No.866171

九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = 夏篇

Blazさん

そろそろ夏の季節が終わるころなのに終わる気配がない。
多分三話に延びる可能性アリです。

2016-08-29 20:03:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1092   閲覧ユーザー数:1017

第四話

 

夏、と言えば海。

海、と言えば砂浜と入道雲。

そして。そんな海でやっている店といえば。ご存じ、海の家だ。

 

やきそば。おでん。かき氷。簡単に食べられる食べ物が多いものだ。

 

海に入って、泳いで疲れて。

疲れた体には、流石に胃も受け付けるものを選んでしまう。

 

そんな中で食べるやきそば。さて。どんな味だろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずるずる

 

 

 

 

 

 

 

流れる麺。しなびたソバが焼け焦げたソースに彩られ、小さく切られた野菜と一緒に胃袋へ。

焦げたソースの香りと風味は麺とマッチし、一緒につけられた野菜はソースの味に染まっていた。

濃い味だが、麺のお陰でするすると。自然と海といえばと連想し、この焼きそばを食べてしまう。彼らも、泳いだ疲れをとるために食べているのだろう

 

 

 

 

 

 

「………ま。私たち、一瞬たりともプールには入れませんでしたけどね」

 

「入るどころか入れる余裕もなかったからな」

 

「お陰で腹が減っただけだって」

 

ってなわけで。偶然売店を見つけた白蓮たち大人女性一行は、売店内でずるずると焼きそばをすすっていた竜神丸、ガルム、蒼崎の三人と出会えたという訳だ。

 

「なにが嬉しくてこんな光景で出会にゃならんのだか…」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

「食事中なのはたしかですが、まぁ合流できただけでもよしとしましょう」

 

すすりながら話す蒼崎に対し、呆れるしかない女性陣。兎も角、無事に合流できたということには喜ぶが、その仕方がこんなにもお粗末なものだと、どうにも嬉しさが半減してしまう。

やっとの思いで合流はできたが、なんというか残念でならない。

こんなことなら普通に再開できたほうがマシではないかと思うところだか、状況が状況なだけにこれ以上の贅沢は言えない。

焼きそばを食べてて嫌になった汗を拭きとり、水を飲んだ竜神丸は空になったパックに割りばしを割って入れる。

 

「ところでイーリスさん。状況はご存じで」

 

「はい。博士のPCもここに」

 

「どうも。これでジャミングやらなんやらは崩せますね」

 

竜神丸に言われて、手提げのバックからイーリスが出したPC。見た目はかなり小型でコンパクトになっているが、彼が使用するということで中身はかなり改良されているらしい。

 

「やはり博士も気付いてたんですね」

 

「ええ。それに、ばったりと会っちゃいましたし」

 

「そう。それで思い出した。管理局…六課がここに来てるんだ」

 

二人の会話を聞き、思い出したとばかりに話すアルトだが、それは全員分かってるという空気に、ガルムは苦い顔をして答えた。

 

「分かってはいた。けど、まさか六課が纏まってとは思ってもなかったな」

 

「向こうも仕事休暇なんでしょう。けど、流石に今回はタイミングが悪い。下手をすれば私たちが居ることがバレるでしょうからね」

 

「だから全員揃って隠れて動いてたんだろ」

 

「それは当然ですよ。なにせ、私たちは公共の敵って奴らしいですからね」

 

そういうわりに妙に楽し気な竜神丸。PCを立ち上げてハッキングを始めたようで、キーを規則よく、かつ手早い速さで打ち込む姿はハッカーのそれ以上だ。

 

「で。その公共の敵代表はどうするんだよ」

 

「と言いますと?」

 

「アタシらお尋ね者はこうやって隠れてるけど、このままじゃ任務もバカンスもそれどころじゃねぇぜ」

 

「プール入りたい…」

 

「すまんな、蓮。悪いのは全部向こうだから」

 

「さりげなくえげつない言い方するな、白蓮さんって…」

 

全部管理局の悪事としてまとめておけばいいと言い切った白蓮に、流石のナンバーズ二人も引き気味になる。あながち間違いでもないが、だからといってそれを敵地のど真ん中でさらりと言うのも、あまりに堂々としすぎていて困ってしまう。

 

「まぁ、間違いでもないので否定もできませんけどね」

 

キーを叩き、管理局の航行艦にハッキングをする竜神丸。戦艦というだけあって防壁は張られているが、その防壁の杜撰さは相変わらずということで彼も小さくため息をつき、呆気なくすべての防壁を突破。ファイヤーウォールも難なくクリアしていった。

これで後は航行艦から出ているジャミングや傍受のシステムを改ざんして使えなくすれば、念話も通信も問題なく使える。

 

「ッ―――」

 

「……博士?」

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ。見たか、あの店員。亜人種だぜ」

 

ふと。暑さに参っていた蒼崎が耳を傾けると、どこからか風の噂のように話が舞い込んできた。

どうやら店員に本来ミッドには居ない者たちが雇われているらしい。

 

「ああ。見た見た。あの店長散々コケにしてけどいいよなぁ…スタイル抜群だったし」

 

「違うって。コケにしてたっていうより態とだろアレ。店長の顔笑ってたしよ。思いっきりセクハラもしてたじゃんか」

 

 

「………。」

 

「どうした、蒼崎」

 

「ん……いや…」

 

ふと。蒼崎の脳裏には数日前にアルトとミィナから聞いた話が再生され、思い出されていた。

 

 

 

 

「―――――亜人について、ね」

 

「またセクハラ考えてるんじゃねぇだろうな」

 

「まさか………」

 

「だったらこっちに顔を向けろ」

 

 

夏の暑い日ということで、中世のような世界だからか魔術によって作られたクーラーのように冷房の効いた場所で駄弁っていた三人。Blazはこの時、ニューと二人で買い物にでかけており、ミィナはそこで妹への暑中見舞いを買うためについてきていた。

そこにレイナの居るホウライに寄っていた蒼崎と出会い、しばらく二人が戻って来るまでこうして談話していたのだ。

 

「で。なんで亜人について聞くの?」

 

「………いや。まぁその意味もあるけど…なんか、ミッドじゃ変に煙たがられてるからさ」

 

「………。」

 

 

 

 

ミィナ曰く。亜人が煙たがられているのは、いくつかの理由があるからだという。

一つは魔導師としてのスキル、能力の差。魔術や魔法を扱うにあたって人間と亜人で比べると、神秘の恩恵を受けやすい亜人のほうが有利であり、更に魔力の総量などに関しても彼らのほうが勝っている。運動神経などでも当然のことながらだ。

また、彼らでいうレアスキルを持つ者も、神秘が強い者たちであれば持っているのが当然と言えるほどのレベルで、様々なスキルをより高い精度で持つ亜人も多い。

そして、亜人の数は現在分かっているだけでもごく少数で、特定の次元世界に根を下ろしていた。その世界は所謂神秘の塊。強い霊脈が多く存在する世界だ。

圧倒的と言える知恵と能力。そして恩恵。これを妬んだ者や羨ましがる者。そして何故上位種である人間よりもと理由もない上からの目線で蔑む者たち。

その他多数の理由や欲望から、彼らの世界は次々とみつけられては武力制圧を行われたという。それも問答無用。降伏したのであれば、彼らは奴隷として、実験台として扱われるという非道さだ。

 

 

「亜人への差別はその後、意味のない理由から一人歩きして、今じゃ家畜のように扱われてる。当然、人身売買では高値を付けられて、中には一部の馬鹿が大枚はたいて何十人って買ったらしい。けど…」

 

「飽きたら捨てた…か?」

 

「いいえ。自分という存在と亜人が合わされば更に有用な子どもが生まれるっていう変な理由から…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――影は濃い…か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、反対側から回って合流を目指す、Blaz、げんぶ、刃の三人。増える人込みの中を掻い潜り、目的地である北の子ども用プールに向かい進んでいた。

子ども用のプールは売店の直ぐ近くに置かれており、売店などから子どもたちを見守れるというコンセプトらしい。

その売店に一足先に白蓮たちが居ることを知らずに、三人は一心にそこへと向かっていた彼らは、途中さまざまな障害やらトラブルにあいつつも、足を止めない。

 

やれ、顔が気に入らない(直後にげんぶに蹴り飛ばされた)

やれ、お金ないから貸せよ(Blazに鼻フックでプールの手前に叩きつけられた)

やれ、見てたらムカついた、殴らせろ(刃にカウンターされた)

 

という変なトラブルがあったが、それを完全ガンスルーして彼らは向かう。

 

 

 

「なんでこんな似非不良が居るんでしょうね…それもこんなに…」

 

「知らん。大方、見様見真似で自分が強いって錯覚してる奴らだろ?」

 

兎も角。そんなたいしたことのない障害を振り払いつつ、走り続ける三人。途中で何度か監視員に怒られはしたが、非常事態につき急いでると個人的な理由でしかない言いわけをいいつつ、わき目を振らずに駆け抜けていく。

 

「っていうかよく、監視員に言いわけが通りましたね」

 

「局地的非常事態って奴だ。向こうもそういや話分かるだろ」

 

「それで分かってもらえれば話も苦労はせんのだがな」

 

適当な言い訳であることに変わりはないが、彼らもそんなことに一々構っていられる場合でもない。

加えて現状敵地のど真ん中であると同時に通信が使えない(まだこの時点では)現状、下手をすればマトモに戦えずに捕まってしまう可能性だってある。特にげんぶと刃は仮面ライダーであることやベルトを持ってないことから戦力外通告は必須だ。

 

「兎も角。今は竜神丸たちと合流だ。さっさと行かねぇと連中に見つかっちまう…!」

 

「焦るなよ。下手すればなにが原因で―――」

 

 

 

 

刹那。案の定急いでいたBlazが誰か女性と肩をぶつけてしまい、その勢いで走っていた足はスピードを減速させて、数歩女性の前で立ち止まると直ぐに後ろを向いて謝罪をした。あまり時間もかけられないので、直ぐに謝って走り出そうとしていたが、向こう側も肩をぶつけてしまったことに悪く思ったのか、同じく顔を振り向かせて謝罪を返してきた。

 

「ッ………すまねぇ。少し急いでたんで」

 

「あ。気にしないでください。私も―――」

 

と言った金髪ロングのグラマラスな女性(フェイト)

 

 

 

 

次の瞬間。二人の間では時間が一瞬だがストップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………。」」

 

 

 

 

数秒後。Blazは今まで以上に全力疾走し、フェイトはその後を追うように追跡を始めた。

しかも大人げなく魔法でブーストして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!?!??!?!?!??!」

 

 

「えっ、ちょっ………貴方、ちょっと待ってぇぇぇ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよし。通信傍受などは全てカット。防壁や航行艦のセキュリティも全て私のに書き換えておきました。幾ら出来た回答プラグラムを使っても、破ることはできません」

 

売店でハッキングをしていた竜神丸は、管理局の次元航行艦のセキュリティを知らぬ間に制圧しており、彼によって全てのシステムの情報やパスワードは変更された。もう向こうがいつものことと言って使用している回答コードなどは使えず、パスワードも彼らが知らないものに変わっている。そしてその間に当然、通信傍受やジャミングといったものは全て外されており、更には徹底してそのシステム自体も改ざんされた。

 

「これで普通に念話や通信はOKですよ」

 

「流石だな。これで連絡が取れる」

 

「つっても、約数名の女子面子はどうするよ。アイツら今プールで遊覧してるぞ」

 

忘れてはいないが、別れた女子メンバーのこともあり、更にはまだ合流していないBlazたちのこともある。

しかも彼らが現在まさかのアクシデントにあったとなれば、自然と彼らの持つ時間も短くなり、合流も急がなくてはなる。だが未だそれを知らない竜神丸たちは大丈夫だろうとのらりくらりとしていた。

 

「女子メンバーについては念話で合流させましょう」

 

「だな。蒼崎。俺は早苗に連絡するから」

 

「あいよ。俺はレイナだな」

 

まさか傍受していたはずの念話をこうも堂々と使われると思うまいといわんばかりに念話を使い、連絡をとる二人。一応、早苗もレイナも揃っているので二人の居るグループが別れる心配もないのだが、念話の向こう側で彼らが一緒であるということを示すために二人同時に念話を飛ばしたのだ。

すると。その間に白蓮はなにか物欲しげな様子の蓮の姿を見て、アルトに手招きをする。

 

「アルト。少し蓮を見てやってくれないか?」

 

「ん? なんでアタシだよ」

 

「お前に懐いているからな。向こうに子ども用のプールがあるだろ。あそこに入れてやってくれないか」

 

「……しゃーねぇ」

 

行くぞ、とアルトが蓮に声をかけると顔を明るくして喜んだ蓮は、彼女と手を繋いで子ども用のプールへと向かって行く。本当は彼女自身で連れて行かせたかったが、げんぶのこともあるので、彼らを待つためにあえて売店に残ることにした。幸い、日陰の中なのでそこまで暑くもないが、流石に熱帯の中で日陰だけでしのげるとは思ってないので、白蓮は売店で何か買おうとポケットから財布を取り出した。

 

「やれやれ。亭主が来るまで待つとするか…」

 

「あ、白蓮さん。ココはシェイクが美味いぞ」

 

「その顔でシェイク飲んだのか、蒼崎」

 

「いやぁ…流石に焼きそばが熱かったので…」

 

暑さだからこそ、水分を補給する必要がある。だが別に他のでもよかったのではないかと思ってしまうが、そこは彼らの好みだろう。そこまで細かく言う必要もないと、素直に蒼崎からのおすすめを聞いた彼女は、蓮のためにシェイクを、自分は大き目のジュースを購入。

そこに後ろから喉が渇いたのかイーリスも財布をもって品を見始める。

 

「お前も買うのか?」

 

「はい…流石にここまで暑いと、のどがカラカラで…」

 

「ふむ…ものはついでだ。アルトにも持って行ってやってくれ」

 

「えっ…いいんですか?」

 

「ああ。ツケはあの馬鹿(Blaz)に払わせるさ」

 

 

「ああ。なら私にもジュース買って下さい」

 

「俺もな」

 

「Blazと聞いて」

 

「野郎三人は自腹だ。自分で買え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で。現在合流する以前にのんびりと楽しんでいる女子メンバーはというと…

 

 

「………なにがどうなってるの…」

 

「さぁ…」

 

「私にも…」

 

「うにゅ」

 

と、突然の出来事に戸惑い、泣いていたリリィに三人もどう反応すればいいのかと迷った様子だった。

男メンバーを探してプールの流れにそっていた彼女たちだが、突如後ろからその探していた人物(キリヤ)を見つけたのだが、その出会い方があまりにひどいものだったからリリィは魔力最大出力で、彼らをぶっ飛ばしてしまった。ちなみにどこに飛んだのかはリリィにも分からない。

 

「あんな……あんな出会い方って…」

 

「まぁ…ありゃビビるわな」

 

ぶっ飛ばされた二人の様子を最後まで見ていたレイナは、叫びというか鳴き声のように飛んで行った姿を脳裏に思い出し、飛んで行った二人が無事であることを切に願いながらも、今はリリィを落ち着けようとしていた。

 

「酷い出会い方だったけど…なんか気絶してたね」

 

「しかもルカさんも一緒でしたね。なにかあったのでしょうか?」

 

それがまさか囮として生贄にされたなどと知ることもない彼女たち。完全の理由も当人を殴り飛ばしたせいでもう聞けないのだ。あとは合流して聞くだけだが、現状の彼女たちにそこまでの余裕は果たして残っているかは、彼女たちにも解らない。

 

 

「もうだめ…お嫁いけないです…」

 

「あれは不可抗力ですから大丈夫ですよ…それにキリヤさんなら絶対に貰ってくれますって。あの人、断ればどうなるか結末分かってますし」

 

「なんか一人黒い事言ってる気がするんだけど…」

 

「にゅ?」

 

キリヤの避けられなさそうな運命についてを話して、リリィを気遣う早苗。というより、彼女が多少強引にキリヤの運命を決めつけているだけで、実際に彼が貰うかや、そもそもそんな話を切り出すかなど、二人の間での問題やら疑問点やらが散在している。

第一に、キリヤがそう思っているかも怪しいが。

だが今はそんなしょうもないことよりも、Blazたちを探すことが先決だと、レイナが話題を切り返させる。

 

「んな戯言は後だ。兎も角、今はあの馬鹿たちを探す―――」

 

 

 

 

 

 

 

すると。彼女たちのすぐ横を、逃げる野郎三人と追いかける金髪一人が居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――。」

 

 

「ん…? どうかしたんですか、レイナちゃん」

 

「い、いや…今…そこ…で…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!?!?!??!??!???!?!?!?!」」」

 

 

と絶叫しながら走る野郎三人。

 

 

 

「待ぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

そして、それを追いかける金髪ロングのグラマラス。

 

 

 

 

 

あまりにシュールな光景だが、それは現実であって犯罪者とされている彼ら三人は警察組織の人間である彼女から追わせるハメになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……………は?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!??!?!??!」

 

人込みの中を大疾走する三人は、ほぼ一列に並んで逃げている。目の前に現れる人や物といった妨害物は全て蹴り飛ばし、薙ぎ払い、兎も角今はと逃げ続けることだけを考えて走っていた。

その中で逃げる三人はそれぞれどうしてこうなったのかと、言い合いながら最終的にこの逃げる事態の原因が一人であることに行きつき、二人は怒り、一人は必至の言い訳をする。

 

 

 

「ちょっとぉぉぉぉ!!?!?!? これ一体どういうことなんですかBlazさぁん!!?」

 

 

「お前がアイツとぶつかったせいでこうなったんだろうぅ!!!」

 

 

「知るかッ!! たまたまぶつかったんだからしゃあねぇだろうがぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

まさかBlazが管理局の局員とかち合うとは思ってもなかったので、呑気に急いでいた二人。突如スピードを上げて逃げ出した挙句、自分たちをほおっておいて生贄のようにした彼に驚き、後ろから明らかに自分たち目的で追っかけてきている彼女から逃げようと全力で走り出した。下手を踏めばバレてしまう可能性だってあるのにも関わらず、まさかそれを自ら踏むとは思ってもなかった二人は、やり場のない怒りを兎も角Blazにぶつけていたのだ。

 

 

 

「お前本当に運ないな!?」

 

「うるせー!! それだけはテメェに言われたくなかったは、げんぶッ!!」

 

 

斯くして全力疾走で逃走する三人。それを魔力ブーストで脚力を強化して追跡するフェイトは、こんなところで旅団と出会うとはと驚きつつも、直ぐに仲間たちに伝えねばと念話を飛ばす。

 

「早くなのは達に―――」

 

 

 

今現在、彼女の仲間たちはそのほぼ半数がプール内に居る。念話を飛ばせばすぐに他の仲間たちにも周り包囲網が形成されるだろう。

そうすればあとは物量の人数で一網打尽に出来る。単純だが有効な手段であることに変わりはない。個人戦力としてはまだまだ差はあるが、だからといってこんな人込みの中で堂々と暴れる者たちでもない。それは何度か剣を交えたことのあるフェイトたちだからこそ分かる事実でもある。

 

 

 

 

「場所は…北の子ども用プールで…」

 

彼らの行先を伝えてあとは包囲網を形成するだけ。僅かな慢心だが同時に確信にもなった。これで仲間に位置を教えれば、捕まえることはできなくても包囲できる。そうすればあとは自分たちが主導権を握れる。

そう確信のないことを思ったせいか。フェイトは今になってあることに気付いたのだ。

 

 

 

「――――――アレ?」

 

 

 

飛ばそうとした念話に違和感を感じた。

いや、違和感を感じることができなかったのだ。

まるで見られているという傍受の気配。それがいざ念話をすると全く感じなかった。

 

そして。それと同時に次の瞬間。彼女の目の前から三人の姿がこつぜんと消えたのだ。

 

 

 

 

 

 

………厳密には足を滑らされただけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。再び場所は変わり、プール外に居るokakaと朱雀は、六課のメンバーがいることを知らせて、直ぐに作戦を伝えねばと足を急かせてプールへと向かっていた。

斯くいう彼らも今さっき六課の司令官とエンカウント寸前だったのだが、そこは二人の機転が利いたお陰で、無事にやり過ごせた。だが、六課が居るということは向こうとエンカウントする機会が今後もあるということ。それだけでも厄介なことで、しかも任務が管理局絡みとなればいよいよどういう形でも首を突っ込まれる可能性だってあり得てしまう。

そんな中、急ぐ二人は彼女たち(・・・・)と遭遇していた。

 

 

 

 

 

「…プールに行くなって、どういう意味だ。ミィナ」

 

「言葉通り。行っちゃダメって意味」

 

プラチナブロンドの髪を伸ばしたミィナは、夏用のノースリーブとショートパンツの服装で前に立っており、二人にプールへは行くなと立ちふさがっていた。それがミィナ一人だけならよかったのだが、その場にはもう二人。見知った者が横に後ろにと立っていた。

ミィナと同じくBlazの一味メンバーであるアーチャー。さすがに夏ということで薄着仕様になっている。

そしてミィナの隣には竜神丸の実姉であるキーラ。彼女もいつになく真面目な表情をしている。

 

「ですがミィナさん。それじゃあBlazさんたちだって…」

 

「そっちは気にしない。私が(竜神丸)にメールを入れておいたからな」

 

と横から口を挟むキーラ。どうやら彼女たちも別の方法で六課の存在に気付いたらしく、恐らくPCを持ち歩いているだろうということで念話妨害を考えてキーラがあらかじめメールを打っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――六課が居る。プールから出てホテルラウンジに集合

 

と。

 

 

「私も疑いはしたがな。この異様な空気に気付けないわけでもない。だから危険察知していたミィナとアーチャーの二人と合流して、事の状況やらなんやらを聞いた。それで」

 

「竜神丸にメールを打った、か」

 

「この妨害電波の中だ。もう終わったが、念話よりも確実だと思ったんでな」

 

「それは分かったが……それとは別に言いたい事があるんじゃないのか。お前ら」

 

目を細めて何かを問いただそうとするokakaに、ミィナとキーラは目を合わせる。彼もなにを隠しているかは分かってないが、それが自分に関係することであるのは確かだと、二人の様子と自分を視る視線から察していた。

 

 

「―――まぁ、隠す話でもないか」

 

「ミィナさん。それって…」

 

「…結論だけ言うね。okaka。今すぐ隠れて」

 

「………何故?」

 

当然、いきなり隠れろということに首をかしげるokakaだが、ミィナはそれを承知で話を続ける。

 

「局の通信とかハッキングして調べたんだけど…どうやら六課も似たようなことで駆り出されたらしいの。

将官汚職の証拠探し。しかも今回のウチの任務とかなり被ってるっていうか…」

 

「―――なるほど。今回のウチのリーク探しと関係を持つ…か」

 

「その可能性が大ね。多分okakaの企業の役員が今回の六課の捜査対象と関係を持っている。恐らくリークしたのはその人物で―――」

 

「狙いは保身か…それとも金か」

 

「このリゾートだけなら莫大な利益が出るから、その分け前狙いって線もあるけど」

 

「ですが、利益だけではokakaさんの方でもバレる可能性ありますよね?」

 

 

朱雀の言葉に確かにな。と全員が納得する。

okakaの企業である「グランダーI.G」の利益は高く、それをさらに欲するという強欲願望は人間として分からなくもない。

だがそれで情報リークをするというのはあまりに話に脈絡がない。情報リークは別企業が行うことで、それなら管理局ではなく別企業に情報が流れる筈。しかし痕跡は確かに管理局にあった。

そもそも、それで管理局にメリットがあるかと言われればそれは微々たるものだ。

代表が怪しい企業に揺さぶりを掛けられるという点では納得できるが、リークされた情報を元に今まで停滞していた海運技術の向上という点では、ほとんど今更な話だ。

そのリークされた情報を元に作った重機で利益を得られる。そしてリゾートでの収益も考えると額的に大きなものだが、リゾートの話を除けばあまり得したとも言い難い。

 

現時点あげられる不明点は

 

・なぜリーク先が他の企業ではなく管理局なのか。

 

・管理局からして得することは少ないのにどうして受け入れたのか。

 

・役員がリークした、そもそもの理由。

 

・どうして重機系の情報のみをリークしたのか。

 

 

 

 

 

 

「―――――管理局の狙いはこのリゾートとかで出る莫大な利益。つまり金だ。そのために交通整備を行い、アイツらは停滞していた海運に目を付けた。

 が。アイツらのダミー会社である新興企業は海運技術を持っていない。だからウチにリークをかけて情報を盗み出した。そしてその情報を盗んだのが、あの役員。

 役員は管理局の汚職将官と関係を持ち、ウチの技術や情報を提供。管理局はそれを元にクルーズ船を建造。今回のリゾートで客を呼ぶためのブーストをかけた………が」

 

 

 

 

最大の疑問がもう一つ。

 

そもそも。リーク役員に何の得があるのか。

 

 

 

 

「…おかしな話だな。お前の企業の役員がリークしたのならアイツの身元からどこか別企業ないし管理局関係者でなければならない。だが」

 

「ああ。あの役員。局とも企業とも関係を持った形跡はない。関係は全てあの汚職将官だけだ」

 

情報をリークし。向こうに利益を与え、そしてそこからどんな利益を自分が得るのか。

そもそもメリットのない話に、役員が態々リークするという危険な真似をするだろうか。リークは下手をすれば自分がやったという事実を見つけられてしまい、処断されてしまう。それだけのリスクを冒してでもするということは自分にとってそれだけ有益なことであるからだ。なのに。今の話だけでは役員に対してのメリットは何一つない。

ただ下手をすれば自分の収益だけでなく自分の身そのものも危険になりかねないのだ。

 

 

 

「―――リークして向こうに得があって。そして自分には得がない」

 

「…というよりも「得」の点が他とは違うんじゃない? それなら、私たちにとって一体何の得があるって誤魔化せるだろうし」

 

「……得、か」

 

利益。保身。権威。社会的地位。主導権。

言葉多様に言い換えてはいるが、結果として考えられるのは三つ。

金か、権力か、保身か。

 

ミィナの言葉に沈黙するokakaは、今はまだ情報が少ないと見て一旦その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――朱雀さんから連絡がありました。取りあえず今夜、作戦を実行するそうです」

 

「随分と早いな…もう終わったのか?」

 

携帯を使って連絡を終えた竜神丸の言葉に、蒼崎は手早い調査に驚く。あまりに早いので手抜きかあまり目ぼしい情報が無かったのかと思いたいが、調査をしたのがokakaというだけあって否定できる要因はない。

旅団メンバーでそれぞれ得意分野があるのなら、彼の場合は情報収集で伊達に情報部を持っている人物ではない。

 

「事、情報収集に関しては抜きん出てる人ですから。こういったことは軽いでしょうね」

 

「で。俺たちは撤収か?」

 

「ええ。女性陣などのサポートメンバーは基本ご自由にですがね」

 

「………どういう意味で、そりゃ」

 

 

固まった表情で訊ねる蒼崎に竜神丸は若干不思議そうな顔で口を開き、さも当然のように、というより当然のことを話す。

 

「まぁ白蓮さんたちは顔を見られてませんし、犯罪者でもないですからね。私たちナンバーズだけ、とりあえずプールから出てホテルのラウンジに集合です」

 

「………ダメなの?」

 

「ダメです」

 

「お前どんだけナンパしたいんだ」

 

「いや…もう少し……ってか、プール入りたかった…」

 

「切実な願いですね」

 

 

しかし結果は変わらなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――では。今回はこれで」

 

「ええ。大切な技術と情報提供、ありがとうございます。」

 

 

とある一室。

グランダーI.Gの役員と、管理局の将官が一人。互いに向き合った状態でソファに腰かけ、ある資料の受け渡し…取引を行っていた。

旅団が捜す情報リークの主犯。そして六課が追う汚職をする将官。二人の間で交わされていたのはokakaの企業から持ち出された船舶の設計図や新型重機のデータなどだ。

 

 

「船舶につきましては、そちらで建造ドッグ確保後に新たな大型艦やヘリなどを格納するタイプのものをお持ちします」

 

「助かります。それと…」

 

なにかまだ物欲しそうな様子で目をチラつかせる将官に、役員の男は首をかしげる。だが、すぐに何が言いたいのかを理解した彼は、ああ、と声を出すと答える。

 

「はい。例の重工のは次回必ず」

 

「助かります。これで、我が管理局にも戦力が拡張できます」

 

「いえ。といっても向こうは金なしだからって得しないからと、手を引いていますが、我々がそれで黙っているワケもありません」

 

「…ということは向こうにも?」

 

「ええ。わが社の人間が入っていますので。近々お渡しできるかと」

 

「おお。それは有難い。なにせ本局の…小娘たちが五月蠅いですらね。アイツらがでしゃばってくる前に用意をせねば…」

 

「既成事実…ですか」

 

そうです。と将官は言い不敵な笑みを浮かべると、役員の言う既成事実について語ろうとしたが、その瞬間になって将官のポケットから携帯端末の音が鳴り響く。

このタイミングでと鳴り響く端末に苛立って舌打ちをしながらも中へと手を伸ばし、今にも破裂しそうな怒りをしまい込み応答した。

 

「―――失礼」

 

「………。」

 

「私だ。何の用―――」

 

『中将。六課の八神二佐が来ています。何でも本局からの指令を持ってきていると…』

 

「…チッ。嗅ぎ付けるのが早い娘だ。直ぐに行く。周りの連中含め、目を離すな」

 

『了解です』

 

 

「―――すみませんね」

 

「いえ。そろそろ私もおいとましませんと」

 

「ええ。手の者が裏からお送りしますので」

 

「ありがとうございます。ではまた…」

 

「ええ。また…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――様子はどうだ?」

 

「ハイ。指示通り、あの子たちに案内をさせました。途中でつかまる危険もありましたが、無事に彼女たちを撒いたみたいです」

 

「よし。引き続き彼らを………旅団を見ていてくれ。捕まりそうになったら悟られない程度に干渉すること。特に、六課とは鉢合わせになる確率が高い。気を付けてくれ」

 

「分かってます……貴方がそう望むのであれば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ありがとう。カリン」

 

 

グランダーI.Gの役員、黒雨(くろさめ)はそういって後ろで微笑む亜人、カリンに対し笑みを返した。

 


 
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