No.879463

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第十一話


 お待たせしました!

 今回より本格的に反董卓連合編です。

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2016-11-16 21:25:42 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:4411   閲覧ユーザー数:3459

 

「それじゃ、やはり董卓側は汜水関を強化しているのね?」

 

「強化かどうかははっきりと分からないのですが、多くの兵が入って大がかりな作業を

 

 行っているとの事です」

 

「作業の内容を探る事は出来なかったの?」

 

「余程内容が洩れるのを警戒していたのか、本来なら人夫でやるような雑務に至るまで

 

 全て董卓の正規兵で行われていたらしく、入り込む事も金で聞き出す事も出来なかっ

 

 たようです。しかも探りの者の内、何人かは始末されてしまったようで…」

 

「そう…それは残念ね」

 

 夏侯淵の報告を聞いた曹操はそう言ってため息をつく。

 

 今、曹操がいるのは汜水関より三十里(此処では一里=400mでお送りします)程離れ

 

 た場所である。此処には袁紹の檄に応える形で集まってきた諸侯の軍勢がほぼ集結し

 

 てきていた。本来ならば何かしらの軍議のような物の一つでも行われても良さそうな

 

 所ではあるのだが…。

 

「まったく…麗羽の奴、檄を飛ばした諸侯が全て集結するまで軍議は開かないとか言い

 

 出すし、他の諸侯が来てから大分経つのに涼州連盟はまだ来ないし…このままじゃ各

 

 軍勢の士気も下がってしまうわ」

 

 袁紹が檄を飛ばした諸侯の内、馬騰率いる涼州連盟だけが到着どころか先触れさえも

 

 来ない状況が続いており、集まった諸侯の軍勢の中には一種弛緩したような空気が流

 

 れ始めていたのである。

 

(ちなみに、荊州の劉表は自身が病気の為、代理で腹心の蔡瑁を向かわせるがもう少し

 

 遅れると連絡があり、益州の劉璋は境を接している五胡の部族が不穏な動きを見せて

 

 いる為、今回は軍を派遣出来ないと連絡が来ている)

 

 

 

「しかし、このままでは向こうが万全…いや、それ以上の防備を固めてしまうのを許す

 

 だけだというのに。麗羽に何度言っても聞く耳持たないし」

 

「…それは件の北郷が向こうにいるからですか?」

 

「ええ、北郷の知識と技術は私達の想像以上と見るべきよ。そして時間を与えれば与え

 

 る程それは遥かなる障害となって立ち塞がってくる。だからこそ、一刻でも早く攻撃

 

 を仕掛けるべきなのに…麗羽にはそれが分かっていないのよ」

 

 曹操はそう言って悔しそうに唇を噛む。

 

(華琳様の仰る事も分からないではないが…その北郷とやらを何故そこまで恐れるのだ

 

 ろうか?確かにあの踏車を造ったという事については一目置くべき程の技術を持って

 

 いるのは間違いないのだが…それが戦の何処に役に立つというのだ?如何に絡繰に長

 

 けているとはいっても、戦とは結局の所、将兵達個人の力とそれを指揮する者の力に

 

 よる物のはず…向こうが如何に巧妙な絡繰を仕掛けてこようとも、これだけの諸侯が

 

 集っているのであれば、十二分に粉砕出来るはずだが…)

 

 そして曹操が何をそんなに焦っているのか、夏侯淵でさえも理解出来ていないのであ

 

 った。

 

 ・・・・・・・

 

 所変わって、劉備の陣。既に指定の場所について数日が経過していた。

 

「朱里ちゃん、こっちについてから大分経つけど、戦を何時始めるのかな?」

 

「どうやら、檄を飛ばした諸侯の内、涼州の馬騰様からの連絡が無い為、それを待って

 

 いるようでしゅ…はわわ、噛んじゃった」

 

 劉備の質問に諸葛亮はそう答える。

 

「でも、何時までもこんな所でボヤボヤしてたら董卓軍の備えが進んじゃうし、こっち

 

 の士気も下がっちゃうんじゃないの?」

 

 

 

「兵の皆さんの士気については問題ありません。その為に天和さんに来てもらっている

 

 わけですし」

 

「それじゃ、さっき歌が聞こえたのは…?」

 

「はい、天和さんに一曲歌ってもらったんです」

 

「良いなぁ…それだったら私も聞きたかったよぉ」

 

「桃香様、仮にも主君であるならば、まずはきちんと仕事をしてからです。先程は兵の

 

 人達が交代で休めるように割り振りを考えていましたよね?」

 

「はぁ~い…ところで、朱里ちゃん。董卓軍って今どの位の兵力があるの?」

 

「探りに派遣した者もさすがに全て帰って来たわけではないのではっきりとした数まで

 

 は分かりませんが…十万以上はいるとの情報は入っています。しかも、我々が進軍す

 

 る先に立ちはだかる汜水関では大がかりな作業は行われていると…おそらくは防御を

 

 固めているのか、我らを嵌める何かの罠ではないかと」

 

「むぅ…何で洛陽の人達を苦しめている董卓さんなんかの為に頑張っているのかなぁ…

 

 やっぱり、無理やり働からされてるのかなぁ」

 

「全ては洛陽に入る事が出来れば分かると思いますから」

 

 諸葛亮は劉備にそう言いながらも、頭の中では…。

 

(この戦、何かがおかしいとしか思えない…そもそも、本当に董相国が本当に暴政で民

 

 を苦しめているのか?それに、汜水関での作業があまりにも分かり易すぎる程に大が

 

 かりすぎるのも…もしかしたら、私達が本当に警戒しなければならないのは、汜水関

 

 ではなく、その先の虎牢関なのでは?そういえば、虎牢関の方へ探りに行かせた者は

 

 一人として戻って来ていない…それ以上の証拠が無いのがもどかしいけど、警戒を厳

 

 にした方が良いのかもしれない。何だろう…考えれば考える程、嫌な予感ばかり膨ら

 

 んでいく。この戦、そう簡単には終わらないかも)

 

 別の事を考えていたのであった。

 

 

 

 そして、董卓軍の動きに警戒する者は他にも…。

 

「どうだった、董卓側の様子は」

 

「はっ、汜水関にてかなり大がかりな改修作業が行われておりました。既に向こうの態

 

 勢はほぼ整っているものと推察されます」

 

「ちっ、やはりか…しかし、董卓の家来に随分と土木に長けた奴がいるようだな。俺の

 

 所に連れて来て、水路の整備とかさせたいものだ」

 

 そう一人ごちているのは江東の太守である孫堅であった。袁紹の檄に応じ連合に参加

 

 した彼女は、家臣の周瑜に命じて董卓側の動きを探らせていたのだった。 

 

「ねぇ、冥琳?向こうが何かしているのは汜水関だけ?」

 

 そこに入って来たのは孫堅の娘の孫策であった。ちなみに孫策と周瑜は身分の差を超

 

 えた絆で結ばれている。

 

「何が言いたい、雪蓮」

 

「私は虎牢関とか怪しいと思うんだけど」

 

「ほぅ…その根拠は?」

 

「根拠?そんな物無いわよ。あえて言えば…勘ね」

 

「勘だと?お前の勘がそう言っているのか?」

 

「ええ、汜水関での大がかりな作業って、実は虎牢関の方を隠す為の目くらましなんじ

 

 ゃないかなって」

 

 その孫策の言葉に孫堅も周瑜も考え込む。

 

「炎蓮様、今の雪蓮の考え、決して馬鹿に出来る物では…」

 

「ああ、俺の頭の中にもずっとモヤモヤした物があったんだが、今の雪蓮の言葉でそれ

 

 がはっきりした。確かに汜水関ばかりに眼がいって、その先にある虎牢関の事を忘れ

 

 ていた。冥琳、すぐに明命に虎牢関を探らせろ」

 

 

 

「明命に…ですか?」

 

「ああ、おそらく生半な者では報告はおろか、帰ってくる事すら出来ない可能性が高い。

 

 だから明命にだ、良いな?」

 

「分かりました、すぐに向かわせます」

 

 ・・・・・・・

 

「一刀、こいつ何やこの辺りを探っとったんで捕まえて来たで」

 

 虎牢関の強化も一段落して数日後、小休止をしていた俺の前に霞が引っ立てて来たの

 

 は、忍者のような格好をした女の子であった。

 

「何処の誰、この娘?」

 

「さぁ…まったく何も言いよらへんし。そういや、捕まえた時に『不覚、この周幼平と

 

 もあろう者が』とか言っとったからそれがこいつの名前かな?なぁ、そうやろ?」

 

 霞にそう聞かれても、その娘は何も答えない。しかし、周幼平…何処かで聞いた名前

 

 だな。もしかして…。

 

「ねぇ、周泰さん?もしかして君は孫堅とか孫策とか言う人の家臣の人?」

 

「ふぇ?何で私の名前と孫堅様達の名前を!?…って、しまった!」

 

「一刀、こいつの事知っとったんか!?」

 

 俺が『周幼平』というヒントから『周泰』という彼女の名前と『孫堅・孫策』という

 

 主君の名前まで言い当ててしまった事に驚いたらしい周泰さんは驚きの余りあっさり

 

 自白してしまう。そして、横にいた霞も驚きを隠せずにいる…まあ、普通はそうです

 

 よね~。

 

「まあ、知っていたといえば知っていたかもしれないし、知らなかったけど当たっちゃ

 

 ったといえばそうなるって話かな」

 

 俺はそう答えるが、当然二人とも納得したような表情は見せていない。

 

 

 

「とりあえず、今はそれより重要なのは、袁紹の檄に応じているはずの孫堅の家臣が此

 

 処を探りに来ていたという事だ」

 

「確かにそうや…そもそも、虎牢関の方までは来れんように『結界』とかいうのを張っ

 

 ておったはずやのに、何故こいつは此処まで来れたいう事もやな」

 

 今、霞が言った『結界』というのは、諜報活動に長けた面々で敵側の間者を排除・捕

 

 縛するようにした配置の事である。ちなみにこれまで既に汜水関からこっちに入ろう

 

 とした間者を既に何人か排除・捕縛済みらしい。

 

「どうやら彼女は『結界』を掻い潜れる程の技量の持ち主って事なのだろうけど…そう

 

 いえば、霞はどうやって彼女を捕まえたの?」

 

「いや、偶然近くに迷い込んで来た猫と遊んでたらこいつが勝手に気配を見せただけな

 

 んやけどな」

 

「不覚です…まさかこのような所にあのような可愛らしいお猫様がおられるなんて。お

 

 猫様に気を取られさえしなければ…はっ!まさか、それを狙ってわざとお猫様を!?」

 

「「いや、そんなわけ無い(あらへん)から!!」」

 

 周泰さんのその馬鹿げた問いに俺と霞は揃ってツッコむ。しかし、周泰さんは随分と

 

 猫にご執心のようで…っていうか、周泰ってそんなんだったっけ?もう三国志の知識

 

 なんて何一つ役に立たないような気がして来た今日この頃だ。

 

「さて、それはともかく…周泰さん、あなたは御主君の命で来たのは分かるけど、一体

 

 何を命じられて来たのかな?」

 

「……」

 

 俺の問いに周泰さんは口を噤んでしまう。まあ、隠密行動で来てる以上、普通そうな

 

 りますよね。ならば…。

 

「霞、ちょっと」

 

「何や?」

 

 

 

「あの…ゴニョゴニョ」

 

「ふむふむ…でも、そないなもんでどないするつもりや?」

 

「それはやってみてからのお楽しみという事で」

 

「ふ~ん…まあ、ええわ。此処では一刀の指示に従えって月に言われてるしな。ちょっ

 

 と待っててや」

 

 ・・・・・・・

 

「ほい、連れて来たで」

 

 そう言って霞が抱えていたのは…猫であった。さっき霞が遊んでいたと言ってたから

 

 まだそんなに遠くへは行っていないとは思っていたけど、予想通りだったようだ。

 

 俺は霞が連れて来た猫を胸に抱いて周泰さんの前に座る。周泰さんの眼は一心に猫に

 

 注がれている。

 

「周泰さん、この猫の命が惜しければ知ってる事を全て話してもらいましょうか?」

 

 しかし、俺がそう言った瞬間、彼女の顔色が変わる。

 

「ひどいです!お猫様には何の罪も無いではないですか!?」

 

「うん、そうだね。そもそも嘘だし…っていうか、周泰さん位の人なら俺が本気で猫を

 

 殺すつもりがあるかどうか位分かりますよね?」

 

「ううっ、ひどいです…このような辱めを受けたのは生まれて初めてです」

 

「そう?だったらもっと厳しい辱めを受けていただきましょうか」

 

「「えっ…ええええええっ!?」」

 

 俺のその発言に周泰さんだけでなく、霞も一瞬呆けたような表情を見せ、その直後に

 

 顔を凄まじいまでに真っ赤にして驚きの声をあげる。

 

「か、一刀…まさか、お前、最初からそういうつもりやったいうわけか…?」

 

 

 

「ひどい、ひどいです…敵の手に落ちた以上、無事には済まないとは思っていましたが、

 

 それはあまりにも…だったら、問答無用でそうされていた方がまだ…お父さん、お母

 

 さん、文台様、申し訳ございません。私はこのまま辱めを受けて、そのまま何処か知

 

 らない土地に売られて奴隷のような生活を…出来ればもう一度綺麗な身体のままでお

 

 会いしたかったですが、それは二度と叶わぬ夢のようです…ぐすっ」

 

「ええっと…何だか色々と誤解してるみたいだけど、そういう事じゃないから」

 

「「えっ、違うのですか(違うんか)?」」

 

 何やら怪しげな誤解をしているようなので、俺がそれを即座に否定すると、二人は揃

 

 ってそう返す…俺は一体何だと思われているのやら。

 

「確かに世の中にはそういう無理やりなのが好きな腐れ野郎はいるけど、俺は無理やり

 

 とか嫌だし。そういうのは相手と同意の上じゃないとするつもりは無い」

 

「ならば私をどうするつもりなのです?」

 

「とりあえず…失礼」

 

 俺は周泰さんに目隠しをする。

 

「ええっ…何でこんな事を?やはり気が変わってそういう事を…」

 

「違うから…霞、彼女を汜水関の外まで運んでそこで解放してあげて。この猫と一緒に」

 

「ええんか?こいつ敵なんやろ?そもそも解放するなら何で目隠しなんかするん?」

 

「良いんだ、目隠しはこれ以上こっちの作業を見せない為だ…周泰さん、あなたを解放

 

 します。但し、あなたの御主君に伝えてください『連合が幾ら押し寄せて来ようが絶

 

 対に汜水関は抜けない』とね」

 

「汜水関?虎牢関ではなく?」

 

 ほぅ…やはり孫堅は虎牢関が怪しいと睨んで周泰さんに探らせていたのか。

 

 

 

「ああ、汜水関で間違いないよ。とりあえず、今の言葉を御主君に伝えてくれるのであ

 

 れば、君の事は解放します。分かっていると思いますが、これがあなたへの辱めです」

 

「むむ…確かに敵陣に探りを入れて捕まった挙句、敵方に温情をかけられてしかも伝言

 

 役にされるとは…確かにこれは辱めです。しかし、今の私にはそれを受け入れるしか

 

 生きる道が無いのが悔しい限りです」

 

「それじゃ、受けてくれるのですね?」

 

 俺の問いに周泰さんは頷きを以て返してくる…しかし、何か言いたげな感じだ。

 

「どうしました?何か仰りたい事でも?」

 

「一つだけ…あなたの名前を教えてください。あなたの伝言役をするのですから、その

 

 位は良いですよね?」

 

「それもそうですね…我が名は『名無しの権兵衛』です」

 

 それを聞いていた霞は『いきなり何言ってんだ、こいつ』みたいな表情を見せていた。

 

 しかし、周泰さんは…。

 

「姓が七、名が志野、字は権兵衛…その名、忘れません」

 

 おや、信じちゃった…まあ、良いか。

 

「それじゃ、霞」

 

「あいよ」

 

 そして周泰さんは霞の手によって猫と一緒に汜水関の外へと連れ出されていったので

 

 あった。

 

(ちなみに霞には後で名無しの権兵衛の事について説明すると、彼女は大爆笑だったの

 

 は言うまでもない)

 

 

 

 そして再び孫堅の陣にて。

 

「つまり、それでお前は猫に気を取られて敵に捕まった挙句、その猫を進呈されておめ

 

 おめと伝言役を引き受けて戻って来たという事か」

 

 周泰の報告を受けた孫堅はそう言いながら盛大にため息をつく。

 

 周泰は明らかに不機嫌全開の主君の前で申し訳ない表情でかしこまったままの状態で

 

 あった…腕にしっかり猫を抱いている事を除けば。

 

「それで、向こうの将は間違いなく『汜水関は抜けない』と言ったんだな?虎牢関には

 

 何も無かったのか?」

 

「虎牢関の備えを確認する前に捕まって、解放されるまで目隠しをされたままでしたも

 

 ので、虎牢関に何があったかまでは…」

 

「雪蓮、お前はどう思う?」

 

「私の勘はますます虎牢関が怪しいって言ってるわ」

 

「だろうな…しかし、これ以上向こうを確認する事も出来まい。どうする、冥琳?」

 

「ならば我々は汜水関攻めの先鋒を申し出る事にしましょう」

 

「汜水関のか?」

 

「はっ、雪蓮の勘もさる事ながら、明命程の者まで捕える程の備えをしてまで隠そうと

 

 するのですから、虎牢関には余程の物があると見るべきかと。そのような所に攻め入

 

 るなどすればこちらの被害も甚大になるは必定。しかしながら、汜水関の方はあれだ

 

 け派手にやって逆に見せつけているとなればおそらくは見せかけのみ、ならばそれ程

 

 損害も出ないかと。汜水関を攻め落とした後ならば、その際に思った以上に犠牲が出

 

 た為一旦軍を立て直すとでも言えば、虎牢関攻めの方は回避出来るものと」

 

 

 

 それを聞いていた孫堅はなるほどと頷いていたが、逆に孫策はより顔をしかめていた。

 

「どうした雪蓮、私の考えは何かおかしいか?」

 

「普通に考えれば、冥琳の言う事が正しいと思うのだけど…汜水関にも何かあるんじゃ

 

 ないかって思うわけよ」

 

「それも勘か?」

 

「勘ね…残念ながら他に何の証拠も無いし」

 

 言ってるその言葉こそあやふやではあるが、孫策のその顔は自信に満ち溢れていた。

 

「確かに雪蓮の言う通りかもしれん。俺の眼から見ても汜水関の作業がただの見せかけ

 

 には見えないしな…しかも、捕まえた明命をわざわざ解放して伝言役にさせたという

 

 その『七志野権兵衛』とかいう男、おそらくその一連の作業に関わっているのであろ

 

 うが、そいつが『汜水関は抜けない』と言ったんだ。単に虎牢関から眼を逸らす為だ

 

 けの言葉ではあるまい。雪蓮、冥琳、この戦い予想以上に気が抜けないものになりそ

 

 うだぞ」

 

 孫堅のその言葉に孫策と周瑜は揃って頷く。するとそこへ…。

 

「孫堅様に申し上げます!袁紹様より『軍議を始めるので、参集した諸侯は我が陣へ参

 

 られたし』との事です!!」

 

「軍議?…馬騰が到着したのか?」

 

「いえ、まだそのような話は」

 

「どういう事だ?袁紹の事だから馬騰が来るまで動かないと思っていたのだが…」

 

「おそらく袁紹陣営の誰かか袁紹に近い者が『このままでは董卓軍に万全の態勢を敷か

 

 れてしまうから、これ以上馬騰を待っている暇は無い』とでも説き伏せたのではない

 

 かと」

 

「なるほど…有り得るな。ともかく、俺は袁紹の陣へ行ってくる。留守は任せたぞ」

 

 

 

 そして袁紹の陣にて。

 

「皆さん、この度はよくぞこの私、袁本初の為に集まってくださいましたわ!今、洛陽

 

 は董卓とかいう何処ぞの馬の骨とも分からない田舎者に占拠されておりますが、この

 

 私の下に集まったこの力を以て必ずやかの者を叩きだし、洛陽におわせられる陛下の

 

 御心を安んじたまえる事でしょう。お~っほっほっほっほっほっほ!お~っほっほっ

 

 ほっほっほっほ!!」

 

 その袁紹本人が集まった諸侯の前で高笑いをあげていたのであった。

 

「麗羽、そんな前置きはいらないから。今は如何にして軍を進めるかを決めなきゃなら

 

 ない時位、あなたにだって分かってるでしょう!」

 

「あらあら、華琳さんは相変わらずですわね。そういう時だからこそ余裕を持って行動

 

 するのが上に立つ者としての度量というものではありませんか」

 

 そんな袁紹に曹操が苛立った表情でそう詰問するが、袁紹はそれをするりとかわす。

 

「さて、確かに華琳さんの言う通り、軍を進める為に皆さんに此処に集まってもらいま

 

 した。しかし、軍を進める為には真っ先に決めておかなければならない事があります。

 

 皆さんはそれが何だか分かりますか?」

 

 袁紹のその問いに皆一様に戸惑った表情を見せる。

 

「麗羽…もったいぶらなくて良いから、それが何だか聞かせてもらえる?」

 

 そしてその状態がしばらく続いた為、さらに苛立ちの色を濃くした曹操が袁紹に答え

 

 を促す。

 

「ふぅ…仕方ありませんわね。それは『総大将を決める』という事ですわ!」

 

 袁紹はそうふんぞり返って答えるが…その場にいた他の諸侯全員の表情は一様に呆れ

 

 かえったような感じになっていた。

 

 

 

「何ですの?そもそもこれだけの軍が一堂に会したわけですから、誰がその中心になる

 

 かを決めるのは重要な事ではありませんか」

 

「ああ、もう良い、良く分かったわ。麗羽で良いでしょう、もう。そもそも檄を飛ばし

 

 たのもあんたなんだし」

 

「あらあら、ただ今、華琳さんからこの私が推薦を受けましてしまいました。他に誰か

 

 おられませんか?自薦でも他薦でも構いませんでしてよ?」

 

 袁紹にその問いに誰も答えない。

 

「ならば、この袁本初が総大将を務めさせていただきますわ!」

 

 その沈黙を是と認識した袁紹は、そう宣言する。皆、色々と戸惑いはあるもののこれ

 

 で改めて軍議に入る事が出来ると思ったその時…。

 

「では、皆さんは陣に戻ってすぐに軍勢を動かす準備を。この勢いを以てすぐに敵の拠

 

 点である汜水関に攻めかかりますわ!」

 

 袁紹のその発言で場は一気に困惑の度合を深める。

 

「待て、袁紹!攻めるといってもどう攻めるのだ!それを決める為の軍議ではなかった

 

 のか!?」

 

 その場の皆の疑問を代弁するかのように孫堅がそう袁紹に問いかけるが…。

 

「そんなもの『華麗に、雄々しく、勇ましく』攻めかければ良いに決まっていますわ!

 

 ついでに汜水関攻めの先鋒は孫堅さんにお任せしますわ!」

 

 袁紹の馬鹿丸出しのその発言にその場にいる全員が固まる。しかも、もののついで

 

 みたいな感じで先鋒と言われた孫堅はたまったものではない。

 

「おい、袁紹!何を勝手な事を…」

 

 

 

 

 

 

 

「私は総大将でしてよ!一度皆でそう決めた以上、総大将たるこの私の命令は絶対です

 

 わよ!さあ、皆さん、そうと決まればすぐに実行あるのみですわ!」

 

 孫堅の抗議の声にも耳を貸さず、軍議を終わりにしようとしたその時、駆け込んで来

 

 た伝令の言葉でその場の空気は一変する。

 

「申し上げます!!馬騰様率いる涼州連盟の軍が…」

 

「あらあら、ようやくの御到着ですの?ならば、総大将たる私の所へ…」

 

「い、いえ、違います!りょ、涼州連盟の軍が董卓軍への加勢の為に洛陽に入ったとの

 

 事です!」

 

「な、な、な、何ですってぇーーーーーーー!?」

 

 それを聞いた袁紹の叫び声はむなしくその場に響き渡っていたのであった。

 

 

                                     続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は少し早く此処まで書けました。

 

 今回は反董卓連合側に与した曹操・劉備・孫堅陣営の

 

 話を中心にお送りしました。

 

 ちなみにこの話では孫堅さんが健在で孫呉が独立を保

 

 っているという設定でお送りしておりますので。

 

 次回から正式に戦いが始まりますので、汜水関に仕掛

 

 けた罠や虎牢関での備えが炸裂するのはもう少しお待

 

 ちくださいませ。

 

 次回は汜水関での戦い(?)及び董卓側に与した馬騰

 

 側のお話などをお送りする予定です。

 

 

 それでは次回、第十二話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 一応、補足しておきますと、公孫賛さんも連合

 

    側にちゃんといますので。台詞は…まあ、その

 

    内にという事で(オイ。

 

 


 
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