No.87807

その瞳に映りし者 第7話

madokaさん

小説「その瞳に映りし者」の第7話めです。
2人の出逢いが、周りに様々な影響をもたらしてるようです。
これからどうなることやら…

2009-08-02 16:30:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:538   閲覧ユーザー数:495

                     その瞳に映りし者

 

                     ~第7話 目覚め~

 夕方になって、日が沈みかけた頃、ジュディがソユーズ家に戻ってきた。

足早に階段を駆け上がる音を聞いて、カイルが慌てて奥から出てきた。

「おかえりなさいませ、ジュディさま…お早いお帰りで」

「……」

ジュディは、何も言わずに自分の部屋へと向かった。

「どうしたんだろう…やけに機嫌が悪いな…」

カイルは、ジュディの後ろ姿を見送りながら、そうつぶやいた。

 

 部屋に戻って、ジュディは深くため息をついた。

憧れのシュテインヴァッハ家のお誘いを受けて、やっと屋敷に遊びに行けたというのに、どういう訳か、ヴィトーとは全然逢えずじまい…。

あげくに、まったく興味のないリオンに言い寄られて、交際を申し込まれるし…

ジュディとしては、何もかもが想定外のことばかりだった。

「もう、一体どうなってるのよ…急にリオンたら交際を申し込んだりして…正直、あの人には初めから興味がないのに…」

ジュディは、ソファに座り込むと、不満を漏らし続けた。

「だいたい、わたしはシュテインヴァッハ家の兄弟と親しくなりたかったのよ!あんな地味な人と付き合うつもりなんかないわ」

ジュディは、ふと何を思ったのか、急に立ち上がり…リリアの部屋へと向かった。

 

 ノックの音がしたので、リリアはドアを開けた。

そこには、日頃自分の部屋など訪れたことのないジュディが立っていた。

意外な訪問者にリリアは、ビックリした…。

「ジュディ…おかえりなさい…早かったわね」

リリアが言い終わらぬうちに、ジュディはこう言った。

「あなた、どうして今日行かなかったのよ…あなたのせいで散々だったわ」

「え?…」

ジュディにいきなり責められて、リリアは益々訳がわからずとまどった。

部屋の奥に入ってきたジュディは、腕を組んでさらに責め続けた。

「気が乗らないって、叔母さまから聞いたけど…そんな理由で、シュテインヴァッハ家のお誘いを断るなんて、いい度胸じゃないの!おかげで、わたしは…」

「あの…向こうで何かあったの?」

「リオンに言い寄られて、おまけに交際まで申し込まれたわ…」

「リオンに?それは、おめでたいことじゃないの!」

「全然おめでたくない!…わたしにとっては迷惑よ…好きでもない男なんかに…おまけにあの人の方は…」

「あの人…?」

「っ!…な…なんでもないわ…とにかく…わたしは、あなたに文句が言いたいの…あなたが来なかったおかげで、ジュリアン様まで途中でいなくなっちゃったのよ」

ジュリアンの名前が出て、リリアはドキッとした…。

「え…ジュリアンが……私のせいで…?」

「そうよ、急に何処かに消えちゃったのよ…面白くないったらないわ、本当に」

ひと通りリリアに怒りをぶつけたジュディは、気が済んだのか急に落ち着きを取り戻した…。

「とにかく…今度からは、勝手に断ったりしないでね…わたし達にも影響があるんだから」

「ご…御免なさい…今度から気をつけます」

ジュディは、そう言い終わるとサッサと部屋から出て行った。

リリアには、ジュディがなぜそんなに怒っているのか、よく理解できなかったが…

しかし、自分が断ったことによって、彼女の方に迷惑がかかったということだけは間違いないようだった。

 

一方、とある屋敷では…

ジュディに、交際を申し込んだにもかかわらず、思いっきり振られてしまい、落ち込むリオンの姿があった。

そこにはダニエルもいて、今日のことについて話しをしていた。

「僕は、今日…彼女に思い切って、自分の胸の内を語ったんだ…だけど、彼女は、それを断った…」

「その勇気は認めるよ…でも、人生には色々あるからなぁ…諦めが肝心だ」

「諦められないよっ!彼女は、他に好きな人がいるって言ったんだ…」

その話しを聞いてダニエルは、ニヤッと笑った…。

「へぇ~…好きな人がねぇ…」

「なんだよ…ダニエルは、心あたりがあるの?彼女が好きなひと、知ってるの?」

「いや…知らない…」

ダニエルの態度に、リオンは頭を抱えた。

「もういいよ…悪いけど、一人にしてほしい…しばらく、立ち直れそうにないから」

「おまえ…大丈夫か?女ひとりに振られたからって、そう失望するなよ…ケセラセラ、なるようになるさだろ?」

「ダニエルは、気楽でいいよね…僕は、そんなふうに考えられないよ…彼女は、僕の全てだったんだ」

「オーバーだな…ところで僕とサラのノロケ話を聞きたくないかい」

「ああもうっ!ほんと、帰ってよ」

「わかったわかった…帰るよ…じゃあね」

むくれてるリオンを背に、ダニエルは笑顔で帰っていった…。

(ジュディが好きな男か…それって、僕のことなのかな…たぶん、間違いないだろう)

夜空に浮かぶ月を眺めながら、ダニエルは、ふとそんなことを考えていた…。

 

 次の朝、ナディアの甲高い声で、リリアは目覚めた。

「リリアさま、大変ですっ!リリアさま、起きてください!」

「うう~ん…なに朝から騒いでるの?ナディア…もう少し寝かせて…」

「ダメですよ!早く起きないと…そ…外に、誰が来てると思います?」

「誰なの…?」

リリアは、眠い目をこすりながら聞いた。

「シュテインヴァッハ家のご子息…ジュリアン様ですよ!」

「えっ?!ジュリアンが…?」

リリアは、その名前を聞いて慌てて飛び起きた。

「ジュリアン様が、外で…リリアさまを呼んでほしいと…どうします?」

「行かないわけに、いかないじゃないの!すぐ仕度して」

「は…はいっ!」

 

 リリアは、ナディアに着替えを手伝ってもらい、すぐに外に飛び出した。

そこには、確かにジュリアンがいた…どうやら、馬に乗ってここまで来たらしい。

立派なたてがみの黒い馬が一緒にいた。

「おはよう、リリア…」

「お…おはようございます!…あの…一体どうして…」

「昨日、うちに遊びに来なかったでしょ?どうしたのかなぁと心配になって」

「あ…御免なさい…ちょっと昨日は気分が優れなくて…本当にご迷惑をお掛けして…」

「風邪とかをひいてるわけじゃないんだね…よかった…」

安堵しているジュリアンを見て、リリアは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ジュリアン…」

「リリア…せっかくこんな気持ちのいい朝なんだから、これから遠乗りに行かない?」

ジュリアンは、馬の方に手招きしながら言った。

「遠乗り…?」

一瞬、遠乗りと聞いて、リリアには嫌な思い出が浮かんだが…

せっかく、ジュリアンが誘ってくれてるのだからと思い、快く承諾した。

 

 2人は、馬に乗って…草原を駆け抜けた。

あのとき、不安な気持ちのまま恐怖と闘いながら乗っていた時とは違う…

なんとも言えない爽快な気分だった。

(この人は、昨日私が欠席していたことを気にして…わざわざ尋ねてくれた…

一体なぜ…それとも他になにか理由があるの)

リリアは、心の中でそう思った。

 

 しばらく走ったあと、ジュリアンは急にこう言った。

「あの湖のほとりで、休憩しようか…」

2人が馬から降りると、ジュリアンは手綱を木にくくりつけた。

「シュテインヴァッハにも美しい湖があるけど、ソユーズにもこんな素敵なところがあるんだね…」

「ええ…私も全部はまだ回れてないの…広大過ぎて…でも、素敵なところよ」

「君は、ここに来てまだ浅いんだったよね…」

「そうなの…聞いてると思うけど、約16年ぶりに戻ってきたから…少しずつ慣れていこうとは思ってるけど…」

「実際は、大変でしょ…何もかも今までと違うんだから…例えば、あのプライドの高そうなお嬢様と合わせるのとか」

「ジュディのことを言ってるの?」

「そう…僕が君でも、彼女と合わせることは困難だと思うよ」

「ジュリアン…」

彼は、自分を慰めてくれてるのだろうか…。

ほとんど知らない相手なのに、なぜここまで理解しているのか、リリアは不思議だった。

この人は、今まで逢った人とは違う…そんな気がした。

「先日の、晩餐会のことだけど…」

ジュリアンは、急にアノ事に触れようとした。

「あ…あのときは、本当に御免なさい!わたし、偶然そこに居合わせて…本当に聞くつもりなんてなかったの」

「別にいいんだよ…たいした話しじゃない…兄はいつも僕に対してああなんだ…僕のことが嫌いなんだよ…」

「なぜ…」

「なぜだろうね…僕が母を殺したから?」

「あの話しは本当じゃないんでしょ?お母様が亡くなった原因があなただとかって…」

「どうだろうね…僕にもわからない…母は病気で亡くなったんだ…でも兄にとっては、僕が原因だって思いたいのだろう」

「そんなこと…よくわからないけど…でもあなたは、いい人だと思う…きっとお兄様は何か誤解してるのよ」

リリアは、必死にジュリアンに何かを訴えようとした。

「誤解か…たとえそうであっても、兄と僕との間の溝は埋められそうにないよ」

「どうか諦めないで!きっといつかお兄様も解ってくれる日がくると思うわ」

リリアは、まるで自分に言い聞かせるようにジュリアンに話した。

「リリア…ありがとう…」

ジュリアンは、リリアを優しい眼差しでみつめた。

リリアとジュリアンの間に、何か人にはわからない絆のようなものが芽生えた瞬間だった…。

 

その後2人は、ただ何を話すということもなく、ゆったりとした時を過ごした。

すると急に、ジュリアンが、

「リリアは、馬には乗れるの?」

と聞いてきた。

「いいえ…本当は、とっても憧れてるんだけど…まだ一人では乗れないのよ」

リリアはそう答えた。

「じゃあ、今日僕が教えてあげるよ…これから、少しずつ覚えていこう…」

「えっ…本当に?!嬉しい…」

リリアは、ジュリアンの言葉に目を輝かせた。

ジュリアンは、愛馬ガイアにリリアを乗せると、丁寧に教えはじめた。

もともと馬が好きだったリリアは、嬉しくてしょうがなかった。

このまま時が止まってくれればいいのに…そう思った。

 

 ソユーズ家では、朝食の時間を過ぎてもいっこうに現われないリリアに対して、ジュディが苛立っていた。

「ちょっと…何時だと思ってるのよ…ナディア、リリアはどうしたの?」

「あの…リリアさまは、朝早くジュリアン様が尋ねてこられて…一緒に遠乗りを」

「なんですって?!ジュリアン様が?…なぜそれを早く言わなかったのよ」

「申し訳ございません…」

ナディアは、恐縮したようにジュディに頭を下げた。

「どうして、ジュリアン様がわざわざ…信じられないわ…」

ジュディは、いつまでたっても遠乗りから帰ってこない2人のことを考えると、深い憤りを感じずにはいられなかった…。

 

 


 
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