アビスドレイクを倒した三女神達は、この敵を指揮していると思われるボスを探しに行きました。
「一体、誰がこんな事を……」
「碌な奴じゃないって事は確かだけどな!」
「早めに倒しましょう!」
「それと、あなたは安全な場所にいて! あなただけじゃ勝てないから!」
「……ああ!」
ジャンヌ、ゲール、バイオレット、トールは前へ前へと進んでいきました。
バイオレットは、男に避難するようにと言いました。
―ドン!
「きゃっ!」
その時、ゲールが何者かにぶつかってしまいました。
彼女が顔を上げると、そこにいたのは赤い鎧と兜を着用した、
巨大な剣を持つ身長2m前後の巨漢でした。
「お前は誰だ?」
「わ、私はゲルダ! あなたは!?」
「名を名乗る前に、まずはお前がどれほど強いかを試させてもらう」
そう言うと、男は持っている剣をゲールに振り下ろしました。
まずい、と思ったゲールが両手を交差して防御しようとした瞬間、
ゲールと剣の前に結界が現れ、彼女に剣は届きませんでした。
その結界を張ったのは、ジャンヌでした。
「よくもわたくしの妹に手を出しましたね!」
「ほう……その女はお前の妹だったのか」
「教えなさい! 何故弱きものを襲ったのか!」
ジャンヌは毅然とした表情で、風の剣を構えながらそう言いました。
「俺が戦いたい相手は、ただ1つ。強いもののみだ」
「だからといって、無差別に他人を襲うなんて信じられません!」
「何度でも言え、俺は力の象徴……四使徒が一人、火のビカンテだからな!」
その男は、ジャンヌ達が探していたマザー教団四使徒の一人、火のビカンテでした。
「火のビカンテ……!」
「さあ、来るなら来い!」
「だったら一撃、食らわせてやるよ!」
ビカンテの挑発に乗ったかのようにトールがミョルニルを振り下ろしました。
しかし、ビカンテはバリアでそれを防ぎました。
「何っ!?」
「力こそ全て、力こそが正義……故に、力なき者は敗北しかあり得ぬ!」
「アンタは力以外の何も信じないようだな!」
「無論! 貴様ら力なき者を自らの手で討ち果たす事が、俺の存在意義だからだ!」
「この野郎!」
そう言い、トールはミョルニルをもう一度ビカンテに振り下ろしました。
「力だけでは何も解決できない! 弱い奴を守るというのも、存在意義の1つなんだぞ!」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!」
―ガキィィィィン!
トールのミョルニルとビカンテの大剣がぶつかり、大きな金属音が鳴り響きました。
「トールさん! 今、加勢しま……!」
「邪魔はさせん!」
そう言ってビカンテが呪文を唱えると、
空間が遮断されて三女神からトールとビカンテの姿が見えなくなりました。
「結界だと!?」
「そうだ! 正々堂々、俺とお前で1対1の戦いをする!
どちらかが斃れるまでこの結界は解除されず、その間は内外の行き来は不可能!」
「つまり、ジーンもゲルダもヴィアも、アンタには手を出せないって事なのか……!」
「そうだ! さあ、ゆくぞ!!」
「絶対に負けないからな!!」
ビカンテの剣と、トールのミョルニルが衝突しました。
「はぁあぁぁぁぁぁっ! ダークインパクト!」
ビカンテは闇を大剣に纏わせ、踏み込んでトールを斬りつけました。
一撃を受けたトールは一瞬怯みました。
「ふん、この程度で怯むとは……」
「このくらい平気なんだよ! はぁぁぁぁぁぁぁ!」
トールは勢いをつけて走り出し、それを利用してミョルニルを振り下ろしました。
「ぐっ!」
「どうだ!」
「だが、この一撃は見切れまい! ラッシュスラスト!」
ビカンテは大剣に気合を込め、連続で敵に斬りつけました。
それにより、トールは大ダメージを受けてしまいます。
ビカンテもジャンプして遠くに離れましたが、
トールは逃がさずミョルニルを持って突っ込んでいきました。
「ファイアインパルス!」
「ぐほぁっ!」
トールのミョルニルがビカンテに命中すると、
そのあまりの衝撃に火花が飛び散り、ビカンテも軽く吹っ飛ばされました。
ビカンテは大剣を構え直し、トールにゆっくりとこう言いました。
「貴様は、あの弱い女を守るつもりなのか?」
「そうだ! あいつらを神界に帰らせるために、オレはあいつらを守ってやるんだ!」
「笑止! 貴様のようなものが弱者に興味を持つとは愚かだ!
何故、自分のためにその力を使わないのだ!」
ビカンテが大剣を振るって、トールを斬りつけました。
対し、トールはミョルニルを連続で振るってビカンテを殴りつけました。
「確かに自分のためにも使うさ……でもなぁ!
好き勝手に使って、他人に迷惑をかけるのは嫌いなんだよ!」
そう言い、トールは高く飛び上がった後、
「アンタみたいに……なぁ!!」
「がはぁぁっ!」
ミョルニルによる渾身の一撃をビカンテにぶつけました。
その一撃が決まったのか、ビカンテは嘔吐して崩れ落ちました。
「ぐぅ……よくもこの俺を、追い詰めた、な……」
「油断すると負けだぜ、さぁ大人しく負けを認めな!」
「まだだ……まだ俺は、立てる……!」
そう言うと、ビカンテは最後の力を振り絞って立ち上がり、大剣に闇の魔力を込めました。
それは、今までビカンテが繰り出してきた技とは比べ物にならないほどの強大な魔力でした。
同時に、ビカンテの大剣を、激しい炎が包み込みました。
「我が闇の力、思い知るがいい……! 奥義! 冥火幻舞刃!!」
そして、ビカンテが大剣を振ると、斬撃と共に地獄の炎がトールを襲いました。
あれをまともに食らえば、雷神であるトールでさえひとたまりもないでしょう。
それだけは避けたい、とトールはミョルニルで防御しました。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それでも、トールが受けるダメージは、決して小さなものではありませんでした。
斬撃によってトールの体には大量の傷がつき、
さらには地獄の炎に焼かれたため大火傷も負ってしまいました。
―カチャリ
「ぐ……ぅぅぅ……っ!」
それと同時に、ビカンテの体にも多大な負担がかかったのか、彼は大剣を落とし、膝をつきました。
そして、外と内を遮断していた結界も解けるのでした。
「見事だ……この俺を打ち破るとは……」
「オレも……もう、瀕死だ……」
トールが倒れようとすると、ビカンテは彼を支え、ゆっくりと体を起こしました。
「な……何故、だ……!?」
「俺は人間でありながら、神であるお前と互角に戦った。そしてお前も、俺に勝ったのだろう?」
「そう……だ、が……」
「ならば俺も、お前の勝利を認めよう。さあ、立つがいい」
「あ、あ……」
トールがゆっくりと立ち上がった、その時です。
「……がはっ!」
ビカンテの胸を、黒き刃が貫いていました。
「……ぐ……はぁ……っ」
ビカンテは力尽きたのか、ゆっくりと崩れ落ちました。
「……ビ、カン、テ……?」
トールはあまりの衝撃に呆然としていました。
倒れたビカンテの背後には、黒髪の青年がいました。
「な、何が起こったんです!?」
ジャンヌ、ゲール、バイオレットは、大急ぎでトールのところに向かいました。
「大変なんだよ……ビカンテが、ビカンテが……!」
「……!!」
ゲールは倒れたビカンテに近づき、呼吸を確認しました。
「ダメです……生命力が尽きていて、もう、治りません」
ゲールのその言葉は、ビカンテが死んでいるという事を証明するものでした。
「一体、誰がビカンテを殺したの!」
バイオレットがそう叫ぶと、彼女達の目の前に青年が現れました。
「分かっていないのか? 俺だよ、俺」
「ま、まさか……!」
ゲールはその青年の姿を見て、思い出しました。
自分達に次の四使徒の情報を与えた、あの少年とよく似ている……と。
その時です。
大きくも、悲しげな笛の音色が、この地域だけでなく、世界中に響きました。
「これは……ギャラルホルンか……!?」
「ギャラルホルン……!?」
ギャラルホルンとは、アールガルドの神ヘイムダルが持つ角笛の事です。
これが吹かれると、ラグナロクの到来を告げる音色が、ありとあらゆる世界に響き渡るのです。
「間違いねぇ……『始まった』んだよ!」
「まさか、始まったのは……」
「ラグナロク……!?」
「オレはアールガルドに戻る! お前らも早く神界に戻ってくれ!」
そう言うと、トールはテレポートで姿を消しました。
「じゃあな、アールガルドで待っているよ」
そして、青年もテレポートで姿を消しました。
「……神界に、帰れるのでしょうか……」
「大丈夫、信じてください。みんな、手を繋いで……」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
ジャンヌ、ゲール、バイオレットは手を繋ぎ、魔力を集中させました。
すると、彼女達を白い光が包み込みました。
そして光が消えると、彼女達の姿は消えました。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
いよいよ人間側の敵との決戦が始まります。