No.85482

after to after sidestory~風の見た夢~

kanadeさん

サイドストーリー第二弾、今度は風です。
楽しんでいただけたらいいなと思います。
感想・コメント待ってます
それではどうぞ

2009-07-20 11:12:28 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:16155   閲覧ユーザー数:12088

 after to after side story~風の見た夢~

 

 

 

 城の庭で一人、日向ぼっこをする少女が一人。

 「不思議なものです。風のお腹に赤ちゃんがいるとは」

 名を程昱、真名を風という。優しくさする彼女のお腹は、目立つぐらいに大きくなっていた。

 一刀の子を宿した早数ヶ月、その間に第一子として凪の娘、鎮が産まれ、つい最近には真桜の娘の禎と沙和の娘の圭が産まれたばかりだ。

 「そういえば、霞ちゃんもお兄さんのこを授かっていましたね~。お酒が飲めないといぼやいてましたが、お兄さんの〝説得〟で今は静かなものです」

 ぽけーっと眺める空には澄み渡る青と流れる雲の白がある。穏やかな風も吹いていて、まったくもって日向ぼっこにはもってこいといえる状況だ。

 「風がお母さんですか・・・ちょっと不安なのですよ・・・・・・おや?今、お腹を蹴りましたね~・・・しかし、この感じは・・・・」

 ふふふーとなんともご機嫌な声が自然と出てしまった。

 「お目見えするその日まで、お兄さんには内緒にしておきましょう。・・・にしても、どうやら風に似て日向ぼっこがお好きなようですね~」

 この陽気に自然と眠気が湧いてきて、そのまま風は眠りに落ちた。

 

 

 ――起きて、起きて・・・。

 ――お話がしたいな、お話をして欲しいの。

 「どなたでしょう?」

 ――まだ、名乗れないのです。でも・・・私たちは貴女とお話がしたいのです。

 ――ですが、そう遠くない内に会えるのですよ・・・逢いに行くのですよ。

 「では~、何をお話しましょうか?」

 ――貴女が話したいことを、私たちは聞きたいです。

 ――貴女が聞いてほしいことを、私たちは聞くのですよ。

 「風と・・・風の大切な人のお話は如何でしょう?」

 ――聞きたいです~。とってもそのお話を聞きたいです。わくわくするのです、ドキドキするのです。

 ――楽しみなのですよ。すごく、すご~く楽しみなのですよ。

 

 「このお話はですね~、天の御遣いと呼ばれる人とこの大陸を収めた覇王様とのお話なのです」

 風は静かに、優しく・・・目の前にいる二人の幼い少女に語り始めた。

 この大陸に流星とともに現れ、一人の覇王を目指す少女と出会い、自分と、多くの人たちと大陸中を駆け抜けたお話を。

 まるで、子供におとぎ話を聞かせるかのように。

 目の前にいる幼い少女たちは、終始瞳を輝かせながらそのおとぎ話を聞き続けた。ただの一度も横槍を入れず、嬉しそうに耳を傾け続けるのであった。

 (お兄さんの子供が産まれたら、こんな風にお話を聞かせることが出来るのですね~。これは、ますます楽しみになってきました)

 風の想いは、まだ見ぬ我が子との未来に、ますます期待を膨らませるのであった。

 

 「――とまー、このお話はここまでなのですよ」

 ――でも、まだ終わってない気がするのです。

 ――もっともっと、お話を聞きたいのですよ。もっともっと、お話をして欲しいのですよ。

 「そうしたいのは山々なのですが~・・・ここからのお話は、どうなっているのか風にも分からないのです。ですから、誠に申し訳ないのです」

 ――・・・・・・。

 ――・・・・・・。

 二人はしばらく何も言わずに風を見つめた後、にこっと笑った。どうして笑ったのかは風にも分からなかったが、二人が彼女の答えに満足しているということだけは伝わってきた。

 この子達は、自分たちの求めていた答えを得たのだということが、風には伝わっていた。

すると突然、風の体が宙に浮く。

 ――もう時間なのです。・・・・・・ありがとうなのです、素敵なお話を聞かせてくれて。

 ――貴女を呼んでる人を、これ以上待たせるわけにもいかないのですよ。・・・・・・ありがとうなのですよ、素敵なお話をしてくれて。

 「わわ・・・・・・お二人は一緒に来ないのですか~」

 ――私たちは、いっしょにいけないのです。でも、必ず逢いに行くのです。

 ――約束するのですよ。だから、待っていてほしいのですよ。

 「はい、では~その日を楽しみにしていますね~」

 

 そして、風の体が光に包まれた。

 彼女は光に包まれる直前、確かにその言葉を聞いた。

 二人の笑顔と共に。

 

 ――『またね、お母さん!』

 

 そこで風の意識は途切れた。

 

 

 「おおっ!・・・・・おや?ここは風のお部屋ですね~。・・・不思議です、風は確かに中庭でお昼寝してたはずなのですが」

 鳥の鳴き声が聞こえるということは、どうやら今は朝らしい。

 ということは、あのまま熟睡してしまい、誰かが部屋に運んでくれたということだろう。と、そこまで考えて自分の横に誰かがいることに気付いた。

 腰を上げ、顔をそちらに向けると、そこにあったのは見知った顔だ。

 「お兄さん?」

 風の声に、隣で椅子に腰かけ眠っていた一刀が目を覚ました。彼は風を見るなり抱きしめ、涙を流した。

 「お兄さん?どうして泣いているのですか?」

 「だって、風が目を覚ましてくれたから・・・もう、目が覚めないかと思ったから、目を覚ましてくれたことが嬉しくて、涙が出ちゃうんだ」

 どういうことだろうか、自分は昼寝をしたまま熟睡して、部屋まで運んでもらったのではないのか。そう思っていた風だったが、一刀の様子から察するにどうやら違うようだ。

 「お兄さん、風は一体どのくらい眠っていたのですか?」

 「もう、五日も眠ってたんだよ。中庭の木陰で眠ってる君を、稟が見つけてね・・・夕刻になっていたから君を起こそうとしたんだけど、全然起きなくて」

 一刀の話に、風は驚くばかりだ。自分は昼寝をして、夢の中でお話をしていたはずだというのに、その実、五日もの間一切目を覚まさなかったという。

 「だけど、こうして起きてくれたからいいんだ・・・・だから、もう少しこうしていてもいいかな?」

 「お兄さんのお願いをお断りする理由が、風にはないのですよ~」

 風もまた一刀の背に手を回しお互いに抱きしめあった。

 

 風の一番大好きな温もりを、彼女は確かに感じていた。

 このあと、華琳たちも様子を見に来て、目を覚ました風を見て、一刀と同じように涙したという。

 中でも一番長い付き合いである稟は、声をあげてわんわんと泣いたそうだ。

 (そういえば・・・風は一体誰とお話していたのでしょう?)

 

 不思議に思いつつも、決して不快ではなく、とても快い感じに、思わず笑みを浮かべる風であった。

 

 

~epilogue~

 

 

 

 あれから数年が流れた。

 風には今、娘が二人いる。

 これは、二度も一刀の子供を授かったのではなく、産まれてきたのが双子だったからだ。

 名前は武と延という。

 「びっくりしたよ。まさか双子だったなんて・・・・風は知っていたの?」

 「はい~。何となくではあったのですが・・・折角ですから産まれてくるまで内緒にしておこうと思いまして」

 「そっか、それは嬉しい内緒だね」

 今二人は、中庭の木陰でのんびりしている。もう少ししたら、武と延もやってくるだろう。

 ――と、考えていたら、噂をすれば影という感じで双子の娘がやってきた。

 「おおっ、お父さんもいるのです。一緒にお昼寝なのです」

 「さんせーなのですよ」

 とても仲がいいこの双子、こんな感じで一刀と風の膝の上に座りこむ。

 そして、二人に寄りかかると、そのまますぐに寝息を立て始めた。この辺は母親譲りで、この子らの特技といえるだろうと一刀は思っていた。二人が寝てしまったのを確認すると、一刀と風も身を寄せ合ってそのまま昼寝を始めるのだった。

 その後、他の面子も集まり、一刀と風たちの様子を見て、今いる我が子、いずれ生まれる我が子、あるいはいずれ授かるわが子との時間に思いをはせたそうだ。

 

 ――そして、その日の夜にいつもと違う出来事が風に起こった。

 この日は一刀の部屋で親子三人で寝る日なのだが、いつもならすんなりと寝る武と延が一向に寝る気配を見せないのだ。

 いつもと違う様子の二人にどうしたのかと一刀が尋ねると。

 「鎮お姉ちゃんは寝る前にお話をしてもらったって言ってたのです」

 「鎮お姉ちゃんだけずるいのですよ」

 ぷーっと頬をふくらます二人がたまらなく可愛らしくて思わず頭を撫でる一刀。

 嬉しそうに笑った後、それを見た一刀は。

 「それじゃあ、お話をしてあげるね・・・・・・そうだなー、お父さんとお母さんのお話なんてどうかな?」

 すると――。

 「聞きたいです~。とってもそのお話を聞きたいです。わくわくするのです、ドキドキするのです」

 「楽しみなのですよ。すごく、すご~く楽しみなのですよ」

 「!!」

 二人の言葉に、風は確かに聞きおぼえがあった。武と延が産まれる少し前に、夢の中で出会った 二人が確かに同じことを言っていた。

 こんな偶然かあるのかと思ったが、それは違うということに風は気付いた。

 (きっと、あのときは・・・お母さんになることに不安を覚えていた風を、元気づけてくれるために逢いに来てくれたのですね~)

 

 ――本当は全く違うかもしれないし、風の思い込みかもしれない。けど、風にはどちらでもよかった。

 真実はどうあれ、あの夢のお陰で風の中からは不安は消え、母になることへの期待がより一層高まったからだ。

 

 いつの間にか二人は眠ってしまっていたが、その寝顔はとても満足そうだ。

 「ふみゅ~・・・・・・お父さん、大好きなのです~」

 「にゅ~・・・お母さんとお父さんはとっても仲良しなのですよ~」

 

 ――二人の寝言に一刀と風はほほ笑む。

 

 風は、あの時会いに来てくれた・・・そして今ここにいる二人に届くように、でも二人を起こさないように、言葉を贈った。

 

 「ありがとうなのですよ。風とお兄さんに逢いに来てくれて・・・・」

 

 ――その言葉が届いたのかどうかはわからない。でも、武と延は確かに笑っていた。

 

 

 

~あとがき~

 

 

 えと、今回のお話ですが・・・風にはこんな不思議な体験があってもいいかなと思って書いたのですが、如何でした?内容がいささか薄い感じになってしまいましたが、御容赦ください。

 今回は、一刀が活躍していません。まだ見ぬ娘たちが、風を元気づける・・・そんな話にしてみたくってこのお話を書いたのです。

 良かったと言っていただけたならうれしい限りです。

 次の作品は、まだまだ未定の状態なので、完成する時までしばしの御待ちを・・・・・・

 Kanadeでした。

 


 
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