一刀が三人組に絡まれたのと、ほぼ同時刻の少し離れた場所。
騎馬隊の、やや前方に位置取りをしている少女に一騎近づいてくる。
「華琳さま、先遣隊からの報告がありました」
「話しなさい」
「は、現在地より北、約十里先の荒野に黄色い頭巾を身に着けた集団が目撃されたそうです」
「ふむ、当たりかしら?」
「おそらく」
少女は少し考える様子を見せ、先頭を走る騎兵に大声で話しかける。
「春蘭、聞いていたわね!?」
「全隊、北北西に転進!、賊どもの尻尾を捕らえたぞ、進めえぇーーーー!」
真・恋姫無双 新約・外史演義 第02話「陳留の刺史」
「襲い掛かるって……、なあ、何か誤解して――」
「動くな、外道が!」
凶暴な、はち・ちゅう・さん的なコスプレ集団の凶刃から命からがら逃れることが出来た北郷一刀……は現在、後ろから刃を突きつけられ、絶体絶命の危機は今も継続中である。
「……っ! だから、誤解だってば! どう見ても俺は被害者だろ」
首だけで後ろを振り返るとそこには……コスプレ少女弐号がいた。和風と中華風の中間のような白を基調としたドレス? また、ずいぶんと個性的な衣装だ。
「ほう、どこをどう見れば被害者だと言い張れるのだ?」
「は?」
「全裸で、しかも随分と大きくしているではないか?」
うん、そういえば……制服を引っぺがされてスッポンポンだったよな俺。そして、認めたくないのだが股間を大きくしていて『変質者』と言われても言い訳できない状況だよな。
「いや、これは、死にそうな状況になると子孫を残そうとする男の本能が……」
「で、そこの乙女に子種を植え付けようとしたわけか」
「いやいや。 だから、死にそうになったのはそいつ等に殺されそうになったからで」
「言い訳はけっこう。乙女の涙が何よりの証拠!」
「へ? 乙女の涙って…………ええ!?」
「う、うっ、うっ……ひぐっ、ひっく!」
そこには、先ほどの窮地を救ってくれた救世主の少女が、可愛らしいお顔をくしゃくしゃに歪めながら泣いていた。血まみれの殺人現場の中で彼女の白が基調のチャイナドレスが良く映えている……って、え?何?何で泣いているの? まさか、さっき俺が怒った時のアレが原因!?
「大方、その娘を誰がヤるかで殺し合いになったのだろう。畜生どもめ!」
やだ……何その鬼畜な所業。想像しただけでも反吐が出そうなんですけど……まあ、その鬼畜だと疑われているワケで。
「いや、だから、俺もそいつ等に――」
「問答無用!」
こちらの返答に激高した少女は間髪を要れずに、その手に握る槍の穂先を首筋目掛けて…………。
悲鳴を上げる暇もなく、首が胴から吹っ飛んだ。
―― キイィィーーーーーーーーーーーーーン!
首が胴から吹っ飛んだ。――と言うのは、俺の想像で首は胴にくっついている……そして、先ほどの金属的な甲高い音は一体?
「…………おい。 なぜ、その外道をかばう。 私はお前を助けに来たのだぞ」
「……っ!」
「もしや……、その男は五湖の妖術使いか? こんな、いたいけな乙女を操るとは……ゆるせん!」
「…………(ブンブン!)」
そう言えば、目の前で泣いていた少女が居ない……つまりはそういう事か。そして……。
「いや、何だよ妖術使いって。そこは『あれ……、本当に誤解だったの?』とかだろ!」
「もしや……、本当に誤解だったのか?」
オウム返しかよ。まあ、いいけど。
「……は、はい。この方はそこの悪党共に襲われて、身包み剥がされていました」
「ほう。で、おぬしがその男を助けた……そういう事か」
「……(ウンウン!)」
「だから、最初から、そう言っているじゃないか!」
「ふ……、そうか。 こちらの早計だったという訳だな……いやはや、かたじけない」
「……あのぉ、そろそろ槍を引いて貰えませんか? もう、腕が限界…………」
「おお!これは失敬。 すまない、癖と言うやつでな」
「今度こそ、本当に助かったのか?」
「どうやら、そのようですね」
コスプレ少女弐号は赤い槍を引いてこちらから半歩ほど下り、俺を守ってくれたらしい壱号はヘナヘナと地面にへたり込んだ。今度こそ助かったのかな?
「いやー、本当にすまなかったな。 それにしても、この趙子龍の槍を防ぐとは、おぬし中々の――」
「あのー、お取り込み中の所失礼しますねー。星ちゃん、星ちゃん」
「む、どうした風よ? 何か不測の事態でも起こったのか」
と、今度は参号が登場。この子もまた個性的な格好をしていらっしゃる。中国の王宮ドラマに出てきそうな緑を基調とした中国役人っぽい服と、頭の上に…………人形?
彼女は弐号のことを星(せい)ちゃんと呼んで、弐号は参号のことを風(ふう)と呼んでいた。響きから察するに漢字圏っぽいんだけれど……本当にどこの国なのか?
「はいー、南の方角、およそ二里に騎馬の集団と思わしき土煙が」
「どれ…………、掲げるは『曹』の御旗……陳留の刺史殿か」
「この状況だと、とぉーても面倒くさいことになるので、ここは『三十六計逃げるに如かず』が得策かと」
「ふむ、凛はどうしている」
「凛ちゃんはあちらでお馬さんを用意してますよー。そこのお兄さんたちを襲った人たちのお馬さんみたいですど」
「ほう、馬足をこの短時間の限られた状況で用意するとは。 さすがは軍師殿……いや、さすがは凛」
「あ、あの……さっきから何を」
こちらを置いてけぼりで話しをていた、弐号と参号に話しかける。
騎馬の集団……御旗……軍師殿……など、戦国情緒あふれる単語が聞こえてくる気が……。
「どうやらここに官が近づいてるようでな、拙者たちはここで失礼する」
「え、何? もう行っちゃうの!?」
「我々のような流れ者が山賊共の死体と一緒にいる所を官史に見られるなど、捕まえてくださいと言っているようなものですから」
「え、誰?」
えー、四号までいるの……?日本以外でコスプレが盛んな国って、どこかにあったっけ?
「おおー、凛ちゃん、もう準備が終わったんですかー」
「ふむ。 それでは、ごめん!」
「ではでは~」
「あ、そこの方。刺史殿が来る前に服を着たほうがって、裸!? ぶふーーーーーーーー!」
「おお! 今ごろ」
「はい、凛ちゃん~、首の後ろ、トントンしま――」
「あ、お、おいってば……!」
広い荒野に一人、いや、二人残されてしまった。
そして、地平線の向こうからもうもうと砂煙が上がっているのが確認できた。
しばらくすると、騎馬武者の群れと、その上にひるがえる大きな旗が見えてきて…………。
…………何あれ、歴史映画の巨匠が撮影する一大スペクタルか何かか?
例えるならば3●0(スリーハ●ドレット)のワンシーンのような……。
「あの……」
「あ、あれ、何かすごいものが近づいてるけど――」
「あの! そろそろ服を着たほうがいいと思います!」
「――へ?」
「その格好だと、また誤解されると思いますよ……」
ここで、今の今までずうっと丸出しだった事に気がついた……。
「華琳さま! こちらです」
「人相、年齢、体格、人数、装飾……間違いないようね。 して、例の物は?」
「はい、既に回収済みにございます。 こちらに」
華琳さまと呼ばれた少女が、報告に来た一人の兵士から本を受け取り中身を確認している。
「……そう。 で、秋蘭」
「は」
「なぜ、賊どもが死体になっているのかしら? 春蘭が殺ったの?」
「……いえ、それが。 姉者たちが追いついた時にはもう殺されていたそうです」
「仲間割れ?……下手人に心当たりは?」
「死体の近くに若い男女が二名おりました。不審人物として確保済みです」
「そう」
「連中の一味の可能性もありますが……華琳さま、いかが致しますか?」
「……そうね。状況が分からない以上、話を聞いてみる必要があるわね。二人をここに!」
「は!」
華琳の命を受けた、秋蘭と呼ばれた兵士……少女が主の命を実行するため足早にこの場を離れていった。
周囲を取り囲むは、騎馬と完全武装の兵士たち。
そして、その中心には三人組のコスプレ美少女たち。ここはコスプレが一般的な服装なんだろうか? いや、そうに違いない! そういや、ここに来て美少女しか会ってないな……うん、いいことだ。
「あ、あの…………」
「……何?」
さっきの(コスプレっ)子達と同じで言葉だけは通じるらしい。とりあえず、リーダー格の金髪の女の子に話しかけてみた。
「君は、君たちは……誰?」
「それはこちらの台詞よ。あなたたちは何者? 名を尋ねる前に、自分の名を名乗りなさい」
「えっと……北郷一刀。身分は……学生って事になるのかな?」
「そう……ずいぶんと変わった名前ね。まあ、いいでしょう。 で、そちらの娘は?」
「え……?」
「……」
「貴様、華琳さまの質問に答えんかぁっ! 名を名乗れと言っておるのだろうがぁ!」
「…………鄧艾士載」
とうがいしさい……本当に女の子の名前なのか? ……鄧艾、どこかで聞いた事あるような無いような……。
「そう。北郷一刀に鄧艾士載ね」
「私はここ陳留で刺史をしている者」
「……ちんりゅう?しし?」
「陳留を知らないの?」
「初めて聞いた地名かな。 後、ししって何?」
さっきの星って呼ばれていた子の言葉にもちょっと出ていたけど、意味までを聞く暇がなかったし。ただ、やっぱり漢字っぽいニュアンスなんだよなー。漢字圏、もしくは東アジアのどこかだと思うんだけど……ホントにここは何処なんだろ。
「……呆れた。秋蘭」
説明するのがめんどくさくなったのか、華琳さまと呼ばれる金髪の少女はとなりに控える青を基調としたチャイナ服の少女に続きを促す。この子の名前は秋蘭か。
「刺史とは街の政を執り行い、治安維持に従事し不審者や犯罪者を逮捕、処罰する務めをもつ者だ。これなら分かるか?」
「…………たぶん。要するに市議会と警察と裁判所を足して三で割った感じか」
「こいつ、何をワケの分からん事を……」
「要するに、税金をあつめたり、法律を作ったり、陳留の治安を乱す悪い奴を捕まえて罰を与えるのが君の仕事って事だろ」
「分かってるじゃない。なら、今のあなたたちの立場も理解できるわよね?」
「……まあ、何となく」
さっきの凛って子も言ってたけど、血まみれの死体のそばにボコボコに殴られた男と未成年の美少女……俺が刑事でも重要参考人として署までご同行願いますって、言うよなー、間違いなく。
「そう。では、聞きましょう。 北郷一刀、鄧艾士載、あなたたちはこの場で何をしていたのかしら?」
「いや、何をしていたって聞かれても――」
「そこに転がっている死体は私たちが追っていた盗賊なのだけれど。 あなたたちもこいつらの仲間なの?」
「いや、それは断じて違う! むしろ、こいつらに襲われたんだ」
「襲われてた……そう、襲ってきたので反撃した。そして、殺害した。そういう事かしら?」
「いや、それは……っ!」
……くっ!やっぱりそう思うよなぁ。実際にそのとおりなワケなのでグウの根も出ない。
「いや、それは――で、それは何かしら、北郷一刀? 鄧艾士載?」
「「…………」」
「貴様ら、すぐに返事を返さんかぁ! 華琳さまがお尋ねになっているだろうがぁ!」
「姉者、そう威圧しては、答えられるものも答えられんぞ」
「ぐぅぅ……。し、しかし秋蘭! こやつ等は先ほどから妙に言う淀んでるでは無いか! 賊を殺したのなら殺したと言えばいいだろう!それを……明らかに誰かを庇い立てしているぞ! やはり盗賊の一味なのではないか? そうですよね、華琳さまっ!」
「そう……ね。秋蘭はどう思う?」
「……北郷一刀と名乗る男の方はともかく…………娘の方は」
「何にしても、このままでは埒が明かないのは春蘭と同意見ね」
「では……」
華琳の言葉に秋蘭が反応して、一歩前に踏み出そうとする……が。
「いいえ、それは早計よ。 北郷一刀。鄧艾士載」
「あなたたちが賊共に襲われて抵抗した結果、殺害したというのならば一切の罪には問わない」
「え? いいのか」
「正当防衛とは言え陳留で騒ぎを起こした以上、お咎め無しは本来は有り得ないのだけれど、陳留刺史の名をもって約束しましょう」
本当か!ここが日本じゃないのは間違いないと思うが、殺人を犯して無罪にしてくれるというなら寛大すぎる処置だ。この鄧艾って子に前科が付かなくなる。
「そ、それなら――」
「ただし!一緒に来て詳しく事情を話してもらうわ、あなたたち自身の事も含めて。それが条件。 どう?悪くないと思うけど」
そして、俺は待望の街へ向かうことになった。日本ほど品揃えがいいコンビニがあればいいなぁー。
一刀たちとの問答が終わり、華琳の本拠地の街に向かう帰路の馬上で……。
「華琳さま、よろしかったのですか?」
「何がかしら?」
「いえ、無罪放免というのは。 特に鄧艾士載と名乗る娘の方は……」
「ふふ、安心なさい。方便よ」
「ですが……」
「秋蘭、今は少しでも例の賊どもの情報が欲しいのよ。各地で急激な勢いで勢力を増しているそうよ。虎穴に入らずんば虎児を得ず、そういう事よ」
「失礼しました。 では、この夏侯淵妙才も巣の中までお付き合い致します」
「ん?なんの話をしているんだ秋蘭。 まさか、私を置いて華琳さまとどこかに行くつもりじゃないだろうな!?」
「ふ、安心しろ姉者。虎を狩るのに姉者を呼ばないはずが無いだろう、頼りにしているぞ」
華琳、秋蘭、そして秋蘭に姉者と呼ばれた少女春蘭の三人の間でそんな会話があった。
「なら、もう一度聞く。おぬしの名前は?」
「北郷一刀」
「では北郷一刀。おぬしの生国は?」
「日本」
「……この国に来た目的は?」
「ありません」
「…………どうやってこの国に来た?」
「わかりません」
「……華琳さま」
「埒が明かないわね。ある意味、連れてきて正解だったわ」
街の通りにある、茶屋の一席で華琳、春蘭、秋蘭、の三人と対峙して俺と鄧艾は事情聴取の真っ最中だ。この、でっかい丸テーブルって明らかに中華料理屋によくある物なんだけど……日本語が通じるくせに本当に中国っぽいよなココ。
現在は虎狩りの真っ最中。第一試合は北郷一刀対春蘭。
「貴様、真面目に答えんかぁ! とぼけるのもいい加減にしろ!」
「学校で授業を受けていた辺りまでは覚えてるんだけど、それ以降の記憶が無いんだよ! 知らない事は答えようが無いだろ」
「本当に埒が明かないわね」
「後は、こやつの持ち物ですが……」
そう言って、秋蘭が俺から預かった(没収した)所持品をテーブルの上に広げる。
携帯電話、ハンカチ、小銭入れ、硬貨(308円)が並べられ、それを華琳が一つ一つ検分する。
「このお屋敷の彫刻は見事なものね。まさか、これほどまで精巧に掘ってあるなんて……相当な匠の業ね。まさか、あなたが作ったの?」
「いや、お屋敷じゃなくて平等院鳳凰堂ね、ただの十円玉……お金だし」
「お金? 貨幣にしては意匠が凝りすぎね……その、日本という国はどこにあるの?」
「それはこっちが聞きたいよ。そもそも、ここどこの国だよ……建物や服はどう見ても中華風なのに日本語しか使えないみたいだし、日本語が通じるのに日本のものが全くないし。まさか、地球とよく似た別の惑星につれてこられたなんて話じゃないよな……」
はーい、お兄さんーこれは全部夢ですよー……って言われたほうが、まだ現実的だと思うわけで。
「貴様ぁ……っ! こちらが下手に出ているのをいいことにのらりくらりとワケの分からん事ばかり……!」
「あんたは下手に出る気は全く無いだろ!」
「後は……華琳さま。これは何かの道具でしょうか? 武器に見えないことも無いのですが……」
「北郷。この白い物は何かしら?」
「ああ、それは携帯電話だ。 何かしらと言われれば…………ただの箱?」
「おい!箱というのは物を入れるものだぞ。これのどこに物が入るというのだ、ただの棒ではないか?」
「いや……俺の国では充電が切れた携帯電話を『ただの箱』って揶揄するんだよ。 現状はただのガラクタなんだけど」
「……充電?……揶揄? ああぁ!またワケの分からん事を……!」
「春蘭、少し落ち着きなさい」
「ですが、華琳さまぁ……」
「北郷一刀は、今はここまでにしておきましょう。 秋蘭、まかせるわ」
「は!」
第一試合は華琳さまサスペンデッド。続いて第二試合に入る。
「待たせてしまったな。さて、今から質問をさせてもらう」
「…………」
「改めて聞く。おぬしの名前は?」
「……鄧艾士載」
「では、鄧艾。おぬしの生国は?」
「……荊州です、多分」
「多分、とは?」
「生国って、生まれた国という意味ですよね」
「そうだな。多分と言うのは、荊州では無いかもしれないと言う意味か?」
「その……物心つく前は荊州の外に住んでいたと両親に聞かされております」
「なるほど。 つまり、一番古い記憶が荊州……という事だな?」
「はい」
「この国に来た目的は?」
「行く当ての無い流浪の旅の途中で陳留に立ち寄りました。目的と言う目的はありません。 ですが……」
「あえて言うならば、安住の地を求めてという事になると思います」
「…………鄧艾。 一つ聞くが、ご両親は娘が旅に出ていることを知っているのか?」
「いえ、すでに鬼籍に…………流行病で」
「そうか……失礼な事を聞いた。詫びよう」
「いえ、こんなご時勢ですから」
「なあ、北郷……」
「何だ?」
秋蘭と鄧艾の事情聴取を黙って聞いていると、春蘭の方から話しかけてきた。
「なぜ、お前も鄧艾の様に素直に答えないのだ。お前は私の質問にワケが分からん事ばかり言うし」
「知らないことは答えようが無いって言ってるだろ」
「こんな事なら、私が鄧艾の方を引き受ければよかった……秋蘭のやつ、ずるいぞ!」
「春蘭、静かにして頂戴。 聞こえないわ」
「あぁ、申し訳ありません!華琳さまぁ…………。 くそぉ、北郷のせいで華琳さまに怒られたぁ……うう」
授業中におしゃべりしていた生徒よろしく、華琳にピシャっと注意されて意気消沈する春蘭であった。まあ、秋蘭と鄧艾の取調べは非常にスムーズで例えるなら『地の文を挟む暇が無い』と言ったところだろう。
うるさい外野を気かける様子もなく、秋蘭と鄧艾の会話は進む。
「では、質問を続けよう。 先ほど賊どもに襲われたと言っていたが間違いはないか?」
「はい、間違いありません」
「それは、あの賊たちとは元々係わり合いが無いという事で間違いないか?」
「はい」
「…………北郷一刀との関係は? あの場に一緒にいたが二人はいつ知り合ったのだ」
「それは……、あの北郷さんという方が三人組の賊に襲われていた所に出くわして、助けに入った時が初対面です」
「助けに入った……ほう。 それでは、あの賊どもを殺したのは、鄧艾……おぬしか?」
「…………っ!」
「華琳さまは罪には問わぬと仰っている。鄧艾、正直に答えてほしい」
秋蘭が鄧艾に投げかける言葉は優しかった。そして、その言葉に相対する鄧艾も…………。
「……は、はい、私が殺りました。申し訳、あ、りません」
昭和の刑事ドラマのラストシーンのように机に顔を突っ伏して嘆く鄧艾と優しく肩を叩く秋蘭…………他の席のお客の視線が痛い。
秋蘭と鄧艾の事情聴取がひと段落、華琳、春蘭、秋蘭はこちらを放置して何か書いている様子。いわいる供述調書ってやつなのかな? 春蘭が時折、唸り声を上げてるのが少し気になるけど…………。
俺が手持ち無沙汰にボーとしていると隣から……。
「あの、北郷さん? 顔の傷は大丈夫ですか。先ほどは、かなり殴られていたみたいですけど、痛むところありますか」
急に声を掛けられてビクッとした。うん、最初に聞いた通りすごい可愛らしい声だよなー、この子。
「あ、えっと、鄧艾さん?で良いんだっけ。 あの時は助けてくれてありがとう」
「へ……? いえ、当然の事をしたまでですから」
「いやいや、あれは当然の事なんかじゃないから! 普通の人だったら見てみぬふりをするだろ」
「……そうでしょうか?」
「いや、そういうものだって。君は俺の命の恩人だ。それも二回もだよ。だから、改めて言わせて欲しいんだ、本当にありがとう。 本当に死んでしまうって、そう思っていた時に、鄧艾さんの声が聞こえた時にどんなに嬉しかったか……」
『命の恩人』なんて物語りの中でしか見かけないような言葉を使うことになるとは夢にも思わなかった。だけれども、命を救われた立場になってみると本当に感謝の気持ちしか沸いてこない。
「――――!? い、いや、別に、でも、そういう事なら、その、あの……えへへ」
一刀の言葉に鄧艾は謙遜しながらも、誇らしげに、そして、嬉しそうな笑顔を浮かべ、鼻の下をこする。
ああ、そうか。この子はとっても素直で優しい子なんだな…………だからこそ、謝らないといけないよな、俺。
「後さ……、助けてもらったのに、泣かせるような事を言って悪かっ「いえ。 私、泣いていませんから」
「……」
「え? いや、あの、謝りた「私が謝られるようなこと、何かありましたっけ?」
「「…………」」
まあ、本人がそう言うのなら。謝るのが筋だけど、謝らないほうがいい場合ってあるんだな。
「……そう言えば、休憩って言われたけど」
「私たちの証言をまとめているみたいですね……だいぶ手間取っているみたいですけど」
うーん、調書まとめで俺が手伝えることってあるのかな?
ただ、寛大な処置をしてもらったワケで何がしかの礼をしたい気持ちもあるんだよなー。
ええっと……この金髪の女の子って、なんて言ったっけ…………そうだ、たしか!
「あの、華琳さん! 俺に何か手伝える事とかってある?」
【用語・人物・解説】
【鄧艾士載・其の2】 外見は黒髪(ウェーブ)セミ、白いチャイナ服風戦闘服、手には黒のグローブ、黒いブーツ、身長は小さめ。一言で言えば猫耳軍師の髪の色を黒くして改造チャイナ服を装備させた感じ。細かい所は皆さんの妄想で補ってください。
【約十里先の~】 里は距離の単位。時代や国によって距離がかなり違う。外史演戯伝では現在の中国の1里=約500メートルで統一。
【3●0(スリーハ●ドレット)】 古代ペルシャを舞台にした映画。300対100万というぶっ飛んだ戦争を描く。大迫力バトルが売りの超バカ映画(←褒め言葉)
本当はココの台詞にはレッドク●フを入れたかったのだが、公開日が真・恋姫発売日の1年後という事で泣く泣く断念。
【壱号・弐号・参号】 逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!
【虎穴に入らずんば虎児を得ず】 ハイリスク・ハイリターンを覚悟なさい。
【華琳さまサスペンデッド】 中断の意味。主にスポーツ用語として使われる。例】レインサスペンデッド←雨で試合中断
【荊州】 この時代だと大陸のほぼ真ん中にある地域。三国志ではこの荊州を巡って三大勢力を中心に戦乱の主戦場になる。ある意味、不幸な地域。
【昭和の刑事ドラマ】 人情物・アクション物・コメディ物など昭和の人気ジャンル。今回は取り調べ室で人情刑事が犯人を優しく諭す場面のオマージュ。
【あの、華琳さん!】 …………あ、やべ。自分で書いておいて言うのもなんだけど…………どうやって繋げようかな(←何を?)
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【華淋・春蘭・秋蘭・星・凛・風・初登場回】
山賊の脅威から不本意ながらも逃れる事ができた一刀だったが、今度は正体不明の武人に刃を突きつけられる。