No.89087

Eternal Blaze 1st Volume

2009年5月3日開催の「なのはトライアングラー」新刊小説「Eternal Blaze」からの抜粋です。

概要:

新暦0077年秋、ロストロギアを含めた高魔力

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2009-08-10 15:14:04 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2771   閲覧ユーザー数:2650

 Eternal Blaze

                           1st Volume

 

 

「フェイトさん、お願いですからどうか休んでください」

 懇願 するように言ったのは、ティアナ・ランスター執務官補だった。

 ティアナは、何度言っても目の前のモニターにかじりついて離れないフェイトをどうに

か休ませようと思ったのだ。

 かれこれフェイトはもうかなりの時間寝ていない。ティアナだって、それまでフェイト

と同じように起きていた。しかしちょっと前に、三時間ほどの仮眠をとってきたぶん少し

はフェイトよりもマシという状況だった。

 眠い。

 ネムイ。

 ねむい。

 だが、そうも甘いことを言ってられない。フェイトの焦る気持ちもティアナには十分に

分っていた。

 なぜなら、タイムリミットが迫ってきているのだ。

 砂時計の砂が完全に落ちきってしまうまでの猶予はあと少し、それを過ぎれば、最悪フェ

イトは、ギュッと握っていた温かいものが、その手からこぼれ落ちてしまうことになりか

ねない。

「フェイトさん!」

 眠いボーッとした頭で考えながらティアナは、もう一度フェイトの名前を呼んだ。

「あ、ティアナ」

 かなり集中していたのかしばらくしてから、その人は振り向いた。

 振り向いた人物は、黒を基調とした時空管理局制服に身を包み、髪の色はさらさらとし

た金色、いつも穏やかな表情と優しい瞳をうかべているのは、フェイト・テスタロッサ・

ハラオウン執務官だった。

 ティアナ直属の上司に当たる彼女は、いまは少しいつもと違った点がある。

 それは、連日による徹夜続きのせいか、よれよれになった制服。髪の毛も今はパサつい

ているし、目は多少血走っており、おまけに目の下にはクマまで出している。

 ただ、いつものように変らないのは、その優しい瞳だった。

「フェイトさん」

 ティアナはもう一度フェイトの名前を呼ぶと、いたたまれなくなってフェイトの手をお

もわず両手で握った。

「ごめんねティアナ。これだけ。これだけ見終わったら少し仮眠をとるから」

 見つめられたフェイトは、多少困った表情をうかべて呟くように言う。

 ティアナは手を握ったまま、フェイトがこれまでずっと見つめていたモニターに目を

やった。

 部屋は暗く、モニターの明かりだけが疲れた二人を照らし出す。

 そこには、煙が立ちこめるホテルの中、白いバリアジャケットを纏った女の子が、凜と

した表情で走り去っていった。

 その女の子の年の頃はフェイト同じ19歳。ティアナも、この映像はモニターに穴が開

くのではないかと思うぐらい何度となく目にした映像だ。

 しかし、何度みても、何度みても、何度みても、モニターに穴が開くぐらいに見ても、

そこにいるのはティアナもフェイトもよく知っている人物。

 高町なのは、その人だった。

 映像はなのはが走り去った後も煙が立ちこめるホテルの廊下を映し出していた。

 しかし、しばらく経つと、なのはの走り去った方角から大きなドンッという衝撃と共に、

映像は砂嵐となる。

 そこまで何度となく見てきたフェイトは、もう見ていられないという悲しげな表情をう

かべて深い溜息をついた。

 こんな光景はこれまでに、何度も繰り返されてきたのである。

「フェイトさん」

 溜息を聞いたティアナはギュッとフェイトの手を握る。

「ティアナ・・・ありがとう」

 礼を言ったフェイトの表情はさっきよりもさらにどんよりと曇っていた。連日の徹夜

と、大がつくほどの親友であるなのはがモニターの中に映っているという事実で、すっか

り心身ともに疲れ切っていたためだった。

「ええ。ボーッとした頭では、効率悪いですし・・・お気持ちはお察ししますが・・・」

 ティアナは自分の親友から少し前に言われた言葉を思い出す。

「ティアナだって、こんなの信じられないよね?」

「はい、それはもちろん。私にとっても大切ななのはさんですから」

「うん」

 ティアナにとっても、なのはは大切な人である。何も知らないド新人だった自分に、戦

技教導を一から叩き込んでくれた師であり、一年ほど前にあったJS事件でもティアナを

懸んめいに命に守りながら戦った仲間でもある。

 なのはもフェイトも、どちらもティアナにとっては大切であり大好きな先輩達なのだ。

「さぁフェイトさん。今はとにかく一刻を争います。フェイトさんが休んでいる間、不肖、

この私が頑張りますから。今はとにかく寝てください」

「ありがとうティアナ。いつもなら寝ていないと効率が悪いことぐらい、すぐに分ること

なのにね」

「仕方ないですよ」

 フェイトが、そう言って座っていた椅子から立ち上がろうとした時だった。

「わっ」

「フェイトさん」

 ティアナは慌てて椅子から立ち上がると、よろけてこちら側に倒れ込んで来たフェイト

を抱き留めた。

 そんなティアナは色々な意味で限界を感じる。

「大丈夫ですか?」

「うん。ごめんね」

 そのままティアナはフェイトの腰に手を回し腕をもって自分の首へとかけた。

「フェイトさん・・・こんなになるまで・・・」

 思いのほか体重が軽いことに多少驚いたティアナは、そのまま自分に身を預けている

フェイトを連れて仮眠室へと運ぶ。

 さっきまでティアナが寝ていた仮眠室への道すがら、ふとフェイトをみれば、とぼとぼ

と歩きながら寝ていたのだった。

 あんな事があった後だ。フェイトの精神的なショックはきっと自分以上であろう。古く

からの大親友が大変な状況なのだ。そんなときに寝てなんていられないなとティアナは

思ったが、これ以上寝ないで作業をするのは逆に効率が悪い。

 きっとフェイトさんもこれを頭では分っているのだと思うが、感情がそれを許さないの

だろうとティアナは思った。

「フェイトさん。つきましたよ」

 仮眠室へと着くと、歩きながら寝ていたフェイトをベッドに座らせる。

「うん・・・」

 うつらうつらとおぼつかない様子で頷いていた。

「ご自分で着替えられますか?」

「・・・うん」

 そんなフェイトの生返事を聞くと、この様子では自分で着替えられないなとティアナは

思ったので、やっぱり手伝うことにした。

「フェイトさん、ちょっと失礼します」

 そういってからフェイトのジャケットを脱がせるとティアナの側にあったハンガーに掛

ける。そして、今度はフェイトのワイシャツの第二ボタンまで外した。

 ティアナは、なんだか露わになったフェイトの白い肌と黒いブラが対照的だと思いつつ

も、腕をワイシャツの中からフェイトの後ろに回して、背中にあったブラのホックも外す。

 なんだかとても艶かしい。ティアナはくらくらしながら思った。

「これで楽になりましたよ」

 そのままティアナはフェイトの肩をもってそっとベッドに押し倒すと、ちょうど枕の上

にフェイトの頭が収まった。

 そんなフェイトは、よほど眠かったのだろう。頭が枕についてから、数秒もしないうち

に、くーくーと寝息を立てていた。

 フェイトさんはきっともう夢の中だ。今のフェイトは、いつも毅然としている様子から

は想像できないような安らかな寝顔だった。こんな時だから、現実のような悪夢ではなく

良い夢を見て欲しいなとティアナは思った。

「おやすみなさい。フェイトさん」

 フェイトを起こさないように小声で言うと、天使のように見えてくる。そんなフェイト

の寝顔にティアナは一瞬見とれてしまっていた。

 ふと気がつけば、自分にも睡魔が襲ってくる。フェイトさんにつられて寝てしまえば元

もこうもない。いけないと思いながらティアナはフェイトの上から毛布をかけると仮眠室

を後にした。

 仮眠室を出ると、ティアナはそのままモニタールームに続く廊下へと出た。

 広い廊下は、規則的に窓が並んでいる。そんな見慣れた風景であったが、いつもと少し

違うのは、窓に朝日が当たって人気のない廊下がキラキラと輝いていた。

 もうこんな時間なんだ。ティアナはなんとなしに思う。時計を見ているわけではないけ

れど、外の景色が時の経過を物語っている。

 とにかく自分たちには一刻の猶予もない。でも焦れば焦るほど、答えが遠のいて行くよ

うな気がしてくる。こうしている間にも、なのはが苦しんでいるのだ。

 ティアナは朝の新鮮な空気でも吸おうと思い窓をいっぱいに開けた。眼下には朝靄が立

ちこめたクラナガンの高層ビル群が陽の光をいっぱい受けて輝いている。

 さーっと心地よい風が頬に触れた。

 しばらく風を感じた後、ティアナは大きく深呼吸をする。

「よし!」

 ティアナは自分の頬を両手でパチンと叩くと、絶対になのはを助けだそうと決心するの

だった。

 あたりにはスズメがチュンチュンと到来した朝を喜ぶかのような鳴き声が元気にこだま

していた。ふと、床を見れば廊下の向こうまで、窓ガラスをはめ込んでいるサッシの影が

規則的に並んでいるのが見えた。

「・・・・・・あ!」

 その時、ティアナの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった。

「そうか、そうだったんだ」

 ティアナはおもわず叫んだ。これはもしかしたら問題解決の糸口かもしれない。深呼吸

して気分を変えてみるものである。ティアナは親友からいわれた言葉を実感していた。

 ティアナに新しい視点で物事をみる余裕が少しだけ生まれた瞬間だった。

 なんだかティアナは希望が湧いてきた。

 辺りには人影もなく聞こえてくるのはスズメの鳴き声だけだった。

 明けない夜はない。

 どんなことでもきっと朝がやって来る。

 どこからともなく聞こえる嬉しそうなスズメの鳴き声を聞きながら、ティアナはそうし

みじみと思うのだった。


 
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