No.881808 九番目の熾天使・外伝~マーセナリーズクリード~番外編 裏技okakaさん 2016-12-03 03:25:35 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:598 閲覧ユーザー数:482 |
体験版 ~madnessな天才外科医!~
「器具の選定終了、麻酔レベル確認、人工心肺装置の正常稼働、並びに心肺の一時停止を確認。では、これより左室瘤に対するオーバーラッピング手術を始めます。メス」
旅団内部のトレーニングルーム、何も無いはずの空間に手術衣に身を包んだ男の声が響く。彼はその手を差し出すと、何かを握り込む様な仕草と共に自身の目の前の空間にまるで何かを切るように一本の線を引いた。
「始まったか・・・さて、どうなることやら」
それを上部の見学スペースから覗き込んでいる人物、okakaは手に持った端末を操作した。すると見学スペースの覗き窓がスクリーン化し、VR情報を映し出す。その空間は最新の医療機器が並び立ち、上部から大型の手術灯による光が降り注ぐ、まさに手術室といった風景に様変わりしていた。
「お、もう始まってたか」
そう言いながら見学スペースに入ってきたのは支配人だ。彼はVRモニターを一瞥し、okakaの隣に座った。
「しかし、まさか医療技術が前提のライダーシステムとはねぇ・・・俺には扱えそうにないな」
「それでも一応試験は受けてたじゃないか。まぁ結果は「言うな」・・・わかった」
苦虫を噛み潰すような支配人の顔を見たokakaはこれ以上はあえて語らず、傍らに控えた桃花の淹れたコーヒーに口をつけた。
「いくら強くたって【手術】ができないんじゃあゲーマドライバーは与えられない。これは団長も承認済みだ」
「・・・ゲーマのライダーの戦闘は医療行為、だったか?」
「ああ、人に感染するコンピューターウィルス、【バグスター】はあくまで手術して取り除かなきゃならん」
そう言いながらokakaはライドブッカーから一枚のカードを取り出した。そこに描かれた新たな仮面ライダー、【エグゼイド】を見ながらokakaは更に続ける。
「しかし、旅団の医療事情も機械や個々の能力に頼りっぱなしの部分が多いからな。しっかりとした技術を持ってる人間を選定できるのはこの先プラスになる」
「・・・それもそうだな」
そう返した支配人が視線をモニターの一角に向けた。そこには今まさに試験を受け、VR手術を執刀している男がVRゴーグルを通して見ているであろう、胸を切り開かれ、露わになった心臓が見えていた。
「・・・グロいな」
「ディアのリベンジに受けに来たこなたは一発で卒倒して失格になったからな」
嫌そうな顔を向ける支配人とは対象にこともなげにコーヒーをすするokaka、かつて自身を育ててくれた研究機関の手伝いのため、医師免許を取得していた彼にとっては慣れたものだ。それよりもokakaは受験者の手元に集中していた。
「ブルドック鉗子で血管を一時的に閉塞、開胸部はペアンで固定してあるし、コッヘルを使ってないから手術部位へのダメージも少ない。・・・む、モスキートまで使ってあるのか、知ってたけど細かいやつだ」
「ごめん、俺もうわかんない」
受験者の手元と彼が使用する手術器具の配置や選定は今のところ完璧というほかない。渋々認めるokakaを支配人は何言ってんだこいつという目で見ると、話題を振った。
「そういやディアも受けたんだっけ?最速で試験が終わったって聞いたが」
「ああ、失格までのタイムはあいつが最速だった」
そう言いながらokakaは手元の端末にディアの試験の様子を映し出した。
『もう大丈夫です、僕が治しますから』
そう言った映像の中のディアがリカバリーリングを取り出した瞬間、VRの電源が落とされ、続いてokakaの怒号が端末から飛んできた。
『馬鹿野郎!医療技術をテストするって言ってんのに魔法使ってんじゃねぇ!お前何聞いてたんだ!』
『でも怪我の治療なんだからこれなら確実に治療ができるじゃないですか!』
『ただ治りゃいいってもんじゃねぇんだよスカタン!なぜそうなったか原因理解してるのか!?再発の危険は?感染症の有無は?どんな治療を施したか説明できるか!?』
『うっ・・・』
『原因もわからずにただ治るから治すんじゃ医者じゃねぇ。失格だ、試験終了!』
そこで記録映像は止まった。それを見た支配人は流石に呆れたのか頭を振った。
「まさか最初の段階の怪我の治療で魔法に頼るとは・・・」
「あいつは苦手分野を魔法に頼りすぎる、魔法が使えない状況下になったら真っ先に弱体化するぞ」
okakaも呆れ顔のままコーヒーをすすった。
「で、今やってる最終段階のテストがガシャットのゲーム内容になるんだったか?」
端末から目を上げた支配人は再びモニターに目を向けた。手術もいよいよ大詰めだろう。受験者は心臓に手を伸ばしていた。
「正確にはこのVRシミュレーター全体をガシャット化してある。タイトルは【マスタードクター】、実際の症例を元に俺が開発した外科医育成用のVRシミュレーターをゲームとしてリモデルしてある」
「って事はこれも実際の症例なのか?」
「ああ、だから・・・」
支配人の問いにokakaはニヤリと笑った。瞬間、受験者の手が完全に止まった。
『・・・事前診断よりも切開しなければいけない部分が大きい、厄介ですねぇ、これではオーバーラッピングは無理ですね』
受験者の面倒なものを見たと言わんばかりの声に支配人がokakaを睨む。
「お前・・・」
「言ったろ?実際の症例だって、事前診断と食い違うことなんてよくあるもんだ、それにオーバーラッピングを選んだのはあいつだ」
(さぁ、どう切り抜ける?)
心の中で問いかけたokakaがコーヒーカップをテーブルに置くと同時に、受験者の声が響いた。
『SAVE手術に切り替えます、メス、クーパー、それと念のために用意しておいた心膜パッチと縫合糸の準備を』
そう言った受験者はメスで切り込みを付け、ハサミのような器具で心臓を切開、心膜パッチを当て、回転楕円形に形成し、手術を進めていく。
「ほう・・・正解を引きててやがったか」
okakaは受験者の手並みを見て、満足そうな笑みを浮かべた。
「早いですね、もう除細動を終えて閉塞準備に入りました。一城様のタイムとさほど変わりありません」
桃花の計測にokakaは採点項目を端末に呼び出す。今回の受験者は全ての術式をSランク評価でクリアしてきている。このまま行けばこの試験も・・・そう思った時、試験終了のブザーが鳴った。
「やっぱりSランクでクリアしやがったか」
そう言ってokakaが立ち上がる。そして下のトレーニングルームへと降りていった。
「よう、竜神丸、パーフェクトクリアおめでとう、非常に心苦しいが最高成績だ。特に素体改造でやり慣れてるであろう移植については俺より早かったぜ。残念だがお前にもゲーマドライバーを支給しなきゃならんらしい。非常に悔しいが技術は本物だったみたいだな」
「どうも、お褒めいただいてるようで、おかげでゲーマドライバーをありがたく頂戴できますよ、okakaさん」
手術衣を脱いだ受験者、竜神丸がokakaから投げ渡されたトランクケースをキャッチすると皮肉を皮肉で返した。
「チッ・・・ガシャットは完成次第そっちに送る。それと、適合手術の件だが・・・」
適合手術、ゲーマドライバーは使用するために適合手術を受けなければならない、その事実を知らなかった支配人は声を荒げた。
「は!?それっていわゆる人体改造みたいなことしないと使えなかったのか!?・・・あっぶねー、失格でよかった」
「まぁ、言ってなかったしな。それに手術しようにも切った端から再生してくディアには元々使えないから真っ先にふるい落としたのは内緒な」
悪びれもせずにしれっと言い放つokakaは竜神丸に向き直ると資料を手渡した。
「それが適合手術の資料だ、どうせ自分のとこでやるんだろ?」
「そうですね、イーリスさんあたりにでも手伝ってもらいましょうか、あ、そうそう、イーリスさんのドライバーも貰っていきますね」
そう言ってあっさり資料ともう一つのドライバーを受け取って自分の部屋へと戻っていく竜神丸、既に自身にウィルスを打ち込むようなマッドサイエンティストだ、きっと自身の改造などなんとも思っていないのだろう。
「・・・いくら腕が良くてもアイツの治療は受けたくないな」
「・・・正直何言ってるかあんまり解かんなかったけどそこは同意しよう」
この日、okakaと支配人の共通認識が一つ、再確認されたのは完全な余談である。
あとがき
ちょっと息抜きに書いてみました。いくら腕が良くても実験台はゴメンですよね。ちなみに今回題材にした手術は【左室形成術】という心筋梗塞後の合併症(心室瘤や虚血性心筋症)、拡張型心筋症などによる高度左室機能不全を伴う慢性心不全に対する手術であり、左室容積を縮小させることにより心機能、生命予後の改善を図ることを目的とする術式です。
いわゆる【バチスタ手術】もこれと同じものですが、バチスタ手術は米国心臓病学会財団(ACCF)と米国心臓協会(AHA)の慢性心不全ガイドラインの推奨レベルClass III(有益でないまたは有害であり、適応でないことで意見が一致している)とされており、遠隔期に心不全の再発を高率に認めることが報告されているため、こちらの術式を採用しました。要はバチスタ手術から一歩進んだ術式と思ってもらえば解りやすいです。
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急にアイデアが出てきたので整理するためにも書いておきました