拠点:蓮華 題名「刮目する前に」
「私は反対だ」
廃家から連れてきた呂蒙が子供たちに部屋を割り当てている間に、私とへれな、魯子敬は以後の子供たちの処遇に関して話合っていた。彼らを助けるために協力するとは言ったものの、私と魯子敬にはこういう場合何をどこから始めれば良いのか経験がなかった。なので大体の思案をへれなから求めることは仕方のないことだった。実際、長年孤児院を運営してきたへれなはまず何が必要で、長期的にどんな事をすべきか、その骨格を私たちに分かり易く説明してくれた。基本的な衣食住の整えに関しては異言がなかった。むしろ食に関しては、難民の救済の時とかにも必要な知識、今まで私たちが間違ってやって居たことなども色々判った。へれな本人も服や新しく建てる孤児院の建物に関してはそこまで拘らなかったが、子供たちに如何に栄養の均衡をとった食事を与えるかについて長々と熱弁した。
その後魯子敬が十六才の子供たちまでを受け入れるべきだと言って一悶着があった。へれなは二十までは置きたいって言ったけど、それだと遅すぎると魯子敬は反対した。これには私も魯子敬に同意せざるを得なかった。十六になると既に成年している年だったので、孤児院という名の所に置いておくのは問題があった。それに彼らが長居することによってもっと守るべき幼い子たちに集中できなくなる。これは文化の差と言うことで私と魯子敬が説得するとへれなも納得した。その代わり、そうした場合呂蒙を含めた男子の何人かがいきなり住んでいた所を追い出される結果になってしまうので一年の猶予を与えることにした。
だけど本当に問題だった所は、へれなが十二才になった子たちは孤児院に師を招いて教育を施すべきだと言った所からだった。尤も、反対したのは誰でもない私だったのだけれど。
「住み処を与えて食べさせてあげるだけでももう十分じゃない。何故教育までさせる必要があるのよ」
「どんな形であっても教育は必須です。何にも教えないで十六才まで育てた後社会に追い出したらそれは保育ではなくただの家畜の飼育と変わりありません」
「だからと言って学者まで院内に招聘して常住させるまでするの?特に頭の冴える子を私塾に行かせるならまだしも、全員を教育するというのは効率も悪い」
「確かに皆に高等な教育をする必要はないでしょうけど、少なくても簡単な読み書きぐらいはできるようにしないといけないでしょう。聞けばあの中で文字の読み書きができる子が誰もいないそうです。リョモウちゃんさえも自分の名前と本当に簡単な文字以外は知らないって言われたからびっくりしました」
「お言葉ですが、へれなさんが居た世界はどうだったか分かりませんが、この地では平民のほとんどは読み書きが出来ません。仰った通り自分の名前ぐらい書けるようだったらそれだけでも大したものでしょう」
「……識字ができること自体が特権というわけですか」
その後へれなは自分が生きた世界のことを話してくれた。本当に国全体が乏しい所ではない限り、識字率は平民を含めても9割以上は基本だということだった。文字の読み書きが出来ないということはへれなとしては考えも出来ないものだったのだ。
「……と言っても、私も漢字の読み書きは出来ませんけど」
そういえば、この前の手紙も思春に書かせたものだったわね。
「とにかく、へれなの世界ではそうだったかもしれないけど、ここじゃ読み書きは一部の人間にしか出来ないわ。もし孤児院でそれを無料で教えるとなると、逆に親の居る家を差別することになる」
「…教育時だけ孤児院を公開するというのはどうでしょう」
「それには集まるだろう人数を考えると難しいだろうと思いますが。特に無料で教えるとなると……」
へれなが更に問題を拡張させる意見を出したが、直ぐ魯子敬の反対をくらった。
「そもそも何故全員に勉強をさせる必要があるの」
「逆にどうして勉強させないのですか。十六になったらその子たちはどうするのですか。子どもの親なら子の未来のために子が育つにつれに何かを教えるものです。親が商人なら商才を、農夫なら農業の技術を、学者なら私塾に行かせるか、家が貧窮なら自分で教えたりもするはずです。子供たちを守ると言ってただ食べさせて寝かせるばかりして置いて成年を迎えたからって追い出すとそれは見捨てることを先延ばしにしてるだけでしょう」
「それなら一括に同じく勉強をさせる必要はないはずよ。その子の育ちを見てそれにあった職業になれるようにすれば…」
「それは理想論です。それは私が生きていた世界でも理想論です。結局は基本的な教育も受けられずに社会の下位階級になることを強いることになります。そうならないためにも一括な基本教育、少なくても基本的な文字書きと算数。これは譲れません。これも出来ないまま十六才に追い出す体制を整うと結局孤児院は金を使って社会の底辺を敷く人間を量産する施設になります」
へれなの頑固に言った。それを見て最初は困った顔だった私は、直ぐに微笑んだ。
そう、私がこんなへれなが欲しかったのだ。
「へれなさんの話を聞く限り、別に学者を招聘する必要はないみたいですね。そういう基本的な文字の読み書きや算数程度ならちょっと勉強をした人間なら誰でも教えることが出来ます。教育は受けたものの、官吏になれずその才を活用できて居ない人達も居ますから、そういう人の中から金に困った人を適当に連れて来たら費用もそんなに掛からずに済みそうです。手配に時間がかかるでしょうけど、どうせ改築を済ませるまではへれなさんが言ったような教育は無理でしょうし」
魯子敬がそう話をまとめてくれると取り敢えず安心した顔をしたへれなだったが、そこで更に何かを思いついたような顔をして私の方を見た。
「な、何?」
「レンファが字の読み書きを教えるというのはどうでしょう」
「わ、私が?」
「はい、ついでに私も一緒に教わったらいいですしね」
へれなは良いこと思いついたって顔をしていたが、私は困っていた。
「わ、私はその、忙しいからね。色々と…」
「豪族たちとの顔合わせならもう十分出来ていると思いますけど…残りは私が回るだけでも、後は名符を見ていただければ良いと思うのですが」
魯子敬、余計なこと言わないで!
「どうしたのですか、レンファ?何か都合が悪いことでも…?
「その……私……駄目だから」
「何が駄目なんですか」
「……子供」
「…へ?」
「だから、子供が苦手なのよ」
おかしな話なのは判っていた。現に泊まっている宿が子供たちに満ち溢れるようになったのに、今更子供が苦手だなんて言う話をするのだ。へれなが呆れるのも仕方がなかった。
「子供、嫌いなんですか」
「嫌いではないけど…」
「じゃあ、問題ありません」
「問題しかないわよ。どう接したら良いのかも判らないし…ただ周りに居るだけならできるだけ避けたら良いと思っていたけど、勉強を教えるなんてことになったら話かけたりしなきゃいけないじゃない。そんなの無理よ」
「レンファって今社長が昔言ってたことと全く同じこと言ってますよ。社長もいつもそんな風に言ってるくせに孤児院に来る度に子供たちのための人形やおもちゃみたいなのたくさん買ってきてました。レンファもそういう人なんですか。ツンデレですか」
「つんでれって何?!とにかく私はやらないから」
・・・
・・
・
「私が孫仲謀、今日から暫くの間、あなた達に教育を施すことになる」
結局やらされた。
へれなのしつこい説得に破られた私は結局話し合いの結果、私が文字の読み書きを教えて、へれなは算数を教えることになった。私はいつも宿屋に残ってるわけにはいかなかったし、やっぱり午後は出かける必要があったから、私は隔日で一日一刻、へれなは毎日して一日半刻、勉強会を開くことにして、私が三回教えたら次の日から二日休んで、その周期を繰り返すことになった。
数日後、呂蒙及び十六を越えたか十六才に近い子たちを一つの部屋に集めた。集まった人数は八人、これにへれなまで一緒に勉強したいと言って全部九人が集めた椅子に座って私のことを見ていた。既に十六才以上の子たちはここで何をするのかを既に知らされているため、悲壮な覚悟の顔で私のことを見ていて、そうでない子たちも兄、姉たちの雰囲気に圧倒されてか固まった表情で私に視線を集中して見ていた。へれなだけが私のことをにこにこしながら見つめていた。
十人にも至らない人の目だったのに私はとても緊張していた。いっそこういうものは面倒だのつまらないだの言って集中してくれない方が今はまだ助かりそうだった。
結局私も普段豪族たちの前でするように謹厳さを強調した口調で子供たちにこの集まりの目的と概要を説明した。
「……何か質問はあるか」
言いたかったことを固い口調で全部言い切った私は、多分質問はないだろうと思いながらもそう聞いた。
そして何故かへれなの手が上がるのを見て、私は嫌な予感がしながらも彼女を指名した。
「何?」
「先生、彼氏は居ますか?」
その質問に私はもちろん、座って居た他の子たちも驚愕して、一番うしろに座ってて天真爛漫微笑んでいるへれなを振り返った。
「何を言い出すのよ!そんなの今まで私が言ったのと全然関係ないでしょう!」
「ええ、関係あります。これから教えてくれる先生だから、色々しりたいもの。皆も先生のこと知りたいと質問してもいいよ。リョモウちゃんは先生のこと何か知りたくないですか」
「わ、私ですか!?」
いきなり話を振られた呂蒙は戸惑った。
「えっと、えっと……」
何か私に質問したいことを悩んでいたのか凄く悩んでいる顔をしていた呂蒙は、結局こんなことを聞いた。
「孫権さまは、どうしてへれな様と出会ったのですか」
…それは私ではなくへれなに関する質問になる気もするけど。
「そうね。私は洛陽での戦いが終わった後帰ってくる途中、真昼に突然流れ星が落ちて来たから行ってみるとへれなが居たわね」
「流れ星ですか」
「それって流れ星に乗ってきたってこと?」
「凄い、天使さまだ」
へれながこの世界にどうやって来たのかを教えるとやはり皆の興味はへれなの方へ向いた。
「へれな様、本当に天使さまなのですか」
「あはは…どうでしょう。流れ星というのは流石に信じがたいですけど、レンファは自分が見たですからね」
「やっぱり、へれな様って凄い方なんですね」
どの道、私は子供は苦手だった。へれなを江東の天女さまにするという計画から見ても、子供たちの注目がへれなの方に向くのは好都合だった。
「質問は他にないわよね。それじゃあ、皆に配ってあげた本を…」
「はい!」
私が授業を進めようとした時、またへれなが手を挙げた。
「…何?」
「先生の初恋教えてください」
「あなたよ。はい、もう始めるわよ」
もう何を無視してやっていく方が良さそうだったので、適当に慌てさせて私は授業を始めた。
授業は私が予想していた感じで進んだ。初日だし、皆も何をどうすれば良いのかはっきりとしない状態での授業だったので、皆私の指示に従って本を開いて文字を見て、その意味などを説明した後、持たされた竹簡に筆で文字を書く練習をする。皆文字の読み書きがほとんどできなかったし、筆を握ったことすらもなかったので、筆を正しく握る方法を教えてる間に腕をつっちゃう娘が続出した。真っ先に犠牲になったのがへれなだったのは言うまでもない。
一刻間習字で時間を費やして、私は次の日程があったため急いで教室を出た。次にへれなの授業があったはずだが、私はそれまで見ることはできなかった。
そんな感じでへれなが計画した勉強会の周期を一周して休日になった日、私はその夜へれなにちょっと用事があって彼女の部屋に入った。そこには私たちが授業をしている子達の中の何人かがへれなと一緒の卓に頭を合わせていた。
「取り込み中だったみたいね。また今度来るわ」
二人でゆっくり話がしたかった私は邪魔が入るのが嫌で中に入らず門を閉じようとしたけど、
「ああ、待ってください、レンファ!」
へれなは私を多忙に私を呼び止めた。
「丁度良かったです。良かったらちょっとこの子たちの相談に乗ってください」
「相談?」
「はい、昨日習った所で良く分からない所があるみたいでして…私も良く判らないから答えられなくて困ってたんです」
が、私の助けが欲しいという子供たちの顔に困った表情が明らかに出ていた。私が彼らを苦手であるみたいに、彼らもまた私に接するのが苦手なのだろう。だからそもそも担当していた私ではなく、もっと接しやすい、優しいへれなの所に質問をしに来たのだ。
やっぱり、私に子供たちの世話なんて…
「私はちょっと忙しくて今手が話せないから、へれながうまく付き合ってあげて。それじゃあ…」
「あ、レンファ…」
私はへれなが呼び止めることも無視して門を閉じて早足で後ろを振り向き逃げようとした。
「うわっ!」
「わわっ!」
その時、後ろに突然ぽんと現れた人間とぶつかってしまい、私もその人も後ろに倒れた。
「いたた…」
「うっ…はっ!孫権さま、申し訳ありません!怪我はございませんか!」
私とぶつかったのは呂蒙だった。呂蒙は私が倒れたのを見ると尻もちをついていた姿勢から前に転び膝をついて謝罪した。
「大丈夫よ。私もちゃんと前を見なかったし、あなただって目が良く見えないから距離感が掴めなかったのでしょう?ただの事故よ。ほら、立ちなさい」
先に立ち上がった私は呂蒙に手を伸ばした。呂蒙は戸惑いながらも私の手を取って立った。
呂蒙を立たせて見ると、床に呂蒙が持っていたらしき竹簡や本が落ちてあるのが見えた。取って見ると、私が教えている本と習字をしたものだった。
「あなたもへれなに質問をしに来たのね。彼女なら今他の子たちと部屋に居るわ。私はこれで失礼しましょう」
「へ?あ、あの…!」
持ち物から状況を察した私は書物を呂蒙に返し、場を離れようとした。
「私は孫権さまに質問があって来ました!」
でも、そう言いながら私を呼び止める呂蒙を見て私は足を止めた。
「私に?どうして…」
「あの、孫権さまから教わった所から判らないのがあって…」
「?だから、それをへれなに聞きに来たんじゃなかったの?」
「はい?どうして孫権さまに教わっているものをへれな様に聞くのですか」
「それは……」
……考えてみると私の授業ってへれなも習う側の人なのよね。
「お忙しいとは判っているのですけど、どうしても知りたくて…授業で学ぶまでは待ちきれなくて…」
「…どういうこと?ちょっと貸してみて」
呂蒙から竹簡をもらって再び見た私はそれでやっと気づいた。呂蒙が書いておいた内容は私が教えた所から大分先にある内容だった。
「これは私がまだ教えてない所ね」
「はい、その……ちょっと予習をしていました」
「予習ね…私が教える速度が遅いのかしら」
「いいえ、そういうわけではありません!実際他の子たちは今学んだ所でもまだ難しいという子も居ますし…私に教えて欲しいと来る弟たちも居ました」
「そう。ならあなたはどうして…」
予習することがいけないということはなかった。むしろ予習だなんて関心すべきだろう。ただ進行速度は私なりに考えて進めているもものだった。既に習ったものを復習することを疎かにして先に進もうとすると基礎を忘れてしまうかもしれなかったから、そういうことなら悪い習慣が着く前に指摘しなければと思ったのだった。
「その…もう習った所は何度も練習して完璧だと思いました。今までは料理や家事や幼い子たちの世話まで寝る時間以外は忙しく働く生活だったのに、いきなり何もしなくてもご飯が出て、幼い子たちもへれな様や他の方々が世話を手伝ってくださって個人の自由時間がぐんと増えてしまったせいで、他にすることがなくて、孫権さまとへれな様から習ったものを何度も何度も復習していたら、それだけじゃあ、物足りなくて自分でもっと勉強しようってなって…でもやっぱり一人でやると何がなんだか良く分かりなくて……」
「…なるほどね」
今の生活が呂蒙にはとても余裕のある生活だったみたいだ。二十人ものの弟、妹たちの世話をしなければいけなかったのが一気にその荷から離れたのだから当然だろう。最初からへれなの提案で彼女には個別の部屋を与えていた。へれなもこの子に関してはちょっと贔屓していた。呂蒙がこの孤児たちを牛耳ってたことももちろんあるでしょうけど、それだけではない感じがしていた。
もしかしたらこれがその理由だったのかもしれない。他の子たちとは違って、特別に呂蒙にもっと勉強して欲しかったのかもしれない。それに、孤児院から連れてくる時、呂蒙は私に言っていた。
『私、頑張って勉強します。それで、いつか孫権さまの下で働きたいです。それで今日私たちを助けてくださった恩をお返ししたいです』
これもへれなから何か吹き込まれたのだろう。そうでなければ、『私』に恩返しだなんて呂蒙が言ったはずがない。もちろん私も手伝うことになってはいたが、第一の守護者はへれな、金銭面で一番支援しているのは魯子敬の方だった。私はたかが孫家という名だけ。それも以後はあまり役にたたない。
「あなたは私に恩返しをするって言ってたわよね?」
「はい!そのために頑張って勉強するつもりです!」
「私は五才の時から学を学んだわ。大体の士官や著名な豪族の子孫は皆この頃から私塾などに入って一日中勉強ばかりしながら成年まで学にばかり没頭することが多い。そうやって勉強しても軍に仕官できないこともある」
「……」
「私が言いたいことが判る?」
私が呂蒙たちに勉強を教えていることは、せいぜい一般生活がちょっと楽になれる程度になれば良いと思ったからだった。正式な軍の文官になったりなんてできるとは思っていなかった。
呂蒙はもう既に十六才だった。他の学のある人たちならもう下級士官として推薦される時期だった。こんな遅くから勉強を始めても、士官や、増してや私が近くにおける軍師になるだなんて到底無理な話だった。
やっと勉強を始めて希望を持ち、向上心に燃えているのに台無しにしている悪かったけど、かと言って変な夢を見させたくもなかった。私が彼女たちを贔屓できるのはここまでだったのだ。私が彼女の勉強を見てあげていると言って、彼女の将来を約束してあげているわけではなかった。
「成年になるまで十年以上勉強するのに、仕官できない子が居るのは何故ですか」
少し沈黙していた呂蒙は私にそんなことを問った。
「仕官などせずそのまま家業を継ぐということもあるけれど…普通仕官が出来なかったというと、親が軍との繋がりが薄いか、それともその子の実力が足りなかったことが問題ね。例え親が勉強をさせようとしても、その時間を無駄にするという恩知らずな子も居るわけだから」
「時間を無駄にする…どうしてですか」
「どうしてって……そうね。多分大まかな理由は自分は勉強がしたくなかったからでしょう」
五才から何も出来ず勉強ばかりの生活が好きな子は居ない。小蓮だっていつも勉強から逃げ出してばかりだったし、姉様もあまり一つの場所に居座っていることが得意な人ではなかった。小さい頃から勉強が趣味みたいだった私の方が孫家の血筋では異端だった。
「なら私はそんな無駄な時間は過ごしません。遅れた分、その子たちの三倍、いえ、五倍は熱心にしないと追いつけませんね。私にはそこまでする理由がありますから」
そう言っている呂蒙の目、そのまだ焦点がはっきりとしない睨んだ目から私は炎を見た。もっと学びたいという向上心、確かに五、六才の、親が強制的に行かせて、出来なければ脹脛を打たれるから無理やりした勉強した子たちからは見ることの出来ないものだった。
呂蒙には、他の誰よりも勉強を頑張りたいという気持ちがあったのだ。頑張らなければならない理由があったのだ。
「その理由というのは…?」
「孫権さま、そしてへれな様方に受けた恩を返すためです」
始めることが遅かった分、呂蒙には勉強の大事さが判っていた。勉強すべき理由もあった。彼女は決してこの時間を無駄にしないし、したくないと思っているのだった。
となると、私は今彼女の時間を無駄にしていた。
「あなたの部屋に行きましょう」
「はい?」
「聞きたいことがあるのでしょう?あなたの部屋で答えてあげるわ。そしてこれから毎日、この時間にあなたの部屋に行くから、その時間に質問するものを準備して起きなさい。長居は出来ないし、質問がなければそのまま帰る。逆にあなたの疑問が解けなければ、私にできる限りずっと一緒に居て上げましょう。せめて私が教えてあげている時間だけでも…私があなたにできる贔屓はそこまでよ。以後はあなた次第。いいわね?」
「……はい!」
ここまでする必要があったのだろうか。分からなかった。彼女一人にこうしてあげてる替わりに、他にもっと大事な何かをすべきではなかっただろうか。そうかもしれなかった。
でも、彼女、呂蒙は何か特別だった。もしかしたら、へれなはこのために呂蒙を贔屓していたり、私にくっつけようとしたのかもしれない。呂蒙の特別な何かをへれなは見抜いていたから、それで私の側に置きたかったのかもしれなかった。
でもへれながそうしたから呂蒙を特別扱いしようと思ったわけではなかった。私の目からしても、呂蒙には見所があった。それが本当に私にとって足しになるかどうか、今はまだ判らないけれど…少なくとも呂蒙はもうただの孤児ではなかった。彼女の目は私が今まで見た誰よりもはっきりと何かを目指していた。そんな人が、学のないただの孤児からどこまで変わるのか、この目で見たくなったのだ。
・・・
・・
・
<作者からの言葉>
あけましておめでとう…ってもう2月じゃねえか。
実は前週の土曜日は韓国のソルナル(陰暦の新年)でした。それもあって…そしてあれこれあって目標より大変遅れてしまいました。すみません。
五十二話が編集中間違えて五十一話と同じ内容になる事故がありました。教えてくださったアルヤさんありがとうございます。
ここ数年、軍に行く行くとずっと行ってなかったのですが、ついに確定の日時が出ました。今年の3月31日です(もっと早くなる可能性もあります)
そうです。最大でも後二ヶ月です。そこから約三ヶ月は訓練期間なのでパソコンの近くにも行けません。その後も約3年間の軍での将校生活です。どれだけ時間が取れるか今の自分じゃ分かりません。軍の状況は昔よりはかなり改善したらしく、もしかしたら勤務時間が終わったら割といけるかも?と思う一方、財政将校支援なので年末、月末だとやっぱり夜勤とかするだろうと思います。結構きついでしょうね、きっと。
そこはまだ心配しないことにします。その時になればまた報告します。
それより革命ですよ、革命。3年計画とか凄いことしますね、BASEON。最初で販売数悪くて次の計画も倒れてしまったら大変ですよ。だから一番人気のある魏を前に出したのかもしれませんけど…つか蜀が2019年ってどういうことですか。作者にどれだけ待てと?!しかも前の二つの成果が悪ければ予算削減されてきっと適当にやって終わらせるはめになる……
買わなきゃ(使命感)
真・恋姫†無双の例を考えると呉がストーリー的な面では一番の穴場だろうと思っています。孫堅さまの話が追加されるとちょっと良くなると思うのですけど、それだと他の二人が凄く不遇になりますし…
不遇で思い出したんですけどPVの蓮華のイラ、あれなんとかしてほしいの私だけですか?アレ鼻の位置とか絶対気になりますって。
<コメント返しのコーナー>
kazoさん>>そういえばかくげーがありましたね。STEAM出た時に買ったんですけど一度もやってはいません(汗)格ゲーってほとんどやりませんので…(せめて割引する時に買えって話ですよ。STEAMでフルプライスで買うとかばっかじゃねーの)
未奈兎さん>>まあ、ですね…チョイさん、拉致った状態で…てかあれってもう一年前に書いたんですね。本当に連載速度極悪だなこの外史。(そして軍のせいで更に減速する
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蓮華は子供たちに勉強を教えることにしました。
たかが習字や算数…だけど誰かにはそれ以上になるかもしれません。