第一話 『深き森にて若者を助くことありたり』
「うわああああああっ! だれか、た、助けてー!!」
その声は、長旅の疲労や空腹で停止しかかっていた頭にもスッと理解でき、そのセリフは分かりやすすぎて、感動さえ覚えた。
「! ジンギ、こっち!」
「わかってるけど! お前と違って足場が・・・ぐるヴぇッ!」
夕日を背に受けながら、深い森の中から影が空に飛び出し、続いてもう一回り大きな影が振り子のように浮かび上がった。
「ちょっとコラ! じたばたしーなーいーでっ! あたしごと落ちちゃうって!」
二の腕と背中にまとった不思議な長布の力で空を駆ける金髪ショートの少女は、高い針葉樹に時折ぶつかりながら浮いている男へ叫んだ。その男の首には夕日に透き通るその長布の端が巻きつき、明日が晴れそうなカンジで彼を天に召して、もとい、浮かべている。
「し(ぬ)・・・っ! (ま)ず(オレを)たす(けて)・・・っ! くふっ!!(あーヤバイ、メッチャハッピーなカンジになってきた・・・)」
風を受けて美しい青になびく一本縛りの長い髪、腰に帯びた一振りの名刀、王者のごとき風格すら放つ超美男子の顔立ち。その男は今、冒頭から変態的笑顔で泡を吹いていた。
「助けてくれー! 死ぬうー!!」
声はすぐ近くで聞こえた。ちなみに変態的笑顔の男の声ではない。彼は声の代わりに、口から泡を吹き出している。
「いた! あそこだよっ! 人間の男が魔物に囲まれてるよっ! 早くっ!!」
虫のような羽を生やした手のひらサイズの少年が、少女のマジシャンハットの中から飛び出した。
「おーけい・・・じゃ、いってらっしゃい!」
「はっ・・・え、な、なんですとおおおおおお!?」
女は、長布に力をこめて、男を投擲した。
びゃああああばきっががっぶおがしゃびぎっずふ・・・ずずずずずんっっ!
「んー今回は80・・・いや、72点ってとこかな?」
男はなかなか見事に落ちた。魔物の群れのど真ん中に。レッサーガーゴイル、マウントオーク、アンノウンゾンビ、ボーンナイト・・・
「アアッ? ナンダーテメッ? タッタヒトリデオレタチノマエニクルトハ・・・ナカナカミドコロノアルニンゲンダナッ! ナッ?」
「・・・・・・えと、ども・・・」
酸欠の脳みそのまま、土中から這い出した。
「クウゥゥゥゥ・・・!!」 「ヴォッヴォッヴォッ!」
囲まれてる。猛っている。お祭り的な賑わいだ。何を祭っているのかな?
知らず知らずのうちに、男はちょこんと正座してしまっていた。
「ジャア・・・チマツリノジカンダッ!! クキャアッ!!」
「あー・・・ですよねえ・・・・・・ダッシュッ!!」
男は逃げ出した。見事な逃げっぷりだ。ほれるかもしれない。誰が?
「ヒャハッ! マチナ!」 「コ・・・ロス・・・!」 「ウヴォア! ウヴァアッ!!」
レッサーガーゴイルの槍やボーンナイトの剣をギリギリかわし、マウントオークの爪やアンノウンゾンビの手を振り払い、ちょこまかちょこまか逃げ回っている。
「おい、アリア! アリアッ! まだ!? まだなのかっ!? ちょ、アリアさーん!?」
「・・・天光満つるところ我はあり・・・あれ、これじゃないなあ・・・なんだっけ? えーと、ん・・・あ、思い出した」
「なんでど忘れしてるんだよ! お前魔法使いだろ! ノロノロしてるとジンギが祭られちゃうってのに・・・うきゃ、すいませんすいません、握りつぶさないで~!」
上空でアホ漫才をしてる間、地上ではサバイバルな戦いをしていた。
「グギャアッ!」
影が、脳天からバッサリと両断された。男の右手で鈍い光を放つ刀が、レッサーガーゴイルの1体を切り捨てたのだ。
「キィ・・・チョコチョコウザイダケジャアナイヨウダナ・・・! ダガ・・・」
肩で息をしながら、周囲を取り囲む大量の魔物を牽制しつつ、つぶやく。
「くっ・・・数が・・・多すぎる・・・このままでは・・・!」
その時、上から呪文の詠唱最終段階が響いた。
「・・・闇底の熱空は我が血肉となりて、紅炎の光弾を成して滅せ・・・」
「キィッ!?」 「ヴァオ!?」 「グウゥゥゥ・・・」
「え、ええ!? おいその呪文は・・・っ!」
「いくよっ! 灼熱の爆炎、フォーリングフレア!!」
ドーン
今のシーンを地上視点でもう一度。
灼熱の火の玉は遥か空の彼方より飛来し、魔物の群れならびに剣士約1名の目の前に落下し、爆発した。
ドオオアアアアアアアアッ
などという音はイメージだ。音なんてまったく聞こえない。死人・・・死魔物には口はもちろん耳や目もないということだ。爆炎はあたりを一瞬で灰燼と化し、木々と土砂と大気を舞い上げ、障害物を取り除いた安全な大地へと変貌した。
そこに舞い降りる天女のごとき魔法少女。
「んー・・・! はー・・・、やっぱり、これくらいパーッとやるとスッキリするよねー・・・!」
「アリアの頭が一番パーっとしてるよ・・・。やりすぎっ!」
のびのび爽快な顔はすぐにウザイ物を見る顔に変わり、考えるより先に口が開いてしまう羽付き少年は自然に、あくまで自然に視線をそらす。
「・・・えーと・・・うわあ! あのモンスターまだ生きてるよ!」
「へえ、よかったね。じゃあそいつはアンタより長生きだね」
「いやホントだって!! あそこ! ほらあそこにモンスターがっ!」
「ホントじゃないっ! オレはモンスターじゃなーいっ!!」
髪の毛が見事にチリチリになった男が二人・・・一人と一匹めがけ叫んだ。
「殺す気かっ! しかもオレのこと忘れてただろっ! 忘れてたよなあっ!?」
「あの、すみません・・・」
詰め寄る男、視線を逸らす一人と一匹に、控えめな声がかかる。声の主は、いかにもどこぞの村人です、といった雰囲気の、素朴な姿の青年だった。
「危ないところを助けて頂いて、本当にありがとうございました。私はレギと申します」
青年は・・・レギは、ぺこりと頭を下げた。
・・・・・・忘れてた・・・
「あー、いえ、無事で何より。オレはジンギだ」
鎧を灰や泥を払い、髪を手で撫で付けることで全力でごまかしつつ、自己紹介を返す男、ジンギ=ワレンシュタイン。
「あたしはアリア。このチビはティン。よろしくね♪」
可愛らしい笑顔で笑いかける魔女、アリア=カレーニナ。
「あー! 僕の言うことをとったなー!! 何も言うことがなくなったじゃん!」
緑の一張羅と皮の帽子がトレードマークの妖精、ティン。
「助けていただいたお礼がしたいのですが、荷物はすべて失くしてしまって・・・。もしよろしければ、私達の村に来てきださいませんか?」
一日中森の中をさまよい歩き、くたくたへたへたの三人の答えは、迷いを知らなかった。
to be continue?
第二話 『みな自らの身分を明かすなり』
「だ~ま~さ~れ~た~っ! 詐欺っ! そうっこれこそ詐欺オブ詐欺だわ!」
アリアはぶつぶつ、というか、大声で叫び散らしながら、山型に組んだ木の枝に炎を放った。
「ずっと同じことばっか言ってるぞアリア! そんなんだから最近しわが・・・うひぃっ!」
魔力で形作られた氷の刃の群れがティンを追い回した。
「落ち着けよ・・・。明日には村に着けるらしいからな。損したわけではないだろう?」
レギと共同で簡易テントを作っていたジンギがなだめた。
「すいません、誤解させるような言い方をしてしまって・・・」
「気にするな。単にうちのバカが勝手に間違えただけだ」
「そうそう! バカだかんね~、あ~恥ずかしっ! なあ~?」
「あんたらだって同じでしょうが!! 原始より人の魂の流れを知るものよ・・・!」
「おいこらっ! 炎扇光なんて唱えたら・・・ヴあっっぢいいっ!!」
深い森に半ば埋もれるように眠っていた古城の廃墟の片隅で、テントの焦げる匂いが漂った。
レギの村までは夜通し歩いて昼過ぎにやっと着くほど遠いらしい。仕方ないので、今日もいつも通りの野宿ということになったのである。
いつもより一人多い夕食が始まった。
「それにしてもお二人とも非常にお強いですね! それに・・・彼は妖精・・・ですよね? 初めて会いました・・・」
レギはアリア、ジンギ、そしてティンを順に見つめた。
「まあ、妖精だけどねえ・・・こんなん神聖なカンジは皆無だし、一瞬たりともかわいいと思ったことないし、ただのうっさいちっさいガキなんだけど」
「なんだと!? オレがいなきゃ、お前ら他の妖精をいつまでたっても見つけられないんだぞ!!」
ティンは怒鳴りながら、骨付き肉の二口目に取り掛かっていたアリアの頭の上を、ぶんぶんぶんぶん飛び回る。
「? 妖精を探して旅しているのですか?」
アリアとティンはいつものバトル中で忙しいので、代わりにジンギが答える。
「ああ。世界のさまざまな力をつかさどっている妖精たちが、魔物によって次々と捕らえられているという。奴らが何を企んでいるかは知らんが、これを見過ごせば世界は滅ぶだろう。オレたちは、それを防ぐ為に妖精を保護している・・・といったところか」
ジンギが焚き火の中の肉を取ろうとした瞬間、長布が肉を流麗な動きで掠め取り、主人の手へ納めた。
「・・・おい、オレはまだ1個も肉を食べていないんだ。返せ」
「そんなに肉が食べたいなら、さっきのオークのヴェルダンなお肉でも食べればあ?」
アリアは3個目のお肉にかぶりつく。力のこもった八重歯が筋の多い肉を切り裂き、アリアは口内を肉で占領した。口の端から垂れかかった肉汁を、赤い舌がさっと拭き取る。ジンギはその横で、半目で訴えていたが、無駄と悟り、その表情のまま雑草に限りなく近い焼き野菜をちびちび食べ始めた。
「その、羽衣で空を飛んだり、手足のように動かすのも魔法の一種なのですか?」
「ん~これ? ま、少しは魔力使うけど、一応魔法の品、レアなお宝ね! 簡単に空飛べるし、ジンギを引っ張りまわせるし、水にも汚れにも強いし」
水色半透明の長布は、アリアの体を空中につるし上げ、ぐるぐると包みこんだ。
「それからこれにこーやってくるまって眠るとめちゃくちゃ気持ちいいし♪ あたしの一番お気に入りかなっ」
「でも扱いはひどいぞ~」
「もおお・・・どう使おうとあたしの勝手!」
アリアは得意の長布でティンという名の羽虫を追い払おうとする。その様子を見ていたレギは軽く笑うと、再びジンギに視線を移す。
「あの・・・もし差し支えなければ、その顔の傷のことを聞いてもよろしいですか?」
「これか・・・」
ジンギは眼鏡をはずし、左目に走った大きな傷をそっとなでた。その傷は、すこし異端に・・・赤々と輝いてるように見えた。
「正確にはオレの傷じゃないんだが・・・」
「・・・? え?」
小声すぎて、聞き取れなかった。
「宿敵にやられた・・・とでも、言っておこうか。・・・すまん、うまく説明できん」
「そうですか・・・それは、恐ろしい魔物だったんでしょうね」
「恐ろしい魔物、か。・・・フッ・・・よっぽど恐ろしい・・・というか、凶悪な奴が今そこにいるがな」
ジンギはまた一段と恨めしい表情でアリアを睨んだ。気づいたアリアは、怒りと笑いを混ぜ込んで焼き上げたような顔で迎え撃つ。
「なーによ・・・。なんか言いたいことあるなら、はっっきりと言いなさいよ!」
「べ、つ、に! だがな・・・ひどくないか? なんか。いろいろ」
「もしかしてさっきの肉のことまだ根にもってんの? それとも灼熱の爆炎食らったこと? あ、首を吊り上げて投げたこと? んん~? それともそれとも・・・」
「全部だッ!! 全部ヒドイ!! 全部外道! 優しさの『や』の発音も知らないだろ!?」
「あんたなんて戦闘中逃げてる姿しか見たこと無いんだけど!? お荷物の名を欲しいままにしてるってわけねっ!」
なぜかジンギとアリアの口げんかに早変わりしてしまった。この流れは、アリアの攻撃魔法でジンギが醜態をさらしてオチとなる。
「あ~あ・・・もう突っ込む気もしないや・・・」
ティンは議論でヒートアップしつつある二人から離れて、ふわふわと飛んだ。
その時、漆黒から、腕が伸びた。
「うわあああああああっ!!」
「!?」
二人は同時にティンの声のした方を振り向いた。
「ティン!」
そこには、右手でティンを握りしめた、レギの姿があった。
だが、違う。
レギの背中から、黒き悪魔の翼が生えている。
「くそっ! 魔物だったのか!? 気がつかなかったとは・・・ティンを離せっ!」
すぐさま剣を抜き放つジンギ。アリアも距離をとって身構える。
「クククク・・・。人間ごときが、魔族に命令するとはな・・・少ししつけが必要なようだな!」
レギの姿は蜃気楼のように消え去り、おぞましい悪魔の姿が現れる。同時に、周囲の風景も歪み、消えうせ、さらなる闇が迫る。
「何っ!? この廃墟も幻だと!?」
廃墟はたちどころに分厚い城壁と化し、闇夜の森にそびえ立つ暗黒の城が浮かび上がる。その内部に閉じ込められたジンギとアリアを、いたるところか湧き出してくる魔物たちが取り囲む。レッサーガーゴイルやボーンナイトの他、黒魔道、ヘビービースト、ロックドラゴンなどが集まってくる。
「・・・まじかよ」
「はぁ・・・あたしとしたことが、油断してたわ」
「まあ、そういうことだ、命乞いでもしたらどうだ? ふっ・・・くはははははははははっ!」
頭だけでも4本の角、鋭く強大な赤い爪と牙、太い骨と強靭な筋肉で出来た巨大な翼を持つ赤黒い悪魔の右手の中で、ティンが必死に足掻いている。
そいつは血の色をした瞳で二人を笑った。ジンギがつぶやく。
「レギ・・・!」
「違うな。我が名はレギオン。お前らを地獄に送ってやる、死神だ!」
魔物たちは咆哮し、襲い掛かった。
アリアが空を飛び、ジンギが走りだした。
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第三話 『邪なる者の前に皆伏したり』
「・・・っ! もうっ! こんなわんさか敵がいたんじゃ、ろくに詠唱も・・・邪魔っ!!」
アリアはレッサーガーゴイルを長布で払いのけながら、魔法の詠唱を試みるが、レッサーガーゴイルたちの剣や槍、黒魔導たちの魔法によって、下級魔法一つ唱えきれない。
「ふふふ・・・魔導士など所詮はこんなものよ・・・くはは・・・!」
レギオンは、岩を切り出したような牙を見せて笑った。
「こんにゃろー! オレは妖精だぞっ! 気安くさわんな、は~な~せ~このバカ、ば~か~っ!!」
その赤黒い手の中でティンはジタバタもがく。レギオンは気づきもしない。
「ましてや、見掛け倒しの腰抜け剣士など、話にならんな。ふはははははは!」
レギオンは視点を空中から地上へと移した。魔物の群れが、獲物へと群がっている。空に攻撃できるレッサーガーゴイルと黒魔導以外の魔物すべてが、ジンギに殺到していた。レギオンは、その様子を傍観しているだけで十分だった。
「おおおおっ!? こ、この数は・・・! どうしろと・・・うおっ! ぬうっ!!」
全身が岩石でできたロックドラゴンの長い尾が大理石の床を砕き、黒魔導の虚空風《ダークネスカッター》や地割流《アースファング》がジンギを追い回し、ボーンナイトの吸血斬をギリギリで受け止めたが、数が多すぎた。ヘビービーストの突撃をさけることも受け流すこともできなかった。
「ぐは・・・っ!」
城壁をも打ち砕く一撃を直撃したジンギは、床に打ち付けられ、反動で浮かび上がり、壁に激突し、再び魔物たちの中へ落ちていく。
「こんな・・・馬鹿な・・・!!」
「ジンギッ!!」
アリアも襲い来るレッサーガーゴイルの剣をかわすだけで精一杯だった。地上の魔物たちが、傷を負ったジンギへと飛び掛った。剣が鎧を砕き、魔法が皮膚を焼き、尾が頭を打ち鳴らし、角が、牙が、爪が、ジンギを引き裂いた。
「何マジでやられてんのよ・・・っ! 何勝手に死んでんのよ・・・早く立ちなさいよ!!」
「おいっジンギィッ! ちっきしょお返事しろよぉ! 戦わなきゃ死んじまうぞ、何とかしろよっ!!」
アリアが、ティンが叫ぶ。だが、もはや反応はなかった。
「まずは一匹だな・・・おい、ガーゴイルども、何を手間取っている。それでも魔族の端くれか!? 黒魔導ども、お前らももっとしっかり狙わんか」
レッサーガーゴイルと黒魔導の攻撃がさらに激しくなる。
「無束の走風、乱れを崩じて空を散らせ! 斬風、エアロナイフ!! ・・・このままじゃ・・・!」
4体目のレッサーガーゴイルを切り刻んだアリアは歯をかみしめる。
「アリア! ジンギ! お前らこんな奴らより弱かったのかよぉ! 立てぇ! 死ぬなよ、ジンギッ! ちっきしょおおおー!!」
そのとき、レギオンの手に斬撃が走った。
「ぐおっ!」
ドロドロとした黒い血が噴き出す。
「なんだ!? ・・・こんなものが?」
ジンギの愛刀がレギオンの足元に刺さっていた。その隙に逃げ出すティン。それは、ジンギが狙って投げたものではない。手から離れたものがたまたまそこに落ちただけだ。今ジンギは、ロックドラゴンの足元に血まみれで倒れている。
「死にぞこないの分際で・・・よくも貴重な魔族の血を・・・!」
レギオンの顔がみるみる怒りの形相に歪み、その剣を乱暴に取った。
「こんなものおおおおおおーっ!!」
剣にすさまじい力がかかり、剣を握る手が細かく震え出す。
そして、
「まてや。コラ」
「ああ!?」
レギオンは声のする方に歪んだままの顔を向ける。
死にかけが、床に肩膝を立て、座っていた。
その周りには、なぜか魔物の姿がなく、すこし距離を置いて魔物たちは取り囲んでいた。
「とりあえず返してもらおうか。相棒をな」
「何っ!?」
そいつが手を伸ばすと、それに反応した剣が、掴んでいたレギオンの手の力をものともせず振りほどき、正式な所有者の元へ戻った。
「貴様・・・! 息の根を止めろおおおおおっ!!」
笑った。悪魔が。
「融空塵・・・!」
一瞬、風が吹いた。そんな気がした。
直後、衝撃破が辺りを切り刻み、レギオンの合図で飛び掛った魔物たちは塵になって消えた。さらに、おぞましき闘気の嵐が渦巻き、城全体を揺るがし始める。
「な、なにぃー!! なにが、なにが起きたぁー!?」
レギオンはもちろん、ティンも魔物たちも唖然としていた。アリアだけが、明確な答えを知っていた。
「あいつが・・・また目覚めてしまった・・・」
先ほどジンギを踏みつけていたロックドラゴンや他の魔物が、闘気の嵐に煽られてゆっくりと落ちてきた。
すべてを切り裂く風の中で、男がゆっくり立ち上がる。愛刀はその闘気に反応して紅く染まり、薄く笑っている口元は悪魔と呼ぶに相応しかった。傷はみるみる消えていき、カッと見開かれた瞳はどこまでも深い闇に通じている。
いつの間にか、解けたのか。
その青い髪は風に吹かれ、地獄の業火さながらにどこまでも上に伸びている。長い髪に隠れて先ほどまで見えなかった背中には、赤く紅く、こう刻まれている。
『仁義』
「あかんなあ・・・いきなりたあ・・・。礼儀がなっとらんなあ・・・おい・・・!」
愛刀を肩にかけ、レギオンへにこやかに笑いかけた。闘気の嵐がレギオン目掛けて吹き荒れた。
「ぐう・・・! なんだこいつは・・・突然・・・!」
嵐の中、ただ立っているだけで精一杯だった。
「それに・・・この『鬼殺』はワシの大切な相棒なんじゃ。これがないと困るけえの」
「お、おのれ・・・魔族を舐めるなよ! か、かかれえええええええ!!」
「ティン、こっち! 早くっ!!」
「え!? あ、うんっ!」
アリアとティンはそいつから逃げ出し、逆に大量の魔物が押し寄せた。
「愚かよのう・・・。滅魂塔・・・っ!」
そいつが何度剣を振るったのかは分からない。だが、幾重もの斬撃の輪は強烈な竜巻を発生させ、ありとあらゆるものを喰らい尽くし、城を崩壊させ、満月輝く天空へ飛びぬけた。
月明かり差し込む空を見上げながら、そいつは飄々とつぶやいた。
「はっ! 昔の十分の一も力が出んのか・・・。」
無数の魔物の切れ端と共に、瀕死のレギオンが倒れていた。
「おう、生きとったんか。運のええやっちゃなあ。」
「お・・・思い出した・・・。二十年前、全世界を恐怖に陥れた、人であって人であらざる・・・最強の剣士・・・そいつの名が・・・ジンギ・・・。ジンギ=ワレンシュタイン・・・!」
レギオンはジンギを見上げる。だが、恐怖のあまり目を合わせられなかった。
「だが・・・ジンギは封印されたはずでは・・・」
「さて、どないすんじゃおのれは。わしとしては弱いモンいじめてもしゃあないし、あんまヒマでもないんじゃ。やっさしいじゃろワシは。仁義に反することは絶対にせんしなあ。」
ジンギは割れたメガネをかけ直しながら、レギオンの頭の横に立った。
「でえ? ど・な・い・す・ん・の・か・い・の?」
「・・・す、すいませんでした。もう悪さしません。ど、どうか命だけは・・・。」
「おう、賢いで。」
ジンギはにっこり笑った。鬼殺しをレギオンの指に突き立てた。
「ぎゃあああああああっ!」
「さて、おいサリア・・・!!」
アリアは地面に足をついて真っすぐジンギを見つめている。押し潰すような殺意が振り返る。ジンギが笑う。闇と同じ瞳を見開いたままで。
「この傷の借り、無限倍にして返すで・・・っ!」
to be continue?
第四話 『奇異なる闘争いまだ続くなり』
天高くにかかった満月の下、半壊した黒き城の中、二人は対峙していた。嵐はさらに強くなり、空気は泥のように重く不快に粘つき、そこに存在するものの命の灯火を吹き飛ばそうとしている。
すべての中心に、その男がいた。
その、最も闇なる者が。
「あいつがジンギだっていうのか!? どうなってんだ説明しろよアリア! だってどう考えても別人じゃん! しかもなんだよこれっ! あんまりにも・・・強すぎる!! 人間技のレベルじゃ・・・!!」
「だまって。離れなさい。」
アリアは極めて冷静に・・・冷徹ともいえる程に落ち着いていた。凝視しなければ分からぬ程に小さく詠唱を始めている。
ジンギに向かいまっすぐに立ち、決意の光を宿した瞳は、荒れ狂う闘気を切り裂いて、深き、深き闇を見据えていた。
「早く・・・っ!」
何かをアリアに答えようとしたティンは、口を開いたまま固まり、不安を堪えるかのような表情を見せ、そして妖精特有の淡い黄緑の光と共に、満月へと飛び去った。
それが、合図であるかのように、始まる。
「消したる・・・天滅せ・・・っ!」
血走ったジンギの目の前に突然、黄金に輝く幕が広がった。
「・・・抱かれて世の果てを見よ・・・」
それは、幕ではなかった。それは・・・。
「金色の大神龍、ゴッドラウンドプレッシャーッ!!」
黄金の巨龍が、その長い胴体の中に、ジンギを完全に包みこんだ。まつげ一本にいたる体のあらゆる場所を締め付けられる上に、体内のすべての魔力と機能を封印し、呼吸すら許さぬ魔法。普通の敵なら、窒息を待つまでもなく、一瞬で圧死する。
「おおう・・・? ハナから全力か・・・? らしくないのお・・・。」
ジンギはニヤニヤ笑いながら、アリアの姿を探した。まばゆい光を放つ黄金龍の頭に乗って、アリアは夜空を駆け、ジンギへ突っ込んでいく。魔法をさらに詠唱し、魔力が集まっていく。ジンギは、ため息をつく。
「なめられたモンじゃなあ・・・それともボケたかあ? サリア・・・。この程度で勝つつもりか? ・・・終わったぞ・・・!!」
歪んだ。
ジンギの顔が、禍々しく。
その意思に触れてしまった大気が。
歪んだ大気は集まり凝縮され、黒が黒になり、さらに完全な、時空さえ歪める黒へと生まれ変わる。
黒から、光が伸びていた。光ではなかったかもしれない。黒い何かがアリアを貫いた。
「!!」
黒は黄金龍の頭を食いちぎり、城の外壁を崩壊させ、外へ飛び出し雲さえ歪めた。
「あ・・・?」
おかしい。
「・・・! ・・・幻っ!?」
気づいたジンギが、鬼の形相であたりを見回す。
「ざかしいマネをするようになったなあサリアッ!!」
「既唱魔法発動! 超巨の大円盤、アリアオリジナル!!」
本物のアリアは満月を背に夜空にたたずんでいた。しかし、その姿はすぐに遮られた。広大な空いっぱいに、巨大な円盤が現れる。中央に『封印』と大きく描かれ、その隙間と外周に、細かな魔方陣がびっしりと赤く浮かび上がっている。
「なんじゃと!? この魔法は・・・!」
いつのまにかアリアの帽子に戻ってきていたティンは力いっぱい叫んだ。
「ええ~!? でっかっ! だっさっ!! しかもネーミングひっどっ!! しかも、あれ何!?」
よくみると『封印』の文字の右下に、帽子をかぶった短髪の少女の顔がデフォルメで描かれている。
「突っ込みは後にしてっ! いっけええええええええ!!」
「くそがっ!! う、うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
今頃あせったところで、もう手遅れだった。なんとか最強の行動封印魔法を破壊したジンギの上に、町一つ押しつぶせる巨大円盤が落下した。
「わしと勝負せい!! 逃げるなサリア! ぐ・・・ぐおおおおああああ・・・」
ジンギは円盤のなかに飲み込まれた。
断末魔だけが、夜空に木霊する。
「サリアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
すべてを呪って。
すべてを押しつぶしながら落下した円盤は、やがて自然に消滅した。
アリアとティンはゆっくり地面に降りてきた。既に半壊していた黒き城は、音もなく塵になって消えていく。
「ふーん・・・この城も、特殊な魔法だったみたい」
「おいおいっ! そんなことより大丈夫なのか!? まだアイツが攻撃してきたりするんじゃ!? いやそれよかあれジンギだよな? 今ので死んじゃったんじゃないの!? てかてかサリアって・・・!!」
ティンはそこらじゅうを飛び回りながら、くるくる回ったり、逆さになったり、体をくにゃくにゃ曲げたりしつつ、早口でまくしたてた。
「今のはちょっと特別な・・・ジンギ専用封印魔法よ。ジンギなら、ほらっ・・・」
突然、もとの廃墟の一角が崩れ落ちる。
「ぐはっ! お、重!? なんだこれは? オレはいつこんな所に埋められた!?」
「お・・・おおおおおおおお! ジンギィー!!」
ティンは満面100点な笑みを浮かべ、ガレキの山から片手だけ這い出したジンギへと一直線に飛んだ。
「大地の呻き、元を目覚めて打ち飛ばさん! 土柱、ロックアッパー!」
アリアの呪文に反応して、大地の牙がジンギをガレキの中から打ち上げた。
「ぐほっ! ・・・づっ! ・・・そうだ、戦闘中!」
剣を構えた先には、冷たい目をしたアリアしかいなかった。
「・・・? どうなって・・・」
ジンギは辺りを見回した。
沈黙した。
一つ咳払いをすると、剣を収め、真面目な顔で声をかけた。
「無事か、アリア」
「こ、このボケ具合! 間違いなくジンギだあー!」
ティンがジンギの頭をクルクルクルクル回った。
「だ、誰がボケだ! だいたいな、あんな起こし方されたら誰だって・・・」
ジンギは恥ずかしいのを顔に出さないように努めながら、なるべく冷静に事を収めようとしている。
「まったく・・・あんたが死にかけたせいで、アレが出てきて、あたしが命がけで何とかしたったってのに・・・呑気なもんねえ、んー? ジンギ君」
アリアは長布でジンギの髪を引っ張りながら、笑いと怒りの中間の顔を作った。
「いって、おいやめろ! ・・・そうかアイツが出てきてしまったのか・・・。すまん」
ジンギは真面目に謝った。その様子を見て、ティンのなんでなんでが再開した。
「結局あのジンギはなんだったんだよ!? お~し~え~て~よお~!」
「あーもう・・・うっさいうっさい! まあ簡単に言うとね、ジンギの体の中には、昔超強かった別のジンギってやつがいるの! んで、そいつはメチャ極悪なのよ!!」
「じゃあサリアって? アリアの昔の名前? えーと、げんじな?」
「あんたあたしをなんだと・・・! それはあたしのお母さんの名前! 極悪ジンギをこいつに封印したんだってさ!」
落としたメガネを探すジンギを親指でさした。
「天空の大魔道とか言われてたんだけど、ずっと昔から行方不明!! でもあんまりだよねえ。いくら親子でも母と娘の区別もつかないとか・・・ジンギー! そのメガネ度は合ってるー?」
割れたメガネを発見したジンギが、それをかけながら答える。
ジンギの方を向いていたアリアとティンの背後で、影が、蠢いた。
「グウウウウウ・・・!」
その影が・・・黒い亡霊のようなものがティンに襲い掛かった。それに気づいたアリアは、ティンを手に抱え、その背に庇った。黒々とした空気が、アリアを飲み込んだ。
「うくっ! こ、これ・・・って・・・!」
「アリア・・・? アリアアアアアアアアッ!!」
to be continue?
第五話 『これぞまたある夜の夢のごとし』
「ク・・・クハ、クハハハハハハ! バカドモガッ! コノオンナノカラダハモラッタゾ!!」
黒いオーラに包まれたアリアは、不自然に、おぞましく響いた。ジンギの目にはアリアの後ろに付いて笑う何かが、確かに見えた。
「貴様・・・レギオンか! アリアから離れろ、叩き切るぞ・・・!」
「フヒヒ・・・アノままトドメヲさしてイレバよいモノを。マゾクのちからをアナドッタコト・・・コウカイするガイイ・・・!」
黒いオーラは凄まじい勢いで膨れ上がったかと思うと、どんどんアリアの体に流れ込んだ。アリアの顔で、そいつが笑った。
「こ、こいつ・・・なんて卑怯な奴だ! これじゃあお前に攻撃出来ないじゃないか!!」
ティンはジンギの後ろに隠れつつ、罵声を浴びせた。
「これコソガ我が力。れぎおんは、ヨリ強いチカラヲもとめて成チョウする、最強ノしゅぞくなのだヨ。さきほどマデは、タダノ人間のからだダッタガ・・・おお・・・オオオオオ! この魔力ハ・・・・!!」
ジンギは、そばに倒れていたレギの姿の人間を、なるべく安全そうな木の陰に運ぶと、アリアと・・・レギオンと対峙した。
「くくく・・・! 憂うことハない、お前達は、コの体に触れるこトなく死ぬことになるノだからな・・・はははハはははは!!」
レギオンは、音もなく空に浮かび、詠唱を始めた。刀も持たずに突進するジンギ。
「くそっ! とりあえず、アリアの動きを止め・・・!」
「・・・混沌よ、混沌たれ、天が地に、牙が花に、闇が翼に・・・!!」
アリアがほとんど使わない呪文に、ジンギは動揺する。
「馬鹿な・・・この魔法・・・! 貴様あああ!!」
「大いなる始まりだよ・・・! 無限の時空元、カオスオブエレメント!」
一瞬で、周囲すべてが蒸発した。
破壊したわけではない。空間が変化したのだ。
その風景はギラギラと輝く七色の光に満たされ、うごめいている。
「な、なんじゃこりゃあ!? おい、ジン・・・!」
ジンギに近づこうとしたティンの目の前で、激しい雷がはじけた。雷が、ジンギを直撃したのだ。
「ぐわあああああっ!」
「おい、ジンギ!!」
「離れてろティン! ・・・貴様、この魔法がなんだか分かって使っているのか!?」
レギオンをにらみつけながら、ジンギはふらふらと立ち上がった。
「ああ、知っているさ! 魔法を詠唱なしで唱えられるんだろう? まあ、魔力を大量に消費していき、魔力がなくなれば当然術者は・・・!!」
「貴様・・・やめろおおおおお!」
ジンギは歯を食いしばり、再び突進した。今度は灼熱の竜巻がジンギを包み込む。
「ああ、やめるさ、お前が死んだ後でなあ・・・フハハハハハハハッ!!」
「ぐおああっ! くそっ・・・。下手に手出しも出来ず、逃げ回って時間を稼ぐことも出来んとは・・・」
「ハハハハッ! 早く本気を出したらどうだ? 神殺の天魔よ!!」
大地が沈み、ジンギを引きずり込んだかと思うと、光の剣が雨のように降り注いだ。
「があああっ!! くっくそ・・・だが、奴だけは、表に出すわけにはいかない・・・! うおおおおおおおお!」
組み付こうとするジンギを吹雪が襲い、巨大な黒い腕がジンギをぶっ飛ばした。
「ははははははは・・・! 悪あがきはよせ。我もまた新しい宿主を探す手間はかけたくないのだがなあ、クフフフフフフ・・・!」
レギオンは笑う。レギオンだけが、笑っている。
「アリアが・・・アリアがあんなに辛い顔をしてるっていうのに・・・! こんなことで・・・!!」
「ジンギっ!!」
膝をつき、なんとか立ち上がろうとするジンギにティンが飛びついた。それを見て、魔法を中断するレギオン。
「まだだ・・・! 絶対に、助ける・・・!」
「そうだ! まだ倒れちゃだめだ! オレの力を貸してやる!! いいか!? ・・・うわっうわわわわわわ!」
「ティン・・・っ!!」
ジンギの目の前で、ティンは長布にくるめとられた。
「アリアのそばへっ! オレを信じろぉ!! ジンギッ!」
ジンギの目がカッと見開かれる。引き戻すのが一瞬遅れた長布を、力強く握りしめた。ジンギは、それを上り始める。
「フン、近づいただけで何が出来る? もっとも・・・近づけさせんがなあ!!」
氷の槍が、炎の玉が、雷の嵐が、ジンギを容赦なく打ちのめした。だが、アリアの長布を手繰るその手は、止まることはない。水流も風刃も大岩も、彼を止めることは出来ない。
「・・・・・・・・・!!」
レギオンを射抜く、ジンギの目。
それは、ジンギの目だ。「ジンギ」の目ではない。
だが、その瞳、その闘気、その魂。
心弱き悪魔を、魔神の影が脅かす。
「な・・・なんだお前は! お前はっ!!」
「アリア・・・うおおおおおおおおおおおお!」
ジンギは覆いかぶさるようにしてアリアに抱きついた。長布に包まったティンの体が輝きだした。
「よくやったジンギ! 集中しろよ・・・オレの力を発動させる!」
ジンギは目をつむり、ティンは空に叫ぶ。
「『他人と意識を共有する』力、共鳴!!」
気がつくと・・・いや、気がついたのかどうか。
なぜなら、ここはあまりにもぼんやりとした白い霞のかかった空間だった。ただ広いらしい、白っぽい場所。
そこに、自分がいた。
そして、彼女を見つけた。
「ほんっとにあんたは要領悪いよねえ、いつもいつも! なんか死ぬほど長く感じたんだけど!」
「おい、オレは助けに来てやったんだぞ・・・? どう考えてもお前の態度はありえないだろっ!」
会話はいつも通りだった。彼女も自分も、いつも通りだった。
「あたしが失敗したら、あんたがフォロー。当たり前でしょ?」
「当たり前って・・・。オレ今瀕死なんだぞ!? 全滅してもおかしくない状況だってのに・・・!」
「信じてた」
彼女はそう言った。
時が止まった。一瞬だけ、確かに。
「ジンギならできるって、最初ッから信じてた。だからここでずっと待ってた」
「お、お前なあ・・・実は自分で何とか出来たんじゃないか!? ・・・まあ、とりあえず行くか」
手を彼女に差し出す。
「言われなくても」
彼女はその手をとった。
重ねた手のひらから暖かな光が生まれ、どんどん強くなっていく。
光が、世界を包んだ。
彼は、いつもの場所で眠っていた。
よく寝床がぐらぐら揺れる。あまりに動くものだから、寝床から落ちそうになって、彼はようやく目を覚ました。
「・・・もお~! 揺らすなよお~! まだオレは眠いんだ! もっとゆったり浮いてろお!」
アリアの帽子の上で、ティンが真下に文句をつける。
「あーもーこれだからガキは。勝手に人の頭の上で寝といて、指図すんじゃないっ!」
妖精をむんずと掴んで、顔の真ん前で怒鳴るアリア。
「遊んでないで、荷物の片付け手伝えっ!!」
一人でひたすらテントその他もろもろを片付けるジンギ。
三人の、また新しい朝が始まった。
互いに怒ったり、からかったり、ふざけたりしながら、旅は続いていく。
そして三人の姿は、朝日に消えて、見えなくなった。
これは、彼らの旅の、ほんの一夜の物語である。
to be continue………
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二十年前、世界のすべてを恐怖させた『神殺の天魔』と同じ名の男と、それに唯一対抗できるだけの力を持った魔法使い『天空の大魔道』の娘、妖精と共に世界を旅していた。
その道中、魔物に襲われていた青年を助けるが・・・?