拠点・華琳
一刀「よし、じゃあ彼らには秘密裏に街に入るように指示する事、そしてこの事は暫くは他の部隊の人間には伝えない事」
沙和「え、何でなの~?」
一刀「情報の漏洩をなるべく防ぐ為だ、噂が流れてしまうと、今街に潜伏している不逞の輩は警戒して出て来なくなるからな」
凪「はい、大元を絶たない限りまた新たな狼藉者が出て来てしまいますから」
真桜「せやな、まずは大掃除してすっきりさせたいな・・・・・そうすれば、ウチは安心して発明に没頭出来るっちゅうわけや♪」
沙和「沙和も阿蘇阿蘇いっぱい読む時間が出来るの~♪」
一刀「おいコラ、俺はお前達がサボる為の時間を作る為にやっているんじゃないぞ」
凪「弛んでいるぞ、沙和、真桜!私達が常に目を光らせないと、狼藉者はまた出てくるんだからな!」
沙和「えぇ~~、がっかりなのぉ~~・・・・・」
真桜「一刀はんも凪も殺生やわぁ~!」
現在、隊の寄宿舎の庭にて一刀と三羽鳥が話し合っていた
目の前には、一般人と変わらない服装をした楽進隊、李典隊、于禁隊の一部の人間が並んでいる
ここに来訪した時に話した覆面警邏を早速実施する為である
この中で誰よりも早く行動を起こしたのは凪だった
幽州でも実施していると聞いていたので、何よりも一刀の言であるので即実施に踏み切ったのである
そんな打ち合わせの最中
華琳「あら、あなた達、何をしているの?」
綾香「一刀君も、一体どうしたのですか?」
曹一族の重鎮二人がやって来た
凪「これは華琳様、綾香様!」
不意の曹一族の来訪に、覆面警邏部隊は一斉に姿勢を正し直立不動となる
綾香「?・・・・・彼らは一体」
華琳「どうやらあなた達の部隊の者みたいだけど、その恰好は何なのかしら?」
目の前の一般人と変わらない服装をしている兵士達を見て、華琳は疑問に思う
いつもの髑髏を模った甲冑はどうした?という感じの視線を向ける
凪「はっ!実はですね・・・・・」
そして、凪は今回の事について説明した
華琳「ふむ、なるほど、面白いわね」
綾香「そのような手がありましたか」
華琳「言いたい事は分かったわ・・・・・しかし、私にさえ報告しないと言うのは感心しないわね」
凪「申し訳ありません・・・・・しかし、これは幽州でも実施していると聞いていましたので」
華琳「幽州ですって?ということはこの案は・・・・・」
沙和「そうなの~、一刀さんの案なの~♪」
真桜「せや、一刀はんの言葉やったら信頼出来る思うてな♪」
綾香「なるほど、これも幽州の治安の良さの秘密の一つなのですね」
この説明に綾香は納得したようであるが、華琳は一刀に疑惑の目を向ける
華琳「・・・・・一刀」
一刀「分かっているよ、これは俺が好きでやった事だよ」
華琳「そういう事を言っているのではないの、確かに貴方の言なら信頼もおけるかもしれないわ・・・・・しかし、勝手な事をされても困るのよ!」
一刀「前に言っただろ、俺はこの大陸全体の事を常に考えて行動しているって」
華琳「・・・・・本当に残念としか言いようがないわね・・・・・凪、沙和、真桜」
凪「あ、はっ!」
沙和「はいなの~!」
真桜「はいな!」
華琳「この覆面警邏は、あなた達が責任を持って押し進めること、報告書は後で桂花に回しなさい」
凪「は、はい・・・・・あの、華琳様」
華琳「何かしら?」
凪「勝手な事をしてしまい、申し訳ありません・・・・・」
華琳「それについては気にしなくていいわ、説明を聞いて私も納得したし、あなた達の気持ちも理解したわ・・・・・綾香、暫く凪達を見てあげなさい」
綾香「分かりました」
華琳「それと一刀、話があるわ、付いてきなさい」
一刀「分かった」
そして、華琳は一刀を引き連れ寄宿舎を後にした
凪「・・・・・綾香様、華琳様はどうされたのですか?」
沙和「そうなの~、なんだか機嫌が悪いみたいなの~・・・・・」
真桜「なんやあったんかいな?」
綾香「・・・・・実はですね」
そして、綾香は玉座の間で一刀と華琳のやり取りを説明した
凪「・・・・・・・・・・」
沙和「うぅ~~ん、難しいの~・・・・・」
真桜「なるほどな、ウチらの大将と一刀はんは水と油っちゅうわけか・・・・・」
凪「・・・・・綾香様は、どう思っているのですか?」
綾香「そうですね、私も難しい事だと思います・・・・・華琳と一刀君、どちらの言にも一理あり、また大きい問題を抱えているのも事実ですから」
凪「では、一刀様と同盟を結ぶのは、無理と言う事ですか?」
綾香「部分的に結ぶ事は出来るかもしれませんが、一刀君の提示する同盟内容をそのまま採用するのは不可能でしょうね」
沙和「そんなに酷い内容なの~?」
綾香「いいえ、私も同盟の資料を見させていただきましたが、そのどれもが素晴らしいもので私達の知っている政策のはるか先を行っているのが理解できます」
真桜「そないなら、ぱぱっと結んでまえばええんやないの?」
綾香「そのような簡単な話でもありません、確かに一刀君の提示する案は見事なものですが、今のこの大陸の情勢に合わないものも多くあるのも否めないのです」
凪「という事は、やはり一刀様と同盟を結ぶ事は出来ないのでしょうか・・・・・」
綾香「どうでしょうね、全ては華琳と一刀君次第、と言ったところでしょうか・・・・・」
そして、華琳は一刀を城の中庭まで連れて来た
華琳「・・・・・礼は言わないわよ、一刀」
一刀「必要ないよ、俺は好きにやっているだけだ」
華琳「確かに私は好きにするように言ったけど、無責任な事をされても困るわ」
一刀「大丈夫、責任は取るさ・・・・・今の平和を磐石にする、それが俺の責任の取り方だ」
華琳「まったく・・・・・あなたの言っている事は、ただ正しいだけよ」
一刀「は?正しいだけだって?」
華琳「そうよ、そのような正しいだけの理屈は聞くに値しないわ・・・・・世の中には、そんな正論が全く通じない諸悪の根源というものが確実に存在するのよ」
一刀「そんな事は分かっているさ」
華琳「いいえ、あなたは分かっていない、あなたの思想など宮廷の宦官から見ればゴミ同然なのよ」
一刀「俺もかつて洛陽で、十常侍の張譲に会った事がある・・・・・あいつを見て俺は、人間って言うのはここまで腐れるものかと、自分の目を疑ったくらいだ」
華琳「ならば分かっているでしょ、自分の掲げる思想が只の理想にすぎないと」
一刀「確かに華琳の言う諸悪の根源というものがいるとしたらああいう人間の事を言うんだろう・・・・・だけどな、俺からすれば華琳がこれから歩もうとしている覇道も、あいつらのやっている事と同次元にしか見えない」
華琳「口のきき方に気を付けなさい、我が覇道をあんな腐ったごみ溜めの如き奴らが行う悪政と同じと言うなら、侮辱と受け取るわよ」
一刀「いいや、その覇道の果てに待っている結末を知っている俺からすれば、華琳も諸悪の根源でしかない」
華琳「結末ですって?貴方は何を知っていると言うの?」
一刀「話せば長くなるから結論だけ言うぞ・・・・・碌でもない地獄だよ・・・・・」
華琳「・・・・・・・・・・」
その哀しそうな、それでいて胸に突き刺さる声音に華琳も息を飲む
一刀「一度戦端を開いてしまえば、後に待っているのは、ただ只管に果ての見えない報復合戦のみだ」
華琳「確かにそうかもしれないわね・・・・・しかし、あなたのしようとしている事は、只の先延ばしでしかないわ、後の世代にその碌でもない地獄を押し付ける事でしかないのよ」
一刀「だったら自分の周りにはその地獄を押し付けてもいいって言うのか!?それに華琳はとんでもない思い違いをしている!華琳達が開こうとしている戦端が華琳の代だけで終わる様な生易しいものだとでも思ったのか!?」
華琳「終わらせて見せるわ、もし一刀の言う通り私達の開いた戦端が次の世代に回る様なことがあれば、私は潔く身を引く、長過ぎる戦乱は国を衰退させるだけでしかないもの」
一刀「はあ!!?世の中を掻き回すだけ掻き回して、それで気が済んだら放り出すってのか!!?そんなものが責任を取る事だとでも思ったのか!!?」
華琳「あなたの責任の取り方が、今の軟弱な平和を強固なものとするなら、私の責任の取り方は私自身の命を差し出す事、我が覇道の果てに糧となった多くの魂魄に対する贐よ」
一刀「何を言っているんだ、そんなものが贐になるとでも思っているのか、華琳一人の命で償えるほど、この先の乱世は甘いものじゃないんだ・・・・・」
三国志の結末を知っている一刀からすれば、華琳の言葉は正気の沙汰ではなかった
一刀「諸悪の根源?ただ正しいだけ?・・・・・そこまで分かっているなら、何故間違いに気付かない?何故覇道なんて野蛮な道を歩もうとするんだ?華琳の言う諸悪の根源に自分自身も含まれている事が分からないのか?」
華琳「表裏一体、平和があれば乱世がある・・・・・確かに平和は尊いものだけど、あなたは平和に拘り過ぎよ、貴方がそのような悠長な事をしている間でも一人、また一人と漢王朝の悪政による犠牲者が出ている事が分からない訳ではないでしょう?」
一刀「それは・・・・・」
この華琳の言葉に一刀は考え込む
幼い頃に大好きだったあのヒーロー達は常に『正義の味方』で、非道な『悪』を倒し続けていた
しかし、『正義は勝つ』なんていう言葉が単なる理想であり、現実には通用しないことをもう一刀は知っている
善良な心を持っているのに理不尽な苦しみに喘いでいる人もいれば、そんな善良な人達を騙して金を得る悪党もいるのだから
華琳「もし悪を葬れるものがあるとすれば、それは即ちより強大な悪のみよ、私は食われるだけの善人になるくらいだったら、より強大な悪を目指すわ・・・・・こんな言葉を知っているかしら、一刀」
一刀「え?」
華琳「悪盛んなる時は天に勝ち、天定まって人に勝つ」
一刀「!・・・・・史記か」
華琳「へぇ、これも知っているの、天の民は皆博識なのかしら?」
これは、世が乱れて一時的に悪人の天下になることがあっても、やがて天運が正常に戻れば悪は滅びるといった意味の言葉だ
しかし、その天運とやらが正常になった事が有史から現代に至るまであっただろうか
人の歴史が始まってこの方、強盗やら殺人やら戦争やらが起こらなかった瞬間が、只の一瞬でもあったのか?
華琳「あなたにとって私がこれから行く覇道が悪とするなら、それも良しとするわ・・・・・この大陸の未来の為に、私は喜んで時代の悪名を被りましょう」
一刀「・・・・・華琳は、後の世で自分が諸悪の根源と呼ばれても構わないというのか?」
華琳「ええ、構わないわ、貴方は二千年先の世から来たと言っているけど、そのような先の世で私の事がどう批評されようとも関係ないわ・・・・・それにこのような時代では正義も悪もない、ならばどう生きようと私の勝手・・・・・それにね一刀、私は美しい女をこよなく愛する者なのよ」
一刀「は?・・・・・そう言えば、華琳の噂は・・・・・」
この世界の曹操孟徳は多くの美女を侍らし、相当百合百合しい事をしていると言う噂をかつて聞いた事があった
華琳「この世の全美少女は全て、この私のもの、これは天命により定められているものなのよ」
一刀「(華琳・・・・・それは完全に盗人猛々しい犯罪者の理屈だぞ)」
犯罪心理学も学んでいる一刀からすれば、今の華琳の言動は常軌を逸するものである
例えば、ここに一人の通り魔がいたとする、その者の前に一人の煌びやかな服装をした、いかにも金持ちそうな女性が現れる
周りには他の人間が行き交い、道を行く女性を襲い金品を強奪する事は出来ない
暫く通り魔は女性を尾行し、女性は人気の無い路地に足を踏み入れる
その時通り魔はこう錯覚する、「(これは神が与えた千載一遇のチャンス!天が自分に行けと命じている!)」、と
今の華琳の理屈は、この通り魔の心理と直結しているとしか思えない
いや、そんな物よりも遥かにたちが悪い、一刀からすれば華琳は精神病院直行の中二病末期患者だ
このままではこの大陸全ての人間が華琳一人の正義の糧になりかねない
そのようなもの、某ノートの神だの新世界だのと謳ったあの頭のいかれた大量殺戮者と何か違いがあるのか?
一刀「今はっきり解った・・・・・俺は何としてでも華琳を止めなくてはならないと言う事に」
華琳「あなた、私の話を聞いていたの・・・・・」
一刀「ああ聞いていたとも、華琳のその訳の分からない話を聞いて、俺は何としてでも漢王朝を改善させなくてはならなくなった!!」
華琳「・・・・・・・・・・」
一刀「俺は、華琳の愚かしい暴挙を何としてでも止める!!俺が華琳に見せてやる、俺の手で綺麗に清掃された漢王朝をな!!」
その内に燃える炎は、油でも注がれたかのように激しく燃え上がる
華琳の言葉は、一刀の平和を貴ぶ心に拍車をかけるだけでしかなかった
華琳「一刀・・・・・正し過ぎる事は、もはや間違いも同じなのよ・・・・・」
中庭を去っていく一刀の背中に、華琳は余りに哀れな視線を投げつけたのだった
皆さん、明けましておめでとうございます
新年、苦し紛れの初投稿をさせていただきました
短い拠点ですが、新たな年となりましたし新年のご挨拶もしなければと思い、半ば無理矢理の投稿です
皆さんは、良い新年を迎えることが出来ましたでしょうか?自分はこれといって目新しい事はありませんでした
強いて言えば大掃除が大変だった事くらいですか
さて、今年の目標は阿修羅伝、鎮魂の修羅を含め少なくとも20話は投稿したいですね
昨年はスローペースになり過ぎましたので体内エンジンにスーパーチャージャーを取り付けなくては
では皆さん、今年も幼稚な戯曲製作者Seigouをよろしくお願いします
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沿州拠点・パート1