流石の久遠も驚いた顔で固まるが、次の瞬間ひよ子の目から滝の様な涙がザバーと流れ出す。

 

「くおんさまぁ〜〜!こちくちゃんが………こちくちゃんが昴ちゃんにたべられちゃいますぅうううううううう〜〜〜〜……………」

 

 ひよ子に妹が居る事を最初に教えたという罪悪感から、久遠はひよ子へどう償ったら良いのかとオロオロするばかりだ。

 美空と葵も自分達は身内を護ったのに、ひよ子の妹を護る手立てが出来なかったと済まなく感じていた。

 

「ひよ、何なら今からでも私があの煩悩から取り返して来てあげるわよ?」

「…………でもうささんが小竹ちゃんを弟子にするってぇ………」

 

「あの性悪うさぎっ!何考えてんのよっ!」

 

「で、では、ひよ。綾那に言って力尽くで連れて来させましょう!」

「虎ちゃんと檜ちゃんが綾那ちゃんにも稽古してもらうんだってはしゃいでました……」

「……………そ、そうなのね…………」

 

 既に昴の罠に絡め取られているどころか、下拵えが終わって調理寸前の様相だ。

 

「うぅっ……小竹ちゃん、虎ちゃん、檜ちゃんだけじゃなく……浅野家のねねちゃんまでなんて………村の人達にどう謝ったらいいかわかりませんよぉ〜〜〜!」

 

 幽も流石に不憫に思い、解決策を模索する為に問い掛ける。

 

「ひよ子どの、そのねね殿はどうなのですかな?スバル隊に入るのを躊躇っておいでならそこを糸口に……」

「ねねちゃんが一番その気になってますぅ…………おっ父の反対を押し切って家を出てきたって言ってましたぁ…………」

「…………さ、さようでござるか…………」

 

 ねねは下拵えどころかもう食膳に載っている有様だ。

 

「のう、ひよ。何故事前に相談せなんだ。半羽という頼もしい味方もおったではないか。」

 

 一葉が疑問に思い問い掛けるが、これを幽が大きな溜息ひとつ吐いて説明する。

 

「一葉さま。いくらひよ子どのの身内とは言え、足軽ですら無い身分なのですぞ。織田家家老筆頭の半羽どのに相談などひよ子どのが遠慮するに決まっているでしょう。」

「何を言う。ひよは余と同じ主様を良人とする妻じゃ!言わば余の妹と同じであるぞ!つまりひよの妹も将軍の妹!うむ♪何を憚る事があろう♪」

 

 一葉はどうだと胸を張る。

 しかしまたもや幽に溜息を吐かれた。

 

「祉狼どのの影響で身分の常識がすっかりズレちゃってますよ、この人……」

「主様の色に染まっているなら本望じゃ♪」

 

 光璃と朔夜が二人の遣り取りにクスリと笑ってからひよ子に話し掛ける。

 

「ひよは昴を信用出来ない?」

「そうよ♪私は三日月と暁月を昴くんの嫁に出したけど後悔してないわよ♪」

「昴ちゃんを信用……」

「夕霧を始めスバル隊の子はみんな活き活きしてる。あの宇佐美ですら楽しそう。」

「男女の出会いは時の運よ♪ひよちゃんの妹が祉狼ちゃんより先に昴くんに出会ったのは運。それに昴くんは相思相愛じゃない限り絶対に手を出したりしない子よ♪」

 

 ひよ子は考えた。

 確かに昴は小さな女の子しか見てないが、決して無理強いはしない。

 昴と三若との初めて対決が余りにも印象に強かったので、昴に対して警戒心を持ってしまったのではないかと。

 

「そうですね!小竹ちゃんが昴ちゃんを好きになったのなら、私、ちゃんと応援します!私も祉狼さまを好きになって愛妾になったんですから♪」

 

 立ち上がったひよ子は先程とは打って変わって生気が漲っていた。

 その姿に久遠は胸を撫で下ろす。

 

「うむ♪良く言った、ひよ♪それでこそ祉狼の愛妾筆頭だ♪」

「ええっ!?久遠さままでそんな事言うんですか!?」

「ん?結菜に見せてもらった奥の人別帳にはそう記されていたが……」

「そうなんですかっ!?」

 

 慌てて結菜を振り向くと笑って頷かれた。

 

「そ、そんなあ…………木下なんて苗字の後に朔夜さまや四鶴さまの名前が有るなんて変ですよおっ!」

「ならば改姓するか♪よし、我が良い姓を考えてやろう♪」

 

「苗字を変えないで順番をさげてくださーーーーいっ!」

 

 

 

 

 ひよ子と久遠達の居る隊舎の外。。

 昴との出会いを見事に回避した幼女が、出陣の準備をするゴットヴェイドー隊の中に居た。

 その名は前田慶次郎似生利益。

 しかし似生は出陣の準備を手伝っている訳ではなく、荷造りの終わった荷車の上で琵琶の様な楽器を弾いていた。

 

「おお!これは実に見事な音色ですぞ!」

 

 愛菜は似生の奏でる曲に聞き惚れる。

 

「何だか心も体もどやどやと沸き立ち、仕事がはかどりますぞ!どーーーん!」

 

 愛菜だけではなく、他のゴットヴェイドー隊の足軽達も体が自然と動き、それでいて疲れを感じないのでいつもより早く作業が進んだのだった。

 作業が終わると似生も演奏を止めて荷車から飛び降りた。

 

「似生どの♪見事な演奏でしたぞ♪どん!」

「おう♪ありがとよ♪」

 

 手放しで褒める愛菜に似生が笑って答える。

 

「ですがその楽器は琵琶に似ておりますが、愛菜は初めて見ますぞ?」

「これは南蛮商人から買ったギターラって楽器だ♪」

 

 そう言って差し出し愛菜に見せた。

 愛菜はほうほうと物珍しげに眺めているが、一刀たちが見たらエレキギターと呼んだに違いない。

 

「弾いた曲もオレが作った曲で、題名は『戦友(とも)よ!』って言うんだ♪これから共に戦うゴットヴェイドー隊に俺からの挨拶だ♪」

「似生どのはなかなかに風流人ですな。愛菜は今の曲に惚れましたぞ、どや♪」

「こんなんで良けりゃ後でいくらでも聴かせてやるよ♪その前に教えてほしい事が有るんだ。」

「どーーーんと愛菜にお任せあれですぞ♪越後きっての義侠人、この樋口愛菜兼続が何でも答えてみせますぞ!どや♪」

 

 愛菜が胸を叩いて請け負うと、似生は今までの威勢の良さから一転して顔を赤らめモジモジしだす。

 

「し……祉狼さまについてなんだけど……」

 

『『『祉狼さまと聞いてっ!』』』

 

 突然二人の周りに名月、空、藤、転子、エーリカ、不干、雹子、歌夜、梅、松、竹が集まって来た。

 その中の織田家臣で特に似生と面識の有る雹子が前に出る。

 

「生意気な傾寄者がすっかり恋する乙女ですね、似生♪」

「笑わば笑え!惚れた相手を一途に想う!それがオレさまの義よっ!」

 

 顔を真っ赤にしながらも、胸を張って雹子に言い返いた。。

 

「笑いなどしませんよ♪さあ、祉狼さまの素晴らしさをたっぷり聴かせて差し上げましょう。」

「雹子、もう良い時間ですし、皆で炊事をしながら話をするのはどうですか?」

「それは良いですね♪祉狼さまもきっとお腹を空かせている筈です♪似生は料理が出来ますか?」

 

 エーリカの提案に乗り雹子が挑発的に言うと、似生は得意気な顔をする。

 

「母上に美味い物を食わせたくて修練したぜ♪」

「ならば期待しますよ♪」

 

 祉狼の嫁の先輩達と一緒に似生はゴットヴェイドー隊隊舎の厨房へと向かった。

 

 しかし、隊舎に入ると久遠から祉狼が井之口へ患者探しに行ったと聞かされ、大慌てで数名が連れ戻しに向かったのだった。

 

 そして夕食時に京の現状、載斯烏越の紹介、今後の予定と、明朝岐阜城を発ち京を目指す事が伝えられた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

やっと本編開始です。

物語が少し前進しました。

先ずは石山本願寺、堺、北畠具教を味方に付けるべく行動開始。

大陸側も大移動中ですが、魏軍の様子は次回に書きたいと思ってます。

 

 

似生がギターを弾いているのは義風堂々のパロディですw

弾いている曲はサウンドトラックの『戦友(とも)よ!』ですのでCDもしくは音楽目録でご確認をw

 

 

今回の新キャラ

 

柳生但馬守宗厳 通称:舟

柳生石舟斎の方が聞き覚えのある方が多いと思います。

通称の舟はその石舟斎から一字を貰いました。

ゲーム本編でも白百合が「但馬」と呼んで名前だけ登場していたので是非出さねばと思っていました。

 

木造左近衛中将具政 通称:柚子

北畠具教を登場させる為にどうしても避けて通れない人。

正史でも織田の調略で下った人ですが、やっぱり織田家と北畠家の板挟みで苦労したんじゃないでしょうか。

通称の柚子は具政が『油小路殿』と呼ばれていたそうなので、油に似た柚にしたのと。

柚子は四国が本場ですが、和歌山でも全国9位の生産量なので少しは縁があるからと決定しました。

 

そして再登場の載斯烏越 通称:撫子

こちらは安直に「やまとなでしこ」からw

一刀たちと関わったばっかりに不幸な目に。

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

森蘭丸

森坊丸

森力丸

毛利新介 通称:桃子(ももこ)

服部小平太 通称:小百合(さゆり)

斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

蒲生氏春 通称:松(まつ)

蒲生氏信 通称:竹(たけ)

六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

武田信虎 通称;躑躅(つつじ)

朝比奈弥太郎泰能 通称:泰能

松平康元 通称:藤(ふじ)

フランシスコ・デ・ザビエル

白装束の男

朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

孟獲(子孫) 真名:美以

宝譿

真田昌輝 通称:零美

真田一徳斎

伊達輝宗 通称:雪菜

基信丸

戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子

小幡信貞 通称:貝子

百段 馬

白川 猿

佐竹常陸介次郎義重 通称:美奈

浅野寧 通称:ねね

木下長秀 通称:小竹(こちく)

加藤清正 通称:虎

福島正則 通称:檜(ひのき)

前田慶次郎利益 通称:似生(にう)

松風 犬

前田利久

柳生但馬守宗厳 通称:舟(ふね)

木造左近衛中将具政 通称:柚子(ゆず)

載斯烏越(さしあえ) 通称:撫子(なでしこ)

 

 

今回はPixiv版とtinami版共に同じ内容になっております。

 

 

次は幕間劇その三で石田三成と大谷吉継を登場させる予定です。

 

今回本当は黒外史を書くつもりだったのですが、どうしても考えがまとまらず、時間ばかりが過ぎて行くのでこちらを先にしました。

今後も自分がその時書きたいと思った物を書こうと思います。

 


 
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