~夜・ハルトマン議長邸~
「な、なんだここは………」
「ハルトマン議長邸………噂には聞いていたけどこんな壮麗な建物だったなんて。」
「ああ………想像以上だったな……(ハルトマン議長………それに”ルバーチェ”………ここまで大物だったのか。)」
「―――ようこそ、お客様。”黒の競売会(シュバルツオークション)”へようこそ。お客様は………初めてのご来場でございますか?」
レンが議長邸に入ってくる少し前、先に議長邸の玄関に入ったロイドとエリィが話し合っていると一人の執事が近づいて来て尋ねた。
「ああ、そうだけど。」
「オークションは午後9時から、正面にあるホールにて開催を予定しております。それまでの間、左手にあるサロンで饗応の用意をさせて頂いておりますのでお酒やお食事などをお楽しみください。ちなみに今宵、当館にお泊りになるつもりはございますか?」
「あ、いや………ホテルに部屋を取っているし知り合いを待たせているからね。今回は遠慮させてもらうよ。」
「かしこまりました。もし気が変わられた場合、すぐにお部屋を用意いたしますので遠慮なくお申し付けになってください。なお、邸内はご自由にご観覧いただいて結構ですが………幾つかの区画は立入りをご遠慮願っておりますのでどうかご容赦くださいませ。」
「ああ、わかったよ。」
「ふふ………丁寧な案内、ありがとう。」
執事の案内にロイドは頷き、エリィは微笑んだ。
「いえ、何かあったらわたくしや他の使用人に遠慮なくお申し付けください。それでは………」
2人の労いの言葉に答えた執事は頭を下げた後、ロイド達から離れて行った。
(オークション開催まで2時間くらいはある……一通り屋敷の中を回ってみよう。)
(ええ、わかったわ。)
その後ロイドとエリィは屋敷内の探索を開始し、ある広間に入った。
「だ、だからその……誤解だと言っているだろう?こちらの女性とはただの仕事上の付き合いでね………」
「いいえ、誤魔化されませんから!様子がおかしいと思ったらやっぱり他の女性と一緒に来ていたなんて……!」
ロイド達が大きな広間に入るとそこにいは男性と女性が言い合いをし、その様子をワジが見守り、様子が気になったロイド達はワジに近づいた。
「やあ君達。無事には入れたようで何より。」
「おかげさまでね。……それより、これは何の騒ぎなんだ?」
「フフ………ご覧のとおり修羅場ってヤツさ。」
ロイドに尋ねられたワジは静かな笑みを浮かべて答えた後、ロイド達と共に言い合っている男性達に視線を向けた。
「―――き、君だってそんないかがわしい格好の少年と一緒にいるじゃないか!ま、ま、まさか、そういう関係なのか……!?」
「その子は困っていた私を手助けしてくれた恩人ですわ!クロスベルに来て右も左もわからず、困っていた所を助けてくれて………オークション会場まで案内してくれてわざわざ付き添いまでしてくれた……あなたと、そちらの女性のようないかがわしい関係ではありません!」
「ぐっ………」
女性に睨まれた男性は唸った。
「フフ、僕としてはそれ以上の関係になってもいいんだけどね。―――ねえ、奥さん。そんな薄情なご主人なんか放ってこのまま僕と火遊びしてみない?奥さんみたいな健気で可愛い女性、キライじゃないしさ。」
「ワ、ワジ君、そんな……t」
静かな笑みを浮かべて口にしたワジの状況をより悪化させるような事を聞いた女性は頬を赤らめ
「き、君ぃ!人のワイフに色目を使うのは止めてもらおうか!」
男性はワジを睨んで怒鳴った。
「ああもう………これ以上付き合ってられないわ。ジェイムズさん。火遊びをするんだったらもう少し上手く立ち回ってよね。まったく、とっとと他の招待客をひっかけないと………」
その時男性の隣にいた女性は呆れた後、その場から去り
「ニ、ニキータ君……!」
去って行く女性を見た男性は焦った様子で見つめていた。
「や、やっぱり仕事上の付き合いなんて嘘でしたのね!?も、もう愛想がつきました!私、このまま実家に帰らせてもらいます!」
男性の様子を見た女性は怒りの表情で男性を睨んで叫び
「エヴェリン、そんな……!」
女性の叫びを聞いた男性は焦り出した。
「な、何だかお邪魔しちゃ悪そうね………」
「………えっと、俺達はこれで失礼させてもらうよ。」
「フフ、それがいいね。―――また後で。宴を楽しんでくるといい。」
一連の流れを見ていたエリィとロイドは表情を引き攣らせた後、ワジに見送られて広間を去った。その後探索を続けていると通路を歩いている途中である人物が声をかけてきた。
「うふふ、二人とも今の所はちゃんと大人しく見て回っているようね。」
「へ………」
聞き覚えのある声に気づいたロイドが呆けて振り向くと自分達同様正装を身に纏ったレンがサングラスを外して二人に近づいてきた。
「レ、レンちゃん!?その服装は一体………それにどこで着替えたのかしら?」
「うふふ、実はミシェラムの別荘地帯には”Ms.L”や代理人名義で購入した別荘もいくつかあってね。その別荘の一つに保管してあったドレスに着替えたのよ♪」
「ええっ!?」
レンの話を聞いたエリィは驚き
「というかそれ以前に一体どうやってこの会場に入り込んだんだ!?」
「あら、二人の時同様正面から堂々と入ったわよ?」
ロイドの指摘に対してレンは目を丸くして答えた。
「正面から堂々と入ったって……招待カードはユウナちゃんから貰った一枚しかなかったのにどうやって………」
「クスクス、クロスベル警察に出向すると知った時”こういう事がある可能性も考えて”、知り合いの人から招待カードを一枚譲ってもらったのよ。レン自身にも招待カードは来ていたけど、そっちは他の人に譲っちゃったし。」
「そ、それって……」
「”Ms.L”が持つ伝手か……ハア……俺達が”黒の競売会(シュバルツオークション)”の存在を知った時に何で招待カードを持っている事を教えてくれなかったんだよ……」
レンが招待カードを手に入れた経緯を察したエリィは冷や汗をかき、ロイドは疲れた表情で溜息を吐いた。
「その時はエリィお姉さんたちはレンが”Ms.L”である事は知らなかったし、それに新人達が協力し合って頑張っているのに、”Ms.L”という”反則技”を使うのは無粋だし、それじゃあロイドお兄さん達は成長できないでしょう?」
「それとこれとはまた、話が別だろう………まあ、レンも競売会(オークション)に潜入できた事は心強いな。」
「フフ、そうね。レンちゃんはこれからどうするのかしら?特に予定がないのだったら、私達と一緒に見て回る?」
レンの説明を聞いて溜息を吐いた後気を取り直したロイドの意見に苦笑しながら同意したエリィはレンに訊ねた。
「いえ、レンはレンで競売会(オークション)が始まるまで一人で見て回らせてもらうわ。ワジお兄さんも言っていたように、あまり人数を連れて見て回っていたら目立つでしょうし。」
「それもそうか………――わかった。レン、一人で見て回るのはいいけど今の件みたいな俺達に相談もしないでの独断行動は止めてくれよ。」
「ええ、それじゃあ競売会(オークション)が始まる頃にまた会いましょう。」
そしてロイド達がレンから離れて別の場所へと向かい、その場にレンが一人だけになるとある人物達が近づいてきた。
「ハハ、まさか本当にこの競売会(オークション)に潜入するなんてな。中々チャレンジャーなリーダーのようやな?」
レンに近づいてきた人物達――――正装を身に纏ったレオニダスと共にレオニダス同様正装を身に纏ったゼノがレンに声をかけた。
「うふふ、まあロイドお兄さんだからね。――――それよりも今朝連絡した通りに頼むわね?」
「ああ。競売会(オークション)で不測の事態が起こった際、脱出するお前達の手助けができるように客室に潜んでいるから、何かあればすぐに駆けつける。」
「ま、嬢ちゃん達からしたら俺達の出番が来るような事態にならない方がええと思うけどな。―――そんじゃあ、俺達は”戦前”の腹ごしらえをしてくるわ。」
レンの指示にそれぞれ答えたレオニダスとゼノはその場から離れて去って行き、レンも別の場所を見て回る為にその場から去って行った。一方探索を続けていたロイドとエリィはマフィアが守っている部屋に気付き、その部屋が気になって近づいた。
「―――お客様。申し訳ありません。こちらはスタッフ専用の部屋になっておりまして。」
近付いて来るロイド達に気付いたマフィアはロイド達に近づいて注意した。
「ああ、それは失礼。広すぎて迷ったみたいだ。(マフィアが詰めている待機場所って所か……?)」
マフィアの注意にロイドが頷いたその時、扉の中から何かが動く音が聞こえ
「おい、ちゃんとリスト通りに揃っているんだろうな!?」
「ああ、前半の出品物はそろそろ会場に運び出すぞ!」
さらに扉の中から人の声が聞こえて来た。
「チッ、アイツら………」
声を聞いたマフィアは舌打ちをして扉を睨んだ。
「ひょっとして………出品物はそちらの方に?」
「え、ええ。万が一のことが無いよう我々で保管をしております。オークションで出品されるのを楽しみにして頂けるかと。」
「……ああ、もちろん期待しているよ。――――それじゃあ戻ろうか。」
「ええ、わかったわ。」
そしてロイドはエリィと共にその場に去りかけたが
ミツケテ
聞き覚えのない少女の声が頭に響いてきた。
「え………」
声を聞いたロイドは驚いて振り向き
(………ロイド?)
ロイドの行動が気になったエリィは不思議そうな表情で見つめた。
(いや……ゴメン、何でもない。早くここを離れよう。)
その後ロイドとエリィは別の場所の探索を開始し、さまざな場所を見て周り………その途中でキリカやレクターとも出会って会話をした後オークション会場がどういう所なのか見る為に中央フロアに向かった。
「フン、妙だな。てっきり何か仕掛けてくると思ったんだが………」
「今の所は異常ナシですね。さすがの”黒月”も、ハルトマン議長の顔を潰すような真似はしないんじゃないですか?」
「馬鹿野郎、連中を甘く見るな。”銀(イン)”はもちろん、あのツァオも有能すぎて組織の長老どもから疎まれているって噂の切れ者だ。気を抜いていると喉笛に喰い付かれるぞ。」
「は、はい……」
「しかし、今回の競売会は妙な感じがしやがるな………”黒月”以外にも、どこぞの連中がチョロチョロと紛れ込んでいるような………そんな気配がしやがるぜ。」
「え、えっと……それも戦場で培った猟兵としてのカンですかい?」
「………まあな。クク……俺もヤキが回っちまったか。このまま何も起こらずに終わるに越した事はねえんだが………どうにも血が疼きやがるぜ。久々に”狩り”がしたい気分だぜ。」
「は、はは……」
ガルシアとマフィアが会話をしているとロイド達がフロアに入って来た。
「あ………」
(マフィアの若頭………!)
ガルシアに気づいたロイドとエリィは足を止めた。
「おっと、こいつは失礼。当会場の警備を担当しているガルシア・ロッシといいます。防犯のため見回っている最中でして、お見苦しいでしょうがご容赦を。」
「……いや。見回り、ご苦労さまだね。」
(何とか凌がないと……)
ガルシアに見つめられたロイドが苦笑している中、エリィが考え込んでいるとガルシアがロイドに近づいてきた。
「あん?お客さん、どこかで見かけたことがあるような…………ん~?……」
「……気のせいじゃないかな?あなたみたいな大柄な人、一度見たら忘れないだろうしね。」
「はは、そうかもしれませんな。ふむ………念の為名前を伺ってもいいですかね?」
「………ああ、構わないよ。―――初めまして。ガイ・バニングスという。」
「ガイ………?はて、その名前もどこかで聞いたような……」
(くっ………マズったか……!?)
(ど、どうしたら………)
ガルシアに怪しまれ始めている事にロイドとエリィが焦り出したその時
「―――ふふ。遅れてしまいましたわね。」
一人の女性がロイド達に近づき
「へ……」
「ベ、ベル………!?」
女性――――マリアベルの登場にロイドとエリィは驚いた。
「ふふ………こんばんは、”ガイ”さん。こんな場所で会えるなんて本当に奇遇ですわね。」
「え、ええ………」
「本当に………予想外だわ。」
マリアベルに話しかけられたロイドは苦笑し、エリィは溜息を吐いた。
「ふむ……お嬢さんはどちらさまで?」
一方マリアベルが気になったガルシアはマリアベルを見つめて尋ねた。
「わたくしの名はマリアベル・クロイス。お見知りおき願いますわ。」
「IBCの………」
「これはこれは………上から話は聞いておりましたよ。今年はついに招待に応じてくださったわけですな?」
マリアベルが名乗るとマフィアは驚き、ガルシアは口元に笑みを浮かべてマリアベルを見つめた。
「ふふ、何度も断るのもさすがに失礼かと思いまして。こちらの方々はわたくしの友人ですけど……何か問題でもありまして?」
「いやいや、とんでもない。改めまして―――ようこそ”黒の競売会(シュバルツオークション)”へ。まずはハルトマン議長にご案内いたしましょうかね?」
「ふふ、議長閣下には後ほど改めて挨拶しますわ。それより出来ればお部屋をご用意してくださる?先程まで商談をしていたので少し休憩したいのですけど………」
「かしこまりました。」
マリアベルの話に頷いたガルシアは近くにいる執事に視線を向けて指示をした。
「―――おい。マリアベルお嬢様が部屋をご所望だ。くれぐれも粗相の無いようにな。」
「は、はい。それでは案内させていただきます。」
その後ロイド達は別室に案内され、マリアベルに事情を説明した――――
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第34話