その鏡には華琳とそして、あの男が映っていた。
その様子に誰もが驚き、そして鏡に触れてしまう。
すると、鏡に映っていた映像は消え、代わりに鏡に触れた者が白い光に包まれていく。
それと同時に、周りにいた他の者達も同じように光に包まれていく。
避けられない事象。
だがそれでもなお、春蘭はもがいていた。
華琳がいなくなったと言う事実。
一刀の世界へ行ったのだと言う管輅の言葉。
それ裏付けるかのような先ほどの映像。
それだけの証拠があってもなお、春蘭には信じられないという思いがあった。
秋蘭「姉者、早く!!」
自分の事を姉として信頼し、自分も全幅の信頼をおく秋蘭の手が、春蘭へと伸びてきた。
しかし、その手をすぐに掴む事は出来なかった。
この状況に抗おうとする春蘭を見て、秋蘭が言った。
秋蘭「姉者よ、華琳様に会いたくはないのか?・・・北郷に会いたくはないのか?」
春蘭「!!」
その言葉に春蘭は気付いた。
自分がこの世界に留まりたいのは、何のためだ?
自分が理由としていたものは、目の前にあるじゃないか。
なら・・・。
春蘭は、心にそう問い掛けると、秋蘭に手を掴んだ。
2人は、光の中へ取り込まれていった・・・。
春蘭が目を覚ますと、そこは見慣れない景色だった。
木々が生い茂り、空には太陽と雲がある。
だが、その木の向こうには、見上げるばかりの大きな建物が連なっていた。
それは、春蘭が知るどのお城よりも高く、それだけでここが別世界であると認識させるのに十分だった。
春蘭「北郷の世界に・・・来てしまったのか・・・。」
いつになく冷静な春蘭は、ここが自分達の居た世界とは違う世界、すなわち一刀の世界であると結論付けた。
と、ここで隣に倒れている人物に気付く。
春蘭「秋蘭?おいっ、秋蘭!!しっかりしろ!!」
秋蘭「うーん・・・。」
秋蘭の体を揺する春蘭。
その衝撃に、秋蘭は目を覚ました。
秋蘭「あ・・・、姉者・・・。ここは?」
秋蘭は体を起こしあたりを見回す。
春蘭「わからん。だが、北郷の世界に来た事には間違いないぞ。」
そう言って、先ほど見えた大きな建物を指差す。
秋蘭「ああ、確かにあれは大陸のどこに行っても見た事ないな。」
春蘭「だろ?」
春蘭は楽しそうに答えた。
春蘭「それじゃ、行くぞ!!」
そう言って歩き出す春蘭。
秋蘭「行くって、姉者。あてはあるのか?」
春蘭「ないっ!!」
春蘭は、きっぱりと答えた。
春蘭「だが、ここでじっとしていても何も始まらん!!なら歩き出すのみだ!!」
そう言ってまた歩き出した。
秋蘭「やれやれ・・・。」
秋蘭は、そんな姉の様子に呆れ半分、頼もしさ半分で見ていた。
春蘭「秋蘭~!!置いていくぞ~!!」
すでにだいぶ先まで歩いていた春蘭が、振り返り手を振る。
秋蘭「待ってくれ、姉者~!!」
秋蘭は、春蘭に追いつこうと走り出した。
しばらくして2人は、商店街へと紛れ込んでいた。
活気溢れるその状況に感心しつつも、今まで見たこと無いようなモノばかりで興奮する春蘭。
秋蘭は、この街の様子と一刀が施策を行ったあの世界の街の様子を見比べて、別の意味でも感心していた。
春蘭「秋蘭!!あれはなんだろうなぁ?」
秋蘭「さあな。だが、北郷なら知っているだろうから教えてくれるのではないか?」
春蘭は、秋蘭のこの発言に自分がやるべき事を思い出した。
春蘭「そうだ、北郷だ!!あいつは一体何をしているんだ!!」
そう言いながら、地面を強く踏みしめた。
秋蘭は、そんな春蘭の様子にやれやれと溜息をついた。
秋蘭「姉者・・・、そんなに怒ったところで北郷は現れんよ。それに・・・。」
秋蘭はさらに付け加えた。
秋蘭「私達が探すべきお方は華琳様だ。北郷は華琳様が見つかってからの話だ。・・・それとも姉者はやはり北郷の方が・・・。」
秋蘭に言われ顔を赤くする春蘭。
春蘭「ば・・・馬鹿な事を言うな!!誰が北郷の事なんか・・・。」
秋蘭「その割には、先ほどから北郷の事しか聞いてないが?」
春蘭「そ・・・それは・・・あれだ。その・・・。」
秋蘭のツッコミにドモる春蘭。
そんな春蘭の様子を、笑顔で見つめる秋蘭であったが、そのままでは全く話が進まないので助け船を出した。
秋蘭「姉者。華琳様も北郷も見つけ出す。それでいいではないか。」
春蘭「おー、そうだな!!」
秋蘭の助け船に普段の調子を取り戻した春蘭。
2人は再び商店街を歩き始めた。
現代のお金はないため、何かを買ったりは出来ないのだが、色々見て回ったり試食をしたりとそれなりに楽しい時間を過ごしていた。
春蘭は、華琳と一刀の事を忘れたかのようにはしゃぎ、秋蘭は心の片隅に華琳達の事を考えてはいたが、春蘭の楽しい様子にこれでもいいかなと思い始めていた。
そんな2人の前に見知った3人組が現れた。
その日、3人のテンションは異常なほど高かった。
それは、久々に一刀と出かけられた為だ。
蜀の面々だけでもたくさんいるのに、そこに蓮華+娘、華琳、さらには他の魏の面々まで加わり、一刀と一緒に過ごす時間は極端に減ってしまった。
それだけに久々のこの時間を大いに楽しみたい、そう思う3人のテンションが高いのは仕方のない事だった。
いつも以上に財布の紐がゆるみっぱなしの麗羽。
底なしの胃袋がさらに拡大したかのような猪々子の食欲。
唯一の良心である斗詩も、他2人ほどではないがいつも以上にはしゃいでいた。
そんな3人の後方で、一刀はヘトヘトになりながら麗羽の買った荷物を持ち後を付いてきていた。
ちなみに順番に入っていたのだが、部活が重なってしまい仕方なく辞退した人物が1人いたことを付け加えておく。
麗羽「さあて、次はどこに行こうかしら?」
猪々子「麗羽様ー。あそこがいいんじゃないですか?」
斗詩「私はあっちがいいですー。」
一刀「おーい、少しは休ませてくれよ~。」
3人寄ればかしましいとはまさにこういう事なのか。
一刀は、一向に勢いの止まらない3人を見てそう思った。
麗羽「それでは、あそこのお店に・・・あら?」
猪々子「麗羽様、早く行きましょうよ!!・・・おー。」
斗詩「2人ともどうしたの?・・・あっ。」
と、3人はいきなり歩みを止めた。
一刀「おーい、いきなり止まってどうしたんだよ・・・。」
そう言って3人の前を見てみると、そこには魏の重鎮2人が立っていた。
春蘭と秋蘭は驚いた。
到底会うはずのない人物達に出会ってしまったからである。
しかも、あんまり会いたくない人物達にである。
官渡の戦いで勝利を収め、その後華琳の手によって大陸が統一されたが、春蘭と秋蘭にはわだかまりのようなモノがあり、そのせいか平和な世の中になっても袁紹達とは話をしたりすることはなかった。
したがって今の状況は2人にとってかなり気まずかった。
だが、麗羽にしてみれば自分の昔なじみの華琳の部下1と2という位にしか思っていなかった。
麗羽「あら、誰かと思えば華琳さんの部下その1とその2じゃありませんか。」
そう言いながら高笑いをする。
麗羽のこの言い草に、春蘭はカチッとくる。
だが、冷静な秋蘭に押さえられ、何とか感情を抑えた。
この状況に冷や汗をかいているのは、猪々子と斗詩であった。
猪々子「麗羽様。この2人には敵いませんから、変にケンカ売るような言い方はやめて下さいよー。」
斗詩「そうですよー。私達この2人に負けているんですよ。」
猪々子と斗詩は、麗羽がこれ以上まずい発言をしないように体を押さえながら話した。
だが、この2人の警告を聞くほど麗羽は大人しくなってはおらず、反発した。
麗羽「何を言っておりますの!!あの戦いは華琳さんに勝ちを譲ってあげたのですわ!!」
猪々子「麗羽様・・・。」
斗詩「それを負けっていうのでは・・・。」
そんな3人のやり取りに業を煮やした春蘭であったが、それよりも前に業を煮やした者がいた。
一刀「おーい、いきなり立ち止まって何言い争ってるんだよ!!」
そう、本日の麗羽達の荷物持ち天の御遣いこと北郷一刀君その人だった。
視界を遮るほどの荷物を持っていたため、春蘭達にはそれが一刀だということに気付かなかった。
だが、今前の状況を見ようと荷物の横から顔を出したため、それが一刀だということにようやく気付く春蘭達であった。
春蘭「北郷・・・北郷なのか・・・?」
秋蘭「北郷・・・。」
自分が愛した者との突然の再会に、言葉にならない春蘭達であった。
少しずつ一刀に近づくが、そこで一刀が大量の荷物を抱えていることに気付く。
春蘭「北郷、その抱えている物は何だ?」
一刀「これ?これは麗羽達が買った物だよ。」
挨拶もせずいきなり質問されて面食らう一刀であったが、別に嘘をつく理由もないので本当の事を話した。
春蘭「なぜ、それをお前が持っている・・・?」
先ほどまでとは違い、明らかに殺気の篭もった声で春蘭が再度問いかけてきた。
一刀「なぜって言われてもなぁ。」
そう言って3人の方を見る。
麗羽が胸を張りながら言った。
麗羽「今日は私達の番ですもの。一刀さんをどうしようと私達の自由ですわ。」
麗羽のこの発言に、春蘭がキレた。
麗羽に今にも飛びかからんとする春蘭を秋蘭が必死に押さえる。
猪々子と斗詩も突然の事に驚くが、麗羽と春蘭の間に入って動きを押さえた。
一刀はおそらく自分が原因だろうと思い、持っていた荷物を置いた後、2人の間に入った。
一刀「とりあえず、抑えて・・・。2人はここに来たばっかりだろ?色々教えないとまずいし一旦戻ろう。何よりまずは華琳に報告しないとな。」
春蘭「華琳様もいるのか?」
先ほどまで怒り口調だった春蘭だが、華琳という言葉に反応し雰囲気が変わった。
一刀「ああ、もちろん。」
春蘭「そっか・・・。」
秋蘭「姉者。よかったな。」
華琳が無事という事を知り、安堵の表情を浮かべる2人。
これで、事態は収束するかに見えた。
だが、麗羽達は面白くない。
麗羽「ちょっと一刀さん。まだ時間があるのに戻るというの?」
一刀「ああ、そうだけど?」
麗羽「まだ行ってない場所がありますのよ!!」
猪々子「そうだぜ、アニキ。あたいはまだあそこに行きたかったのに!!」
斗詩「私もです、一刀さん!!」
3人の予想外の反対論にたじろぐ一刀。
しかし、ここは2人のためを思い3人に耳打ちをする。
一刀「この埋め合わせは近いうちにするから。」
麗羽「本当ですわね。それでは、今晩お邪魔させてもらいますわ。」
一刀「いっ!!今晩!?」
日中はともかく、夜の相手は体力的にも厳しいので日中とは別のローテーションが組まれていた。
昨日まで連日のように相手をしていたので、今晩は空けておいたのだが・・・。
麗羽「ダメなのでしたら、まだまだ付き合ってもらいますわよ。」
麗羽の事だ、春蘭達の事などお構いなしに買い物を続けるだろう。
そうなると、またどんな争いが起こるか分からない。
一刀は、仕方なくうなずいた。
猪々子「もちろん、あたいと斗詩も入れてくれるんだよな?」
斗詩「ちょっと、文ちゃん!!」
3対1か・・・。
明日は死んでるかもなと思いながら、なるようになれと一刀は猪々子と斗詩が参加する事も了承した。
猪々子「それじゃ、話も付いた事だし、戻るとしますか!!」
麗羽「そうですわね!!」
斗詩「ちょっと、2人ともー。」
そう言って、女子寮へ戻る3人。
一刀が持っていた荷物も、猪々子と斗詩がいくつか分担していた。
春蘭「話が付いたようだな・・・。ど、どうしたんだ、北郷?」
一刀がうなだれている事に気付く春蘭。
秋蘭「姉者よ、北郷にも色々あるんだろうよ。私達は3人の後をついて行こうではないか。」
春蘭「そうか。なんだか分からんが、元気出せよ!!」
そう言って一刀の背を叩き麗羽達の後を追う春蘭達。
そのさらに後ろを、まるで死人のような感じで歩く一刀であった。
あとがき
ようやく書けました、春蘭と秋蘭の巻です。
気が付くと1週間以上アップしてなかったんですね。
これはまずいという事で頑張って書いてみましたが、春蘭達より麗羽達が目立っちゃったかなぁと。
春蘭達が来る時は、麗羽達と絡ませようとは以前から考えてました。
今回のでうまくいけたかどうか分かりませんが、今の私ではこれが限界です。
次もまた魏の武将の予定です。
いつになるか分かりませんが、お待ちいただけると幸いです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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大変お待たせしました。
過去作、失われゆく世界で現代に来てしまった魏の武将の話です。
現代を舞台にしているので、登場人物の口調に原作との違いが若干ありますのでご了承下さい。
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