~ノルド高原~
「……ありがとう。本当に、いくら感謝してもしきれないくらいだ。」
馬を走らせているガイウスはリィン達を見回して感謝の言葉を述べた。
「お、大げさねぇ。」
「うふふ、同じクラスメイトなのだから当然でしょう?」
「フン……まあ色々とこだわりがあるみたいだな。」
「故郷の危機を食い止めたい……単にそれだけじゃないんだろう?」
アリサ達がそれぞれ答えている中、ある事に気付いたリィンはガイウスに尋ねた。
「……ああ。―――中将の推薦を受けて士官学院に入ったことにも関係していてな。誰もがそうだと思うが……オレは故郷の地を愛している。風鳴る高原を、高き山々を、蒼き穹(そら)を。日の出の神々しさを、夕陽の切なさを、全てを許してくれるような綺羅(きら)の夜空を。ノルドの地の全てを愛してるんだ。」
「………そっか……」
「わ、私も故郷のルーレには思い入れがあるけど……」
故郷を愛している言い切ったガイウスの答えを聞いたリィンは頷き、アリサは驚きの表情でガイウスを見つめた。
「しかし……ならばどうしてこのノルドの地を離れたんだ?異国の地にある士官学校……正直、お前のような男が故郷を離れて入学したのが不思議なくらいだが。」
理想の家族とも言えるラカン達と共に生活し、故郷を愛するガイウスの留学を疑問に思ったユーシスは不思議そうな表情でガイウスを見つめて尋ねた。
「フフ、疑問も無理はない。俺自身―――明確な答えが出せているわけでもないからな。だが、オレの幼い頃、共和国軍の基地が東に築かれ……帝国軍が監視塔を建ててからそれは少しずつオレを不安にさせた。……教会の巡回神父からはゼムリア大陸の歴史を色々と教わった。そして、大国同士の争いで消えた民族がいかに多いかに驚かされた。そして”導力革命”――――あらゆる生活と文化に影響し、”時間”と”距離”の概念を大幅に覆してしまったあの発明……それを知った時、気付いてしまった。オレが愛しているノルドの地が平穏であり続ける保障はない……いずれ”外”の大きな流れに巻き込まれる可能性があり得ると。」
「…………………………」
「……驚いたな。そこまで考えていたのか……」
「―――なるほどね。ガイウスお兄さんが学院に来た理由は大切な故郷をとりまく”外”を知る為ね?」
ガイウスの話を聞いたアリサとリィンがそれぞれ驚いている中レンは感心した様子で訊ねた。
「ああ……きっかけは多分そうなんだろう。あの時のオレは、何か得体の知れない予感に怯え、焦っていたんだと思う。中将と知り合ったのをきっかけに”トールズ士官学院”の事を知って……そこに推薦してもらえると聞いて気付いたら申し出に飛びついていた。……帝国がどういう所なのかほとんど知らなかったというのにな。だから多分、そういう事なんだろう。」
「フン……まったく。どうやら俺達の誰よりも大それた理由で来たようだな?」
そしてガイウスの留学理由を知ったユーシスは苦笑しながらガイウスを見つめた。
「はは……確かに。故郷を愛し、守る為にいったん外の世界を知るか……」
「……正直、帝国人には出てこない発想でしょうね。でもそっか……そういう事だったのね。」
「アリサお姉さん……?」
複雑そうな表情で考え込んでいるアリサに気付いたレンは不思議そうな表情でアリサを見つめた。
「ううん、こちらの話よ。―――でも、そういう事ならなおさら捨てておけないわね。私達を暖かく迎えてくれたこの地に報いるためにも……!」
「そうね……ノルドの人達には本当によくしてもらったし。」
「ああ、今回の不可解な事件、何としても見極めないと……!」
「帝国にとってこの地は大切な隣人でもある……協力させてもらうぞ、ガイウス。」
「ああ―――よろしく頼む!」
クラスメイト達の心強き言葉にガイウスは心から感謝し、力強く頷いた。
その後監視塔で調査を開始したリィン達は監視塔を砲撃した場所がカルバード軍基地方面とは明らかに違う事に気付き、調査の結果を監視塔の責任者に伝え、ゼンダー門への連絡を頼み……そのままレンが割り出した砲撃をしたと思われる地点へ馬を走らせることにした。
「みんな、あれを!」
「何かあったの!?」
高原に馬を走らせていたリィンは何かを見つけて声を上げた後仲間達と共に馬を降りてある場所に向かうと、ザイルがかけられて場所を見つけた。
「あら、変わった所にザイルがあるわね。」
「ワイヤー梯子がまとめられている……人の手によるものには違いないだろう。このあたりに集落の作業場でもあるのか?」
ザイルを見つけたレンは目を丸くし、ユーシスは考え込んだ後ガイウスに尋ねた。
「いいや、聞いたことがない。」
「だとしたら、かなり怪しいわね。この上が、砲弾の発射地点なのかしら……」
ガイウスの答えを聞いたアリサは真剣な表情でザイルを見つめた。
「なんとか調べたいところだけど……流石にあの高さには届かないな。」
「あたりには掴まれるような場所もない、か。さて、どうするべきか……」
ザイルの先に行く方法が見つからないリィンとユーシスは考え込んだその時
「―――仕方ないわね。」
レンが自分の荷物から鉤縄を取り出した。
「それって……鉤縄!?何でそんなものを持っているのよ??」
レンが取り出した鉤縄を見て驚いたアリサは不思議そうな表情でレンに問いかけたが
「うふふ、アリサお姉さんったらおかしなことを言っているわね。こんなもの、レディの必需品なんだから常に持っていて当たり前よ♪」
「そんなものが女の子の必需品だなんて聞いた事がないわよ。」
レンは笑顔を浮かべて答えを誤魔化し、それを聞いたリィン達が冷や汗をかいている中アリサがジト目で指摘した。
「細かい事は今は気にしなくていいじゃない♪それよりも危ないからみんなはレンから離れていて。」
そしてレンに促されたリィン達はレンから距離を取り、自分から距離を取った事を確認したレンは鉤縄を頭上で振り回してザイル目がけて投擲した。すると鉤縄がザイルの間にからまって縄で登れるようになった。
「あ………!」
「……見事だ。」
それを見たアリサは声を上げ、ガイウスは感心した様子でレンを見つめた。
「それじゃ、レンが先に登ってザイルを下すから少しだけ待ってて。―――あ、アリサお姉さん以外は向こうを向いていてね♪」
「へ………?何でアリサ以外の俺達は向こうを向いていないとダメなんだ?」
レンの言葉を聞いたリィンは呆けたが
「やん♪崖を登るレンを心配するように見せかけてレンのスカートの中を堂々と見ようとするなんて、さすがはアリサお姉さんを助けるついでにアリサお姉さんのバストに埋もれた事があるリィンお兄さんね♪」
「ちょっ!?そんなつもりは一切ないぞ!?」
「というか何でこの前編入したばかりのレンが入学式のオリエンテーションで起こった出来事を知っているのよ!?」
「阿呆が………」
「フフ………」
からかいの表情で呟いたレンの言葉を聞くと慌て、アリサは顔を真っ赤にしてレンを睨み、その様子を見守っていたユーシスは呆れ、緊迫した状況でありながらもいつもの様子を見せるリィン達の様子にガイウスは微笑んでいた。その後レンは縄を登って崖を登った後ザイルを下し、レンに下ろされたザイルを使って登って先に進むとある物をリィン達は見つけた。
「これは……!」
「あったようだな……!」
設置されてある迫撃砲を見つけたリィン達は迫撃砲にかけより、アリサが調べた。
「導力迫撃砲……思った通り、RFの旧式だわ。それに、間違いない。つい最近使われた形跡がある。」
「―――こんな所に設置するなんて考えたわね。」
「……なるほど、周囲からはちょうど死角になっている。闇に紛れて砲弾を発射し、そのまま放置して逃げた……そんなところか。」
「だが……戦争を回避するにはこれだけは不十分だ。」
「……そうだな。もう少し手がかりが欲しいけど……」
アリサ達がそれぞれ考え込んでいる中、戦争を回避する証拠としては不十分である事に気付いたユーシスとリィンは厳しい表情をした。
「ま、どこから撃たれた事がわかったのは大きな進展だし、一旦、報告に戻ったほうがいいのじゃないかしら。」
「そうね、一度ゼンダー門に戻ってみましょうか。」
「ああ、そうしよう。」
そしてゼンダー門に報告する為にザイルを降りたリィン達だったが、ある物を見つけた。
「あっ……!?」
「あいつは……!」
リィン達が見つけた物―――銀色の人形兵器は傍にいる少女を腕に乗せて飛行して去って行った。
「奴はバリアハートの時に見かけた……!」
「このタイミングで現れるなんて……さすがに無関係とは思えない!北西の方角だ―――!追いかけるぞ、みんな!」
「ええ!」
「急いで馬にのれ!」
その後馬に乗ったリィン達は銀色の人形兵器を追跡し始めた―――――
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第100話