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ALO~妖精郷の黄昏・UW決戦編~ 第38-20話 襲撃事件終結

本郷 刃さん

第20話目になります。
これにて事件は終結、現実世界でのその様子です。

どうぞ・・・。

2016-08-15 11:12:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5831   閲覧ユーザー数:5382

 

 

 

第38-20話 襲撃事件終結

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

不正アクセス軍の全滅によるUW連合軍の勝利、キリトによってそれが宣言されて鬨の声が上がる。

味方の犠牲が無いわけではなく、しかも少なくはない人数だったがそれでも勝利に変わりはない。

コンバートをしたプレイヤーも、UWの住人も、誰しもが大きく喜ぶ。

あちらこちらで喝采や歓喜の声が上がる中でキリトとアスナがユージオとアリスの前に降り立った。

 

「ユージオ、アリス。カーディナルや他の整合騎士と一緒にUWの人達を落ち着かせておいてくれ。

 こっちの連中は俺の仲間達に落ち着かせておくし、しばらくしたらみんな元の世界に帰るから」

「分かったけど、キリトはどうするんだい?」

「俺とアスナは一足先に元の世界に戻る、向こうの俺とアスナの体を近くには敵が居るからな。

 向こうにも援軍呼んであるが、危険な状態に変わりはない」

「敵って…まさか、さっきの…!」

 

キリトの敵という言葉にアリスは主だった敵であった先程の二人、

サトライザーことガブリエル・ミラーとPoHことヴァサゴ・カザルスの姿を思い出す。

奴らがキリトとアスナの元の肉体の近くにいる、それは二人の命に危険が及ぶ可能性が高いということだ。

 

「俺達はこのまま最南端の『ワールド・エンド・オールター』に向かい、向こうに戻る。

 人界の『セントラル・カセドラル』と暗黒界の『オブシディア城』だと着いてからが色々と面倒だろう。

 それにオールターの方が近いからな」

 

その二ヶ所にはシステム・コンソールが存在し、それらを使えば現実世界に容易に帰還出来る。

以前は『RATH(ラース)』のスタッフに協力してもらいキリトは帰還したが、

今回はRATHのスタッフ達も手が放せるような状態ではないことを承知しているのだ。

故にUWの最南端であるワールド・エンド・オールターにあるシステム・コンソールでの帰還を選択したのである。

 

「再会したばかりだっていうのに急いでいてすまないな」

「構わないよ。こっちのことは任せて、キリトはケリをつけてきなよ」

「ああ、そうさせてもらう。黒天!」

「アスナ、気を付けてね」

「ありがとう、アリス。また会おうね」

 

キリトが相棒となった黒銀の飛竜の名を呼ぶとすぐさま彼の傍に降り立った。

 

「ハクヤ、シャイン。コンバート組を頼む。

 あっちに戻ったらすぐにログアウトさせるから、それまでみんなを落ち着かせておいてくれ」

「おう」「任せな」

 

自身の次に強いハクヤと周囲に和を齎すシャインであれば安心ということもあり、主は二人に任せる。

勿論、他の神霆流の面々や領主達も手伝うのだが。

 

「キリト、本当にありがとう! また色々と助かったよ!」

「いや、こっちの事件に巻き込んで悪かった。だが、俺達も助かったよ!」

 

キリトはアスナと共に黒天の背に乗ると手綱を引いて飛び立たせた。

それはしばしの別れであり、永遠の別れではない。

 

短い言葉で簡潔に済まし、キリトはアスナと共にワールド・エンド・オールターへと向かった。

本当の意味の決着の為に。

 

 

※※※

 

 

―――現実世界『オーシャン・タートル』十数分前

 

未だに幾つもの警告音がサブコントロールルームで鳴り響く中、指でキーボードを叩く音も忙しなく鳴っている。

しかし、それも次の言葉と一つのキーを押す音で静かになる。

 

「これで、よしッス!」

「こっちも確認完了よ。どう、ユイちゃん?」

『メインコントロールルームの全てのアクセス権の奪還成功を確認しました。

 続いて各システムの安全性を確認します……確認完了、システムオールグリーン。

 システムコントロールをサブコントロールルームのメインコンピュータに移行します……移行完了。

 オーシャン・タートル内の全てのシステムのコントロールを移行します……移行完了。

 全ての作業工程の完了を確認しました………ふぅ、バッチリですよ!』

 

比嘉健と神代凛子、そして和人と明日奈の娘であるユイ、

三名がオーシャン・タートルにおける奪取されていたシステムコントロールの奪還に成功したことで形勢が完全に決することになった。

 

本来は敵が占領しているメインコントロールルームにて主なシステム等が実行できるが、

緊急時ならばサブコントロールルームにそれを移すことができる。

しかし、今回は敵がそちらでシステムを操作していたために奪還することに時間が掛かったが、

茅場晶彦の後輩である二人と電子の妖精の力により結果的に成功したのである。

 

システムの奪還に伴い、敵の扇動による米国・中国・韓国のプレイヤーによる不正アクセスを停止させた。

次いで隔壁を操作して敵の孤立と味方の安全確保を確定させる。

これで残すことは和人と明日奈、他のコンバートプレイヤーを帰還させ、敵を捕縛することだ。

その時、UWから通信が入った。

 

『こちらキリト、ワールド・エンド・オールターよりアスナと共に通信中。聞こえるか?』

「キリト君、無事みたいで良かったッス! こっちは全員無事ッスよ」

 

この場に残っていたスタッフ達から歓声が上がり、比嘉がすぐさま応える。

 

『そちらに戻りたいのだが、手筈は大丈夫か?(・・・・・・・・)

「メインコントロールルーム付近にあるコネクトケーブルを利用したダイブアウトッスね。

 これからダクトを通って現場に向かうッスから、少しだけ待ってほしいッス」

『その方法が確実だからな、頼むぞ』

「了解ッスよ。じゃあ、行ってくるから切るッスね」

 

キリトとの通信が終わり、比嘉はなおも戦闘が行われているメインコントロールルーム付近に向かう。

そこにはコネクトケーブルがあり、これ以上相手にシステムを奪われない為にダイブアウトの補助も兼ねて工作を施しに行くのだ。

その説明を周囲の者に行うとある一人の人物が手を挙げた。

 

「あの、私も比嘉チーフと一緒に行きます…見ての通りガリガリですし、でもチーフの弾避けくらいにはなるかと…。

 それにコネクト回りの保守をこれまで担当してきたのも、私ですから、力になれるのでは…」

 

比嘉と同じくらいに小柄で長く伸ばした髪を後ろで束ね、しかし危険を伴う作業に勇気のある申し出を行った男性。

 

「正直、コネクト周辺のことが不安だったんッス。よろしくお願いします、柳井さん」

 

比嘉はその申し出を有難く受けることにし、二人はダクトを進み目的地に向かった。

 

 

※※※

 

 

比嘉と柳井がダクトを進んだ時、凛子は口にした。

 

「行ったかしら?」

『はい、現在地をGPSで特定していますからもう声も聞こえないでしょう』

「良かった……それにしても、凄いGPS追跡機能ね。このジャミングの中で情報の発信や位置特定も出来るなんて」

『対ジャミングと対ウイルス性能を施したパパのお手製アプリです! まぁほとんどシステムと言っても過言じゃありませんが』

 

そんな物まで作るなんてと凛子は思うと同時にこうも思った、まるで茅場君のようだと。

とはいえいまは考えている場合じゃないと思い、

すぐさま『ソウル・トランスレーター(STL)』の五号基と六号基のある場所へメッセージを送った。

内容は直葉と詩乃のダイブアウトを指示させるものであり、メッセージが届いた直後に二人のダイブアウトが確認された。

 

また、システムを操作してコンバートしていたプレイヤー達を正規の手段でログアウトさせていった。

 

「キリト君、アスナさん、神代です。聞こえるかしら?」

『ええ、聞こえていますよ。な、アスナ?』

『はい、わたしも大丈夫です』

「二人が向かったから、いまからダイブアウトさせるわね」

『『了解しました』』

 

通信が切れ、和人と明日奈のダイブアウトが実行され、二人は無事に三号基と四号基の許へ戻ってきた。

その様子を見ていたRATHのスタッフ達は驚愕の表情を浮かべる。

 

「こ、神代博士! ダイブアウトはコネクトケーブルを利用しなければならないのでは!?」

「システムコントロールを奪還した以上、別にここからでもダイブアウトは可能よ」

「で、では、どうして比嘉チーフと柳井さんを…!?」

「黙っていてごめんなさい。だけどこれはね、作戦なの」

 

スタッフ達が驚く様を見て微笑を浮かべた後、凛子は説明を始める。

 

「システムコントロールを奪われたとなると敵は間違いなく再び奪取しようとするか、何かしらの行動を取る筈。

 こちらになにもさせない場合だと破壊してくるでしょうけど、

 戦闘で碌な行動が取れないし下手をすれば自分達の命の危機になり、上司からの命令に背くことになる。

 なら、まずは奪取を考えてくるけど、ここで敵が使うとしたらこちらに潜入して情報を流したスパイを動かすか、

 あるいはスパイ自身が自分で行動するはずよ。

 だから動いたスパイを捕縛し易いように誘導するのが、今回の作戦……で、比嘉君は囮」

『ちなみに作戦の立案者はパパですよ!』

「そういうわけだから、みんな黙っていてね。これから比嘉君をナビゲートするから」

 

ではスパイの正体は、と残っていたスタッフ達はその人物のことを考えた。

彼は自ら罠という檻の中へ進んでいったのだと。

 

 

 

※※※

 

 

比嘉と柳井は凛子のナビゲートによってコネクトケーブルのある通路に到達した。

近くでは戦闘中なのか銃撃の音が聞こえ、注意をしながら作業に移ろうとする。

しかし、それを妨げようとする者がいる。

 

「う、動くな…!」

「っ、柳井さん……これは、どういうことッスか…?」

 

柳井の手には一丁の拳銃が握られており、その銃口を比嘉に向けている。

比嘉は動きを止めるしかないが、疑問が湧かないわけではないために問いかける形となった。

 

「い、言っておくが、別に裏切ったわけじゃない。ただ、初志貫徹をしているだけだ。

 ボスの目的に通りにしているだけ、さ…?」

「っ、ぷふ…! くふ…!」

「な、何がおかしい…! 命の危機で、気でも狂ったか…?」

 

柳井はその口から語ろうとするが、不意に目前の比嘉が噴き出してから笑ったことで動揺する。

何故、目の前の男はこんな状況で笑っているのか、訳が解らないからだ。

 

「い、いや、ごめんッス……ここまで、思い通りにことが進むと、逆に笑えて…!」

「お、思い通り、だと…?」

「まぁスパイっていうのは確かに裏切り者じゃないッスね、最初から敵ッスから。

 でも、それが実は既に気付かれていて、

 しかもこうやって誘き出されたことに本人は気付きもしないで勝った気でいたと思うと、ぶふ…!」

「誘き、出され、た…」

 

比嘉の言葉を聞いて柳井はようやく気付いた、自分は罠に嵌められたということに。

 

「メインコントロールルームからシステムのアクセス権を奪取した段階で、

 サブコントロールルームからメインの電源を強制的に落とせばコネクトでやる必要はないんスよ。

 それを知らないから目が眩んで、こうやって檻の中に入ってきちゃうんス」

「じゃ、じゃあ、あの二人や、ゲームのプレイヤー達は今頃…」

「とっくにダイブアウトもログアウトもしている頃合いッスね」

 

既に自分のやろうとしていた、目論んでいたことが破綻していることに気付かされ、柳井は混乱状態に陥る。

 

「ああそれと、実はキリト君が呼んだ援軍ってもう到着したんスよ」

「そ、そんな馬鹿なっ!? だ、だって報告は上がっていなかったはずじゃ…!?」

「そりゃスパイが居るって解っていたら報告なんかしないッスよ。

 まぁ他のスタッフ達を不安にさせちゃったのは申し訳ないッスけど。

 そういえば銃撃音も段々遠ざかっているッスね、どうなっているかな?」

 

比嘉の言葉に反応し、柳井は機械の音と混じって聞こえていたはずの銃撃音が離れ、静かになっている。

いや、これは離れている音ではなく、銃撃事態が少なくなっているのだ。

 

「柳井さん、どうしてアンタがスパイだって気付いたか知りたくないッスか?」

「な、なんで、なんで気付いたんだ…」

「『コード:871』の数字、871の読み方を変えれば“やない(871)”になる、つまりアンタの名字そのままッスね。

 で、それに気付いたからアンタの経歴を漁ってみると元ゲーム会社の社員、しかも会社の名前は『レクトプログレス』。

 辞めた理由は自主退社になっているッスけど、実際は直属の上司である人物の汚職に自身の意志で手を貸していたことによる解雇処分。

 その人物の名は須郷伸之、僕の先輩ッスね。

 極めつけはアンタの気配と雰囲気っていうのが(・・・)が気付いた理由などッスよ」

「そ、そこまで…それに、気配? 彼?」

「アンタの正体に気付いたの、キリト君なんス。いや、凄いッスよ、彼。

 気配とか雰囲気とか、そういうので人の有無とか怪しさとかも解っちゃうんスから、武術の達人ってみんなそうなんスかね?」

 

柳井は恐ろしくなってきた。

気配や雰囲気、そんなもので敵か味方か解るものか、そんな人間が居てたまるものか。

そう思いながらも自分の正体はバレ、これまでの経歴も把握され、どんなことを仕出かしたのかも知られてしまっている。

 

「それにしても、やっぱり柳井さんは素人で軍人でもなんでもないんスね。それが救いになったッス」

「な、なにを…」

「銃を突きつけられているのにやたらと饒舌になる僕になんの疑問を持たず、

 殺しもせずに逃げないでいるなんて素人のすることッス」

「う、動くなよ! 殺しで余罪が付きたくないだけで、痛めつけることくらいはな…!」

 

柳井はやや興奮気味になり、しかも銃を持つ手が震えていることから、

なんの訓練もしていない素人が銃を撃ったところでマグレでしか当たりはしないだろう。

 

「いや、もう十分犯罪行為ッスよ。レクトプログレスでの一件もあるから、もう何も言い逃れは出来ないッス。

 それに、もう時間稼ぎは終わったッスから」

「へ…「ぐあっ!?」ひっ、あ…?」

 

自身の近くに人が吹き飛んできた、見れば米国の特殊部隊の一人であることは一目で解る。

その男は右腕が無く、その右腕は斬りおとされており、切断面は綺麗な断面図のようだ。

この光景に柳井は勿論、比嘉も顔色が悪くなる。

 

「中々やるが、儂を相手取るには経験も実力も温過ぎる。

 さて、比嘉君という若いのは眼鏡のキミか……ということは、銃を持っている貴様が柳井というスパイだな」

 

現れたのは老人と言っていい容姿の男性だが、その肉体は特殊部隊の装備で覆われており、老人とは思えないほどに屈強である。

日本政府、内閣府の抱える特殊部隊『内閣府特殊護衛部隊(特護)』の副隊長にして、

『神霆流』の師範であると同時に同部隊隊長の時井八雲の師、不動善十郎(ふゆるぎ ぜんじゅうろう)だ。

 

「中々どうして、素人にしては行動力があるものだが、どうやら我欲が強すぎたようだな。

 大人しく降伏しろ、一生を牢で過ごせれば楽なものよ。良ければ政府の監視付きだが外で暮らせよう」

 

最後勧告、これで従えば無駄な労力を払わずに制圧に向かえる。

行動は慎重を要するのはどこの部隊も同じということである。

 

「い、いやだ、そんなもの…! アメリカ連中の依頼主は『アメリカ国家安全保障局』だ、日本がアメリカに敵うわけがない!

 ここで勝てばボーナスもガッポリ入る……何より、僕のアドミーちゃんを殺したあのクソガキ、

 桐ヶ谷和人を殺してやれる、ひっ!?」

 

そう柳井が言い放った瞬間、善十郎から凄まじいまでの濃密な殺気が放たれた。

彼の背後に居た比嘉も思わず力が抜けて座り込みそうになるが、それを後ろから支えられた。

 

「八雲、その若いのと転がっている小僧を連れて下がれ」

「私が隊長なのですが、まぁ仕方がありませんね。師匠、私の分まで頼みます。

 比嘉さん、このまま安全なところまでお連れします、動けますか?」

「あ、は、はいッス。あの、サブコントロールルームまでお願いします!

 そこと、あとはSTLの三号基と四号基のところにキリト君達も居ますから、そっちも!」

「解りました。では行きましょう」

 

現れた男性は和人の師匠であり、特護の隊長である時井八雲だ。

彼は比嘉を護衛しながらサブコントロールルームへと撤退していき、他の隊員が腕を斬り落とされた敵を抱えて移動していった。

この通路には善十郎と柳井だけが残る。

 

「残念ながらアメリカは抑えられるだろう、中国と韓国もな。

 なにせ、既に日本は『国際連合(国連)』に今回の一件を全て報告している。

 その見返りも同盟国などに提示している以上、国連は三国に処分などを下す。

 部隊や協力者も個人で処罰される可能性もある」

「は、ひ、そ、そん、な…」

 

絶望、いくら世界最大国家といえども、その上である国連が動いていてはどうしようもない。

また、柳井は知らないが既に世論にも内情が幾つか公にされ、

日本や国連等は一般人の感情に訴えることで世論を味方に引き込んでいた。

 

「それに貴様、儂の孫のような弟子の一人を殺すと言ったな。

 加えて、『ALO事件』の際にも随分と非道を働き、その中に和人も含まれていたとか。

 私情はいかぬのだが、生憎と敵に対してあまり恩情は持ち合わせていないのでな、一瞬だ…」

「う、うあぁぁぁぁぁっ!?」

 

善十郎の殺気が自身に迫ることでその危機感による反射で柳井は銃で撃とうとしたが、

銃は善十郎の持つ刀によりバラバラに斬り裂かれた。

直後、刀身が自分の首に迫り、それによって柳井の首は胴体から離れ、柳井の体は床に倒れた。

 

「恩情はないが、殺しはせん。だが、その個人的な罰は受けておいてもらった」

 

倒れている柳井の首は体と繋がっており、彼自身も意識を失っているだけである。

殺意と殺気よる“死のイメージ”により、首が飛んだように見えたという恐ろしい業だ。

しかし、その無情な殺意と殺気はストレスとなって柳井に襲い掛かり、黒髪を白髪にして顔を一気に皺だらけにさせた。

 

「いかんな、やはり身内のことだと沸点が低いのが我々の欠点か……修行が足りんかな?」

 

善十郎は気絶した柳井の服の首根っこを掴むとそのまま引きずっていった。

 

 

 

※※※

 

 

機械音が響く中、和人は目を覚ました。

 

「菊岡、いまどんな状況?」

「おかえり、キリト君。先程、特護が到着して、上階から順に制圧を始めているよ。既にこの近くまで下りてきている感じだね」

「なるほどな……っと、明日奈も起きたか」

 

和人が使っていた三号基の隣、四号基のベッドでは明日奈が起き上がり、安岐が彼女の状態を確認している。

問題が無かったのか安岐はすぐに明日奈から離れ、和人に歩み寄り彼の状態も確認し、こちらも問題無く終わった。

 

「キリト君、アスナ君、二人ともUWでの戦闘お疲れ様。

 このあと、特護の部隊が着いたら一度サブコントロールルームに移動、その後でメインコントロールルームに向かう手筈になっている」

「了解……と、言いたいところだが、俺もそれには同行させてもらう。というか無理にでもついていくぞ」

「はぁ、それに関しては言うと思っていたよ。ただし、同行はさせるがなにかあればすぐに逃げてもらうよ」

「おう、それは承知している」

「あ、じゃあわたしも「「それは駄目」」あう…」

 

寝ていたとはいえ仮想世界で戦闘を重ねていた和人は現実世界での相当な戦闘能力があり、

普通の軍人や傭兵でも果たして勝てるかどうかというものだ。

一方で明日奈は和人に護身術を教わっているとはいえ、本当に護身程度のものなので同行は叶わないのである。

その時、ロックを掛けていたはずの扉が開き、人が入ってきた。

 

「和人、明日奈さん、それに他の皆さんもご無事のようですね」

「師匠!」「八雲さん!」

 

その人物は八雲であり、その後ろから比嘉が他の隊員と共に入室してきた。

 

「はじめまして。内閣府特殊護衛部隊所属、隊長を務めている時井八雲と申します。

 一番解り易く言えば、神霆流師範で和人の師ですかね」

「はじめまして、菊岡誠二郎二等陸佐であります。この後の展開に関しては?」

「異論はありませんし、最重要目的地ですからね。時間もありませんし、すぐに向かいましょう」

 

八雲と菊岡は手短に自己紹介を済ませるとすぐに行動に移るべく指示を出す。

隊員の半数をSTLの三号基と四号基とスタッフの守りに残し、残る半数の内から明日奈の護衛の為に二人を割く。

 

和人、八雲と隊員が六名、菊岡、比嘉の計十名がメインコントロールルームに向かい、

途中で明日奈と隊員二名がサブコントロールルームに撤退する。

あまり離れていないとはいえ、未だに敵が残っている可能性もあるために移動は慎重を要した。

そこで分かれ道となり、明日奈達は和人達と反対方向に向かうことになった。

 

「和人くん、気を付けてね」

「ああ。また後で」

 

和人は分かれ際に明日奈の額に口付けし、彼女を先に進ませた。

 

「いやぁ、青春してるねぇ~」

「羨ましい限りッス」

「はいはい、お前らも頑張れっと」

 

軽口を言ってのける三人だがそれは緊張や恐怖を少しでも和らげるためのものであり、

そういうものだと解っているからこそ八雲も隊員達も笑みを浮かべて聞いているのだ。

けれど、時間を掛けられないのは事実であり、すぐさま移動を再開する。

 

そして、STLの一号基と二号基が存在する部屋の前へ到達し、比嘉が端末を使い凛子に部屋の扉の解錠を指示した。

 

『いま開けるわね。みんな、気を付けて……3、2、1、0』

 

ロックの解除音が鳴り、扉が開く。

次の瞬間、扉の中から一斉に銃撃が行われ、和人達は入り口の陰に隠れて銃撃をやり過ごす。

 

「本物の硝煙って奴か、恐ろしいものだな」

「キミなんでそんな冷静なんスか!?」

「いや、これでも結構怖いんだがな、それよりも戦場なんだと思うと、な…」

「(和人…?)」

 

冷静に見える和人に対し、柳井の一件とは違い本当にヤバい状況に比嘉は怯む。

そんな中、銃撃から隠れながら八雲は和人の変化に気付いた、それは明日奈でさえも気付けていない今後に影響する大きな変化だ。

 

「どうしますか、隊長?」

「勿論、突入あるのみですよ。副隊長殿、後続は頼みます」

「うむ、任されよう」

大師匠(だいせんせい)!」

「はは、久しぶりだな、和人。まぁ、話しは後にしよう」

 

和人達の許のやってきたのは柳井を倒し終えた善十郎であった。

八雲と善十郎は刀を鞘から抜刀し、和人も渡されていた小太刀を抜刀している。

八雲は隊員の一人に目配せをし、頷いた隊員は閃光弾を取りだし、安全ピンを抜くと室内に転がして入れる。

 

直後、激しい閃光が通路にまでその光が溢れ、室内では呻くような声が上がる。

光が治まる前に八雲と善十郎は動き出して目を瞑りながら中に突入していく、

二人は気配の把握が可能であるために視界不良でもなんの問題も無い。

 

「「神霆流闘技《霍翼(かくよく)》」」

 

回転掌底の一撃が敵の腹部に襲い掛かり、その抉れるような衝撃に一瞬で敵の意識は落ちる。

さらに、振るわれる刀により敵が持つ銃はバラバラに斬り裂かれることで次々と攻撃の手段を無力化していく。

なんとか閃光を凌いだ者もおり、ナイフを持ち近接戦闘を仕掛けるも圧倒的実力差に沈められる。

 

「これはまた、濃いですね」

「ああ。だが根底には最早なにもない」

 

二人の正面に立つ男、それは髪が白髪に染まってしまった特殊部隊の指揮官、ガブリエル・ミラーだ。

彼はUWでのハジメとシノンとの戦闘によるダメージのフィードバックにより、その身にもダメージが大きく反映した。

だが、これでも命を助けられた方である、実は凛子と比嘉がSTLでの接続によるフィードバックの制限を強め、お陰で命があるのだ。

仮にそうしていなければ、ガブリエルもヴァサゴもその命を落としていただろう。

 

「私、は……アリシア、を…」

「いまは眠りなさい。貴方への裁きは目覚めてからですが、この一撃で終わらんことを」

 

一瞬、八雲もまた善十郎のような殺意と殺気の一閃を放ち、ガブリエルの身をバラバラに斬り刻んだかのような幻影が起こった。

ガブリエルは元々のダメージもあったからか、すぐに床に倒れ落ちた。

残っていた者達も他の隊員達に取り押さえられ、敵の捕縛が完了……したかに見えていた。

 

人影がSTLの物陰から躍り出て、捕縛や取り押さえに動くことが出来ない隊員達の間を駆け抜けていった。

一番奥にまで来ていた八雲と善十郎がすぐさま戻ろうとするが、敵は廊下に出た。

 

和人は気付いた、その気配にも殺意にも覚えがあったから。故に、すぐに動き斬り掛かる。

 

「PoH! お前かぁっ!」

「HA、キリトかっ!」

 

和人の小太刀とPoHことヴァサゴ・カザルスのナイフがぶつかり合い、和人は留まることなく連撃を仕掛ける。

 

「シャァァァァァッ!」

「Wow!? まるで獣じゃねぇかっ!?」

 

キレはいつもよりも鋭く、けれど鮮やかさはなく荒々しさしかない。

目前の敵を殺すことにしか、いまの彼の眼には映っていないのだ。

そして、この男としてもいまは逃げのび、また楽しめる機会を得ることが目的なのだ。

 

「これはこれで面白そうだが、またの機会にしようぜ!」

「マテッ、グッ…!?」

「安心しな、俺とお前の決着はしっかりつけるからよ」

 

その髪は白髪になっているヴァサゴであり、その表情もダメージからか苦しげだが、それでも笑みが薄れることはない。

この男と初めて対面した菊岡と比嘉は心底恐ろしいモノを見た気分である。

 

背を向ける直前、ヴァサゴは銃を放ち、弾丸は和人の肩を抉った。

それは普段の和人であればあり得ない出来事だが、いまの彼らには関係がなかった。

 

「その時までのお楽しみだ、終わりにはしないけどな……It’s show time!」

 

彼の謳い文句と共に、ヴァサゴは走り去っていった。

 

 

※※※

 

 

全ての敵が捕縛され、日本側に怪我人は出たものの死者が出たことはなかった。

この『オーシャン・タートル』『ソウル・トランスレーター』『A.L.I.C.E.』の全ても守り切り、

『アンダー・ワールド』も無事という結果になり、勝利条件を満たした。

 

和人は肩を負傷したものの大事というほどではなかったが、

明日奈に泣かれるという彼にとっては大変な結果になってしまったのはご愛嬌というやつだろう。

 

波乱に満ちた戦いだったが、これで襲撃事件は一応の幕を下ろした。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

一日遅れという形になってしまいましたが、完成しましたので投稿いたしました。

 

というわけで、今回でUW襲撃事件は終結しするということになりました、最後はもうすっとばして書いた感じになりましたが…。

 

まぁ実際に緊急事態でそこまで悠長に喋っている時間なんてあるはずありませんからw

 

次回でエピローグ、つまり最終話になります。

 

簡単なことは黄昏編の和人の報告書で書きましたが、次回は和人の視点から見た事件そのものの終わり方という感じにします。

 

アリシゼ編のラストである18巻を購入しましたが、『知性間戦争編(仮)』はコメでも返答しましたがやりません。

 

というか、そうなるフラグの多くは本編中で圧し折っていますから中々そうなりませんね。

 

この黒戦世界線でどうなるかは皆さんのご想像にお任せしますのでw

 

自分はあくまでも和人達によるVR世界などでの物語が好きなので、そういう意味も込めていますが。

 

続編に関しては次話のあとがきで書きますのでお待ちをば。

 

その次話の内容的には和人がほのぼのしながらもシリアス?っぽい感じで事件の結末を振り返る感じにしたいw

 

それではみなさん、次回の最終話で・・・!

 

 

 

 


 
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