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模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第47話

コマネチさん

第47話『トラップを越えろ(前編)』

 一週間後に『グラン・ギニョール』との勝負を控えたアイ達『I・B』しかしアイと組むソウイチはまだ踏ん切りがつかずにいた。

2016-09-05 23:11:02 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:666   閲覧ユーザー数:641

 見渡す限りの湿地帯、遠くに見える緑の山々、日本の山中をモデルにしたバトルフィールドでガンプラバトルが行われていた。フリーダムガンダムの改造機。フリーダムアルクスとAGE3―フォートレスだ。バトルが始まって暫く経つがフォートレスの方が押されているらしい。程なくして空中からのフリーダムのビームライフルに右肩を撃ち抜かれ、右腕を破損。

 

「うわッ!」

 

 爆発の衝撃を再現した振動がGポッドを襲った。ソウイチの頭がツーンと痛む。眼も痛い。最もこれは疲れ目から来る物だ。それだけ今日は多くバトルをやっていた。

 

「くっ!勝てない!なんでだ!」

 

 Gポッドの中でソウイチは叫んだ。昼食が終わった後、ガンプラバトルの練習は続いた。バトルしていたのはナナとソウイチである。ソウイチが無理を言って申し込んだバトルだった。

 

「アサダ、もう何度もバトルしてるけど、そろそろ休んだ方が……」

 

「気にしないでください!これ位なんでもない!」

 

「飛んでるこっちに馬鹿正直に撃ってきて!動きどんどん悪くなってるっつのアンタ!」

 

 ナナが毒づく。アイ達の中で一番経験の浅いナナでもソウイチが空回りしてるのは目に見えていた。彼はうまくいかない焦り、アイとの実力差の焦りからどんどん動きが荒くなっていった。

 

「ハジメさんに言われたらおしまいっス!」

 

「自覚はあるけどムカつくわー!!」

 

 ナナの返答を表す様にフリーダムアルクスはハイマットフルバースト、飛びながらの一斉発射をフォートレスに放つ。焦りから回避の遅れたフォートレスは回避しきれず直撃、沼の泥を巻き上げながら爆発した。

 

 

 ナナの圧勝である。ソウイチの空回りによってどんどん彼の動きは悪くなっていった。

 

「ソウイチ君。いい加減一人にこだわるのやめようよ」

 

「解ってるっスよ。でも……」

 

「ワタシに言われた事、解ってるでしょう?あなたの意地を張る気持ちは分かりますよ。でも……」

 

「あぁもう、これじゃアタシがアンタに勝った事も素直に喜べやしないわ」

 

 アイに続き、マコトとナナが続く。正直この状況のソウイチは見るに堪えない。

 

「だから解ってるって……」

 

「そうカッカするなソウイチ。そんなんじゃわざわざ見に来てくれたあの人に申し訳ないだろう」

 

 あの人って誰スか?と言うソウイチにツチヤは親指で示した。彼のよく知る人だった。

 

「ソウイチ、青春してるみたいね~」

 

「……母さん!?」

 

 ソウイチの母親、アサダ・カナコ(浅田加奈子)だった。息子とは対照的にやわらかい雰囲気がある。

 

 結局あの後、大人しくソウイチは見学に移行していた。自分の醜態を母親に見せたくなかったからだ。その後ソウイチはアイ達と別れ帰路につく。今日は母親と一緒の帰りだ。

 眼が痛い……自転車を手で押しながらソウイチはそんな事を考えていた。今日はずっと準決勝への特訓をしていたが、未だ自分で納得できる戦法は見つからない。夢中でガンプラバトルにかじりついてた所為だろう。眼球と頭がズキズキと鈍く痛む。時間帯は夕方、周りは社会人の人達や親子連れがまばらにいる。

 

「ちょっと今日は調子出なかったみたいね」

 

「何やってんだろう。俺……」

 

 母の言葉にポロッとソウイチの本心が零れた。本来ならアイと組めばもっと強くなれる。アイと協力した方が合理的、仲間にも散々言われてるし、自分だってそれが正解ってのは分かる。でもあくまで自分だけの力で、というのにどうしても拘ってしまう。

 

「アイちゃんと組むの、やっぱり嫌?」

 

 そんな事ないよとソウイチは返した。アイの事は信頼してる。友達だとも思ってる。でも彼女に対するライバル意識はまだ彼にとってそのままだ。だからもっと時間的に追い込まれるまでつい一人に執着してしまうのだろう。

 

「そっか……」

 

 息子のそんな心中を察してか。カナコはあまりあーだこーだ言う気にはなれなかった。その代わり、何か思いながらソウイチを横目で見つめる。

 

「?なんだよ?」

 

「いや、ついこの間まであんなに小さかったのに、大きくなったなって」

 

「?!さっきまでと話関係ないじゃん!」

 

「いいじゃない。変に口出ししたってアンタ悩むだけだし」

 

「ったく……ついこの間っていつさ?」

 

「お父さんのお葬式の時、かな」

 

 随分前だな。とソウイチ。

 

「いつの間にか悩んだりで一丁前になっちゃって、お葬式の時、泣きながら『大人になったらママと結婚して楽させてあげる!』って皆の前で叫んでいたの、凄くよく覚えてるわ」

 

「……言ってねぇ」

 

 一瞬ソウイチの顔が青ざめる。穏やかだった顔も引きつっていた。全く記憶にない。

 

「まぁソウイチにとっては覚えてないだろうけど、私にとっては凄い救われた言葉だったなって思い出したの。結婚は無理だけどね」

 

「無理に決まってるだろ?後言ってねぇよ!ホントに!」

 

 必死になりながらソウイチは否定する。とはいえ母の笑顔と「救われた」という言葉に複雑な心境だった。言ってもいない事でっち上げられてからかわれてるのか、感謝されてる事にソウイチが照れてるのか、ソウイチ自身でも解らない。

「あーごめんごめん。……なんかね。今のアンタ昔のお父さんによく似てるわ」

 

「父さんに?」

 

 五歳の時に死んだ父親だ。碌に思い出の無いソウイチは食いついた。

 

「病弱な人だったからね。自分が長生き出来ないって解っていたから一人で何でもやろうってこだわってた人だったわ」

 

「立派な人だったってのは知ってる人からよく聞いてたよ。父さんの職業って確か……」

 

 父が死んだ後、ソウイチ達親子は父の残したお金や、祖父母や父に恩のある人に助けられていた。ある程度ではあるが、それが親子共々救いにはなった。

 

「高校教師よ。でもってお母さんはその時の生徒」

 

「生徒と結婚した時点で、立派な人ってのに疑問があるんだけど」

 

「それは、お母さんがワガママで無理やり通したわけだから、お父さんの方はノーカンよノーカン」

 

「不純だ」とソウイチは不快そうに顔をしかめる。そこを自分の子供に言うなよ。とも言葉で付け加えた。

 

 あぁ拗ねないでとカナコは言う。本当は幼子をあやす様に言いたかったが、ソウイチはこういうのを嫌がる。思春期特有のやり辛さをカナコは感じていた。

 

「でも意外だな。イメージとしては一人でなんでも決められたり、こなせる人だって思ってたけど」

 

「そうでもないわよ。私と結婚したらお互い頼る様になってね。死んだ後の頼れる人を選んだのも、自分が死んだら自分じゃどうしようもないって解っていたからなんだから」

 

「だから他の人に頼ったって?……俺も次のバトルはそうした方がいいって?」

 

「言い方が乱暴よ。……でもその通り。お父さんは自分が後悔しながら死にたくないって言ってたからそうしたわ。あんたの事だから言うわよ。ソウイチ、あんた今のまま意地を張り続けたら絶対後悔する」

 

「……っ!」

 

「最近のあんた見てるとなんだか感じが柔らかくなったわ。だからこそ今度のガンプラバトルの大会はその感じでやって欲しいって私も思ってる。過去は過去になったら動かしようがないんだからさ」

 

 去年のガンプラ大会、ソウイチ達は地区予選での敗退だった。その時は実力も荒く、ソウイチの態度も荒かった。

 

「……しょうがないな」

 

 頭を掻きながらソウイチは漏らした。親の言いなりになるのは辛いが、親を悲しませたくもない。死んだ父親に絡む事となると尚更だった。

 

「今年は色々な意味でもチャンスなんだ。少なくとも俺のミスでチャンスを逃すわけにはいかないからな」

 

「そうよ、どうせなら思い出はベストな形にしましょう」

 

 翌日、ソウイチは己の行いを改め、連携の特訓、トラップの対策を重点的に鍛えた。そして一週間経ち、準決勝の日が来る。多目的アリーナ『ホワイトドーム』の通路でアイ達は集まる。

 

「成果を見せる時が来たっスね」

 

「うん、これに勝てばAブロックの決勝、更にそれに勝てば……」

 

「全国の切符が手に入る……ってわけだね……」

 

 応援に来ていたムツミが言う。彼女とタカコも今日は都合がついた為にアリーナに来ている。

 

「頑張ってね皆~。所で準決勝はあのゴスロリ軍団って事で、決勝の相手は?」

 

「チーム『エデン』か、チーム『ライオンハート』、どっちも僕達には因縁のある相手だな」

 

 ヒロは覚悟を表すかのように真剣な表情で告げる。

 

「チーム『エデン』……かつてヒロが在籍していたチームですね……。でももう一つの『ライオンハート』は聞いた事のないチームです……。どんな因縁が?」

 

「当然だよミヨさん、調べてみたけど『ライオンハート』はヤタテさんが来る前に俺達と一緒にいた奴が立ち上げたチームだからだ」

 

 ツチヤもヒロに続く様に答える。かつて、ソウイチがコンドウ達とチームを組む前にツチヤとコンドウ、そしてもう二人の仲間は同じ集まりだった。しかしツチヤの旧友、カモザワがその四人の関係を荒らしてしまい、愛想を尽かした二人はツチヤ達の元を離れてしまった。

その後にソウイチがツチヤ達のチームに入り、なおも好き勝手に暴れるカモザワはコンドウの怒りを買い追放。その後にアイ達が引っ越してきたというわけだ。

 

「どちらも一筋縄にはいかない相手でしょうね。それに勝ったらBブロックの勝ち上がったチーム、ノドカのチーム『オベロン・ティターニア』ブスジマさんのチーム『前世代』」

 

「どっちにせよ強敵には変わりないね」

 

「はーい皆、調子はどう?」

 

 とその時カナコが様子を見に来た。

 

「あ、オバサン」

 

 ふいにタカコがそう反応する。ヒロとソウイチを除く全員が「あ゛」と固まった。オバサンと呼ばれたカナコは表情が曇り、黙り込んだ。『まだ若いもん』と言わんばかりのオーラを出しまくりながら、

 

「すいませぇんカナコさん!!!」

 

 そう言いながらムツミは慌ててタカコにコブラツイストをかけていた。

 

「わ~ごめんなさい!って言葉のあやじゃん!!別にいいでしょムツミ~いだだだ!!」

 

「あぁもう面倒くさい!母さん!試合控えてんだから応援なら早いとこすませてよ!大体オバサン言われる年齢なのは合ってるだろ!もうすぐ33なんだから!」

 

 ソウイチの駄目押しだった。その場にいた全員が更に凍りつく。しかし……

 

「う、そうね。皆、頑張ってね。応援してるから」

 

 別に態度を悪くした様子はない。大丈夫かと全員は思った。

 

「『大人になったらママと結婚して楽させてあげる!』って小さい頃言ってたソウイチだけど、もう立派に戦えるからね」

 

 ……大丈夫じゃなかった。カナコの引きつった笑顔での爆弾発言はソウイチと周りの顔を愕然とさせる。

 

「言ってねぇぇぇっ!!なんだよ今この状況で大人げねぇ事を!!」

 

「フーンだ。世の中言っちゃいけないことあるんだから」

 

 頬をぷぅと膨らませながらカナコはそっぽを向く。

 

「いい年齢した大人のやる事かぁぁ!!!!」

 

 周りがまぁまぁとなだめる中、それを見ながら「フッ」と鼻で笑う声が聞こえた。アイ達は一斉に声のした方を向く。そこにいたのは和ゴスと眼帯の少女、次のアイ達の対戦相手……。

 

「『グラン・ギニョール』の……」

 

「カンナミ・ツボミ(函南つぼみ)だ。子供みたいに馬鹿騒ぎをして、緊張感がないな。元から気位がないと思っていたけどこれ程とはね」

 

 相も変わらずの挑発だ。アイ達はうまく受け流すが一人彼女に食って掛かる少年がいた。ソウイチだ。

 

「あんたも相変わらずっスね。舐められたくないならそんな態度取っていい理由にもならないと思うっスけど」

 

「おやおや、ママと結婚したいとか言ってた子供の割に背伸びした事を言うんだな」

 

「っ!!昔の話っスよ!第一覚えてねぇ!!」

 

「親も親だな。大人げない態度を取って、まぁお前らの親ならその程度だろうな」

 

「っ!あんたは!」

 

 握り拳を作りながらソウイチはつぼみと名乗った少女を睨みつける。しかしそのソウイチの前にアイが右手を出し制止する。

 

「生憎だよ。こっちは立場あるビルダーなら楽しくやって、見てる人達にもいい影響を与えたいってスタンスだからね。お高くとまるだけが立場や実力あるビルダーのする事とはとても思えないけど?」

 

 怒気を含んだアイの声だ。静かな怒りがある分妙な威圧感がある。

 

「……フン。まぁいい。最もお前たちが本当に実力あるビルダーかはこれから確かめさせてもらう、勝負が楽しみだな」

 

 そう吐き捨てながら少女はその場から去っていった。アイの威圧感に押されたのか?と何人かは思ったかもしれない。

 

「嫌な奴ね。なんであんなのが強豪なんだか」

 

「まぁ彼女の実力がどんな物なのか、お手並み拝見と行こう」

 

「あの、ソウイチゴメンね。お母さん大人げなかった」

 

「いいよ母さん。頑張るよ俺」

 

 そしてバトルが始まった……。今回のバトルフィールドは『オーブ連合首長国オノゴロ島』。オーブという国は『ガンダムSEED』に登場した中立国であり、大小さまざまな島から構成される島嶼国である。

 オノゴロ島はその中でも軍事の中心地であり、国防本部と軍事産業の中枢、『モルゲンレーテ社』の本社及び工廠が存在している。平たく言えば今回のバトルは海沿いの都市のバトルとなるだろう。そうこうしてる内にアイ達の出撃準備は整い。後は母艦のアークエンジェルから出撃するだけだ。

 

「ハガネ・ヒロ、ウイングガンダム・ノヴァ」

 

「ツチヤ・サブロウタ、アッシマーデコレーション」

 

「ヤタテ・アイ、そして……」

 

「アサダ・ソウイチ!ガンダムAGE-3E『サラマンダー』!!」

 

「行くぜ!(出るよ!)(行きます!)(出撃する!)」

 

 各々は声を上げつつカタパルトから出撃、薄暗い通路上のカタパルトから出撃すると青空と真っ青な海が出迎えてくれた。眩しさにアイ達は一瞬眼をつむる。アイ達のチームは海側からスタートだ。逆に向こうは山側から。

 

「あれだけ緊張してた準決勝だけど、観光みたいなフィールドだな」

 

「あの都市は軍事施設だけどね。ともかく気を抜かないで行こう!」

 

「そうですねヒロさん。ソウイチ君、落ち着いていこう」

 

「大丈夫。あの三兄妹から特訓も受けてたんスから。それにこの機体なら……」

 

 アイとソウイチの機体、AGE-3Eのオリジナルウェア『サラマンダー』フォートレスを改造した機体で、両腕にシュツルムガルスのナックルを装備。(パーツ提供ブスジマさん)重心のバランスを取るためにAGE-1タイタスの両腕を尻尾に改造。更に以前アイが作ったパーフェクトユニコーンの余剰パーツを仕込み、フォートレスは接近戦もこなせる万能機となったのだ。

「コウセツさん達はトラップでやられたって言ってたけど……」

 

「海上だからってトラップは無しとは思えないが……来た!!」

 

 ツチヤは上を見ながら叫ぶ、と同時に何条もの細いビームが雨の様に降ってくる。全機とも散開し回避、撃ってるのはじょうごの様な小さな物体だ。ざっと見ただけで20近くはある。

 

「ファンネル?!誰が撃ってるってんだ!!」

 

 ファンネル、サイコミュと呼ばれる装置によって特殊な脳波で操る移動ビーム砲台、しかしガンプラバトルでは脳波でなくマニュアル操作である。アイ達は分散させるべく散開、それぞれのファンネルがアイ達を襲う。3つ分散しても5以上のファンネルが襲ってくる。

 

「時間はかけてられないな!ならば!」

 

 ヒロはツインバスターライフルを分割し、左右に一丁ずつ向ける。

 

「ヒロさん!?まさか!」

 

「離れて皆!」

 

 と、バスターライフルをすぐさま発射、そして回転し周りのファンネルを一掃する。半分以上のファンネルはそれで破壊出来た。そこから少し離れた場所でファンネルを飛ばした機体が隠れていた。自分が飛ばしたファンネルが破壊されてもこれ位は予想出来ていた。

 

「……第二陣出撃……」

 

 声の主は消え入りそうな声で呟く。直後、近くの小島や雲の中に待機させていた残りのファンネルを飛ばした。アイ達もこれには驚く。

 

「おかわりかっ!撃ってる奴が見えない!海の中から撃ってるってわけスか?!」

 

「海か!ヤタテさん!こないだのあれで行こう!!特訓の時の!!」

 

「う!うん!!」

 

 何をやるかは全員が分かった。飛行出来ないサラマンダーは一旦分離し上昇、構成するのはコアファイターと、改造したGホッパー、『Gドレイク』だ。

 続けてアッシマーとノヴァは変形し追うように飛翔、ファンネルはそれを阻止すべく執拗に撃ち続けるが、高速で飛んでる4機には当たらない。

 そしてサラマンダーは高高度で再合体、ノヴァとアッシマーも変形、サラマンダーの隣で停止すると、全機が最大のビーム兵器を海面に撃ち込んだ。直後、撃った地点の海は大きく膨れ上がり水蒸気爆発を起こす。

 全機の火力を集中させた威力は前回の比ではない。大規模な爆発とそれにより飛び上がった海水は大規模な天気雨になって降り注ぐ。それに伴いファンネルも爆発に巻き込まれ一掃出来た。

 

「で、やったの?海の中の敵は?!」

 

「いや!見ろ!」

 

「っ!何だあれ!」

 

 ツチヤは空のある地点を指差す。そこには一か所だけ色が濃い空があった。濡れているのだ。何かが布を纏ってる。

 

「あれがファンネルのトリックだね!っ?!」

 

 直後、水中を突っ切って四つの物体が空中に飛び上がってきた。緑色のスペースシャトルの様な形状のバインダーだ。先端部にはサブアームとビームサーベルが取り付けられており。アイ達に突っ込んでくる。

 

「うわっ!あのバインダーは!」

 

 アイ達はが叫びながら回避かビームサーベルで切り裂こうとする、しかし同時に布の中から大型ビームが放たれてきた。

 

「なにっ!」

 

 ビームはかわしたがその所為でバインダーの破壊は出来なかった。そしてバインダーは布の地点に集まる。そして布の中から手が突き出し、纏った布を引き裂き正体を表した。それは。

 

「やはりクシャトリヤか!!」

 

 ツチヤの叫びと共にバインダーが4枚本体に合体。『ガンダムUC』に登場したネオジオン残党『袖付き』の機体。アイ達の機体より一回り大きいサイズの機体だ。四枚のバインダーにスラスターやファンネルを集中させており高い攻撃力と機動力を誇る。このクシャトリヤにはビルダーズパーツHDのファンネルが二個分搭載されておりファンネルの数が倍近くになっていたのだ。

そして蝶のデカールがバインダーによく貼られている。

 

「そうか!カメレオンクロスか!!」

 

 試合を見ながら叫ぶコウセツに「え?」とムツミが短い疑問の声を上げた。

 

「布の片方を空の色で、もう片方を情景スプレーで塗ってあるんだ。それをガンプラに纏わせて簡単な擬態をしたってわけだ」

 

「最も完璧に全身をくるんでると放熱とか問題もあるから不用意に動けないんだがな」

 

 ナダレもコウセツの解説の補足を行う。

 

「だからあそこから動かなかったわけですか……」

 

 

「へーなんか凄そうな敵が出てきたねーあんちゃん」

 

 別の観客席でアイの試合を見ていた女の子が声を上げる。ケイ・チトセとその兄達、ケイ三兄弟だ。

 

「どうだかな。小細工を使ってる様だがヤタテには通用するとは思えないぜ」

 

 長男マツオが冷静に返す。

 

「なんか冷静だねあんちゃん。ハラハラしないの?」

 

「格闘技ってのは番狂わせはねぇ、必ず実力が上の奴が勝つ。あいつらやヒロが。所でお前の方こそいいのか?向こうの試合を応援しなくて」

 

 マツオはアイ達の試合の反対方向を指さした。マスミ達チーム『エデン』と『ライオンハート』の試合だ。急にチトセの頬がむくれる。

 

「いいの!私の事ないがしろにした奴の試合なんか!!」 

 

 

 さて、アイ達の方に話を戻そう。クシャトリヤのビルダーは無言でバインダーを開き浮遊機雷をばら撒く。拳にも満たない大きさだがスギ花粉の様にばら撒く。数は優に100を越えていた。

 

「あのクシャトリヤ!バインダーがリペアードの方だ!」

 

 クシャトリヤのガンプラにもバリエーションはある。バインダーの部分だけはリペアードと呼ばれる物に換装されている。リペアード版はバインダー開閉ギミックがあり、中にファンネルミサイルを搭載出来る仕様だ。だがこのクシャトリヤはファンネルの代わりに機雷やらトラップやらを搭載しているとアイ達は判断する。

 

「大方バインダーでトラップをばら撒いてたって所!?」

 

「……」

 

 無言だ。聞く耳は持たないらしい。

 

「言いたくないならそのまま退場してもらうよ!!機雷ごとこの一撃で!!」

 

 ヒロはノヴァのツインバスターライフルを構え、機雷ごとクシャトリヤを狙い撃とうとする。その時だった。ヒロのGポッドに警告音が響く。

 

「っ!?」

 

 とっさにヒロは回避行動を取ろうとするが敵の弾速は早い、撃つ寸前だったツインバスターライフルは撃ち抜かれ破壊されてしまう。

 

「バスターライフルが?!」

 

「面倒な武器だったから破壊させてもらった」

 少し離れた場所に、飛びながらロケットランチャーを構えた機体が見えた。旧大戦の軍人の様なフォルムの機体『ガンダムUC』に登場したギラ・ズールだ。赤紫に塗装されており、薔薇のデカールが目を引く。アメジングザクのパーツが取り付けられており、武装はミサイル、ヒートナタ、リボルバー、ロケットランチャーと距離を選ばない改造が施されていた。それは飛行可能な程の推力を得ていた。

 

「それじゃあ本体は私が仕上げるよ」

 

 聞いた事のない声が響くとノヴァの頭上が暗くなる。上を見るともう一体のギラ・ズールが斬りかかってくる。白い塗装に背中のX字のバインダー。蜥蜴のデカールが貼られており、目をひく武装はつま先とビームライフル先の鋭利な剣、それが左手のビームトマホークで斬りかかってくる。こちらも飛行可能な様だ。

 

「っ!」

 

 ヒロはビームサーベルでビームトマホークを受け止める。それを追い打ちとばかりに再び赤紫のギラ・ズールは長距離からノヴァを狙い撃とうとする。

 

「させるかぁ!!」

 

 アイとソウイチのサラマンダーは飛び上がり、手甲のビームサーベルで斬りかかる。赤いギラ・ズールは左手にヒートナタを持つとサラマンダーのビームサーベルを受け止めた。

 そのまま離れたギラ・ズールはクシャトリヤと合流、白いギラ・ズールもアッシマーの援護によってノヴァから離れざるを得なかったようだ。三機それぞれがアイ達に相対する。

「やはり『女王』と呼ばれたビルダーと言うことか。一筋縄じゃいかない」

 

「そんな迷惑な二つ名、持ってても嬉しくないんですよ」

 

「そうですか。では力づくで奪いましょう。そうでなければ意味はありませんから」

 

 白いギラ・ズールのビルダーが口を開いた。赤紫のギラ・ズールのビルダーと対照的に温厚そうな口調だった。

 

「二つ名が相応の物かはすぐにわかるさ。……それでは我ら『グラン・ギニョール』の公演、存分にお楽しみくださいませ」

 

 そういってツボミと名乗った少女達は恭しくお辞儀をする。

 

「ヌマヅ・ナエ(沼津苗)ギラ・ズール・アイスバーグ(白いギラ・ズール)、そしてこっちはアタミ・モエ(熱海萌)とクシャトリヤ・エクレール」

 

「……」

 

 頑なにクシャトリヤのビルダーは言葉を話そうとしない。それを理解してるのか白いギラ・ズールのビルダーが代わりに紹介した。

「そしてカンナミ・ツボミ(函南つぼみ)、ギラ・ズール・ウタゲ(赤紫のギラ・ズール)……グラン・ギニョール!!開幕!!!」

 

 つぼみの一声によって三機は散開、そして一斉にアイに銃口を向けた。狙いはアイ一人というわけだ。全機が一斉にアイを狙ってくる。

 ※ちなみにウタゲ(赤薔薇)、アイスバーグ(白薔薇)、エクレール(緑薔薇)、全て薔薇の品種名ある。)

 

「くっ!こっちを集中攻撃で!」

 

 飛び続けると浮遊機雷でロクに回避も出来ない。アイ達は着水するとホバリングしながら攻撃を回避、同時に両腕のガトリングガンを展開しつつ敵と機雷を迎撃しようとする。しかしそれぞれが早い為にラチがあかない。相手三機も着水すると水上を走りながら距離を詰めてくる。

 

「ヤタテさん!!彼女の相手は俺がする!」

 

 ツチヤのアッシマーがギラ・ズール・アイスバーグ(以下アイスバーグ)にトマホークで斬りかかる。アイスバーグもビームトマホークでそれを受け止めた。

 

「アッシマーですか!いいですよぉ!」

 

 瞬時に離れ二機とも高速でぶつかり合う。それを見ていたクシャトリヤは残った数個のファンネルで援護しようとするが、

 

「余計な手助けはやめてもらいたいもんだな!」

 

 ヒロのノヴァがクシャトリヤに斬りかかり援護を阻止する。クシャトリヤもビームサーベルでノヴァのビームサーベルを受け止める。サイズの事もあってかパワーはクシャトリヤの方が上だ。しかしスピードはノヴァの方が上、

 機雷の隙間を縫うような速い動きでノヴァは斬りかかりヒットアンドアウェイを繰り返す。反面クシャトリヤは図体の所為で思うように動けない。胸部のビーム砲で機雷をまき込み誘爆させようとするがノヴァは早くうまくいかない。

 

「……」

 

 と、クシャトリヤのビルダーは何か思いついたらしい。ノヴァと切り結ぶ瞬間、開いていた方の手でノヴァを掴むとそのまま真下の海へ突っ込んでいく。

 

「ヒロさん?!(ハガネさん?!)」

 

「っ?!何を!!」

 

 ビームサーベルでクシャトリヤの腕を切り落とそうとするノヴァ、しかしその行動の前に、海に突っ込んだ二機は大きな水柱をあげて海中に潜っていった。これによりアイの相手はツボミのギラ・ズール・ウタゲ(以下ウタゲ)のみとなった。

 

「皆、大丈夫だよね」

 

「でも一応これでフェアになったっス!!信じるしかない!!行きますよ!!」

 

「おっしゃ!!」

 

 サラマンダーの手甲からビームサーベルが発生し、ウタゲに斬りかかる。ウタゲもまた両手にヒートナタを構え突っ込んでくる。

 

 その頃のツチヤとナエの戦いである。オノゴロ島高高度、機雷の無い位の高度で二機は激しくぶつかっていた。ツチヤはアッシマーのパワーを活かして短期で決めたかったが、戦ってみてやり辛さを感じていた。

 

「このぉっ!!」

 ツチヤはアッシマーのトマホークでアイスバーグに斬りかかる。アイスバーグは銃剣で受け止めると即座に蹴りを入れてこようとしてくる。アイスバーグのつま先にはナイフが取り付けられているのだ。

 とっさに離れるツチヤのアッシマー・デコレーション、かといって中距離のアイスバーグは背中のサブアームからハンドガンとビームガンを連射してくる。動きが早い上に迎撃用の装備が非常に充実しているのだ。足を止めての近接戦闘は非常に危険である。

 

「あの三兄妹を倒しただけあるな。ならば!」

 

 アッシマー・デコレーションは変形、背中のライトニングバックウェポンからミサイルを撃ちつつ高速でかく乱、射撃でアイスバーグを追い詰めようとする。アイスバーグもまた撃ち落とそうとアッシマーに追いすがる。並走する二機。

 

「この子についていけそうな機体ですね!面白い!」

 

 二機とも青空をバックに後ろを取り、取られの高速戦闘をこなす。普通、高速戦闘はガンプラの出来によって機体に相当な振動や負荷がかかる。しかしアイスバーグに乗ったナエはしれっとしており、その出来栄えが分かるだろう。

 

「人型のままあの速度を保つのか?!」

 

「確かに空気抵抗がちょっときついですけど!イニシチアブは!」

 

 そのままアイスバーグはビームトマホークでアッシマーに斬りかかる。

 

「手持ちの武器が使える事ですね!」

 

「くっ!」

 

 ツチヤはアッシマーを反転、機体の右部分、トマホークの刃の部分でビームトマホークを受け止めた。

 

「ほぉっ!やりますわね!!」

 

「お互い様だ!一対一なら!」

 

「へぇ、でしたら!」

 

 その時だった。ツチヤのGポッドに警告音が走る。「なんだ?!」とツチヤは警戒するが下の陸地の方、モルゲンレーテ社から小型のミサイルがいくつも発射されるのが見えた。正面からこっちに向かって、

 

「な!なんだぁぁ!?」

 

 ミサイルはアッシマーの周囲で爆発を起こす。

 

「真下がモルゲンレーテなのはまずかったですね!」

 

「くそっ!誘導されていたのか?!」

 

 うまく爆発郡から抜け出そうとするアッシマーだったが、アッシマーを取り囲む様にミサイルは放たれていた。360度から飛んでくるミサイル。アッシマーはたまらず真上に上昇。それがアイスバーグのつけいる隙を与えてしまった。

 

「いただくわ!!」

 

「なっ!」

 

 丁度アッシマーは反転しかけた所為で機体下部、つまりコクピットをさらけ出してる状態だった。そのままコクピットめがけてビームトマホークを振り降ろすアイスバーグ、変形してトマホークで受け止めるか。と、ツチヤは考える。しかし間に合わない。とっさにアッシマーは体を180度半回転、アイスバーグに背中を見せる体勢となった。ビームトマホークはアッシマーの背中の装備、ライトニングバックウェポンを切り裂く。

 

「いまだっ!!」

 

 即座にツチヤはライトニングウェポンを切り離し、MS形態に変形、ビームライフルをライトニングウェポンごしに撃ち込んだ。

 

「なぁっ!!」

 

 一撃で決めることは出来なかったらしい。しかしアイスバーグの右腕は肩ごと貫通出来た。このまま畳みかけようと思ったが、なおもミサイルは飛んでくる。場所を離れようとツチヤは再度変形させその場を離れた。

 

「くっ!待ちなさい!」

 

 追いかけるアイスバーグ。

 

 そしてこちらは水上戦のアイ達とツボミ。ウタゲは背中のミサイルを撃ちながらヒートナタで襲い掛かる。サラマンダーの方はビームサーベルは出しながら、ガトリングガンで引き撃ちしながらミサイルを迎撃、爆風の中をウタゲは突っ切ってくる。サラマンダーはヒートナタをビームサーベルで受けた。

 

「女王、パワーはある方だな」

 

「余裕だね!」

 

 盛り返そうとするサラマンダー。が、ウタゲは膝蹴りを相手の腹部に叩き込みサラマンダーを後方に吹っ飛ばした。しかしダメージはそれほど無い。追撃でブースターをふかしたウタゲは左手のヒートナタをサラマンダーに振り下ろす。が、サラマンダーはすぐに体勢を立て直し左に回避。

 

「くぅっ!」

 

「立ち直りが早い!並のガンプラならこれで壊れてたのに!」

 

 そのままウタゲは体勢を変えずに左手のヒートナタを逆手持ちにし、左のサラマンダーに突き刺そうとする。

 

「させるかぁっ!」

 

 が、アイも読んでいた。ヒートナタ目がけて左の手甲でパンチをかます。

 

「っ?!」

 

 分が悪いと感じたツボミはすぐさま身をかがめる。機体のギリギリ上をパンチとビームサーベルが掠める。すかさずツボミはミサイルポッドをサラマンダーに向けて発射、サラマンダーはとっさに右手の手甲で防御する。すぐさま二機は離れる。

 

「くっ!かなりの手練れだね!これは!」

 

「チャージ無しでシグマシスキャノンが撃てればこんな奴!」

 

「大丈夫。パワーはこっちの方が上だから!」

 

「フン、それがどうした?」

 

 その時だった。ツボミの言葉と同時にウタゲの後方、軍事工場モルゲンレーテの方から、小型の物体が幾つも雲を弾きながら飛んでくるのが見えた。

 

「ヤタテさん?!あれは!」

 

 ソウイチが叫んだ。小型ミサイルだ。ゆうに百発はあろう、それが横一列に並びながらこちらに飛んでくる。

 

「ミサイルポッド?!あれも設置したトラップ?!なんて数!」

 

「お前達を倒す為に大判ぶるまいよ」

 

「チッ!」

 

 ウタゲは巻き込まれない様に離れるが、後退しながらもロケットランチャーでこっちを撃ってくる。ノヴァのバスターライフルを破壊した弾丸だ。受けたらまずいとアイ達は判断。チャージしたシグマシスキャノンでミサイルを薙ぎ払おうとする。

 が、そうさせまいとウタゲが執拗に撃ってくる。チャージは出来ても撃つのに足を止めるからだ。かといってガトリングガンで迎撃しようとするもミサイルの数が多すぎる。

 

「クッ!だったら距離をとれば!」

 

 距離を置けばミサイルの射程から逃れられるとアイとソウイチは判断。もっと沖の海でウタゲの相手をしようと考える。しかしその直後だった。

 

『ドンッ!!ドドンッッ!!!』

 

 少し離れた場所で爆発の水柱が上がるのが見えた。そしてその中からヒロのウイングノヴァが飛び上がるのが見えた。

 

「ヒロさん!?(ハガネさん!!)」

 

「アイちゃん!海の中は機雷で一杯だ!しかも!」

 

 言い終わらないうちにファンネルのビームが数条、ノヴァを襲う。うまく回避しながらノヴァは飛び上がる。後を追うようにクシャトリヤが水面から上がってくる。と、同時にいくつもの十字状に棒が突き出た丸い物体が海からゆっくり上がってきた。それも、周囲の海から一斉にだ。その数は100か200か。浮かんでる浮遊機雷と同じ形だ。

 

「やはり最初に僕達をファンネルで足止めしていたのは機雷やミサイルを設置する為か!」

 

「そう。お前たちが呑気にファンネルの相手をしていたおかげでばら撒きやすかったな」

 

「やっぱりクシャトリヤのバインダーを全部コンテナとして使ったんだ」

 

 公式でバインダーごとファンネルとして使用出来る設定だからこそ出来た戦法だった。

 

「ヤタテ・アイ、私達はお前を倒す為にこの大会に出た。勝たなければ出た意味はない」

 

 そうこうしてる内に アイ達の回りにもハイドボンブが上がってきた。周りはクシャトリヤとウタゲ、こちらは状況のどんどん悪くなっていった。

 

 ※後半へ続く。

 

登場人物設定資料『チーム・グラン・ギニョール』

 

お待たせしました。コマネチです。番外編3がちょっと長すぎたと思い、今後は2万超える様だったら前後編に分けようかなと考えてます。

 

※ナエの衣装はパンクロリータの予定でしたが、描けなかったので(お、カントリーロリータにしてしまいましたw

 

 


 
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