同日、20:45――――
その後クロスベル市に戻ったロイド達はセルゲイに病院での出来事を報告し、さらに病院で手に入れたファイルも見せ、その後すぐにセルゲイから話を聞いてやってきたダドリーもロイド達から報告を聞いて、ファイルに目を通した。
~特務支援課~
「クッ……何を考えている!?ヨアヒム・ギュンター………一体どういうつもりだ!?どうして自分が不利になる情報をわざわざ残したりする!?」
「フン、確かにな………」
ファイルに目を通し終えたダドリーはファイルを睨んで怒鳴り、ダドリーの疑問に頷いたセルゲイは考え込んだ後、ロイド達に振り向いて尋ねた。
「――お前達。偽装の可能性はどう思う?」
「……正直、この状況で偽装する意味はないと思います。全ての状況が彼を指し示し、ルバーチェや議長との関係も明らかにされていますし……」
「”銀(イン)”の行動を見る限り、黒月や共和国派の仕掛けの可能性も低いのではないかと……」
「ま、これ見よがしに誇示してるだけじゃねぇのか?あの秘書野郎の態度だってかなりイッちまった感じだったし。」
「……同感です。その2つのファイルからは自己顕示欲と合わせて、何らかの狂信的なメッセージを感じました。それも恐らくキーアについて……」
「そうね。あれは恐らくキーアを保護しているレン達に向けてのメッセージを意味しているのでしょうね………メッセージの内容は……」
「”今まで特務支援課に預けていた彼女を返してもらう”……そのあたりの内容でしょうね。」
「なるほどな………そこまで拘らせる何かをあの子が持っているのか……?」
「ば、馬鹿馬鹿しい………ただの能天気な子供でしょう!?こんな事をしてまで一体何をしようって言うんです!?」
ロイド達の話を聞いて考え込んでいるセルゲイにダドリーは嘲笑して反論した。
「さてな………だが、この白いファイルに彼女の写真が挟まっていた事の意味………―――ロイド、どう思う?」
「……はい。6年前までに行われていた幾つもの非道な”儀式”の数々………その締めくくりとしてキーアを利用するというメッセージかもしれません。」
(もしくは”儀式”に使う”供物”として何らかの特別な価値がある可能性も考えられるわね………)
そしてセルゲイに尋ねられたロイドは推理し、ルフィナは他の推測をしていた。
「っ………」
「チッ………」
「………絶対にさせません……」
「それに関してはレンも同感ね。」
ロイドの推理を聞いたエリィ達はそれぞれ改めてキーアをヨアヒムの魔の手から守る決意をした。
「ああ……もちろんだ。―――ダドリーさん。上層部の方はどうですか?」
「………間が悪いことに例の拘置所襲撃の報せがあってな。しかも拘置所の近くにあった警察学校と訓練所も襲われたらしい。そちらへの対応で警察本部は蜂の巣を突いたようになっている。」
「わかりました………これ以上はアテには出来ません。――――遊撃士協会に頼んでキーアを外国に逃がしましょう。」
ダドリーの話を聞き、警察本部の援護がアテにできないと判断したロイドは意外な提案をした。
「ロイド、それは……」
「もちろんアリオスさんか、エステル達、もしくはアーシアさんに任せる事が条件だ。リベールあたりなら安全だろうし”教団”の手も届きにくいはずだ。」
「フン………確かにそいつが一番安全かもしれんな。―――だが、いいのか?お前自身の手であの子を守れなくなっても。」
ロイドの説明を聞いて納得した様子で頷いたセルゲイはロイドに問いかけた。
「……俺の拘りやプライドなんてどうでもいいんです。みんなは反対かもしれないけど………あの子が少しでも安全なら俺はそちらの可能性に賭けたい。」
「ロイドさん……」
「やれやれ………仕方ねぇか。」
「――逆に言えば護衛対象がいなくなれば、レン達も動きやすくなるからロイドお兄さんの提案は今の状況ではベストな判断ね。」
「……よく決心したわね。」
ロイドの決意を知った仲間達もそれぞれロイドの提案に合意している中ルフィナは静かな笑みを浮かべてロイドを見つめた。
「………そのつもりなら急いだ方が良さそうだな。国際定期便の最終便は確か21:30だったはずだ。急げば今夜中にリベールへあの子を逃がせるかもしれん。」
「よし、ギルドに連絡しろ。ちょうど目の前にアリオスと同じA級正遊撃士がいるんだから、受付に事情を説明してそのまま任せればいい。リベール常駐の遊撃士の中でも5本の指に入る”暁のアーシア”ならアリオスの娘とキーアの2人、何があっても守り切れるだろう。」
「はい……!」
そしてダドリーの提案とセルゲイの指示に頷いたロイドはエニグマで通信を開始し
「ル―――いえ、アーシアさんが遊撃士協会に向かわずに私達の所に残ってくれたお陰で二人をすぐにリベールに逃がせそうになりましたから私達は助かりましたけど……クロスベルに戻った時にすぐに支部に向かってミシェルさんに指示をあおがなくてよかったのですか?」
「ええ、貴女達クロスベル警察の状況を確認してからミシェルに連絡するつもりだったから気にしないで。最もすぐにリベールにトンボ帰りになるようだけどね。」
「……二人の事、よろしくお願いします。」
ロイドが通信をしている間にエリィに訊ねられたルフィナは答えた後苦笑し、ティオはルフィナを見つめて頭を下げた。
「はいはい。こちら遊撃士協会、クロスベル支部よ。」
「ミシェルさん。支援課のロイドです。今、よろしいですか?」
「あら、坊やだったの。どうしたの?ウチのメンバーはまだ戻ってきてないけど………」
「そ、そうですか………実は今アーシアさんが傍にいまして。その事も含めてお願いした事があるのですが………」
「ハ?”アーシア”って、まさかリベールの”暁のアーシア”が今そっちにいるの?アーシアが来るなんて連絡、エルナンからは聞いていないけど……まあ、いいわ。今の状況でA級正遊撃士が来てくれるなんてありがたいしね。それで?何を頼みたい―――――」
ロイドの通信相手―――ミシェルが答えかけたその時、通信の向こうから大きな音が聞こえ
「なっ………なんなの、アンタたち!?ここは遊撃士協会(ブレイサーギルド)――――」
ミシェルの驚きの声が聞こえた後、なんと銃撃が聞こえ
「……くっ………」
ミシェルの唸る声と共に通信は切れた!
「!!!ミシェルさん!?どうしたんですか!?(………ダメだ。通信器がやられたのか………!?)」
通信が切れた事やミシェルのただならぬ様子に驚いたロイドは呼びかけたが、既に通信は切れていた。
「おい、何があった………!?」
ロイドの様子を見たダドリーは戸惑った様子で尋ねた。
「………遊撃士協会が何者かに襲撃されたみたいです。通信が切れる直前に機関銃の音がしていました。」
「なっ………」
「まさか操られたマフィアどもか………!?」
「フン………可能性は高そうだな。」
「先手を取られてしまったわね………」
「そうなると。”次の狙い”は間違いなく………」
ロイドの報告を聞いたエリィは驚き、ランディの推測にセルゲイは真剣な表情で頷き、厳しい表情で呟いたレンの言葉に続くようにルフィナはこれから起こる事を予測し、厳しい表情をした。
「いや、その………マフィアの襲撃にしてはちょっと気になることが………」
「なに………?」
そしてロイドの答えにセルゲイが眉を顰めたその時通信器の鳴る音が聞こえてきた。
「この音は……向こうの通信器?」
「早く出ましょう!」
通信器の音を聞いたロイド達は急いで部屋を出た。
「あ、ロイドー。つーしんきが鳴ってるよ~?」
「ああ、すぐに出る。」
部屋を出たロイドはキーアの言葉に答えながら通信器に向かい
「ごめんね、シズクちゃん。うるさくしちゃって………」
「い、いえ………何かあったんですか?」
エリィに謝罪されたシズクが不安そうな表情で尋ねたその時、ロイドは通信器を取って通信を開始した。
「はい、特務支援課です!」
「あっ、ロイドさん!?よ、よかった!無事に繋がって………!」
「その声は……ノエル曹長か!」
「はい、先程はどうも!―――実はロイドさんたちにお伝えする事があるんです!ベルガード門の部隊との連絡が完全に途絶していました………!」
「何だって……!?一体、何があったんだ!?」
「わ、わかりません。こちらも現在確認中で………一応、そちらにも伝えるよう副司令に指示されました!」
「わかった、情報感謝する!そうだ―――こちらにも伝える事があるんだ!」
ロイドは遊撃士協会が襲撃されたらしい事を手短にノエルに伝え
「―――レンよ。”敵”が動いたわ。”敵の狙い”はレン達が匿っている例の競売会(オークション)の少女。恐らくこの通信の後すぐに少女の身柄を狙ってレン達を襲撃してレン達は拠点から撤退するだろうから、”敵”の動きを見てレン達の救援を。なお”敵”は”ルバーチェ”並びに”ベルガード門のクロスベル警備隊”。―――以上よ。」
「―――かしこまりました。」
「「了解(ヤー)。」」
ロイドがノエルに状況を伝えている間にレンはエニグマとアークスでそれぞれの通信相手に指示を出していた。
「市内でギルドが………!?わかりました!副司令に伝えておきます!何が起きているのかわかりません!くれぐれも気を付けて………!」
「ああ、そちらこそ!」
「警備隊方面で何があった?」
通信をやめたロイドにセルゲイは尋ね
「ベルガード門の部隊との連絡が完全に途絶したそうです………今、現状を確認中との事でした。」
「なんだと………!?」
「い、一体何が……」
ロイドの答えを聞いたダドリーは驚き、エリィは真剣な表情をした。
「セルゲイ・ロウ警部、クロスベル支部との連絡が遮断された為これより私―――アーシア・アークは独自の判断で一時的に”特務支援課”の指揮下に入りますので、遠慮なく私にも指示をお願いします。」
「―――了解した。」
そしてルフィナの申し出にセルゲイが真剣な表情で頷いたその時
「ウゥゥゥゥ………!」
ツァイトが立ち上がって玄関を睨んで唸っていた!
「ツァイト………!?」
「なんだ………外に何かいるのか?」
「………………」
ツァイトの行動を見たロイドは驚き、ランディは不思議そうな表情をし、レンは真剣な表情で玄関を睨んでいた。
「グルルルル………ウォン!」
「『囲まれてる、気を付けろ!?』」
「なんか集まってきてるって言ってるみたい~。」
「本当か………!?」
「ひょっとして………遊撃士協会を襲撃した!?」
ツァイトの言葉を翻訳したティオとキーアの話を聞いたロイドとエリィは驚き
「フン………間違いなさそうだな。―――総員、脱出の準備を。ロイドとランディはキーアとシズクを連れて行け。」
セルゲイは厳しい表情をした後、指示をし始めた。
「はい………!」
「アイ・サー!」
「ティオは周囲の警戒を。エリィとレンはフォローに回れ。」
「はい……!」
「了解しました!」
「わかったわ!」
ロイド達に指示を終えたセルゲイはショットガンを手に持ってダドリーとルフィナに振り向いて指示をした。
「ダドリー、アーシア。しんがりは俺達で持つぞ。」
「了解です………!」
「了解……!」
襲撃に備えてエリィ達は武器を構え、ロイドとランディはそれぞれキーアとシズクに近づき
「キーア。しっかり掴まっててくれ。」
「うんっ!えへへ………」
「シズクちゃん。失礼させてもらうぜ。オヤジさんに比べりゃ物足りねぇだろうが勘弁な。」
「そんな事………よろしくお願いします。」
それぞれキーアとシズクを抱き上げた。
「よし………なるべく陣形を崩さずに―――」
そしてセルゲイが指示をしようとしたその時、ガラスが割れ、怒涛の銃撃が部屋に撃ちこまれた!するとなんと警備隊員が窓ガラスを破って飛び込んできた!
「なっ………!?」
「け、警備隊………!?」
予想外の襲撃者の登場にロイドとエリィは驚き
「「……………………………」」
警備隊員が虚ろな目でロイド達を見つめていた。
「行くぞ!裏口から撤退する!」
セルゲイの号令によってロイド達は裏口から脱出し、セルゲイとダドリー、ルフィナは牽制攻撃を行った後、ロイド達を追って行った!
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第66話