「あのうるさいの、何とかして!」
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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第参部)
EX回:第1話<雷雨>
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いま私たちは二式大艇で飛行中だ。晴天だったら楽しい旅になると思う。うん、それは日本を飛び立って、暫くはそうだった。途中立ち寄った台湾までは平和だった。
しかし残念なことに1時間ほど前から天候が急変した。機外ではドーン!ゴロゴロという轟音が続く。腹の底に来るような雷鳴だ。同時に機体は上下に大きく揺さぶられ、腹が浮くような気持ち悪い感覚に何度も見舞われる。
そのたび金剛……艦娘だが。彼女が訳の分からない雄たけびを上げる。それを隣の席の比叡が、なだめている。他の艦娘たちは、比較的落ち着いている。
「ぽいーっ!」
いや……落ち着きの無いのがもう一人いた。私はチラッと振り返る。顔面蒼白な金剛と夕立。別に雷光のせいではないな。
やれやれ……私は肩をすくめた。
お前ら、そんな状態じゃ、ブルネイに到着する前にバテてしまうぞ。
そうだ、この機体はブルネイへと向かっているのだ。
先般どういうわけか海軍省より突然、美保の艦娘たちに『海外の鎮守府所属の艦娘たちと公開演習をするように』と指示されたのだ。この前、呉の監査官からは、量産型艦娘の件はチラッと聞いていた。あれが、もう実用段階に入っているのだろうか? 正直、複雑だ。
確か、ブルネイに大規模な実験施設があるという噂は聞いたことがある。
だが軍事機密であることと、そもそも弱小な美保鎮守府には縁の無い話だと思って、あまり気にも留めなかった。
だが、もし量産化が本当だとしたら? うちの艦娘たちには衝撃の事実だろう。念のために出発後の機内で全員には話しておいた。
ところが金剛や夕立は、遠征そのものが久しぶりであり、しかも二式大艇という飛行機での移動。それだけで舞い上がって聞いちゃ居なかった。金剛とペアみたいな比叡も同類だった。その他の艦娘は多分、聞いてくれたけどね。
だいたい艦娘って現実感が無さそうだ。基本的に他人事だよな。
そして……あと1時間ほどで現地に到着と言う段階で急に嵐に突入したのだ。機長によると、これは気象図には無いゲリラ的なもので、この辺りでは珍しくもないそうだ。
とはいうものの日本の嵐とはスケールが違うし、この機体で大丈夫なのかな?
さっきから金剛と夕立は、もう半狂乱だ。お前ら軍人だろ! 少しは落ち着けって。だいたい出発前まで一番浮かれていたのはお前ら二人なんだけどな。呆れるよ。
そういえば、この機体には技師が一名同乗している。しかも女性。階級は私より上の技術参謀だ。階級章が眩しい!
わざわざ本省から大艇に乗って前日に美保に乗り込んできた。艦娘が女性だから? と言うわけでもないだろうが珍しい。そういえば美保の祥高と、ずっと話し込んでいた。気難しそうな人だから、私としては助かったが。
もちろん、彼女もこのくらいの嵐では何もない。ただ彼女、やっぱり性格もキツイ。
「ちょっと司令!」
「はいっ!」
来たな! 私は直ぐ答える。
「あのうるさいの、何とかして!」
いすに座ったままの彼女はアゴで指差す。
「はいっ!」
私は取り敢えず敬礼。とは言うものの正直、金剛や夕立をなだめるのは無理だと思う。出来ればもうやっている。
私は揺れる機体の中で立ち上がると、転ばないように気をつけながらガタガタ震えている艦娘に近づく。
「な、二人ともいい子だから静かにしてくれ……」
やれやれ……こいつらと私、どっちが上官だ?
金剛は歯を食いしばってる。
「woo ~~!▲○?kype ★あっ!」
意味不明の単語を羅列している。当然、私のことは、無視だ。
翻って夕立を見る……彼女桃大きく眼を開いている。
「ボイーー」
やはり、私のことは、無視。眼中にも無いな。やれやれ……ダメだこりゃ。思わずため息が出た。
この技術参謀の女性、そういえば祥高さんを捕まえて、密室で何かガミガミ絞っていたようだった……嵐よりこっちの方が怖いぞ。金剛や夕立以外の艦娘たちは皆、ずっと黙ってる。彼女たちの性格もあるだろうが、この怖い彼女に緊張しているのかも知れない。
突然、機体が持ち上げられたかと思ったら急激に下がる感覚があり激しい振動が襲う。
「ぽいーー!」
「うるさい!」
また技術参謀の怒号が飛ぶ。まぁ……どっちもどっちだと思うが。
取り敢えず私は努力はしたので席に戻る。撤退する私に対して特に参謀の追及も無い。ホッとした。
やがて急に周りは静かになり、機体の外が青く明るくなった……雲の外に出たのか?
いや、甘かった。次の瞬間、静電気の強い感じの妙な電流が機体全体を覆った。機内のすべての金属が帯電、または放電し始めている。
金剛の叫び声が聞こえる。
「ぎえええ!」(日本語)
「お姉さまぁ!」
比叡の異常な叫び声に私は思わず振り返る。するとあろうことか金剛姉妹の被り物からも激しく放電していた。これは見方によっては滑稽ではある。しかし本人たちには気持ち悪そうだ。
「ああ、うるさい!」
そう言う鬼のような技術参謀のメガネからも見事な稲妻が出始めているぞ。
「チッ!」
舌打ちすると彼女は、自分のメガネを外そうとしている……が
「あ痛!」
そう言って彼女はメガネから手を離した。強烈な静電気が出ているようだ。痺れたのだろうか、手を振っている。正直、ざまミロという気分になって若干、溜飲が下がった。
「……!」
既に夕立の金髪は、すべてが空中に放散中だ。いや、これは爆発と表現すべきだろうか? 案の定、恐怖で声が出ていない彼女。昔見た怖い映画の特撮みたいだな。
「……」
今回は空母の赤城さんも同乗していた。彼女の長い黒髪も、夕立同様、四方八方に爆発的に開いている。ところが、あれ? 彼女、そんなことは一向に気にしないで、一心不乱にボリボリと、何か食べてる。さすが一航戦、強い。
「食べまふ?」
すまし顔で私に貸し袋を差し出す彼女。私は苦笑した。
「いや、良い」
その空間が数分続いただろうか? 機体は突然、その変な場所から再び太陽が降り注ぐ青空の中へと放り出された。
「おええっ」
夕立だな。
「……」
気づくと、あれ? ……技術参謀が気絶している。可愛そうに白目剥いているよ。おまけに、若干のよだれも。
するとバシャっというカメラのシャッター音。同時にストロボが発光している。おいおい止めろって青葉! そんな写真を撮ったのバレたら、後から参謀に半殺しにされるぞ!
だが彼女はファインダーを覗きながら、あっけらかんとして言う。
「スクープですって」
そのまま彼女は写真を数枚、連写している。ああ……知らないぞ。
だがこのとき私は技術参謀の顔を初めて、まじまじと見詰めた。今までは怖いので直視出来なかったのだが……その眼鏡の下は、よく見れば美人系だった……もとい。しばらく、おやすみ下さい。
やがて機体は、ゆっくりと降下を始めた。あれ? 私は改めて窓の外を見た。
「晴れている?」
思わず声が出た。その言葉に機内の艦娘たちも、いっせいに窓の外を見ている。
いったいどうなってるんだ?
「ねえ、見て見て!」
誰かが叫んだ。よく見ると、水平線の遥か向こうに、ブルネイの鎮守府らしき建物がみえる。
ついに来たのか……
眼科の海面には、ところどころに南国特有のサンゴ礁が散見される、青い海が綺麗だけど、なぜか気が重い。
そもそも到着前から疲れた。
「やれやれ……」
少しホッとした私は改めて座席に深く腰をかけた。
「このまま休暇扱いにしてほしいよな」
そんなことを呟きながら私は座席で脱力していた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第参部」の略称です。
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提督と選抜された艦娘たちが乗った二式大艇は、南方へ向かう途中で嵐に翻弄されていた。そして……