No.872128 真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第九話2016-09-30 21:32:56 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:4405 閲覧ユーザー数:3246 |
曹操さんとの一件があった次の日、俺と公達は董卓陣営の朝議に参加する為に城内へと
足を踏み入れていた。
「こういう所に入ると本当に都に来たんだなぁって実感が湧くなぁ」
「ああ、まったくだ。それにしてもまさか本当にこんな所に来るような事になろうなんて
お前さんと出会う前には想像すらしなかった状況だ」
「少なくとも俺もお前も自分で決めた事なんだ。愚痴は無しだぞ」
「ああ、分かってる。愚痴というより自分の身の変化に少々感慨を抱いていただけさ」
・・・・・・・
「北郷さん、荀攸さん、私のような者の為に力を貸してくれる事、この董仲穎、心の底よ
り感謝申し上げる次第です」
部屋に入るなり、董卓さんはそう言って俺達に頭を下げる。
「いやいや、相国様がそんな簡単に頭とか下げてたらダメですって!」
「いえ、今回のお二人の決断に対し、これでも礼には足りないと思っている位です。形だ
けのものであっても、今日以降は私はあなた方には命令する立場となります。ですから
最後に一度だけでもちゃんと頭を下げて礼を申し上げておきたかったのです」
慌てる俺達に董卓さんは毅然とそう言っていた…まあ、今だけというのであれば、あま
り気にしない方が良いのかな?
そして董卓さんが席に座ると同時に他の面々も入ってくる…ふむ、何人か知らない顔が
いるな。董卓陣営でまだ会ってない人というと…この中にあの呂布がいるのかな?
俺がそう考えていたその時、赤い髪の女の子が俺の所にやってくる。
「…呂奉先」
「…はい?」
「…だから、呂奉先。恋の名前。恋って呼んでくれて良い」
…この娘があの呂布!?まったくもって飛将軍に見えない位に華奢な女の子にしか見え
ないけど…嘘をつくような娘にも見えないから間違いないのだろうけど…って、問題は
そこじゃない!
「今のって真名、だよね?」
「…うん、真名は恋、そう呼んで」
「…本当に良いの?間違ってなければ今日が初対面だよね?」
「…こうやってお話するのは初めて。でも、何回か興行は見た事ある。音が鳴る箱とかす
ごく好き」
音が鳴る箱…ああ、オルゴールの事か。
「ありがとう。でも、あれが好きって言われたのは初めてだよ。もっと派手な絡繰の方が
基本的に好評だったしね」
「…小さな箱から綺麗な音が出てた。ずっと聞いていたい位に。あんな凄い物を造れる人
って凄いって思った。だから恋の事は恋で良い」
…何だか随分と超理論な感じだけど、本人がそう言ってくれるのであればありがたく受
け取っとくとしよう。
「恋さえ良ければまた聞かせてあげるよ。これからは董卓様の下で一緒に働くわけだけだ
しね」
「…ありがとう。これからもよろしく…ええっと」
「おっと、俺の事は一刀で」
「うん、よろしく…一刀」
こうして会って数分で恋と仲良くなった…で、良いのかな?
「恋殿~!会っていきなり真名まで預けるとは何事ですぞ~!?しかもこんな男に!!」
とか思ったら、その後ろから小さな女の子が現れて恋にそう言いながら俺に向かって敵
意のある視線を向ける。
「ねね…めっ。恋が良いって思ったから一刀に真名を預けた。だから一刀をそんな眼で睨
むのはダメ」
「恋殿~……………おい、そこのお前!幾ら恋殿が真名を許しても、この陳宮は認めない
からな!とくと覚えときやがれ!!」
恋がその女の子…陳宮さんにそう言うが、彼女から俺への敵意が消える事は無かった…
大丈夫だろうか、これ?そもそも陳宮ってこんなに早く呂布の所にいたっけか?
「陳宮殿、そこまでになされよ。呂布殿が真名をどうされるかは呂布殿がお決めになる事、
如何に側近のそなたと申してもそれ以上は何も出来ませぬぞ」
そこにもう一人いた女性が陳宮さんにそう言うと、さすがに陳宮さんは引き下がったが
…とても渋々な感じの表情であった。
「さて、北郷殿と荀攸殿でしたな。私の名前は王允と申します。以後、よしなに。私も二
度ばかり興行を見させてもらった事があります。いずれ、私にも絡繰を見せていただき
たいものですね」
「は、はい…北郷です。よろしくお願いします」
そしてその女性がそう丁寧に挨拶をしてくれる…王允?王允って董卓軍だったかな?俺
の記憶じゃ漢の偉い人でおじいさんなイメージだったのだけど…眼の前にいる女性は精
々三十前といった風にしか見えない。この世界は本当に俺の知っている三国志とは色々
違っているようだな。
とりあえず…今、董卓陣営にいるのは、賈駆・呂布・張遼・華雄・陳宮・王允、そして
俺と公達という事か。兵が何万位いるのかは分からないけど、大陸中の各諸侯の軍勢が
来るにしては将の数が少ないような気もする…まあ、呂布さんがあの呂布ならば、一人
で二・三万位は駆逐しそうではあるが。
「皆揃った所で朝議を開きます。皆も知っての通り、こちらにいる北郷さんと荀攸さんに
これより我が陣営に加わってもらいますので改めてよろしくお願いします。それでは…」
「董卓様、この二人が何の役に立つのですか!!今の我々には無駄飯喰らいなど置いてお
く余裕は無いはずですぞ!!」
董卓さんが一言そう言って朝議を進めようとした所に陳宮さんが噛みつく。
「ねね、これは月が決めた事よ」
「詠はそれで良いのですか!?」
「ええ、ボクも問題無いと思ったけど?」
「な、何ですとーーーっ!?」
賈駆さんのその言葉に陳宮さんは驚きを隠せないまま他の面々の顔を見回すが、恋も含
めて誰も彼女の味方に立とうとする人はなく、さすがの彼女も少々しょんぼりした感じ
になっていた。
「ねね…月と詠が役にも立たない人を此処に連れてなんか来ない。それに一刀は良い人だ
から大丈夫」
「恋殿…」
恋が慰めるかのようにそう声をかけるが、最後の『一刀は良い人』という発言を聞いた
瞬間、俺に対する敵意が高まったように感じたのは気のせい…では無さそうだな。
「さて、改めて朝議を始めます。皆も知っての通り、大陸中の各諸侯が袁紹さんを中心と
なって此処に攻め寄せてきます。おそらくそれはそんなに遠い話では無いでしょう。限
られた時間の中ではありますが、我々もただ黙って首を渡すつもりもありません。皆の
奮闘にも期待しますが、しっかりと守りを固めていきたいと思います」
「月様!守りなどというまどろっこしい事を考えている場合ではありません!このまま一
気に袁紹の首を取りに参りましょう!私に三千の兵を与えて下さればすぐにでも御前に
彼奴めの首を持って参ります!!」
董卓さんの言葉に真っ先に噛みついて…もとい、異を唱えたのは華雄さんであった。
「華雄、幾らあんたでも三千程度では無理に決まってるでしょう!袁紹はともかく、側近
の文醜と顔良は音に聞こえた勇将よ!それに、袁紹の首だけを取れば終わる戦じゃない。
重要なのは、戦が終わったその後でも月が相国として漢の社稷を守り続ける事。それに
は出来るだけ損害を小さくする必要があるの、いきなり三千の兵で突っ込んでいったら、
それはそれだけの損害となってこっちに跳ね返ってくるだけ。そんなの許せるわけがな
いじゃない」
「しかし…『華雄さん、あなたの武を揮う時は後で必ずやってきます。だから此処はこら
えてください』…はっ、月様がそう仰られるのであれば」
賈駆さんの言葉にさらに噛みつこうとした華雄さんであったが、董卓さんにそう静かに
諭されるとおとなしく引き下がる。しかし、完全に納得したわけではないな、これは。
「それでは基本方針としましては今言った通り、我々は諸侯が攻め寄せてくる前に防備を
固めて待ち構える、その一点のみです。そこで…北郷さん、あなたの知識をお借りした
いのです」
董卓さんのその言葉に皆の眼が俺に集中する。
「おr…私の出来る限りの事は」
「敵の軍勢…おそらく数十万にはなろうかと思いますが、それだけの大軍勢で洛陽まで来
る為の道は此処しかありません。そしてそこには汜水関と虎牢関という二つの関があり
ます。基本はこの二つでもって敵勢を喰い止めるわけですが…あなたにはこの二つの守
りを強化して欲しいのです」
「異議あり!このような男にそのような事を任せても碌な事にならないのは眼に見えてる
のです!!」
…やれやれ、此処まで嫌われると逆に清々しい位だな。
「ねね…月が決めた事」
「如何に月様の決めた事とは申せ、今回ばかりは間違っているのです!!」
「ねね、それは言い過ぎ…『ねねちゃん、どう間違っているのか教えてくれる?』…月?」
陳宮さんの言葉に賈駆さんがたしなめようとするが、それを遮って董卓さんがそう陳宮
さんに問いかける。
「そんなもの、こんな男に何も出来ないからに決まっているからです!!」
「…で、その『何も出来ない』という根拠は何です?」
「そ、それは…そもそも何が出来るのかこの男は何も示していないからです!!」
「それは、ねねちゃんが何も知らないだけじゃなくて?」
「…この男が珍妙な絡繰を見せているのは知っているのです!しかし、そんな物が戦の役
に立つはずがないのです!!」
「…だから、それを生み出した知識と技術で関の守りを強化する案を考えてほしいって月
は北郷に言ったんじゃない」
「だ、だから、役に立つ物を造るなど、やらなくとも分かると言って…『役に立つ物なら
ありますけど?』…何ですと!?」
董卓さんや賈駆さんが何を言っても陳宮さんは聞く耳を持とうとせず、このままでは何
時まで経っても終わらなさそうなので、俺がそう口をはさむと陳宮さんは『嘘だろう?』
みたいな眼で俺を見る。
「北郷さん、それはすぐに見せられるものですか?」
「はい、本当は耕作地の邪魔になっている岩や山を壊す為に造っていたのですが…間違い
なく戦にも使えるかと…但し、此処でそれを使ったらこの建物すら破壊しかねないので
もっと開けた場所で披露したいのですが」
・・・・・・・
一刻後、城外にある兵士の鍛錬場にて。
「これが役に立ついうもんかいな?」
「はい、これは『焙烙玉』というものです。そしてこっちは投石器なのですが…説明する
前にまずは実際に使ってみますね」
俺は焙烙玉を持ち上げると公達が手に持った松明で導火線に火を付け、火のついた焙烙
玉を投石器にセットして場内の中央に置いた古い鎧を被せた的に向かって発射させる。
そしてそれが的に命中した瞬間…。
ドッカーーーーーーーン!!
大きな音と火柱が上がり、煙が晴れた後、そこに残っていたのは粉々になった鎧の破片
と大きく陥没した穴だけであった…まずは予想通りの爆発力といった所かな?
俺はそう思いながら皆の方を見ると…そこにあったのは一様に驚きの表情を見せている
董卓さん主従の姿であった。
(ちなみに公達は前に試しをした時に見ているのでそれ程驚いていない)
「さて…陳宮様、どうでしょう?これは戦の役には立ちませんか?無論、味方が戦ってい
る真ん中に投げるなどという馬鹿な真似はさせませんし。関の上から敵に向かって発射
すればなかなかの威力を発揮すると思うのですが?」
俺の問いかけにも陳宮さんは驚きの表情で固まったまま何の反応も示さない。
「ねえ、北郷?これって…火薬よね?」
いち早く立ち直った賈駆さんがそう問いかけてくる。
「はい、ちなみに一発に使った分はおおよそこの位です」
俺はその場の砂で焙烙玉一発に使用した火薬のおおよその量を示す。それを見た賈駆さ
んはさらに驚きの表情を見せる。
「嘘…何でこの位の量であれだけの威力が出るのよ!?以前に余所でボクが火薬の爆発を
見た時にはもっと多くの量を使って今の二割以下の爆発だったのよ!?」
「それは火薬の調合の仕方の違いによる物です。火薬そのものの精製からして賈駆様の知
っている物とは違っていますので。無論、火薬の作り方も含めて皆様にお教えする用意
もございますが…これでもお役には立てませんか、陳宮様?」
俺はそう言って改めて陳宮さんの方を見る。一応、我に返ってはいるようだが…どう言
葉を返せば良いのか分からなくなっているような感じだ。ならばこの際、一気にたたみ
かけてみようかな?
「実は戦のお役に立てそうな物がもう一つございまして…馬具でございますれば、どなた
かに試していただけると嬉しいのですが」
「へぇ~、馬具と聞いた以上はウチの出番やな」
今度は俺の言葉に興味を示した張遼さんが進み出てきた。
・・・・・・・
「さて、準備出来ました」
「何やの、これ?鞍になんやぶら下がってるっちゅうか、くくりつけてるっちゅうのか…」
「これは『鐙』というものでして…とりあえずはこれで馬に乗ってみてください。乗る際
にはこちらの金具に足をかけていただいて、後はその上に足を乗せるような感じで…」
半刻後。
「こりゃ、凄いで!!今まで以上に馬を操りやすくなった上に、武器も振り回しやすうな
ってるで!!」
「うむ、確かに今までより数倍の力で馬上で武器が振り回せるようになっているな!!」
すっかり鐙の使い心地が気に入った張遼さんと、それを見て自分も試しを申し出てきた
華雄さんの二人が楽しそうに曲乗りのような事をやっていたりする。
(ちなみに鐙は二つ持ってきていたので、二つ目を華雄さんの馬に取り付けている)
「陳宮様、如何ですか?これだけの物を造りだした北郷の技術は?」
ずっと驚愕の表情のまま固まっている陳宮さんに公達がそう問いかけるが…今度は苦虫
を噛み潰したような顔のまま、まったく返答をしてこない。
「ねね…いい加減にする」
「恋殿……………むぅ~~~~~っ、ああ!もう十分に分かったのです!!ねねの負けな
のです!!北郷、荀攸、ねねの真名は『音々音』なのです!でも、ねねの事はねねと呼
べば良いのです!!」
いきなり真名許しまでいくとは予想外だったけど…とりあえず彼女も認めてくれたって
事で良いのかな?
「本当に凄いわね、これ。ねぇ、この鐙ってもっと作れるの?」
「作れますけど…馬具の職人方に作り方をお教えした方が大量に作れそうですよね?」
「作り方まで良いの!?」
「無論です。その方が手早く軍の増強にも繋がるでしょうし」
「ありがとうございます。私の事は『月』と呼んで下さい」
えっ…ええっと、いきなり過ぎて一瞬良く分からなくなったけど、董卓さんが俺達に真
名を預けたって事か?
「ウチの事は『霞』でええで。様なんかいらんし、遠慮のう霞って呼んでや」
「私は故あって真名を持ち合わせていないのだが…華雄と呼び捨てにしてくれて構わない」
「ええっと…ボクの事も『詠』で良いわ。様もいらないし」
「私は少しだけ様子見させていただきましょう。でも、そう遠くない内に我が真名もお預
け出来そうではありますね」
いきなり怒涛の展開で王允さん以外の真名を預かったけど…ええっと、どうしたら良い
のかな?
「え、ええっと、その、俺の事は一刀でよろしくお願いします」
…自分で言っていて良く分からない感じになっているな、これ。
「まあ、良いんじゃないか?これだけの女性陣に認められるなんて男冥利に尽きるっても
のだろう?とりあえず、お前はお前のやるべき事をやれば良いさ」
「公達はどうするんだ?」
「俺も俺のやるべき事をやる…で良いですよね?」
「はい、公達さんにお任せします。ご存分に」
「了解であります。それじゃあな、北郷。胡車児、お前は北郷の事を守ってやるんだぞ」
「わ、わ、分かったんだな、こ、こ、公達のあ、あ、兄貴もが、が、がんばるんだな!!」
公達はニッと会心の笑みを浮かべると場を離れていった。
「ええっと…月、様?公達は何を?」
「公達さんには公達さんの得意分野で各諸侯に相対してもらう…とだけ言っておきます。
さあ、それはともかくとして、一刀さんには改めてお聞きします。汜水関と虎牢関、こ
の二つの守りをどう強化するつもりですか?」
守りの強化…これまでずっと考えてきて出た答えは一つしか無い。
「汜水関を捨てます」
俺のその言葉に皆の眼は驚愕で見開かれていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
またもや遅くなりまして申し訳ございません。
あまりにもの遅筆ぶりに我ながらもう9月中の投稿を
諦めかけた程でしたが…何とか此処まで書けました。
さて、今回は正式に董卓陣営に加わったので、董卓軍
の主な将達の集合その他でお送りしました。王允は今
回は女性にしてみました。一応、年齢は二十代後半と
いった所で、お姉様キャラで行く予定です。
とりあえず次回は、連合が来る僅かの間に一刀による
虎牢関強化計画をお送りする予定です。
それでは次回、第十話にてお会いいたしましょう。
追伸 汜水関を捨てる発言の続きは次回にて。
地和と人和の出番もある…予定(オイ。
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お待たせしました!
董卓側に付く事を決めた一刀と公達。
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