No.888973

魔法の世界 第7話

MANAMさん

魔法の世界に飛ばされた女子高生 美南那美が秘密を解き明かす。

2017-01-15 10:00:39 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:258   閲覧ユーザー数:258

 

 私達は三人でしばらく話をし、そしてレストランを出ることにした。

 彩花が遠慮なしにリゼインさん払いで高級紅茶の注文を繰り返したため、これ以上ここに居るわけにはいかないという、私と友美ちゃんの意見が一致したからだ。

 彩花はもの凄く残念そうなオーラを出していたが、二人でこれからショッピングモールへ行くことを聞くと、キラキラの表情になり、

「私も行く」

 やっぱりか!

 

「えー…?どうする?友美ちゃん」

「私は別にいいけど。那美ちゃんは嫌なの?四季さんとはたった今友達になったんじゃなかった?」

「まあそうなんだけど…なんか向こうでも『支払いはリゼインで』とか言いそうだし…」

「そんなことは言わない」彩花は憮然とした表情をし、「支払いはナミに任せる」

「なるほど!それなら安心だね!…ってなんでやねん!」

 

 見事な(?)ノリツッコミを披露し、また彩花の頭をグリグリしてやった。そんな様子を見て友美ちゃんもクスクスと笑っている。笑ってる場合じゃないよ友美ちゃん。この子ホントに『支払いはナミで』とか言い出しかねないんだから。私は人に物を買ってあげられるほど貯金箱に余裕はありません。

 

 私達がワイワイと話しながら、レストランの出入り口の所まで来ると、いきなり八階フロアが薄暗くなった。何事かと見上げてみると、照明が消えていて、それはフロア全体に及んでいた。どうやら全ての動力が落ちてしまっているようだった。

「うわ…一体何事…?エレベーターも止まっちゃってるよ?」

「さっきリゼインさんが慌てて下りて行ったのと何か関係があるのかしら…?」

「…リゼインがいなくなった後すぐにレストランを出るべきだった。もう手遅れ」

 彩花は私の方をジトッとした目で見つめ、不満を漏らす。だが、ここで問題なのは、リゼインさんがいなくなった後、紅茶を何杯もお替りをして、一番時間を使っていたのは誰かと言うことだ。言うまでも無くそれは彩花である。

「誰のせいで時間を喰ったと思ってるのかなー?」

 今度は私がジトッとした目で彩花を睨みつけ、そして本日三度目のグリグリを…しようとした時、フロアの奥のほうから足音が聞こえてきた。

 

 足音は一つや二つではなく、もっと大勢が歩いてくる音だ。

 程なくして足音の主達の姿が見えた。数は男女織り交ぜて二十人程。歳は私達と同じくらい。全員が普段着のような格好で、リーダーらしき少女を先頭に、こちらへ近づいてくる。

 その少女は、肩口まで伸びたボサボサの茶髪を左手で鬱陶しそうに掻き上げげながら、右の掌を上に向け火の玉を作り出した。

「そこのお前ら。抵抗するなよ。変な真似したら丸焼きにするぞ」

 少女はそう言うと鋭い眼光をこちらへ飛ばし、それを受けて私と友美ちゃんはたじろいだ。

 

 もとより私達は魔法を使えず、多分この少女一人相手でも勝てはしない。しかもその少女の後ろにはまだ十数人の魔法使いが並んでるんだから、味方に魔法世界の住人が一人しかいないこの状況では、勝機など微塵もあるはずもない。

 だから私達は少女の言うとおり大人しくしていたのだが、あろうことかその味方唯一の魔法世界の住人彩花は多勢に無勢はなんのその、やる気満々のオーラを体中から噴出させているのだから大変だ。そんなもの出すな!

 

「なに戦う気でいるの!あんな人数に彩花一人で勝てるわけないじゃない!落ち着け!とにかく落ち着けー!」必死で止める。

「あいつらは恐らく私達に害をなす者達。ここは実力で排除するべきでは?」

「相手が一人だけならまだしも、あんな大人数なのよ!怪我だけじゃ済まないよ!」

 彩花は少し考えて、

「…ナミ…もしかして私のことを心配してくれてる?」

「もしかしなくても心配してるっての!」

「わかった…言う通りにする」

 彩花は頬を赤く染め、コクリと頷き私の言葉にしたがった。だから何でいちいち赤くなる?それは仕様なのか?それともあんたは恋する乙女か。

 

「そこの三人。中に入れ」

 少女は顎でレストランを指し示し、しかたがない、私達は素直にそれに従った。

 レストランに舞い戻った私達は、彩花、私、友美ちゃんと、さっきと同じ並びで席に座らされ、その周りを数人に囲まれた。残りのメンバーは出入り口の見張りや、奥にいるレストランの従業員の拘束に向かって行く。リーダーの少女はというと、さっきリゼインさんと色を塗った『リゼ・那美一号』の模型を手に、私達の向かいの席にどっかりと腰を下ろしている。

 

「そんなにビクビクすんなよ。大人しくしてりゃ何もしねえよ。…ん?」

 少女は猫が獲物を狙うような目つきで友美ちゃんを見つめた。友美ちゃんは「ひっ!」と小さく悲鳴をあげ、私の腕に縋りつく。友美ちゃんの胸が私の腕に触れた。半分ください。

「あんた、どこの高校だ?」

 意外な質問だった。何か因縁をつけるのかと思っていたけど。胸がデカすぎるとか。

「へっ…あ…あの…」

 友美ちゃんは高校の名前を素直に答えた。

「ふん…なるほどね…」友美ちゃんの次は私と彩花を見て、「あんたらは、どこ中だい?」

「なっ…!失礼な!私が中学生に見える?」

「そう、とっても失礼!」

 

 私と彩花は少女の言葉に憤慨した。そりゃ確かに数ヶ月前までは中学生だったけど今は歴とした高校生であり、身長だってちょっとは伸びた。私は敢然と不服を申し立てる。

「私はこの友美ちゃんと同じ高校一年!彩花はともかく、私が中学生に見えるなんて、あなたどこで判断してるの!」

 

「胸」

 

 少女は事も無げに言い放った。私達三人は反射的に自分の胸を押さえる。

「む…胸…ですか?」と、友美ちゃんは恥ずかしそうに言う。

「わっ…私だってトマトくらいはあるもん!」と、私は抗議する。

「私もまな板ではない。メロンパンくらいの膨らみはある」まあ、あるかな?

「ああ、わかったわかった。悪かったよ」

 少女は微塵も悪かったとは思っていない面倒くさそうな言い方で謝った。失礼な!私はこれから大きくなるんだもん。毎日牛乳を飲んで努力してるんだから!(効果不明)そして友美ちゃんや梢ちゃんの胸を吸収して大きくなるんだから!(実現不可)

 

「ところでナミ、『彩花はともかく』というのは失礼。私のどこが中学生というのか簡潔に答えてもらいたい」

 

「背」

 

 これ以上なく簡潔に答えてあげた。そしてそれが的確な答えでしょ。彩花は胸よりも背の方を気にしているらしく、どんよりオーラを出して落ち込み黙り込んでしまった。

「ま…まあ、背はこれから伸びますよ!だからそんなに気を落とさないで…」

 友美ちゃんがフォローするも、その言葉は彩花の耳には届いていないようだ。

 

 と、突然ドンという音がテーブルから響いた。びっくりしてそちらに振り向くと、テーブルの上に例の『リゼ・那美一号』の模型が置かれていた。

「んな話はどうでもいいんだよ!」

 あなたが最初に胸だの何だの言い出してきたんでしょうが。

「それよりもお前ら、この『空間移動装置』がどこにあるか知ってるか?」

 私と友美ちゃんは顔を見合わせた。この少女の目的は『リゼ・那美一号』なのか?ならばリゼインさんが言っていたトラブルというのは自明だ。

 

 『この少女達の襲撃』

 

 リーダーであろうこの少女がこんな所でのんびりとしている所を見ると、下はもう制圧されている可能性が高い。そして、リゼインさんや研究者を見張っている、別の仲間が他にもいると言うことでもある。

「どうなんだ?知ってるのか?」

 私達は首を横に振る。もちろん知っていたとしても言わないけど。でもここで疑問が浮かんだ。この会社全てを制圧しているはずなのに、装置を見つけられないのはどういうことなんだろう。もしかして装置はこことは別の場所にあるのかな…?

 

「くそっ…こんな派手な色してんのに、見つからないってのはどういうことだ?」

 少女のその言葉を聞いて、私達は思わず吹き出しそうになった。その模型の色はついさっき私とリゼインさんが塗ったものだ。だけど少女達はもちろんそのことを知らない。

 少女の携帯に、装置を探索しているメンバーからの連絡が入る。漏れ聞こえる声から察するに、やっぱりこの独特な色を頼りに探しているらしい。色を塗ったことでこんな効果があるとは。

 

 私と友美ちゃんは俯き、お互いの太腿をつねりあって、必死に笑いを堪えている。

「ん?何だお前ら?何を笑ってんだ?」

 気付かれた?だが私は咄嗟に、

「違うの…こんな時だって言うのに友美ちゃんがくすぐってくるんだもん」

 と、口から出任せをいうと、友美ちゃんも、

「そう言う那美ちゃんだって私をくすぐってきたじゃない!」

 と、私の言葉に乗っかってきた。

「アホか、お前ら」

 少女は心底呆れたように言い、私達から視線を外して模型を見ながらテーブルを指でコンコン鳴らし始めた。連携プレーでうまく誤魔化せたようだ。ふふん、ちょろいもんだね。

 

「もしかしたらこの色…カムフラージュかも知れねえな…」

 

 ポツリと言った少女のその言葉に、ピクッと反応してしまった私と友美ちゃん。

 それを見逃さなかった少女はさすがと言うべきか。

「何だ?カムフラージュって言葉に反応したよな?やっぱりお前ら何か知ってんだな?」

 少女は両手でバンっとテーブルを叩き、身を乗り出して迫る。

「正直に言いな!何を知ってる?言わないと…」

 少女の周りに火の玉が現れ、そして物凄い形相で睨みつけてくる。私達はライオンに狙われたウサギのように怯えてしまい、知っていることを全て話してしまった。

 

「なるほど。本物の装置はこんな色は付いてないってことだね。ふん、そう言う事か。危うく騙される所だったよ」

 何かに納得したように言い、私の額を軽く叩いて少女は、メンバーに指示を飛ばしながら出入り口の方へと歩いていく。

「ここの見張りはお前達。あとの全員は今から地下へ向かうよ!」

 

 そう言うと、見張りに男五人を残して全員レストランを出て行った。ふう、やっと圧迫感から開放されたよ。だけど依然、ここには五人の敵がいる。気は抜けない…だけどこの見張りの人数なら何とか誤魔化して、トイレで警察に連絡できるかもしれない。

 見たところ間抜けそうな五人が残ってくれて好都合だ。早速実行に移す。

「ね…ねえ…ちょっとトイレに行きたいんだけど…」

「駄目だ」

 

 あっさりと望みは絶たれてしまった。本気でトイレに行きたくなった時はどうしよう。

 

 

 
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