No.861630 模型戦士ガンプラビルダーズI・B 番外編3※前より百合っぽいので注意コマネチさん 2016-08-03 23:12:37 投稿 / 全12ページ 総閲覧数:701 閲覧ユーザー数:678 |
ユキ達のチーム『ゴーレム兵団』を下したゴスロリ三人のチーム『グラン・ギニョール』、アイ達は次に対戦するグラン・ギニョール戦に向けてユキ達と共に特訓を開始した。
――嫌なざわつきだ――そうGポッドの中で、ソウイチは焦りと不安に心で愚痴った。
霧の立ち込めるオーストラリアの海岸沿い。AGE-3フォートレスに一人で乗ったソウイチは辺りを警戒しつつ見回す。
ただのフォートレスではない。本来両袖の部分には本来シグマシスキャノンが左右一丁ずつついていたが、ソウイチの乗ってるフォートレスは、ビームサーベルを内蔵したバックラー状のシールドに変えられていた。AGE-3ノーマルの腕だ。
「参ったな。奴らどこにいったんだ」
うまくいかない状況にソウイチは声を出す。対戦相手はユキ達3兄妹のドムトルーパー。今回ソウイチは単独で対戦したいと志願したのだ。向こうから来ないかと思案しているソウイチだったが、Gポッドのアラームが鳴る。望み通り向こうから来たらしい。
「ちっ!!」
霧の影響で、ほとんど周りは見えない。しかも周りは機体を隠せる大きさの岩がゴロゴロしていた。と、左右からドムトルーパーが二機、ビームサーベルで斬りかかってくる。早く気付いたソウイチは両腕のシールドからビームサーベルを発生、
ドムトルーパー二機のビームサーベルを受け止める。ビームの接触のスパークにより一層視界は悪くなった。しかしドムトルーパーはいち早くフォートレスから離れると後退していく。
「っ!舐めるなっ!!」
挑発という解釈をしたソウイチは両肩のシグマシスキャノンを最大出力でドムの逃げた方向に撃つ。本来は四丁だが二丁でもシグマシスキャノンの出力はすさまじい。ビームの濁流は霧を吹き飛ばし、周囲の岩を飲み込みながら射線上の全ての物を蒸発させていった。
「やったか?」
「随分焦ってるじゃないか」
真後ろで声がした。長男コウセツだ。
「っ!?」
ソウイチはすぐさま後方へビームサーベルを振るう。しかしコウセツの乗った緑のドムトルーパーは屈んで回避、すぐさま振り返りながら立ち上がりつつ、AGE-3の腕を掴み、一本背負いの要領で投げる。
「うわっ!!」
予期せぬ投げに綺麗に投げられるソウイチとAGE-3、地面に叩き付けられたAGE-3のコクピットにすかさずビームサーベルが突き刺された。ソウイチのAGE-3は破壊、ソウイチの敗北だ。
「あ、有難うございました。くっそー。イマイチだ……」
模型店ガリア大陸の二階、Gポッドから出たソウイチは戦ってくれたコウセツ達に礼を言いながらも、自分の不甲斐なさにぼやいた。
「余り俺達を舐めない方がいい。一人で俺達全員を相手をしようなんて無茶だ」
コウセツが自信を強く表に出しながら言った。
「くっ!も!もう一回お願いします!」
「アサダ!アンタまた一人でやるつもり?!」
見ていたナナが問いただす。アイ達の特訓が始まってから数日。ソウイチの様子が変わってきた。どうも出来る限り一人で戦おうとする様になってきたのだ。
「皆と協力すれば済む話でしょ。特にアンタは次のバトルはアイと2人乗りじゃない。なんでアイと一緒にやんないのよ」
「解ってますよ。俺一人突っ走ったって意味ないって、でも……ヤタテさんをアテにしすぎるのもなんか違う気がするんス」
「ソウイチ君?」
「確かにヤタテさんの実力は俺達より頭一つ抜きん出てます。でも全国に行ったら今のヤタテさん並のビルダーはゴロゴロでるハズっス。今の俺達の実力で満足してたらきっと足元をすくわれますよ」
そんなソウイチにツチヤが話しかける。
「ソウイチ、お前の気持ちは分かるよ。そしてお前と同じ悩みは俺達も持ってる悩みだ」
「だったら!」
「だからこそだよ。ソウイチ君、今はわざとペースを乱すわけにはいかない。僕達はなんとしてでも全国にいかなきゃいけない。その為にももっと連携を磨いた方がいいと思う」
今度はヒロだ。全国に行かなければいけない理由と気持ちは彼も強い。だからこそ慎重だった。
「解ってますけど……」
「なぁヤタテ、今度はお前が乗ったフォートレスと戦いたい。引き受けてくれるか」
「解りました。ソウイチ君、ちょっとフォートレス貸して」
解りました。とソウイチはフォートレスを貸すとアイはGポッドに向かっていく。
「コンドウさんからチームを受け継いでから、ヤタテさんどんどんそつなくこなしていくっスね……」
「?まぁそうだな。とはいえ普段はのほほんとしたままだけどね」
ぼやくソウイチにツチヤが続く。
「俺だって必死に頑張ってるのに……」
ソウイチの言葉にツチヤとヒロが疑問を持つ。と、その時だった。
「せんぱーーーーいっっっ!!!!!」
突然黄色い声が響いた。「先輩」というここで馴染みのないワードに疑問を持ちながら、全員が声のした方に向く。
「っ!!マコトちゃん?!」
向いたと同時にアイが驚愕の声を上げる。たれ目の女の子が息を切らせながら(と胸を揺らしながら)アイへと走ってきた。そしてアイへとジャンプし抱き着く。
「どわぁ!!」
いきなりの乱暴な抱擁にアイは抱き着いた少女ごとその場に倒れた。
「ヤ!ヤタテさん!」
「あ、ソウイチ君、大丈夫だよ。頭は打ってない」
「いや、フォートレスは!?」
「そっち?!!」
冗談ですとソウイチは答える。フォートレスはアイがとっさに両手で掲げていた為無傷だった。
「あ……すいませんアイ先輩!つい嬉しさのあまり我を忘れて……」
言葉だけはしおらしく、だが抱き着いた腕は力を込めてる為アイをがっちりとホールドしたままだ。
「うん、大丈夫……」
「そうですか。ではあらためて……アイ先輩!お久しぶりです!ワタシは一日たりともあなたを忘れた事はありませんでしたよぉ!!」
寝っ転がったまま嬉しそうに声を上げる少女。しかしアイ以外の人間には状況が理解しがたい。
「えと……その人もアイの昔の仲間とか?」
ナナが恐る恐るアイと少女に聞いた。
「おや、アイ先輩の友達ですか?ワタシは『マトイ・マコト(的射真実)』アイ先輩の最高の友達ですよ」
「最高って……、別に優先順位つけるつもりはないけどね、ナナちゃん、前に話した生徒会のマコトちゃん」
「よろしくお願いします」
――マコトちゃん、あなたも育ったんだね……でも私は……ちくしょう、なんで――
抱き着かれた時にアイはマコトの胸の大きさを理解した。『ノドカより大きい』そう理解したアイは、かつての親友との再会を喜ぶと同時に心の中で泣いていた。一向に育たない自分の胸に……
――そして――
「総合手芸部の方は今回の選手権には出場してませんからね。生徒会の仕事があるとはいえ正直暇ですから、アイ先輩に会いたくてこっちに飛んできたんですよ」
近くのファミレスで昼食を注文するアイ達、全員ボックス席に座りながら、久しぶりの友達と会えたマコトと名乗る少女はとても快活に答える。アイに会えたのがそれ程嬉しいということだろう。
「そっか、向こうは皆元気なんだね。それと……」
「……ノドカの事でしたら大丈夫ですよ。直接会ったんでしょう?」
やっぱりその事ですか。そんな表情でマコトはアイの言おうとしていた事を言い当てた。
「うん……また私と組みたいって言われたよ。なんか向こうで皆とうまくいってないのかなって不安になっちゃってさ」
「大丈夫ですよ。何か問題あったら真っ先にワタシが先輩に連絡をいれます。無いって事は円満ですよ。それはそうと……」
マコトはナナ達に興味があるらしい。アイのチームメイトやユキ達を品定めする様に、しかし迅速に見回した。
「ノドカから聞いてましたけど、中々なメンバーを集めたみたいですね。……変なのもいますけど……」
ユキを見ながら呟くマコト、当のユキは「ひどいですぅ」と猫なで声で反論。
「その人は助っ人だから、今日はアタシだけだけど、学校でいつも一緒なのはちゃんと常識的なのばっかりよ」とナナがすかさずフォロー。いつもアイとナナが一緒にいる二人、タカコは学校で新聞の取材。ムツミは陸上部の合宿で一週間いない。
「そうですか。よかった。アイ先輩が不良に囲まれやしないか心配だったんですから」
「おい!ウチが非常識だってか!」とユキが食って掛かろうとするがコウセツ達に止められる。
「……あの、ちょっといいスか?」
次に口を開いたのはソウイチだった。何か聞きたいことがあるのだろう。「何かな」とマコト
「引っ越す前のヤタテさんってどういう人だったんですか?ガンプラバトルの実力もどれくらいの強さだったんスか?」
今ソウイチは自分に対して焦りつつあった。同時にいつもの調子でバトルをこなすアイに対する嫉妬が少し大きくなっていた。
「?アンタ目の前に本人いるんだから本人に聞けばいいでしょ?とナナ」
「第三者の方が正確に分析出来るとおもったんスよ。あ、ホラ!前に『イングレッサ』って店でガンプラバトルの大会があったじゃないスか。その時マコトさんも関わっていたんでしょう?
その話聞きたいっス」
『イングレッサ』引っ越す前のアイ達の行きつけのおもちゃ屋だ。ホビーショップで構成された五階建てのビル。そこでガンプラバトル大会が開かれ、
アイとノドカが出場した話があるがアイはまだその話を話していない。
「あの時の話ですか。いいですよ。あの話はワタシとアイ先輩とでも思い出深い話ですので、私とアイ先輩の友情の深さを証明s「マコトちゃん!!最小限でいいから!!」
「仕方ありませんね。ではイングレッサ大会の時の話を……」
と、マコトが昔話をしようとしてるその頃、ちょうど行き違いでノドカはガリア大陸に来ていた。
「ありゃ?アイの奴今日はいないのか?」
二階のガンプラバトルスペースを見回すノドカ、しかしアイ達の姿はなかった。今日はまだ来てないのか周囲の客に聞こうとするが、彼女を見つけたある人物がノドカに話しかける。
「君は確か……アイちゃんの友達のユミヒラちゃんだね?」
『ガリア大陸』と描かれた作業用エプロンを来た中年がノドカに話しかける
「?アンタは、確か……誰?」
「はは……店員のハセベだよ」
……
ここからは一部は人づてに聞いた部分もありますが、ワタシ、マトイ・マコトの視点で話を進めましょう。その日はおもちゃ屋、『イングレッサ』のガンプラバトル大会の日、アイ先輩はノドカとイングレッサへと向かっていました。
「それにしてもあれだよね。今日は曇りなのに妙に蒸し暑い」
季節は六月半ば、雨が多い時期ではありますが立派な夏日です。アイ先輩は髪を一つにまとめ、夏服から露出した首筋からは汗がじっとりと滲んできます。ノドカはよく見てなかったけど同じなんじゃないでしょうか?
「イングレッサに着いたらクーラー効いてるから多少はマシになるっしょ?」
「え?ノドカ、今日改装工事と被っちゃってるから屋上でやるって言ってたじゃない。知らなかった?」
「え?マジ?!受ける……いや受けねぇ!雨降ったらどうすんだ?!」
「一応イベント用のテントとかは張ってるから大丈夫だろうけど」
「でもこんなに蒸し暑いんだろ?日射病になったらどうすんだって話だよ」
直後、ノドカの『日射病』というワードにアイ先輩ががくっと肩を落としました。ノドカに対して呆れたのでしょう。
「いやノドカ、太陽出てないんだから日射病じゃなくて『熱中症』だよ『ねっちゅーしょー』」
ゆっくりとした口調でノドカに指摘するアイ先輩。
「やはりユミヒラさんは頭が足りないようですね。ちゃんと解ってる辺りアイ先輩の頭はユミヒラさんとは出来が違うと言うことですね」
「あ?つかなんでお前がここにいるんだよマコト」
怪訝そうな顔でワタシを睨むユミヒラさん。今ワタシはアイ先輩を真ん中に挟み、ノドカの三人で歩道を並んで歩いていました。
「いいじゃないですか。大体ユミヒラさんがいつもくっつき過ぎなんですよ。アイ先輩を拘束する権利はあなたにはありません」
アイ先輩を独占している。というアピールでワタシはアイ先輩の右腕に抱き着きました。
「あ?マジ受ける。同じチームで幼馴染なんだ。一緒にいて当然じゃねぇか。敵対チームのお前がいる方がおかしいってんだよ!」
「さっさとどっか行け!しっしっ!!」そういうジェスチャーをしながら、ノドカもアイ先輩の左腕に抱き着きました。その言い方にムッと来ます。
「なんで私に抱き着くの?」というアイ先輩の発言を無視して、おかえしとばかりにワタシは意地悪に言い返しました。
「おやおや、こんな時にまで敵対心丸出しですか?野蛮ですね。熱中症って言葉も知らない位ですから無理もないでしょうけど。ほっほっほ」
「あぁ?てめぇ……」
ノドカは私に掴みかかろうとしましたがアイ先輩が「わー!抑えてノドカ!」となだめてくれました。いけない。アイ先輩の手を煩わせてしまいました。
「……言い過ぎでした。ごめんなさい。でもワタシだったらもっとユーモアな知恵はありますけどねぇ。アイ先輩、私の名前を言いながら『熱中症』ってすごくゆっくり言ってみて下さい」
「いやいや言わないから」結果が解りきってるのかアイ先輩は苦笑いしながら拒否しました。むー、言葉だけなんだからいいじゃないですか。
「アイ、ねぇっ、チューしよ……。あっ、『ねっチューしよう』か……って!お前アイになんて事言わせようとするんだよ!!」
言葉の意味からノドカはワタシに食って掛かってきます。別にジョークなのにいいじゃないですか。
「い!いいじゃないですか!所詮悪ふざけですよ!!」
「生徒会が下ネタかよ!やっぱお前異常だ!!女同士でこんな事言わせようなんざ!!……思い出した!だからお前とアタシが初対面の時もあんな事やってたんだな!!」
「初対面って……あぁ、あの事ですか。……」
「初対面、あれか……」
初対面、とはワタシとノドカが初めて会った時の事です。その事はおいおい話しましょう。アイ先輩も思い出したのでしょう。徐々に顔が紅潮していくのが解ります。恥ずかしい記憶ですよ。
「あ!あの時は不可抗力です!!勉強もユーモアもない!!スポーツとガンプラしか取り柄の無いようなあなたに言われる筋合いはありませんよ!」
「あーもう二人ともいい加減にしてよー!!周り見てるんだから!!」
気付けばワタシ達は通行人の注目の的でした。途端に赤面するワタシ達三人、その後もワタシは「お前の所為だ」「あなたの所為」とノドカと言い争いながらイングレッサに到着しました。
「結局言っても分かりませんか、ちょうどいい。今日のトーナメントでどちらがアイ先輩にふさわしいかハッキリさせましょう!」
「いや、そんな友達をランク付するつもりは私には……」
「あ?マジ受けるわ!昔アイと習い事が一緒だか知らねぇがアイに執着しすぎじゃねぇの?!なんだってそんなにアイにこだわりやがる!!」
「っ!……楽しいからですよ」
「ん?」
急に私の表情が曇ったのでしょう。ワタシの反応にノドカが首を傾げました。そうこうしてる内に手芸部のメンバーが私を迎えに来たのでワタシは合流、アイ先輩と別れる事になりました。
「今トーナメント表を見せてもらいましたが、決勝でワタシ達と戦うようですよ。勝ち残れるか楽しみですね」
「あ?言ってな!アタシらが絶対勝つ!」
「負けないからね。でも楽しもうマコトちゃん」
「おいアイ、変な手心加えんなよ」
ノドカと比べてアイ先輩のなんて気遣いの出来る言葉、やはりアイ先輩、あなたはノドカの隣にいるべきじゃない。そう思いながらワタシは手芸部員に先導されながら屋上へ歩いていきました。
「あのピンク髪が模型部最強の『ユミヒラ・ノドカ』ですか……俺達で勝てるんでしょうかね?」
手芸部の部員が不安げに聞きました。ノドカの実力、それはアイ先輩とは比べ物にならないと言われてます。
「くっくっく。何を心配してるんだお前ら?」
品の無い声がワタシ達の横から響きました。これまた品の無い顔の男が現れました。この方はガンプラバトルでワタシの相方となるビルダーです。
「所詮女の作るガンプラだぜ?ガンプラは本来男の作るもんだ。専門外の奴らが作ったって恐るにたりねぇよ」
「ワタシの性別を知っての発言ですか?それは」
「あ、いやそんな事は……」
ワタシが不機嫌そうな顔を見せると彼は急に押し黙りました。とはいえ彼の発言は一応気休めにはなりました。
「まぁ確かにあなたの言う通り、大丈夫ですよ。この日の為にワタシ達は腕を磨いてきたんですから」
……
「……と思ったんですけどね……」
屋上の観戦モニターを見ながらワタシは絶句しました。準決勝、アイ先輩達の試合です。
「おらおらおらぁ!!!!」
雄叫びを上げながらノドカは弾幕を掻い潜ります。相手は『ガンダムSEED』に登場したフリーダムガンダムとジャスティスガンダム。しかも二機とも武装ユニット『ミーティア』を装備していました。
背中に小型戦艦を接続したような機体からはヤマアラシの針のごとくミサイルやビームが乱射されます。アイ先輩のガンダムAGE-1は攻撃を掻い潜るのに精いっぱいですが、
ノドカの方は全く恐れないでミーティアに突っ込んでいきます。乗機は高機動型に改造したジェノアス。至近距離に入ると、そのまま手に持った銃剣をフリーダムのコクピットに突き刺し破壊。後方からジャスティスのミーティアが大型ビームブレードで斬りかかってきます。
ノドカのジェノアスは後ろを向いてるにも拘わらず横に回避、縦に降られたビームソードはフリーダムをミーティアごと真っ二つにし大爆発を起こしました。
しかしその爆発はジャスティスの目くらましとなってしまいました。視界を奪われた隙にノドカのジェノアスは左手にビームサーベルを持ち、ジャスティスを切り裂きました。完全にノドカの実力は他を寄せ付けない強さで圧倒していました。
「ちぇー、私の出番またなかったなぁ」
「アタシの実力にかかればこんなもんよ。アイ、やっぱアタシカッコイイっしょ?」
得意げになるノドカ、アイ先輩にいい所を見せようとかっこつけて……ぐぬぬ。
「やべぇよ……あんなのと戦うってのかよ……」
ワタシの相方が青ざめた顔で二人に怯えていました。しかしあの実力は驚異です。このまま戦っても結果は日の目を見るより明らか、
「どうしますマトイさん、棄権します?」
「……こうなったら仕方有りません。秘策としてワタシにいい考えがあります」
「何があるんだよ」
「生徒会の権力を見せてやるまでですよ」
準決勝までが終わり、残すは決勝戦のみとなりました。しかし決勝戦前には休憩の昼休みを挟みます。アイ先輩とノドカ、模型部の面々は屋上でシートを広げてお弁当を食べていました。それもアイ先輩の手作り弁当を!です!なんと羨ましい!
「ふむ、ここまでは順当に勝ち進んできたな。この調子なら私達模型部が勝つのも必然だな」
ずず、と音を立てながら、湯呑に入れたお茶を飲む副部長のタテノ・ユメカ。呑気そうな雰囲気ですが、かつて生徒会を潰したと言われる魔女……。彼女がいては作戦が実行できません。
「でも良かったのかい?アイちゃんに昼食の弁当作ってもらえて」
「いいんですよ。あれこれ考えるの苦手ですから、ちょうどいい気分転換になりました」
重箱を片付けながらアイ先輩は嫌味なしに答えました。やはりアイ先輩は優しい。と、ずっと眺めてるわけにはいきません。ワタシ達は作戦を実行しなければ、ワタシは自分の隣に待機させていた小学生の男の子に「よろしくね」とアイ先輩の方に行くように目くばせしました。
ビルダーの子供はアイ先輩の所へとてとてと歩いていきます。
「あ!あの!そこのお姉さん!ヤタテ・アイさんですよね!それとタテノ・ユメカさん!」
「そうだけど、君は?」
アイ先輩は穏やかな顔で少年に答えました。
「2人ともファンです!準決勝までの戦いを見てて、僕感動しました!2人の意見を取り入れてガンプラを作りたくて、それで今下の階でガンプラ買いたいんですが!ガンプラ選ぶのに一緒に選んでほしいんです!そしてアドバイスを下さい!」
「あ、ありがとう。でも私あんまり活躍出来てないよ。どっちかというと横のノドカの方が……」
「顔が怖いんで……」
「なんだとこの野郎」
「ふむ、アイ君がいるのはいいが私を指名する理由がいまいち解らないな」
「あ!あなたも立ち振る舞いがファンなんです!血も涙もない上にあの人を食ったような立ち振る舞いが!」
「ガンプラと関係が無いじゃないか」
「あ、でも僕の姉、姉ちゃんもファンなんです!姉ちゃんもユメカさんのファンで!一緒に姉ちゃんの分のガンプラも選んでくれませんか?!」
「君の姉さんかい?どうも怪しいな」
「ボインですよ」
「よし行こう。今すぐ行こう」
ボインと聞いた瞬間にユメカの表情は途端に明るくなりました。この魔女は……!
「ユメカ……君が行くんじゃ粗相があっちゃ大変だ。僕もついていくよ」
渋い顔で名乗りを上げたのは太った少年、模型部の部長、ケンモチ・ノゾム、ユメカが暴走すれば彼もまたおまけでついてくる様なものです。
「というわけで私達は下の階のプラモ売り場見てくるから、後よろしくねノドカ」
「おう、決勝の時間までには戻ってこいよ」
そうしてアイ先輩は少年を連れて下の階へ降りていきました。少ししてワタシは弁当箱を片手にノドカ達に向かいます。
「あれユミヒラさん?アイ先輩はいないんですか?」
「あ?さっきガキ連れて下降りて行ったぜ」
「そうですか。残念です。折角お詫びに一緒に食べようとしたのに」
わざとらしくワタシはアイ先輩がいないのを意外そうに言いました。「お前も弁当作ってきたのか?」とノドカは言いました。
「まぁいいでしょうユミヒラさん。用があったのはあなたですから」
「あ?」
「実は朝の事でお詫びを言いたくて、さすがのワタシも言い過ぎました。これ、よかったら食べてもらえますか?」
ワタシは長方形状の弁当箱を開けました。中には箱のスペースギッシリに、色とりどりのサンドイッチが入っていました。
「お前のお詫びかよ。なんか怪しいなぁ、変なもんでも入ってんじゃねぇか?」
「失礼な、よく見てて下さい」
ワタシはサンドイッチを一つ掴むと一口それを食べました。よく噛んで飲み込むともう一口、
「自分で言うのもなんですが、美味しいです」
「毒は入ってねぇみてぇだな。ま、もらっておくよ。アイと一緒に食べるぜ」
「!そ!それはいけません!」
「なんで?」
「あなたに持ってきたからです!これはあなたがアイ先輩にふさわしいという証なんですから!考えを改めました!ワタシじゃあなたにはとても敵いませんよ!!」
「お……おう」
「じゃ!食べて下さい!今すぐ!!」
「まぁそう言うんだったら……」
そういうとノドカはワタシの作ったサンドイッチを一つ取ると食べました。次の瞬間、ノドカの表情が一気に曇る。そして次の瞬間、顔は青ざめ、一気に脂汗が顔面から吹き出し……
「っ?!ぎぇぇええええええええ!!!!!!!なんじゃこりゃぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
この世のものとは思えない奇声を発しながらノドカは倒れこみ、気を失いました。残った模型部員達は一斉にノドカに駆け寄ります。ワタシはその隙に一目散に逃げました。
「……元々アイ先輩と一緒に食べる為に作ったんですけど、やっぱり他人の舌には未だ駄目でしたか……」
ワタシは自分のサンドイッチの味を思い出しながら走って行きました。その後、アイ先輩が駆けつけて気絶したノドカを起こしたようです。しかし自分でいうのもなんですが、常人がワタシの料理を食べて平気でいられる訳がない。丸一日尾を引くんですよ。ワタシの料理の味は。これで決勝はいいハンデになるハズです。
そして休憩時間が終わり決勝戦となりました。険しい顔でワタシと対峙するアイ先輩、明らかに顔色の悪いノドカ、二人とも怒っているのは見ただけで分かります。しかし今日は負けるわけにはいきません。でも後でアイ先輩には謝っておきましょう。……ノドカは別にいいや。
「まず最初に言っておきます。あの男の子を差し向けたのはワタシ達です。やはり怒ってますか。アイ先輩」
ここで自供したのは黙ってても副部長のタテノ・ユメカに調べられてばれると踏んだからです。あの人はもの凄くこういう事や弱みを握るのが敏感なんです。
「当然だよマコトちゃん。……何でこんな事したの」
「……理由もなしにアイ先輩にべったりなユミヒラさんが許せなかったから、ですかね」
「え?」
「お、おい。マトイ……!てめぇよくもあんな激マズ料理食わせやがったな……!」
震える声でノドカはワタシに怒りを向けてきました。しかしボロボロな声、明らかに笑ってる膝、青ざめた顔色、調子の悪さは一目瞭然でした。行ける。これなら!
「ノドカ、大丈夫?棄権する?」
「冗談……!アタシはやれるぜ……!」
「無理しないでね」
そしてバトルが始まりました。今回の舞台はジャブロー基地、時間帯は満月の眩しい夜。ガンダムシリーズ最初の作品、ファーストに登場した地球連邦軍本部。南米にあるともギアナにあるとも言われており、ジャングルの真下、地下の巨大な鍾乳洞を利用した大型の基地です。お互いのチームは母艦から出撃、ジャングルの岩山に降り立ちます。
ワタシはGNアーチャーのバックパックを取り付けたノーベルガンダム。相方のビルダーは狙撃用の機体『ジムスナイパーⅡ』『ポケットの中の戦争』という作品に登場した量産機で、名前の通り狙撃に強い機体です。
加えてこの機体の背中には『ガンダムSEED』に登場した『プロヴィデンスガンダム』の遠隔操作装備『ドラグーン』が装備されています。射撃は一切の隙がありません。アイ先輩とノドカの二人も岩山に降り立つのが見えました。高機動型のジェノアスとガンダムAGE-1、お互いの姿は丸わかりというわけです。
と、すぐさまノドカの乗機であるジェノアスが猛スピードでこちらへ向かってきます。その後ろをアイ先輩のガンダムAGE-1が追いかけていきます。
「マトイィィッッ!!!!!」
肩と額宛てはHGのジェスタ、マシンガンと背中はHGのジン・ハイマニューバのパーツを移植したジェノアスでした。更に目を引くのは全身のデカールです。人魚やタツノオトシゴ、海をイメージしたデカールが目を引きます。総合手芸部所属の私はそれがガンプラに違和感ある物だとすぐに気づきました。何故ならこれはプラモ用のデカールではありませんから。
と、それよりも攻撃的なフォルムを持つジェノアスはマシンガンを乱射しながら私達にまっすぐ向かってきます。
「待ってよノドカ!!」
AGE-1は背中に背負った武装とスラスターの複合兵装『グラエストロランチャー』を装備してるにも拘わらず、AGE-1の機動性はジェノアスには劣る様です。差はどんどん開いている。この隙にノドカのジェノアスを倒してしまおうとワタシはノーベルでマシンガンの弾を掻い潜り、ジェノアスに斬りかかりました。
「まだ元気みたいですね。ワタシの料理を食べてそんなに叫ぶとは」
「そんなノーベルガンダムにGNアーチャーつけた程度の改造で勝てると思うなよ!!」
マシンガンの銃剣でノーベルのビームサーベルを受け止めるジェノアス、機体は元気な様ですが声は相変わらず上ずってます。恐らく気持ち悪いのでしょう。
「このまま高速戦闘で揺らしたらどうなりますかね!」
「クククッ!どうなるか楽しみだぜ!」
ワタシの相方が叫びました。鍔迫り合いの状態のジェノアスを撃ち抜こうと、相方のジムスナイパーⅡはジェノアスにスナイパーライフルで狙い撃とうとします。この状態ではジェノアスは避けられないでしょう。
「!新手か!」
このままあっけなく勝敗は決する。と思いきや、後方からの二条の大型ビーム、そして六つのミサイルが飛んできました。ビームはジムスナイパーⅡの狙撃を遮断し、ミサイルはジェノアスを跨いでワタシのノーベルの背中へと向かいます。ワタシは悔しさに呻くとその場から離れつつミサイルを迎撃しました。
「ノドカ!一人で突っ走っちゃだめだよ!!」
「アイ!おせぇぞ!!」
撃ったのはアイ先輩でした。合流した二機は寄り添いながら私達に撃ってきます。
「やはり先輩でしたか。そんな簡単に勝てるとは思いませんでしたが……」
ここで分散させるか、二機とも相手をするか、正直迷いましたが、ワタシの願望は先輩の相手がしたいという事でした。
故に分散させるべきと考えたワタシは相方のジムスナイパーⅡにノドカの相手をする様に打診します。相方は応じると背中のドラグーンを展開、ノドカのジェノアスに撃ちながら突っ込んでいきます。
「タイマンと行こうじゃねぇか!模型部最強の女!!」
「サシでやろうってか?!」
「その通り!お前を倒せば俺が最強だ!!」
「待ってノドカ!本調子じゃないんだよ!ここは協力して!「先輩っ!!」っ!!」
ノドカを止めようとするアイ先輩を止める様にワタシは斬りかかりました。アイ先輩のAGE-1はツインソードライフルから二本のビームサーベルを発生、ノーベルのビームサーベルを受け止めました。その隙にノドカはジムスナイパーⅡへと飛びます。
「やっと二人っきりになれましたね。私は二人の時間を過ごしたかったんですよ。アイ先輩」
「私の場合は皆でワイワイやる方が好きなんだけどね!!」
ノドカを追いかけるのを諦めたアイ先輩。先輩は叫ぶとシールドの先端部に取り付けたビームサーベルを発生させます。前にワタシとバトルした時に使った手です。またもワタシのノーベルを切り裂こうとする。素早く察知したワタシはそれをバックステップで回避、
「おっと!それは前にやられましたからね。今度はそうはいきませんよ!その背中の新装備!どれ程早いか見せてください!!」
「いいよ!ノドカが作ってくれたグラストロランチャーの力!見せてあげる!」
アイ先輩のAGE-1、でも新装備を作ったのはノドカ、なんだかアイ先輩との時間に水を差されたようでムッと来ます。
「っ!こんな所までユミヒラさんは邪魔をする!!」
ワタシのノーベルは背部ブースターからミサイルを展開、一斉発射してすぐさまノーベルをAGE-1に突撃させます。アイ先輩のAGE-1もグラストロランチャーの推進力とミサイルを使いこちらへと迫りました。
一方のノドカの方のバトル、ジムスナイパーⅡの方は長時間飛べない為、ジェノアスの方が有利かと思いきや、ノドカの方はどうもジムスナイパーⅡの方に押されっぱなしでした。
「オラオラ!どうしたどうしたぁい!!」
コーン状のドラグーンが五基、飛び交いながら内蔵式のビーム砲でジェノアスを狙い撃ちます。ジェノアスの方は最初の方こそ豪快なスピードと動きで避けていましたが、次第に動きは小さくなっていきました。現在はドラグーンに取り囲まれるような体勢です。
「ぐっ!くそっ……!ぎ……ぎぼちわるぃ……」
「これが模型部最強とうたわれた女か?」
「っ!人が調子悪い時に調子に乗りやがってぇ!!」
怒りを返す様にジェノアスはマシンガンを撃ちます。ですがジムスナイパーⅡは距離を置いてる為が攻撃は届かない。そして隙をついてドラグーンの射撃が邪魔をする。さっきからこんな感じです。今のノドカのコンディションは最悪。加速のきついノドカのジェノアスでは素早く動くことが出来ないのでした。
「へっ!機体の長所も活かせねぇたぁお笑いだぜ!!その機体のデカールも同じだ!!」
「何だと!!」
「よく見りゃそのジェノアスのデカール!妙に膨らんでると思ったらネイルアートのシールと小物用の転写シールじゃねぇか!!全然似合ってねぇな!」
「何を!!」
「俺は総合手芸部にいたから分かるぜ!ネイルアート担当や小物製作担当の女どもが使っていたツールだ!役にも立たねぇのに可愛さ優先かよ!女の考えそうな事だなぁ!!」
「っ!アイの出したアイディアだ!アタシの『ジェノアス・ピースメーカー』を馬鹿にすんじゃねぇぇ!!」
相手の挑発に怒りながらもノドカはジムスナイパーⅡに向かっていきました。あの勢いだと自分の気持ち悪さは忘れたのでしょう。単純です。
さて、一方でこちらの空中戦は……
「でぇぇい!!」
満月をバックに、私のノーベルが背部コンテナから一斉にミサイルを発射します。アイ先輩はグラエストロランチャーのビームで収束しかけていたミサイルを一気に撃ち落とします、ビームの濁流は月夜で明るいジャングルを更に照らしました。しかしすべて撃ち落としたわけではありません。撃ち漏らしたミサイルは二発AGE-1に飛んでいきます。
「チッ!頭部にバルカンが搭載されてないのって地味に不便かも!!」
そう言ったアイ先輩は引き離そうと上昇しますがミサイルはホーミング式、執拗に追いかけます。ワタシもミサイルとで挟み撃ちをするべく二丁のビームライフルを撃ちながらAGE-1に接近、アイ先輩はワタシのビームライフルを回避しながらツインソードライフルをミサイルに撃ちました。撃ったビームはミサイルに一発ずつ当てていき二発迎撃、
ワタシはノーベルのビームサーベルを発生させ、二刀流でAGE-1に斬りかかります。しかしAGE-1もライフルとシールドのビームサーベルでそれぞれを受け止めました。
「フッ!高校では初めてですね。こうやって二人っきりになれるのは」
ワタシは通信をアイ先輩だけに聞こえる様つなげました。
「それはそうだけど言ってる場合じゃないでしょ!ノドカにした事!私は怒ったままだよ!!」
「えぇ、ワタシの料理の腕も相変わらずですよ!思い出しますね!ワタシが先輩と初めて会った時の事を!!」
「?小学生の料理教室の時の事を?!」
――そうです。ワタシが何故アイ先輩に執着するのか。あれはワタシが小学4年生の時の事です。
自分でいうのもなんですが、ワタシは子供の時から勉強もスポーツも出来る才女でした。しかし一番のワタシの出来ない事があります。それはワタシが重度の味音痴だという事でした。人が美味しい物を不味いと言い、不味い物を美味しいと言う。生まれつき天邪鬼の舌でした。
親はリハビリや克服を兼ねてワタシを料理教室に通わせました。しかしワタシの料理の腕はあのままです。加えて周りの生徒はほとんどが大人の人でした。
アドバイスを貰ったり手伝ってもらった時はうまくいきましたがワタシは一人でやりたかった。加えて教室では自分が作った物を他の生徒に食べてもらう行事がよくあります。
ワタシの料理は皆にやんわりとですが避けられました。そしてワタシは皆が美味しいという物を不味いと感じながら食べる。……次第にワタシは料理が作るのも食べるのも嫌いになっていきました。徐々にワタシは周囲と壁を作っていったんです。
やめようかと考えていたそんな時、一人だけワタシと同い年の生徒がいました。……その人がアイ先輩でした。
「ねぇマトイさん。よかったら私の家で料理の練習しない?」
帰り道で話しかけてきたのがアイ先輩でした。その笑顔は今と変わりはありません。反面ワタシの表情はかなり曇っていたと思います。
「……なんでですかヤタテさん?練習なら一人で出来ますよ」
「まぁそう言わずに、他の人に食べてもらう時にマトイさん、凄い寂しそうにしてるでしょ。他の人の好みとかも勉強しておくと良くなるかもと思ってさ」
「美味しい物は誰が食べても美味しいでしょう?ワタシの料理は好みの勉強でどうにかなるものじゃありませんよ」
「でもさ、私はマトイさんに笑顔で作ってほしいんだ。ムスッとした顔で料理を作るより、楽しい気持ちで笑顔で作った方が絶対いいよ。そっちの方が作るの好きになれるから」
作るのを好きになる。味の結果ばかりを追い求めていた自分にとっては盲点でした。渋々ではありましたが、それ以降ワタシと先輩は家で一緒に料理を作る練習をする様になりました。アイ先輩は私の作ってる途中の料理を味見しながらアドバイス等をくれました。
少しずつではありますが自分の下に頼らない味を少しずつ覚えて、教室の人達にも評価を貰って……、料理を作るのを好きになっていったんです。そして私は、次第にアイ先輩に心を開いていったんです。
「今日のブラウニーは皆好評だったね」
そしてある日、アイ先輩の家に御呼ばれしたワタシは、キッチンでを野菜を切りつつ、今日の料理教室の事を話していました。
「中にゴボウ入れてたのが意外でしたよ。あれってヤタテさんが考えたんですか?」
「うぅん、割と鉄板のやり方だよ。でも食べさせたい奴がいるってのも事実だね」
「食べさせたい奴」という言葉に私は反応しました。
「幼馴染の友達なんだけどね。私の親さ、友達の親も共働きでさ、晩御飯はいつもそいつと外食とか自分達で用意してたんだけど、そいつが凄く好き嫌い多くてね。体壊しちゃいけないって思って料理教室通い始めたの」
「凄いですねヤタテさん。友達の為にそこまでするなんて」
「そんな大した事じゃないよ。食べるのは私も同じだからね」
するすると大根の皮を包丁でむいてる先輩。普段はのんびりした印象なのに、こういう風に何かに打ち込むこの人の姿は、いつも凄く格好良く見えるんです。ただ一心不乱に撃ち込む姿、自分がプライドを優先させていた事を考えるとなんだか自分が小さく見えてくる。そして自分はある事を思いつきました。
「そんな事ありません!あ!あの!決めました!今日からヤタテさんの事!『先輩』って呼ばせてください!!」
「いぃっっ!?……あつっ!」
突拍子の無いワタシの発言にアイ先輩は凄く驚いたようです。直後アイ先輩は顔を強くしかめました。さっきの拍子に包丁で親指を切ってしまったのです。
「も!もう!何言ってるのマコトちゃん!!」
「え?わぁぁ!!ご!ごめんなさい!変な事言って!!」
自分の所為で先輩が指を切ってしまった。その失態にワタシは頭の中が一気に真っ白になっていきました。
「ででででも料理教室に通っていたの先輩が先だったんでこう呼ぶべきだと思ってたんです!!」
「ま、まぁ別に誰かにそんな風に呼ばれた事ないから別にいいけど、そ、それより血を拭きたいんだけど救急箱……」
照れながらもアイ先輩の切った親指からは血が溢れてきます。照れと混乱でワタシはどうすべきか解りませんでした。そしてとっさにワタシはとんでもない行動に出てしまいました。
「わ!わかりました!!」
ワタシはとっさにアイ先輩の切った親指を…口に咥えました。
「えぇ!!マ!マコトちゃんん!!」
動揺するアイ先輩をよそに、ワタシはアイ先輩の傷口を嘗めます。アイ先輩の血……しょっぱくて美味しい……。自分の味覚がおかしいのは自覚はしていますが、これも他人と違う感想でしょうか?不思議な感覚ですが、ワタシは舐めるのに夢中になっていたんです。そしてワタシの行動に先輩も固まっていました。
「……何してんだお前ら?」
しばらく先輩の血を舐めていたワタシは突然の声によって現実に呼び戻されました。指から口を離し、見るとツインテールの目つきの悪い女がいました。そう、にっくきノドカです。
「あ、ノドカおかえり」
「おう、そいつが料理教室の奴か?」
「うん、マトイ・マコトちゃんだよ」
「あ、どうも初めまして……」
挨拶を先輩から促されて挨拶をするワタシ、ノドカの目は訝しげにワタシを見ていました。
「なんていうか……指舐めてあんな表情してたなんて……アイ、友達は選んだ方がいいんじゃねぇか?」
「!!」
グサッとワタシの胸に言葉が突き刺さりました。そんなに変な顔してましたかワタシ!!
「そんなこと言っちゃ駄目だよノドカ、マコトちゃんなんでも出来る人なんだから」
「いやだって上目遣いで指嘗めるって……、アイ、お前もしかしてそういう趣味が」
「ないよ!!急に指切ったからとっさにやっちゃっただけだよ!お互い慌てていただけだよ!」
顔を赤くしながらアイ先輩は救急箱を取りに行きました。
「ま、いっか。ちょっと疲れてるからアタシ部屋行って休んでるぜ。飯になったら呼べよー」
「うん。今日は豚汁だよー」
「変な野菜入れんなよー」
「それはどうだろう」
そんなやり取りをしながらノドカは自室に向かっていきました。その横で恥ずかしさの余り、ワタシはぶるぶると震えていました。
「まぁあれが私の幼馴染だよ。口は悪いけど心は悪くないから嫌いにならないでね、ってマコトちゃん?どうしたの?」
「み!見られたぁぁ!!しかも気持ち悪い的な事言われたぁぁ!!!!!!」
「うわぁ!!マコトちゃん落ち着いて!!」
そんなこんなでワタシとアイ先輩は親睦を深めていきました。しかしそれも長くは続きませんでした。元々学校は別々、中学校に上がると同時にアイ先輩は料理教室をやめ、ワタシと先輩は音信不通になっていきました。その所為か腕を上げかけた料理の腕もだんだん戻って行ってしまったんです。
そして高校で再会。でもその横には常にあのノドカがいたのです。そして趣味は模型が増えていました。そしてワタシはアイ先輩を総合手芸部に引き込もうとしました。ノドカと引き離すべく。――
ワタシがそんな事を脳裏に思い出しながらもアイ先輩とのバトルは続いていました。両者ともビームライフルを撃ちあいますが、お互いが飛べるうえに機動力を改造した機体です。射撃ではそもそも当たりません。
「高速で動き回って!ラチがあかないよ!!」
「同感です!!」
ならば!とアイ先輩は眼下のジャングルにAGE-1Eを突っ込ませました。直後、ジャングルの中からビームが幾重にもノーベルに向かってきます。木々に隠れながらライフルを連射してきたわけです。
「そう来ますか!ならば!!」
ワタシは背部コンテナのミサイルを全展開、一斉に発射し真下のジャングルに雨のごとくバラバラに降らせました。それによる爆発はジャングルを火の海に変えます。いぶりだす作戦です。
「逃げないで出てきてください!」
「誰が逃げたって言ったの!!」
火の海と化したジャングルの中から一つの物体が高速でこちらに向かってきました。暗くてよく見えませんが、これがアイ先輩のAGE-1と確信するとワタシはビームライフルに取り付けられたビームサーベルを振るいました。
防御するかと思いきやそれはあっけなく切り裂かれる。「やったか?」と思ったワタシですが、直後、Gポッドのアナウンスに、そして切った物体の正体にハッとしました。
「AGE-1じゃない!グラエストロランチャー!それじゃ!!」
後ろを振り返ろうとした瞬間、ノーベルは背中を大きく切り裂かれました。ワタシがビームサーベルで斬った物体はAGE-1のグラエストロランチャー、気を取られてる内にノーベルの背中はは斬られ、GNアーチャーのパーツは破損、ノーベル本体はジャングルへと墜落していきました。
「失敗したね!マコトちゃん!!」
不時着し、膝をつくノーベルにAGE-1は悠然と歩いてきます。
「まだ!まだですよ!ワタシには!アイ先輩の為に勝たなきゃいけないんですから!!」
ワタシはそう叫ぶと武装を投げ捨て、背中に残っていたパーツをパージ、ワタシは素の状態となったノーベルガンダムの『切り札』を作動させました。
「私の為にってどういう……ハッ!!」
アイ先輩が言い終わる前にノーベルの異変に気付いたようです。
ノーベル本体は真っ赤に輝き、ばらけた髪状のフィンは怒髪天の様に逆立つ、咆哮の様な衝撃波は周囲の木々をなぎ倒します。思わず相対するAGE-1も身構えます。そしてノーベルは少し屈むと、獣の様な勢いでAGE-1へと迫りました。これがノーベルガンダムの切り札、バーサーカーモードです。
「ワタシはですねっ!!」
動きの妨げになるGNアーチャーのパーツは全て外した為、この姿では徒手空拳での戦い方となります。しかし本来格闘に強く調整されたノーベルには素手で問題ありません。ワタシはノーベルの貫手を連続で放ち、AGE-1を襲います。
連続で放つ貫手は幾重にも重なって見える速度です。あらゆる方向から襲ってくる貫手にAGE-1はシールドで防御しますがすぐにシールドは穴だらけになります。
「なんて威力!!」
「このマニピュレーターはメッキシルバーで塗装してあります。ガンプラバトルでの硬度は増してるのですよ」
防御は駄目だとアイ先輩は悟ったのでしょう。シールドを捨て、開いた左手にビームサーベルを持ちました。こちらもバーサーカーモードはそんなに長く持ちません。すぐさまワタシはAGE-1を破壊すべく飛びかかり、貫手と蹴りの連打を浴びせました。アイ先輩は声を上げながらビームサーベルで必死にそれを捌きます。
「アイ先輩が料理教室をやめた後!!私はいつかアイ先輩と再会した時の為に腕をみがこうとしました!!でも……できませんでした!!」
AGE-1を押しながらワタシは自分の胸中を語る。蹴りが一つ、AGE-1の頭を掠めました。
「ッ!!なんで?!!」
「気付いたんですよ!自分一人で料理を極めようとしていたけれど!あなたがいたからこそワタシはうまく料理が出来たんです!あなたと料理をしていいるからこそ楽しかったって!だから来てほしいんです!総合手芸部の料理部に!!」
「それでも私は!今の模型部が好きだよ!!」
「もう一度!あなたと一緒にいたんです!」
直後、AGE-1の右腕にノーベルの回し蹴りが炸裂、ライフルが空に舞いました。その勢いを利用してもう一回蹴りを見舞います、さっきより角度を上に付けた一撃でした。ノーベルのパワーはAGE-1を大きく蹴り上げました。
「かはっ!!!」
追い打ちとして、ノーベルをジャンプさせます。宙に舞ったAGE-1の高さを超えると、AGE-1をかかと落としで叩き落とします。轟音と土砂を巻き上げてAGE-1はジャングルへ墜落しました。
「うわぁぁぁっっ!!!!」
「ワタシとあなたの為にやられてください!!先輩!!」
その光景は遠くで戦ってるノドカにも見えた様です。こちらもジムスナイパーⅡの猛攻と自分のコンディションの影響でもうボロボロでした。
「あ、アイが!!」
場所は見通しのいい開けた岩山。膝をついた体勢のジェノアス・ピースメーカー、機体越しに燃えるジャングルを見つめるノドカ、気持ち悪さを抑え、なんとか彼女はこの状況をどうしようかと考えました。
「クソッ!ここからじゃ遠すぎる!!どうすりゃ……!!」
「ハハハッ!この期に及んでお仲間の心配か?!自分の心配をした方がいいぜぇ!!」
ハッとしたノドカはジムスナイパーⅡの方を見ます。トドメとしてスナイパーライフルを構え、ジェノアスを狙っていました。
「!あれだ!!」
「地獄に落ちな!!」
ジムスナイパーⅡがトリガーを弾こうとした瞬間、ジェノアスはスラスターを全開、ジムスナイパーⅡに一気に迫ります。ジムスナイパーⅡは一瞬驚きましたが、すぐ冷静になってスナイパーライフルをジェノアスに撃ちました。しかしジェノアスは機体を僅かに動かし回避、
「なっ!!」
「アイが待ってんだ!!それよこせぇぇ!!うぷっ……」
そしてジムスナイパーⅡがドラグーンで対応しようとする前に、ジェノアスは銃剣付きのライフルをジムスナイパーⅡ目がけて全力で投擲します。狙いはコクピット、
しかし投げる直前に気持ち悪さが襲って来た為か投げるタイミングが一瞬ずれました。その所為で狙いが狂った事とジムが回避行動をとっていた為、銃剣はジムスナイパーⅡの右肩を貫きました
右腕ごと空を舞うライフル。「それだけありゃ十分だ!」と、すぐさまジェノアスはスナイパーライフルを掴み、少し離れた場所に降り立つ。そしてスナイパーライフルを構えました。ノーベルを狙撃するつもりです。
「こ!この野郎!!だが残念だったな!その場所で撃ってもAGE-1の所へは届かねぇぜ!何故ならその距離は通常機のセンサーじゃ届かねぇ!!」
そう言いながらもジムスナイパーⅡはジェノアスの狙撃を阻止すべくドラグーンでジェノアスを襲います。ドラグーンからのビーム砲にジェノアスは晒され、見る見るうちにパーツが破損していく。だがノドカは動じませんでした。そしてビーム砲がジェノアスの頭部のクリパーツを砕いた瞬間。
「アイ!アタシは信じてるぜ!!受け取れ!!」
ノドカはそう叫ぶとスナイパーライフルを撃ちました。弾丸は真っ直ぐこちらへ向かいました。それを知らないワタシはノーベルの左手でAGE-1の首を掴み持ち上げていました。コクピットにトドメをさすべく、右手にさっき捨てたビームライフルを持って。
「強化した蹴りなのに、AGE-1本体は壊せないみたいですね!でもビームサーベルならそれも無駄ですよ!」
「くっ!」
「楽しかったです。アイ先輩!」
コクピットにビームサーベルを突き立てようとしたその瞬間、ワタシのノーベルの胸をジェノアスが撃った弾丸が貫通しました。中心部、コクピットを一撃でした。
「え?なぜ……」
その時のワタシは自分の置かれた状況が一切理解できませんでした。そのままノーベルは倒れこみ爆発、ワタシは撃墜扱いとなりました。
「ノドカ……ノドカだね?」
「な!何故だ!!お前の頭部のセンサーで!!」
「き、きひひ♪こいつのどこが通常機のセンサーって言ったよ」
そう言いながらノドカはジェノアスの頭をジムスナイパーⅡに見せつけるかのように向けました。ジェノアスの頭部の中心部には宝石の様なパーツが輝いていました。
「それは……宝石?」
「あ?なわけねーだろ。百均で売ってたラインストーンシールだ。ちょっとした裏技だな!」
「ひ!卑怯者がぁぁ!!ガンプラの正規品使わないたぁ!!」
「アホか!合法だろうがよ!!」
ワタシの相方は、自分が間接的にワタシの撃墜の原因を作ってしまったと思ったのでしょう。怒り心頭でジェノアスに襲い掛かりました。それを見ていたアイ先輩は「今度は自分が助けねば!」とジェノアスの方へ向かおうとします。しかし素の状態のAGE-1では素早く動けません。何かないかと辺りを見回す。
目についたのはさっきワタシが破壊したグラエストロランチャー。しかし右側の羽根とビームキャノンがごっそり切断されています。これでは飛べるかも分かりません。しかし考えている余裕はアイ先輩にはありませんでした。
「ノドカが作った物だもん!信じてるよ!」
そう言って先輩はグラエストロランチャーを装備。全力でスラスターを吹かします。少ししてAGE-1は飛び立ちました。少しよろめいてますが出力は落ちて無いようです。
「おらおらぁ!!覚悟しやがれ!」
ジムスナイパーⅡの猛攻、必死になったノドカは気持ち悪いのを押し込んで回避に専念。しかし追い詰められ、その場に墜落しました。
「くっ……畜生……」
「ここまで持つとは思わなかったぜ!さすがは模型部最強の女ってか?だがこれで終わりd「ノドカァァ!!!」
突然の先輩の叫び、そしてグラエストロランチャーの残ったビーム砲がジムスナイパーⅡを襲います。とっさにジムスナイパーⅡはそれを回避、続けてAGE-1はグラエストロランチャーを切り離してジムスナイパーⅡ目がけて飛ばしました。ジムスナイパーⅡとグラエストロランチャーの距離が近い。焦ったジムスナイパーⅡは全てのドラグーンを投入し、迎撃しようと全火力を叩き込みます。その隙をついてジェノアスの前に降り立ちました。
「アイ?!あんな装備でここまで来たのかよ?!」
さっき飛ばしたグラエストロランチャーの状態、そして現在のAGE-1の装備を見てノドカは驚きました。半壊状態のグラエストロランチャーでは飛べるとさすがに彼女も思ってなかったのでしょう。
「うん!バランスは悪かったけどね。ノドカの作った物だもん。信じてたから」
「アイ……そうかよ」
「ノドカ?」
「お前が見てるんだ。アタシがここで弱気になっちゃいけねぇな!!」
ノドカは歯をぎらつかせ、笑みを浮かべると勢いよく立ち上がりました。二対揃ってグラエストロランチャーを撃墜したジムスナイパーⅡに向き合います。
「くっ!お前ら!!」
「観念しやがれ!!アタシら二人を相手にして無事で済むと思うなよ!」
そう言いながら二体共ビームサーベルを構え、ジムスナイパーⅡに突っ込んでいきました。
「このぉぉぉ!!どいつもこいつもぉぉ!!」
激昂したジムスナイパーⅡはドラグーンを五基全て飛ばして二機を撃墜しようとします。高速で放たれるドラグーンの細いビームは二体を襲います。
「わわっ!ちょっとこれは!!」
アイ先輩は避けるのに精いっぱいでその場で回りながら回避という状況になってしまいました。しかし一方でノドカの方は絶妙のタイミングで回避しつつどんどん距離を詰めていきます。さっきより動きが早い。
「なんだ!なんなんだ!この動きはぁぁ!!」
焦りと共に相方はドラグーンをノドカに集中させようとします。しかしそうする前に、ジェノアスの進行上にあったドラグーンは切り裂かれ、その為あっという間に二機はジムの目の前に到達、ジムもビームサーベルで対応しようとするもその前にAGE-1とジェノアスに切り裂かれました。
「アイが見てるんだよ!かっこ悪い所なんて見せられるか!!」
「ぐ!お、女二人揃えば元気になりやがって……!!」
「あ?嫌な所なんて見せたくねぇからな。特にアイにはさ」
「タテノ・ユメカに弱みを握られてたから、女と模型部は嫌いだったが、どうやら、俺の勝手だったらしい……な……」
そう言ってジムスナイパーⅡは爆散。イングレッサの大会はアイ先輩とノドカ、模型部の優勝となりました。
「凄いよノドカ!!あれだけ辛そうだったのにあんなに敵なしだったじゃない!!」
アイ先輩はGポッドから出てくるや否や、ノドカのGポッドに駆け寄ります。しかし当のノドカはGポッドから飛び出すや否や、口に手を当てながら走っていきました。あー……どうやら押し込めてた気持ち悪いのが今更ぶり返したようで、
「の、ノドカ?」
十中八九トイレに行ったんでしょうね。策を講じたにも関わらず負けた事は悔しいですが、ノドカの締まらない終わりを考えると少しは一矢報いたといった感じでしょうか。
「ねぇユメカ、あの手芸部の人、ユメカに弱み握られてたって言ってたけど、君何したの?」
「……さぁ?心当たりが有りすぎてさっぱりだよノゾム、まぁ私が覚えてないのだから大した事ではないだろう」
「大した事だと思うよ?!!」
そしてその後、イベントも終わり、全員が帰路に着こうとしていた時でした。早く準備を整えたワタシは、アイ先輩をイングレッサの入り口で待っていました。手芸部や模型部の面々は出て行くのを見ましたが肝心のアイ先輩とノドカは見てません。
まだかな……と待っていると。「あれ?マコトちゃん?」と知った声が聞こえました。模型部部長のケンモチさんとタテノさんの二人でした。……タテノさんのセクハラが来るかもとワタシは警戒として体をこわばせます。
「アイちゃんを待っているのかい?」
「えぇ、一緒じゃないんですか?」
「ヤタテ君達だったら上の階のゲーセンコーナーにいるぞ。ところでマトイ君、今日はどうも手が寂しいんだ。君の胸を揉ませ「ユメカ、いい加減にしようね。僕達は先に帰るけど上に行けばアイちゃん達に会えると思うから、それじゃ」
「あーマシュマロちゃんがー、駄目ならお腹でいいからー」と名残惜しそうにタテノさんはケンモチさんに首根っこを掴まれイングレッサを出て行きました。……ケンモチさん苦労してますね。
そして言われた通り五階のゲームセンターのコーナーにワタシは行きました。ソシャゲが流行って以来、ここも人が少なくなったと言われてますが、確かに人は余り見ません。これならアイ先輩は楽に見つかりそうと思い見回しながら探します。……いました。ノドカと一緒にプリクラを撮ってます。機械の後ろの布の所為で二人の足しか見えませんでしたがすぐ気付けました。
「アイ先輩!!」
「あっマコトちゃん」
「げぇ!!マトイ?!なんでお前がくんだよ!!」
すぐさま突撃、二人してタッチパネルを操作して撮影の準備をしてる所でした。
「二人だけでプリクラ撮ろうなんてズルいですよ!ワタシも入れて下さい!!」
「あぁ?やだよ。なんでお前なんかと。こっちは優勝記念で撮ってるんだぜ?」
「そういう事言っちゃ駄目だってばノドカ、折角だから三人で撮ろうよ」
さっすがー♪アイ先輩は話が分かるッ!二つ返事でワタシは賛成するとすぐさまアイ先輩の横にくっつきました。
「おい、くっつき過ぎだぜマトイ、スペースねぇんだからもっと離れろ!」
「気のせいです。そういうあなたこそくっつき過ぎじゃないですか。バトルの時もそうでしたけどアイ先輩が絡むと必死過ぎじゃないですか?」
いつも先輩にべったりなノドカだから今日位はこうしたいというのがワタシの本音でした。
「テメェが言うか!アタシに毒物食わせといて仲間ヅラすんな!」
「そういえばユミヒラさん。決勝終わった後気持ち悪そうでしたね、もしかして戻しちゃったんじゃないですかぁ」
「なっ!」
「やっぱりですか。アイ先輩。そんな汚い人と一緒にいちゃいけませんよ。ワタシと一緒に……」
「あぁもう二人とも!!いい加減にしてよ!!いくらなんでも今日ひどいよマコトちゃん!!」
突然タッチパネルを操作していた先輩が怒りました。明らかに迫力が違います。しまった、調子に乗りすぎた……。
「あ!!ご……ごめんなさい……」
それを見ていたノドカもまた、顔は強ばっていました。怒らせた先輩の怖さ、彼女も知ってるようです。
「それと私まだ怒ってるんだからね。ノドカ気持ち悪くさせたの」
「……ユミヒラさん、ごめんなさい」
「……一応反省してるってんなら別に文句はねぇよ」
「写真位はさ、皆心からの笑顔で撮ろうよ。……準備出来たよ。じゃ、カウントとるよ」
先輩が操作し終えると女性声の音声で「10、9、8」とカウントダウンが始まりました。アイ先輩は先ほどとは打って変わって、笑顔でVサイン、ノドカも先輩と腕を組み同様のポーズを取りました。
その時……、ワタシとノドカでの、アイ先輩との歴史の差を思い知らされた気がします。幼馴染と友達、赤ちゃんの時からの付き合いと小学生の限られた時間の関係……。このままではアイ先輩を手芸部に引き込めない。そんな不安と焦りがワタシをめぐります。
「マコトちゃんもポーズしようよ」
棒立ちのワタシに先輩が声をかけます。私も先輩の右腕に左腕を絡ませて笑顔を作りました。その瞬間、フラッシュと同時に写真が撮れました。三人の笑顔が映った写真。でもワタシにはこれから、ノドカと先輩を取り合う前触れの様に見えました。どうも微笑ましいという感じはしませんでした。
――そして結果次第ではアイ先輩とワタシはずっと一緒にいられる。そう思い、その為にノドカには負けませんと誓っていたのです。――
「と、いうわけです。別にアイ先輩は特別強かったわけではありませんよ」
場所は再びファミレスです。ワタシは最小限の部分だけアイ先輩の仲間達に語って聞かせました。
「なんか話の半分が余計だった気がするんスけど、意外だったっス。ユミヒラさんはそんなに強かったんスか」
「そりゃそうですよ。前ノドカがアイ先輩に会いに行った後、帰ってきて悔しそうでしたよ。『今のアタシと対等にやり合いやがった』って」
「ま、そういう事よアサダ。そんなすぐに強くなれるわけじゃないんだから、時間の許す限り地道にやってくしかないでしょ?」
注文したジュースをストローでかき回していたナナさんが答えます。
「……まぁ、そうっスね」
口だけは納得した風なソウイチ君。でも表情から内心は納得してないだろう。と会って間もないワタシでも分かりました。
「つまり、なにが言いたいかという事ですよソウイチ君。誰か仲間がいるだけで強くなれたり、目標が出来たりするものです。要は一人にこだわっちゃ駄目って事ですね。ねぇ、アイ先輩」
「ま、そうだね」
「解ってても踏ん切りがつかないってのもあるんスよ」
どうすればいいんだ。とばかりにソウイチ君はソファの背もたれに体を預け、天を仰ぎました。この人達の実力次第でアイ先輩が全国に行けるかどうかも左右される。実力差の離れたワタシは頑張れとしか言えませんでした……。
……その頃ノドカは……
ベアッガイ・スケアーに乗ったノドカは十人参加型のサバイバルバトルに参加していた。とはいえノドカ以外は並のビルダーだ。もうほとんど残ってるビルダーはいない。ノドカはバトルの決着をつけるべく残りの敵に真正面から突っ込んでいった。
相手は『鉄血のオルフェンズ』に登場したガンダム『ガンダムグシオン』それも1/100スケールの大型機だ。アステロイドベルトで船団を強奪する為に改造されたガンダムで、外見上はとてもガンダムとは思えない程ふとましい。例えようものなら二足歩行になった機械のウシガエルと言ったところか。フィールドは炎天下の砂漠、グシオンは宇宙でしか活動出来ない本編設定だが、ガンプラバトルでは関係ないことである。
ホバー移動で巨大ハンマー『グシオンハンマー』を振りかぶるグシオン、ノドカのベアッガイは真っ向から右手のウィニングナックルで受け止める。武装同士がぶつかり爆音が響く、直後、グシオンハンマーに亀裂が入り、ハンマーが砕けた。
「甘ぇぜ!!」
そのまま左手のバズソーを回転させながら左手を戦闘機として射出させる。分離した左手はグシオンの胸部のど真ん中を貫通し、破壊した。そのままバトルは終了。サバイバル戦はノドカの勝利である。
「ふぃー、あんま大した事ねぇなここ」
Gポッドから出た途端。ノドカは刺々しい言葉を発した。といっても誰かに聞かれる大きさではない。
「ここの空気、感じられたかい?ユミヒラちゃん」
「ハセベさんか。まぁね、規模はともかく、雰囲気はいいよ。アイが好きそうな場所だぜ」
今回ノドカがここでガンプラバトルをしたのは、アイが実力を育んだこの場所がどんな感じなのか知りたかったからだ。周りはいろんな人がガンプラ談義やさっきのバトルの話をしてる。皆楽しそうだ。
「でもレベルはあくまで並って所だ。よくアイの奴ここであれだけ腕を上げられたよ」
「そうだね。でも今の雰囲気を作り上げたのは……アイちゃんかもね」
「あ?」
「アイちゃんは好きな事には徹底的に取り組む、凄く楽しそうにね。それが周りにも『自分もやってみたい』って思わせたりする。今までも激戦は多くあったよ。でもその都度アイちゃんはライバルと友達になり、見てる人達に参加したくなる気持ちにさせる。アイちゃんにはそういう魅力があるんだ」
「あー……。分かるぜ。アイの奴、好きになった事には集中力すげぇもん」
「……実は僕もね。アイちゃんには期待してるんだ」
「あ?」
ハセベはそう言ってノドカに自分のアイに対する気持ちを吐き出した。
「僕も昔はガンプラの頂点に立ちたいって思って腕を磨いてたんだ。ガンプラバトルも無い時代からずっとプロやチャンピオンを目指してね。でも現実の壁を越える事は僕には出来なかった……。勝手な事だけど、僕はアイちゃんに夢を託したんだ。最もアイちゃんには言ってない。自分で勝手に思ってるだけなんだけど」
ハセベに面識のほぼないノドカには気付かなかったが、この時のハセベはとても活き活きとした眼をしていた。うだつの上がらない、という印象位しかない彼が、だ。それだけアイに対して期待をしてると言うことだろう。
でも、正直、そう思われるのはノドカにとっては面白くなかった。アイがもう自分からどんどん離れてしまってる。という事を突き付けられてる様で……。
「……オジサンも、アイが好きなんだ」
憂いを帯びた声をノドカは出す。彼女にいつもの強気な感じはしない。
「ん?事件にならない分野でね」
「アタシもアイと別れた時さ、お互い頼ってたから自立しようって約束したんだ。アイの方はうまく自立出来たみたいで、でもアタシの方は駄目だ。ずっとあの時から足踏みしたまま」
途中でノドカは言葉を止めた。
――アイツをいつもアタシが引っ張ってたと思ってたのに、本当はアイがアタシの方を引っ張ってくれてた。アイがいてくれたから……アタシ、今でもアイツに依存しかけてるんだ――
そう言おうとしたがさすがに親しくないハセベにここまでは言えない。というか、さっき漏らしてしまった言葉も気分的につい出てしまった物だ「何言ってんだアタシは」とノドカは心の中でぼやく。
しかしハセベの解釈は「アイちゃんが離れていってるのが寂しい」と正解の解釈だった。
「……自分は余り人に言える立場じゃないけど、別に無理に自立できなくてもいいんじゃないかな?」
「あ?」
「確かに変わろうとする事は大切だと思うよ。でも君は無理をしてる様にも見える。離れるにしてももっと時間をかけてゆっくりやるべきだと僕は思うよ。アイちゃんが引っ越した時点で距離は離れてしまったかもしれないけど、きっと心の距離は変わってない。心の準備も出来てないで無理に離れようとすると、もっと大切な物を失ってしまうよ」
「べ、別に無理なんかしてねぇよ」とノドカは吐き捨てた。しかしそう言われて少しは気が晴れたのだろう。少し表情が和らいだ感じだ。
――そっか……まだアイと一緒にいていいんだ。――
そう思うノドカの横で、ハセベもノドカの事は大丈夫だろうと思い。彼もまた、アイへ期待する自分の心について考えていた。
……かつて自分の失った物への後悔を想いに混ぜ込んで。
前回から三か月経ってしまった……。遅くなってすいません!コマネチです。
言い訳ではありますが、リアルの仕事等よりも、今後のナナ達の乗り換えやウェア換装を色々作っていて遅くなりました。ちょっと色々試したかったアイディアもあった為にここまで時間が……。さすがにいい加減今後もこんなペースにならない様に気をつけねばなりませんね。待たせてしまいすいませんでした!
設定資料、アイ、ノドカ、マコト
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番外編3 「アイの過去回想その2」※前より百合っぽいので注意