No.887830

魔法の世界 第1話

MANAMさん

魔法の世界に飛ばされた女子高生 美南那美が秘密を解き明かす。

2017-01-08 13:53:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:300   閲覧ユーザー数:300

はじまり

 

 

 五月三十一日。

 

 入学式が終わって二ヶ月程。私は新しい学校生活にも慣れて、新しい友人も出来た。

 ちなみに私の名前は美南那美。射手座。十五歳の高校一年生。名前が上から読んでも下から読んでも『ミナミナミ』になると言うのは、私の中でトップシークレット。クラスの誰にも教えてないし、クラスの皆も気付いていない。…たぶん。

 

 私の通う学校は、家から徒歩十分の所にあるごく普通の公立高校。その一年三組が私の教室で、そして教室の窓際後ろから二番目の席が私の席だ。

 それにしても…

「最近暑くなってきたなあ…」

 夏を先取りしたような日差しがジリジリと降り注ぎ私をジリジリと焼く。私は冬生まれのせいか、暑いのが大の苦手。ハンカチで汗を拭い、ふと自分の後ろの席に振り向いた。

 

 誰もいない席。入学以来ずっと空席のまま。まるで誰かを待つように机が置かれている。

 

 私は少し不思議に思っていた。誰も使わないのなら机を置く必要も無い。もしかしたら本来この席に座る人が、何かの事情で来られなくなっているのかもと思い担任に聞いてみが、どうやらそうではないらしい。転入してくる人のため、というのもこの時期には考え難い。

 

 だとしたらこの席は一体…?

 

 そんなことを考えポケ〜っとその席を見ていると、

「どうしたの那美?顔がアホになってるよ?」

 横から誰かが声をかけてきた。

 長い黒髪をポニーテールにした女の子。同級生の工藤梢 くどうこずえちゃんだ。

 彼女とは高校に入ってから知り合った新しい友人で、入学式の時、私の方からなんとなく梢ちゃんに話しかけてみたところ意気投合し、入学式が終わった後そのまま二人で街へ遊びに行くほど仲良くなった。

 

「ね?聞いてる?顔がアホになってるよ?」

「誰がアホかな?」

 追い討ちをかけるように言ってきた梢ちゃんに言い返し、そして私の疑問をぶつけてみる。

「ねえ梢ちゃん…この席って何でここにあると思う?」

 梢ちゃんはその言葉に「またか」という風に溜息をつき、一言。

「知らん!」

「バッサリだー!」

 そりゃあ私だって、入学以来五十一回(ちゃんと数えた)も聞くのは、しつこいと思うよ?でも気になるものは気になるんだから仕方ないじゃない。大体誰も座らないならこんな席さっさと撤去しちゃえばいいんだよ。それとも私が物置代わりに使おうか…

「まあ、確かに気になるっちゃ、気になるけど…」

そう言うと梢ちゃんは何かを思いつた顔をした。そして何だか不気味な笑みを浮かべて、

「入学以来誰も座らない禁断の席…その席に座ったものは例外なく呪われる…そしてその呪いは時間とともに移動して…ついには那美の席にまで!」

 

 言い終わるやいなや、教室中に悲鳴が響き渡る。誰の?決まってる。私の悲鳴だ。

 

 悲鳴のせいでクラス中の注目を浴び、顔が熱い!きっとトマトのように真っ赤になっているに違いない。恥ずかしから机に突っ伏して顔を隠す。

 チラッと横目で梢ちゃんを見ると、お腹を抱えて大笑いしていた。

「ひどいよ!梢ちゃん」

「ごめんごめん。まさかあんなに驚くとは思ってなかったからさ。にしても、那美ってすっごい怖がりだったんだねぇ…こっちがびっくりしちゃったよ」

 梢ちゃんは私の肩をバンバン叩きながら謝ってきた。笑いながら謝るってどういうこと?全然反省して無いでしょ!

 …まあ、あんなことで驚く私も私なんだけど…

 

 そんなこんなで、今日も一日が過ぎていく。

 

 そして放課後…

 

 帰宅部の梢ちゃんと別れて部室へと向かう。私の所属クラブ、『科学部』の部室へ。

 科学に興味がある?とんでもない。私は科学の『か』の字も知らないド素人。じゃあなんで『科学部』に入ったかと言うと、答えは簡単。

 

 『科学部以外にまともそうなものが無いから』

 

 この一言に尽きるね。

 

 この学校、本当に何の変哲も無い学校なんだけど、部活動に変哲がありすぎる。掲示板に貼られてる部員募集のビラを見た時、三十秒くらいその場で固まってしまった程におかしい。

 まず、運動系の部活で例を挙げてみると、『囲碁卓球部』、『消しゴム野球部』に『萌えサッカー部』…

 文科系の部活だと、『文房具部』や『アンテナ部』、果ては『魔術部』なるものまで。

 

 何でこんなに変なクラブばかりなのか気になった私は、担任に聞いてみた。それによると、生徒の個性を伸ばそうと思った前・校長(三年前退職)の発案で、「どんなクラブを作ってもいいよ」ってことになったらしい。そしたらその当時の生徒達が悪乗りして、こんな訳のわからないクラブばっかり出来たそうだ。

 何やってるんですか…先輩方…

 それで、そんな中できた唯一のまともなクラブ『科学部』は、教師達の間で『生徒達唯一の良心』と呼ばれている…らしい。

 

「それにしても…変なクラブばっかり…」

 科学部までの途中にある、様々なクラブの部室。でも、その殆どは看板こそあるものの部員が一人も居なくて休部状態。やっぱりノリで作った意味のわからないクラブには誰も入らないみたいだね。

 しかし、何で休部扱いなのかな?廃部にすればいいのに…部屋の無駄遣いだよこれじゃ…

 

「はあ…私も帰宅部のほうがよかったかな…」

 

 今更ながら、ちょっぴり後悔している。

 だけど、中学の時部活に入ろうと思ったけど、結局やめて帰宅部に…友達も殆ど居なかったから放課後は家に帰るだけの日々を過ごし、我ながら無駄に時間を使ったなぁ…って思いもあったんだよね。だからこそ、高校では何か部活を!と意気込んでたんだけど、蓋を開けてみると変なクラブばっかり。一番まともな科学部に入ったものの、私にはちんぷんかんぷん。

「結局時間を無駄にしているんじゃないだろうか…私…」

 そう思いつつも、今日も私は科学部へと足を運ぶ。

 

「こんにちは」

 と、軽く挨拶をして私は活動の邪魔にならないよう部屋の奥の方(私の指定席)へと向かう。

 部員は私を含めて六名。一年が二人で、残りの四人が三年だ。『生徒達唯一の良心』と言えども、人気はあまり無いみたい。

 入部希望者の殆どを『萌えサッカー部』に奪われたと、入部当時先輩が愚痴交じりに教えてくれた。そう言えば私のクラスにも居たっけ…『萌えサッカー部』に入った男子。次の日には退部してたけど。

「科学よりも『萌えサッカー部』の内容に興味があったり…」

 なんてことを小声で言ってると、後ろから誰かが肩を叩いてきた。やばい…聞かれた?

「うひゃあ!ごめんなさいー!今のは冗談ですー!」速攻で謝る。

「?なんのこと?」

 振り向くと、不思議そうに首を傾げている天然茶髪の女の子が。

「なんだ…友美ちゃんか…」

 

 私の中学の時の唯一といっていい友達、相沢友美あいざわともみちゃん。ふわっとした感じの髪腰まで伸びた少し大人っぽい女の子で、私もいつか友美ちゃんのようになりたいと思う。…特に胸が。

 

 さて、私がなぜ退部もせずにここに来るかというと、友美ちゃんがここに居るからに他ならない。中学時代、唯一の友達であるにもかかわらず、生徒会で忙しい友美ちゃんとは遊ぶことが出来なかった。なので、今ここで友美ちゃん分を回収しているってわけ。

「それで友美ちゃん、何か用?私は今科学雑誌を読むのに忙しいのですよ」

 近くにあったよくわからない雑誌を手に取り、適当にページをめくって見ていると、

「那美ちゃん、それ上下逆さまよ?」

 言われて、慌てて持ち直す。

「ねえ那美ちゃん。折角クラブに入ったんだから、みんなと一緒にやりましょうよ」

「えー…」

 私はすぐ顔に出てしまうタイプなので、ついつい嫌な顔をしてしまう。ババ抜きをしても殆ど勝ったことが無いのは、このせいかな?

 

 そういえば、科学部の活動内容って何だっけ?いつも隅っこで雑誌をめくってるだで参加してないから、全然わからない。

「もう!科学部の最終目標は『自立型ロボットの作成』だって先輩が言ってたでしょ?」

「ああ、そうだっけ?今はもう、遠い思い出だね…」

「たった二ヶ月前のことでしょ?もうちょっと真面目にやりましょうよ!」

 今日の友美ちゃんは本気で怒ってるみたいだ。

「で…でも、こういう雑誌に目を通すのも立派な活動だと思うんですよ!」

 なんて言い訳じみたことを言ってみると、友美ちゃんは「もう!」と、今度は呆れた表情を浮かべむこうを向いてしまった。

 友美ちゃんの機嫌を直すには…やっぱり私も部活に参加しないといけないんだろうな。

 

「でも…」

 

 私は先輩達の方を見てみると、今は半田ごてとか言うものを使って、基盤に何かを取り付けているところだった。見るからに難しそうだ。(私から見れば)

 だけど、友美ちゃんだってあれをやってるんだよね…それにきっとロボットのことだってよくわかってないと思う。でも、わからないなりに頑張ってる…それに比べて私は難しそうだからって敬遠して…これじゃダメだよね…

 

「確かに…このまま何もしないで終わるのは勿体無いよね。折角部活に入ったんだし」私は科学雑誌を閉じ、「よし!じゃあ『初めての部活動』を始めてみますか!」

「うん!じゃあ行きましょう!」

 友美ちゃんは満面の笑みを浮かべ、私の手を取ってみんなの方へ引っ張って行く。

 先輩から「座敷童がついに動いた!」とか何とか言われながら、友美ちゃんに教えてもらって『初めての部活動』を開始した。

 で、結論―――――

 

―――――――― 案外簡単だった。――――――――

 

 次々に半田付けしていく私を見て、他の部員達が「おお!」と声を上げる。

 なんだ、私ってばやれば出来るじゃん、もしかして天才?なんて言葉が口から出そうとして友美ちゃんの方を見ると、何だか少し悔しそうにこっちを見ていた。

「最初から参加してる私より上手なんて…ずるい…」

 

 ずるい…と言われても…なぜだか出来るんだから仕方ない。そうだ、もしかしたらこれは、お父さんの血が流れてるからかもしれない。確かお父さんは何かの技術者だったはずだから。何の技術者だったかな…?守秘義務が何とか…ああ、そっか、教えてもらってないや私。

 

 まあ、それはともかくとして、

 

「今までサボってた分、これから頑張るから、今までのことは帳消しに…ね?」

「もう…仕方ないわね…今回だけよ?」

 そう言うと友美ちゃんは私の隣に座って、自分の受け持つ作業を始めた。

 こうして私の『初めての部活動』は、大変充実した内容で終了した。…わけなんだけど、私はふと思う。

 

「…このクラブ…『科学部』から『ロボット工学部』に変えた方がいいんじゃ…?」

 

 

 部活が終わった後、友美ちゃんとしばらくブラついて、自宅へと帰ってきた。

 とりあえず、今日あったことを日記に付け、テレビから流れる偉い人の会見や、変な名前の装置が開発されたとか言うニュースを聞き流しながら夕食をとり、その後入浴を済ませ二階の自分の部屋に戻った。

 

「あ、そうだ。明日から夏服」

 

 真新しい夏用の制服をタンスから取り出して、明日の準備をしてベッドに横になった。

「やっと夏服〜!これで暑さも少しはマシになるかも!それにやっぱり新しい服はいいよねー明日が待ち遠しい!」

 私はもう夏服が嬉しかった。どのくらい嬉しいのかと言うと、ベッドの上をゴロゴロと転がり回っちゃうくらいの嬉しさ。なぜか?それは、夏服の方がかわいいから!断然!

 

 そんなこんなしている内に私は、心地よい夢の世界へと旅立っていた。

 

 

 この日はいつもよりぐっすり眠れたような気がする。

 

そのいち

 

 

 六月一日。

 カーテンの隙間から漏れる太陽の光で、目が覚めた。時計を見ると午前六時半。目覚ましが鳴る前に起きたのは何日振り…いや、何ヶ月振りかな?

 なんだか、物凄く楽しい夢を見ていた気がするけど、内容は起きたとたん忘れた。

 

 いつもと変わらぬ朝…変わったといえば今日から衣替えで、夏服になることくらいだ。

 私は夏服をしばらく眺めた後、「またあとでね」と囁き、一階の洗面所へ。と、そこには先客の姿が。私のお母さんだ。洗い終わった洗濯物をカゴに入れて、今から干しに行くらしい。朝からご苦労様です。

 

「お母さん、おはよう」

 私の挨拶に驚いたように振り向き、

「あら!もうそんな時間?まだ六時半だと思ってたんだけど…急いで朝ごはん作らなきゃ!」

 いえ六時半であってますよ、お母さん…しかしその言い方はあんまりじゃなかろうか?それじゃあ私がいつも寝坊してるみたいに聞こえる。私だってたまには早く起きるっての!

 半年に一回くらいだけど…

 

「うーん…今日は雨が降りそうね…いえ、もしかしたら雪が降るかも!」

「六月に雪が降るなら私も見てみたいわ!」

 母の言葉にツッコミつつ、洗濯物に目をやった。

「いつも、こんな早くから洗濯してるの?」

「いいえ、いつもは那美が出て行ってからしてるんだけどね。今日は今からお洗濯しておかないと、このあとちょっと出来そうにないから。あ、朝ごはんはこれを干した後すぐに作るからちょっと待っててね」

 そう言うと、洗濯カゴを重そうに抱えながら物干しへ向かって行った。半分くらい持ってあげた方がよかったかな?

「今洗濯しておかないと出来ないって…どこかに出掛けるのかな?」

 ちょっと疑問に思ったけど、「まあいいや」と、大して気にはとめなかった。

 

 

 洗面所での用事を済ませ、台所へやってきた私は、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いで一気に飲み干した。でも実を言うとあんまり牛乳は得意ではない。では何故飲むのか。それは切実な問題を私は抱えているからだ。もう少し大きくなりたいのだ!身長ではなく、胸が。その一念で始めた毎日の牛乳なんだけど…ふう…

「い…いや、諦めるな!きっと大丈夫!そのうち効果が現れるハズ!」

 そもそも牛乳が胸に効果があるのかわからない。だけど、その効果を信じて飲み続けている私のこの努力もわかってほしい!誰にって?他でもない、私の胸に!頼むよ!ホント!

 

 コップを流し台に置いて、テレビのリモコンに手を伸ばした。この時間なら朝の情報番組で天気予報と、今日の運勢が見られるはずだ。

「いつも寝てて見られないから、早起きしたときくらい運勢をチェックしておかなきゃね〜」

 椅子に座って、テレビをつけるとちょうど星占いのコーナーだった。そういえばこの番組の司会のお姉さんを見るのも本当に久しぶりだ。ご無沙汰してます。

 なんて、心の中で挨拶してると、お姉さんがご褒美とばかりにハッピーなお言葉を私にプレゼントしてくれた。

 

『今日の一位は射手座のあなた!素敵な出会いと新鮮な驚きが待っているかも?』

 

「わ!やった!射手座、一位?すっごい!今日の私って最高かも!」

 十二月三日生まれの、正真正銘の射手座の私。上々の占いの結果にテンションが上がらないわけが無い。最下位になった星座の人に、このテンションをお裾分けしてあげたい。

 

『続いて、今日のお天気です。各地の天気はご覧のとおりです』

 

 占いが終わり、お姉さんが今日の天気を伝える。どうやら今日は一日晴れのようだ。

「ん…?」

 映し出される画面を見て、少し違和感を覚えた。今日の天気にではない。画面の上に表示されている『天気予言』の文字にだ。

「天気…予言?『予言』ってなに?普通、『予報』じゃないの?」

 疑問を抱きながら『天気予言』なるものを見続け、そして考えた。ははーん、もしかしたらこの『天気予言』というのは、この番組独特の洒落を利かせた表現なんだな。お姉さん、結構やるじゃない!腕上げたね!うんうんと頷いていると、

 

『それでは次に、今日の予測魔法量をお伝えします』

 

 聞き慣れない言葉が耳に飛び込んできた。

 

 

「……………………………………………………………………………………は?」

 

 

 時が止まってしまったかのように、その場に固まる。

 

 『天気予言』に『魔法量』?この司会のお姉さんはまじめな顔して何を言ってんの?こんな変なことを真面目に伝えるなんて…そうか!これはあれだ!子供達にもわかりやすく伝えるための演出なんだ!うん!きっとそうだ!そうに違いない!さすがだね、お姉さん!

「お待たせ。遅くなっちゃったわね」

「うひぇっ!」

「あら、驚かせちゃった?ごめんなさいね」

 色々考えてる所に突然お母さんが来たもんだから、面白い声をあげてしまい、ちょっと恥ずかしい。赤くなってる顔を見られないように横を向いたが、最初からお母さんの目は私じゃなく、テレビの方に向いていた。

「あ〜やっぱり今日は、魔法量が少ないのね。早めにお洗濯しておいて正解だったわ♪」

 

 

「……………………………………………………………………………………は?」

 

 

 その言葉を聞いて、再び時が止まった。

 『魔法量』がどうして洗濯に関係あるのか。今はそんなことはどうでもいい。それよりもお母さん、今何て言った?『魔法量』?なんでそんな言葉を、何の疑問もなく口に出すわけ?『天気予言』や『魔法量』という言葉は、子供向けの演出ではなかったのか?

 

 

 何かがおかしい。

 

 

 『魔法量』なんて言葉を、普通に口に出すお母さん。まるでそれを伝えるのが当然だというように、原稿を読むテレビのお姉さん。

 頭がクラクラしてきた…足もフラフラする。私はそんな状態で、冷蔵庫から朝食の材料を取り出しているお母さんに近付き、

「ねえ、お母さん…『魔法量』なんて言葉、変だと思わないの?私そんな言葉初めて聞いたよ?って言うか『魔法量』って何?杉花粉の仲間?洗濯指数の友達?それとも紫外線の親戚?」

 矢継ぎ早の質問に、少し困惑気味のお母さん。なんでそんな顔をするの?『魔法量』だよ?普通、そんな言葉聞いたら、質問したくなるのも当然だと思うけど?

 冷蔵庫から取り出した材料を台の上に置き、片手を自分の頬に当て、首を傾げて、不思議そうに私を見てくる。そして何か納得したように両手を合わせて、

「那美、寝ぼけてるのね?珍しく早く起きてきたと思ったらこれだものねぇ。大体あなたは子供の時から…」

 

「寝ぼけてないし!」

 

 お母さんの言葉を遮るように叫び、続けた。

「いいから教えて!『魔法量』って何?いつから出来た言葉なの?」

 必死に聞く私の姿を見て、少し何か考えた後、質問に答えてくれた。

 「『魔法量』というのは言葉の通り、魔法の量のことよ。誰かが魔法を使うと、その分魔法量が減ることになるわね。もっとも、人一人が使う量なんてたかが知れているけど」

「今日はその『魔法量』が少ないって言ってたけど、少ないとどうなるの?」

「そうねぇ…魔法量が少ないと、魔法を使うのがちょっと苦しくなるかもね。魔法量が多ければ、その分負担を減らせるから。それから、『装置』を動かすのにも支障が出てくるわ」

「装置?」

 私が首を傾げるとお母さんが、あれとかこれ、と言う風に冷蔵庫やテレビを指差す。

「冷蔵庫やテレビ、洗濯機や照明。そういう装置は全部『魔力機関』で動いてるでしょ?だから魔法量が少ないと止まっちゃうのよ。まあ冷蔵庫や照明は、大型の『魔力機関』が搭載されている大丈夫だけど、洗濯機はよく止まっちゃうのよね」

 

 それを聞いて、冷蔵庫の裏側を覗く。そこに当然あるはずの電源コードがない。次はテレビの裏を見る。やはり電源コードはない。それどころか、壁にあるはずのコンセントの差込み口すらない。テレビのリモコンも、電池ではなく、『魔力機関』らしい。

 

 愕然とした。夢じゃないかと、頬もつねってみた。痛い。夢じゃない。

 どうしてこうなったかはわからない。けれど世界は私の知らぬ間に、

 

 

 『魔法世界になっていた』


 
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