これは、三女神とトールが、ワクノニの森を元に戻した後の事です。
「ワクノニの森も元に戻りましたし、早く水のナッツォを探しましょうかね」
「ああ、お前らが神界に帰るためにもな」
水のナッツォを探すため、三女神とトールが歩いていたところ……。
「今や神秘は忘れられ~♪ 人に交じって暮らしてる~♪」
広場の中央で、一人の女性が歌を歌っていました。
誰が歌っているんだろう、と三女神とトールが歌のした方に向かっていきました。
「あっ、何を歌っていたんですか?」
「う~ん、アデルから教わった歌よ」
「アデル?」
「あたしの上司みたいな奴よ」
「上司、ですか……」
女性の言葉を聞いたジャンヌは、魔法の女神カイアを思い出しました。
カイアは、ジャンヌ達三女神にとって上司に当たる存在だからです。
「ん? あなたにも上司はいるの?」
「故郷を思い出しただけです」
「そう。それじゃ、あたしはそろそろ別の場所に行くわね」
「待ってください!」
別の場所に行こうとした女性を、ゲールは止めました。
「しばらく、私達も一緒にあなたについてきていいでしょうか?」
「いいわよ。ただし、邪魔をしない程度にね」
「はい!」
女性から許可をもらい、ジャンヌ、ゲール、バイオレット、トールは彼女についていく事にしました。
「ふ~ん、あなたは吟遊詩人なんだね」
「本業じゃないけどね、ユミルと一緒にやる事はあるわよ」
「あ、ユミルはボクです~」
女性の隣にいた金髪の少女(?)が手を振りました。
「初めまして、ユミルさん」
「あなた達とは初めてですね。ボクはユミル・ハーシェル、こっちは……」
「ミロよ、よろしくね。あなた達の名前は?」
「あ、わたくしはジーンと申します」
「私はゲルダ、ジーンの妹です」
「あたしはヴィア! ジーンお姉ちゃんとゲルダお姉ちゃんの妹だよ!」
「オレはマグナ=トールだ」
三女神とトール、そしてミロとユミルは、お互いに自己紹介をしました。
「本業が吟遊詩人じゃないとしたら、本業は何なの?」
「あ、え~っと……時空警察(タイムパトロール)よ」
「時空警察、ですか?」
「時空警察というのは、異世界同士の秩序を守る存在の事です。
階級は4つあり、最も下が
「へぇー、興味深いですね」
ユミルから時空警察について教えてもらった三女神は、時空警察に興味を持ちました。
「でも、今のアルカディアは混ざりすぎてるのよねぇ。時空警察の仕事が追い付かないくらいに」
「あの大災害のせいで色んな人や物が来てもうめちゃくちゃですよ」
ユミルの言う通り、元々アルカディアに異世界人はいませんでしたが、
300年前に起きた大災害「次元変動」の影響で様々な世界と混ざり合い、
結果、アルカディアにはたくさんの異世界人が現れるようになり、
また一部の人が異世界に行く力に目覚める現象が発生するようになったのです。
「まぁ、あなた達にとってはつい最近の事かもしれませんけどね」
「あっははは」
しばらく話し合っていると、急にミロとユミルが立ち上がりました。
「どうしたの?」
「そろそろ、あたし達は別の場所に行かなきゃいけないの」
「別の場所?」
「ボク達時空警察などの『異次元の旅人』は、ひとっところに留まるのはいけないんです」
異次元の旅人は、その存在自体が世界にとって特異です。
そのため、長く1つの世界にいた場合、自我がその世界の住人に染まり、
異次元の旅人としての力を失ってしまうのです。
「それは、異次元の旅人である限り、逃れられない使命。じゃあね」
「待って!」
そう言って別の世界に去ろうとするミロとユミルを、バイオレットは止めました。
「何?」
「あたし達がさっき言った名前、本名じゃないの」
「え?」
「あたし達の本名はね……」
バイオレットは口を開き、ミロとユミルにしか聞こえない声で言いました。
「ジャンヌ、ゲール、バイオレット、だよ!」
ミロとユミルは、彼女の声を聴いた後、目を閉じ、静かに微笑みました。
そして、空を飛んだ後、別の世界へと去っていきました。
「行っちゃったね」
「異次元の旅人、か……」
トールは、空を見ながら呟きました。
「特別な力を持つ代わりに、世界にとっては脅威になるんだよな」
「でも、今は世界が追い付いていませんよね」
異世界から来るものは、世界にとってはイレギュラーです。
本来ならば、違う世界の者がその世界に来た場合、世界の抑止力によって消滅するのですが、
次元変動以降、世界の抑止力が弱体化したため今ではそんな事はありません。
「秩序に傾けば活力が失われ、混沌に傾けば平穏が失われる。私達神様も、大変ですよねぇ」
「とは言ってもお前らはまだ見習いだし、おや……オーディン様に任せておきゃいい」
「そうですね。わたくし達は、わたくし達でできる事を行いましょう」
「よし、水のナッツォを探そうぜ!」
ジャンヌ、ゲール、バイオレット、トールは、水のナッツォを探すために歩き出しました。
その様子を、空でミロとユミルが見つめていました。
「ふふふ、面白い子達ね」
「いつかまた、会ってみたいですね」
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TGの番外編、今回はあの二人組の吸血鬼が登場します。時系列は23話~24話です。