第38-16話 アバター戦 中編
No Side
色褪せない戦場。それはこの戦争の中心人物達を取り巻き、彼らと共に意思と意志を同じくする者達が居るからこそである。
当然ながら先の場所以外にも様々な場所で彼らは同胞達と共に敵を打ち倒していた。
「中央部隊、防御に専念しつつ少しずつ下がれ! 両翼部隊、逆に少しずつ前に出ろ!
今だ、両翼部隊は挟み打ち、中央部隊は反撃!」
冷静に周囲を確認し、高い指揮能力で味方を動かして敵を倒す、彼の名は『ダイチ』。
部隊指揮を任せられるほどの上級プレイヤーだ。
「いくぜ、『風神』!」
鞘に納めている刀を抜刀した瞬間に斬撃が放たれ、味方であるコンバート軍を援護するようにアクセス軍のプレイヤー達を斬り裂いた。
これは彼の装備している刀『風神』の能力によるものであり、
装備している者の俊敏性を上昇させ、
この能力によってダイチが放った斬撃は高速の刃となって敵を斬り裂いたわけである。
そして幾度も放たれた斬撃によって敵の動きが乱れた。
「よし、俺もそろそろ前に出る! 一度指揮は任せるぜ」
「了解、部隊長さんは思う存分暴れてくれ」
「OK、暴れてくるぜ「その前にMP回復しといた方がいいんじゃないか?」あ…」
勿論、ダイチの上級というのは指揮だけではなく個人戦力としての意味もあり、
そのため何時でも彼が前に出て戦えるように指揮をメインに取れる者が副隊長的立場で付いていた。
その彼に任せてダイチは敵に向かおうとしたが、先程まで散々MPを消費して斬撃を飛ばし、
MPが底をついていることを指摘されてそれに思い至る。
このように戦闘をしたいというやんちゃな一面だけでなく、天然で偶に抜けているところもあったりするわけだ。
「これでよし、改めて突撃だ!」
ダイチはポーションを飲んでMPを回復させてから敵に向かっていった。
味方の合間を抜けていき、敵軍の目前に出た彼は納刀状態から抜刀し、一気に敵を斬り裂く。
風神により敏捷性を上昇させていることで彼自身のバトルスタイルの高速機動下における剣術と抜刀術がより一層際立っている。
抜刀状態での剣術による高速の斬り合い、一瞬で納刀を行い即座に抜刀術で斬り捨て、
どちらか或いは両方と組み合わせたMP消費による斬撃、これらの攻撃で敵を斬り裂き戦場を走り抜く。
「お前、強そうだな……じゃ、斬り裂かれてくれ!」
鞘に納められた刀の柄を掴んだまま彼の姿は消えた、いやあまりの速さに誰もが見失った。
ダイチの姿を改めて確認できた時、対象にされた敵は両腕を落とされ、腰を斬り裂かれたことで上半身と下半身がわかれた。
何が起こったのか理解出来ず、激痛に襲われたまま消滅していった。
納刀した状態から一瞬で敵の傍を通過するが、その際に高速で抜刀して右腕と左腕と腰の三ヶ所を斬り落とす。
この三連撃の
高速機動と抜刀術の組み合わせによるOSS、理解できる者はトップクラスだろう。
「ふぅ、それじゃ……どんどん行くぜぇっ!」
武器の銘に恥じぬ活躍を見せるダイチ、その姿は武器の銘と同じく風神といえる。
一閃一撃。
彼が両手剣を振るえば、その攻撃を受けた者は何処の部位にしても体を斬り離され、消滅していく。
「なんだよ、お前らの意志はこんなものなのか?」
目に掛かるか掛からないかくらいの黒髪に赤い瞳を持ち、175cmほどの身長に細身の体型、
赤いシャツに黒のジャケットとズボンを着用するインプの青年、名は『ロスト』という。
黒い刀身で同じく黒い柄には赤い装飾が為されている両手剣の銘は『ブラック・ブラッド』。
彼はこれを振るって先程からアクセス軍のプレイヤー達を倒していた。
「俺からはまだ攻撃してないってのに…」
ロストが言うように、彼からはまだ攻撃は仕掛けていない。
先に相手が攻撃し、その反撃だけで相手を一閃の下に斬り倒している。
両手剣を使う際、彼は主に剣による《武器防御》と《カウンター》のスキルを組み合わせることで反撃を行い、
当然ながらスキルだけではなく、自身の技術でも武器防御や反撃を行っている。
これはロストが好む戦い方の一つであり、両手剣である時は専らこの戦法だ。
相手の攻撃後、あるいは攻撃の合間は隙ができ、その隙を突く戦法を両手剣で行うためこの時の彼はカウンターなどが主な戦い方になる。
ならばそうはさせまいと、敵の中にも魔法系統を扱うVRMMOのプレイヤーはいるため、攻撃魔法を放ち始める。
しかし、彼はソードスキルを発動し、自身に向かってくる魔法を斬り裂いた。
「《
そう、ロストが使用した技術はキリト達が割と好んで使うシステム外スキルの《魔法破壊》だ。
彼自身の成功率は五割と中々のもので今回も上手く決まったものといえる。
けれど属性付きの武器ではないためソードスキルによる相殺が不可欠、当然ながら
「くっ…かはっ、ぶっ倒す!」
その身に伝わった衝撃と痛みにロストは目が覚めたかのように笑みを浮かべてから武器を変える。
両手剣のブラック・ブラッドから古代級武器の両手斧『魔斧コンカラー』に持ち変えた。
今までは防御と反撃を中心にしていた彼の動きが一変し、両手斧を豪快に振り回して敵を薙ぎ倒していく。
また、両手斧や両手剣の使い手でありながらロストは速度重視のスタイルであり、
パワーとスピードによる豪快な攻撃もまたかなりのものである。
「このまま、ぶった斬られろ!」
斧のソードスキルを発動し、強力な一撃で叩き斬る。
先程のような切断性よりも破壊性を秘めた攻撃はとにかく凄まじい。
敵の攻撃など恐れるに足らず、次から次へと向かって来る敵をコンカラーで蹴散らしていく。
そしてこの攻撃が始まる、構えからソードスキルの光が斧に宿り、動き出す。
横に一閃薙ぎ払い、斬り上げ、二度の回転斬り、そして止めに上からの渾身の振り下ろしが決まり、十人以上の敵を瞬く間に倒した。
OSS《クレイジー・ブラッド》である。
「ふぅ、やっぱり目が回りそうになるなぁ……ま、これだけやれば十分か!」
ニカッと笑ったロストの周囲では叩き斬られた多くのアクセス軍達が倒れ、次々に消滅していっている。
死屍累々、その中央で両手斧を構える者こそ【鮮血の鬼神】である。
人影が高速で戦場を駆け抜けていく。
少なくとも大半の敵がその姿を捉えることも出来ずに斬られ、斬るということから刃を持つ武器が得物であることは判明する。
しかし、その人物の振るわれる得物でさえも速く、敵は次々と切り倒されていくしかない。
戦場の斬撃が一度止み、彼はコンバート軍側に戻ってきた。
「これだけ斬り刻んでおけば十分味方の援護になっただろう。丁度、強化魔法も切れる」
この青年、ALOから参加しているプレイヤーであり種族は
黒髪で赤の甲冑に身を包み、同じく赤の陣羽織を着用し陣羽織には金糸で黄龍が縫われており、細身で顔立ちはすらっとしている。
左腰部には鞘に納められている刀があり、
銘を『四神刀・青白朱玄』といい柄の部分は四色で鞘には青龍・朱雀・白虎・玄武が描かれている。
先程までこれを振るって敵を斬っていたのだ。
「強化魔法による攻撃と防御の強化を完了、これより再度の斬滅行動に移る」
強化魔法を自身に掛け終えるとシラタキは再び戦場の中へ向かい、刀を振るい始めた。
四方八方、全てを敵に囲まれた中で冷静沈着な彼は怖気づくことなく、その強い精神力で確実に敵を斬っていく。
着用している陣羽織には移動速度上昇の付加効果があり、防御面ではなく移動や回避を重視している。
そこから分かる通り、バトルスタイルも同様のもので移動と攻撃の速度や回避に重きを置き、パワーを捨てている。
前述にあるダイチのような剣術や抜刀術ではなく、連撃による手数がメインの刀使いである。
「(敵は誰も彼も遅い。不正アクセスによる影響なのか? いや、考えても栓無いことか)」
戦いながらも考えていたが、仕方のないことだと判断して戦闘に集中する。
斬る・突く・薙ぐ等の攻撃を高速で移動しながら行い、行く先や周囲にいる敵はその悉く斬り裂かれる。
シラタキの人格も相まって、彼が振るう刀は全て正確に狙った箇所を攻撃するなど、隙もみせていない。
敵のほとんどが彼を捉えられないのは常に最高速度を保っているためだ。
「数だけは本当に多いな……む、危なそうな場所があるな」
シラタキは苦戦しているコンバート軍を見つけ、すぐさまそちらへ向けて駆けだした。
到着すると刀のソードスキルを発動し、アクセス軍を蹴散らす援護をする。
「いい加減、落ちてもらおうか…」
刀を構えたシラタキはあるアクセス軍のプレイヤーの前に一瞬で移動してスキルを発動。
一閃目が駆け、瞬く間に二閃目、三閃目と続き、最終的に九撃目の刀による斬りつけが行われ、最後に止めの高速突きが放たれた。
十連撃の《神烈》というOSSだ。
敵は無残にもバラバラになり、彼の技は周囲のだれもが驚くものだった。
さらにもう一人の敵プレイヤーに狙いを定め、もう一つのスキルを実行する。
それは四連撃の技と単純に見れば簡単に思えるが実はそうではない、
敵の防具の隙間や縫い目に狙いを定めてそこを斬りつけて防具ごと敵を倒すもの。
このOSSの名を《穿孔》である。
餌食になった敵は防具も破壊され、HPも削られていこともあってそのまま消滅するしかない。
常に最高速度のOSSとシステム外スキルを併用したかのようなOSS、
どちらも上位プレイヤーだからこそできるものかもしれない。
「ここは粗方倒し終えたことだし、次の敵を斬滅するとしよう」
ただ淡々と自身の仕事をこなすシラタキ、サラマンダーの特殊要員である彼は仕事人だ。
一人の
名前は『ガルム』、黒髪に緑の瞳、若干筋肉質の痩せ型で身長は175cmほど、
服装は赤いシャツに黒い長ズボンと白のロングコートに身を包んでいる。
その手に持つ古代級武器の弓『雷上動』で味方を援護している。
「さぁて、どんどん狙い撃つぜ」
ガルムは弓を引き絞り、矢を放った。
空中に綺麗な弧を描きながら駆けていった矢は見事に敵の一人の眉間を貫き、一撃で倒した。
手を休めることなく、次弾の矢を番えて狙いを定め、今度は弓のスキルを発動させて放つ。
弓のスキルは種族関係無くそれぞれの属性の矢を放てるため、様々な属性の矢をスキルで放っていく。
火・水・氷・風・雷・土・聖・闇の属性から毒・麻痺などの状態異常系もあり、
全てを正確に命中させ、先程のように一撃で仕留めることもある。
「そろそろ
そう言うとガルムはある道具、というよりも矢を取りだしたが普通の矢とは違う。
この矢はマスタースミスの
名の通り、これには魔法を込めることが可能であるが込められる魔法は下級と中級の魔法であり一矢に一つの魔法だけ、
しかも中級だとほとんどが制限されるものだ。
魔法矢を番えそれを放つと空中で魔法が発動し、込められていた中級の拡散系魔法が敵の頭上に降り注いだ。
これは面白いと思い、ガルムは他の魔法矢も試していく。
追尾系の魔法、範囲系の魔法、状態異常系の魔法、高威力の魔法、等々が発動していったことで彼は満足そうに笑う。
「こりゃいいや、ALOに戻れたらレアアイテムを集めてもっと量産してもらおう。
んじゃ、どっちの矢もある程度は残さないといけないから、ここら辺で一気にぶっ放す」
魔法矢の性能に満足したガルムはある程度の備蓄を考慮し、次の一手を打つことを決める。
かなり長い詠唱だが失敗することもなくこなし、その魔法攻撃に備える。
狙いは敵の後方で大集団となり密集している場所、そこへ魔法の照準を定めて最後の部分を唱え終える。
「死 ぬ が よ い!」
発動されたのは最上級の風系大規模魔法だ。
吹き荒れる大竜巻が移動しながら地面を抉り、敵を呑み込んで空中に巻き上げながらその体を風の刃で切り刻んでいく。
百人以上を消滅させたその大規模魔法はこの世界ではまさに自然災害にも思えるだろう。
特にアクセス軍の者達はアメリカのプレイヤーであるため、
人によっては何度も経験した竜巻の恐ろしさは身に染みており、恐怖も一入だっただろう。
「俺も渦中に突っ込むとするか!」
ガルムは武器を雷上動から別の物に変える。
だが、いきなり敵軍の中央にいくわけではない、まずは自軍を優勢にするところから始める。
劣勢になりそうな味方、あるいは劣勢になっている味方の許へ駆けつけ、破壊不能属性を持つデュランダルで敵を倒していく。
また、クラウ・ソラスにはMP・魔法攻撃力・魔法効果・魔法範囲上昇の効果があり、
これを利用して中距離戦闘での魔法の連続発動を可能とする。
近づく敵は剣で斬り、離れている敵は魔法で撃つ、至極単純だが正攻法の一つでもある。
「それじゃあそろそろ、大暴れさせてもらうぜ」
MPをだいぶ消費した頃、ガルムは魔法の発動をやめて二本の伝説級の剣による戦闘へと移行した。
彼の伝説級武器二本による二刀流はキリトの全てを兼ね備えたかのような舞いとは違い、力強く破壊に特化した二刀流捌きである。
現にガルムの周囲の敵は切断よりも叩き斬られているような倒され方をし、
そのあまりの攻撃力による激痛に絶叫しながら消えていく。
さらに、システム外スキルである《
二刀流だからこそ、そして最上級プレイヤーだからこそできる戦闘技術だ。
「これで終わりだ!」
ガルムがデュランダルとクラウ・ソラスを構えてスキルを発動した。
伝説級二本による剣撃の乱舞、斬る・突く・薙ぐ等を織り交ぜた二十一連撃のOSS《カタストロフィー》だ。
最後の二十一撃目は吹き飛ばしとスタン効果を持ち、吹き飛ばされた二人の敵はそのままスタン状態になる。
「まだまだ、壊し足りねぇな!」
ガルムの戦闘の痕跡は凄まじい、まさに【破壊を齎す者】と呼ばれるだけはある。
「ライラ、大丈夫?」
「平気、私は援護に集中するからアル君は戦闘でね?」
「分かったよ。でも無理はしないで」
「貴方もね」
最前線に近い場所で一人の少年と一人の少女がお互いを気遣い合っていた。
自分達の半身ともいえるアバターで来たこの戦場、命のやり取りと言っても過言ではない。
だが、この二人はかつてSAOに囚われていた『SAO
少年の名は少女が呼んだように『アルタイル』という。
その手に持つ槍の形状は柄の部分が白虎柄の白黒模様、虎の頭部を模した装飾があり、
そこから三叉の刃が突き出ている三叉槍、攻撃には風属性が付与され敏捷値を大幅上昇させる、銘が『神虎三叉槍』だ。
(容姿は『英雄伝説軌跡シリーズ』の『ワジ・ヘミスフィア』を小柄にした感じ)
少女の名前は『ライラ』である。
左右の腰部には一本ずつ短剣を据えており、一つはアルタイルから貰い受けた愛剣の『パラディエンヌハート』、
もう一つがレイス系やアンデッド系に有効な効果を持つ『エンシェントダガー』だ。
(容姿は『英雄伝説軌跡シリーズ』の『ノエル・シーカー』を元に髪を少し長くして髪の色を明るめにし、
服装は『ワイルド・アームズ4』の『ユウリィ・アートレイデ』のものに、紫色のフーデットケープ)
アルタイルはSAO時代、一時期ギルド『
SAO以前には『黒衣衆』の一人と顔見知りであるが、ここでは置いておこう。
「僕は戦ってくるね。ライラ、気を付けてね」
「ええ、アルタイルも気を付けて」
二人はお互いの無事を祈り、それぞれの戦うべき場所へ向かった。
最前線にてアルタイルは神虎三叉槍による連続突きを披露している。
SAO時代は攻略組特有のレベルの高さによりHPも高く、敏捷値にかなり振っているため機動性も高い。
彼のバトルスタイルはそのHPの高さからダメージを無視した機動性による連続突き攻撃である。
さらにSAOの自動回復スキルの《バトルヒーリング》により、ダメージを受けても回復するので痛みさえ堪えればとにかく戦いぬける。
「風よ、吹き荒れろ」
神虎三叉槍が振るわれて命中する度に風が起こり、槍と共に敵の体を抉る。
また、アルタイルはSAOでの経験もあって計算高く、駆け引きも得意である。
相手の攻撃に合わせた対応は上手いもので、僅かに掠る程度であれば自動回復に任せて敢えて受け、
簡単に避けることが可能な攻撃は回避、避けきれない攻撃は《武器防御》や《体術》スキルで防いで逸らすなどしている。
「これでもくらえ」
周囲にいるプレイヤーを援護し、自身も槍のソードスキルを発動して敵を仕留める。
自身の援護で助けた味方がさらに援護してくれる、これも命懸けのSAOで経験したことだった。
戦線の状態を確実に優勢にしていきつつ、アルタイルは計算高さから周囲の状況を確認していく。
そこで一ヶ所だけ苦戦しているところを見つけた、同時にその周辺に誰が居るのかも悟り、即座に動く。
「間に合え…!」
ライラはアルタイルとは違う場所の前線、その僅か後ろで前線らしい援護をしていた。
「ポーションです、飲んでください」
彼女はSAO時代に所謂生産職を務めており、主にポーション系の生産で攻略組を支援していたのだ。
中層で主に活動していたが戦闘は得意な方ではなく、だからこそ当時からストレージの中をポーションや調合素材で一杯にし、
非常時に何時でも調合が行えるようにしてきたことがここで功を成した。
攻撃を受けダメージを負った味方にポーションを飲ませて癒し、調合で素材を用いてポーションを作り、
偶に突破してきた敵を周囲のプレイヤーと共に倒すなどしていた。
「敵が突破してくる、一度下がれ!」
「そんな…!」
味方の怒号が起こり、驚いたのも束の間に数十人の敵がなだれ込む。
慌てて仲間達と共に引いていく味方プレイヤーだが、幾人かは態勢を崩して取り残されてしまう。
ライラはSAOの経験から彼らを見捨てられず、パラディエンヌハートとエンシェントダガーを抜き放ち前に出る。
彼女に影響され、他の何人かが取り残された者達の救出に向かう。
「はぁぁぁっ!」
戦闘は得意ではないが戦えないわけではない。
ライラは調合スキルで作った麻痺毒を短剣に塗り、それを敵に振るうことで何人かを麻痺状態にして倒す。
さらにマスターしている短剣のソードスキルを使用し、向かってくる敵を斬って消滅させた。
だが、そんな彼女にも凶刃が迫る。
技後硬直時間が解け、なんとか回避をしようにも間に合う気配はない。
「(伏せて、ライラ!)」「(っ、うん!)」
何処からともなく聞こえてきた、愛する者の声に従いすぐさま伏せたライラ。
彼女に大剣を振り下ろそうとしていた敵は駆けつけたアルタイルの神虎三叉槍の一撃で横腹部から貫かれ、
さらに発生した風によって内側から抉られながら消滅していった。
そのまま横へ一薙ぎし、集まろうとしていた敵達を吹き飛ばす。
そんな彼の背後に向けて迫る敵が居たが、背中に目があるかのような動きで横に避けたアルタイル。
彼に攻撃を避けられた敵は正面からライラの二本の短剣に斬り裂かれ、止めにアルタイルの槍で貫かれて絶命する。
「(無事でよかったよ)」「(ありがとう、アル君)」
言葉で会話せず、それでもお互いの思っていることが察せられる二人。
システム外スキル、《接続》によるものだ。先程もこれでライラは危機を脱したのである。
アルタイルは彼女の無事を確認してホッとするも、すぐに敵に狙いを定めた。
神虎三叉槍を構えて敵に接近し、八連撃の槍のソードスキルの《桜吹雪》を発動した。
(イメージは『レジェンド・オブ・ドラグーン』のアディショナル『桜吹雪』の『ラヴィッツVer.』)
スキルを受けた敵は一瞬でHPを0にされ、消滅していった。
「戦線を立て直す、僕に続いて!」
アルタイルは敵を倒して間もなく、目前の集団に突撃していく。
彼の声に応えるように他のコンバート軍も突撃を敢行し、ライラは再び味方の援護を始めた。
二人は思う、愛する恋人と共に居ればどんな戦場でも戦える、と。
戦っている恋人達をしり目に溜息を吐く男性がいた。
彼は戦場にも関わらず休憩と称してかなり苦めのブラックコーヒーを飲んでいる。
「はぁ、どうしてこうも僕の周りにはカップルが現れるんでしょうか?
本当に運が無い、こういう時はコーヒーでも飲まなければやっていられません」
この男性もSAOの生還者であり、青髪で眼鏡をかけていて身長は185cmほど、
フード付きの服を着用しフードを被っているが顔が隠れてしまうほどではない。
名前は『スズタツ』、左腰部には銘を『狂宴』という刀を据えており、
腰には短剣の『マニピュレートフォース』、ローブの内側の服には針を潜ませている。
そんな彼は戦闘以外では運が悪く、
特にSAO時代からよくカップルと遭遇しその甘さを感じさせられていたことから常々苦みのある物を携帯している。
「さて、休憩は終わりにして役目を果たすことにしましょう」
スズタツはカップ等をストレージに戻し、狂宴を鞘から抜き放って敵のアクセス軍の集団の中へと突っ込んだ。
彼は容赦なく敵を斬り裂く、普段のスズタツは優しく礼儀正しいのだが、敵対行動を取る者には冷徹なまでに容赦をしない。
また、彼の戦い方はこれまでのプレイヤーとは打って変わって、全てが計算の下に成り立っている。
自身の攻撃だけではなく、相手からの攻撃の対処など、あらゆる事柄を確率論や可能性として考慮・判断し、行動する。
自身の行動に対して相手が行ったことを考え、すぐにまた別の攻撃の選択肢を思考し、再び攻撃に移る。
「ゲームをしに来ているのであれば即刻帰宅をお勧めします。なので、散ってください」
スズタツが奥に進めば進むほどに攻撃力と速度が上昇し、次々と敵が斬り倒されていく。
狂宴には一定範囲内にいるプレイヤーの人数に比例して攻撃力と速度を上昇させる効果がある。
これだけの超密集集団戦、敵も味方もかなりの人数であるため、
それほど大きくない指定範囲でも十二分に能力を上げることができるのだ。
それにより、どれだけ高いレベルや防御力、強力な武器や防具で己を守ろうとも比例上昇したスズタツの能力の前で、
斬られて無事な敵プレイヤーはほとんどいない。
「ではそろそろ、張った罠をお披露目しましょうか」
彼はただ敵を斬って倒していただけではなく、ある道具を用いて罠を準備していたのだ。
スズタツの空いている左手には一本の大きな裁縫針、そう裁縫針である。
穴に通されているのは糸だがこれも普通の糸ではない、鋼糸と呼ばれるものだ。
さて、この鋼糸が伸びている先にあるのは倒れている敵でありその者には同じく裁縫針が突き刺さっている。
その先にも倒れる敵と突き刺さる裁縫針、それは一定間隔もあれば長短問わずの距離でもあったりする。
それが無数に、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされているが鋼糸がピンと張っているわけではない、
言わば糸が置かれているような状態だ。
その時、スズタツは手に持っていた裁縫針と鋼糸を能力が上昇した力で引っ張り、
立ち上がった敵を利用して罠である鋼糸の蜘蛛の巣を張り巡らせた。
完成した鋼の蜘蛛の巣、それはあまりの細さから戦闘中では分かり辛く、
糸が張り巡らされているところを通過しようとした敵は次々に上半身と下半身が別れる。
後方から次々とやってくるため、止まることが出来ずにやられていく敵達。
あまりにも恐ろしい光景に同じコンバート軍の者達は彼が味方でよかったと悟る。
「それでは幕引きといきましょう」
スズタツは針と糸を狂宴に巻き付け、短剣のマニピュレートフォースを抜き放って左手に構える。
短剣のソードスキルを発動し、いざ敵に攻撃するのかと思えばそれを投げつけるかのように手放した。
だがソードスキルは発動した、厳密には初撃分だけが発動されたまま短剣が空を駆ける、システム外スキル《スキルチャージ》。
当然、硬直時間は発生し、短剣の回収も必須であるが、この後の展開を考えればその苦労も報われるだろう。
ソードスキルを発動した短剣はある場所の裁縫針と鋼糸を破壊し、
直後にスズタツが再び鋼糸を引くと全ての糸が中心に向かっていく。
それが何を意味するのか、答えは簡単だ……鋼糸の巣の内部にいた全ての敵を真っ二つにするのである。
「ふぅ、中々大変なんですよね、これ。まぁ、一気に倒せたのですからよしとしましょう」
スズタツはまた新たな鋼糸の巣を作りだすべく移動する。
敵対した獲物達は何人たりとも蜘蛛の巣から逃れることはできない。
一人の女性が無数の敵プレイヤーを相手に舞っていた、いや凄まじい剣舞で敵を斬り倒していた。
その動きに淀みはなく、振るう剣は確実に敵を葬り、敵の攻撃は確実に防ぐは避ける。
キリトにも負けず劣らずのその剣舞はまさしく達人クラスのものである。
「やれやれ、確かに私の方からここへ突入してきたが、これだけ痛い目に遭えばもう少しは大人しくなると思ったのだがな」
その女性はシルフであり、異性である男性だけでなく女性から見ても見目麗しいといえる。
言葉遣いは男性によくあるものでそんな彼女の名は『セレス』、SAO生還者でそのデータをALOに引き継いでいる。
『ヴォイドクロス』という防具は服系で浅めの緑色をしており状態異常耐性が非常に高い。
武器の『王剣アイアス』と『カリオシリオン』はどちらも片手剣であり物理攻撃と魔法攻撃が上昇し、
これを用いてセレスは我流の二刀流を行う。
(容姿は『イース フェルガナの誓い』の『エレナ・ストダート』で青みがかった銀髪)
「もうしばらくお付き合い願おう」
セレスのバトルスタイルではソードスキルをほとんど使わない。
自身で磨いてきた我流の二刀流術を主体として乱舞し、敵を斬り刻んでいく。
その剣舞の美しさだけでいえばキリトよりも上だろう、まぁ力強さではキリトの方が上だが…。
そんなセレスだが二本の剣を両腰の鞘にそれぞれ納め、無手での戦闘を開始した。
拳も腕も脚も使い、ありとあらゆる打撃を敵に叩きつけていく。
防具など無視し力強く、それでも華麗な動きで敵を叩き潰す。
実は彼女、二刀流が達人クラスの腕前だが無手の方がそれよりも強い。
近接戦闘で武器がなくとも対応できるように無手での戦闘も学んだのだ。
「時間稼ぎも済んだことだし一気に片付けさせてもらう」
セレスは後方に下がった、とはいっても味方と敵が入り乱れる最前線の少し後ろ辺り。
彼女はそこで詠唱を始めた、かなり長いそれは周囲にいる同じALOのプレイヤーが誰も聞いたことのないものだった。
特に
これほど長い詠唱で難しいものを知らないはずがない。
だが、それを考えられるのは後方の味方だけ、最前線のコンバート軍の者達にとっては援護が行われることに安心感が得られる。
そして、魔法が発動する。
「味方には再生を」
セレスが告げた後、魔法が発動された。
彼女の全MPが消費されると空中に蛍光灯色の光球が発生し、周囲のコンバート軍を認識するとレーザーが照射されて味方に命中した。
すると、ダメージを負って怪我をしていた味方プレイヤーの傷が癒えてHPが回復し、
さらに敵が発動した魔法を無効化して無効になった魔法の分と敵のMPで自動吸収し、空中に残り続ける。
《フォノン・デュートリオン》という固有オリジナル魔法だ。
「敵には破滅を」
MPポーション飲んだことでMPを回復し、新たな詠唱を終えてからセレスは告げ、魔法が発動される。
全MPが消費されると空中に白熱球色の光球が発生し、
周囲のアクセス軍を認識すると光属性のレーザーが発射され、敵を貫いてダメージを与えていく。
こちらも敵の魔法を無効化し、無効になった魔法の分と敵のMPを自動吸収し、空中に残り続けて敵を自動迎撃していく。
《フォノン・ディスパージョン》、こちらも固有オリジナル魔法だ。
この二つの魔法はALOにおいて十個しか存在しない超レアアイテム、オリジナル魔法を構築できる魔導書から製作されたものであり、
入手してから魔法を設定して運営から認可が下りることで使用可能となる。
勿論、使用に関しては制限もあるので毎回何度も使えるわけではない。
なお、これ以外にも“こんな魔法を作ってほしい”という魔導書アイテムがあり、
余程の無茶な魔法でなければ運営が許可を出して製作し、
アップデートの際に新魔法として発表されることもあるのだが、ここでは置いておくとしよう。
二つの魔法砲台、一つは味方に治癒を齎し、もう一つは敵に破壊を齎す。
二つの広域砲台魔法は数時間に一度の制限はあるが、それでも強力であることに違いない。
「この魔法が続く限りこちらは再生が続き、そちらには攻撃が続く。お前達には地獄を体験してもらおうか」
再生と破壊の広域砲台魔法の使い手であるセレス、それはあたかも生と死を司る神にも見える。
この後、ALOで訪れる神々の黄昏にて幾人かは参戦するが、
その時味方になり共に戦うか、敵となって立ちはだかるか、それはまだこの時の彼らには分からなかった。
圧倒的戦力と圧倒的魔法で戦場を支配する者達、この戦いは続くが舞台は移り変わる。
No Side Out
To be continued……
あとがき
一日遅れた上に時間も遅くなってしまい申し訳ないです、でも完成できてまたホッとしますた。
今回でアバター戦二話目となり、一応次回でアバター戦は終わりになります。
前回のあとがきでも書きましたが一部設定やスキルは自分の判断で内容を変更したりしています、
システム的に不可能なものとかはなんとかそれっぽくだったり、オリアイテム等で誤魔化しましたw
本当に疲れましたが次回も執筆を頑張りたいと思います!
それではまた次回をお楽しみに・・・。
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第16話目です。
一日遅れてしまいましたが今回もなんとかアバター戦が完成しました。
では、どうぞ・・・。