ここ最近は黄巾討伐が続いている。
すでにこの火種は大陸中に広がり、各太守たちが躍起になって、首謀者探しを続けていた。
「だぁ疲れたー。」
俺自身も先ほど黄巾討伐から帰ってきたばかりである。
度重なる戦で兵のみならず将もまた疲弊していた。
「隊長。」
そんなときに明夏の声が聞こえた。
俺のどうぞという声で扉が開き、明夏が入ってくる。
「おつかれさまです、よかったのですか?休ませてもらって。」
「お前も疲れてるだろ、小規模とはいえ連戦だったからな。休めるときに休んでおくんだ。」
先ほどの討伐は北条隊としてではなく、秋蘭の隊に混じっての参加だった為副官である明夏には休ませたのだ。
実際疲れが溜まってるときほど危険なことはない、疲れが判断を鈍らせるからだ。
「ありがとうございます、ところで最近大陸を歩き回っている三人姉妹の話を知っていますか?」
「三人姉妹?」
「そうなんです、あちこちで歌って回ってるみたいで、結構な信者がいるみたいです。是非見てみたいですね。」
三人姉妹...信者...
「明夏...案外お手柄かもしれないぞ。」
明夏のえっ?という驚いた声が聞こえたが、すぐに部屋を飛び出した。
※※※
「つまり、あなたはその三人姉妹こそがこの大陸中を騒がしている反乱の首謀者だとそう言いたいのね?」
「ああその通りだ。」
緊急会議として集めれる限りの重臣を華琳に集めてもらった。
そこで俺は明夏から聞いた三人姉妹こそが首謀者で、その三人を追えばこの反乱の主力を討てると提言したのだ。
「それは早計すぎやしないか?聞く限りによるとその三人姉妹は歌って各地を回っているだけにも聞こえるが。」
「だが、その周りの信者が彼女たちの為にと勝手に暴れてるだけかもしれないぞ。」
確かに秋蘭の意見も最もであり、俺のはあくまで推測にすぎない。
「そうね秋蘭の意見も最もだわ、桂花あなたはどうおもう?」
「はい...」
曹操の頭脳である荀彧に判断を聞くのは当然の流れである。
そして顎に手を当て慎重に頭を張り巡らせる。
「私は誠に遺憾ですが、この男の判断が正しいかと。」
「なぜ?」
「私自身間者を放ち、この反乱の首謀者を探していましたが中々尻尾がつかめませんでした。これだけ大規模な作戦行動を取っているなら普通ならどこかにほこぼりが見つかるはず。今回それがないのは、勝手に周りが暴れてるだけと考えると納得はいきます。」
それに、と付け加えるように話を続ける桂花。
「その間者が持ち帰った情報の中に首謀者は三人ということがあり、なのでこのゲス男の案に賛成致します。」
すごい賛成してくれてるんだけど、敵のように感じるのは何故なのか。
ゆっくり華琳が全員の顔を見渡しそして結論づいたように頷いた。
「決まりね、これからの方針はその三人姉妹を追い、首謀者ならびに主力部隊の討伐。
この反乱はすでに中央も危険視し、直属の軍まで出そうとしているわ。その主力部隊を殲滅することによって他勢力を突き放す。」
そこで一旦止め、息を吸いなおす。
「我はこの大陸に覇を唱える!この戦いはその第一歩よ!この曹孟徳が後ろに続け!」
華琳の鼓舞に全員がはいっと続いた。
このときから俺たちの天下統一に向けた戦いに次ぐ戦いが幕を開けたのだ。
その後荀家自慢の間者を張り巡らし、ようやっとその三姉妹行方を掴んだのだった。
※※※
黄巾党主力部隊を討つべく、馬を進めていた。
「ぶっちゃけた話なんだが。」
「なによ。」
「なんで俺の副官としてお前がついてんの?」
「知らないわよ!私が聞きたいわよ!!」
そう涙ながらに怒られても俺の指示で桂花を副官にしたわけではない。
そう今回の遠征は明夏は参加していない。
これからの乱世、今は兼務になっている北条隊と警備隊を正式にわけて警備隊を明夏に任せようというつもりではいたし華琳にも相談はしていた。
おそらく、街をしばらく離れるこの間明夏に全てを任せ、そして新しい北条隊の形を作る試しだろう。
「そして三羽烏か。」
李典、于禁、楽進も俺の隊に加わっている。
今現状の曹操軍でいうとかなりの戦力である。
「わかっているわね、これは華琳様の今後を決める大事な戦。ヘマやらかすんじゃないわよ。」
「当たり前だろ。俺は負けないんだよ。」
自信満々に馬に乗りながらのけぞる。
「隊長はびっくまうすやからなぁ。」
「こら真桜、隊長に失礼だろう。」
俺の言葉を真似て使ってくれるのは、うんかわいいよな。
何てことを考えていると、近くから地響きが聞こえる。これは明らかに戦闘の音だ。
それがわかったのか、全員の顔が引き締まる。
「伝令!前方崖の麓で黄巾党と思われる集団と劉の旗を掲げた軍が衝突中!」
劉の旗!?劉備か!
「桂花!ここは任せた!」
「え!?ちょっとどこいくのよ!」
桂花が吠えているが俺には聞こえない。急いで前方の華琳の元へ急ぐ。
着くと華琳と秋蘭、季衣が崖の上から戦闘を眺めていた。
「どちらが優勢だ。」
「数は黄巾党の方が上だが、相手もこの地形をうまく使っているな。数の差をなくしている。」
狭い崖の間におびき寄せることで、少ない数での衝突にしている。これなら兵の練度次第で数の差を逆転できるな。
***
そのまま戦闘は劉備軍の勝利で終わったようだった。
そして、しばらく様子を見ましょうという華琳の鶴の一声で今日はここで陣を張ることになった。
そして華琳、春蘭、秋蘭、俺とで劉備軍の陣を訪れることになったのである。
「曹孟徳が家臣、夏侯惇である。ここを開けられよ。」
春蘭の呼びかけに答えるように陣幕が開けられる。そこには円卓を数人が囲んでいる。
中心にいる桃色の髪が劉備か、ならその隣に立っているまるで現世のような服を着ている男はだれだ。
「君が曹孟徳か。」
その男がその言葉を発した瞬間空気は凍り、同時に俺の刀がその男の喉に突きつけられる。
「無礼だな、一介の義勇軍の将に過ぎぬ輩が曹孟徳を呼び捨てにするとは。」
その俺をみて、黒髪を束ねた偃月刀をもった女性が俺に刃を向ける。
「こちらの非礼は詫びる、だがその剣を下ろしてもらおうか。その方は我らが主、天の御遣いである北郷一刀様である。」
「天の御遣い?」
そうか、こいつが噂のもう一人の天の御遣いか。なるほど通りで綺麗な格好をしているとおもったわけだ。
細身でとても剣を振るうような男には見えないが。
そこで俺は周りを見渡し、春蘭と秋蘭が動いていないのをみる。
そうか....
「ならば尚のことこの剣を下げる道理はないな。俺も同じ天の御遣いだからだ。」
「なんとなくそんな気はしてたよ。君も同じようにここにきたんだね。」
見透かすような笑いを浮かべ、こちらの目線から目を外さない。
この男、妙に肝は座っているな。
だからか、主と呼ばれているのは。
「控えなさい、私はあなたと話をしにきたのではないの。」
華琳が一歩踏み出すと空気が一変し、俺も一歩下がる。
「私の名前は劉備玄徳と言います。」
「あなたがこの義勇軍の当主というわけね。先ほどの戦いを指揮していたのは?」
......
......
「わ、私でしゅ。」
すごい間を開けて、尚且つ噛みながら小さな女の子が答えた。
俺はあの作戦に聞き覚えがある。それを考えたその人は....
「諸葛亮でしゅぅ...はぅ。」
諸葛孔明...!稀代の天才、伏龍と言われた天才か!!
「あなたがね。見事だったわ。それに、他の子たちも中々いい目をしているじゃない。そんな優秀な子たちがあなたに着いていく理由はなにかしらね劉備。」
「私にはなにもありません。愛紗ちゃんのような力も、朱里ちゃんのような策も思いつきません。ただ、私は誰よりもこの国のことを、この国に住む全てのひとを思っています!みんなを幸せにしたいと!そんな想いにみんな着いてきてくれているとおもいます。」
穏やかそうな子だとおもっていたが、さすがは劉備玄徳。あの華琳を前にしてこれだけ堂々としていられるとはな。
「そう、みんな桃香の想いに着いてきてる。そしてその想いはもっとこれから大きく、強くなっていく。貴方ならわかるだろう?」
そこで俺をみてきたが、俺は何も反応はしない。確かに劉備はこの黄巾の乱で、殊勲を上げのし上がり魏軍のライバルとなる。
「何が言いたいのかしら?」
「今から俺たちに借りを作っておかないか?」
「具体的にはどうしろというのかしら?」
「兵糧を分けてもらえないか?」
この陣を訪れてから何度空気が凍りついたのかわからない。主にこの男が発端なのだが。
あまりに図々しい。
俺たちが出世したときのために今のうちに借りを作っておけと言っているのだ。
しかも誇りを大事にしている華琳だ。これは侮辱のほかない。
案の定、春蘭が剣を首元に。秋蘭が弓を構えた。
「あなたは.....はぁ、あとは任せたわ龍華。行くわよ。」
ため息をついて陣から引き上げる華琳と、それについていく春蘭、秋蘭。
そして残される俺。
「曹操殿は些か無礼ではないか。」
関羽と思われる女性が憤りを感じているのか俺への距離を詰める。
本当にこいつらは自分たちの立場をわかってないのか。いやわからないのだろう。
正史ではこの段階の劉備軍は公孫讃の助けにより兵を挙げているからな。
「無礼なのはそちらではないか?まあ、なぜ無礼なのかは今の貴方方に説明したところで無駄足になるのは明々白々。いちいち説明はしないが。」
「なっ!!きさまあ!!」
やれやれこうして無礼を働いてると気づかずに暴れている仲間をみても止めようとしない。どうしようもないな。
俺は刀を抜き、関羽が振り下ろしてくる偃月刀に合わせ、次の瞬間には関羽の手から離れていた。
そして尻餅をつく関羽を尻目に、もう一度北郷一刀に刀を向ける。
「今のお前たちには民を束ねる資格などない。理想だけで何も見えていない。
だが、兵糧はくれてやる。いずれ、この借りは返してもらうぞ。」
そう言い残し、俺は劉備軍の陣を出た。
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ついに北郷一刀登場。