No.892767

艦隊 真・恋姫無双 122話目

いたさん

加賀の扱いが少し……申し訳ない。

2017-02-11 14:15:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:918   閲覧ユーザー数:864

 

【 苦労人 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

新たに参加した港湾棲姫達により、更なる混乱へと導かれて行く。

 

と、思われたのだが………… 

 

ーー

 

冥琳「失礼、私は孫家に仕える周公瑾という者だ。 金剛殿達と懇意にさせて頂いている」

 

港湾棲姫「…………ワ、ワタシハ…………」

 

冥琳「………もし言いづらいならば、紹介は後でもいい。 貴殿の話は、我が御家に客将と仕える于吉から聞いているのだ。 私は、昨夜の交戦に対して礼と……少し貴殿と話をしたかったのだからな」 

 

港湾棲姫「……………」コクリ

 

冥琳「ありがたい。 それでは、あの後だが────」

 

ーー

 

港湾棲姫は軽く首を頷き、冥琳の提案に賛同する。 それは、港湾棲姫、北方棲姫の出自が、一刀達と敵対する深海棲艦だったからの配慮である。 

 

深海棲艦と聞けば、艦娘達と同種の力を持ちながら、天の国で互いに雌雄を争っていたという実力者集団。 更に言えば、今回の一刀襲撃で一部の恋姫達に『不倶戴天の敵』と認識されつつある。 

 

しかし、深海棲艦と出自を持ちながら仲間と袂を分けた者が極少数、存在する事が知らされていない。 知っているのは、于吉より直接話を聞いた呉の冥琳達、後は一部を除く記憶持ちのみ。

 

それは、深海棲艦の定義である『全体が白い髪、白い肌』『赤い目』『奇妙な武器(艤装)を所持』と全部当て嵌まる故、敵味方の意思統一が難しいという事で伏せてあるのだ。

 

そんな裏事情を知ったか知らずか、港湾棲姫は首を縦に動かす。 多分、『一刀を助けてくれた者達が、自分達に無理難題を背負わす訳が無い』という、無償の信頼があったと思われる。

 

ーー

 

冥琳「────だったのだ。 これも、勇気ある貴殿等の行動により、我ら勝利が確実になったのは間違い事実。 諸将を代表して……礼を申し上げる」

 

港湾棲姫「………ウウン。 一刀ヤ……ミンナ……助ケタ……カッタ……………」

 

冥琳「それでも、必要な時に必要な人物が集まり行動を起こす。 これは簡単そうに見えて……以外と難しい物だ。 だが、港湾棲姫殿達は的確に横槍を入れ、敵を敗走させる一因を成し遂げたのだ」

 

港湾棲姫「………………」

 

冥琳「この実績は………値千金の価値があると、私個人は思っている」

 

港湾棲姫「………………ソウ……ナノ?」

 

ーー

 

港湾棲姫としては、大好きな一刀、仲良くなった艦娘達を助けられると聞いて、参加したまで。 それが、一刀や仲間達意外より褒められたので、目をきらきらさせて冥琳を見詰める。

 

その様子に冥琳は大きく頷き、更に話を続けて港湾棲姫の興味を引かせた。

 

ーー

 

冥琳「…………うむ。 ここまで貴公が活躍されれば、何進殿に上告させて貰うのは当然の仕儀なのだ。 そうすれば、褒美を受け取れたりして、北郷一刀が喜んでくれるのは間違いない」

 

港湾棲姫「…………カ………一刀! …………喜ブ………!」

 

ーー

 

『一刀が喜ぶ』と聞いて、港湾棲姫の手の艤装が、鉄を擦り合わせた音を奏でさせ、手を開いたり握ったりと繰り返す。 どうやら、かなり嬉しそうな様子に、他の艦娘達も微笑ましげに眺める。

 

しかし、港湾棲姫とは逆に冥琳は溜息をつく。

 

その仕種に不思議と思った港湾棲姫が尋ねると、とある事情を話した。

 

ーー

 

港湾棲姫「………………ドウシタ………ノ?」

 

冥琳「ああ………些か、困っているのだよ……」

 

港湾棲姫「………何カ……困ル……?」

 

冥琳「うむ、何進殿が大将軍の地位を辞して、王朝内を退去すると聞いてな。 そうなれば、褒美を貰えなくなる可能性が……あるかも知れないのだよ。 貴殿は、何進殿より………何か聞いてはいないか?」 

 

港湾棲姫「………………」

 

ーー

 

港湾棲姫は、冥琳からの質問に身体を固くする。 

 

『何進は空母水鬼である』─────この事象について、絶対に秘密にしなければと、港湾棲姫は考えていた。 幾ら、艦娘達と仲が良さそうにみえても、この時代、この大陸に生を受けた者。 

 

────『信用ナド……出来ナイ!!』 

 

少しでも何進と話した内容を漏らせば、不利になるかも知れない。 まだ正式に味方として見て反目しあう健気にも黙して語らず済ませようと、決意する港湾棲姫だったが………

 

ーー

 

冥琳「…………つまりだ。 北郷が貴殿を褒める事象が………半分以上、減る!」

 

港湾棲姫「イ………イヤッ! 一刀……カラ………褒メラレ……タイッ!!」

 

ーー

 

こうして、港湾棲姫の固い決意も虚しく、冥琳は何進との密談の中身を探る聞く事ができたのだった。 

 

ーー

 

港湾棲姫「…………話セル……コトナラ……」

 

冥琳「感謝する。 お聞きしたい事は、何進殿に───漢王朝を去る御意志があるかないのか。 もしも、御存じならばでいい……お聞かせ願いたい」

 

ーー

 

こうして、何進の進退を聞き出す事に成功した冥琳だったが、此方も少なくない被害を被る。 自分が………どれだけ腹黒いのか、港湾棲姫を通じて理解できたのだから………………

 

ーー

 

冥琳「…………くっ!」

 

港湾棲姫「ダ、大丈夫………?」

 

冥琳「し、心配……いらない! 目に……塵が入った………だけ……だ」

 

ーー

 

─────ふいに、熱くなった目頭を押さえる冥琳。

 

その反応に首を傾げた港湾棲姫は、直ぐに心配して声を掛ける。 しかし、当の本人は、心配は無用……と膠(にべ)も無く断りを入れるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

【 キラ付き の件 】

 

〖 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

 

加賀「…………………報告は以上、となります」

 

一刀「……………………………………………………」

 

加賀「……………提督?」

 

一刀「…………あ、あぁ………そうか、華琳達の記憶は………うん、正直良かったと思う。 桂花にも……随分と迷惑を掛けた。 だけど………最後の口付けで目を覚ますなんて………どこぞの白雪姫だっ!?」

 

ーー

 

あれから数時間を経て覚醒したが、加賀より経過報告を受けてみれば、驚く事ばかり。 自分が死んだやら、華琳や秋蘭の記憶が甦るやら、桂花が乱心の挙げ句、様々なやり取りの末………接吻で起こされた。

 

加賀より報告を受け、『北郷さん、君の驚き、今、覚る』と心の俳句を詠みながら、羞恥心に悶え苦しむ一刀。 

 

ーー

 

加賀「…………野良犬に噛まれたと思えば………」

 

一刀「それはそれで桂花に悪い! くそっ! 下手に記憶があるから、どう接すればいいか………………!!」

 

ーー

 

覚醒した時は曖昧だった北郷一刀の記憶も、今ではハッキリと理解できている。 だから、この状況にも困っているのだ。

 

赤城が『………ロミオとジュリエットみたい。 あれ? だけど、二人は………』などと呟いていたが、それは華麗に聞き流す。 

 

で、当の桂花は──────

 

ーー

 

桂花「……スースー…………ムニャムニャ……スー……」

 

赤城「………安心……しちゃってますね?」

 

一刀「出来れば、早く俺から離れて貰いたいのに………」

 

加賀「提督を目覚めさせる大殊勲を立てたのです。 本当ならば………今すぐにでも提督には此処より出ていただき、事態の収集を望むのですが仕方ありません。 功績を得たならば報いるのも、提督としての役目ですから」

 

一刀「…………そ、それを言われると。 わ、わかった! 俺の為に散々苦労させたんだ。 少しだけ………寝かせよう………」

 

加賀「…………はい……」

 

ーー

 

一刀の胸の中で、幸せそうな顔で眠っていた。 

 

しかも、腕を一刀の背中まで廻してギッチリとキメていた状態であり、試しに外そうとしたが、ちょっとやそっとの力では困難なぐらいである。 

 

彼女も昨晩も他の者達と一緒に徹夜で動き、色々と苦労の連続。 戦が済めば一刀が襲撃され、主である華琳からは冷たい対応。 それを自分の才覚と芯の強さを持って運命を好転、此処に至ったたのだ。 

 

そんな苦労の幾つかは、こうして大輪の成功と呼ばれる花を開かせ、こうして愛する男の胸で眠れるのも、当然の褒美といえよう。

 

ーー

 

赤城「………うふふ、寝顔が可愛いですねぇ。 ──────あっ、そうだ!」

 

加賀「………赤城さん?」

 

赤城「ふっふっふっ! こんな時だからこそ………日頃の恨みっ! ────えいっ! えいっ!」プニプニ

 

桂花「……………ぅ、ぅぅ………」

 

ーー

 

急に赤城へ指を伸ばしたかと思えば、桂花の頬をつつく。 赤城の指が桂花の頬に触れる度に、低反発枕のように凹んだり元に戻ったりと変化した。 

 

始めは、ちょっと悪戯で桂花をつついたのだが、疲れていた為か起きる様子がない。 そのため、桂花が目を覚まさないのをいい事に、赤城が面白がって回数を増やし………何回も……何十回も繰り返す。 

 

一刀も止めるべきかと迷うが、桂花のつつかれて嫌がる仕草が可愛く、ついつい容認してしまう。

 

そんな赤城を横目で見ていた加賀は………興味深げに赤城へ声を掛けた。

 

ーー

 

加賀「赤城さん………楽しい?」

 

赤城「…………もっちろん! はあ~、この指先に当たる皮膚の弾力、そして……お肌のきめ細かさ~! 至福で~すよぉ! うふふっ!」

 

加賀「そう。 私も、ちょっとだけ……試したいのだけど………」

 

赤城「どうぞ、どうぞ! 加賀さんも、やっちゃって下さい!」

 

一刀「…………ほどほどにしておけよ………」

 

ーー

 

眠り続ける桂花の身体、そして後で怒りを受ける二人を心配する一刀をよそに、赤城に見守られ………加賀は敢行。

 

震える指先が桂花の頬に当たり、その指の突貫力で頬が凹んだ。

 

ーー

 

加賀「………あっ! あ……ぁぁぁ………」プニ

 

赤城「どうです~? 病み付きになっちゃいませんかぁ………なぁんちゃて! 真面目な加賀さんが、こんな事に嵌まり込むわけない───」

 

加賀「────な、何なの? この……生き物……」

 

赤城「………へっ? い、生き物って、桂花さんじゃないですか。 幾ら、いつもツンツンしているからって……毬栗とかウニとかに見えるんです?」

 

加賀「いえ、そんな当たり前な話ではなくて………も、もう一度───ぅうん! き、気分が……激しく高揚します! ですが、まだ………この感触を味わい尽くして……いないわっ!!」プニプニプニプニ

 

赤城「えっ? ええぇぇぇ────っ!?」

 

一刀「お、おいっ!?」

 

ーー

 

加賀は何かに目覚めたように、赤城と同じ事を始める。

 

一刀は加賀の様子が変な事に気付き、急いで離そうとするが、既に遅かった。 加賀の周りが………キラキラ光り出したのだ。

 

ーー

 

一刀「加賀が……光り始めた………!」

 

赤城「う、うそっ!? こんな事で加賀さんが『キラ付け』になるの!!」

 

ーー

 

『キラキラ状態』になった恩恵により、加賀の動きが変化した。

 

初めは恐々と接触していたものが、先程より遥かに洗練された怒濤の連続突きを叩き込み、桂花の頬の感触を堪能し続ける加賀。 

 

加賀を唆した赤城はもとより、その変貌に止めるのを忘れて唖然とする一刀。 しかし、加賀の動きは更に加速する!

 

ーー

 

加賀「………今、打点がズレたわ。 これでは堪能は無理。 修正 0.3㎜ 右移動…………いいわね。 次は……ここ。 そう、この感じ………ふふ……快感………」

 

赤城「それ以上は駄目です! 私が戯れる時間が~~~っ!?」

 

加賀「赤城さん……ここは譲れません。 貴女だけで……この至高を味あわせるわけに……いかないわ………」

 

ーー

 

加賀の連撃は、見る者に13mm連装機銃の銃撃を幻想させるほど素早く、驚く程に鮮やか。 その手法は、まさに彼女が擁する第一航空艦隊の技量を表しているかのようである。

 

同じ箇所を極々外し衝撃を最小限に抑え、桂花の眠りを阻害せない絶妙な力加減、精密な機械の如く頬を集中的に狙い当てる執着心。 赤城と違い、慢心せずに己を律し、それでいて十全に満喫している器用さ。

 

だが、真に驚くのは、それほどの神業を成しても……冷静に状況把握できる余裕がある事か!?

 

ーー

 

加賀「目蓋が痙攣している。 これは……目が覚める前兆ね。 ここからは、慎重に攻めたいところだわ……」

 

赤城「まだ、やるんですか! 加賀さんばかっりズルいっ! 私も───」

 

一刀「いい加減、やめ──────」

 

ーー

 

加賀が構え、赤城が邪魔をして桂花に手を伸ばす。 一刀は大声で叫び

二人を止めようと動き出そうとしたのだが。

 

時、すでに遅く──────

 

ふるふると目蓋が震えたと思えば、幾ばくもなく目覚め、一番近くで自分へ手を伸ばす赤城に顔を向け始める桂花。 

 

寝惚け眼の顔が………赤城へと注視する。 

 

ーー 

 

桂花「…………ん、あぁ? あか……ぎぃ~?」

 

赤城「────け、桂花さんっ!?」

 

加賀「………………っ!」

 

一刀「……………」

 

ーー

 

桂花の顔に人差し指を伸ばして固まる赤城に、何かが叫び響き渡る。

 

《 熟睡してるからって慢心は駄目! 起きた時の対処を考えないと! 》

 

『そう言う大事な事は、もっと早く警告して欲しい』と愚痴る暇も無く、赤城は既に恐怖のコトダマへ包まれつつある。

 

『(前の大戦で得た教訓を魂にまで刻んだ筈なのに、どうして絶対などと思ったの?)』

 

『(何度、目の前にいる毒舌軍師から嵌められたのに、どうして仕返しなどと愚かな考えを懐いてしまったの?)』

 

そんな赤城の怯えを無視して、桂花が胡散臭げに赤城へ問う。

 

ーー

 

桂花「…………アンタ、私に………変な事……しなかった…………?」 

 

赤城「………………ま、まさかぁ~」 

 

桂花「……………じゃ、なんで私に指先を向けてるのよ? それに………赤城や加賀の周りが……キラキラ光ってるのって………なんなの?」

 

赤城「そ、それは……ですねぇ………」

 

ーー

 

赤城は桂花に問い詰められて、言い淀む。 だが、これは何時ものデス・ノボリでは無い。 しっかりと思案された考えに基づき、わざと彼女は言い淀んだのだ。

 

────赤城は考えた。 

 

正直に答えれば必ず叱られる……これは既に学習している。 言い訳をすれば論破されて逆襲の憂き目、逃走すれば提督に迷惑が掛かるのは必然。

 

ならば、この窮地をどうするのか! 

 

ーー

 

赤城『(睡眠時間……凡そ三十分。 でも、口からの涎の垂れ具案からして、かなり熟睡していた様子。 その証拠に、未だ寝ぼけ眼で自分が寝ていた場所も把握していないようですし。 これなら誤魔化しも可能かも……)』

 

桂花「何を……ぶつくさ……言っているのよ。 うぅ……ん、まだ頭がハッキリとしないわ……私は何かをして……」

 

ーー

 

だが、今度の場合、彼女には秘策がある。 

 

何故なら、この赤城は……何時もの赤城ではあらず。 皮肉にも桂花を弄りまくった行為が、『キラ付け』を得てしまったのだ。

 

★☆★

 

────無論、提督諸兄におかれて『キラ付け』の定義、その付与に関わる加護の存在には、当然なから異論ありと思われる。 

 

しかし、話の進行と門外漢である作者の無知と言う事で、黙認していただければと、伏して願う次第。 

 

★☆★

 

 

───さて、話に戻そう。  

 

 

こうして『キラ付け』で士気高揚効果が現れた赤城は、在りしの第一航空戦隊旗艦を彷彿させる観察眼で、的確に桂花の状況を捉えていた。

 

桂花は軍師として知謀に優れ、弁舌鋭し。 普段の口喧嘩でも百戦百負で赤城の負け越しである。 だが、今の桂花は幸いにして、寝起きで頭が動かず、状況把握も十分では無い。 

 

正に───あの『真珠湾』と同じ! 栄光の第一航空艦隊に隙など無い! 

 

ならば、先制攻撃あるのみ!

 

赤城は、先程の指を………更に桂花の直前まで伸ばした。

 

ーー

 

赤城「桂花さん、この指先に何があるか……判ります?」

 

桂花「はあ、これの……事? 指の先にあるのなら、爪が付いてるのに決まってるじゃない! アンタ、私を馬鹿にしてるの? 一回、一日中食事抜きの生活を過ごしてみたいの?」

 

赤城「な、なぞなぞの答え合わせじゃないんですよっ! この指の先を見て欲しいんですぅ!!」

 

桂花「そんな大声出さなくても……聞こえているわ。 まったく、よく判らないけど、この指の先ね? この指先に何が………って!?!?」

 

ーー

 

ここで、説明しよう! 

 

『赤城の指先は桂花を向いていた』────ここまでは判って頂けたと思う。

 

では、一刀に抱きついている桂花の向こうには何があるのか? 

 

あるのは───当然ながら苦笑いする、一刀の顔。

 

赤城の指⇒桂花⇒一刀となり、赤城の指先は桂花を通して一刀を指さしていた事になる。 しかし、桂花は目が覚めた直後、赤城を見ていたので一刀に気付かず、赤城の指先を辿ってようやく理解できたのだ。

 

ーー

 

一刀「…………やっと、気が付いてくれた。 どう、身体の具合いは大丈夫?」

 

桂花「い…………」

 

一刀「い?」

 

桂花「い、いぃ……………」

 

一刀「い、井伊? なんで、大河ドラマ…………」

 

桂花「嫌ぁあああああ──────っ!!!」

 

─────バチンッ!!

 

ーー

 

急に頬を叩かれ唖然とする一刀、片手を振り抜いた状態で固まる桂花。

 

そして、誘導が上手くいったが故に、新たな問題を発生させ、頭を抱える赤城。 そんな三人を部外者の如く見守る加賀。

 

これも赤城のキラ付きの成果か、はたまた桂花の寝起きだったのが不味かったのか………どちらにしても、災難だったのは一刀である。

 

桂花が恥ずかしさの余り、一刀にビンタを食らわせたのだ。

 

ーー

 

桂花「……………誰が……一刀を引っ叩いたの? それは私よ………と桂花が言った。 私が……この右手で……思いっきり………一刀を……引っ叩いたの……」

 

一刀「────俺は大丈夫だから! 怒ってないから帰って来い!」

 

恋「……桂花は悪くない。 桂花は……いいこ。 いいこ……いいこ……」ナデナデ

 

ーー

 

桂花は放心して、目が虚ろになり歌を呟く。 両目から愛する人物を傷付けた滂沱の涙が頬を伝う。

 

自分の不手際とは言え、罪無き一刀を暴力を振るったのだ。 

 

これで落ち込まない理由などない。 

 

多分、この時代に発祥もしていない英国童謡の替え歌を何で歌えるかはさておき、その哀しき歌詞と無表情で呟く姿は憐れを誘う。 

 

それから一刀は痛む頬を我慢して桂花を励ましたり、騒ぎを聞いた恋が飛び込み事情を知り、一所懸命に慰める事になった。

 

 

 

 

ちなみに、赤城と加賀のイタズラは………後でバレた。 

 

一刀と桂花から、厳しい叱責と罰が与えられたのは、言うまでも無い。

 

 

◆◇◆

 

【 枯木竜吟 の件 】

 

枯木竜吟(こぼくりょうぎん)………禅宗の言葉。 あり得ない出来事が起きてしまったという意味。

 

〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗

 

あれから漸くして………桂花は落ち着いた。 

 

恋は桂花の様子に安心して護衛の任に戻り、加賀は鳳翔へ一刀の覚醒を報告に。 赤城は罪悪感で居た堪れなくなり、外に出た。 

 

つまり、この閉じらた世界には、一刀と桂花の二人だけしか居ない。

 

一刀は桂花に背を向けて胡座を構き、桂花は自分の背中を一刀に預け、チラチラっと後ろに視線を送る。 

 

どうも桂花としては、あの行為を恥ずかしく感じているようで、一刀に何と謝ろうかと機会を窺っているのだ。 しかし、当の一刀は桂花の悩みに気が付かないまま、何かを必死に考えているように思えた。

 

ーー

 

桂花「ねえ…………一刀」

 

一刀「……………………ん?」

 

桂花「あのぉ……ねぇ? その………き、記憶とか……あるの?」

 

一刀「………………」

 

桂花「ほ、ほら! 前の………私達のこと、覚えてる?」

 

一刀「………………」

 

ーー

 

こう言って、話を切り出す事に成功した桂花だが……実は内面で激しく後悔していた。 

 

 

『何で一番重い話題を最初に話すのよ、桂花! 馬鹿なの!? 死ぬの!? これじゃ、喋りたくても会話にならないじゃない!!』

 

 

一刀の沈黙こそ答えならば………その相手の口より無理矢理言わせようとしている自分は、余程の馬鹿だ。

 

 

『記憶とかって何よ!? あるに、決まっ…………てぇ……………』

 

 

自分が行ったのは、ただ皆から推されて欲望に従っただけ。 そんな事で記憶が甦るなぞ何の確証があったのか? 

 

赤城の放言に、一条の希望を見ただけじゃなかったのか?

 

 

『決まって………る……よねぇ? かずぅ───とぉおおぉおっ!?』

 

 

そんな暗い思考の迷路に入る手前で、桂花は自分の身に起きた事象を信じられなかった。

 

ーー

 

一刀「…………はい、そこまで!」

 

桂花「いふぁい、いふぁいぃぃぃ! ふぁにするぅ~ぼぉーっ!!」

 

ーー

 

いつの間にか……一刀が目の前に向き直り、桂花の頬を引っ張ったのだ。

 

あんまり強く伸ばすので、涙目になりながら抗議すると、一刀が指摘する。

 

ーー

 

一刀「頭は良いのに、直ぐ感情が先立つから視野が狭くなるんだよ。 まったく桂花のそんなとこは、『昔から』変わらないないな………」

 

桂花「だからぁ、離しなさぁ────えっ? 今………なんてぇ?」

 

一刀「桂花は『昔から』華琳一筋で、俺を嫌っていたんだよな………って言ったんだよ。 俺の頭に浮かぶ記憶は、そうなるんだけど……どうかな?」

 

桂花「─────────っ!!」

 

ーー

 

桂花は一刀が喋った前の言葉の復唱を願ったが、そんな桂花の意に反し一刀は殆ど違う話を語る。

 

だが、その内容こそ……桂花が望んだ言葉。

 

『俺は覚えている。 しっかり記憶はあるんだよ』

 

そう、一刀が語る言葉の真意は、桂花に届いていたのだ。

 

ーー

 

桂花「…………………ば、馬鹿ぁ! 一刀の………馬鹿ぁ!!」

 

一刀「俺が起きた時には、桂花が気持ち良さげに寝ていたから。 あれから騒ぎが重なって、報告が遅れたんだよ。 わざとじゃないけど……ゴメン」

 

桂花「…………ア、アンタねぇ! 記憶が戻ってきてから………意地悪になったんじゃないのぉ? 何回………何十回! 私を……泣かせるつもりなのよっ!?」

 

一刀「………あの時、桂花には散々意地悪されたからね。 こうやって逢えたんだ、少しは異種返しぐらいしたいよ」

 

桂花「─────も、もうっ! グスッ………知らないっ!!」

 

ーー

 

拗ねながら泣く桂花の姿を見て、一刀は苦笑する。 

 

愛しき者を一刀に託した少年が、再び帰って桂花に逢えれば行うと誓った夢を、実際に実行し桂花の反応を見て思う。

 

ーー

 

 

『………貴方は、こんな日常的な幸せを………望んでいたんですね。 ………北郷さん』 

 

 

『………見てますか? いつか戻って来たら………桂花と馬鹿を言い合える間になりたかったと言う願い。 少しですが叶えてあげましたから………ね』

 

 

『………………だけど、この偉そうな言い方、俺には無理だよ。 桂花みたいな可憐な少女には可哀相だ。 …………後で……謝っておこう…………』

 

 

ーー

 

あの北郷一刀のイメージで行動したが、自分には合わないと自覚し、今度からは自分なりに接しようと誓う一刀。

 

そんな一刀を横目でチラチラ見ては、様子を伺う桂花。

 

 

一刀と桂花の関係は、正に……これからが始りであった。

 

 

 

 

 


 
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