No.862038

学徒戦略防衛学園

凱刀さん

近年、多発する学校問題や事件、また未成年の事件などを取り締まる学園バトル。

2016-08-06 10:58:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:709   閲覧ユーザー数:708

 

第一章 潜入捜査

 

 夜の宵闇に響く活気と嬉々の声が聞こえる。

 仕事で疲れ飲み歩くサラリーマンやキャリアウーマン、大人になり酒の味を覚えたての若者の声など聞こえる街並み。

 表通りは人の喧騒で賑わっているが裏通りに入ると呼び込みはあるものの、比較的に静かである。

 主にキャバクラやホステスなどが入っている裏通り。

その店が建ち並ぶ中、一つの五階建ての建物が一つあり、それぞれの階にはホストクラブやキャバクラなどが入っている。

案内板では五階建てと表示されているが、非常口からは地下へと行ける階段がある。

その地下にも店が入っている。

店は少し薄暗くパープルカラーのライトで店内を照らし怖さは感じられない。

ここはキャバクラには違いはないものの、普通のキャバクラとは違う点がある。

それは、キャバ嬢である女性が明らかに十八歳未満であるということに、少し行き過ぎたボディタッチが見受けられることだ。

違法なことと知っていても金儲けのためなら法に背くことをする人はいる。

にぎわう繁華街の外でこのような店もあることが珍しくもなく、見つからないようにひっそりと営業をしているのだ。

「いいじゃないか~!? もっと姫野ちゃんのことを知りたいんだよ」

 一人の中年の客が隣にいるキャバ嬢の太ももを嫌らしく触っていた。

「じゃあ、もっとお酒を注文してくれたら教えてもいいかな~」

 上目遣いで客に注文をせがむキャバ嬢。

 肩まである長い髪は金髪に近い色合いをしており、ポニーテール結んでいる。

 名前は姫野優奈。だが、これは、ここでの名前で本名ではない。

「まったく、姫野ちゃんはおねだり上手だな~。じゃあ、芋焼酎の魔王を頼もうかな」

「魔王、二番テーブル入りまーす」

 姫野の注文を受けカウンターにいるボーイが作業を始める。

 作業を始めているボーイも未成年なのだがここで働いている。

 名前は神月零夜。彼も偽名を使っているのだが、それには理由がある。

 それは、この店の摘発と姫野が接客している客の取り押さえであり、彼らの重要な任務であるため。

 彼らは『学徒戦略防衛学園』、通称、『学衛隊』の学員なのだ。

『学衛隊』とは日本全国の学生や未成年の問題や事件に対処する文武省直属の学園のことである。学校の全ての問題や事件を解決し、それに関わった未成年、大人でも逮捕できる権限を持った学園なのだ。

 零夜はその学園の諜報部の生徒で彼の下に、今、キャバ嬢をしている姫野、その隣で接客している娘もメンバーの一員。

 彼女たちの本当の名は、姫川結唯、八葉彩夏。零の諜報メンバー。

 潜入先に本名を言わない。偽名を使い身元を洗い出せないようにするためで、学衛隊と気づかれてしまっては、警戒されここには来なくなってしまう可能性と、さらに、見つからないように隠れてしまうこともあるため、偽名を使い身元も偽装することが必要不可欠なのだ。

(ターゲットからまだ情報は訊きだせてないか)

 零夜は棚から芋焼酎の『魔王』を取出しグラスに注いでいた。

「三番テーブルにシーバスリーバスはいりま~す」

 オーダーを頼んだ三番テーブルに神月は眼を向ける。

 そこで接客しているキャバ嬢と目を合わせると、さり気なく二人は頷いた。

 神月はオーダーされた『魔王』を二番テーブルに持っていく。

 姫野は未成年のためピーチジュースに変更してある。

「こちらが魔王になります。姫野さんはピーチジュースを」

 片膝をついてそれぞれにグラスを渡す。

 ボーイは店では身分が低いためキャバ嬢の言いなりになる。そのため、「さん」付けをしなくてはいけない。

「はい。ありがとー。あっちに行っててね~」

 姫野に冷たくあしらわれる神月。

「ごゆっくりと」

 一礼しその場から立ち去る神月は次なる仕事へと移る。

「では、姫野ちゃん。乾杯」

「かんぱーい!」

 ガラスがぶつかり合う高い音の後、二人はグラスに注がれた中身を一口飲む。

「姫野ちゃんは普段何しているのかな?」

「私はー、バイトオフの日は友達とカラオケいったりするかな~」

「おじさん、最近の歌手知らないなー。あれなら知ってるぞ、えっと、あれだ。あれ」

「に、に、西野…」

 苗字は知っているようなのだが名前が出てこない。

「もしかして、西野真奈ちゃんですか?」

「そうそう。西野真奈ちゃんだよ。あの子は綺麗で歌も上手いよね」

「おじさまって、西野真奈ちゃんみたいな人がタイプなのですか~?」

「おじさんは姫野ちゃんがタイプだぞ」

「もう、おじさんはそんな冗談言ってー」

姫野は笑顔で客と話し盛り上がっていった。

その最中に、男の手は嫌らしく姫野の太ももを這いずり回っていたのに、姫野は嫌な顔一つしない。

 あくまで、接客のためと、もう一つ理由があるから。

(きっしょくわる! いやらしく触らないでよ。いくら、潜入だからといって、これは、最悪よ!)

 心の中では我慢の限界には来ているようだ。

(まったく、零も少しは察しなさいよ! 注意すべきでしょ! これはいきすぎよ!)

 零とは先ほどオーダーを取っていたボーイのこと。

 彼の本当の名前である。

 姫野は気づいてくれなかった零にご立腹のようだ。

「姫野ちゃん聞いてる?」

「もう、聞いてますよ。おじさま」

 可愛くもあざとい笑顔を見せる。

 まだ、情報を聞き出せない姫野、まだ訊きだすのに時間が掛かりそうだ。

 三番テーブルのキャバ嬢は客に色気を使い接客をしていた。

「おじさまは~、どんな娘がタイプなのですか~?」

「彩音ちゃんみたいな。おっぱいが大きい娘が好きだな」

「巨乳好きなんですね。私のおっぱいはどうですか?」

 胸元の服をつかみチラっと見せて色気を出してきた。

 彼女の名は九葉彩音、本名は八葉彩夏という。

「もう、俺の好みだ!」

「でも~、お触りは禁止で~す。おじさま」

「あー、触りたかったな~。でも、ここはいいだろう?」

 相手を誘っておいて触っていけないという小悪魔な行動に、客は悔しがりつつも彩音の太ももを触ってきた。

「えっちなんだから、お・じ・さ・ま」

 嫌がることもなく彩音は甘い声音を発した。

 これには、客も興奮し終始、九葉の太ももを触っていた。

 

 零は一時休憩を取っていた。今は他のボーイが対応している。

(まだ、姫川は訊いていないか、そろそろ情報を得ても良い頃なのだが…何をしているんだ?)

 姫川に対しての呆れと自身への焦燥が彼の中にはある。

(奴がここにきて二時間は経つ、いつ帰ってもおかしくはないな…最終手段は使いたくはなにのだが…)

 零は結唯のもとへ足を進める。

「姫野さん。少しあちらのお客様のところへ」

「わかりましたー。すぐ戻ってくるからおじさま」

「姫野ちゃんが来るまで待ってるよ!」

 微笑んで姫川を見送る客はグラスにあるお酒を口にした。

 零と結唯は店の奥へと行き、二人は向かい合う。

「何をしている? お前、仕事を忘れてないだろうな?」

「忘れてるわけないでしょ! 訊きだすタイミングが掴めてないのよ。だいたい、こっちはエロい手でセクハラされているのよ! こっちの身も考えてよ」

 冷たく怒る零に対し、姫川も怒気を隠さずに口論する。

 結唯の接客している客は彼らの任務ターゲットであるらしい。

「さっさとしろ。でないと、あいつが帰ってしまう。あとから訊きだすのは厄介なのだからな」

「わかってるわよ! 零もこっちのことを考えて、こっちだっていろいろと嫌なんだから!」

「たしかに、お前たちには嫌な思いをさせている。だが、これは任務だ! 任務に嫌なことは否応にもある。お前もそれは解ってるだろ?」

「それはわかるわよ! せも、あの嫌らしい手は気持ち悪いのよ! 触り方もエッチだし」

「このようなこともあると知って潜入しているのだ。甘えるな」

「甘えてなんかいないわよ! もう、私、あっちに行くわ!」

結唯ふんっと首を横に振りテーブルへと戻っていく。

(おれも見ていて殴りたい気持ちはある。だが、任務なのだ。セクハラは我慢してくれ姫川…)

 本当は殴りたい気持ちは彼にもありそれを抑えている。

 任務が故に自身の身勝手な行動は許されない。それは、零が一番解っていること。

「お前ならできる」

 接客している姫川の姿を見て小さく呟いた。

 

 外のビルの屋上から一人の少女が待機していた。

 零たちが潜入している店の入り口を見つめ監視している。

 彼女の名は藤林詩穂、零の二人と同じメンバー。

「異常なし…」

 彼女は結唯と彩夏とは別に外で見張りをしている。万が一、ターゲットが逃げ出した場合に捕えるために。

「よかった、私にはできないあのようなこと…」

 詩穂は二人のように接客が苦手であり、自分がこの任務でホッとしている。

「もし、二人のように私もやっていたら…た、た、たえられない!」

 妄想し一人顔を真っ赤にしている。

「でもでも、ご主人様なら出来なくもないかも…」

 彼女は零のことをご主人様と呼んでいる。理由は彼女の過去にある。

「それは、ダメです。ご主人様、そこはダメです、私、もう…」

 止まらない妄想に一人盛り上がり自分の世界に入り込んでしまった。

 詩穂は普段は口数は多くはないほうだが、一人になると妄想する癖がある。

 今もこうして、一人、桃色の妄想に入り込んでしまっている。

「きゃ! で、電話!? あ、ご、ご主人様!」

突然、携帯の着信が鳴り、詩穂は慌てて電話に出る。

『ももも、もしもし』

『どうした? そんなに慌てて』

『い、いえ、何でもありません…』

 自分の世界から引っ張り出されて冷静さを取り戻す。

『姫川がまだ情報を得ていない状況だ。ターゲットが出ていく可能性が高い。そのときは、俺も追い駆けるが、藤林、頼むぞ!』

『わかりました…ご主人様のために任務遂行します…』

『あと、強行捜査部に連絡を頼む。ここを一斉検挙する』

『はい。連絡を取っておきます…』

『頼む』

 零は電話を切った。

「お、驚いた」

 妄想中に零から電話がかかって一時は、呂律が回らなく慌ててしまった。

「それにしても、結唯はまだ訊けていないのか…ご主人様に迷惑を掛けるとは…」

 結唯に呆れつつも自身は、その場合のターゲット捕獲に全力を注ぐことに集中する。

(私は自分の任務をするだけ…)

 詩穂は乾いた喉をペットボトル飲料で潤した。中身は彼女が好きなピーチ味の『いろのす』だった。

 結唯は先ほどから、接客しているターゲットから情報を得ようと話を作っていた。

「姫野ちゃんはどこの高校に通ってるの?」

「私は光陵高校でーす!」

 両手でピースをして可愛く見せる。

「光陵か、依然、勤めていたことがあるよ」

「ほんとうですかー!? 光陵って馬鹿じゃないけど頭も良くない、普通の学校なんですよね。私もそこそこの学力だけど」

「でも、何人かは難関大学には合格している生徒はいたんだよ」

「あれは別格ですよ。私みたいな普通の生徒は普通の大学が精一杯で」

「今は何年生?」

「一年生ですよー」

「なら、これからじゃないか、今からでも遅くはないぞ、頑張れば難関大学に合格できるかもしれないぞ」

 教師であったターゲット客は、姫川に普段の教師の顔を見せエールを送った。

「頑張ってみようかな~」

「姫野ちゃんなら出来るぞ! おじさんは応援している!」

「ありがとう。おじさま」

 爛漫な笑顔を見せるとターゲット目を細めた。まるで娘を可愛がる父親の顔に。

 場の空気と話の内容から持って行けると判断した結唯は、訊きだしたい情報を得るため話題を変えた。

「ねぇ、おじさま~、この人知ってる~?」

 そう言い服の中から一枚の写真を取出し見せた。

 写っているのは、三十代前半の男性。

「あ~、東星女学院に勤務している知り合いだよ」

「東星女学院にいるの?」

「そうだよ。それがどうかしたの? 姫野ちゃん」

「えっ、え~っと…」

 言葉に詰まり目が泳ぐ姫川に、ターゲットは少し怪訝に思い始める。

 お酒を飲んでいたが、まだ、思考力や判断力の低下までには至っていない。

「姫野ちゃん?」

「え、実は~…」

 まだ、言葉を見つけられないまま戸惑っている。

 時間だけが過ぎ、状況は悪くなる一方で、ターゲットである客も一つの答えに辿りつけていた。

「姫野ちゃん、もしかして、学衛隊…?」

「えっ、ちち、違いますよ~!?」

 両手を振り大きく否定するも完全に動揺しきっている。

 さらに、悪いことに服の中から手帳が落ちた。その手帳には学衛隊という確たる証拠である校章がターゲットの目に入ってしまった。

 学衛隊が居るということは自身をはじめ、この場にいる大人たちが逮捕される。

 その恐怖と動揺でターゲットは固まってしまい、動いたのは口だけ。

 震える口元に出てくる言葉は限られていた。

「が、が、が、学衛隊だーーーーーーーー!」

 その叫びで店内のすべての人たちは彼を見て静止した。その時間は僅かにもかかわらず、長い間を作ったかのように思えた。

「学衛隊だー、逃げろー!」

「逮捕されるぞー」

 一気に店内は大混乱に陥り、客である大人は逃げ始める。

「しまった! 姫川がばれたか。突撃命令を出すしかない!」

 内ポケットから小型機器を出し、ボタンを押した。

 ボタンには外に待機している強行捜査部に突撃の合図を送る信号である。

「姫川、八葉、外に出さないように出入り口を塞げ!」

 大声で指示を出し、二人は出入り口へと走っていく。

 零は裏口に回りそこから逃げようとする客たちを止める。

 出入り口を塞がれては逃げられないため、客たちは零や結唯、彩夏に襲い掛かる。

 戦闘術は熟知している三人は大人の攻撃は簡単に躱せる。

「逃げられるとでも思ったか」

 繰り出した拳を躱し、その腕を引っ張り首筋に手刀を入れた。

 手刀を入れられた客は気絶しその場に倒れた。

 零は次々くる客と戦闘になった。

「エロじじいめ、これで終わりよ!」

 やっと本性を現せた結唯は容赦なく客たちに蹴りや拳を繰り出す。

「結唯ちゃん。やりすぎやダメですよ」

 加減が出来ていない結唯に彩夏は窘めつつも、自身に向かってくる客には、弁慶の泣き所を蹴り、痛がっている間に回し蹴りを浴びせる。

 彼女の方が結唯より容赦がないように見える。

 客は二十人ほどいて三人は苦戦はしないものの、数的には不利であるのは確かだ。

「彩夏、零は強行部を呼んだでしょう?」

「呼んだとは思います。零さんは抜かりないですから」

「だったら、もうきてもいいんじゃないかな。っと!」

 戦闘の中でも会話を続ける二人にはまだ余裕はある。

「そろそろ来ると思いますよ」

「遅いんじゃないのかな!」

 首を絞め窒息までいかないがき気絶だせるほどの力を込めていた。

今までセクハラされた恨みと零へのいかり、そして、強行部隊来ない苛立ちが出てきており、それを客にぶつけている。

 ―その時。

「強行捜査部だ! お前らなに羨ましいことしてるんだ! 俺も本当はおっぱいとかも見たいんだぞ、その夢をこんな所でやりやがって! お前らこれは罪だぞ、ということで、風営適正違反および児童福祉法違反で全員逮捕だ!」

 一人の少年が大声で本音を混ぜつつ罪状を突き付けた。

「十真君、本音がでてるよ…」

「隊長…ほんま、スケベどすな~」

「それは、ないでしょ、ちょっと軽く引くよ、それ」

 後ろにいる捜査員たちは十真という隊長に少し引いていた。その場にいた結唯や彩夏、それに十八歳未満のキャバ嬢たちも少し引いていた。

「あっ! すまん。すまん。つい、本音が、仕切りなおして、お前ら逮捕だ! 行くぞー!」

 捜査部の者たちは一斉に駆け込んだ。

 数十人ほどの捜査部の生徒たちは次々と男性客を取り押さえていく。

「助かった。十真」

「これは捜査部の管轄だから良いってことよ! それより、零はいいなー。俺もここで働きたかったぜ」

「お前が思っていることはしていない。それに、俺はただ仕事をしていただけだ。お前みたいにエロい目で見ていない」

「またまた~、案外、零もエロい所あるからな~」

「おい…十真、俺はお前みたいな変態と一緒にするな…」

「俺は変態ではない! エロいだけだ! えっへん!」

 誇らしげにする十真に、零は何も言わず見ている。

「おい! なんか言ってくれよ!」

「いや、やっぱ変態だなと」

「だから、変態じゃない!」

「零さん!」

 強く否定する十真の声の後に、割って入るかのように彩夏が零の名を呼んだ。

「どうした?」

「すみません。ターゲット逃走してしまいました」

「ちっ、裏口ではなかったか、すぐ追いかける。姫川と八葉はここで十真の指示で動け、十真、悪いが―」

「ここは任せろ!」

「感謝する」

 零の言葉を十真が受け取り、十真の感謝を零は一言で済ませる。

 二人にはそれだけで十分だった。

 裏口のドアを開け階段を駆け上る。その足音は刃のように鋭く高い音で、どこか獰猛さがあるように聴こえる。

 

 
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