No.86331

陽春の夜のユメ  真・恋姫 短編

nanatoさん

ベタな展開を恋姫で書いてみた。
シリアス。おもに三人称、ごく一部一人称。

2009-07-25 14:16:57 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5242   閲覧ユーザー数:4297

 

 

どこまでも、どこまでも、緩やかな速度で沈んでいく

果てなどないかのように深く、深く、落ちて行く

 

 

 

 

 

言いようのない浮遊感を味わった後にまどろみから覚めると、華琳はそこが城内の部屋であることに気づいた。

天井を見上げるような体勢でいると分かり、華琳はその時初めて自分が今まで眠っていたことを理解する。

億劫に感じつつも体を起こすと存外体が軽い。

いつもと比べるとたやすく起き上がることができたのはなぜだろうか。

華琳はそんなことをうまく回らない頭で思っていると、かすかに紙のこすれる音が聞こえてきた。

そちらに目を向けてみる。

すると彼女は自身の目が写したものにひどい違和感を覚えた。

 

まるで幻でも見ているかのように思えてしまい、それが存在していることが信じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

少し長めの髪の、割と整った顔立ちの少年。純白の服は日の光を受け、白く輝いている。

 

そこにはひどく懐かしい姿の人物が寛いだような表情で、椅子にすわりながら書物を読んでいた。

 

 

 

 

 

 

ひどく懐かしい?

なぜそう感じるのか、その理由までは分からなかったが、華琳にはそう感じることが自然に思えた。

 

 

 

「かず、と…?」

 

 

 

 

無意識のうちに華琳の口からこぼれた言葉は、それでも目の前で本を読んでいる恋人の名を正確に読んでいた。

 

 

 

 

 

 

名を呼ばれたことでようやく華琳が起きたことに気づいたのか、書物から顔をあげ、一瞬驚いた顔をした後に一刀は彼女に言葉を返した。

 

「おはよう、華琳。珍しく遅起きたな。完全に寝坊だぞ」

 

その薄い笑みと共に出てきた、からかうような声は間違いなく一刀のそれに他ならなくて、そんな彼を見て違和感を覚える理由が華琳自身にも理解できなかった。

どこまでも自然なはずなのに、その一つとして自然なものは存在していないように感じられてしまう。

 

「一刀…なの?」

 

「はぁ?当たり前だろ。ここは俺の部屋なんだから」

 

らしくもなく呆然とした表情の華琳を見て、一刀はクックと喉を鳴らす様に笑う。

目の前でどこか嬉しそうに笑う一刀の姿はこんなにも近くにいるのに、華琳にはやけに不鮮明なもののように感じられた。

 

「なんだ?もしかして寝ぼけてるのか?」

 

一刀はそう言いながら本を机の上に置くと華琳に歩み寄る。

そして、そのまま華琳がまだ抜け出していない寝台の前までくると、そのまま腰をかけた。

ギシリと寝台の軋む音が部屋に響いた。

 

「そうかも…しれないわね」

 

本当に寝ぼけているからなのだろうか。

目の前の一刀の顔を見るたびに、一刀が何か言葉を発するたびに、華琳は自分の内側から何かが溢れ出そうになるのを感じていた。

憧憬なのか、悔恨なのか、それとも単純に哀惜なのか。

華琳はあいまいな感情を持て余し、どこか不明瞭な意識のせいでそれを深く考えることもできなかった。

 

「おいおい、本当に大丈夫か?」

 

「ええ、平気よ」

 

「平気って…」

 

一刀は無根拠で強がってしまう華琳に当てつけるかのように溜息をつき、「まったく」と呟いた。

すると、一刀はそのまま手を伸ばし、華琳の体を再び寝台に寝かしつけた。

華琳はそんな一刀の行為にされるがままになりつつも、不満そうに抗議をした。

 

「何するのよ」

 

「何するのよ、じゃないだろ。あんま調子良くなさそうだしたまには休んだらどうだ」

 

軽い調子で言う一刀だが、口調の割には本気で心配しているような表情が華琳には見てとることができ、なんとなく安堵を覚える。

奇妙な違和感に取り巻かれている中、彼らしい気遣いを見て目の前の人物が一刀である事だけは間違いないと確信することができたからだ。

そしてそれがはっきりとしてしまえば、違和感さえ瑣末な問題のように華琳には感じられた。

誰よりも優しい彼はここにいる、それだけで何も怖くない、そんな思いが華琳の調子を取り戻させた。

 

「そんなこと言ってられないわ、仕事がまだ残っているの」

 

「今は緊急の用事はないよ」

 

起き上がろうとする華琳の頭に、一刀はゆっくりと手を伸ばした。

そして添えられた手でゆっくりと大切なものに触れるように撫でていく。

なぜか懐かしく感じるその手の感触がひどく心地よかったが、華琳は子供扱いされているようにも感じ、不満を覚えた。

 

「頭を撫でるなんて何様のつもりよ?」

 

「たまにはいいだろ」

 

華琳の不満そうな声や表情など一刀にとっては問題にならないようで、構わずに手を動かしている。

髪や頭を撫でられることなど王である華琳には滅多にあることではないが、そんなことをまるで気にしない一刀の気安さが華琳には心地よくもあった。

 

「それとも嫌なのか?」

 

本当に嫌だったらすぐに払いのけている。

そんな事を理解しながらも聞いてくる、一刀らしくもある狡い言葉が華琳にはすこし面白くないように思える。

ただそれは一刀の手を払うのに足る理由ではなかった。

今だけはつまらない意地を張るよりも、この温もりの方が大切なように感じられ、華琳はそのまま彼の優しい手に身を任せることに決めた。

 

「…悪くはないわ」

 

一刀もそれ以上はからかわないで、黙って華琳の頭を撫でていた。

 

 

 

 

射しこむ光に照らされた暖かい部屋、そこからは髪をすくささやかな音しか存在しなかった。

静かなその部屋には、穏やかで安らぎに満ちた世界があった。

 

 

華琳はこの瞬間、ずっと望んでいたものをようやく手に入れたような気がした。

 

 

 

「華琳は頑張りすぎなんだよ」

 

しばらく黙っていた一刀は華琳があきらめるのを認めると、まるで子供に言い聞かせるかのようにそんな言葉をもらした。

陽だまりを思わせるような穏やかな声だった。

以前から何度も言われていたはずのこんな言葉を、華琳はこの男からしか聞いたことはなかった。

 

「仕方がないでしょう、やることはなくならないのだから」

 

「少しくらいならいいだろ」

 

あまりにも呑気にそんな事を言う、本当にこの男は相変わらずだ。

一刀の変わらない楽天的な言葉を聞くと華琳は笑みをこぼさずにはいられなかった。

 

 

しかし、続く一刀の言葉はそんな華琳の愉快な気持ちをを凍りつかせた。

 

 

 

 

 

「せっかく平和になったんだから」

 

 

 

 

 

「…え?」

 

その言葉を理解できずに、華琳は耳を疑った。

一刀の自然に口にしたその言葉の意味が、華琳には認識できず、先ほどまで忘れかけていた霧のかかったような違和感が再び華琳の頭に訪れる。

 

純白の布に一滴の墨を落としたように、華琳の抱いた安らかさをじわじわと不安が侵食していく。

 

「…何を、言っているの?」

 

 

平和になった?

ああ、そうだったわね

戦いなら終わったはず、天下を三分にして

おかしいことはないはず

 

 

それでも、何かがおかしい

 

 

ただ一本の線でつながった問題が、なぜか様々なところで食い違いを起こしているように感じられ、華琳にはうまく思考をまとめることができなかった。

 

「戦争も終わったんだからさ、少しくらいのんびりしても罰は当たらないって」

 

一刀は当り前のようにそう言う。

先ほどまでと何一つ変わらない穏やかな声で。

特別な事を言っているようにはまるで見えず、また一刀が何かを隠しているのなら華琳にそれを見抜けないはずない。

華琳には一刀がその事から本気で言っていることを見て取ることができた。

 

しかし、華琳の頭の内を覆う違和感はぬぐえない。

 

「そう、かしら…」

 

「まあ戦後処理も大事なことだけどさ」

 

 

違う、戦後処理なんてとうの昔に終えたはず

あれからどれくらい過ぎたと思っているの

 

 

どれくらい過ぎたのかしら?

本当に、昔のこと?

 

 

何かを思うとそれが不思議とあいまいになっていく。

確証なんてどこにもなくなって、もしかしたら私が間違っているのかもしれないと、そう思わせる何かがあった。

 

 

 

ぼんやりと、霧のかかったような思考が巡る中、自らの髪を撫でる一刀の暖かい手の感触だけが、華琳にはやけに鮮明に感じられた。

 

 

 

「平和になったらやりたかったこととかあるんじゃないのか?」

 

「やりたかった、こと?」

 

 

たくさんあるわ、それこそ数え切れないくらい

 

けれど一つとして実現することはなかった

それはなぜ?

 

 

華琳のどこまでも矛盾する思考はやまない。

そんな華琳の様子に気づくそぶりも一刀は見せない。

ただ、大切なものに触れるように優しい手つきで華琳の髪をすいている。

 

「やっぱり少しは平和を満喫しないとダメだって。頑張ってきた華琳が一番幸せにならないと」

 

「…幸せ…に?」

 

一刀が何気なく口にした言葉は、華琳にとってあまりにも魅力的な響きを孕んでいた。

しかし、その言葉に惹き付けられる理由は彼女には分からない。

華琳は自分に問いかける。

 

 

幸せ?それなら叶っているはず 可愛い部下たちがいて、一刀が隣にいて

ほら、私は十分幸せじゃない

 

叶っているはずのそんなことに、なぜこんなにも憧れているの?

 

 

一刀はそんな華琳に語り続ける。まるで夢物語を聞かせるかのように。

 

「なんていうかさ、穏やかな日々を過ごすって言うのも悪くないだろ」

 

平和になった世界で幸せになる。

それは当たり前のことだ。幸せになりたいから平和を目指すのだから。

平和になれば幸せになれる。

 

しかし、華琳にはそんな当たり前の言葉が、真実だとは思えなかった。

たとえどんなに望んでも、祈っても、ありえるはずのないことは確かに存在する。

平和を手に入れても、幸せになれるとは限らないということを、どこかで理解してしまっている。

 

 

なぜ?

単純なはずの問題が、途方もないことのように感じられる。

 

 

「おれも付き合うからさ」

 

「本当に?」

 

「ああ、当たり前だろ」

 

一刀は華琳に慈しむかのような笑みを向けた。

衒いなく笑う一刀の言葉は優しさに満ちている。

その言葉は何よりも望ましいことのように華琳には思えた。

 

「まあ、さすがに宴はしばらく勘弁だけどな。みんなほど酒に強いわけではないから、蜀でのアレは結構堪えた」

 

「ふふっ、情けないわね」

 

「そう言うなって。みんながおかしいんだよ」

 

不満そうに振る舞う一刀の姿は、それでもどこか楽しそうに見えた。

 

こんな風に話をしていたかった。平和になった世界で過ごしたかった。

穏やかな時間を。

それだけを望んでいたように思えた。

華琳の内側から憧憬のような言葉が浮かんでくる。

 

 

 

 

 

「だから休もう。俺も一緒にいるからさ」

 

 

 

 

 

 

一刀は再び笑いながらそんな言葉を発した。

 

 

 

それが、きっかけの言葉となった。

何よりも喜ぶべきはずのその言葉は、華琳の耳にはあまりにも虚ろに響いた。

 

 

 

 

一刀は一緒にいてくれる?

ありえない、そんなはずはない

 

 

 

 

 

 

 

その言葉だけは、嘘だ

 

 

 

 

 

 

 

「うそつき」

 

 

 

 

 

 

 

 

笑う一刀に向けて、華琳は心に浮かんだ言葉をそのまま口にしていた。

無意識にこぼしたはずの言葉は、なぜか間違っていないように感じられた。

 

「華琳?どうかしたのか?」

 

突然、おかしな言葉をかけられた一刀は困惑したように華琳に言葉をかける。

戸惑うような一刀の言葉に重なるようにして、かつてどこかで聞いたはずの言葉が華琳の頭をかすめた。

 

 

 

『さよなら…誇り高き王』

 

 

 

置いていったくせに

あなたのせいでなれなかった

幸せになんて

 

 

「一緒になんて、いてくれなかったくせに」

 

「華琳…?」

 

 

 

 

『さよなら…寂しがり屋の女の子』

 

あの日がだんだんと思いだされる

見ていることはできなかった

消えていくあなたに、背を向けた

気を抜けば、縋りついで泣いてしまいそうだったから

 

 

 

「全部、嘘よ」

 

 

 

『さよなら……愛していたよ、華琳―――』

 

 

 

彼の最後の言葉だったはず。

一時も忘れたことのなかったはずの言葉が、華琳の頭の中で響いた。

それを思い出すと、急に頭から靄が晴れて行くように感じ、不明瞭だった違和感の理由も、理解した。

華琳は、全てを思い出してしまった。

 

 

 

ああ、ありえないんだ

 

 

 

この少年が、いるはずがない

こんなところにあなたがいるはずはない

消えてしまったのだから、あの月の夜に

 

平和になった世界に、あなたはいない

 

 

 

 

 

 

 

ああ、覚めてしまった、おそらくは自身の望んだ夢から

 

 

 

 

 

 

 

「これは夢なのね」

 

 

そう理解してしまった華琳には、幸せなはずの夢だろうと享受し続けられるはずがなかった。

全て偽りのこの世界に喜んでいた自身がひどく浅ましい物のように華琳には思えてしまった。

添えられた一刀の手を強引に振りほどき、体を起こすと、華琳は一刀の顔を正面から見据えた。

決してそらさないと決意を固めながら。

 

「消えて。あなたなんてもう過去にすぎないの」

 

揺らぐことのないように口にしたはっきりとした言葉を、戸惑うように表情を揺らす一刀に投げかける。

あれだけ望み続けた少年の顔も、声も、その全てが色褪せていくように華琳には思えた。

 

「あなたはいてくれなかったわ。戦争を終えたら消えてしまったじゃない。あなたは私の未練なのでしょう?これは都合のいい夢なのでしょう?こんなことありえるはずないもの。あなたはもうこの時にはそばにいなかったわ」

 

 

 

手に入れたはずの平和は、虚ろだった。

望み続けていた世界に、幸福は見つけられなかった。

沈み続けた、澱んだ日々が生み出したのだろうか。

彼の喪失を認めなかった、あまりにも弱かった華琳の心が。

 

 

 

「消えて。もう遅いの。前の私ならこの夢に囚われていたのかもしれない。けれど本当にこんなこと今更のことだわ。だから、消えてしまいなさい」

 

頭のどこかで持ち続けてきた未練との決別。

これが初めてのことなのかもしれない、そう華琳はそう考えていた。

今も目の前にいる、白く輝く服をまとった少年を諦めることだけはしないと、いつの日か誓ったことを思い出す。

みんなと同じようにいつまでも思い続けると誓った。

華琳はそれでも切り捨てることに決めた。

 

 

もう私に彼は必要ない

もうそんなものに縋らなくても歩いていける

 

 

 

「こんな夢なら私には必要ない」

 

 

そう華琳が口にした瞬間、空虚で不安定だった世界から光が失われ始めた。

少しずつ、しかし確実に暗くなっていく中で一刀は何も口にすることはなく、また華琳も何もいわずにいた。

いつの間にか一刀の顔からは先ほどまで浮かべていた穏やかな表情はなく、ただただ無機質な色を映しているだけだった。

 

華琳はきっと最後になる白い少年の姿を眼に焼き付けるように、目をそらさずに見つめ続けた。

夢の中でも、現実でも、二度と目にすることはないその姿を。

 

完全な闇に落ちる間際、華琳の目には一刀の表情がわずかに変わったのに気づいた。

その彼は気のせいだろうかかすかに笑っていたように、華琳には見えた。

 

 

 

そして、華琳は意識を手放した。

 

 

 

 

わずかのまどろみの間に見るほどの短い、特別なことが起きたわけでもない夢。

 

ただ一室の中に二人でいるだけで完結した、つまらない夢。

 

しかしその夢は華琳にとってはとても希少なものだった。

 

 

 

夢から覚めた時、窓から差し込む陽ざしが華琳の眠る部屋を照らしていた。

その光が刺激となったのか、だんだんと華琳の意識は覚醒していき、そしてぼんやりと思った。

 

 

やはり夢だった。

 

 

やけに鮮明に今も覚えているその映像を反芻する。

穏やかな少年。彼はもう記憶の中にしかいない。

 

 

後悔はない

後悔なんて、しているはずはない

 

華琳は繰り返し自分に言い聞かす。

 

 

「本当に、今更のことだわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、華琳。なんで朝っぱらからそんな難しい顔してるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

急にかけられた声に華琳が目線を向けると、そこには男が座っていた。

輝きはしていないけれど、純白の服を着ている、整った顔をした青年。

その青年は声をかけながら、華琳の夢とまるで同じように彼女のいる寝台に腰かけた。

 

「夢を見たのよ、一刀。昔のあなたが出てくる」

 

目の前にいる成長した青年、一刀にむけて華琳はひどく楽しそうに笑いかけた。

 

 

 

 

 

「へー、どんな夢だったんだ?」

 

「そうね」

 

華琳の珍しい言葉に興味深そうに尋ねる一刀。

その言葉を聞いた華琳は観察するように一刀の顔をじっと見つめた。

 

「どうかしたか?」

 

「比べるとやっぱり老けたわね」

 

「成長したと言ってくれよ」

 

なんとなく面白くなさそうにぼやく一刀の姿に、華琳は愉快な気持ちになる。

そしてついでに気になることを確かめることにした。

 

「一刀、手を出して」

 

「ん?ほら」

 

華琳の望むとおりに一刀が手を差し出すと、華琳は確認するような手つきでその手を握る。

 

「やっぱり大きくなっているのね」

 

「まあ、そりゃずいぶん時間もたっているし成長位するだろ」

 

何を言っているんだろうか、華琳にしては要領を得ない言葉を一刀は疑問に思う。

すると華琳は少しだけ寂しそうにこぼした。

 

「そうね、あなたは私の知らないところで成長してしまったのよね」

 

「それは」

 

一刀は何かを言おうとしたが言葉が出なかった。

彼女を置いていったときの罪悪感も、元の世界で過ごしていたどこか虚ろな日々も、一刀にとっては未だ過去にはなっていなかった。

口ごもる一刀を見て華琳は言葉を続ける。

 

「別に責めるつもりはないわ。それにもういいの」

 

華琳は一刀の手を握りしめる。

先ほどとは違い、思いを込めるように、強く。

一刀はその手を握り返しながら、黙って華琳の言葉の続きを待った。

 

「昔のあなたのことはもういらない。もう私には必要ない。だってあなたは、その代わりにこれからの全てを私にくれるのでしょう?」

 

 

 

そう言いながら華琳は笑った。

 

覇王としての不敵な笑みでも、挑発としての冷笑でもなく、まるで少女のように、朗らかに。

強くあり続けようと気を張り続けた少女がなんの衒いもなく笑うその姿を見て、一刀の中に温かいものが満ちた。

そして、誓うようにして言葉を返した。

 

「…ああ、あげるよ。これからの俺を全部」

 

「そう、それならこれからも私と一緒にいて」

 

華琳はそう言うと穏やかな顔をしながら何も言わなくなった。

一刀もそんな華琳を微笑みながら見つめる、手を握ったまま。

 

 

 

射しこむ光に照らされた暖かい部屋、そこは決して静かではなかった。

外から聞こえる民の声や、城内の人間の足音も聞こえる、もしかしたら今頃子供たちも泣いているかもしれない。

騒がしい世界の中でも、その部屋には安らぎと穏やかさで満ちていた。

 

 

華琳はずっと望んでいた幸せを、確かに手に入れていた

 

 

あとがき

 

 

某庭のssを書いた残骸を利用。

最後のシーンを入れるか悩んだけど、ベタな話ならベタなハッピーエンドでもいいかなぁ、と。

 

そしてこれも他のアホなssと繋がっていると思うとしょうもない。

 

 

 

 


 
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