No.861575

人類には早すぎた御使いが再び恋姫入り 三十七話

TAPEtさん

何があっても絶対に信じられる何かがあるって素敵ですね。

将校募集落ちました。クソが
将校入りは後送りです。連載に集中しましょう。
今回人生初めてコミケに行きます。

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2016-08-03 17:55:10 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2099   閲覧ユーザー数:1895

一刀SIDE

 

「流琉、入って来い」

 

桂花を帰った後、俺は外で立ち止まっている流琉を部屋に入れた。

 

「あ、はい、兄様」

 

部屋に入った流琉はお俺の前にお茶を置いて、自分は桂花が座っていた椅子に座った。

 

「兄様、さっき言った話は、本当ですか」

「どこから聞いた?」

「何故このまま謹慎を受けているのか判りますかと桂花さまに聞いた所からです」

「……そうだ」

 

今回の華琳に迫る難題、俺が指図しないつもりだ。

 

無責任な話ではあった。そもそも俺が河北を桃香に渡していなければ華琳がここまで劣勢になることもなかっただろう。今河北を制覇したのが袁紹であったならこの悩みはせずに済んだ。だが相手が劉備軍ともなると話は別だ。

 

もちろん桃香だから弱い所はあった。そこを突けば徐州の件は交渉の余地がある。

 

だけど、

 

「俺は今回動かない」

 

そもそもこれはそんなに難しい話ではなかった。桂花も、華琳も単に俺を連れ戻すために考えることを疎かにしているだけだった。時間をかけて情報を集めれば奉孝でもこれは見抜ける。後はどう桃香をいいくるめるかだが…。

 

「その割には色々とお考え中みたいですけど」

「…ほっとけ」

 

俺の心は決まっていた。今回こそは俺は動かない。そして自分の価値を下げる事で、軍の均衡を合わせ曹操軍をあるべき姿に戻す。

 

「…菓子はないのか」

「夜にお菓子なんて強請らないでください。子供じゃないんですから」

「別に夜更かしする時は普通に食べるぞ」

「謹慎中だから夜更かしなんて要りませんよね。それに、例えそうだとしても夜食を用意して、お菓子なんて出ません。私は厨房を任されてる限りはダメですからね」

「……」

 

やっぱりこいつらを屋敷に入れたのは失敗だった。

 

・・・

 

・・

 

 

先ずやって来たのはチョイだった。

来たというより、俺が愛理と一緒に生活必需品を買って戻った時に既に屋敷内に居た。

 

どうやって判ったのか、俺が別で用意してやった家を(後でヘレナを連れ戻してもしばらくここに居る可能性もあるから結構広めの家を用意していた)張三姉妹に任せて、俺の屋敷に引っ越しを完了していたのだった。

 

「社長、ボクに約束しましたね?ヘレナさんを無事に連れて帰れるようにしてくださるって」

「……」

 

正直な話、この件を考えることにチョイとヘレナのことは完全に忘れていた。俺がこのまま失脚すれば、ヘレナを連れ戻すことができないのだろうとチョイは思ったのだろう。

 

「社長、この場でもう一度約束してください。でないと、ボクはこのまま南に向かいます。道中で野垂れ死にするか、敵軍の間者と思われて斬首されるか構いません。今の社長に曹操さんが大事なように、ボクにはヘレナさんが大事です」

「……心配させて悪かった」

 

多分、それがチョイに会って初めて謝った時だろう。今までさんざんあいつに酷いことをやらかして来たのに、今回に限っては本当に心から申し訳ないと思っていた。チョイが何を憂っているのかを理解していたからかもしれない。

 

「必ずヘレナと一緒に無事に帰れるようにしよう。約束する」

 

ヘレナの居場所は既に掴んでいた。孫策が簡単にヘレナを渡すとは思えないが、こっそり盗んで来るなんて無茶な真似もしたくなかった。孫権と個人的に接触するという手もあるが、状況が状況であるからして、当分表で顔を出したくはなかった。

 

そんなことを思ってる間、チョイが来て数日後、凪と流琉が同時に屋敷に『忍び込んで』来た。まだ謹慎中に警備をしている衛兵を追い払っていない頃の話だった。俺の寝所に忍び込んで一度大騒ぎを起こした二人はチョイと同じく住み着いてしまった。この二人ももう俺とは海千山千やりくぐって来た奴らだから俺が何を言っても自分を曲げなかった。最初にやってきた頃は愛理が少し不安そうにしていたが、数日経つと結局以前のように二人を接し始めた。

 

正直あまり追い出そうとも思わなかった。愛理と二人だけでは正直に言って心もとなかったし、流琉が入れば食はなんとか解決出来た。問題があるとすれば献立が完全に流琉に握られているせいで勝手にお菓子のつまみ食いができない。愛理に街道の菓子屋からお菓子を買って来させて一緒に食べた事もあったが、そしたら流琉がお菓子を作ってくれなくて結局損だった。完全に胃袋を握られていた。

 

後凪の方だが、先ず屋敷の力仕事(薪割りや水汲み、仕上げには屋敷の古くなった屋根の修理まで)は全部やりこなしていた。それでも時間が余ったら俺の再活訓練に付き合ったり、愛理の対練相手になってくれたりしていた。

 

最初に来た時は二人とも家賃もらうとか言っていたが、仕事ぶりからするとこっちから賃金渡すべきどころだった。

 

とにかく、他の三人がここに住み着いた経緯はこの通りだった。

 

 

・・

 

・・・

 

「それじゃあ、私は明日もお店の準備ありますからこれで失礼しますね」

「ああ…流琉、部屋に戻る前に凪を呼んでくれ」

「凪さんをですか?はい、解りました。おやすみなさい、兄様」

 

流琉が出ていった後、俺は凪を待ちながら考えをまとめた。

 

徐州と豫州は華琳に任せる。桂花がここを寄った以上、華琳が直接やってくることはないだろう。今回は帝も俺に口うるさくはできない。その間俺はここに座って他の事を片付ける。

 

「一刀様、お呼びとお聞きしましたが」

「凪、お前に頼みたいことがある。せっかくの休暇中なのに悪いが……」

 

 

華琳SIDE

 

一刀が謹慎期間が一ヶ月が越えていた。

 

一刀が居なくても軍の政は動かなければならなかった。毎日朝議から始まってその日に入った報告書を読むまで課題が断つことはなかった。普段も必要な時以外はあまり顔を見せない彼だったので、謹慎にしたんだという実感が湧くまで相当時間がかかった。何故誰も彼が軍に居ない事に異議を唱えないのかと内心怒ったりもした。初めて彼が居なくなった時、それは軍全体に影響を及ぼした。流琉や凪を始めて彼女たちの親友である季衣や沙和、真桜、そして挙句は秋蘭の突発的な行動まで…それは大騒ぎになった。とんだ責任転嫁であることは判っていた。前とは違って、今回は完全に私の勝手に彼を軍から離れさせたのだから。流琉は既に軍にあらず、凪も今回は潔く軍を離れた。彼がどこに居るか判る分、二人ともいざと思えば彼がどこに行っても付いて行く気満々なのだろう。

 

しかしそれでは私が思うように事が進まないのだった。

 

彼が居ないことで、何か軍の動きに齟齬が生まれ始めたら、それを機に呼び戻すことも考えていた。しかし今回はそうは行かなかった。前に比べて十分に大きくなったこの軍はもう彼一人ぐらい居ない所でどうにかなる組織ではなくなっていたのだった。

 

「このように、今後の周りの動きに合わせて我軍の方針を決めて行くべきだと思います」

 

仕上げにはこれだった。

 

ここ一ヶ月で、戦後処理に追われて忙しいと思っていた稟が、私に前に今後の軍の方針についてかなり手の込んだ案を出したのだった。以前、河北を攻めようなんて客気に逸り時とは違った。

 

許昌を手に取るに置いてもっとも大きな問題は劉備がどう動くかにあった。全面戦は一刀が結んだ条約によって難しい。となれば私たちが許昌を狙ってる間、黄河以南の青州、そして徐州を手にしようと企む可能性があった。青州はともかく、徐州を取られるのはまずい。そこで稟が出した案は、案外簡単なものだった。

 

つまり、皇帝陛下より、徐州州牧の位を授かること。

 

そもそも劉備が河北を難なく制覇できたことには、陛下よりの勅書を授かった影響が大きい。彼女の爵位は一刀と共に逆賊袁紹を打ったことで得たもの。謂わば、彼女も、私も、まだまだ漢の忠臣という肩書があるからこそ今こうしていられる。もちろんそれを何の意味もないことだと言ってしまえば陛下に何か出来ることがあるわけではないけれど、そう皇帝の権威を否定した瞬間彼女もまた天子に背いた逆賊扱いになるし、それ以前に彼女に、既に正当な方法で地を手にした私に対して戦争をしかける程の度胸があるとも考えられない。彼女は強くなったとして、覇者ではないのだ。相手を否定して何かを勝ち取るほど彼女は頑丈ではない。

 

しかしこの場合、問題になるのは劉備ではなく、陛下になる。

 

「悪いんやけど、華琳、陛下がまだ体調が悪いから合わせてやれへん」

 

陛下の別宮に稟と一緒に向かったものの、別宮を守っている霞に門前払いをくらってしまった。

 

「もう一ヶ月以上そのままではありませんか。単に華琳さまに会わないために仮病をなさっているのではありませんか」

「体調は悪いのはホンマや。一月前にまた勝手に街にでかけてからずっとあの調子や。とにかく今は合わせられる状態じゃあらへん。陛下ええっちゅうたらこっちから話しに行くから待ってな」

「ちょっと会うだけで良いのです。そんなに時間は使わせません」

「何度言っても返事は同じや。帰ってえな」

「霞、今この話がどれだけ重要なのか解っているのですか。あなたもこの軍の一員ならそんな名ばかりの小娘の駄々に付き合ってないで協力すれば……」

 

稟が言葉を終える前に霞の刀の矛先が稟の首筋を狙っていた。怒りで少し踏み込みすぎたのかわざとなのか稟の首筋から細い赤い線が引かれた。

 

「今言った言葉、今ここで即斬っても言うことあらへんてわあっとるな」

「っ…!」

 

…最初から稟を連れてくるんじゃなかったのかもしれない。

 

稟は大きな勘違いをしていた。肩書だけの皇帝でも擁立している以上、私は皇帝の地位を認めている。そして丞相という官職に付いている時点で私は漢の臣であり、皇帝を支える下僕だった。

 

普段の扱いがああとは言え、いくら私でも勝手に扱って良い方では決してないのだった。

 

「霞、今回の件は私の不届きよ。どうか刃物を収めて頂戴」

「華琳さま!」

「あなたは黙っていなさい」

 

陛下が私に会ってくれない理由なんて大体予想はついていた。単に以前の騒動で私に会うことを恐れているからではなかった。一刀の謹慎の件も耳にしただろうし、陛下もご自分なりに頑張った結果が寧ろ悪化しているのを見ると私に苛立ったのだろう。ただ自分がやらかした事があるから、長安の時のように門前で怒鳴らないだけであった。一刀との問題を解決しない限り、陛下の手を貸すことは難しい。

 

「陛下に伝えて欲しいの。今回の非礼は必ず結果を見せてお返しすると。だから心配は要らないと」

「……」

 

霞は何も言わず稟から偃月刀を離した。

 

「確かに伝えるわ」

「それじゃ、私たちはこれで失礼するわ。稟」

「は、はい……」

 

さっき霞に思いっきり殺気をぶつけられた稟は震える声でやっと答え、別宮の扉を離れる私に付いてきた。

 

「軽率な言い草は慎みなさい、稟。でなければ次は本当に霞に殺されるわ」

「霞は何故協力してくれないんですか。陛下の玉璽さえ得ればいとも容易く許昌と徐州を得ることが出来るというのに」

「仕える主を門前で侮辱したんだもの。当然でしょう。あなたが今やったことは、春蘭の前で私の悪口を言ったようなものよ」

「霞は、華琳さまの将ではないのですか」

「霞は陛下の護衛武将よ。霞の主君であり、親友であった董卓、そして陛下はその董卓が命を賭けてまで守ろうとしたお方。霞の忠義は今や陛下の元にいるわ」

 

そう、厳密に言って霞は私の将ではない。遠征の時でも霞は先ず自分が居ない間陛下の安全を真っ先に心配した。

 

もちろん結果はああだったけれど。

 

「まあ、焦ることはないわ。徐州も豫州も今回はどっちも私たちから動くわけではないし。それまで内部を固めていきましょう」

 

内側を固めるだけでも仕事は一杯あった。今後許昌を新しい本拠地とするなら現在我が領の中心である陳留との街道も拡張しなければいけないし、もうすぐ冬が来ると救恤を求む村も出てくるでしょうからその準備も必要だった。馬超もまだまだ行方が分からないし、長安も洛陽も廃墟のまま。あまり外側の方にだけを気にして内側が腐る予兆を見逃してはならない。

 

「陛下の件は私がなんとかしましょう。あなたは下手に霞を挑発しないで自分がすべきことをしなさい。孫策の動きはいつも注意して、いつでも許昌を狙えるようにするのよ。この案の通りに孫策が動いてくれれば、今回もあなたに許昌の攻撃の指揮を取らせてあげるわ」

「あ…はい!!」

 

稟はとても嬉しそうに満面に笑顏を私に見せつけた。

 

ああ、いつもの私なら今にでも彼女を抱えていたずらしたくなっちゃうぐらい愛おしい姿だった。でもダメ。一刀が居なくなったとしても自分が決めたことは絶対に守るつもりだった。

 

そう、彼が居ない間も、私の禁欲の時間は続いていた。真面目な話、城の侍女たちがしばらく私が誰も閨に連れ込まない事を察して何かの病気ではないかと騒いでいるらしかった。酷い話だった。まるで私が毎日自分たちを閨に連れ込んで貪っていたような言い方……ええ、間違ってはいないけど、それは特別に私が好む体をした娘たちなわけで……そもそもそんな娘たちでなければ私の侍女なんてやらせていないのだけど、でも私だって獣のように見境なく目に見えれば連れ込んでヤるとかは……前までは朝に来る侍女にはほぼ絶対布団の中に連れ込んでいた。禁欲しようと決めた初日に来た侍女がちょっと大胆な娘で自ら布団に潜り込んで来て寝てる私を愛撫して居た時は、本当に自分どうやってその初めての難関を乗り越えたのか不思議なぐらいだった。

 

…ええ、もうぶっちゃけましょう。溜まってるわ。外に出回るような事も起きないし、政務で座ってばかりな毎日だから尚更だった。廊下でばったり会って私が通るまでお辞儀をしている侍女を見て本能的に利き手がその顎を掴もうとするのを理性を代表する反対側の手が抑えるというバカみたいな行動を実際にやり始めていた。

 

「華琳さま、どうかなさいましたか?右手が痛むのですか」

「い、いえ、なんでもないわ」

 

煩悩って怖いものね。自分の手首に跡が残るぐらい強く引き締めないと耐えられないものなのだから。

 

「戻りましょう。時間が勿体無いわ。我が軍の未来のためにすべき事はまだ沢山残っているわよ」

「はい」

 

 

日が落ちて月が明るくなった時間、私はまだ起きていた。というより眠れない夜を過ごしていた。

 

誰か側で寝ていない閨の床はとても広く、寒かった。諦めて政務でもやり始めようと体を起こした所に外から人の気配を感じた。閉じた門の下の隙から入る月光が二つの柱によって塞がっていた。

 

「そこに居るのは誰?」

 

私は壁にかざした『絶』を片手でゆっくり握りこみながら叫んだ。

 

門の向こうに立っていた者は返事をせずに門を開けた。私は『絶』を握り防御の態勢を取ったけど、そこには凪が立っていた。

 

「凪、あなたがどうしてここに…」

「華琳さまにこれを渡すようにと、一刀様に命じられました」

 

そう言った凪は私に封をされた紙封筒を手渡した。

 

「内容については華琳さま以外には絶対読んではいけないと何度もきつく言われました」

「一刀が私にだけ?」

 

彼からの手紙なんて彼が劉備軍に行った直後以来だった。あの時はこんな密かに送られた物でもなかった。

 

「それでは私は失礼します。今夜私はここには来ていないということでお願い致します」

 

凪は静かに去っていった。事務的な態度を取る凪に今までどうしていたとかそういう世間的な話は出来そうになかった。最も、今の私にそんな余裕もなかったけど。

 

凪が居なくなった後、私は紙封筒の封を開けた。

 

どんな内容なのかしら。彼の事だから、今後の動きについて練った策なんて教えようとするのかもしれなかった。どんな内容かは分からないけど、一ヶ月も経って渡すぐらいなら何か重要な内容なはず。

 

と、思いながら私は中の手紙を読み始めた。

 

『華琳へ

 

元気にしているか。俺はなんとかやっていけている。

 

こっちは最初の頃と比べて住民が増えたせいで賑やかだ。

 

謹慎生活で外に出ないで居るのは少し退屈だが、元々外に出回る柄でもなかったし然程変わりはない。

 

本を結構買って入ったのだがそれも全部読み終わってしまって、最近は一人で囲碁を打つ事が多くなった。愛理は相手にならないし、アイツはアイツなりに急がしいらしい。

 

あ、愛理の事を真名で呼ぶようになった。呼んであげたらお菓子を食った時みたいに蕩けた顔で座り込んだ時はびっくりした。

 

この屋敷に池があるのだが魚が何も入ってなくてな。今日凪が鯉でも釣って来るというから、そうしろと言って鯉を結構釣ってきたのだが流琉が間違えて料理してしまってな。凪が泣きながら食べていた。美味しかったぞ。流琉に今度店の採譜に入れてみろと言ったから今度行って食べてみてくれ。

 

…』

 

内容はその後も続いていた。他愛のないただの雑談みたいな内容。今日何をして、何があったか、そんなどうでも良い話が並べられていた。

 

最初は何かの暗号かと思って意味を探ろうと横に読んでみたり斜線に読んでみたり、分字して読んでみたりあらゆる方法を使ってみたが隠された内容など見つからなかった。

 

結局何の所得もなく、諦めた時には夜が明けてしまっていた。

 

 

眠たいままなんとか昼の政務をやりきった私はその夜日が暮れてから早々眠りについていた。

 

そして誰かが門をのっくする音で私はパッと目が覚めた。窓を見ると夜が深い時間だった。

 

「誰?」

 

疲れていて今夜は誰も近づかないように伝えていたのに、こんな夜遅く起こされるなんてあまり気持ちいいことではなかった。

 

「凪です」

「凪?…入っていいわよ」

 

二晩続いて真夜中に訪れた凪が門を開けると、今度もまた昨夜と同じく紙封筒を持っていた。

 

「一刀様からの伝書です」

「また?…一刀は一体何を考えているの?昨日の手紙を読んだけど、話がまったく…」

 

私は手紙の話をしようとした途端、凪はいきなり自分の両耳を塞いだ。

 

「……何をしているの?」

「一刀様より手紙の内容は読んでも、知ってもいけないと言われています。もし間違ってでも聞いたり見てしまったら絶縁と言われていますので」

 

私はどっちに驚くべきなのかしら。この娘のこの真面目さなの、それとも現在雑談にしか見えない話を部下読まれたくないというだけでそこまで言ってしまう彼なの?じゃないとそれだけ重要な内容なのにも関わらず一晩過ぎてもまだ理解出来ていない私なの?

 

「それでは私はこれで…」

「ちょっと待って。あなたがこんな夜遅くに来ているのも、彼がそうしなさいって言ってるの?」

「はい、昨日も、今日も夜遅く手紙を頂いて、誰にも気づかれず華琳さまに手紙を渡して来るようにと言われてします」

「他に彼から聞いたことは?」

「特には…華琳さまから何か返事があればもらって来るようにと言われています」

 

返事?何か私が返事しなければいけない内容なの?でも、内容が全く見えないわ。一体私にどうしろというのよ。今にでも直接言って聞きたいぐらいだわ。

 

「…今日はとりあえずこのまま帰りなさい。明日までは答えを出すと伝えておいて頂戴」

「判りました」

 

凪が去った後、私は封を開けて手紙を読んだ。

 

『華琳へ

 

今日は流琉が業者から鯉を何匹買ってきて池に放った。鯉を放った後に気づいたんだが、鯉の餌やりをしなければいけなくなった。どうせやることもないから丁度良いとは思うが、まるで隠居した老爺の趣味みたいで少しばかり拒否感が湧いた。まあ、この際なんでも時間を潰せることが出来たらよしと思っている。

 

昨日眠り少し遅かったんだが、朝流琉が起こすのを無視して二度寝しようとしたら寝床こと持ち上げられて落とされてしまった。あの娘は社会生活を始めてからどんどん性格が荒くなっている気がする。なんか軍に居た時より早く大人になろうとしているようで見ていて悲しい。本人は俺の事をダメ人間と思っているかもしれないが、俺はそういう生体時計を持った人間なんだ。世の中誰でも夜が明ける前に目が覚める体を持っているわけではない。どうせやることもないから月が上がる時ぐらいに目覚めて何が悪いというのだ

 

……』

 

大した内容のないただの身の回りの話。そうでしかなかった。

 

「一体何の意味があるというのよ」

 

・・・

 

・・

 

 

それからまた十日ぐらい過ぎた。

 

手紙はまだ続いていた。

 

私はまだ一度も返事をしていなかった。

 

何をどう返せばいいのか、直接聞きたくもあったけど、それだと彼が失望するかもと思えばそうも出来なかった。一月ほど前まではこの世の誰よりも彼の事を理解しているつもりだった私がこの様なのだから笑える。

 

…いっそ笑えたらどれだけ良かったものか。

 

「今日もお返事は頂けないのですか」

 

真夜中また私の部屋にこっそり訪れた凪の問いに私は返す言葉が見つからなかった。

 

「ごめんなさい」

「私に謝られることではありません」

「…一刀はなんて?」

「一刀様は別に返答がなければそれで構わないと仰っていました。返事がないならそれだけの事と」

 

一刀の意図が何にしろ、私が彼の思った通りに動いていないことは確かだった。

 

いや、逆に何で私が焦る必要があるの?おとなしくなるように謹慎させているのだからそのまま静かにしていればいいものを…何よ、このふざけた日記のような駄文を毎日のように送り込んで来て…私も返しに駄文でも送ればいいわけ?

 

「では私はこれで…」

「いえ、悪いけどちょっと待ってくれない?」

 

逆上してそこまで考えが行った私は彼の手紙を読む前に棚から空の竹簡を取り出してこう書いた。

 

『一刀へ

 

謹慎生活は楽しんでいるかしら。

 

私はあなた無しでも元気にやっているわ。誰かさんが真夜中に部屋に来て眠りを妨げてくれなければ尚良かったでしょうけどね

 

今日は街の視察があったわ。凪の居ない警備隊は沙和が指揮しているのだけど案外うまくやっているわ。凪が苦手だった書類仕事も長安での経験が生きてるのかうまくやってくれているし、凪が復帰しても書類の仕事は沙和に任せるのも悪くないかもしれないわね。

 

あなたが居ないから稟がはりきっているわ。桂花と風がなんとか抑えているけど、西涼で活躍出来なかった分を挽回してみようと頑張り過ぎているのが目に見えている。あの娘はあなたが歯止めをしてくれないといつか大変なことになりそうで少し不安があるわ。

 

早く連れて来るって言ったのにもう一月以上過ぎてしまっているわ。せっかくの休暇だから楽しんで置いてちょうだい。帰ってきたらまた酷使するつもりだから

 

華琳より』

 

墨が乾く次第、私はその竹簡を巻いて凪に渡した。

 

「一刀にこれを見せなさい」

「判りました。一刀様もお喜びになると思います」

 

そう言った凪は部屋を出て闇の中に消えていった。

 

「…喜ぶ?」

 

最後に凪の言った言葉の意味が判らなかったけど、とりあえず私は彼女が置いて行った一刀からの手紙を開いた。

 

『今日は流琉が許褚を連れて屋敷に来た。来てはならないことを知らないわけではないようだったが、許褚なら大丈夫かと思って晩飯だけ食わせて帰らせた。食事中にお前の事を色々と話してくれて、最近寝不足そうにしている時が多いという話を聞いた。仕事が忙しいことは判るが、あまり夜遅くまで仕事する癖をつける事は良くない。

 

ふと思ったのだが、この手紙を渡している時間も結構遅かった。凪に聞いた所いつも直接手渡しているということだが、次からはこっそり部屋の中特定した場所に隠しておくように言うつもりだ後で俺のせいで体調を壊したとか言われても困るからな。

 

 

 

真面目な話、あまり早まるな。俺はどこにも行かない。お前がお前で居る限り、俺はお前の側に居る。今は場所は離れて居てもこんな形ででも状況を伝えられるし、本当にいざと言う時が来れば動く。でも今は離れている俺よりも周りの連中を信じるべきだ。彼女らはお前を慕って集まった天下の人材たちだ。彼女たちを信じて、前に進めばきっと出口が見えてくる。

 

お前なら出来ると信じている。覇王の実力を見せてくれ。

 

無駄な話が長かった。今後は軍事に関わる話は一切書かない。

 

暇があれば返事とかも書いてくれ

 

一刀』

 

「…」

 

今まで送られて来たものとは内容が違った。

 

いつもの自分に関しての雑談から私についての話に変わっていた。というより、私の心配をしていた。彼に謹慎のことを告げた時、私は彼が怒っているだろうと思った。だから出来るだけ早く連れ戻すべきだと思っていた。でもこの手紙、そしてここ数日送られてきた手紙からはそんな様子が見えなかった。

 

もしかしてそれが目的だったの?時間が経つに連れ、私が焦るのを防ぐために、自分は大丈夫だと示すために自分の現状や雑談などを並べていたの?

 

でも、こんなの彼のやり方じゃないじゃない。いつも相手を精神的に追い詰めて本領を発揮させるのが彼のやり方……。

 

いえ、いや、違うでしょう。それは他の人に対してのこと。私に対しては違うでしょう。

 

彼に酷いことを言われたのっていつだっけ。

 

西涼の時も紗江のせいであたふたしている私を支えてくれたのは彼だった。連合軍から帰還後の反乱時も最初は関わらないみたいに言ったけど結局支持してくれた。その前に彼の世界に行ったきっかけも私が迷ってるから心を落ち着かせるためと言って始まったことだった。それを含めて私の頭痛とかの面倒見も…。

 

連合軍で再会以来彼からはずっと精神的に支えられてばかりだった。少なくとも彼は私にいつも全力だった。

 

私は、前々から彼が私の性生活について好きではないことを知っていながら無視していて、紗江のことも彼が自分で気づくまで黙っていたし、その直後の軟禁事態なんて私が思い返してみても最低だったし、挙句は自分の都合で頑張ってきてくれた彼を謹慎なんて喰らわせている。この頃仲が余所余所しかったのも元を辿れば私の不手際だったし。

 

手紙を机に置いて、じいんと痛みが走るこめかみを押した。

 

いや、こんなことにしようと一刀が私に手紙を書いているわけではなかった。彼は離れていても私を安心させるために手紙を書き始めたのだ。それで私がまた慌て始めたら彼の思いやりを無駄にしてしまう。

 

「待ってくれるのよね…?」

 

彼は私が上手くやってくれるって信じている。これからもずっと側にいてくれると言ってくれた。

 

私も彼の信用に応えなければならない。

 

 

一刀SIDE

 

…最近寝る時間が不足している。凪が城に出入りすることを他に見られないように夜遅くに手紙を書いて送って居たが、今日許褚から聞いた限りそれがいけなかったかもしれない。次からはもう少し早めに出すか。しかしそうなると逆に凪の負担が大きく……。

 

「一刀様、ただいま戻りました」

 

そんな事を考えて居た頃凪が官庁から帰ってきた。

 

「ご苦労だった。毎日夜遅くに済まない」

「いえ、それと、華琳さまから返答を承りました」

 

凪は竹簡を手渡しながら言った。

 

俺はそれを開いて内容を確認した。内容を見る限り、恐らく今日の手紙を読む前に書いたものだっただろう。内容が雑なものばかりだったから意図が伝わらないかもしれないとは思っては居たが、きっと今の今まで何故俺がこんなもの送り込んでくるのかイライラしていただろうと思う。

 

だが、これが俺が出した俺なりの答え、俺なりの距離感だった。

 

今はこの程度で良い。

 

「ありがとう、凪」

「勿体無いお言葉です。それと、一刀様」

「何だ?」

「私の正式な休暇は、本日で最終日です」

「…それで、以後はどうする気だ?」

「……警備隊に、復帰しようと思っています」

「それで良い」

 

流琉はともかく、凪はまだまだ軍で活躍してくれなければならない。俺が居ない事が軍に障害になることは出来るだけ防ぎたかったが、凪の気持ちも知らないわけではなかったし、今まで直接言うことはなかった。

 

「文則や李典も歓迎するだろう。そして今後ここへの出入りも謹んでくれ」

「一刀様は、本当にそれで結構なのですか。今まで一刀様がやってきた事全てを否定されてでも、こんな形ででも華琳さまの側に居るおつもりですか」

 

凪に直接俺の意図を伝えたことはないが、恐らく流琉に聞いただろう。愛理は既に俺に同調してくれて、俺が頼んだ事を遂行してくれている。そのうちこの屋敷も静かになるだろう。

 

「もし一刀様が他の所で旗揚げするとおっしゃるなら私は…」

「凪」

 

凪が余計なことを言う前に俺は凪の言葉を遮った。

 

「俺はこれで満足するつもりだ」

「……判りました。それが貴方の望みであるなら、私は従います」

「ありがとう」

 

これが正しかったのかはそのうち分かるだろう。

信じて待つ。今はそれだけだ。

 

 

 

<作者からの言葉>

 

この話を書く時にちょとt一刀と華琳が交換日記を書くという状況を想像してみました。

 

ツン要素が消えて面白くなかったです。

 

一刀が謹慎中のまま話は続きます。次回から雪蓮、桃香の動きを見ながら動かなければなりません。

 

でもきっと作者の描写が追いつけないのでカット多用されるでしょう。

 

将校落ちましたクソが。まさか書類で落とすとは予想だにしてなかったコンチキショウ。

陸軍横暴しましたけどその間どうせ暇だしペースあげられるよう頑張ります。

 

<コメント返しのコーナー>

 

未奈兎さん>>まあ土台作りやってあげたぐらいですからね。劇薬を使ってすぐに捨てた方と、ずっと使ってる方の違いという奴でしょうか。それとも麻薬?

 

本郷 刃さん>>薬に例えるなら服用を続けてるわけですからね。中毒かな。辞める時が来たのでしょう。

 

marumoさん>>何の迷いも無く言う黄金水まんじゅうと言うあなたが素敵。

 

アルヤさん>>喜んでください。落ちたので半年ぐらい後送りです。

 

山県阿波守景勝さん>>真恋姫読み返すと華琳さまは自軍の将たちの人心掌握もとても上手な人だったのに作者の能力が足りないせいでこんな華琳さまになっちゃいまして悲しいばかりです。それも一刀のキャラが強すぎたせいですけど。

 

 

 


 
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