「そんな相手に勝っても、盛り上がらないわよねえ……」
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「艦これ」的「みほ3ん」
EX回:第8話『戦闘・激化』
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演習とはいえ、模擬戦闘そのものは激化している。さすがに私もドキドキしてきた。
『あいつら大丈夫かな』……と、口には出さずに心の中で思った。だがここは敵地……じゃない、演習相手の陣地だ。演習中は私も努めて平静を装う。
艦娘たちの演習が行われている海上では双方の龍田と夕立が、互いに先制攻撃を仕掛けていた。それは、まるで鏡を見ているようだ。変な気分だな。
だがインカムから聞こえてくる彼女たちの音声を聞いていた私は、ある事実に気付いた。目の前で繰り広げられている模擬戦闘と実際の艦娘たちの気持ちにギャップがあるのだ。
最初は『まさか?』と思ったが、聞こえてくるのは事実だから仕方がない。
それは、この会場周辺に居る大勢の観客だけではない。恐らく大将自身も気づいていないだろう。彼はブルネイの艦娘を信頼している=インカムを装着していない。
ところが演習現場では彼女たちの間で、こんな会話が繰り広げられていた。
:龍田さん(ブルネイ)
「あらぁ? そちらの夕立ちゃん、顔色が悪いわねぇ……もしかして本調子じゃないの?」
ブルネイから借りている通信機の性能が良いから接近戦になると相手の声がガンガン入ってくる。
:夕立(美保)
「……」
美保の夕立は無言だ。可哀想に混乱しているようだ。その代わりに、美保の龍田さんが答える。
:龍田さん(美保)
「この娘(こ)、量産型の艦娘を初めて見るから、ちょっとビックリしているの」
:龍田さん(ブルネイ)
「あらぁ?」
:龍田さん(美保)
「あと、ここに来る途中の飛行機で、酔ったみたいなの」
:龍田さん(ブルネイ)
「あらぁ、複雑な事情があるようね」
ブルネイの龍田さんは、さりげなく武具をいったん収める。もちろん演習の進行上不自然にならないよう完全には収めずに、自分の体勢を整える振りをしている。
:龍田さん(ブルネイ)
「そんな相手に勝っても、盛り上がらないわよねえ」
彼女は少し美保の夕立から距離をとった。様子を観察している。
「そうね、吐かれて汚れるのも嫌だし……」
ブルネイの龍田さんは、口を塞ぐ真似をした。夕立のゲロゲロを警戒しているのか。
しかし観覧席から見ている限りでは、艦娘たちの間で、そんなのんびりした会話が続いているとは想像すら出来ないくらい彼女たちは激しく動き回っている。
美保の龍田さんが返す。
:龍田さん(美保)
「私は絶好調だけど同じ艦娘で戦っても、ショーとしてはイマイチよね?」
武具を振り回しながら大きく頷いているブルネイの龍田さん。
:龍田さん(ブルネイ)
「じゃあ、うちの夕立ちゃんとやる? 強いけど大丈夫。寸止めも得意だから」
チラッと振り返る彼女の視線の先には明らかに美保よりも強そうな浴衣姿の夕立(ブルネイ)がニコニコしている。瞳が紅(あか)い。
:夕立(ブルネイ)
「夕立、よろしくお願いしますっぽい!」
私は冷や汗が出た。何で彼女は、魚雷を素手で持っているんだ? しかもその魚雷には顔が書いてあるぞ。
とろが美保の龍田さんはまったく動じない。
:龍田さん(美保)
「あらぁ、浴衣姿も良いわねえ、夕立ちゃん……じゃあ私も、ちょっと踊ってみせようかしら……ウフフ、戦士の舞いよ」
そう言うと美保の龍田さんは弾幕を上手に避けるように優雅な舞いを踊り始めた。それは気品すら感じさせる高貴なものだった。もちろん普通の観客には、その姿は激しく戦っているようにしか見えない。会場からは歓声と拍手が沸き起こる。役者だなあ……。
美保の夕立を除いた2対1の軽巡と駆逐艦娘たちは互いに間近で激しく戦っているかのような「舞い」を演じ始めた。皆、見事だぞ。これは一種、接近戦の「演武」だ。それは『型』の美しさも要求される。生半可な技量では出来ないはずだ。つまりブルネイも美保も、お互いの艦娘たちは普段から相当、鍛錬しているわけだ。
『フム、この時代には艦娘そのものが素手で戦う白兵戦や接近戦を意識しているのか』
私は興味深く観察していた。もちろん普通に観客として見ていたとしても単なる「演習的な」戦闘よりは、美しいフォームを見せる方が見栄えも良い。ショートしては最高だ。
美保とブルネイの艦娘たちは『適当に』実弾(空砲)を順次、海や空へと発射していく。大きな水柱や弾幕が周囲に幾重にも張られる。その衝撃波で爆音や地響き、水柱の音が凄まじい。派手だ。海から吹く風で、硝煙と水しぶきの潮の香りが会場にも漂ってくる。
漠然と見ていれば演習会場から聞こえるのは単なる砲弾の音だ。しかし注意深く聞いていると拍子を取って一定のリズムに基づいて発射されるのが分かる……つまり海上ではまさに『踊って』いるわけだ。視覚と音声と実際の振動で、見ている観客は、もちろん大喜びだ。
お陰で今も少々体調が優れない美保の夕立が海上で動きが鈍くても、それはまるで戦闘に慄(おのの)いて立ちすくんでいるような印象を与える。良いね。押してくるブルネイと、防戦一方の美保。アウェーとはいえ、これは盛り上がる。
その陰では、艦娘たちの間ではこんな会話が交わされていた。
:夕立(ブルネイ)
『そろそろ、時間っぽい』
:龍田さん(美保)
『ウフフ……いつでも良いわよ』
その次の瞬間、ブルネイの夕立は美保の龍田さんを見てニコリと微笑んで再び突っ込んだ。
:夕立(ブルネイ)
「夕立、突撃するっぽい!」
:龍田さん(美保)
「ふっ!」
龍田さん(美保)が突きを放つ。夕立(ブルネイ)は僅かに身体を捻り最小限の動きでかわしつつ、なおも懐深くに飛び込む。長い金髪が翻る。
相手の夕立の浴衣と長髪のコントラストが南国の強い日差しに映える、蝶の舞だな。うちの夕立も、アノくらい凛々しくなれば良いなあ。ア……妄想してしまった。いかん、いかん。
インカムを通して聞こえてくる息遣いから……龍田さん:3/4拍子から、4/4、4/8……変拍子だ。
いや、美保だけではない。インカムの音声とかすかに見える会場の艦娘たちの動きを重ね合わせると、ブルネイの龍田さんも夕立も、お互いに美保の龍田さんと夕立にきちんと呼吸を合わせてくれている。その余裕はさすがだ。
しかし、美保の龍田さんが、そんな高等武術の技能を持っていたとは意外だった。いや強い相手の胸を借りて一緒に技量を上げているようにも見える。いずれにせよ手に汗握る格闘となっている。
龍田さん、伊達に経験を重ねている訳ではない。実は日向とは、また違うタイプの「武人」だった。だから飛行機にも酔わなかったのだろう。艦娘って本当に底知れないものがあるんだな。しかし、この演習は冗談抜きで有り難いものになってきた。私自身も改めて美保の龍田さんの実力を知る機会になった。私は胸のメモ帳をまさぐった。もし無事に日本に帰ることが出来たら彼女の鍛練も考えよう。相手は、日向……いや、夕立かな? いずれにせよ検討しよう。
『そう言えば』
私は別の海上に目をやった。
『うちの日向は……あり?』
水柱の向こうには、ブルネイの日向と向き合って……えっと……あいつらはナニやってるんだ? ふと視線をずらすと……その近くに赤城さんペア。またあの二人は何をしてる?
海上では、まだブルネイVS美保の艦娘たちによる激しい一騎打ちが続く。水柱の合間から見える彼女たちの距離は30cmもないだろう。そこから拳打を繰り出すには、腰や身体を捩るように回転を使ってスピードとパワーを乗せていく必要がある。日頃の鍛錬無しに決して出来ない動きだ。
「ぐっ……!」
白熱する実況アナウンス。
<あぁっとぉ、夕立さんの拳が龍田さんの右脇腹を抉るっ、相手の龍田さんの表情が苦悶に歪むっ>
会場が、いやが上にも盛り上がる。お客さんたちは総立ちで熱狂している。レスリングか何かのようだな。
だが少し時間を戻して、その影では……
:夕立(ブルネイ)
「夕立、突撃するっぽい!」
:龍田さん(美保)
『どぉ? この表情。痛そう?』
:夕立(ブルネイ)
『最高っぽい!』
やれやれ……この音声を聞いたら皆がっくりだろう。しかしプロレスも芸能界も、だいたい見物ショーの舞台裏なんて、こんなものだ。進行上に間違いがあったらショー自体が成立しない。一種のビジネスだ。
ま、私個人としては、こういう古代ローマのコロシアム的なショーはちょっと苦手だけど。でも一般の人が求める「軍隊」ってのはこういう肉体系だろうから。そこは仕方が無い。演武も演習も、大切なサービスと思う。お互いの艦娘たちも上手に演じている。いやはや皆、意外な才能があるんだなあ。
ふと神社への「奉納の舞」を連想してしまった。それだけの技量と精神性はあると思えた。うちの龍田さん、つくづく見直したなあ。
日頃の、あの余裕ある態度は、こういう背景があるのか。それはまた大人チックな魅力がある……。
ふと気付くと近くに座っていた寛代が、こっちを見てた。ごめんね寛代。今の妄想は訂正。そうだよな、演習中だもんな。不謹慎は禁止。
さらに私は青葉さんのことを思い出した。彼女がどこかで、この演習中の写真を望遠でも良いから撮っていてくれたら嬉しい……期待しているぞパパラッチ。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第参部」の略称です。
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ブルネイVS美保鎮守府の艦娘たちの演習が始まった。しかし、その裏で実はこんなことが……。