天空電鉄風天車庫。

「や、今年も気合入ってるねー検さん」

車庫に入ってきたのは今河和雪、今河家の主にして電車運転士である。

「ああ、今年も自信作だぜ。毎年こうやって車庫の中にいる全部の電車に新年の飾りつけってわけだ」

応えるのは車庫の整備班長・長津田検。

「それはまたｗ…しかし1600形(コイツ)も普段見るとぼーっとしてるようなツラだが、こうして注連飾りをつけると引き締まるねぇ」

「あんがとよ、そいつは自信作だぜ…ところでお前さん本日の仕業(しぎょう)は？」

「751だよ…もと都電のな。アレは元が重厚な車体だけに注連飾りがつくとまるで戦国武将みたいな貫禄が出るわなｗ」

「そいつはまた、ご苦労なこった。ま、年の瀬に事故なんてないようにな。シャレになんねえからな」

「わかってるって。…車両番号751(ナナゴーイチ)、外観ヨシ、集電装置ヨシ…」

と、元気よく始業前点検を始める和雪。

その脇から、名物コンビの油木佑、溝之口千夏が入ってきた。

「「おはようございます検さん！」」

「おお、お前さんたちも来たな。おはようさん」

今回の担当車輛である2300形2301A-Bも立派な注連飾り前頭部分に取り付けている。

「うわぁ、立派な注連飾りですね！」

千夏は感動のあまり声を上げる。

「ま、この時期は電鉄(うち)も忙しいからなあ。年をまたいで終夜運転ってヤツだな」

終夜運転。

大都市の鉄道事業者では、初詣をはじめ各種の年越しイベントに集まる人々を輸送するために、

一夜をまたいで特別ダイヤで電車や列車を走らせる。

この小さな路面電車・天空電鉄にも普段は終電があるのだが、大晦日から元日にかけては特別で、

夜通し電車が動き回り、初詣客などを捌いていくのである。

「でもまぁ千夏さん」

「なんですか佑さん？」

「この時期って連接車の稼働率が高くなるよねー」

「まー、すし詰めになるのは必至だから少しでも輸送力の高い連接車が動員されるんでしょねー」

などと雑談をしていた佑と千夏、しかしやがて始業時刻が近づくと、2301号車に近づき点検を始める。

「車両番号2301AB(ニイサンマルイチエービー)、外観ヨシ…」

天空電鉄では今回も年末年始、終夜運転を行います。

電車は大変な混雑が見込まれますので、無理をせず、マナーを守ってご乗車ください。