No.866764

恋姫OROCHI(仮) 伍章・弐ノ壱 ~袁家事情~

DTKさん

どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、83本目です。

袁家と紀伊救出と数え役萬姉妹救出に分かれることになった一刀と剣丞たち。

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2016-09-01 23:22:35 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4183   閲覧ユーザー数:3657

 

 

 

大軍がそこに『在る』音が、森に木霊する。

 

「右翼の文醜さんに早く攻め上がりなさいとお伝えなさいな!」

 

攻め手、袁家の本陣では麗羽がイライラしながら指示を飛ばしていた。

 

「まったく!イヤらしい地形をしてますこと」

 

麗羽は辺りを見回す。

山と森とに囲まれたそこは、人の通れる道が少なく、またその道も細いため、大軍が移動するのは難しい。

 

そもそも何故こんな土地を攻めているのかというと、袁家一行が河北で異変の調査をしていたところ、近辺で異変が発生。

軍師の進言もあり、即刻討伐軍を編成。

大軍を率いて乗り込んだのだが、厄介な地形によって制圧作業は遅々として進んでいない。

 

「左翼の顔良さんは何をしていますの!先程から全然進軍してないじゃありませんの!」

 

敵と思しき現地人が散見されており、恐らく敵本拠地は山頂、あるいはその付近にあるらしいのだが、先述の通り道少なく、柵などが設けられ進軍が困難で、袁家本隊は数刻ほど足踏み状態だ。

 

「暇じゃのぅ~七乃~」

「暇ですねぇ~美羽さま~」

 

ほとんど役にも立たないのに、何故か美羽と七乃も戦場に駆り出されていた。

案の定、何をするでもなく、暇を持て余している。

 

「ちょっと七乃さん!のんべんだらりとなさってないで、策の一つでも出したらどうですの!?」

「えーそんなこと言われましても~。私は真直さんみたいな軍師じゃありませんしー」

 

真直というのは麗羽の軍師だ。

今は本拠地・鄴の留守居を任されているため、帯同はしていない。

 

「まったくもう!みなさん役に立ちませんのね!」

 

『雄々しく前進』以外の指示を出さない自分のことは、しっかり棚に上げる麗羽。

 

(やれやれ、麗羽姉さまにも困ったもんじゃの)

(仕方がありませんよー。大戦中から何一つ進歩してないんですから~)

「なにか仰いまして?」

「なにも言ってないのじゃ」

「なにも言ってませんよ?」

「そうですの」

 

麗羽の後ろで叩いた陰口は、ギリギリ耳には届いていなかったようだ。

 

「七乃、ハチミツ水じゃ!飲まないとやってられぬわ」

「はいはーい♪少々お待ち下さ~い」

 

どこからともなく水筒とハチミツを取り出し、いつの間にか置かれていた木の器に注ぎ込むと、流れるように混ぜ棒でかき混ぜていく。

美羽はそれを、まだかのまだかの~、と鼻歌交じりに待っている。

麗羽は美羽を横目で見ながら、

 

(美羽さんはほんっと~~に頼りになりませんわね。やはり袁家の正当たる当主はこの!わ・た・く・し・が!ふさわしいですわね!

 おーーーーーほっほっほっ!!)

 

麗羽は心の中で高笑いをしながら、グンッとその豊かな胸を張る。

とその時、一陣の風が吹いた。

麗羽自慢の豊かなクルクル髪が、麗羽の顔を襲う。

 

「ちょっ、や…へっ……へっ……」

「はーい!美羽さま~お待たせしましたー♪」

「おぉ~これじゃこれじゃ!いただきますなのじゃ~♪」

 

その後ろではハチミツ水が完成し、七乃から木の器が手渡されると、美羽はそれを嬉々として口へ運ぶ。

刹那、

 

「へくし」

パァーーーンッ!!

チュィーーンッ!!

 

三つの音がほぼ同時に鳴った。

 

「ぬおお゛ぉ~~~~!!妾のハチミツ水がーーーー!!」

「み、美羽さまっ!?」

「ん?」

 

麗羽が鼻をすすりながら振り返ると、琥珀色の液体でびしょ濡れの美羽が居た。

 

「なんですの美羽さん。また粗相をいたしましたの?」

「違うのじゃっ!!なんかこう…麗羽姉さまの方からビューン!と何かが飛んできて、妾のハチミツ水を打ち抜いたのじゃ!」

 

そう言って、持っていた木の器を麗羽に突き出す。

(から)の器の側面には真新しい穴が二つ空いている。

 

「あら美羽さん。こんなボロっちぃ~器を使っていますの?」

「だーかーらー違うのじゃ~~!!」

「なんかこう…小さいものがシュッと貫通していったんですよー」

「…そうなんですの?」

 

いまいち要領を得ない二人の説明に、ただただ眉を顰める麗羽。

とそこへ、

 

「ででっ、伝令ーー!!!」

「もう、一体なんですの――」

 

パァーーーンッ!!

 

陣幕に入ってきた伝令へ振り返った瞬間、先程と同じような乾いた音が鳴り響いた。

麗羽は自分の顔の横を、何かが通り過ぎていく感覚を覚えた。

 

「あら?なんだか風通しが良くなったような気がしますわね」

「ねっ、ねねね、姉さま…」

「れっ、れれれ、麗羽さま…」

 

美羽と七乃が真っ青な顔で麗羽の足元を指す。

 

「ん?」

 

視線を落とすと…

 

「あぁ~~~~~~~~~!!!!」

 

麗羽はこの世の終わりのような断末魔を上げる。

そして、落ちている『それ』を震える手で掬い上げる。

 

「わたくしの…わたくしの…っ……自慢の、美しい髪がーーーー!!!」

 

そう。麗羽の両手に収まっているのは、あのクルクルが一房。

それに顔を埋めてさめざめと涙を流す麗羽。

 

「あ、あの~…」

 

十数行前から待ちぼうけを喰らっている伝令が、おずおずと声を上げる。

 

「なんですのっ!?今わたくしは忙しいんですのよ!!」

「いえその…袁紹さまの御髪を撃ち抜いたものと、恐らく同じ兵器によって、前線に多大な被害が出ております」

「なっ……ぬぅわんですって~~~!?」

「ですので、顔良さまが撤退の許可を頂きたいと…」

「で、伝令っ!不可思議な兵器で被害多数!文醜さまが後退するとの由っ!」

 

一応指示を仰ぐ斗詩と、勝手に撤退する猪々子の違いはあるが、前線の様子は深刻なようだ。

斗詩も戦線維持が困難だと判断すれば、自ら撤退してくるだろう。

 

「うぐぐ…ぜ、前進ですわ!雄々しく後ろに前進ですわ!」

 

事実上の撤退命令。

山々に、撤退を表す大きなドラの音が鳴り渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「ということがあったんですのよ!?」

「は、はぁ……」

 

玉座でふんぞり返りながら、身振り手振りに効果音も交えながら、臨場感たっぷりに当時の状況を語る麗羽。

稟はそれを、たっぷり半刻ほど聞かされる羽目になった。

 

「撃たれたという割には、見た限りいつも通りの御髪に見えますが…」

「こんなもの、三日もすれば生えてきますわよ」

「…………」

 

何か恐ろしいものでも見るように、細めた目で麗羽の髪を改めて見回す稟。

確かにいつもの髪型だった。

 

「それで、郭嘉さんは何をしに来たんですの?」

「私は一刀殿の特使として来たと、最初に言いましたが…」

「あら、そうだったかしら?」

 

人の話など全く聞いていない麗羽。

 

「それで、一刀さんは何て仰ってますの?」

「はい。異変調査の進捗状況の報告と…」

「それなら先程言った通り、いま攻略中ですわ」

「異変内勢力との戦闘行為の停止、です」

「……は?」

 

あまりに予想外の言葉だったのか、麗羽の目が点になる。

 

「どういう意味ですの?」

「異変内の人物は、一刀殿の親類のお仲間の可能性が高い、とのことです」

「一刀さんの親類?そんな方いらっしゃいますの?」

「そのようです。私も直接確認したわけではないので、よく分かりませんが」

「そんな不確かな理由では納得できませんわ」

「ふむ…」

 

それは確かにその通りだ。

麗羽にしては意外な正論に、稟は少し考えた末、話の方向性を少し変えてみる。

 

「そもそも、何故異変内に攻め入っているのですか?あちらから攻めてきたということでもないでしょうし、慎重に行動するよう念を押されていたと思いますが」

「あぁ、それなら真直さんが献策してくれたんですの」

「…真直殿が?」

 

真直とは、姓名を田豊という麗羽の軍師だ。

 

「えぇ。異変内の野人を放っておくと危険だ。今すぐ討伐軍を編成しこの地に平和をもたらせば、その名は曹孟徳を超えるでしょう、とね」

「ふむ…」

 

麗羽が嘘をついているようには見えない。

しかし真直ことを知っている稟は、彼女がそんな強攻策を献策するとはどうしても思えなかった。

 

「それに、わたくしを狙撃した下手人が、華琳さんにそっくりだったそうですの!」

「……は?」

「許せませんわ…あの小憎らしいクルクルを真っ直ぐにしてサラサラにして差し上げませんと…!」

 

よく分からないが、何か良からぬ企みをしていることだけは伝わる。

稟はそれをさておくことにした。

 

「ところで麗羽殿、真直殿と少しお話をさせて頂きたいのですが…」

「真直さんでしたら軍の編成をしているはずですから、その辺にいるはずですわよ。お話したければお好きになさい」

「分かりました。それでは、失礼します」

 

麗羽の前を辞し、真直を探しにいく稟。

 

 

 

 

 

 

しかし、稟が真直に会えることはなかった。

 

次の日も、その次の日も。

 

稟の心の中には、暗雲が立ち込めていった。

 

 

 


 
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