No.882770

レイドリフト・ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い

リューガさん

 戦いの舞台である惑星スイッチア。
 この星は宇宙からの侵略を受けて、50年間戦い続けてきた。
 この50年の元ネタは、仮面ライダーやウルトラマンの放送開始がそのくらいだから。
 TVの中の地球は異星からの援助もあるためか、僕らの地球と大して変わらなかったり、ある面では進んでいるけれど。
 もし鎖国(鎖星? )体制を敷いていたら、と考えてみました。

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2016-12-09 21:37:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:528   閲覧ユーザー数:528

【そいつを見捨てないでくれぇ! 】

 いきなり建屋の方から声があがった。

 あの、避難民を連れてきた男。白旗をあげていた地域防衛隊員だ。

 今は玄関まえの四輪駆動車の影から、頭だけをだしている。

 そこから先にはフーリヤのバリアがある。

 透明なのに鉄板のような硬さを持つ壁が。

【そいつは、僕の友達なんだ! 】

 彼は、川辺のエイリアン・マフラーを指さしていた。

 

 夜空を背に、川の向こうからは雨あられの砲弾。

 せいぜい100メートルの飛距離。建屋を、駐車場を、擱座したロボットを豪快にえぐっていく。

 そんな中、ドディは走りだした。建屋からの声にはじかれたように。

 砕け散るアスファルトが、鋭いかけらとなって襲い掛かる。

 それでもエイリアン・マフラーの下で酒をあおる、あのパイロットの元へ駆けこんだ。

 お姫様抱っこの要領で持ち上げ、建屋に向かって走りだす。

 

 ドディには勝算はあった。

 レミュールはその弓を横一文字に構えている。

 弓から放たれる青いオーロラのような光が、砲弾を防いでいる。

 彼女が何をしようとしているかはわかる。

 ドディが横を駆け抜けると、弓が持ち上がった。

 それにつられて、駐車場のアスファルトが割れた。

 割れ目が弓と平行に伸びる。駐車場を真二つに断ち切った。

 割れ目の下から現れたのは、分厚い土の壁。

 高々とそびえたち、無数の爆音をその向こうへ追いやった。

 それでも砲撃はくる。

 一度上空へ砲弾を上げ、落下する迫撃砲だ。

 これにはフーリヤが右翼とバリアをのばして防いでくれた。

 

 その時、エイリアン・マフラーのパイロットが現れた。

 建屋の右から銃を構え、道をふさぐ。

 足をがくがくふるわせながら。

 その銃は、木と鉄でできたボルボロス自動小銃ではなかった。

 所々から青い光が漏れている。

 明らかに、宇宙の技術で作られた物。

 具体的にはバルケイダ星人のバルケイダニウム・クラッシャー。

 バルケイダ星人が自らの能力、バルケイダニウムを応用して作った、多目的銃だ。

 鉄をも溶かす2000度のプラズマを発射できる。

 バーナーの様に噴射し続け、銃剣にもできる。

 プラズマを閉じ込めたバルケイダニウムの鞭は、その名のとおり高温の打撃を何度も叩きつける。

 どう攻撃が来るか分からない、厄介な武器だ。

 

 だがドディはその武器を見た時、その威力では無く、他の理由で足を止めた。

 後にいたレミの足音も止まる。そして息をのむ音。

 きっと、彼女も同じことを考えている。

 そう考えたドディの心に広がるのは、後悔。

【あのバルケイダニウム・クラッシャー。新しそうだ。もしかして、俺たちが渡した物か? 】

 後悔。だがしかし、それを生みだした過去が、一縷の望みとなるかも知れない。

 だって、まだ撃ってこないじゃないか

 そう信じたくて。

【君も来い! 】

 ドディは、道を阻むパイロットを誘った。

 同僚のパイロットはドディとレミが守っている。

 それを見れば、したがうはずだ。そう思えた。

 

【来いってどこだ! 地球か!?】

 その声と共に、銃は下がらない。

 それでもドディはなだめた。

【おいおい。俺たち生徒会とあんた達は、2か月間も頑張って――】

 きたんだぜ。と言おうとした。

 だが、青い光に照らされたパイロットの顔は、不気味に笑っていた。

【それっぽっちの時間で――】

 引き金がひかれ、バルケイダニウム・クラッシャーの銃口にプラズマエネルギーが蓄えられる。

【武器が必要なくなると思ったか!! 】

 一秒後には、あの恐ろしい力が放たれてしまう!

 

『そんなとろい動きで効くか! 』

 ふたつの銃口は、突如さえぎられた。

 叫びとともに振り下ろされたのは、黒くらせん状に固められた、太く長い物。

 フーリヤの触手だ。

 それが、ハンマーのように敵のいたところに振り下ろされた。

 アスファルトにひびを入れて食い込んだその姿は、大蛇が獲物に巻きついて絞殺そうとしている姿にも見える。

【ぎゃあ!! 】

 建屋の玄関から、悲劇を確信した叫びがこだました。

【つ、つぶされた!! 】

 玄関から、悲鳴が幾重にも重なる。

 思わず、ドディとレミの手が伸びた。

 だが、救う手だても、かける言葉も見つからないまま呆然となった。

 

『つ、つぶしてないよ! 』

 困惑するフーリヤの声。

 同時に、触手が回り始めた。

 まるで、玩具のコマを回すため巻きつけられた紐のような動きで。

 触手が離れた。

 その中から現れたのは、回転を続ける防衛隊員。

 完全に目を回し、その場に倒れこむ。

 銃は、はるか遠くまで放り投げられた。

 

【うわあ! ありがとうございます! ありがとうございます! 】

 玄関のバリアが解除された。

 それに気づいた人々が、次々に駆けだして、2人の地域防衛隊隊員を受け取った。

【でも、どうして助けてくれたの? 】

 1人の少年の目が、それにつられて幾人かの目が、ドディとレミを見て、フーリヤを見上げる。

『助かった。と判断するのは、助けられた人だけだからだよ』

 フーリヤが興奮しながらも、静かな声で答えた。

『それに、ピンチを敵と考え殲滅するよりも、選択肢を与える方になりたい。そういう人から教えを受けた』

 

 その時、屋上から人影が現れた。

 ハッケだ。

『もうすぐ自衛隊の砲撃が始まります! 中に入りましょう! 』

 フーリヤの触手が、外へ出た人たちを抱えるように伸びた。

 その中で人々は玄関へ駆けこむ。

 ドディとレミもそれを追った。

【壁が崩れる! 】

 誰かが言う。

 レミの防壁が、青や緑、紫などの様々な閃光によって貫かれていた。

 明らかにチェ連製の兵器ではない。

 貫かれた穴は、後続の砲弾が爆発し、さらに広げられる。

【本当に持ちません! 】

 レミが言いきった通り、音を立てて崩れた。

 その土砂は駐車場と、そこに倒れ込んだエイリアン・マフラーを埋め、山積みとなってしまった。

 屋上から、空気をかき回す音が降りてくる。背中のファンを回すハッケが。

 全員建屋に駆けこむと、再びバリアが張られた。

 

『状況の変化はくまなく報告しています。

 まもなく応援が到着します。安心してください。

 みなさんを安全な場所までお送りします』

 ハッケの請け負うのを聞いて、ドディは外を見てみた。

 変身したことで五感が鋭くなったドディが真っ先に気付いた。

 汚い雨の中、空を飛ぶ者がいる。数は十数。

【応援って、あれか? 】

 ハッケがやってきて、一緒にそれを見上げた。

『いいえ。あれは、ミス竜崎が撃ち落とした地中竜です』

 

 初めに悲鳴が聞こえた。落下する竜たちが、甲高く吠える声だ。

 近づくにつれ、ダメージの様子が見えてきた。

 翼の生態ジェットエンジンが、吹き飛んでいた。

 ささくれ立ったように鋼鉄の器官がねじ曲がり、羽毛をあらかた失った者もいる。

 それを見ることができたのは、一瞬だった。

 彼らはなすすべもなく、浄水場と川の向こう、およそ300メートルにわたって散乱した。

 その内の一体が、駐車場に滑り込んだ。

 

 同時に、流星群のようなものが降り注ぎ始めた。

 それに伴うドン ドンと聞こえるのは、超音速で飛ぶ物体が伴う衝撃波。

 自衛隊の砲撃だ。

 川の向こうから来るものよりはるかに重く、早く、数も多い。

 だが、あの青いバリアに阻まれた。

 車両に搭載された物を、何重にも張ったのだろう。

 ダメージがあったかどうかは分からない。

 

 駐車場に地中竜が、建屋内部に気付いた。

 大勢の人間を見て、その恐ろしげな牙をむく。

 ささくれ立った翼も、かえってギラつく巨大なのこぎりのよう。

 

【キャー!! 】

 人々が建屋のさらに奥へ駆けだしてゆく。

 だが、どこへ?

 狭い建屋では、どんなに頑張っても壁1枚しか違いがない。

 パイロットのトランシーバーが怒鳴り始めた。

『こちらフセン市警察特殊任務隊! マフラー隊聴こえるか!? 』

【こちらマフラー隊、どうぞ】

『浄水場はもう包囲できない!

 敵からの砲撃を受けている!

 それと、辺りは地中竜だらけだ!

 海中樹も向かってきている! 』

 この大規模な戦闘に反応し、海から上がって来たのだ。

『天上人も向かっているという報告もある!

 何とかしてくれ! 』

【もう何もできない……。ごめんなさい!! 】

 最後は、本当に怒鳴り合いになっていった。

 

 土壁の土砂が、突然吹き上がった。

 倒れ込んでいたエイリアン・マフラーが、竜の顎を殴り上げたのだ。

 竜は口の中でため込まれた火を吐きせない。暴発させてしまい、苦悶に身をよじる。

 その隙にエイリアン・マフラーが掴み掛った。

 エイリアン・マフラーの左足を失っている。マフラーの名の由来であるローターもない。

 双方ともに不利な状態だが、土砂を巻き上げる殴り合いが始まった。

 ドディ達にも入り込めないまま、目まぐるしく立ち位置を奪い合い、走り去る。

 

 外では、さらに激しさがます。

 バタバタと特徴的なヘリコプターの音が近づいてきた。

【PP社のヘリコプター隊だ! 】

 ドディは味方だ! と叫ぼうとしてやめた。

 なぜなら、彼らが狙うのは……。

 ヘリはさらに近づき、普通の人間でも見えるようになった。

 やってきたのは6機。

 先陣を切るのは2機のコマンチ偵察ヘリ。

 細長く、レーダー波を受け流す6角形の機体は鉛筆を思わせる。

 搭載された各種センサーもそうだが、PP社では探知系異能力者を必ずのせているので、敵を確実に見つけだす。

 機体下のドアが開き、収納されたミサイルが現れた。

 50メートルほど離れて続く2機はアパッチ戦闘ヘリ。コマンチと同じアメリカ製だ。

 細長い機体に短い羽をつけ、多数のミサイルやロケット砲を吊り下げている。

 殿はアパッチより少し太めのハインド戦闘歩兵ヘリ。

 ロシア製で、2人の操縦者のほかに8人の完全武装の歩兵をのせられる。

 

【エピコスさんなら、真脇さんのお兄さんの会社が、なぜ別々の国の兵器を使うのか、不思議に思うでしょうね】

 え? と、ドディは意外に思った。

【整備や運用のしにくさがわかるでしょう】

 レミの口から、その幻想的な姿には似つかわしくない、現代的な戦争の話題が飛びだす。

【真脇さんが言うには、お兄さんの会社――ポルタ・プロークルサートル社は、20年前の異能大量発生現象と、それに伴う社会不安の受けて作られた警備会社です。

 確か、創立から10年もたっていなかったのではないかしら? 】

 だが、思い直した。

 レミにとっては、真脇 達美もシエロ・エピコスも、大切な存在なのだ。

【その頃は似たような警備会社が幾つも生まれていていました。

 しかし、戦車やヘリような大型兵器はすぐには増やせません。

 早く戦力をまとめるために、各国の工場でできた順や、中古の物を集めたそうです】

 いやなガールズトークだな。とドディは思った。

 

 6機のヘリは周囲を旋回しながら、機関砲やミサイルを四方八方に打ち込む。

 地域防衛隊の多重バリアが、それらをすべて防いでいるのが見えた。

 だがバリアを張っている間は、地域防衛隊も浄水場へ攻撃はできないらしい。

 攻撃できないのは、飛行するすべを失った地中竜も同じだ。

 口からの火炎弾は遅い上に目立つ。

 鈍重という評価のハインドさえ、余裕でよけた。

【海中樹は……あれか】

 ドディが見つけた。

 川を超えたはるか向こう。

 視界がかすむほどの激しい雨の中、燃え尽きる街の炎をバックに、巨大な影が歩いている。

 炎とは違う、明るい白い光が輝いていた。

 何となくだが、ゆるぎなさを感じた。

 当然かもしれない。

 あの輝きはスイッチアの太陽の物。

 惑星の反対がわにある島、海中樹の本拠地は今、昼だ。

 明るくないわけがない。

 その光を運ぶのは、海中樹に伝わる謎の宝石。

 あてられたエネルギーを違う場所のある宝石へ伝える性質を持つ。

 テレポートさせた日光を受け取るのは、昆布のように垂れ下がる長い葉。

 その葉が全身から垂れ下がるのだが、土台になる体型は様々だ。

 いびつな4足歩行。2本足に腕が5本生えたような者もいる。

【奴ら、チェ連の戦闘に反応して、上陸したんだよな】

 ドディの話にレミが。

【ええ。最初は異星人居住区のまわりを。そこから浄水場へ転進した部隊を見つけ、追って来たのでしょう】

 宝石の光が増してゆく。

 テレポートさせる太陽光を増やすことで放たれる、高熱の光線だ!

 直撃すれば、人間など焼き尽くされてしまう!

 だが、その光が何かを焼くことはなかった。

 突如雨が強まり、熱せられた雨は一瞬にして水蒸気に変わった。

 その蒸気が光線を乱反射させ、無力化する。

 上空に、巨大な龍がいる。

 あたりの風雨に関係なく、その力強い4本足と翼ははっきり、青く輝いている。

 竜崎 咢牙だ。彼が起こした雷が、海中樹に落とされる。

【あちらは心配なさそうですね】

 レミの声には疲れが滲んでいた。

 

 浄水場の敷地に、底力を感じさせる、深いエンジン音が聞こえた。

 PP社の地上部隊がやって来たからだ。

 前方にブルドーザーのようなブレードをした10式戦車が、瓦礫などを払いのけた。

 続くのは人型ロボットのドラゴンドレス・マーク6やマーク7。

 マーク7の迷彩柄には、見覚えがあった。

 雪山で迎えに来た、真脇 応隆の機体だ!

 今は巨大な銃を抱え、川の向こうを警戒している。

 駐車場の小さな山は、伏せれば格好の遮蔽物だ。

 

 それに続いて、何台ものトラックが入ってきていた。その色は、赤。

 そしてフロントガラスがある部分には、大きな二つの目が並んでいた。

 マンガのキャラクター化された車のようだ。

【ボルケーナ分身態? 何をするつもりだ? 】

 守護女神の列は、浄水場のプール横に次々と並んでいく。

 そして並んだ順から、その荷台に折りたたまれたクレーンをのばし始めた。

 その先端がさらに展開する。ヘリコプターのローターのような形になった。

 とても長いクレーンだ。

 柵や高低差に阻まれても、問題なくプールまで届く。

 そして、プールにローターを沈めていく。

 水がゆっくりと波打ち続ける。

 水中でローターが回っているからだ。

 

『待ってました! 修理はすでに終わっています! 』

 フーリヤが、嬉しそうに叫んだ。

『早く電源を! 』

【分かってるって! 】

 ボルケーナトラックが2台、建屋に横付けされた。

 1台はプールのと同じように、長いクレーンをのばす。

 のばす先は、フーリヤのいる屋上だ。

 ガチッ という、金属がぶつかり、固定された音がした。

 もう一台のトラックは、クレーンではなく、大きなコンテナを積んでいた。

 コンテナから伸びるのは、一本のロボットアーム。

 アームがクレーン車に接続されると、フーリヤはその長い足を建屋から引きずりだしていく。

 黒い鋼鉄の鳥は、飛行を取り戻した。

『電源切り替えを確認! ここからはバリア展開に集中します! 』

 

【ボルケーナ! 来てくれたんですね!

 という前に、お久しぶりです】

 レミは、今日初めて機嫌のいい顔になった。

 話しかけたのは、宙に浮かび、半透明に輝く燃える石。

【久しぶり~】

 ボルケーナのマジックボイスだ。

【そう言えば、あいさつもしてないな。先輩お久しぶりです。

 ところで、あのプールに入れたローターは何ですか? 】

【水を電気分解することでオゾンを作る、固体高分子電解質膜。

 オゾンで水の殺菌&無臭化するのよ】

 説明しながら、マジックボイスの明るさが増していく。

 同時に響く、ヴーンという音。

 マジックボイスの光は、空中で衝突しあい、そのたびに機動を曲げていく。

 直線だった光が、丸みを帯びていく。

 干渉レーザーによる立体映像。

 ランナフォン、というより久 編美=オウルロードと同じ能力だ。

 現れたのは、メガネをかけた大人の女性だ。

 眼鏡は縁なし。シャープな顎と鼻筋の通った顔立ち。

 ポ二ーテールにした黒く長い髪。

 着ているのは飾り気のない赤いつなぎだが、胸と腰は強引なまでに膨らんでいる。

 ボルケーナ人間態だ。

 

【あれがボルケーナ? 報告と形状が違う? 】

 建屋の中央から声がした。

 そこは玄関から扉か壁、明り取りの窓1枚隔てたところ。

 重厚で複雑な送水ポンプが整然と並ぶ場所。

 そこでポンプを盾に人々が固まっていた。

 彼らに対してボルケーナは、扉を超え、ビジネスライクな笑顔を見せて。

【仕事ですから】

 

 ポンプの影から、1人立ち上がる者がいた。

【ボルケーナ様! ……ごきげんよう】

 立ち上がったのは、バルケイダニウム・クラッシャーを突きつけてきたパイロットだった。

【是非ともお教えいただきたい! 】

 初老の男だ。50年前の宇宙戦争開戦のころは、幼い子供だったに違いない。

【我々は、いったい、どこを探せばよかったのでしょう?

 どう探せば、宇宙の優しさを見つけだせたのでしょうか?

 それに気づけなかった俺たちの歴史は、どうなるんですかぁ!? 】

 膝まづくとか、手を合わせると言った、神を崇める仕草はチェ連にはない。

 パイロットは鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、必死にへたり込むのを耐えて、背筋を伸ばしていた。

 未だ隠れる人々から声が漏れた。

【隊長……】 【隊長……】

 降伏を選んだ市民たちとは、喧嘩などになってない。

 それを見ると、決して浅い仲ではなかったらしい。

 

【あの、先輩。あなたがいる間は、どんなに相手を殺そうとしても、絶対殺せない。そうでしょ? 】

 ドディが、ボルケーナに言った。

 明らかにあわてた様子で。

【うん。そうだよね。ハッケ】

 ボルケーナは、落ち着いた様子でたずねた。

『はい、中止になった帰還パーティー以降、確認された死亡者数は0人です』

 ドディは安心して、笑顔で変身を解いた。

【だったら、俺たちが敵対する理由は無い、そうでしょ? 】

 元の顎髭のある顔に戻り、制服を着た体になった。

【ええ、そうだね。

 せっかくのご指名を受けたから、彼の質問に答えさせて】

 ボルケーナがそう言って、示したのは立ちすくむパイロットだった。

【事実と違う事を言ったら、教えてね】

 生徒会は、力強い頷きで答えた。

 

【あの、パイロットさん。彼らがチェ連に召喚されたばかりのころを思いだしてください。

 彼らは、あなた達の協力が必要になりましたね】

 パイロットは、恐る恐ると言った雰囲気で【はい】とだけ答え、全身全霊を振り絞った様子でうなづいた。

 ボルケーナは話を再開した。

 攻めている様子はない。

 ただ、事実を確認している。

【ある程度の生活物資はノーチアサンにも備蓄されています。それらを使い尽くしても、どんなものでも作りだせる創世プリンターがあります。

 ご存知ですよね? 】

【……はい。他の宇宙船から取りだした物を、見たことがあります。

 我々の技術が及ばず、利用できませんでしたが……】

 隊長が無念そうに言った、創世プリンター。

 ノーチアサンの艦内工場にある、構造さえ明らかならば、どんな物質でも作り出すことができる機械だ。

 内臓や手足などの人工臓器さえ作りだせる!

 まず準備として、創世させる物の材料が必要になる。

 例えば人工内臓を作るなら肉を。機械なら鉄などだ。

 プリンターを動かすにも電力がいる。

 これもノーチアサンやフーリヤたち機械系メンバーのエネルギー源、核融合炉が使える。

 ボルケーナは【そうでしたか……】と関心を示して、話を進める。

【生徒会でも、すぐに限界を悟りました。

 タンパク質には2種類ある、というのはご存知ですか? 】

【たんぱく質を構成するのはアミノ酸。アミノ酸には、分子が鏡に映したように左右逆転した並びで配列した物がある、という話でしょうか。

 生徒会からのお話にありましたが、詳しくは分かりません】

【無理もありません。

 ふつう、アミノ酸の鏡像体を持つ生物の所には、どんな侵略者も行きたがらない物ですからね】

 

 気づけば、ボルケーナと隊長の声はよく響いていた。 

 建屋の奥からの叫びや泣き声は消え、代わりにいくつもの視線がある。

 あの、ひどい雨のにおいも消えていた。

 消毒は効果を発揮した。

 そとは雨の切れ目だ。

 月と宇宙船の反射が、真っ白な光を差し込ませる。

 

 パイロットは、ただ直立している。

 しかし、もう涙は流さない。

 目はしっかり、話し続けるボルケーナを見据えていた。

【タンパク質が、地球やスイッチアの生物とは違う生徒がいます。

 創世プリンターは、彼らへの食糧を作るために使われることになりました】

 そうだ。

 地球人のような有機生命体を構成するのはタンパク質。そのタンパク質を構成するのはアミノ酸。

 このアミノ酸は普通に合成すると、原子の組み合わさり方がまるで鏡に映ったかのように決まる、右型と左型の2種類ができる。

 どちらでもタンパク質はつくり出されるが、地球とスイッチアでは左型アミノ酸をもとにした生命しかいない。

 もし左型アミノ酸生物が右側アミノ酸生物を食べれば、毒を食べたことになり、場合によっては死に至る。

 こういう事は、魔術学園では幼稚園のころから教えられる。

 

【どうしても、チェ連の方々の協力が必要になったのです。

 あなた達の信用を得るために、彼らは決断しました。

 ペースト星人テロリストのような、宇宙に陣取る敵をターゲットに、兵器を鹵獲してあなた達に渡すことです。

 生徒会内から反対意見はありました。武器を配れば、その分コントロールできない戦力が増える。

 その結果、戦いがさらに激化するのではないか?と】

 目の前の先輩パイロットの目は、真っ赤だ。

 口は叫びたいのを我慢しているのか、深いしわが刻まれている。

 後の者達も、同じ顔をしていた。

 そんな顔、しなくていいのに。とドディは思った。

【結果を見ますと、目的を果たせたと思っています。

 生徒会も、この街の人々に感謝しています。

 私もそう思います。

 これだけ違いのあるメンバーで構成されたグループを受け入れるなど、なかなかできることではありません。

 だから一度は敵対しても、仲間になれると思ってますよ。

 あなた達もそうでしょ? 】

 ボルケーナは振り向いた。

 ドディも、レミとハッケも、しっかりとうなづいていた。

 駐車場ではフーリヤが。

 

 これでもう、荒々しい自分を演じなくて済む。

 ドディは安心して、このまま寝たい気持ちになった。

 だが。

 

【そうです……そうですとも】

 隊長は、最初は絞り出すような声で、それからだんだんと力強く答えた。

 涙をこらえ、さらに強まった恐怖を我慢するように。

【宇宙帝国の糞どもや、3種族のバカどもは、我々の生きる権利を奪ってばかりだ!

 あの薫り高いマトリクスの栄光も知らない鬼畜ども! 】

 隊長は、腕を振り回し、足を踏み鳴らして悔しがった。

【そうだ! 】

 立ち上がる人がいた。

【我々の地は、かつて創造力と実行力にあふれた、未来を作る楽園だった! 】

【それの価値を分からぬ鬼畜ども! 】【宇宙人がふざけるな! 】【あいつらが勝手に怖がるから戦争になるんだ! 】

 また新たな声。今度は女性が。

【あたしたちをまともにあつかえ!

 怖がるなんて、バカのすることだよ!! 】

 誰もかれもが立ち上がった。

 そして次々に異星人や3種族を詰り、怒り、あざける。

 彼らの視線は激しく揺れ動く。

 やがてボルケーナに止まった。

 希望や強い意志を込めて見据えたわけではなかった。

【もう、奴隷でいいです! いえ、奴隷にならせてください! 】

【僕も! 奴隷になりたいです! 】

【奴隷になれば、あなた達の元で我々は働く!

 命さえつなげられたら! それで十分です! 】

 幾多の悲鳴が重なり、それは疫病のように広がる。人々は恐怖をさらにあふれさせる。

 行うべき手段も、掲げるべき希望も見えず、その心はさまよっている。

 

 叫びの数に反比例するように、ボルケーナの顔から色が抜けていく。

 生徒会は思い出した。あの時と同じだ。

 チェ連が突如攻撃を始めた時も、こうだった。

 ボルケーナが行うべき手段も、掲げるべき希望も見えず、おびえ、考えがまとまらない時の表情だ。

【なんなりと御命じください! 】

 最後にかけられた言葉。

【応隆さんと結婚させてください】

 ボルケーナは反射的に反応しただけだ。

 すると、外からスピーカー越しの声がした。

『はい』

 最後の二言に、その場にいた全員が口を止めた。

 そして視線が、外に立つ緑と茶のまだら模様に集まる。

 高さ5メートルほどの、人の姿に。

 その下半身は敵を向いていたが、上半身は建屋を向き、頭のカメラは建屋内のボルケーナにしっかり合わせてあった。

 

【ギャー! ギャー! 】

 誰かが叫んだ。もう狂ったとしか思えない、壊れたような声で。

【オルバイファスだ! 】

 その一言でチェ連人の視線が、生徒会やボルケーナ、応隆やヘリより上に移った。

 

 彼は、音もなく、なめらかに滑空してきた。

 天から鋭い切っ先を振り下ろす、黒い剣のように。

【黒い巨神だ! 】

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 市民からの、その呼び名を思いだした時。

 シエロとカーリタースは、記憶を巡る旅から現実へ引き戻された。

 上から叩きつけられた衝撃と、轟音によって。

 振動は、例え立っていても倒れる心配のない程度。

 ましてや、ここは達美専用の装甲車、キッスフレッシュの中なのだ。

 しかも、全員椅子に座っていた。

 

 しかし、黒い巨神。

 その一言だけでチェ連人ならその姿を思い浮かべる。

 そして、確信めいた恐怖が、心に湧き上がるのだ。

(彼が攻めてきた)

 


 
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