No.86365

真・恋姫無双~薫る空~12話(黄巾編)

カヲルソラ12話
これでとりあえず黄巾編の一刀sideがひと段落です。
次回は薫を中心に行く予定ですので、もしかすると魏側の武将がまったくでない可能性も…

2009-07-25 18:00:49 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:6708   閲覧ユーザー数:5538

 

 

 

 

 

 

 

【華琳】「秋蘭、桂花たちはまだかかりそう?」

 

【秋蘭】「はい。どうやら連戦により移動してしまった事で伝令の到着が遅れてしまったようです。」

 

陳留の街中。

 

そこで、二人の将が話している。

 

現在の状況を考えれば決して冷静でいられるものではない。しかし、それでも二人は出来うる限り、心を平常に保ち、皆の帰りを待つ。

 

だが、敵は正規軍ではなく、賊。先ほどからなんとか正面突破は防いでいるが、このまま持久戦に入れば、いつ数で押し切られるか。

 

相手は兵糧も無い賊とはいっても、その数は尋常ではない。

 

兵法では攻城戦は相手の三倍の兵力を用いるとあるが、明らかにこちらの兵力は敵の三分の一以下。

 

秋蘭の指揮する弓隊がいかに屈強であろうと、その兵力差をいつまでも補えるはずも無く、限界は来る。

 

そうなれば被害はとてもじゃないが少なく済むはずも無い。

 

なんとしても時間を稼がねばならない。

 

【華琳】「とにかく、皆が戻らなければただやられてしまうだけなのだから。必ず耐え抜くわよ」

 

【秋蘭】「は。」

 

華琳の声に短く、秋蘭はそれでも力強くこたえる。

 

しかし、そんな会話は城外の雄たけびによってかき消される。

 

黄巾がまたこちらへの突撃を開始した。

 

二人は慌てて城壁へ走る。

 

【秋蘭】「相手は所詮賊だ!!!怯まず、しっかりと狙い打て!!!」

 

【兵】「応!!!!」

 

すかさず指示をだし、敵の侵入を防ぐ。

 

しかし、それもそろそろ効果が薄まり始めていた。

 

敵の動きが明らかに変わりつつある。

 

ただ暴れるものから、的確に、城攻めの要点をつき、城壁を越えようとする。

 

やがて、敵の中に数人の者が大きな木の柱のようなものを持ち出し、それを抱え、城門へと突撃を始める。

 

まるで衝車のように、その柱を中心に門を破ろうと敵が接近する。

 

城壁全体がその強い衝撃に揺れわたる。

 

【華琳】「くっ………賊にしては、随分頭を使うのね」

 

【秋蘭】「どうやら指揮官が生まれ始めているようですね…っ…」

 

二人はただ、その攻めに耐えるしかなかった。

 

そして、弓兵の矢もやがて尽きようとしている。

 

【秋蘭】「ちぃ……旗は!!旗はまだみえないのか!!」

 

物見へと声を飛ばし、状況を見るように伝えるが、その返事は首を横に振る事で伝わる。

 

一瞬の絶望の後、秋蘭は目をそらす。

 

しかし、そらした先に見たものは、膨大な数の黄巾党の本隊。

 

秋蘭はその光景に汗を抑えられずにはいられなかった。

 

そして、そんな絶望的な状況の中で、一人駆け寄ってくるものがいた。

 

【凪】「秋蘭さま。やはりここは私達が出撃してかく乱を…」

 

凪。

 

一刀の下で警備隊の一員として華琳に仕えている少女。

 

彼女はこの黄巾に囲まれてから、おそらく敵の姿を見てから。何度もこの提案をし、そのたびに秋蘭に却下されていた。

 

【秋蘭】「駄目だ。死ぬつもりか?」

 

【凪】「その覚悟はあります」

 

【秋蘭】「それは華琳さまの望む事ではない。今は耐えてくれ。凪」

 

【凪】「しかし…」

 

今以上に悪い状況があるだろうか。

 

城門は今にもこじ開けられそうになり、城壁に構えている弓兵も体力・気力共につきかけている。

 

【秋蘭】「それでも、耐えてくれ。」

 

【凪】「………わかりました。」

 

納得いかずといった表情で凪は下がる。

 

だが、彼女が自分から暴走する事はないと、秋蘭はその後姿を見届け、再び戦場へと視線を移す。

 

相変わらずな状況に眩暈を起こしそうになるが、今倒れるわけにはいかない。

 

必死にこちらへ救援に向かっている姉や他の仲間達を迎え入れなければいけないのだから。

 

 

そう決意を新たにしたところで、伝令が一人、秋蘭の下へやって来た。

 

【伝令】「申し上げます。」

 

【秋蘭】「どうした?」

 

そして、伝令からの言葉を聞いた秋蘭は一瞬心臓が止まったかのように、その意味を理解する事が出来なかった。

 

その言葉は、「敵軍が乱れ、総崩れとなっている」というものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【???】「はああああああああああああ!!!!」

 

重い斬撃が戦場を巡る。

 

黒い軌跡。その後に残る肉片と貸した黄巾。

 

彼女が振るうのは柄に龍の装飾が施された長刀。

 

歴史上、神とまで称された、伝説の武将。

 

【???】「はあああ!!弱きものから奪う事しか知らぬ、黄巾ども!!我が青龍堰月刀を恐れぬ者がいるのなら、我が眼前に立つがいい!!!!」

 

斬り下ろし、薙ぎ払い、打ち上げ、貫く。

 

そのひとつひとつの動作で命は一つずつ。時には二つ、三つ。消えていく。

 

そしてそれらが見せるのは、天高くまでのぼりやがて舞い降りる鮮血の雨。

 

 

 

【????】「鈴々もまけないのだーー!!!!!」

 

特異にうねる刃。

 

その独特の形状はただ、人を殺すために。

 

より多く倒すために作られた刃。

 

誰よりも幼く見える彼女がそれを握るのは、この乱世を治めるべく立つ一人の少女を支えるため。

 

【????】「てや、てや、てやああああああああ!!」

 

何度も連続して放たれる高速の突撃。その後にくる横一文字の斬撃、周囲を一閃する円状の軌跡を描き、それらは敵を屠り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として戦場に現れる二人の鬼神。

 

その光景はまさに夢のようで。

 

旗も無く、鎧すらまともにそろっていない部隊。

 

そんな者たちが現れ、戦場を駆け巡る。

 

【華琳】「あれは…?」

 

【秋蘭】「…華琳さま。…いえ、私にもわかりません。旗を持たない…ということはどこかの義勇兵でしょうか。」

 

【華琳】「……しかし、好機ね。三人を呼んで。待たせた分、働いてもらいましょう」

 

【秋蘭】「はっ」

 

秋蘭は走り、いよいよもって出撃の指示を出す。

 

待っていたといわんばかりに既に準備は完了しており、三人とよばれた凪・真桜・沙和を筆頭に部隊が編成される。

 

そして、城門は開かれ、反撃の銅鑼が鳴らされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【一刀】「よし、みえてきたぞ!!!」

 

【桂花】「手の空いている者はすぐに戦いの用意をしておきなさい!!到着と同時に突撃をかけるわよ!!」

 

【兵】「応!」

 

「荀」の旗を掲げ、一刀達は陳留へと向かっていた。

 

そしてようやくその姿が見え、尚一層足を速める。

 

街が見えるのだから、当然そのまわりに展開する黄巾も目の当たりにする。

 

その数の多さは今まで相手にしてきたものたちの比ではなく、否応無く、これが本隊だと直感させられた。

 

【一刀】「桂花……なにか、おかしくないか?」

 

だが、そんな大軍ともいえる黄巾だが、そこにはどこか違和感があった。

 

【桂花】「は?何を急に…………え?」

 

一刀の言葉に桂花は視線を同じ方向へ向ける。

 

そこにはやはり黄巾がいるわけだが、桂花も気づいた。その違和感。

 

あれだけの数がいながら、黄巾側が押されている。

 

そんな非常識極まりない光景が広がっていた。

 

信じられないものをみて、一瞬呆けるが、桂花はすぐさま冷静さを取り戻し、言葉を続けた。

 

【桂花】「とにかく、華琳さまの下へ向かうわ。状況の整理はその後でいい。」

 

【一刀】「そうだな…。急ごう」

 

初めて意見が合ったことに少し感動を覚えるが、こんな事態のためにそれは一瞬でおわる。

 

今は、目の前の敵をどうにかしないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【季衣】「春蘭さま!あれ、桂花様の旗ですよ!」

 

【春蘭】「本当か!よし、我らも桂花に遅れをとるな!!」

 

同じ頃、やはり華琳からの伝令を受け取っていた春蘭、季衣も共に陳留をめざしていた。

 

そして、ちょうど陳留が見えてきた辺りで遠くに桂花の旗を見つける。

 

兵達へ檄を飛ばし、その足を急がせる。

 

それに答え、兵達もより早く華琳の下へと走る。

 

【季衣】「でも、兄ちゃん大丈夫かなぁ…」

 

【春蘭】「季衣、北郷がどうかしたのか?」

 

【季衣】「だって春蘭さま。前の出撃のときはちょっとの軍が相手でも気絶しちゃったじゃないですか」

 

【春蘭】「ははは。気絶していたらまた引きずってやればいいさ」

 

その途中、不意に言い出した季衣の疑問に春蘭は笑い飛ばしながら、答える。

 

【春蘭】「それより、季衣。怖がって遅れをとるなよ?」

 

【季衣】「春蘭さま~!ボク怖がったりしませんよ~!」

 

【春蘭】「ははは。では、行くぞ!!!!」

 

【季衣】「はい!」

 

そして、二人は目の前の軍勢へと突撃していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side一刀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場は入り乱れ、乱戦となっていた。

 

当初、防戦一方だった華琳たちだが、突如現れた謎の義勇兵により、黄巾の陣形は瞬く間に崩れてしまう。

 

それは主に二人の武将によって成されていた。

 

それを好機と睨み、華琳は反撃にでようとするが、それとほぼ同時に黄巾のさらに後方に見えた旗印。

 

【秋蘭】「華琳さま。北郷たちが戻ったようです!」

 

【華琳】「そのようね。まったく遅すぎるくらいだわ……でもまぁ、これで戦いは決したわね」

 

二人の表情が目に見えて軽くなる。

 

【桂花】「華琳さま!到着が遅れてしまい、申し訳ありません!」

 

二人が話していると、どれほど急いできたのか、運動が苦手という言葉では物足りないほど体を動かすことの出来ない桂花が肩で息をしながら到着していた。

 

【華琳】「桂花、よく戻ってきてくれたわ。一気に反撃に出るわよ。遅れたことは……その後で、ね」

 

【桂花】「は、はい!」

 

華琳の言葉に、桂花は少し顔を赤く染めながらも力強く答える。

 

【華琳】「ところで一刀の姿が見えないようだけど?」

 

桂花とともに出撃していたはずの一刀だが、その姿はどこにも見えなかった。まさか、戦場で敵兵と戦っているはずもなく、華琳はどこへ行ったのかと桂花にたずねる。

 

【桂花】「あの男でしたら、これがもしも敵本隊ならばどこかに張角がいるはずだと呟いていましたが……私もさきほどいないことに気づきまして…」

 

【華琳】「単独行動をとったというの!?」

 

【桂花】「も、申し訳ありません!!!」

 

【秋蘭】「しかし、華琳様。この乱戦では捜索のしようも…」

 

【華琳】「わかっているわ。だからこそこういう行動は控えるべきなのよ………まったく薫といい一刀といい…ただでさえ春蘭で頭が痛いというのに…」

 

さきほどまでの晴れやかな表情は一変してまたも曇り模様へと変貌する。

 

【華琳】「いいわ…。今はとにかく目の前の敵が最優先。前線の春蘭と季衣にも伝令を送って。こちらからも打って出るわよ。」

 

【秋蘭&桂花】「はっ」

 

二人は各々の軍に指示を出すため、解散する。

 

華琳も自らの軍を率いるために、移動しようとした時。

 

【兵】「曹操様」

 

【華琳】「…?何かあったの?」

 

【兵】「いえ、北郷様より伝言をお預かりしています。」

 

【華琳】「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いなくなったとされる一刀だが、やはり、敵本陣を目指していた。

 

だが、この乱戦では本陣も何もあったものではなく、ところどころに敵兵と味方が入り乱れていた。

 

【一刀】「……くっ……なんで…俺、こんなことしてるんだか…」

 

これが個人による独断行動であることは承知している。この戦が終ればどんな罰が待っているのかも分からない。

 

だが、どうしても体が動くのをとめることはできなかった。

 

これだけの兵を目の前にして、ようやく分かったんだ。

 

俺が迷っていたのは、天和達をどうするかじゃない。

 

このまま彼女が捕まり、首を落とされるのを見ていられるのか。そんな事でもない。

 

華琳を止めることはできない。それは俺だって望むことではない。

 

でも、だからといって黄巾党の下っ端が暴走したせいで彼女が罰されるのは我慢できない。

 

【一刀】「俺が最初に……」

 

彼女達を見つけなければいけない。

 

もう、悩んでいられない。時間は無いんだから。

 

これは歴史に逆らうことかもしれない。だって、歴史では張角はここで死んでしまうんだから。

 

でも、俺には彼女が史実の“張角”ではなく、“天和”という一人の女の子にしか思えず、このまま歴史に飲み込まれて死んでしまってもいいとは思えなかった。

 

 

思考に浸り、周りの音が一切耳に入ってこない。

 

ここは戦場。本当ならば兵の怒号、悲鳴などが飛び交う。

 

だが、今このときだけは何も聞こえない。自分の鼓動の音だけが大きく鳴り響く。

 

しかしそれでも走り続けることで、やがて視界に変化が訪れる。

 

足を止めて息を整えると、遠くのほうで様々な叫び声が聞こえ、戦が起こっていると実感できる。

 

でも、俺には今は目の前のことで頭がいっぱいになっている。

 

 

 

 

 

【地和】「お姉ちゃん!はやく逃げよう!?」

 

【天和】「でも………」

 

【人和】「歌なら、また最初からやり直せばいいわ、姉さん。あれがあれば、また何度でもやり直せるから!だから今は三人だけでも…」

 

 

 

そこに、いた。

 

自分達を慕ってくれたものが次々と殺されていく様を見ながら、彼女達はそこに立っていた。

 

俺は気配を殺すわけでもなく、それでも静かに彼女達に近づいた。

 

【一刀】「張角、張宝、それに張梁だな。」

 

【三人】「――――っ!!」

 

俺の声に三人が同じ反応を見せる。

 

当然だろう。この状況で声をかけるものが彼女達のファンなわけがない。

 

【地和】「あ、あんた、誰なのよ!」

 

威勢を張り、二番目の妹が俺に叫ぶ。だが、その足は震えていて迫力などあったものではない。

 

【一刀】「北郷一刀。曹操の……臣下のひとりだ。」

 

【人和】「北郷って…最近噂になっている、天の遣いっていう…」

 

【一刀】「まぁ、噂で言うなら君達には勝てないさ。………で、別に話をしにきたわけじゃないから」

 

俺は言い切り、目線を真ん中にたたずむ姉へと向けた。

 

【天和】「…………かず――」

 

【一刀】「俺は君達を殺しに来た。」

 

【地和&人和】「!!?」

 

天和が言葉をつなぐ前に、俺はそれを遮る。彼女がおそらく一番聞きたくないであろう言葉で。

 

 

 

 

 

【地和】「なんかこいつやばいよ!?はやく逃げよ!?」

 

【人和】「姉さん!!」

 

二人が俺の言葉に慌てて逃げようとするが、天和は呆然と立ち尽くしていた。

 

【一刀】「……………」

 

一歩も動かず、ただ俺を眺めているその子に俺は手を伸ばす。

 

【地和】「お姉ちゃん!!」

 

【人和】「やめて!!」

 

二人が姉へと飛び込もうとする。俺に触れさせまいとしての行動なのだろうが、二人は逃げ腰からの動きで、俺が天和に触れる前に天和にたどり着くのは不可能だった。

 

俺はその姉の額に向けて手を伸ばし……そして。

 

 

―ペシ

 

 

【天和】「っ!…いったぁ~~~…何するのよ~~」

 

【地和&人和】「は?」

 

完全無欠。完膚なきまでに見事なデコピンを放った。

 

【一刀】「…ふぅ。黄巾党の首領、張角は北郷一刀が討ち取ったぞ~~~」

 

自分でもかなり気の抜けた名乗りだとは思ったが、ほんとに聞こえてしまっては意味が無い。

 

 

【天和】「もう、痛いじゃない、かずt――きゃああああ!!」

 

【地和】「わわわあああ!!」

 

【人和】「ちょっと、姉さんどいt――きゃぁあっ!」」

 

そして、気が抜けたと同時に、突撃してきた二人も止まることができず、天和へとダイブした。

 

そのまま転がる三人に俺は近づく。

 

【一刀】「天和、目は覚めた?」

 

【天和】「あう~…いた~い…」

 

【地和】「いたた……って、これどういうことよ!!」

 

【人和】「説明…してもらえるんですよね?」

 

【一刀】「少し待ってくれるか?とりあえずここから出ないといけないから。あまりもたもたするとしゅんらn…夏候惇辺りがそろそろ突っ込んできそうだし。」

 

俺の言葉に一応頷くといった形で三人は答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所まで歩き、ようやくという形で地和が口を開いた。

 

【地和】「それで、これっていったいどういうこと?あんた、ちぃ達のこと捕まえにきたんじゃないの?」

 

【一刀】「いや、言っただろ?俺は張三姉妹を“殺しに”きたの」

 

【人和】「それがどうして私達をたすけるんですか?」

 

【一刀】「それは、こういうこと。」

 

そういって、俺は彼女達がいた天幕のほうを指差す。

 

【地和】「う、嘘…」

 

【人和】「燃えてる…?」

 

彼女達がいた天幕からは炎が上がり、黒い煙は高く空へと昇っていた。

 

それを眺め、今度は二人が呆然としてしまう。

 

【一刀】「張角、及びその妹の張宝、張梁は火計によって焼死。よって首を取ることもかなわず。ただし、その姿は確認しているため、黄巾党の壊滅は確かである。っていうことなんだけど。」

 

【華琳】「何が「っていうこと」なのか説明してほしいわね。一刀。」

 

【一刀】「あー……華琳。ひさしぶr――おわあああっ」

 

振り向けば、そこに在るのは天使のような笑顔と死神とような鎌だった。

 

【華琳】「ずいぶん度胸が据わるようになったじゃない。この私をたかが伝言ひとつで動かそうだなんて。自分が何をしているのか、分かっているのよね?」

 

笑顔で人が殺せるというのは現実にありえるらしい。少なくとも目の前の彼女は間違いなく可能だろう。

 

【一刀】「い、いや…おれも後で考えるとさすがに無茶だったかなー…とはおもったんだけど…」

 

【華琳】「伝言の内容、ここで確認してあげましょうか。『張角達は俺が見つけ出す。華琳はこの伝言を聞いた後に戦場に火を放ってくれ。』………。これで、よく私が動くと思ったわね。この際去勢してあげましょうか。二度と勝手なんて出来ないように。」

 

 

【一刀】「さ、さすがにそれはちょっと……男としてはかなり…というか相当キツイし…。ってかそれじゃまるで俺が馬みたいじゃねーか」

 

【華琳】「季衣に薫に桂花、それから春蘭と秋蘭…ってうちの女はほぼ全員ね…。それに侍女にも目をつけているらしいし?しかも他にもわざわざ城壁で口説こうとする女までいるみたいだし、これでは「種馬」なんていわれても仕方ないんじゃないかしら?」

 

【一刀】「誤解だ!手は出してない!」

 

【華琳】「そんなことしていたら、その首とっくに撥ねているわよ。」

 

【一刀】「どうなんだ…」

 

 

【地和】「あの!!」

 

二人の会話に突然黙っていた地和が口を挟む。

 

 

 

 

二人の会話に突然黙っていた地和が口を挟む。

 

【華琳】「何かしら?」

 

【地和】「結局ちぃ達はどうなっちゃうわけ?」

 

【華琳】「………そうね。やはりここは首を撥ね――」

 

【一刀】「それじゃ意味ないだろ!」

 

華琳の言葉に思わず叫んでしまった。

 

たしかにかなり強引だったし、華琳に言われたことも否定は出来ないけど、それをしたのも全て今華琳が言おうとしたことを避けるためだ。

 

【華琳】「……うるさいわね、わかっているわよ。あなた達には名を捨ててもらうわ。それがこの乱の起点となったあなた達への罰。」

 

【三人】「え?」

 

姉妹は声をそろえて、華琳の言葉に疑問を覚える。

 

 

【一刀】「俺がさっき言った事とおなじだよ。」

 

俺が補足してみるも、やはり納得がいかないようだ。

 

【人和】「それで、名を捨てた私達に何をしろと?」

 

やはり、最初にそこに行き着いたのは一番したの妹だった。

 

【華琳】「あなた達、元々歌い手だったそうね。」

 

【天和】「う、うん…」

 

華琳の迫力に当てられてか、普段とは別人のようにおとなしくなっている天和がようやくといった様子で答える。

 

【華琳】「なら、その人気を利用させてもらうわ。」

 

【人和】「……つまり、人を集めろと…?」

 

【華琳】「そういうことね」

 

【地和】「え、え?どういうこと?」

 

核心を話さず進んでしまう会話についていけず、地和は戸惑う。

 

【一刀】「つまり、君達の歌で人を集めたり、集まった人の士気を高めたりってこと。」

 

【華琳】「やることそのものは今までと何も変わらないわ。ただそれが誰のためにしているというのが変わるだけ。」

 

【天和】「また、歌ってもいいの?」

 

【華琳】「ええ、そうよ」

 

少しの希望を見つけたように、天和は言葉を吐き出す。

 

ただし、そこには問題が在ることを彼女の妹は見落とさない。

 

【人和】「しかし…元々私達が活動していたことを知っている人は…」

 

彼女達が張三姉妹だと知っている者。

 

その存在がどうしてもネックになってくる。

 

【一刀】「あぁ、それなら…」

 

【華琳】「これを見なさい。」

 

そういって華琳が出したのは手配書。誰が書いたのかまったくそこには怪物とも呼べないような何かが描かれていた。

 

【地和】「誰…?」

 

【華琳】「あなた達よ」

 

【地和】「嫌!!!!ちがうもん!!ちぃこんなんじゃない!!!!」

 

まぁ、分かりきったことだが恐ろしいほどの拒絶反応を見せる。

 

【一刀】「わかってるよ。だから大丈夫なんだよ。これと天和達を見比べてもわからないだろ?それに君達を元々知っている人はこうなる前からの君達のファンなんだから。」

 

こうなる……つまり黄巾党という組織が出来てしまうほど、人気が膨れ上がったことだ。

 

【天和】「また……歌える…」

 

天和は呟くように、繰り替えす。

 

 

 

 

 

【地和】「で、でもそれじゃ、あなた達の領土の中でしか歌えないんじゃないの?」

 

【華琳】「ええ。………でも」

 

地和はまだ納得がいかず、あら捜しをするように華琳に問いかける。

 

そんな地和に華琳は一つ一つ答えていく。

 

【華琳】「領土は…私はこのままでいるつもりは無い。いずれはこの大陸全てを統べるのだから」

 

それは本気の言葉。これから始まる乱世を勝ち抜き、この大陸の覇王として立ってみせると。

 

【華琳】「だから、時間はかかるかもしれないけれど、あなた達の歌もそのとき大陸に響き渡ることでしょうね」

 

その言葉にはどこか説得力があり、それが彼女の覇王になるという言葉の根底にあるのかもしれない。

 

【人和】「…わかりました」

 

その言葉に呼応してか、人和は華琳のために歌うといった。

 

【地和】「人和!?」

 

【人和】「ちぃ姉さん、これを断っても私達は殺されるだけなのよ。だったら生きて歌を歌えるとまで言われたらそれに乗らないわけには行かないわ。」

 

【地和】「そ、そうだけど…」

 

【一刀】「協力、してくれないか?」

 

俺はいまだ一人納得のできない地和に近づく。

 

【地和】「な、何よ……ちょっとそれ以上こっちに――っ」

 

【一刀】「頼む…これしか君達を助ける方法が思い浮かばなかったんだよ」

 

俺は膝を地に着け、手のひらで上体を支える。有体に言えば土下座。

 

【地和】「ちょ、ちょっと………わ、わかったわよ!!わかったから立ってよ…もう…」

 

【一刀】「ありがとう」

 

そういってもらえて、俺の気持ちはずいぶん晴れたものになった気がした。だってこれで、この子達は…

 

【地和】「べ、別に………」

 

【天和】「かずと~~♪ありがと~~!!」

 

【一刀】「な、て、天和!?」

 

【華琳&地和】「!!!!!??」

 

立ち上がったと同時に天和が急に抱きついて…というか飛び掛ってきた。

 

【天和】「やっぱり私、一刀のこと大好き♪」

 

【一刀】「あ、ああ……あは、あははは…」

 

【華琳】「ちょっと、一刀…………?」

 

【地和】「そういえば、ずっと気になってたけど、なんであんたがお姉ちゃんの真名呼んでるのよ!」

 

【一刀】「い、いや…それは……」

 

何故か華琳と地和の背後から黒い炎が見える。

 

【華琳】「やっぱり去勢しましょうか、一刀♪」

 

【一刀】「やめてええええええええええええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局この後なんとか去勢は免れたが、単独行動との罰も合わせて、この三人の面倒を俺が見ることになった。

 

それが罰になっているのかという疑問が浮かぶが、華琳の冷ややかな笑顔が「これで終わりと思うなよ?」と物語っているようで何もいえなかった。

 

黄巾党との戦いは混乱した賊相手に、華琳達の兵が負けるはずも無く、義勇兵、春蘭、季衣、桂花が現れてからは一気に決着がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦が終わり、戦場にはけが人や死人などがごった返す中、三人のものが華琳の陣中に現れていた。

 

【華琳】「あなた達が義勇兵を率いていた者達ね。私は曹孟徳。先ほどは助けられたわ。何か礼をしなくてはね」

 

【劉備】「いえいえ~。そんなつもりではないですし、がんばったのは愛紗ちゃん達で私は何もしていませんから。あ、私の名前は劉備玄徳といいます。本当に間に合ってよかったです♪」

 

劉備と名乗ったその女性は笑顔でそういった。

 

【華琳】「劉備……。その名前、覚えておきましょう。しかし、礼はいらないと言っても義勇兵では食料もままならないのではなくて?」

 

【劉備】「いえ、そんなことは――」

 

【????】「そんなことあるのだぁ…もう鈴々のおなかと背中がくっついてしまいそうなのだ…」

 

【???】「な、鈴々!!」

 

【華琳】「ふふふ。そちらは?」

 

【関羽】「は。申し送れました、曹操殿。わが名は関羽。字は雲長。そしてこれなる者が…」

 

【張飛】「鈴々は張飛なのだ!」

 

劉備の後ろにいた二人。あの戦場にて黄巾に混乱をもたらした二人だ。

 

それぞれが名乗り、華琳はその顔を眺める。

 

【華琳】「あなた達が張飛に関羽ね。噂は聞いているわよ。」

 

【関羽】「いえ、そのようなもの…」

 

【張飛】「へへ~。鈴々はゆーめーじんなのだ」

 

恐縮しようとしたところで張飛が調子に乗り、それを関羽が拳骨にていさめる。

 

【張飛】「うぅ~…愛紗もお腹が減ってイライラしてるのだ」

 

【関羽】「鈴々!!!」

 

【劉備】「あははは~~…」

 

【華琳】「ふふ。やはり、礼は食料のほうがよさそうね。後で使いのものに運ばせましょう」

 

【劉備】「すみません、曹操さん」

 

苦笑いで劉備は礼をいう。

 

【華琳】「いえ、ではいずれどこかでまた会いましょう。劉備」

 

【劉備】「はい!」

 

そういって、華琳はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

【一刀】「どうだった?」

 

【華琳】「………あなたが言うほどのものは感じられなかったわね。ただ…」

 

【一刀】「ただ?」

 

【華琳】「部下には恵まれているようだわ」

 

城に戻り、華琳は俺に話しかけてきた。

 

劉備とは話しておいたほうがいいといったのは俺の提案。

 

以前華琳にはこの先の歴史の事は話すなといわれたが、要注意人物くらいは教えておいたほうがいいだろうと思い、話したのだ。

 

もちろん、この先に彼女がなにをする…というものではなく、ただ、気をつけろとだけ。

 

そして、戻ってきた華琳の顔はどこか嬉しそうにしていた。

 

玉座に着き、改めて、華琳は深い息をもらす。

 

【華琳】「黄巾のほうは何とかなったわね……次は薫のほうだけれど…」

 

【桂花】「すでに孫策への使者の準備は出来ておりますが」

 

【華琳】「そうね、ではすぐに………いえ、待って。やはりここは一刀に行ってもらいましょう」

 

【一刀】「お、俺!?」

 

【華琳】「えぇ。あなたが天の遣いという噂は既に流してあるのだから、使者としても申し分ないはずよ」

 

【一刀】「まぁ、そうなんだろうけど…」

 

【華琳】「それとも薫を連れ戻す役目を嫌だというつもり?」

 

【一刀】「そんな事は無いさ。少し自信が無かっただけだよ」

 

【華琳】「あの三人を助けようとした時の度胸を見せなさい。そうすれば何も心配要らないわ」

 

【一刀】「あぁ…わかったよ」

 

【桂花】「だったら急ぎなさい。あとはアンタの準備だけなんだから。」

 

【一刀】「了解」

 

桂花に促され、俺はそのまま広間をでて、出立の準備にはいった。

 

戦の後の収拾、天和達のこともまだまだやることはたくさん残っているが、とりあえず、俺はこの場にいないもうひとりの仲間を連れ戻すために、次の日、陳留を発った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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