No.860674

九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = 夏篇

Blazさん

さてさて。少しぐだっとしてますが夏篇第二話です。
今回は本当に八名しか出さない予定なので。申し訳ないッス。
…ディア。覚悟は出来てるな?(フラグ的な意味…ではなく)

2016-07-27 23:49:58 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:735   閲覧ユーザー数:701

第二話

 

 

 

 

 

 

別件があるから、といって離れたokakaと朱雀の二人。彼らは熱い日差しが照り付ける太陽の下を黙り込んで歩いていた。

既にBlazたちの入ったプールからは遠ざかり、陸のゲートから海にほぼ一直線に続くメインストリートが、現在二人の居る場所。そこは熱い日差しが入っているというのに、どこかからか冷房が漏れているのか比較的涼しく日差しで肌が焼ける程度しか感じなかった。

 

「…随分と涼しいですね」

 

「ああ…よく見ると至る所に魔力炉を詰め込んだ冷房機関が至るところに立ってる。あれがこの涼しさの原因…もとい、理由だろうな」

 

暑い日差しが未だ二人の背中に当たっているが、その至るところに立っている冷房機関のお陰で、そこまで汗もかかず体力や水分の消耗の酷くはない。欲を言えば後ろからの日差しが痛いというぐらいで過ごす分には問題はない。

通行人の配慮なのか、それとも客を留めやすくするためか。いずれにしても、科学だけの現代では到底できないことだ。

 

「あれだけでも見ると、本当に管理局が大金かけて作った施設だってのが見て分かりますね。あれだけの永久機関型の魔力炉は見たことないですよ」

 

「これで収益狙ってるんだろうが、本命は絶対別のところにあるだろうさ。俺たちは、それを探す」

 

上機嫌めに話すokakaに朱雀も小さく笑みを浮かべる。だが当然内心、不満がないといわれれば嘘になり、どうして自分だけが彼の手伝いをしなければならないのかという疑問があった。自分なりに色々と仮説を立てて考えていた朱雀だが、やはりどうしても我慢ならなくなって、食いつくように前を歩くokakaに問いかけた。

 

「―――――okakaさん」

 

「ん…なんだ」

 

「どうして、とはいいませが、何故ボクだけを選んだんですか?」

 

「…というと?」

 

「過小評価とかじゃないんですが、ボクだけじゃなくてもよかったハズですし、僕意外に捜索に役立つ人はいたはずだ。なのになぜ、ボクだけが選ばれたのですか?」

 

はぐらかせるものではない。離す気のない朱雀の食いつきに、自分が思っていた以上に不満を持っていたらしいと、okakaは小さくため息をつくと申し訳ないという雰囲気を混ぜつつ説明をする。

 

「別に適当とか、経験不足とかそういうわけじゃない。ただ今回の状況から、朱雀、お前が一番適任でありお前しかいないって思ったんだ」

 

「…ボクが…ですか」

 

「そうだ。今回は密輸相手を探して、暴いて。どこにどう行き来しているのかを探すこと。つまり、直接的な戦闘はまずないと見ていい。見つかった時以外はな。

 であれば、基本怪しまれない性格と振る舞いが出来る人物に限定される。ここでBlaz、げんぶ、竜神丸はアウト。特にげんぶはな。

 で次に、当然敵に顔が知られていないこと。これでタカナシ二人はアウト。

 そして次に。比較的不安材料がないヤツ。ということで蒼崎…の中の深夜がアウト。

 これで残るは…」

 

「刃さんとガルムさんとボクの三人ですね」

 

「刃は執事としての経験があるからポーカーフェイスはそこそこ得意だ。ガルムは愛想もいいし、他の連中と違って怪しまれる確率は低い。けど、刃は前の仕事柄ゆえに気付かれるかもしれないし、ガルムは基本和服だろ? 動きでバレるかもしれないからな」

 

その結果。残されたのは一人だけ。

 

「並行世界出身で、そこそこ愛想とかもよくって、バレる可能性が低い朱雀が選ばれた……これでもダメか?」

 

「………。」

 

まぁそこまでの理由があれば、と納得しようとしていたがどうにもそれだけでは釈然としないのが彼の本心で、それを読んだのかokakaは頭を掻いてもう一つ付け足した。

 

「…あとはまぁ……ライダーのを持ってるからと……多分、こっちの管理局はお前の戦い方を知らない。仮に敵が来たとしても対策やらで二度目以降は迂闊に手を出せない…ってのでどうだ?」

 

本音と言い訳が入り交じった言葉に、しばらく黙り込む朱雀。okaka本人が嘘を言っているわけではない。ただどう言葉に言い表せばいいのか解らず、面倒そうに頭を掻く姿は演技で出来るものではない。

 

「…分かりました。okakaさんのその様子で、納得いきましたよ」

 

「そうか。すまんな…」

 

どうやら無事に納得してくれたようで、okakaはホッと胸を撫で下ろす。

任務の下調べだというのにロクな結果になってしまうと心配していたが、朱雀が不器用な言葉でも信頼してくれたことで、一先ず任務前の揉め事は無くなった。

朱雀もokakaが上手く言葉にできないのは自身の直感と経験、そして信頼からなのだろうと、それ以上問うことも無く、日に照らされてできた影の奥で光るような眼を再び前に向けた。

 

「さてっ。今回は海からの輸送でブツが運ばれてるって話だ。まずは港に行―――――」

 

気を取り直したokaka。だがその表情と雰囲気がまさか数秒で崩れる事になるとは、まさか当人でさえも思ってもおらず、一変して固まってしまった彼の様子に朱雀は気付いてないままに様子を窺う。

 

「……okakaさん?」

 

「………。」

 

一体どうしたのだ?

急に足を止めて言葉も半ばでしゃべらなくなったokakaに僅かに首を傾けた朱雀は、彼の横に立ってその向こう側を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――え?」

 

 

するとどうだろうか。現在進行形で向かってくる姿。一見、家族連れのように思えるが、実は彼女たち(・・・・)に血縁関係はない。

だが、家族意識があるのは確かだ。

そして、その家族意識を持った四人と一匹

 

 

 

「………嘘だろ」

 

 

 

機動六課。その中核人物である八神家が揃いも揃って目の前から向かってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――場所は変わり、プールエリア内。

 

 

水が至るところで弾け、沸き上がっているためか、このエリア付近は比較的温度が低く過ごしやすいようになっている。お陰で風を引かないために上着を一枚羽織ってもまだ涼しく過ごせるほどだ。そうやってチェアに座り、日光浴をしている客もちらほらと居る。

 

 

 

 

だが。現在のBlazたち一行にとって正直そんな事はどうでもいい。

なにせ彼らにとってそんな水が沸き上がるより自分たちの体から冷や汗が滝の如く流れていたのだ。ただし体温は高くなり、体内の水分は現在トップスピードで減少しているが。

 

「……………。」

 

「な……」

 

言葉を失い、開いた口が塞がらないキリヤ。隣ではボクサーの水着をはいたげんぶが目の前の状態に驚いている。それは他の面々も同じ。

ただ竜神丸は違い、冷静な表情のまま汗をたらしている。単に暑いことと、この状況に驚いていたのだ。

旅団ナンバーズの男の誰もが、この状況に唖然としてしまうその原因。それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――流石は新しくオープンしたリゾートだね。お客さんがいっぱいだよ」

 

「椅子とか、場所とれるかな? 一応みんなの分は確保したいし…」

 

「ママ、早く泳ぎたぁい」

 

泳ぎたいのならさっさとそのママ二人を連れて泳いでくれ。最果てのオケアノスまで、とツッコミたいが、そんな事を言えば確実にアウトだ。

斯くして現在。彼ら旅団が敵対している組織、管理局のエースである高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。そして義娘である少女が、こちらも現在進行形で向かってきていたのだ。しかも水着姿で。

 

 

 

 

 

 

「…なぁ。なんでこうなった?」

 

取りあえず、現状をどうにかしたいとばかりにガルムが口を開いた。

 

「いや…私に聞かれても…」

 

唐突に話を振られた刃は困った様子で隣のルカにアイコンタクトでバトンを渡す。

 

「俺も……っていうか俺と兄貴ってマズくないか?」

 

そういえばそうだったと思い出したルカだが、兄のキリヤことロキは気付いていたようで汗をダラダラと流している。

 

「あ、ああ…気付かれたらマジでなのはたちに捕まる…つーか任務とかそれ以前の問題になる」

 

「それだけは勘弁してほしいですね。私、折角の休暇ですし」

 

完全他人事のように話している竜神丸はいい加減プールに浸かるか涼しい場所に行きたいと考える。

 

「というかあのエースの二人の水着なんだよ。白いエースは兎も角として黒いエース様狙ってるだろ」

 

そしてどうでもいいことに熱中している蒼崎。ちなみに一人だけ彼女たちの水着姿を見て鼻血を垂らしている。

 

「というより、ここに居るので刃を除く全員は確か顔を見られてる。キリヤでなくても俺たちが見られればアウトだ…!」

 

蒼崎の話を無視して話題を戻すことに成功したげんぶはどうするかと最後の一人に話しを振った。

 

「――――――――なんで俺だよ」

 

当然。話に加わらず適当に打開策が出るだろうと思っていたのだが、結局最後に残ったBlazにも話は回って来た。

 

「いや。順番的にお前が結論出すと思って」

 

「お前らなんでそう人に変な期待するかなぁ?!」

 

ボケるルカにキレるBlaz。だがそうこうしている間にもエースたち一行は近づいて来ている。このままでは自分たちが怪しまれて、最悪エンカウントと戦闘に成りかねない。しかも現在水着姿である彼らの一部メンバーはベルトを着けていない。仮に気付かれれば付ける前に彼らは捕まってしまうだろう。

 

「………もしここで気付かれれば最悪生で戦えんのは俺とガルムと竜神丸。げんぶは生の格闘できるけど、魔法相手に出来る保障はねぇ」

 

「…不甲斐ない」

 

「でだ。そこで俺に提案が―――――」

 

一応は、この場を何とか切り抜ける策はあったらしい。それには全員が安堵したのだが、ただ二人。この後この作戦を立てたBlazに怒り、安堵した自分に恨むことになるのを当人たちはまだ知らない。

そうしている間にも敵は近づいており、ついにはあと十数メートルになる。

このままでは全員見つかってしまうと思ったのか、焦りとどんどん近づく彼女たちに考える暇もなかった彼らはBlazの案に乗る。

だが具体的に何をどうするのか聞いていない彼らは、一体彼がどうするのか、全ては彼任せだった。当然、Blazもそれは承知で自分だけでは出来ないと刃の肩を叩き、ある事を頼む。

 

「刃。あのさ…」

 

「はい…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

「…? どうかした、フェイトちゃん?」

 

「……いや…なんか目の前に居るあの男の人の集団に…見覚えが……」

 

 

フェイトが彼らを視界にとらえ、考えに浸ろうとした刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!! あそこに空飛ぶウサ耳のロリグラマラスな少女とビクティニがッ!!!」

 

 

「なんでソレにしたよ」

 

 

 

 

という刃の叫び声と指さす方角に、彼女たちだけでなく周りにいた客たちも思わずその指さす方角に顔を向けてしまう。当然だがそこには何もなく、ただの錯覚かなにかだと思われても仕方がなかった。

だがそれでいい。あとはと、Blazは刃と同じく先にやることを耳打ちで話しておいたげんぶと目を合わせてタイミングを計った。

未だこの後どうするのか知らないキリヤは、まさかと思い後ろに振り返った。

あの刃の言葉。その間に逃げるのではというあまりにしょうもないことをするのではと。

 

「お前ら、まさかこんな事で逃―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか蒼の魔道書を起動したBlazと足に力を込めたげんぶが大きく片足を後ろに振り上げており、彼らの前にはキリヤとルカのタカナシ兄弟が居た。

勘のいいガルムはこの後どうなるのか気づき、まさか、と呟いていたが、今から発射されるのに止まるわけがなく、外野面子も誰も止める気はなかった。

 

 

 

 

 

そう。刃が声を出して注意を晒している間に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おんどりゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」」

 

 

Blazとげんぶがタカナシ兄弟をどこか別の方向へと蹴り飛ばすというのが、彼の方法だったからだ。

それもサッカーボールのように。

 

 

「おい、それってま」

 

 

 

 

次の瞬間。何ともいえない声と共にタカナシ兄弟は空高くに蹴りあげられ、某高橋留美子の如く堕ち方で遠くのプールへと着弾したのだった。

そのたった一瞬の光景だったが、誰の目からも見られることもなく、蹴り飛ばした二人とその周りにいたナンバーズ以外、彼らがどこへと飛ばされたのかは分からず、他に分かるのは着弾した辺りのひとだけだろうと、他人事のように考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ…」

 

「飛びましたねぇ」

 

「飛んで行っちゃったね」

 

と、飛んで行った兄弟二人の姿にそれぞれの感想を言うガルム、竜神丸、蒼崎の三人。だがこれで自分たちから気が逸らされたのは確かで、エースたちも突然飛ばされて着弾した光景に思わず顔を動かして驚いていた。

 

「えっ何っ!?」

 

「なんだかすごい音が…」

 

 

「よし。この間に逃げるぞ!」

 

「キリヤさんたち大丈夫ですかね」

 

「生きてるでしょあの二人なら」

 

変に心配している刃に、別に大丈夫だと根拠のないことを言う竜神丸だが、それでも普通に生きているだろうと他全員も思っていたので大してそこから心配されることも話題になることもなかった。

それ以上に今は逃げることが優先だと、彼らは急いで人込みの中へと姿をくらました。

二人を蹴り飛ばしたお陰で、自分たちから気が逸れ、その間に逃げ切る。結果は本当に思惑通りだったので、運よく成功したことと彼女たちが単純だったことにBlazも内心では感謝していた。

 

「反応が良すぎてよかったぜ。エース様よ…!」

 

「あ…っていうかまだ出てきてない女子にはどういうんですか?」

 

「そこは念話で大丈夫だろ。俺が早苗に話しておくから」

 

ふと思い出した女陣のことに、トラブルにならないかと思ってしまう刃だがガルムのパートナーである早苗が幸いにもまだ更衣室に居たと思われるので、ガルムはエースたちのことについても含めて後で念話で済ませると、言って走り続けた。

今はそんなことをしているよりも見つかる前に姿を消す事が優先で、大人げのない姿で逃げていた。

 

 

 

「――――――あれ?」

 

「…どうしたの?」

 

「…ううん。さっきの人たちが居ないな…って」

 

「さっき…ああ。前にたむろってた」

 

「そう。凄いね、いつの間にか居なくなっててビックリしちゃった」

 

「きっと、誰かに呼ばれたんじゃないかな。例えば、敷くほうのお嫁さんとか」

 

どうやらあの一瞬ではキリヤたちのことに気付けなかったようで、ふと彼らの居た場所にはもう誰も居ないことにフェイトは気配もなくいなくなっていた彼らのことに純粋に驚き、尊敬のようなものを持っていた。自分もああやって姿を消せたらカッコいいかな、と子どものようなことを思いつつ、親友であるなのはのたとえ話にクスクスと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――まさかバカンスに来てまで逃げるとは思ってもませんでしたよ」

 

無事に彼女たちから離れ切った竜神丸は、汗を全身から流しながら皮肉のようにぼやいている。

たしかに任務ではあるが、一応休暇も含めての今回のリゾートだったというのに、彼女たちが居ることを一切知らなかったせいで、こうも慌てて逃げることになってしまったのだ。それには不満しかなく、他の面々も息を切らしながら同意していた。

 

「全くだ。なんでエース…というか六課がここに居るんだ…」

 

顔からしたたり落ちる汗を拭きとり、周囲を警戒する。げんぶもまさかここで逃げることになるとは思ってもなかったようで、せっかく買ったのにと、履いてきた水着のボクサーを見て呟く。折角新しく買った水着も、どうやら最初は海水などではなく汗で濡れてしまったらしい。

 

「そりゃミッドの管理局が作った施設ですから、居ても不思議ではないですけど…まさかここまでバットタイミングだとは…」

 

ふぅと息を整えた刃は一先ず他に局員らしき人物や六課の隊員たちが居ないかと辺りを見回す。だが至る所水着の客が居て判別しにくく、あまりの人込みに舌打ちをする。

 

「六課の連中がここにいたらまずいだろ。アイツら俺たちを目の敵にしてるんだろ?」

 

「目の敵にはしてるさ。それも血眼で探すぐらいにな。けど同時に俺たちの強さも知ってるし、第一、管轄だって違う。アイツらはロストロギア専門で作られた部隊なんだからな。  凶悪犯捕まえたって言っても、それをなんでお前らが捕まえたって内輪もめになるのは目に見えてる」

 

「それでも、アイツら正義馬鹿だから捕まえるだろ。念のために銃もってきて正解だったな…」

 

こんな人込みの中で撃つ気はないが、上着のポケットに入れていた銃を触り安心するBlazにガルムは当然ながら使うなよ、と念を押す。人の多い中で使えば誤射や謝って赤の他人に当たる可能性だってある。そうなれば罪のない人を殺した、撃ったとして管理局だけでなく身内からも軽蔑されかねない。

Blazもそれは承知しており、分かってるよ。と言われずとも、それは知っているとポケットから手を出した。

 

「くそっ…こりゃとんだバカンスになるぜ。こんな事なら、楽園で空調修理してたほうがマシだった」

 

「そうはいうがなBlaz。サボったら団長に○されるぞ」

 

「一応。空調修理は団長命令でしたからね」

 

といって向こう側も別の意味で地獄なのだなと、逃げ場所のない状況に頭を掻いた。

原因と理由がどうであれ、スタッフたちが快適に過ごせるはずの空調が壊れてしまったのだ。ほっておけば彼らに悪影響を及ぼしかねないと思ったクライシスは早急に修理を命令したという。

なお、団長命令ということでほぼ全員が総動員されたらしく復旧には約半日はかかるらしい。

 

「で。これからどうするかだが…」

 

「よし。俺は水着の女の子たちと事情聴取をだな」

 

「次はコイツを蹴り飛ばすか」

 

売り渡すこともやぶさかではないと脅しかけたBlazたちに蒼崎はそれ以上反論することはしなかった。

 

「ゴメンゴメン…で。話戻すけど、まだ出てなかった女子たちどうするんだ? 一応サポートメンバーも何人か顔見られてるだろ」

 

「のハズだから、今念話で…」

 

意識を研ぎ澄まし、念話をしようとしていたガルムは何かに気づいたらしく、念話をする体勢のまま止まってしまう。目の前に誰かいるのかと思っていたが、誰も気まずい人物はいない。

ではどうしてなんだと、げんぶが肩を叩いて訊ねようとした時

 

 

「おい、ガルム―――――」

 

「…マジかよ」

 

「………?」

 

何かに気付いたらしいという様子に、勘付いた竜神丸は自分の上着のポケットから小型の携帯端末を取り出す。中身は彼自作の計測器らしく、電波から魔力まで多彩なものを感知や検知することが可能、更に解析したりも出来るという万能機器だ。

 

「なんだソレ?」

 

「小型の計測器です。これで…」

 

慣れた手つきで操作して何かを調べる竜神丸。その結果は僅か十数秒足らずで端末のシステムからはじき出され、計測結果が表示された画面を見て彼は納得げに頷いていた。

 

「………なるほど。そういうわけですか」

 

「…どうしたんだ? 一体なにが…」

 

「結論から言いますと、このリゾート一帯に念話傍受の網が張られています。それもかなり強力かつねちっこい…ね」

 

「マジかよ…」

 

端末がはじき出した観測値と魔力の散布量、そしてその種類などから傍受型であることが判明。更に、念話を盗み聞きするタイプだということが分かり、やれやれと竜神丸も呆れてため息をついていた。

 

「随分と手の込んでいて、大掛かりな罠ですね。これでは多分、私たちが普通に念話しても向こうに筒抜けです」

 

「ッ…それじゃあ、早苗たちとは…!」

 

「念話は諦めて下さい。それと携帯での通信もです。恐らく、管理局はそっちもおさえてるでしょうからね。仮にも管理組織。警察の仕事もするようです」

 

冷静に結論を言う竜神丸に、頭を抱えるしかないガルム。長距離の通信が封じられた今、どうやって彼女たちにこの事を話すべきかと考えていたが、そこは竜神丸で、彼にも手はないわけではなかった。

というよりも、竜神丸だからこそ、たかがそれだけと言い切れる理由があった。

 

「ですが。所詮はその程度。逆にハッキングすれば解除は可能ですし向こうのシステムを奪うこともできます」

 

「本当か!?」

 

「ただし。私のこの端末ではなく、今イーリスさんが持ってるバッグの中にあるPCを使えばの話ですが。それだと一分程度でハッキングできます」

 

 

 

「ってことは…」

 

「今は女子陣と合流するのが先決だということです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。遅れて更衣室から姿を現した女性陣は、どこにも居ない男たちの姿に不安と苛立ちを見せていた。

特に、白蓮は待っていると言っていたはずの夫がどこにも居ない事に若干怒り気味だ。

 

「………全く…アイツは何処にいるんだか…」

 

「お母さん怖い…」

 

「うにゅう…」

 

事情を知らない彼女たちはどうして忽然と彼らが姿を消したのかを知らず、勝手に居なくなったことに不安しかなかった。白蓮のようにそれが怒りになっている者も居たが、大半が彼ら頼みということで表情は曇っていた。

 

「キリヤさんたちも居ない…どこに行ったんだろ…」

 

「式のヤツは…多分そこらで女と遊んでるとして…」

 

「Blazだけじゃない。ガルムも居ねぇし刃たちもだ…」

 

これが単にトラブルやいつもの事ではなく、緊急事態だというのに気づいてない女子面々。原因であるエースたちはとっくにその場から離れており、彼女たちが原因で逃げたのだと誰も気づくことができなかった。というよりも、ここが管理局によって作られた施設だというのをすっかりと忘れてしまっていたのだ。

であれば、必然的に偶に局員の姿が居ても可笑しくはない。エースたちが休暇でここに居ても変なことではない。自陣営の建てた施設であれば、行かない理由もないだろう。

 

「博士……まさか……」

 

イーリスもプールエリア内では彼も、ふらふら行く理由もないと思っていたが、その当人でさえも居ない事に驚くしかなく、心配そうに周辺を見回すが、彼ら同様に人込みが多いせいで判別が難しく、何処に竜神丸が居るのか見つけることも難しい。

まるで昔あった人探しの絵本のような状態に、イーリスはどうしていなくなったのかと不安が段々と強くなっていくが

 

 

 

 

 

「…ん!?」

 

「どうした、鈴羽」

 

唐突に何かに気付いた鈴羽は抱きかかえているニューと共にある方向に目を向けた。なにか驚くような光景があったらしい。

近くに居たアルトは何かに気付いたと彼女と同じ目線を見ると、そこにはアルトも思わず「あ゛っ」と声を漏らす二人(・・)の姿があった。

それが理由で鈴羽も顔を固まらせていたらしく、リリィと白蓮も顔だけを振り向けた。彼女が驚いた方向から向かってくる二人。それは先ほどのエースではなく

 

 

 

「ティアこっちだよ!」

 

「って分かってるから走るなって言ってんのよ馬鹿スバルッ!!」

 

彼女たちの後輩である六課隊員の二人が、女性陣の目の前を気付かずに通過していった。

どうやら楽しんでてそれどころではないのと、その暴走特急を追う事に夢中で気付いてなかったようで、二人の姿はどこか人込みの中へと消えて行った。

代わりに彼女たちの脳裏にその記憶は消えるどころか刻まれて、同時にピースとなって繋がることになる。

彼女たちが居るということ。つまり、それは下手をすればそれ上、上司が居るということ。

であれば答えは一つしかない。

 

 

 

 

「――――――イーリス」

 

「…ハイ」

 

「アレ。見たか」

 

「…ええ。予想が正しければ」

 

 

どうやらエースたちに見つかって(見つかりそうで)逃げたらしいと。

そしてこのプールだけでない、リゾートに彼女たちの部隊が居るかもしれないと。

最悪の事態と居ない男たちに、全ての合点がいった女性陣は納得と呆れ、そして落胆が入り交じった複雑な気持ちを盛大なコーラスで奏でた。

 

 

「博士たちは多分、このエリア内に居るのが確実でしょう。逃げるとすれば更衣室もありますけど、それなら反対に気付かれる可能性がありますから…」

 

「人を隠すなら人の中…か。つまり男ども全員、どこかこの中に隠れていると」

 

事情は分かった。彼らが居ない理由も知った。であればどうするか。

やる事は一つ。彼らを探すだけだ。

 

「け、けどこの人込みの中ですよ? 探すにしても一苦労じゃ…」

 

「ええ…それに多分念話や通信もアウトね」

 

リリィの心配そうなセリフにイーリスも竜神丸と同じ結論に着く。もし彼らがエースたちから逃げているのであればそれを警告する念話か通信が来るハズ。なのに、それが来ないのであれば恐らくそれが出来ない状態なのだろうと。

 

「通信傍受…ってやつか」

 

「組織が動いてるのなら、それくらいは定石だね」

 

「で。案の定この次元空間の近くに戦艦ってか?」

 

トドメとばかりに配置されているだろう次元航行艦。恐らくそこから傍受が行われている筈だと予想するレイナに、そうだと思うとイーリスは答え、バッグに入れていた竜神丸の持つPCを開く。

彼ほど使えるわけではないが、探知くらいは彼女でもPCで出来るので、操作をして傍受している場所を特定する。

 

「…あった。この世界の次元の外に一隻。多分六課の船ね」

 

「やりたい放題だなアイツら…」

 

ここまで来ると、我が物顔でやっているようで無性に腹が立ってしまう。といってもそれは敵対していたり、当人たちがそれを知ってて平然としていれば、気の短い人でなくても少なからず反感を持つだろう。

なのに彼女たちは自分たちにはその権利があるとばかりに堂々と傍受をしているので、それが女性陣には気に食わなかったのだ。

 

「ま。多分向こうは警備とかで配置されてるんだと思うけど…迷惑行為以外なにものでもないわ」

 

「加えて、下手を踏めば全部六課の所為にするという馬鹿の考えも筒抜けだな」

 

だがそれでも現在、男性陣と連絡が取れず行方も分からない状態であるということに変わりはない。彼らはこの人込みの中、どうやって自分たちと合流するか考えている筈だ。

折角の休暇ではあるが、だからといってみすみす捕まるわけにもいかない。バカンスを楽しみたかったが、いつも通りというような雰囲気になる。

 

「あーあ…折角のバカンスだったのによ…」

 

「ぼやく暇ないですよ、アルトさん。今はBlazさんたち探さないと…」

 

「探すって言っても…まずは…」

 

第一関門。人込みの中からどうやって彼らを探し出すか。恐らく、下手に見つからないようにということで一か所に集まって待機しているか数人を偵察に出しているはず。であれば向こうから探してることもあると考えて自分たちも動くべきだと考え、その探し方について女性陣は全員頭を回転させて唸り声を出す。

ただ一人。蒼崎のサポートメンバーであるレイナ一人を除いて。

 

「…レイナ?」

 

「別にそう難しく考える必要もないだろ」

 

「へ?」

 

 

 

刹那。紺色とワインレッドのラインが入った上下の水着になったレイナは、軽く準備運動をすると、人込みのなかを風のようにすり抜けていく。

するするとかわしていく、その様子に呆気にとられる女性陣だが、驚くところはそこではない。まるで既に道が決まっているかのように動くレイナは一直線に大型のプールへと向かっていた。

そしてプールの端にたった瞬間に勢いよくジャンプ。盛大な水しぶきと柱を立てて、何人かが泳ぐ間に綺麗に飛び込んで行った。無論、周りには迷惑でしかないが、その止まる事のなかった一部始終の結末に白蓮たちも数秒してから我に返り、彼女が飛び込んだ辺りに集まって行った。

 

「ちょっ…レイナちゃん!?」

 

突然飛び込んだレイナに驚くリリィ。こんな時に遊んでる場合かと怒りたいところだったが、それを先に読んでいたレイナがまぁ聞けや、顔を出して説明をする。

 

「確かに探すにしても苦労はするし、下手すりゃ見つかることもある。けど、プールの中なら隠れられるだろ?」

 

「そりゃそうだけど…」

 

「それに。この大型プールはこのエリアの大半を占めている。一周してりゃ嫌でもアイツらの姿は確認できるはずさ。だろ?」

 

解らないわけではない。実際、レイナの言う通り、プールエリアには大半を占める大型の輪型のプールがある。それが今彼女が飛び込んだプールそのもので、客たちはそのプールの中を自然とその中での暗黙のルールに従って泳いでいる。円形の中で無秩序に遊ぶのではなく、客は自然と出来上がっていた「移動しながら泳ぐ」というルールに従ってグルグルと回っていた。

であれば、レイナの言う通り流れに従って周回していればいずれは彼らと出会う可能性だってある筈。エリア内から出てないのであれば猶更、その確率はより高くなるだろう。

 

「けど、当然このプールでも見れない場所がある。そこでだ」

 

「…陸と海とで別れる…か?」

 

本音を言えばただ遊びたいだけなのかもしれない。だが、話としても提案としてもそこそこ悪くもない。どの道、探すには全員纏まってでは非効率的であり、別れて探した方が効率はいい。それに見つかった場合、逃げるのであれば少人数のほうが逃げ切りやすい。仮に相手が魔法を使うのであれば、それは非常時。つまり大事にするということだ。

であれば尚の事、逃げ切れる確率は跳ね上がる。

 

「…話としては悪くない。だがどうする? 誰と誰が海で、誰と誰が陸か」

 

「そりゃもう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で。こうなるわけか」

 

「幸い、蓮ちゃんが居る事に喜ぶとしましょう…」

 

陸地、つまりプールサイドから探すのは白蓮を筆頭とする、蓮、イーリス、アルトの四人。

残る、レイナを筆頭としたリリィ、早苗、鈴羽、ニューはプールを周回して探す、ということになった。

 

「……人選に作為を感じるな」

 

「まぁ…蓮ちゃんが居るだけでもよしとしましょうよ」

 

確かに、どの道、蓮も迷い出すときりがないので、彼女が自分たちと一緒に居ることには白蓮も安心しており、二次災害は防げると内心胸を撫で下ろしていた。

斯くにも今は、どこにいるか分からない夫のほうを探すべく、白蓮たちはプールサイドを歩いて探すこととした。

 

「…これって完全に見た目で分けられたような」

 

「五月蠅い、アルト」

 

その一方で、レイナを中心とした少女たちは大型のプールの流れに従い、ゆったりとだが移動を始める。

本音は見ての通り、自分たちが楽しみたいと遊びたいという願望から来ているのだが、それでも彼らを探せるという妙な正当性を利用し、今はこうして人の中に紛れて流れていた。

 

「なんだか本当に人探ししてる雰囲気ではないんですよね…」

 

「このまま寝てしまいそうです…寝ていいですか?」

 

浮輪の中ですっかりと楽しみ、リラックスして寝かかっている早苗に寝ないようにと水をかけて目を覚まさせる。

 

「ぶっ…?!」

 

「はいはい。寝ちゃ駄目ですよ、早苗ちゃん」

 

「す、すびまぜぶっ!?」

 

と、直後にニューが持ち込んだ水鉄砲(竜神丸改良バージョン)を直撃で食らう早苗は、水鉄砲の反動で浮輪から落ちて、更には自然にできた流れの中へと入水してしまう。

浮輪から落ちたことに驚く、他の面々と違い、撃った本人は楽しんで新しい水を給水する。

 

「あっニュー?!」

 

「うにゅ?」

 

「というかその水鉄砲どこから…」

 

「借りた~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び場所はメインストリートに変わり、危うく八神家とエンカウントする寸前だったokakaと朱雀。しかし向こうよりも早く気付いた事が功を奏したようで、素早く近くの路地に隠れた二人は、気付かれることなく難なく難敵から身を隠しきった。

向こうも休暇で浮かれすぎているからか、特に気付いたという様子や念話をしているようでもなく、バカ話をして楽しみながら通り過ぎて行き、その角を曲がればすぐに因縁の相手と出会えるという絶好の機会を無駄にするのだった。

 

「………行ったか」

 

「……ふぅ。変に寿命が縮まりました」

 

「だな。向こうの楽天さには呆れる」

 

過ぎていく彼女たちの姿に、最後まで気づいてなかったということに呆れるしかない二人は、通過していくのを見て適当に元のメインストリートの道に戻ろうとする。

最悪の危機は去ったので、もう隠れる必要もない。それよりも今は任務のための準備をと表の道へと足を踏み出すのだが

 

 

「―――――――――ッ」

 

「…? どうかしたか、朱雀」

 

「………いえ…?」

 

 

ふと何かが居ると思い足を止めて振り向いた朱雀だが、後ろには誰もいない。長く続く小道があり、僅かに角があるだけだ。隠れれば普通は見つかりにくいだろうが、気配を察知できる朱雀にとっては障害にもならない。なのに、彼の気配察知には反応なししか返ってこなかった。

単なる思い違いかと、反応のない路地を見て朱雀は自分の勘違いだと片づけて、表通りへと足を踏み出した。

 

 

「何でもなかったようです……」

 

「思い違いか?」

 

「…だと思います。反応とか気配なかったですし…」

 

八神家の面々が居たせいで変に気張ってしまったからか。それとも神経張りつめ過ぎたか。いずれにしても、反応がなかったということには変わりないので、朱雀は行きましょう、と言ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダからこのリゾート地「アトランティス」に来る方法は陸海空のどれか。

陸地だとポートからバスでということで比較的安価なのが特徴だが、安全圏と言われているポートから四時間の長いバス旅ということで下半身を痛める人が多い。

空は三つの中では飛びぬけて時間が短く、フィオナの世界に到着してからだと一時間半から二時間で到着する。だが当然のことではあるが三つの内では最も費用が高く、一番安いのがビジネスクラス。しかもそれでも他と比べて高いのは明らかだ。

そこで、三つめの海路が出てくる。多少値は張るものの、空と比べれば安く、船での移動ということでそこまでストレスや疲れが溜まることもない。様々なサービスも多く、人気の移動経路と言えるだろう。

 

そして。海路が持つ特徴。それが他二つと比べてリゾートまで運べる人の数が違うということだ。

 

 

 

「出てきますね、まだ…」

 

「ああ。まだ出てくるな」

 

ぞろぞろと蟻の列のように出てくる客の様子に遠くから眺める二人。

港に着いたはいいが、そこでは約四隻の大型のクルーズ船が停泊し、中にのせていた大勢の客を下ろしていた最中だった。

だがその列はあまりに長蛇で、見ていた二人も口を半開きにして眺めていた。

 

「どんだけいるんだよ…」

 

「このリゾートがどれだけ期待とかされてるか、よくわかる光景ですね」

 

「きっと根も葉もないことも混ぜてるのだろうさ。それよりも…」

 

今回の任務である海輸での密輸品を調べるため、辺りを見回すokaka。だがこれといって怪しい所はなく、彼の目の前で怪しいと思われる場所やものは悉く潰れて行った。

港に一つだけある大型施設は、海路での出入りのための手続きを行ったり航行している船の管制をしている場所らしく、人の出入りは激しい。

大型の積み荷を降ろすためのクレーンも近くに隠せるような場所はなく、コンテナは近くに置かれると直ぐにトラックに積み替えられる。そして、それまでの間に他の小型のコンテナも同様に、リゾート内に入れられた積み荷は全て局員たちが中を改めて調べている。

中身の監査もかなり徹底しており、様々な機材を使っている。

 

「………セオリーのコンテナは無理そうですね」

 

「…だな。だからって車とかもそもそも居ねぇ。入ってくるのは人とコンテナだけ、か…」

 

可能性が次々と潰されている状況に平然として居ながらも焦りを感じるokaka。多少は潰されているのは覚悟していたが、いざ来てみるとその隠滅方法は異常ともいえる。

なにせ可能性という可能性が目の前で呆気なく次々と潰されているのだ。

 

「チッ…徹底してるな」

 

「そういえば、ここのホテルにはVIPのためのもあるって言ってましたね。多分、その為にこれだけ徹底的なんでしょう」

 

「警備システムはばっちりですよってか? それこそ穴だぜ。そういう慢心が、俺たちのような攻める側にとっての隙になるんだよ」

 

「…それで過去何度も酷い目にあいましたからね」

 

「……………。」

 

ぐうの音もでないokakaは、その話から早く逃げたいとばかりに歩き出し、当てもないように海のほうへと向かう。幸い、乗り降りなどは船の渡橋の所で渡せばいいので、それ以外でならあまり気にはされないのだ。それでも長居していれば注意されたり怪しまれることはあるが。

それを知ったうえで、okakaは目立った目的がないような歩き方で船に近づき、丁度あと一歩で海へと落ちるというような縁から、そびえ立つように佇んでいるクルーズ船を眺める。

 

「…デカいな」

 

「改めて近くで見ると壮観ですね…これだけのデカさならどれだけの人が入るのやら…」

 

まるで巨大なクジラのような光景にしばらく眺めていた朱雀。だがいつの間にかokakaの視線は上から下に変わっていることに気付かず、一人だけ馬鹿をしているみたいで恥ずかしく思った彼は、それを知られないようにとokakaの肩を揺する。

 

「…okakaさん。眺めるのは結構ですけどその…」

 

「…分かるか?」

 

「……え?」

 

「下っ。見てみろよ」

 

okakaが指をさす方角は、クルーズ船の船底。水に浸かっている部分だ。

だがそこには水の波紋を出していること以外、特に目立ったものはなく、だからどうしたと首を傾げた朱雀は唸るような声で返事をする。

 

「………?」

 

「…船は現代になってその殆どが鉄で出来ている。だから水に浸かっている部分は、どうしてもその辺りが錆びてしまう。そこで、耐水性のペイントとかで防いでいるんだが…」

 

「……はぁ…」

 

「―――――――要は、この船が作られたのもつい最近だって話だよ。ペイントの具合とか見てたら分かる。就航は……約半年ってとこか」

 

「…他の船も?」

 

「だろうな。管理局が資金源として作った一大リゾート地だ。準備だけでもそれだけの金が動くのは確実――――」

 

突然、okakaの話す声の音量が低くなる。まるで声が消えていくような喋り方に気付いた朱雀は下げていた頭を上げると、またもokakaと同じ方向に顔を振り向かせた。

そこには何やらスーツ姿の男が一人。管理局の制服を着た壮年の男と挨拶をしており、そのまま仲が良さそうなのまま、施設の中に入って行った。

 

 

 

「―――――――――なるほど。アイツか」

 

「………まさか」

 

 

 

okakaの見ていたスーツ姿の男。その男は、彼の企業に居る役員の一人だった。

それが管理局の高官と会っていたということは

 

 

 

「つまり……そういう訳…か」

 

 

小さく口元を釣り上げたokakaはそう言って彼らの入って行った施設を見上げていた。

ターゲットは決まった。あとは決行するだけだ。

彼の目には小さな炎が灯され始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ。

その頃の楽園。

 

 

 

・ディアーリーズ個室

 

 

「あー…流石に空調修理は他の人たちに任せようか」

 

「あ~涼しい~」

 

「ってこなた。膝に乗らないで……」

 

 

 

 

キンコーン

 

 

 

 

「ん? はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オープン、セサミ」

 

 

 

 

 

 

―――――その後。何とも文章や言葉にし難い顔をしたディアーリーズとこなたが、何故か氷、水、風などに関する全ての能力を封じられた状態で空調修理に出ていたのはその場に居た面々しか知らない(ただし支配人は買い出しのため不在)


 
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