(番外参)
「明命のわからず屋!」
「亞莎のバカ!」
そんな声が昼餉を終えて執務室に向かう途中の一刀達の視界に亞莎と明命の二人が喧嘩をしている姿が入ってきた。
「どうかなさったのでしょうか?」
「亞莎ちゃんと明命ちゃんですね~」
悠里と穏は何事かという顔をして視線の先にいる亞莎と明命を見た。
喧嘩などまったくの無縁と思われている意外な組み合わせに三人は顔を見合わせ、とりあえず事情を聞こうと近づいていく。
「お~い、二人ともそんなに大声出してどうしたんだ?」
「一刀様「旦那さま」」
喧嘩などしていなかったように二人は笑顔を一刀に向けたが、お互いに気づいて顔を背けた。
「珍しいですね~。亞莎ちゃんと明命ちゃんが喧嘩なんて」
穏も珍しく驚いていた。
「二人ともどうかしたのか?」
一刀の質問に二人は答えようとしたがやはりお互いの視線が気になって言葉を引っ込めた。
その様子に一刀は思わず苦笑いを浮かべる。
「黙っていても仕方ないだろう?」
「か、一刀様には関係ないです」
「そ、そうです。旦那様には申し訳ございませんが関係ありません」
それだけを言い残して二人は礼をして別々の道を歩いていった。
「なんなんだ、あれ?」
「さあ?」
「穏もさっぱりわかりませんね~」
先日の海に行ったときなど仲良く遊んでいた二人がなぜ喧嘩しているのか三人にはさっぱりわからなかった。
「もしかして育児でなにか問題でもあったのでしょうか?」
悠里の指摘に一刀は今日までのことを思い出した。
彼の知る限り二人は何かと協力して育児をしていることを何度か見たことがあり、それについて何か問題が起こったとは到底思えなかった。
では他に何があるか。
「最近、お二人に何かしましたか?」
悠里は二人が一刀と閨で何かあったのかと無言の視線を向ける。
「ないない」
そう言いつつも本当になかったか自問する一刀。
「うん、何も変わったことはないぞ」
結論に達した一刀は自信を持って答える。
三人は改めて二人の喧嘩の原因を考えながら執務室に入っていった。
「はぁ」
亞莎は一刀達から逃げるようにして自分に与えられた執務室の机の上で力なく伏せていた。
彼女にとってほんの些細なことで親友である明命と声を荒げて喧嘩してしまったことが、今になって後悔させていた。
よりにもよって自分達の夫である一刀にまで見られる醜態。
(穴があったら入りたい気分です)
思い出せば出すほど恥ずかしさが亞莎を支配していく。
「はぁ」
そしてあれこれ考えているうちに深みにはまっていく亞莎。
「おや、お悩みですか?」
「…………え?」
顔を上げるとちょうど、机に顎をのせていつもの眠そうな表情をしている風がいた。
「亞莎ちゃん?」
反応がなくただ自分を見ている亞莎に風は「?」を三つほど頭の中に浮かべた。
「おやおや、風の顔はそんなに驚くものなのでしょうか?」
風は仕方ないですねと言いながら亞莎の隣にいき、背中を二度ほど軽く叩いてみるとようやく正気を取り戻した亞莎。
「す、すいません。まさか風さんがいるとは思いもしなかったもので」
「いえいえ。風としては懐かしいお友達を思い出して楽しかったですよ」
同時刻、魏にいる稟がくしゃみをしたことを風は知らなかった。
改めて正面に椅子を持ってきて座りなおした風。
「それで今日はどうしたのですか?」
「いえいえ、亞莎ちゃんがあまりにもため息を漏らしていたので気になったのですよ」
風はたまたま一刀に用事があってやってきたところ、入り口も閉めずに落ち込んでいる亞莎の姿を見て寄り道をしていた。
そして黙ってその様子を見ていたが全く気づく気配がなかったので仕方なく驚かせたのだった。
「風でよければ相談にのりますよ?」
そう言って何かを思い出したかのように開けっ放しの入り口を閉じに行き、また椅子に座って亞莎を見る。
亞莎は一刀にすら話すことを躊躇っていたことを風に話すべきか悩んだ。
「風さん」
「はいはい?」
「このことは旦那様や明命には絶対に言わないと約束してもらえますか?」
一刀だけではなく明命にすら話してはならないことに風は数瞬考えてから頷いた。
「風さんはお友達と喧嘩をした時、どう仲直りをしましたか?」
「喧嘩ですか?」
はてっといった感じで風は自分の過去にあったかもしれない喧嘩というものを思い出そうとするが、どこにも見当たらずどう答えるべきか悩んだ。
「もしかしてお兄さんか明命さんと喧嘩でもしたのですか?」
自分のことから亞莎にことに切り替える風。
戸惑いながらも頷く亞莎は、三度目のため息を漏らす。
「正確には旦那様に関係したことで、明命と言い合ってしまったのです」
「お兄さんの事でですか~。ふむふむ、お兄さんも罪作りですね~」
一人納得する風。
「そ、そんな……。罪作りというよりも私達は心からお慕いしています」
「わかっていますよ~。風もお兄さんのお嫁さんですから」
一刀という人物を愛するが故に冗談も言えることを風は十分に熟知していた。
「それでお兄さんの事で明命ちゃんとどのような喧嘩をしたのですか?」
原因が何かを聞くと、亞莎はまた言うべきかどうか悩んでいた。
他人からすればそれほど悩むべきものではない問題だったが、亞莎にとっては深刻な問題だった。
「…………炒飯です」
「炒飯?」
意外な言葉に一瞬、眉が動いた風だがすぐにいつもの表情に戻る。
「炒飯がどうかしたのですか?」
一刀と炒飯がどう関係しているのか問う風。
「今日の昼餉に旦那様に食べていただこうと思って自分なりに頑張って作った炒飯を、明命が食べてしまったのです」
ゴマ団子なのど菓子などは自分一人でも作れるようになったが、月や祭のように料理が出来る女になり、愛する一刀に食べて欲しいと密かに月に頼んで練習をしていた。
何度も失敗を重ねたが、努力家である亞莎の実力は日々向上していった。
そして会心の出来栄えが今日作った炒飯だった。
月や祭からも及第点をもらい自信を持って登城し、自分に任されている案件を処理しつつ昼になるのを待っていた。
もう少しでという時に蓮華から急な呼び出しを受けて、自分の執務室にある机の上に置いていった。
用件が終わり戻ってきた亞莎は机の上に置いてあった炒飯の入った弁当箱がない事に気づいてすぐに探した。
そして廊下を上機嫌で歩いている明命を見つけて一緒に探して欲しいとお願いをしたところ、その弁当は自分が食べたと明命は答えた。
「ど、どうして明命が食べたのですか?」
「だって、亞莎に用事があって部屋に行ったらいい匂いがしていたのですよ。丁度お昼だったし美味しく頂きました♪」
明命からすればそれは亞莎自身のお弁当かと思っていただけに、あとで食べた事がわかっても謝れば許してくれるだろうと思っていた。
だが、今日という日は明命にとって運が悪かった。
「明命」
「はい?」
「それは私が一生懸命作って旦那様に食べていただこうと思っていた炒飯ですよ」
「えっ?」
我が耳を疑う明命だが、亞莎の少しずつ怒りがこみ上げていくことに気づき、それが冗談ではない事を知った。
「え、えっと……ごめんなさい」
さすがに自分が悪いと思い明命は謝った。
亞莎も普段であればそこで仕方ないと思い、素直にそれを受け入れる事が出来た。
だが月や祭からきっと喜んでくれると、最後まで自分を応援してくれたことに対して申し訳ないという気持ちが強すぎた。
「明命はいつもそうです。何かと謝れば済むと思っているのですね」
言った後にハッとした亞莎。
だがすでに手遅れで明命は自分が素直に謝ったのにまさか言い返されるとは思っていなかったためムッとした。
「きちんと謝ったのにそんなこと言うのですか?」
「とても謝っているようには思えません」
後戻りが出来なくなっていく二人。
「あんな所に置いておく亞莎の方が悪いんです」
「あんな所って言いますけど、あそこは私の部屋です。どこに何を置こうが私の勝手でしょう?」
亞莎は持ち前の鋭い視線で明命を睨みつけていく。
それに負けずに明命も睨み返す。
「今日という今日は明命がこんな人とは思わなかったです」
「亞莎こそ器が小さいです」
それに思わずカチンときた亞莎。
「そうですか。明命はそんなふうに私を思っていたのですね」
「炒飯ぐらいで目くじら立てるほうがおかしいのです」
負けじと言い返す明命。
「もう貴女のことなんて知りません!」
「私だって亞莎のことなんかどうでもいいです!」
「明命のわからず屋!」
「亞莎のバカ!」
そう言いあっているところに一刀達が現れた。
話し終えた亞莎はますます落ち込んでいき、机の上に伏せていく。
「食べてしまったものは仕方ないですよ。それに明命ちゃんが残さず食べてしまったほどその炒飯は素晴らしかったのですよ」
「そうですね……。でもだからこそ旦那様に食べていただきたかったのです」
一刀なら喜んで食べてくれる。
そう思うと自然とため息が漏れていく。
「亞莎ちゃんは明命ちゃんと仲直りがしたいですか?」
「えっ?」
風の突然の提案に戸惑う亞莎。
本心では謝りたいと思っていたが、すぐどうにかなるわけでもなく散々悩んでいた。
「もし亞莎ちゃんが明命ちゃんと仲直りをしたいと本気で思うのであれば、風がなんとかしますよ?」
のんびりとした口調で言う風に亞莎は本当なのかと一瞬思った。
「おや、信じられないといった感じですね~」
風に見透かされている亞莎は動揺した。
「大丈夫ですよ。風は信じてもらえるのであればそれにお応えしますよ」
明命との仲が戻らないばかりか、下手をしたら悪化するかもしれないと思った亞莎は風を信じる事にした。
「では少しお耳を」
亞莎は言われるままに顔を近づけていき、風は彼女の耳元であることを囁いた。
一方、明命は誰もいない修練上で一人体育座りをして落ち込んでいた。
自分でも少し言いすぎたと思い、亞莎がどんな想いで炒飯を作ったのか冷静になればなるほど申し訳ない気持ちになっていく。
「亞莎に謝りたいです……」
そう思っていても会いにいけない自分の不甲斐なさにため息を漏らす明命。
「隙だらけだぞ?」
どこか呆れているように聞こえるその声の主を明命は見る。
「華雄さん!」
自分の落ち込んでいる姿を見られるとは思いもしなかっただけに、明命は慌てて立ち上がろうとしたが華雄に止められた。
かわりに華雄が彼女の隣に座った。
「周泰とあろう者が隙を見せるほど何かあったのか?」
「……」
明命の沈黙に華雄は息をつく。
「私でよければ相談に乗るぞ。もっとも一刀様のように聞き上手でないがな」
一刀に降る前は武を重んじていた華雄らしい言葉だが、今の明命には誰かに自分の本音を聞いてほしかった。
「華雄さんは友達と喧嘩をした事はありますか?」
「喧嘩?」
これには目を丸くする華雄。
「もしかして誰かと喧嘩をしたのか?」
逆に質問をされても明命はきちんと頷いて応えた。
「なるほどな。それで元気がないのか」
どうして喧嘩をしたのか、その理由も明命は正直に言った。
「確かにそれはお前が悪いな」
華雄に言われなくても明命はわかっていたが、改めて言われると胸に重くのしかかっていく。
「だが、呂蒙も悪い」
まさか亞莎まで悪いとは思わなかった明命は思わず華雄のほうを見る。
「それはどういうことですか?」
「当然だろう?お前がきちんと謝っているのにそれを受け入れないのはよくないことだ」
華雄はつまり両方が悪いと単純明快な答えを明命に言った。
「でも亞莎は一刀様のために一生懸命頑張って作った炒飯だと思うのです」
だからこそあそこまで怒っている。
亞莎と同じ立場に立てば明命も同じように怒ると思っていた。
「なら喧嘩したからといってそのままというわけにはいくまい」
「わかっています。でも……」
それでも心の中にある自尊心というものが邪魔をしていた。
「やれやれ。今のお前達を一刀様が見たら呆れられるぞ?」
実際にはそんなことないだろうと華雄は思いながらもわざとらしく明命に言うと、予想通り辛そうな表情を浮かべていた。
「一刀様は炒飯が食べられなかったよりも、お前達がこのまま喧嘩をしているほうが気になってそのうち政務にも影響が出るかもしれないなあ」
「それはダメです」
自分達のせいで一刀に迷惑をかけることは絶対に避けなければならないことだった。
亞莎と口喧嘩をしているところを見られている以上、隠し事にすることもできないため可及的速やかに解決しなければならない。
「一刀様にご迷惑はかけたくないです」
「なら自分のするべきことは分かっているだろう?」
華雄は笑みを浮かべ明命を見る。
「さっき私が喧嘩をしたことあるかと聞いただろう。私にはこれまで友と呼べる者はいなかった」
「そうなのですか?」
「ああ。張遼ですらただの同僚と思っていた」
董卓軍の将軍として過ごしていた日々、華雄は心許す友がいなかった。
だが一刀の降将になってしばらくしてから彼女と彼女の周りで大きな変化が起こった。
それが三国共存。
華雄は恋や葵と共に一刀の親衛隊となり行動を共にして三国会議や立食パーティーにも参加をしていくうちに、霞や愛紗などかつての同僚や敵だった者達を友と呼べるまでになっていた。
「一刀様の親衛隊となりいろんな奴と交際していくうちに、喧嘩もすることもあった。特に関羽あたりはちょっと炒飯が不味いと言っただけでムキになるしな」
面白おかしくいう華雄に明命は驚きを隠せなかった。
あの華雄が本当に楽しんでいるように見えたからだった。
「だが、喧嘩をしても相手のことを不思議と憎いとは思わなくなった。なぜだかわかるか?」
その答えこそが明命が求めているものではないかと華雄は無言の問いをかけていく。
明命もはじめから答えは分かっていた。
わかっていただけに一人ではどうすることもできなかった。
華雄と話していくうちにその不安にも似た感じが少しずつ消えていくように思えた。
「華雄さん」
「なんだ?」
「華雄さんって凄く変わりましたね」
それは華雄を悪くいっているわけではなかった。
彼女の知っていた華雄からは想像もできないほど柔らかく、そして落ち着いているように思えた。
「私自身はそう思っていないんだがな」
「一刀様のおかげですか?」
一刀の名前を聞いた華雄は頬を紅く染めていく。
「どうだろうな」
照れくさそうに答える華雄。
「それよりもだ。お前の答えを聞かせてもらえるか?」
本来の議題に話を戻した華雄に明命は自分の考えていることを少しずつまとめていく。
どうしたらいいのか、そのこたえが分かっているだけにたどり着くのも簡単だった。
「謝りたいです」
明命は本心からそう答えた。
亞莎とこれ以上、いがみあっていてもお互いが辛い気持ちになる。
時間が長くなればなるほど収拾がつかなくなってしまい、それは一刀にも迷惑をかけてしまうことになる。
「わかった。なら私も仲直りができるように協力してやろう」
「華雄さんがですか?」
ここまで自分に付き合ってくれる華雄に明命は感謝すると同時に、妙な気分になっていた。
「なんだ、私では不服か?」
意地の悪い笑みを浮かべる華雄。
「い、いいえ。そんなことは決してないです」
慌てて否定する明命に華雄は遠慮なくわらった。
「冗談だ。それよりも良い方法を教えてやるぞ」
「はい」
華雄は明命の耳元であることを囁いた。
それを聞いた明命は目を丸くした。
「どうだ?いい案だろう?」
華雄にあることを言われ、明命は呆然としていたが少しずつ正気に戻っていく。
「で、でも、一度もしたことないのですが?」
「だからこそだ。相手に自分の誠意を見せてこそ問題は解決する」
華雄は明命の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
「まぁこれは一刀様の受け売りだがな」
自分の命を助けただけではなく、今では側室の一人として愛してくれている一刀の言葉を嬉しそうに華雄は言う。
「私もこう見えて、密かに練習をしている」
「えっ!?華雄さんがですか?」
「何だその言い方は?今では武を極めるようにも奥深くて面白いぞ」
華雄の意外な趣味に明命は不思議な気持ちになっていく。
「だからお前もお前ができる事をすればいい。その為なら私も協力は惜しまないぞ」
「華雄さん……」
「遠慮などするな。同じ一刀様の側室だぞ」
そう答える華雄は笑った。
それから数日。
その間、二人は公務で顔をあわせるだけであとはまったく会っていなかった。
一刀だけではなく蓮華もそのことが気になっていたが、風と華雄がもうしばらく待って欲しいと言ってきたので様子を見ていた。
屋敷に戻っても部屋の灯りが夜遅くまでついており、一刀と閨を共にする順番が回ってきても誰かに譲っていた。
風や華雄から事情を知らされた月と祭は、二人の娘である呂琮と周邵の面倒を見ながらそれぞれを静かに応援していた。
そして亞莎と明命は一刀の部屋にある物を持ってくるようにと風と華雄から言われ、それの準備を整えた。
もちろん二人にはお互いが来ることなど秘密にされていた。
準備を整えて一刀の部屋に向かった二人は入り口で鉢合わせた。
「あ、亞莎!」
「み、明命!」
二人は激しく動揺していた。
「ど、どうして亞莎が一刀様の部屋にきたのですか?」
「それをいうなら明命こそどうしてですか?」
訳がわからない二人。
そうしていると部屋の入り口が開き、そこから風と華雄が出てきた。
「お二人ともどうぞ中へ」
「そうだぞ」
そう言われて仕方なく二人は部屋の中に入っていく。
「旦那様「一刀様」」
真ん中に置かれている机の前に立っていたのは彼女達の夫である一刀。
「待っていたよ、二人とも」
いつものように笑顔で迎える一刀に二人は表情が柔らかくなるが、お互いの事が気になって顔を背けた。
「事情は二人から聞いた」
風と華雄の顔を見る亞莎と明命はどうしてといった感じだった。
「風は別にお兄さんに言ったわけではないのですよ。たまたま独り言を聞かれただけなのです」
「私は言うなと言われていないからな」
何食わぬ顔で言う二人。
「とりあえず二人ともきちんと作ってきたのだろう?」
華雄に言われ自分達が持ってきたものを見る。
「とりあえず見せてくれないかな」
一刀はお腹の辺りをさすりながら二人が持ってきたものを机の上に置かせた。
被さっている蓋を取るとそこには炒飯が二つあった。
「「えっ?」」
これには一刀達ではなく亞莎と明命が驚いた。
「今日は二人に炒飯を作ってもらって、それで仲直りをして欲しいと思ったんだ」
「旦那様「一刀様」」
風と華雄から事情を聞いた一刀は雪蓮や蓮華達と相談をした。
普段から仲の良い二人が喧嘩をしたままなのはよくないことだと、色々と意見を出したがまとまらなかった。
そんな中で風や華雄の意見でお互いに炒飯を作らせるというものが出た。
「今日は俺のために作ってくれたと思ったんだけど、それは二人で食べてほしいんだ」
炒飯が原因で喧嘩をしたのならば炒飯で仲直りする。
それが二人を納得させる方法だと風と華雄は信じており一刀も思っていた。
「亞莎」
「は、はい」
「俺のために作ってくれたのは凄く嬉しいよ。嬉しいからこそ、これ以上、明命と喧嘩するのはよくないと思う」
「はい……」
亞莎も風と話して自分の短慮を悔いていた。
「その時は食べられなかったけど、これからは食べさせてくれるのだろう?」
「もちろんです。旦那様に食べていただきたいです」
亞莎はその為に今日も一生懸命に頑張って作ってきた。
そんな彼女を一刀は優しく頭を撫でる。
「明命」
「はい……」
今度は明命の前に行く。
「自分がしてしまったことは反省しているんだろう?」
「はい……」
「もし自分が亞莎と同じ立場ならどう思う?」
「嫌な気持ちになります」
華雄と語った時から今日という日まで、自分がしてしまったことに対する後悔が消えることはなかった。
「なら次は気をつけるんだよ」
「はい……」
しょんぼりとしている明命の頭を亞莎と同じように優しく撫でる。
「亞莎、こっちにおいで」
「はい」
亞莎は言われるままに一刀と明命のところにいく。
すると、一刀は二人の手をとって握手をさせた。
「さあ、二人とも言いたいことがあるのならここでしっかり言うんだ」
それが一刀の優しさだった。
亞莎も明命もその優しさにこの半月、自分の胸のうちにあった蟠りが消えていく。
お互いの顔を見る二人。
「あ、亞莎」
「はい」
「ごめんなさい」
今にでも泣き出しそうな表情の明命に亞莎も同じように謝った。
「私のほうこそすいませんでした」
二人は自分の非を認めて、心から謝罪をした。
そしていつもの彼女達らしい笑顔が戻った。
「うん、やっぱり二人は笑顔が似合っているよ」
一刀の言葉に二人は顔を紅くしていく。
「これにて一件落着」
あっさりと片付いた問題に一刀以外の四人は思わず笑みを浮かべた。
「それじゃあ仲直りに二人とも、自分達が作った炒飯を食べてもらいなよ」
一刀のため作った炒飯。
それを亞莎の分を明命に、明命の分を亞莎に手渡した。
「美味しそう」
「そうですね」
二人がこの半月、頑張った結果がそこにあった。
レンゲに一口分のせて口の中に運んでいく。
よくかみ締めた二人の表情は美味しいものに出会ったように嬉しそうだった。
「亞莎の炒飯、凄く美味しいです」
「明命の炒飯だって美味しいですよ」
喧嘩していたことなど忘れたかのように二人は満面の笑みを浮かべた。
「俺にも食べさせてくれるかな?」
見るからに美味しそうな炒飯に我慢出来なくなった一刀はおねだりするが二人は笑顔で、
「「今日は明命「亞莎」に食べてもらいます♪」」
と言われ拒否された。
もしかしたら二人の炒飯が食べられると思っていただけに一刀は激しく落ち込んが、そこへ風と華雄が声をかけてきた。
「それでしたら風達の炒飯を食べていただけますか?」
「お、いいのか?」
「一刀様ならきっとそう言ってくださると思った」
風と華雄は自分達が作った炒飯を取り出してきた。
それは炒飯というよりもまさに未知の生物そのものだった。
(蜀の関羽さん並……いやそれ以上か?)
どう見ても亞莎や明命の炒飯の方が食べられる。
「おや、お気に召しませんか?」
「我らとしてはぜひ一刀様に食していただきたいのですが」
「お前ら……これを見せてなお、本気で言っているのか?」
「「当然です!」」
「おう、兄ちゃん。せっかく美人が作ったんだ。さっさと食べろや」
風の頭の上に乗っかっている某都市の万博博覧会シンボルタワーこと宝譿を掴んで未知なる生物に突っ込んでやろうかと本気で一刀は思った。
そんな彼らを他所に二人はお互いの炒飯を褒めあってお腹一杯堪能した。
結局、一刀はその未知なる生物から逃れられず完食した後、五日ほど寝込む事になった。
仲直りした二人は亞莎の順番がきた日、一刀に一緒に愛された。
そしてその深夜。
「明命、起きていますか?」
心地よい気だるさに包まれている亞莎は不意に親友の名前を呼んだ。
「どうかしたのですか、亞莎?」
同じく心地よい気だるさに包まれている明命。
「あの時はすいませんでした」
和解をしてからというもの、亞莎は何かと明命に謝る事が多かった。
「もう気にしていないのです」
明命は謝られるたびに同じような言葉を亞莎にかけていた。
「それに一刀様だって言っていたじゃあないですか。喧嘩するほど仲が良いと」
「そうですね」
一刀が自分達を仲直りさせてくれた。
もちろん、風や華雄といった心配をしてくれた人もいた。
「亞莎は私と一刀様のどちらが好きですか?」
「明命ですよ」
「「えっ?」」
それを聞いて驚いたのは明命だけではなく眠っていたはずの一刀もだった。
「旦那様「一刀様」!」
「それよりもどうして俺よりも明命の方が好きなんだ?」
きちんと答えるまで離さないぞといった感じに二人を抱き寄せていく。
「そ、それは……」
「どうしてなのですか、亞莎?」
明命も気になって仕方なかった。
「だ、旦那様は……その……あ、愛していますから……」
本人は灯りが付いていないことで真っ赤になっている顔を見られずに済んだが、言われた方は呆然としていた。
「わ、私も亞莎は大好きです。でも……一刀様のことは愛しているのです」
明命も亞莎に負けないほど真っ赤な顔になり、一刀の胸に顔を埋める。
改めて二人の妻に愛の告白をされた男は疲れきった身体に力を取り戻していく。
「二人とも」
「「はい」」
「俺も二人を愛しているぞ!」
「「旦那様「一刀様」!」」
その後はもはや言葉など要らなかった。
三人は激しく求め合い何度も名前を呼んではお互いの温もりを感じあった。
そして明け方、眠る一刀の胸に亞莎と明命の手が重なっていた。
「「ずっと……なかよしさんです……」」
改めて二人の友情は終生、変わることのない大切な宝物になっていた。
(座談)
水無月:何気なくこの二人を喧嘩させたらどうなるか、と頭に浮かんでしまいました。
雪蓮 :でもこの二人って喧嘩するようには見えないわよね。
水無月:そうですね。だからこそ喧嘩を起こさせてみました。
冥琳 :でもあの二人ってどことなく私と雪蓮に似ているわね。
水無月:そうなのですか?
雪蓮 :どうかしらね。
一刀 :どっちも似たようなものだと思うけどな。
水無月:それは特にどのあたりが?
一刀 :そんなの決まっているだろう、胸「旦那様「一刀様」!」なんでもない!
雪蓮 :そうよね。私と冥琳は大きいけど二人はね~♪
冥琳 :雪蓮、そんな事を言ったら二人が可哀想よ。胸なんか大きくても旦那様に喜んでいただくぐらいしか役に立たないわよ。
雪蓮 :冥琳……二人が落ち込んでいるわよ?
冥琳 :え?
明命 :亞莎、私達は仲間なのです~~~~~!(抱き合う)
亞莎 :明命!(抱き合う)
悠里 :ところで私達はどちらの味方をすればいいのでしょう?
穏 :決まっているじゃあないですか~♪
亞莎 :明命、小さくても頑張りましょう!
明命 :はい!
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今回はふと亞莎と明命のことを書きたくなったので書いてみました。
普段、仲のよい二人でもこんなことがあるのかなぁと思いつつ筆を動かしてみました。
最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。