No.86267

真・恋姫無双~薫る空~11話(黄巾編)

カヲルソラ11話。
張三姉妹、一刀、薫、それぞれの思いが入り乱れて物語が佳境へ向かっていきます。

2009-07-25 02:31:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6553   閲覧ユーザー数:5623

 

 

 

 

 

 

 

【地和】「お姉ちゃん、何処行ってたの?」

 

【天和】「あ、ちぃちゃん。ただいま~~~」

 

天幕に入ってきた天和に声をかけ、地和は少し機嫌が悪い様子をあらわにする。

 

しかし、そんな地和の様子を悟る事も無く、天和は彼女を抱きしめる。

 

【地和】「ちょ、ちょっと…何処行ってたのよ!ご飯待ってたんだからね!」

 

【天和】「ありがと~~、お姉ちゃんうれしいよ~」

 

【人和】「ふたりとも遊んでないで、はやく用意するの手伝って」

 

傍から見ればじゃれあっているようにも見える二人だが、そんな二人に人和は切って捨てるように言い放つ。

 

先ほどまでは地和も手伝っていたのだが、天和が帰ってきたと同時に戦力は半減したのだった。

 

おずおずと二人は体を離し、食卓の準備を進める。

 

ある程度料理は出来ているために、あとは並べるだけとなっている。

 

そんな状態だから、用意するのもすぐに終わり、三人は食事を採り始める。

 

【人和】「そういえば姉さん。最近よく夜になるといなくなるようだけど、何処へ行っているの?」

 

突然一番下の妹は姉へ話しかけていた。

 

【天和】「お外だよ?」

 

【地和】「それはわかってるわよ。そうじゃなくて、外の何処へ行ってたのってこと。最近なんだか、ちぃ達のことで騒がれてるみたいだし」

 

ここ最近、天和はよく夜になると外へ出かける。

 

そのことが、最近の情勢もあって二人は心配になっていた。

 

 

【天和】「えー、大丈夫だよー」

 

【人和】「だから、何処へ行っていたの?それだけ教えて、姉さん」

 

【天和】「むぅ……」

 

 

もじもじとしながら、天和は答える。

 

城壁へ、彼に会いに行っていた。といっても、実際に会えたのは2度だけ。

 

それも、一度目は名乗っただけ。二度目は……。

 

 

【地和】「信じられない!こんなときに男と会ってたなんて!」

 

【人和】「まぁ…過ぎた事も言っても仕方ないわ。次からは気をつけてね」

 

【天和】「はぁ~い」

 

 

相変わらず、地和は怒ったまま、人和はもういつもどおり、食事に戻る。

 

天和はただ一人、その光景を眺めていて、それでも顔はもう笑顔へと戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて食事も終わる頃、天幕の入り口に張られている幕が揺れる。

 

【??】「張角さま、張宝さま、張梁さま」

 

不意に聞こえた男の声に、夕食は中断される。

 

三人は慌てて姿勢を整え、いち早く対応がきいた人和が声をだす。

 

【人和】「どうしました?今食事中なので後にはできないでしょうか」

 

しかし、その声に男は少し間を空けた。

 

一瞬ともいえる間。しかし明らかに違和感を覚えてしまう時間。

 

【??】「それが、その…ここしばらく補給隊の到着が遅れておりまして、物資が不足しているのですが…」

 

【地和】「どういう事?」

 

【人和】「補給隊には経路を変更した事は伝えてあるんですよね?」

 

【??】「もちろんです」

 

それは華琳たちが本格的に動き出しているのだから、当然の効果。

 

しかし、そんな事を知らない彼女達は、ただ遅れているだけという認識以上のものを期待することは出来ない。

 

【人和】「わかりました。明日にでも対応しておきます。」

 

【??】「恐れ入ります。あ、それから――」

 

と、さらに男は言葉を続け、信じられない言葉をいう。

 

立った今物資が不足していると言ったその同じ口で、今度はまた志願者が増えたので武具一式と食料を与えたといった。

 

ただでさえ人数が飽和状態になっている今、これ以上増えれば暴発をおこしそうな状況にも関わらず、先の食糧不足。その上でのこれだ。

 

人和は頭を抱える。

 

とりあえず「わかりました」とだけ答え、男はそれを聞き、その場を後にする。

 

【人和】「まったく、信じられない…」

 

ため息と共に、そんな言葉が出てくる。

 

より一層不機嫌となり、やはり食事に戻る。

 

しかし――。

 

【??】「申し上げます!!!」

 

今度は別の男が来た。

 

またも食事を中断され、先ほどまでの流れもあり、地和が立ち上がる。

 

【地和】「今度はなに!!」

 

【??】「そ、それが、一部のものが暴走を始めまして……近隣の街へ…」

 

【天和】「え………それってどういうこと…?」

 

今まで黙っていた天和が口を開く。

 

暴走した賊…彼女達にその意識は無いだろうが、そう呼ばれるものたちが暴れだし、街へ行ったとなればその目的は一つしかない。

 

そして、この近隣にある街でいまだに彼らが狙いそうな物がある街は……陳留だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いに答えを見出せないまま、時間はどんどん過ぎていく。

 

次々と間諜からは黄巾党の兵糧拠点を発見したという報告が入る。

 

それを一つずつ潰していき、効果が現れるのを待つ。

 

【一刀】「………………」

 

【桂花】「何をたそがれているのよ。気持ち悪い」

 

戦場。燃えていく敵の兵糧庫。

 

それを眺めていると、相変わらずの毒舌で桂花が俺に話しかけてきた。

 

【一刀】「……別に、なんでもないさ。大丈夫だよ」

 

【桂花】「誰も心配なんかしていないわ。むしろ一緒に燃えてきたらどう?」

 

何が言いたいのか。中々本題に入らず、桂花は言葉を続けていた。

 

【一刀】「…はは。さすがにそれは嫌だなぁ」

 

【桂花】「…………はぁ。普段のケダモノ極まりない状態も近寄りがたいものだけど、悩んでいるあんたなんて、もっと気持ち悪いわ。………華琳さまから伝言よ」

 

一通り俺を罵倒した後で、桂花はようやく本題に入った。

 

華琳からの伝言は、新しく来た敵拠点の位置と、そこを叩けという指示。

 

普段あまり強行を望まない華琳が連戦の指示を出すのは、それだけ勝負どころという事だろう。

 

【一刀】「うん。わかったよ、桂花。すぐ俺も準備する」

 

【桂花】「早くしなさい。遅かったらおいていくから」

 

表情をかえず当たり前のことを言うように言い放ち、桂花は踵を返した。

 

桂花の場合は本当においていきそうなので、俺も慌てて準備をすませ、進軍に合流する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の戦場にて、俺達は補給隊とも思われる黄巾党の一隊と戦闘、撃破した。

 

もともとこちらは正規軍であり、向こうは賊、しかも補給物資を守りながら戦うという状況でこちらが負ける要素などなにもなかった。

 

補給物資は、全て燃やす。との指示が出ている。

 

民から財を奪う賊から、食料を奪うなどありえるはずも無い。ということだ。

 

これは鎮圧のための戦いで、略奪ではないのだから。

 

前回同様、それらには火を放ち焼却する。

 

それを眺め、俺はまた思考に浸っている。

 

意味が無いと分かっていても、隙が出来るたびに考え込んでしまうのだ。

 

もう桂花からほとんど声もかからなくなった。

 

いくつか伝令が駆け込んでくるのがみえる。おそらく春蘭や秋蘭のほうも俺達同様、敵補給路を潰したという報告だろう。こうしてお互いの動きをあわせないと味方同士で鉢合わせしてしまう。

 

 

【桂花】「ちょっと、いい加減にしなさい。放っていくわよ」

 

突然聞こえた桂花の声に思考が現実に戻る。

 

【一刀】「あ、あぁ。ごめん」

 

帰還するということで、俺は馬にまたがり、歩き出す。

 

【一刀】「………。」

 

何気なく、空を見上げる。

 

そこには雲があって、その上に青い空が広がっている。

 

そのさらに上に太陽が置かれていて、大地を照らしつける。

 

馬が一歩を踏むたびに体が揺れ、そのたびに視界も同じように揺れる。

 

流れる雲がどこか懐かしさを出していて、俺はそれを見続ける。

 

時間がどこかゆっくりと流れているように感じて、それは眠気さえ感じるほどだった。

 

しかし、そんな状態は長くは続かず、一つの伝令を持って阻止された。

 

【桂花】「変態!急いで戻るわよ!!」

 

すっかりそれが代名詞となってしまった桂花が俺を呼ぶ。

 

【一刀】「どうしたんだ?」

 

周りがあわただしくなり、俺は未だその状況についていけずに居た。

 

【桂花】「いいからはやくしなさい!…陳留が黄巾党の軍に囲まれているのよ!!」

 

【一刀】「な―――」

 

それは何よりも状況を現している言葉で、俺達は移動速度を可能な限り早める。

 

【一刀】「数は多いのか?」

 

走りながら、俺は桂花に離しかける。

 

【桂花】「うるさいわね!いいから急ぎなさい!!」

 

具体的なことは言わない。言う暇がない。

 

それが目に見えて分かり、俺は桂花のその様子から自分が考えているよりもはるかに事態が切迫している事に気づく。

 

そしてそれは同時に相手の状況も物語っている。互角か、こちらが優位なら桂花はあんな顔はしない。

 

それを理解し、俺も同じく陳留への足を速める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side薫

 

 

 

 

【雪蓮】「はああ!!」

 

剣を振り続け、既に何人切ったのか、数えるほうが馬鹿らしいくらいの数の死体の道の先に彼女はいた。

 

鬼神とごときという言葉はこの状況をさすものだと、理解する。

 

これは既に常人の成せる領域ではなく、銀色の軌跡はただ朱色の痕跡を残して、周囲を大量の赤色で染め上げる。

 

自身にも降りかかるそれはまるで化粧をしているかのように、その人を美しく彩り、それでもその中にはやはり鬼が存在している。

 

それを眺め、以前味わった気持ちの悪さにも耐えながら少女はその人を見つめていた。

 

【薫】「………………。」

 

本陣にいながらもその存在をはっきりと感じさせる彼女に、たしかに薫は王を感じていた。

 

【冥琳】「大丈夫か?」

 

【薫】「うん」

 

隣にいる呉軍軍師にも心配されてしまうほど、その表情は青ざめている。

 

しかし、それでも目を離せなかった。

 

彼女の周りには祭もいて、そちらもまた、恐ろしいほどの武力を見せる。

 

しかし、やはり、違う。

 

どこか違う。

 

祭が思ったより弱いとか雪蓮が強いとかの話では無く、ただ、惹き付けるもの。それが雪蓮にはあった。

 

【薫】「………………冥琳…」

 

【冥琳】「もしかしたら、お前をここへ連れてきたのは正解だったのかもしれないな。」

 

【薫】「え……?」

 

薫が話しかけようとしたところで、冥琳の言葉にさえぎられる。

 

【冥琳】「お前の心は揺らいでいる。…だろう?」

 

また、あの尋問のときのように、何でもお見通しと言わんばかりの顔になる。

 

【薫】「あたしは………」

 

【冥琳】「そうだな。お前が望むなら、私の知識をやろう。」

 

【薫】「………あたし、曹操の軍師だよ?」

 

【冥琳】「お前に伯符を裏切る度胸があるのか?」

 

雪蓮がここへ薫を連れてきたのはこのためかもしれないと、冥琳は考えている。

 

そして、冥琳は先ほどの会話で薫の軍師としての素質を垣間見ている。

 

薫を呉へ入れるのも面白いかもしれない。そう思い始めていた。

 

彼女がここで言葉を続けた理由はもうひとつ。先日の尋問で薫は冥琳に言った。

 

自分は軍師見習い。新米なのだと。

 

それは同時に、曹操への忠誠がいまだ揺ぎ無いものでは無く、まったく脆いのだと自白しているものだった。

 

【薫】「わからない………。……わからないの…」

 

冥琳の言葉で薫は明らかに動揺する。

 

さきほど、お前に雪蓮を裏切る覚悟はあるかといわれたが、このまま呉に残れば、それはそのまま華琳へ当てはまる。

 

【冥琳】「まぁ、いいさ。この戦が終結すれば曹操から使者がくるだろう。それまでは時間がある。」

 

自分に、華琳を裏切る覚悟があるのか。

 

この話はそういうことだ。ここに…呉に残れと。

 

【薫】「………あたしは…」

 

 

その後の言葉が見つからない。何もいえない。

 

華琳の下へ帰る。そういえばいいだけ。だけど、その言葉が出てこない。

 

 

迷いは時を早め、薫は目をそらす。

 

しかし、そのときにはもう、戦うものは無く、戦は孫策軍の勝利に終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 


 
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