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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第九十五回 第五章B:御遣い奪還編⑪・ようこそ絡繰師満寵の兵器実験場へ

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

最近執筆が滞っております。一応第百話までは出来ているのですが、それ以降、

執筆可能な時間はすべて戦国恋姫プレイに注いでいるため執筆が完全にストップしております。また蒸発の予感、、、汗

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2016-10-16 00:00:22 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2845   閲覧ユーザー数:2578

 

 

宋憲「はっ!おいお前ら!まだこんなところでうろついてるのか!?」

 

 

曹操兵A「ぅわっぷ!?そ、宋憲さん!?いきなり大きな声で話しかけないでくださいよ!どうしたのですかそんなに慌てて?魏続さん

 

も穏やかじゃなさそうですけど?」

 

 

 

許城内を本日は非番ということもあり、特に何の目的もなくブラブラ歩いていた兵士たちは、

 

突然背後からアメフト選手のようながっしりした巨漢、宋憲にいつもの馬鹿でかい大声で呼び止められ驚くも、

 

しかしその慌て様にどうしたのかと不思議そうに尋ねた。

 

 

 

魏続「ハァ、函谷関まで攻め寄せていたという賊軍が城に攻め寄せてきているのです。城内に残っている者は非番の者含め総出で北門へ

 

応援に行くよう郭嘉殿から通達があったはずですが?」

 

 

曹操兵B「マジですか!?あれって非番の兵もなんスか!ヤッベ、早く行かないと軍師様の恐ろしいお仕置きが待ってるぞ・・・!」

 

 

 

そして、宋憲たちが慌てている理由を、狐のような切れ長の穏やかな目に胡散臭さを滲み出させている魏続が大業な身振り手振りで、

 

ため息交じりに説明するのを聞き、兵士たちは顔を青ざめさせた。

 

命令違反者には命令者によって差はあるが、少なくとも郭嘉の命に反したとなれば、割と笑えないお仕置きが待っているらしい。

 

 

 

宋憲「はっ、俺たちは何も見てねぇから、早くシレッと合流しちまいな!」

 

 

 

しかし、宋憲はニヤリと笑いながら兵士たちの背中をバシバシと力強くたたき、見逃してやると告げた。

 

 

 

曹操兵C「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

そうして、兵士たちはヒリヒリ痛む肩をさすりながら、ペコペコと礼を述べると、そそくさと北門に向けて駆けだした。

 

 

 

宋憲「はっ!予定は狂っちまったが、これで大体城に残ってる奴らは追い出せたか!?ったく、余裕過ぎて欠伸が出るぜ!」

 

 

 

兵士たちの姿が見えなくなったところで、宋憲は大きな伸びをしながら、やるべき任が簡単すぎることに悪態をついた。

 

魏続と宋憲たちは、臧覇、侯成と共に北郷、徐庶を脱獄させたのち、臧覇は北郷たちを曹操軍の兵士に扮装させるため看守室に赴き、

 

その間に、侯成は脱走のための馬の手配を、魏続と宋憲は、当初はかつて呂布軍だった兵士たちとの連携を命じられていたが、

 

とある事情から当初と予定を変更し、城に残っている兵士を少しでも減らすために、城外に誘導するよう、臧覇に頼まれていたのである。

 

 

 

魏続「ハァ、確かに、城に残っている兵追い出すだけなら楽な仕事でしょうが、せっかく御遣い殿に信用してもらったのです。ついでに

 

もう一働きして少しでも御遣い殿を脱出させやすいようしましょう」

 

 

 

しかし、魏続は大業な身振り手振りを交えながら、切れ長の穏やかな細い目元から胡散臭さとは裏腹に、意外に鋭い瞳をのぞかせ、

 

ただ城内の兵を追い出すだけでなく、もう一手御遣い脱出の手助けをしようと助言するのであった。

 

 

 

 

 

 

【豫洲、許城東側】

 

 

馬超ら涼州軍は張遼たちと別れた後、許城の東門を攻めるべく、城の東側にある手近な拠点を目指して馬を走らせていた。

 

 

 

馬超「妙だな」

 

馬岱「どうしたのお姉様?何が妙なの?」

 

 

 

隊の先頭を走る馬超が、怪訝な顔で周囲を見回しながら疑問を口にしたので、追従する馬岱が何事かと尋ねた。

 

 

 

鳳徳「手薄ッ!」

 

 

 

馬岱の質問に真っ先に応えたのは鳳徳であった。

 

鳳徳もまた、馬超同様周囲を見渡しながら、いつものように平坦な表情で力強く、短く状況を説明する。

 

 

 

馬超「ああ、守備が手薄っていうか、敵兵の姿が見当たらない。普通有り得るか?本来曹操軍は今必死になってあたし達の攻撃を防ぎに

 

来るはずだろ?」

 

 

 

そして鳳徳の言葉を馬超が詳しく説明する。

 

と言っても、説明するまでもなく、周囲を見れば一目瞭然なのだが、

 

東門近くにあるここらいったいの拠点には、曹操軍の姿が一切見られないのである。

 

馬超でなくとも、誰が見ても異常であるのは明らかであった。

 

 

 

馬岱「でも今曹操軍の本隊は孫策軍とかと戦っているせいでほとんどいないんでしょ?なら、本当に兵が足りないだけじゃないの?もう

 

城外で防ぐのは諦めて籠城しちゃってるとかさ」

 

 

鳳徳「伏兵っ!」

 

馬超「確かに、ここまであからさまだと、あたし達を油断させておびき寄せる敵の罠って可能性の方が高いような気がするな」

 

 

 

しかし、馬岱は曹操軍の単純な人手不足を指摘するが、馬超と鳳徳は罠であると読んだ。

 

仮にも相手は大陸一の勢力を誇る曹操軍。

 

他勢力に侵攻しているため本拠ががら空きなどというお粗末なことにはならないだろうという考えである。

 

 

 

馬超「どちらにしても前に進む以外の選択肢はあたし達にはない。こうやってあたし達に迷わせること自体、すでに相手の術中かもしれ

 

ないんだ。伏兵ありきで慎重に進んで攻撃拠点を確保するぞ!」

 

 

馬岱「おー♪」

鳳徳「了解ッ!」

涼州兵「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエィッッッ!!!!!」

 

 

 

結局、怪しいもののここで立ち止まる訳にもいかないため、東側の陽動という役目を果たすべく、馬超たちは慎重に前へと進んだ。

 

 

 

馬岱「けど、一応迎撃の準備はしていたみたいだね、ほら、そこら中に連弩が置いてあるよ?」

 

 

 

更に前に進んで辺りを見ていると、確かに敵兵の姿は見当たらないものの、

 

何機もの大きな連弩がそこら中に設置されており、侵攻を防ごうという意志は見られるようであった。

 

 

 

馬超「本当だな。それなら、本当に人手不足なのか?例えば、張遼達の攻撃が激しすぎて、北の方に兵を割いているとか。北にいるのが

 

あたし達の全兵力だと思い込んでいるのかもしれないな」

 

 

 

そうなってくるとまた話が変わってくる。単純にもぬけの殻でもなく、ちゃんと侵攻を防ぐ準備はしていたものの、

 

そこに配備する兵が足りなかった、或は、今の今まで迎撃態勢に入っていたものの、

 

別の場所に移動せざるを得なくなった、といった別の可能性が次々に浮上しては、馬超の頭を駆け巡っていた。

 

もちろん、これらの可能性を思い起こさせることこそ、曹操軍の思惑なのかもしれないが。

 

 

 

馬岱「ならさっさと東門の攻城にかかろうよ!案外、陽動以上の成果が出ちゃうかもよ♪もしかしたら、タンポポ達の活躍が御遣い様の

 

お目に適って・・・ウシシ♪」

 

 

 

しかし、馬岱はそれらの慎重にするべき思考を丸投げして、攻撃を仕掛けようと宣言し、

 

更に、話をややこしくさせる爆弾を馬超目掛けて炸裂させた。

 

 

 

馬超「な、なななな何戦場で馬鹿なこと言ってるんだよ!?あたしは別に御遣いのことなんて何とも思ってないって言ってるだろ!?」

 

 

馬岱「えー、別にお姉様のことなんて一言も言ってないじゃん。たんぽぽはただたんぽぽとレイレイの活躍が御遣い様のお目に適うって

 

言いたかったんだよ?」

 

 

馬超「★■※@▼●∀っ!?」

 

 

 

思わぬところから思わぬ攻撃を受けた馬超には効果てきめん、

 

馬岱の不意打ちと見せかけたフェイントからのクロスカウンターを受けた馬超が顔面を真っ赤にさせながら泡を吹く勢いで慌てていた。

 

 

 

馬岱「それとも何?やっぱりお姉様も御遣い様のことが―――」

 

 

 

そのように、一つ一つの選択が隊の命の、ひいては、御遣い奪還作戦全体の成功失敗にかかわるような、

 

かなり緊迫した状況にもかかわらず、マイペースな馬岱により息が詰まりそうなこの場の空気の緊張がほぐれる、

 

涼州軍の平常運転が繰り広げられていたが、しかしその刹那、

 

 

 

鳳徳「回避ッ!」

 

 

 

鳳徳が突然回避行動をとるよう短く、そして力強く号令したかと思うと、それと同時に、

 

複数あるあたり一面の連弩から、突然何本もの矢が射出され、涼州軍に襲い掛かった。

 

馬の嘶く声が一斉に木霊する。

 

 

 

馬超「ぅあっぶ!?今連弩が動いたのか!?」

 

 

 

ある程度緊張が解けていたおかげで視野が広くなっていた涼州軍は寸前のところで回避、或は弾き、隊に被害が及ぶことはなかった。

 

 

 

馬岱「で、でもおかしいよ!連弩には誰もついていないのに・・・!」

 

鳳徳「無人ッ!」

 

馬超「それじゃ何だ、連弩が勝手に攻撃してきたっていうのか!?」

 

 

 

しかし、被害がなかったにしても状況は芳しくない。

 

敵兵が誰もいないにも関わらず、連弩が動き、涼州軍に襲い掛かったのである。

 

さらによく耳を澄ませてみると、連弩の方からガチャガチャという音が聞こえ、ひとりでに次の矢が装填されているようであった。

 

 

 

??「さてさてー、なかなか筋の良い考え方なんだねー?けど、まだ完全に自動にはできないんだねー?あくまで人の手ありきの絡繰り

 

なんだねー?」

 

 

 

すると、どこからともなく、何者かが馬超の問いかけに対して間延びした緩い声で答えた。

 

 

 

馬超「誰だ!――――――本当に誰だコイツ?」

 

 

 

さっきまではいなかった第三者の介入に、涼州軍内には緊張が走り、馬超は誰だとその声の主を追いかけると、

 

拠点内にある物見櫓に人影を確認することができたが、しかし、その謎の人物のシルエットを視認したその刹那、

 

馬超はある意味で無人の連弩が攻撃してきたこと以上に衝撃を受けたのかもしれない。

 

 

 

??「さてさてー、名乗るほどの者じゃないんだねー?」

 

 

 

姿を現したのは、2メートルに達しようかというほどの長身の女性。

 

どこか研究者然とした白を基調にした軍師装束は、その背丈にもかかわらずダボダボで、

 

上着のように羽織っており、眉上で切りそろえられた黒のベリーショートヘアにグルグルの真ん丸眼鏡をかけ、

 

ネコ科を彷彿させるω型の口をもにゅもにゅさせている。

 

それら特徴的な外見の中でも一際異彩を放つのが、頭から空に向かって生えている黒く細長い耳。

 

北郷の世界で言われる、俗にいう“ウサミミ”である。

 

 

 

馬岱「うっそだー!だってこんな見るからにバカみたいな格好してるし絶対名のある人だよね!?」

 

鳳徳「変態ッ!」

 

 

 

そして、あからさまに怪しいその人物に対して、馬岱と鳳徳は最大限の胡散臭そうな顔をしながら、

 

続けざまに何の思惑も裏もなく感じたことをそのまま声に出して罵倒した。

 

 

 

??「さてさてー、あたくしは褒められても別に何とも思わないんだねー?」

 

 

 

しかし、ウサミミ女は馬岱と鳳徳の罵倒を聞くと、ω口をもにゅもにゅさせながら、

 

照れたようにウサミミをわしゃわしゃして喜んでいる。

 

 

 

鳳徳「(へ、変態ッ・・・!)」

 

 

 

鳳徳は大事なことであると悟りもう一度同じ罵倒を繰り返そうとしたが、

 

あまりの衝撃に口をパクパクするだけで、言葉が声になって出てこなかった。

 

 

 

馬超「くそっ、また勝手に攻撃してきた―――――うぉあっぶ!?」

 

 

 

そのような一連のやり取りがひと段落したかと思うと、再び何機もの連弩から一斉に矢が射出され、

 

騎馬軍である涼州軍はその対応に苦慮していたその時、今度は遠方から思いがけないものが飛来し、

 

馬超は辛くも避け、嘶く馬の手綱を引き、何とか落ち着かせる。

 

馬超のそば近くに鈍い音を立てて転がっているのは巨大な岩である。

 

 

 

馬岱「あの向うの方にある大きいやつ、もしかして投石機なの!?あんなに遠くから飛んでくるとかありえないよ!それにあれにも誰も

 

いない感じじゃん!?いったいどーなってんの!?」

 

 

鳳徳「奇怪ッ!」

 

 

 

巨大な岩を飛ばした正体はもちろん投石器であった。

 

しかし、その投石機もまた、兵士の姿が見ない無人のもの。

 

さらに言えば、普段よく目にするカタパルト式のものではなく、背の高い複雑な構造をしていそうな見たこともない形をしていた。

 

拠点から数百メートル離れたところにいくつか設置してある奇怪なそれを見ていると、一見シーソーのような構造で、

 

一方に重しを加えることで反対側を跳ね上げさせ、岩を投擲しているようにも見えたが、打ち終わった投石機は、

 

地面に溝でも掘ってあるのか、そのままぐるりと一回転し、再び発射準備完了の位置で停止すると、すでに次の巨岩がセットされていた。

 

 

 

満寵「さてさてー、ようこそ絡繰師満寵の兵器実験場へ。あなた方は記念すべき創設第一号の客人なんだねー!?せいぜい、骨身も残ら

 

ないほど存分に試させてもらうんだねー!?」

 

 

 

名乗らないと言っておきらから実質名乗ってしまっている満寵は、その未知数の兵器の実力を試さんと、

 

嬉しさを隠しきれていない緩んだ表情で、馬超たちの前にたった一人(●●●●●)で立ちはだかるのであった。

 

 

 

 

 

 

【豫洲、許城side呂布・高順】

 

 

呂布と高順は張遼たち北の陽動隊と別れてからは、予定通り城の西側に移動し、

 

函谷関の時同様、呂布の超投擲によって高順が城壁の上部に激突、もとい、しがみつき、

 

城壁を登り切ったあとは、呂布を縄で引き揚げ、見事に二人とも城壁内への侵入に成功したのであった。

 

 

 

高順「さて、思いのほか簡単に侵入できましたね。あまりに簡単すぎて少し怖いくらいですが」

 

 

 

それまでの間、曹操軍の兵に出くわすことがなかったのは高順の隠密が冴えたのか、

 

はたまた、侵入できるような場所でない死角を突いたためか、そもそも見張りの兵すらおぼつかない状況だからか、

 

いずれにせよあまりにも順調に事が進んでいた。

 

 

 

呂布「・・・・・・これからが、大変」

 

高順「ええ、いかにして一刀様が捕えられているという地下牢を探し出すか。やはり、兵士を拉致して尋問するしかありませんね」

 

 

 

しかし、気持ち悪いほど順調に事が進んでいるとはいえ、未だ北郷の所在については許城内にある地下牢、

 

という曖昧な情報しかなく、時間との戦いでもある今、ここからが正念場というところであった。

 

 

 

高順「このように話している時間も惜しいとことです。ひとまず曹操軍の兵士を探しま―――」

 

呂布「・・・・・・また、来る・・・」

 

 

 

しかし、高順が話している途中で呂布が誰かの接近を察知し、城の楼閣の一つを見上げたかと思うと、

 

何者かの人影があり、鈴を鳴らしたような極小の音量にもかかわらず、なぜか耳にはっきりと聞こえてくる声を発していた。

 

 

 

??「・・・なるほど、北でなければ東でもない。なぜこのような場所を守れと言うのか不思議でしたが、やはり、あなたは鬼才と呼ぶに

 

ふさわしいですよ稟さん、すみません」

 

 

 

そして、その謎の小さな声の人物は数メートルはあろうかという楼閣から跳び出すと、呂布と高順の前にガシャリと音を立てて着地した。

 

小柄な体躯に若干あっていないブカブカの軽微な鎧を身にまとい、

 

どこかシスターのベールを彷彿させるショートカットのシルバーブロンドは、

 

前髪部分がちょうど鼻先で綺麗に切りそろえられており、その表情は見て取れない。

 

手にする獲物は、一対の巨大な両刃斧である。

 

 

 

高順「徐公明・・・なぜ不敗将軍がこのような場所に・・・!」

 

 

徐晃「・・・すみません、確かに、城内への侵入は隠し通路の出口から入るのが一番手っ取り早いです。あとは、他所で仲間に派手に暴れ

 

させておけば本命は容易に侵入できる。素晴らしい盲点でしたが、あなた方の驚き様を見るに、隠し通路の存在が露見してしまっている

 

とこちらが仮定できていたのは予測できていないようでしたね、すみません」

 

 

高順(・・・・・・隠し通路・・・?壁を登る以外にも侵入方法があった・・・?ということは、帰りは一刀様がいるから―――)

 

 

 

その時、高順は徐晃の蚊の鳴くような小さな声による重要な言葉を聞きのがさなかった。

 

そして、そこから導き出される仮定を模索し、今後の行動指針に加えようとするが、しかしその刹那、突然高順の視界から徐晃が消えた。

 

 

 

高順「あれ――――――?」

 

 

 

と高順が目で徐晃を追いかけようとした次の瞬間、視界を鋭利な刃が覆った。

 

徐晃の持つ巨大な両手斧の刃が高順の視界を遮っているのである。

 

つまり、高順が一瞬徐晃から意識をそらしたのを逃さず、徐晃の振りぬいた一撃が、

 

すでに高順の意志では到底避けられないところまで来ているということを意味していた。

 

 

 

高順「しまっ―――!?」

 

 

 

人体の持つ反射を持ってしても時すでに遅し。

 

待つのは死あるのみ。

 

高順の脳裏には、自身の両眼から上部が水平にパッカリと頭蓋の蓋を開けるように切り取られるイメージがよぎっていた。

 

しかし、間一髪のところで急に首根っこが引っ張られる感覚に襲われたかと思うと、紙一重で徐晃の一撃を免れることができた。

 

 

 

呂布「・・・・・・怪我はない?」

 

高順「た、助かりました」

 

 

 

呂布に命を救われた高順は浅く呼吸を繰り返し落ち着こうとする。

 

 

 

徐晃「・・・しかし、飛将軍に陥陣営。本命がたった二人とはいえ、一騎当千の猛者が相手ともなれば、私も相応の覚悟が必要になりそう

 

ですね、すみません」

 

 

 

その刹那、ただならぬプレッシャーが徐晃の全身から解き放たれ、呂布と高順に襲い掛かる。

 

普段は長い前髪で覆われて見えない瞳が、わずかな髪の隙間から一方が垣間見え、

 

その小さな声や、低姿勢な様子からは想像もつかないような、鋭く冷たい殺気を乗せて二人に突き刺さって来る。

 

 

 

徐晃「・・・すみません、ですがここは死んでも通すわけにはいきません。あなた方にはここで死んでもらいます、すみません」

 

 

 

そして、徐晃は落ち着いた様子で一対の両刃斧を胸元によせ、短く祈るそぶりを見せた後、戦闘態勢へと移った。

 

高順「(これが不敗将軍、徐公明の本領・・・!)」

 

 

 

高順は徐晃の放つプレッシャーに気圧されていた。

 

明らかに自分とは次元の違う存在。

 

あるいは自身が暴走状態に入れば渡り合えるだろうかと思いながらも、自ら望んでできれば苦労はしないし、

 

正直あのような自分が自分でいられなくなるようなものなどに頼ったところでロクなことにならないと、

 

高順は無駄に長い袂から三節紺とクナイを取り出し、戦闘態勢に入る。

 

 

 

呂布「・・・なな、下がっていろ」

 

 

 

しかしその時、呂布が高順を制すると高順の前に一歩出た。

 

 

 

高順「恋様?」

 

呂布「・・・恋が、やる」

 

 

 

そして、呂布は方天画戟を両手で持つと、滑らかな動きでスッと構え、戦闘態勢に入る。

 

その刹那、呂布からも禍々しいほどの闘気がプレッシャーとなって全方位に放たれる。

 

味方である高順ですら、息が詰まり、思わず後ずさりしたくなるほどのプレッシャーを受け、高順は自身の出る幕ではないことを悟る。

 

 

 

高順「御意」

 

 

 

高順は大人しく引き下がると、辺り一面は徐晃と呂布の放つプレッシャーがぶつかり合い、ピリピリとした雰囲気が漂い、

 

この場にいるだけでも高順は立っているのがやっとであり、思わず吐き出してしまいそうになった。

 

そして、東方から聞こえてきた爆発音を合図に、両者は同時に動き出した。

 

 

 

 

 

 

【豫洲、許城side北郷】

 

 

臧覇は魏続らと別れたのち、北郷と徐庶を看守室に連れていくと、そこで兵士の服装に着替えさせた。

 

 

 

臧覇「よし、これで準備はできたぜ。アンタはもう一人で歩けるぜ?」

 

徐庶「わわわ、えーとえーと、はいなのです、ありがとうございました」

 

 

 

曹操軍の兵士の証である、紫紺を基調にした隊服を身につけた徐庶は、

 

そのブカブカさ加減が気になりつつも、もう大丈夫であると赤面しながらヘコヘコと頭を下げた。

 

 

 

北郷「けど、ここからどうやって城外に脱出するんだ?」

 

 

 

同様に紫紺を基調にした曹操軍の隊服を身につけた北郷は、兜のずれを整えながら今後の行動について尋ねた。

 

 

 

臧覇「隠し通路を使うんだぜ。城には必ずと言っていいほど急時に備えた抜け道があるもんだが、当然許城にもそれはあるんだぜ」

 

 

 

話は移動しながらということなのか、臧覇は二人を先導する形で看守室から出ながら、隠し通路から脱出するという説明をした。

 

 

 

臧覇「今は外の状況が全く読めないんだぜ。当初は函谷関への援軍にでも紛れ込もうと思っていたが、どうやらもう外まで攻め込まれて

 

いるみたいなのはさっきも言った通りだぜ。まぁさすがに許城が落ちるなんてことはありえないだろうから、この混乱に乗じて隠し通路

 

からシレッと脱出だぜ」

 

 

 

当初臧覇が把握していた情報では、賊軍が函谷関に攻め寄せているというものであった。

 

そこから、臧覇は恐らく出されるであろう許城から函谷関への援軍に紛れ込む、という策を練っていたのだが、

 

いざ北郷を牢から出すとなり、看守室に向かう途中、地上が騒がしくなっており、

 

先に地上に出てどうしたのかと兵に尋ねたところ、すでに城外まで賊軍が攻め込んできていると言うではないか。

 

あまりの情報の違いに臧覇たちは絶句すると共に混乱しそうになるが、すぐさま計画を修正。

 

この混乱に乗じて密かに脱走を図る方針に変えたのである。

 

 

 

北郷「どこの誰なんだろう・・・本当に成都の皆なのかな・・・」

 

 

臧覇「さっきの兵士は賊軍としか言ってなかったが、詳しく聞いとけばよかったぜ。今は魏続達が働いてくれているおかげで城内に人が

 

いないんだぜ。まぁ本当に成都軍ならそこに合流できれば手っ取り早いんだろうが、違った場合が面倒だぜ」

 

 

徐庶「わわわ、えーとえーと、でしたら、城外に脱出したら、ですね、逃げる傍ら、ですね、少し覗いてみては、どうでしょうか?本当に

 

成都のお仲間さん方なのでしたら、合流すれば、良いのですし、違っていても、そのまま脱走兵を装って、逃げれば良いのですよ」

 

 

 

そのような北郷と臧覇の会話に、徐庶は二人の走る速度に何とか追いつきながら

 

(というより、二人が徐庶に合わせているのだが)おどおどと考えながら息を切らし切らし助言した。

 

確かに賊軍が北郷軍なのであれば、その目的は当然御遣い処刑に対する報復のはずだから、

 

当の本人が出ていけば泣いて喜びながら引き入れてくれるだろうし、そうでなければ、

 

死んだはずの御遣いが生きているなどと考えなしに知られたら話はややこしくなるだけなので、

 

むやみな接触は避け、そのまま曹操軍の兵として敗戦を恐れ逃げている態を装えば、そのまま見逃されるのではという算段である。

 

 

 

臧覇「とにかく、何をするにせよ、今この城にいる要注意人物は三人だぜ」

 

 

 

一定脱出後の方針も固まったところで、臧覇は最後に城内にいる要注意人物について補足を始めた。

 

 

 

臧覇「特に郭嘉には気を付けないと―――」

 

郭嘉「私がどうかしたのですか?」

 

 

 

しかし、臧覇が郭嘉には注意せよと言おうとしたその時、進行方向の曲がり角から当の本人たる郭嘉が眼鏡を光らせながら姿を現した。

 

 

 

臧覇(チッ)

 

北郷(あれは確か曹操と一緒にいた・・・!?)

 

徐庶(わわっ!?)

 

 

 

全力で走っていた三人は、進行を妨げるように道の真ん中に立ちふさがった郭嘉に対して、郭嘉と面識のある臧覇は苦い顔をして、

 

徐庶は驚きの表情で、曹操と謁見した時に見た程度の認識しかない北郷は誰かを勘繰るような表情で、急ブレーキをかけて立ち止まる。

 

 

 

郭嘉「臧覇、あなたは確か華琳様が遠征中は地下牢の見張りを任されていませんでしたか?このようなところで兵を連れてどこへ行こう

 

というのですか?」

 

 

臧覇「・・・これは郭嘉殿、もうお体の方は大丈夫なんだぜ?」

 

 

 

郭嘉が北郷と徐庶のことについては兵士と称し、臧覇が持ち場を離れていることに対して言及してきたため、

 

臧覇はひとまず自然を装って郭嘉と会話を交わした。

 

相手は曹操軍一といっても過言ではない切れ者。

 

話術のスペシャリスト。

 

果たしてどこまで誤魔化しきれるか。

 

自然、臧覇の全身から嫌な汗が噴き出してきた。

 

 

 

郭嘉「えぇ、もう大丈夫です。それに、このように敵に囲まれてしまえばゆっくり寝てもいられません」

 

 

臧覇「やっぱり今城は攻められているんだぜ?まったく、地下にもちゃんと情報を教えてほしいもんだぜ。で、どこの馬鹿が攻めてきて

 

いるんだぜ?」

 

 

 

郭嘉が敵に囲まれているという話題を出してくれたため、臧覇はそこから自然な流れで賊軍の正体をつかもうと尋ねた。

 

 

 

郭嘉「その質問に答える前に私の質問に答えてください臧覇。あなたは、今、ここで、何をしようとしていたのですか?」

 

 

 

しかし、郭嘉はそれを良しとはせず、臧覇のペースをすぐさま崩し、自身の流れへと戻してきた。

 

再び振り出しに戻された臧覇は心の中で苦虫をかみつぶすも、表情は平静を装う。

 

 

 

臧覇「・・・暗いところばかりにいたら眼が腐ってしまうから、外に出て少し陽の光に当たろうと思っただけだぜ」

 

郭嘉「ほぅ、わざわざ隠し通路を使ってですか?」

 

 

 

あくまで臧覇は武一筋で生きてきた武将なのである。当然、

 

このような不測の事態への対応など上手くできるはずもなく、臧覇の口から出てきた答えは誰が聞いても苦し紛れと思えるようなもの。

 

そこへ、郭嘉がとどめともいうべき一言を放つことで万事休す。

 

 

 

臧覇「・・・・・・年頃の男子は皆冒険したいんだぜって言ってももう無駄なんだぜ?」

 

 

 

ここまで来れば何を言っても無駄であると、臧覇はある意味で開き直り、冗談を言うことで事実上自らの裏切りを認めることになった。

 

 

 

郭嘉「まったく、あれだけ華琳様のために働いていたのに、非常に残念ですよ。後ろの兵士は御遣いですか?それを手土産に呂布の元に

 

馳せ参じようとでも言うのですか?それで下邳で主を見捨てたことを帳消しにしてもらおうと?」

 

 

臧覇「御遣い?さて、何を言っているのかさっぱりなんだぜ」

 

 

 

郭嘉は眼鏡越しに片手で額に手を当て、首を横に振りながら残念がり、挑発を交えながら曹操兵に扮した北郷を指さしながら、

 

お前は御遣いだなどと突然言い当ててくるものだから、北郷は心臓が口から飛び出しそうになるが、

 

一方、臧覇は開き直っているせいか、なぜか偉そうに肩をすくめながら、ハッタリであると郭嘉の挑発をスルーし誤魔化した。

 

変に郭嘉相手に渡り合おうなどと気を張るから逆に不自然になるのであり、

 

今のように開き直った方がむしろ普段通り接することができることもあるものである。

 

 

 

郭嘉「はぁ、やはり、あなたを看守の任に付かせる件はもっと強く反対しておくべきでしたね。徐庶が珍しく助言したのを華琳様が聞き

 

入れてしまわれたからやむを得ませんでしたが、なぜ華琳様は徐庶をそこまで買っていらっしゃるのか、不思議に思いませんか?」

 

 

 

すると、臧覇が挑発に乗らず平静を取り戻したのを察すると、今度は曹操兵に扮した徐庶を標的に郭嘉は話題を振り始めた。

 

 

 

徐庶「わわわ!わ、わわわっ!?」

 

北郷「お、落ち着いて!」

 

臧覇「はぁ、馬鹿野郎だぜ・・・」

 

 

 

効果は覿面。

 

突然話を振られた徐庶は思わずわわわと口癖を口走ってしまい、そこで郭嘉の罠であると気づき、

 

再度わわわと慌てながら口元をふさぐものだからもうバレバレなどという次元のものではなく、

 

北郷も慌ててしまう始末で、臧覇は頭を抱えながらため息をつくのであった。

 

 

 

郭嘉「おやおや、もう一人は魏続か宋憲あたりかと思いましたが、思わぬ輩が釣れたものですね」

 

徐庶「わわわ~~~・・・」

 

 

 

このことについては、郭嘉は本当に意外に思っているようで、眼鏡のずれを無意識に直し、

 

眼鏡を鋭く煌めかせながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

郭嘉「なるほど、これで合点がいきました。臧覇、徐庶、あなた方は元々通じていたと言うことですか」

 

臧覇「おいおい、残念だがコイツに関しては本当に何もないしついでに拾ったに過ぎないんだぜ」

 

 

郭嘉「さて、どうですかね。思えば、涼州軍と北郷軍が密接に関係しているため、これ以上強大になる前に叩くべしと、涼州侵攻を進言

 

して以来、頑なに助言を拒んできたこの娘が、あなたが南征軍に選ばれそうになった途端、急に助言をしだしたと聞いた時点で、もっと

 

怪しむべきでしたね」

 

 

北郷(・・・・・・ん?今郭嘉はなんて言った・・・?)

 

 

 

臧覇と徐庶の関係については、臧覇が主張するように本当に何もなく、

 

北郷の気まぐれがなければあのまま牢の中となっていたはずなのである。

 

しかし、郭嘉の言うように、徐庶の発言が臧覇の残留を決定づけたのであれば、内応するためと理解されても仕方がなく、

 

その辺り、徐庶の真意も分からないため何とも言い難いが、郭嘉が疑うには十分すぎると言えた。

 

 

 

臧覇「・・・要するに元々怪しまれていたってことだぜ?情報も恐らく地下の看守室には伝えていなかったってことだぜ?」

 

郭嘉「情報の扱いには細心の注意を払っていました、とだけ言っておきましょう」

 

 

 

臧覇は看守の任についてからは基本、地上に上がることはなく、看守室で寝泊まりをしていた。

 

看守の仕事は通常2~3人を交代で回すものだが、人手が不足している時は、一人で何日もこなさなければならない時もある。

 

そのため、少しでも無駄な時間を省くため、基本地下で何でもできるようになっていた。

 

食事もその都度配達され、トイレも水浴び場も完備されている。

 

そのため、郭嘉が臧覇を怪しみ、意図的に情報を止めてしまえば、

 

臧覇にとって情報が入って来るのは、新入りの罪人が情勢を愚痴る時ぐらいなのである。

 

 

 

臧覇「そうか、まぁ、なんだ、バレちゃしょうがねぇってことで、俺達には時間がないんだぜ。アンタは軍師、俺は武将。悪いが、ここは

 

力ずくで押し通らせてもらうぜ!」

 

 

 

そして、ついにこれ以上の問答は時間の無駄と、臧覇は背負った双戟を引き抜き、強引に突破する意志を見せた。

 

郭嘉は天下の鬼才と謳われる軍師と言えど所詮は文官。

 

武官である臧覇がゴリ押しで行けば、力では敵わぬのは自明の理。

 

 

 

郭嘉「もちろん私個人の力では到底あなたには勝てません。ですが、まさか軍師である私が丸腰で武将であるあなたの前に現れたとでも

 

思っているのですか?」

 

 

 

しかし、そのような窮地においても郭嘉の余裕は崩れない。

 

そして、郭嘉が眼鏡のずれを直し、右手を上げたその刹那、四方八方から曹操軍の兵士がわらわらと現れた。

 

 

 

臧覇「何!?」

 

北郷「伏兵!?」

 

徐庶「わわわ!?」

 

郭嘉「あなた方を止めるために北門に向かわせなかった許に残っている兵士百余名。これで詰みですよ、臧覇」

 

 

 

【第九十五回 第五章B:御遣い奪還編⑪・ようこそ絡繰師満寵の兵器実験場へ 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第九十五回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、涼州軍side、高順side、北郷sideと目まぐるしく事態が動いているわけですが、

 

中でもぶっ飛んでいたのはやはり許城東側、涼州軍vs満寵でしょうか。

 

兵器の無人化。一見トンデモ技術のように思えますが、真桜の螺旋槍を考えれば実現は可能だろうと思いぶち込みました。

 

やはりたとえ手薄とはいえ曹操軍の本拠を落とすのは一筋縄ではいかないと少しでも感じて頂ければ幸いです。

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

今回もシレッと城内侵入を果たしているなな。恋、やはり最強か、、、

 


 
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