No.852286

飛将†夢想.9

反董卓連合結成す。
呂布は丁原の約束を果たすべく、戟を振るう。

再版してます。。。
作者同一です(´`)

2016-06-09 06:54:48 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1369   閲覧ユーザー数:1257

 

『泗水関』

 

泗(さんずいに已)水関とは、

『三国志演義』にて反董卓連合と董卓軍が最初に衝突した関所の一つである。だが、実際には存在しない関所であり、三国志演義の表記は正確なものではない。

 

 

擁州・洛陽

 

洛陽の城下街は恐怖に包まれていた。

 

ぞろぞろと入城してくる董卓軍の武将たちに、

これから起きるであろう戦争と徴収、若い娘たちへの強姦、

気に喰わない者の虐殺を民たちは頭に過ぎらせたのである。

 

そして、

民たちの恐れていた事が実際に起きてしまう。

 

 

「おい、お前。良い身体しているな……俺が可愛がってやる。来いっ」

 

 

「ひっ…」

 

 

年若い一人の娘の腕を董卓軍の武将であろう、

無精髭を生やした屈強な男が卑しい笑みを浮かべながら掴んだのだ。

 

余りの恐怖にガクガクと震える娘。

 

その表情に更に欲情したのか、

男は唾液をすすりながら娘と反対方向を向くと宮殿に向かって歩き始めた。

 

だが、その歩みは直ぐに止まってしまう。

 

 

「っ、ぐぎゃぁぁ、痛ぇ、痛ぇっ!!?」

 

 

腕に走る強烈な痛み。

男は余りの痛さに娘の手を離し、

痛みの原因を知るべく自身の腕を見る。

 

男の目に映ったのは、

ミシミシと骨を軋ませる自身の腕とそうさせる男の手であった。

 

 

「…さっさと宮殿へ向かったらどうだ?」

 

 

男の手を握り潰さんと力を込め、

殺気を放ちながら言う呂布。

 

その殺気に『何だ、お前は!?』という言葉を言わずに飲み込んだ男は、

無言でただただ頷く。

 

男のその行動に、

呂布は突き放す様に男の腕を解放し、

後ろをチラチラとみながら逃げ出す男の背中を睨む。

 

そして、尻餅をつきガクガクと震える娘に顔を向き直すと彼女に近寄り、

身長を合わせる様にしゃがんだ。

 

 

「…怖い思いをさせた、すまない」

 

 

呂布は娘に謝罪すると、

トラウマがあるかもしれないと娘に触れず立ち上がり、

そのまま宮殿に向かい歩き始めた。

 

娘は立ち去る呂布の大きな背中をただ呆然と見つめるのだった。

 

 

 

 

洛陽宮殿・軍議室

 

 

各方面に就いていた董卓軍の武将が集まった軍議室。

 

呂布はそんな中、

目をつぶり腕を組んで一人壁に寄り掛かる。

 

暫くすると李確が軍議室に現れ、軍議室が一瞬にして静まった。

そして、辺りを見渡すと満足そうな笑みを零し、

 

 

「……皆、集まってもらったのは言うまでもない。我等の力を推し量らず、戦いを挑む愚かな者たちが此処を落とそうと迫ってきているのだ。だが、その者らに構ってやれる程私は暇ではない。さっさとグズ共を殲滅しようではないか」

 

 

と、李確は拳を胸の前で作り武将たちを見た。

武将たちは各々声を上げて、これに応える。

 

武将たちの雄叫びを聞きながら恍惚とした表情を浮かべる李確は、

暫くすると武将たちを鎮め、言葉を続けた。

 

 

「先鋒を名乗り出る者はいないか?我こそは、という者はいないか?」

 

 

だが、さっきの勢いは何処にいったのか、

李確の言葉に武将たちは互いの顔を確認する。

 

そんな中、

一人だけ李確の言葉に答えた者がいた。 

 

 

「ふっ…やはり、此処は私しか務まらぬだろう」

 

 

「…華雄、か。流石は董卓軍最強の士」

 

 

李確は人を乗せる事に長けているのか、

その言葉を聞いた華雄と呼ばれた女性は上機嫌に立ち上がる。

 

 

「ふふふ、この華雄が連合軍など簡単に一蹴してみせよう」

 

 

 

 

「では、華雄。貴女は五万の軍勢を率いて泗水関に」

 

 

李確は胸を張り威風堂々とする華雄に向かって命令を下そうとしたが、

その言葉を遮る者がいた。

 

 

「…華雄は斬られる。止めておけ」

 

 

声の主は勿論呂布であり、

呂布はゆっくりと壁に寄り掛かっていた身体を起こすと李確を鋭い視線で見つめる。

 

同じく李確も呂布の顔を睨むように見ると、

そのまま呂布と話をするべく口を開こうとするのだが、

 

 

「何だとっ!?この私が連合軍の腑抜け共に斬られるというのか!?馬鹿を言うな!!」

 

 

李確よりも先に、

侮辱されたと取った華雄が牙を剥いて呂布に大股で歩み寄っていた。

 

だが、呂布がそんな事で動じる事もなく、

華雄が目の前に立つと、腕を組んで『何だ?』と言わんばかりに華雄を見下ろす。

 

華雄も呂布の殺気に恐れもせず、

そのまま暫く睨み合うと不意に呂布の胸倉を掴んだ。

 

 

「……誰が私を斬るというんだ?言ってみろッ!!」

 

 

胸倉を掴む手を震わせながら言う華雄に、

呂布は組んでいた手を解くとその手を掴み、

 

 

「…宣言しよう。お前は連合軍の部将である劉備の義妹、関羽雲長に討ち取られる」

 

 

力ずくで身体から離し、

華雄の問いに答えた。

 

 

「…なっ!?」

 

 

焦りもせず、

まるで予知しているかの様に自信を持って言う呂布に、

華雄は思わず不安に陥ってしまう。

 

呂布の言葉に軍議室が静まる中、

今まで黙って話を聞いていた李確が口を開く。

 

 

「…ならば、貴方がその阻止をしなさい。華雄は斬られるのでしょう?」

 

 

「………ッ、李確!!何を言っている、私一人で十分だ!!」

 

 

李確の言葉に、

我に返った華雄が慌ててそれを拒否するのだが、

 

 

「…どうなのです?」

 

 

李確は華雄の言葉など聞かず、

呂布の返事を要求した。

 

李確の要求に呂布は黙っていたが、

暫くしてからその重い口を開く。

 

 

「…良いだろう。“飛将守護騎”と共に華雄の補佐をしてやる。その間、董卓の護衛は貴様がしろ。だが、あいつに何かあったら、その首叩き切ってやるからな」

 

 

そう李確に言うと呂布は踵を返し、

背後で何か叫ぶ華雄を無視しながら軍議室を後にするのだった。

 

 

 

 

呂布は軍議室を出るとそのまま真っ直ぐ自室に戻る。

そして、自室に入るとその目に小さい人影が映った。

 

 

「呂布殿っ」

 

 

「…ねね、か。どうした?」

 

 

呂布は自身の名を呼ぶ少女の頭をポンポンと軽く叩きながら椅子に座ると、

少女に用件を尋ねる。

 

呂布が頭を触れた事に暫く顔を紅める、

ねねと呼ばれた少女…陳宮は、

 

 

「へへへ………ハッ!!ぐ、軍議の方はどうだったのですか!?それより、何かされたりしてませんか!?」

 

 

思い出した様に軍議で何を言われたのか、されたのかを呂布に尋ねた。。

軍内で一人蔑まされている呂布を案じて尋ねたのだろう、

呂布は陳宮の言葉に微笑しながら答える。

 

 

「…何もされていない。そもそも、されていたら返り血を浴びて戻っている」

 

 

「ッ、そ、それはそれで、いろいろと問題ですぞ!?」

 

 

「…冗談だ」

 

 

微笑しながら話す呂布は、

暫くしてから真剣な表情に戻し本題に入った。

 

 

 

「…泗水関で華雄の補佐をすることになった。直ぐに飛将守護騎を召集し、編成、出発できるようにしろ」

 

 

「お任せあれッ!!」

 

 

陳宮…音々音は呂布の命に精一杯手を挙げて応えると、

直ぐに呂布の部屋を出ていく。

 

それを見送った呂布は軽く溜息をつくと、

これからの戦いの事を考え、

そのまま椅子に身体を預けて仮眠をとるべく目をつぶった。

 

 

それから暫くして、

仮眠をとる呂布の下に音々音ではない別の人物が現れる。

 

藍色の乱れた髪を揺らしながら呂布に近寄る女は、

 

 

「…呂布殿。飛将守護騎、万事準備整いました」

 

 

と、呂布の目の前で拝跪して言うのだが、

呂布がそれに反応せず寝息を立てていると知ると、

何を思ったのか無表情のまま自分の唇を呂布の口に近づけていく。

 

そして、

女の柔らかな唇が呂布の口に触れそうになる直前、

 

 

「………何の真似だ、陽炎」

 

 

目を閉じたまま呂布は口を開き、

口づけを阻止した。

 

陽炎と呼ばれた女…高順は無表情のまま、

ゆっくりと顔を離すと呂布の問いに答える。

 

 

「…いえ、呂布殿が目を閉じられていたので、接吻してやろうかと思いまして」

 

 

「…意味が分からん」

 

 

陽炎の答えに呆れながら言う呂布は、

そのまま椅子から立ち上がると、

 

 

「…お前が此処に居るということは、準備が出来たということだな。直ぐに出るぞ」

 

 

と言いながら、

拳と掌を合わせて頷く陽炎を確認して自室を出るのであった。

 

呂布率いる私兵団・飛将守護騎は、

華雄率いる主力部隊に続いて泗水関へ進軍。

 

それから間もなくして、

泗水関の董卓軍に『連合軍、泗水関前に布陣』の報が入る。

 

 

 

「あっちはやる気満々っちゅう事やな…血が騒ぐわ」

 

 

泗水関を目前に布陣する連合軍。

霞は腕を組んでそれを見るとニヤリと笑い、

ゾクゾクと武者震いを起こしていた。

 

と、そこに音々音を従えた呂布が現れる。

武者震いを起こす霞を見た呂布は、

 

 

「…向こうはやる気でも、俺たちがそれに付き合う義理は無い。霞、俺らは後方支援に徹する。このような処で守護騎に損害があっては困るからな」

 

 

霞の頭をポンポンと軽く叩いて憤りを抑えようとしながら、

今回の戦いの方針を話す。

 

それを聞いた霞は少し残念そうな顔をして、呂布の顔を見る。

それは、まるで楽しみを奪われた子供の表情のようなものであった。

 

 

「……む、まぁ、確かにそうやな」

 

 

呂布の言葉に納得しつつも、少し元気が無くなる霞。

それを察した呂布は暫く間を置いて溜息をつくと、口を開いた。

 

 

「……だが、華雄が殺られそうになった場合は方針に関係無く、俺と霞、陽炎で華雄を救助する」

 

 

「………ん?それは危険に曝された華雄を助ける為に、敵部隊に突っ込んで暴れまくるっちゅうことで合ってるん?」

 

 

呂布の言葉に、

沈み始めていた霞の表情がパッと変わり、

そんな霞の問いに呂布は微笑しながら答える。

 

 

「……意味の捉え方は、お前に任せるさ」

 

 

「ヨッシャ!!了解やで!!」

 

 

握り拳を作って言う霞の表情は、先の武人の顔に戻っていた。

と、霞の士気の一件が終わると、

次に呂布の隣にいた音々音が口を開く。

 

 

「それにしても華雄を助ける意味はあるのですか、呂布殿?華雄は愚かにも呂布殿を毛嫌いしてるしッ、戦闘中は猪だしッ…」

 

 

音々音は話しながら呂布を毛嫌いする華雄を思い浮かべると、

腹が立ったのかギリギリと歯を鳴らす。

 

だが、そんな音々音の問いに答えたのは呂布ではなかった。

 

 

「…気に喰わない相手といえど、生きていれば董卓殿の盾として使える、といったところでしょう…当たっていたら私を妻にしてください、呂布殿」

 

 

いつの間にか現れ、連合軍の陣を静かに見つめながら言う陽炎の姿に、

最初は感心した眼差しで思わずその姿を見てしまう霞と音々音だったのだが、

最後の言葉に一瞬にして呆れた表情に変わる。

 

呂布も陽炎に対して呆れた表情になると、

 

 

「……元より、華雄の死は泗水関の陥落を意味している。董卓を護る為にも此処で連合軍を止めるぞ」

 

 

陽炎の願いを勿論全く聴き入れず、

気を取り直して霞と音々音に真意を伝えると、

霞と音々音は呂布の言葉に頷く。

 

そして、

それと同時に泗水関の董卓軍にざわめきが起きた。

 

 

「れ、連合軍が攻めてきたぞッ!!!!」

 

 

連合軍を指差しながら叫ぶ物見の兵士に、

泗水関の将兵に動揺が走ったのだ。

 

様々な旗を掲げ、

夥しい数の連合軍が泗水関に進攻を開始するのを見ると、

呂布は直ぐに飛将守護騎の将に指示を飛ばす。

 

 

「…霞、陽炎は各隊を率いて関より矢を放て。その総指揮は…ねね、お前に任せる。上手く守護騎を操れ」

 

 

「了解なのですッ、ねねにお任せあれ!!!」

 

 

 

呂布の指示に音々音は手を精一杯挙げて答えると、

霞と陽炎の二将も頷き直ぐに自分の部隊に戻り戦闘準備を始めるのであった。

 

 

 

一方、

 

 

「のこのことやって来おって…華雄隊、出るぞッ!!!」

 

 

門の前で得物である巨大な戦斧を肩に担ぐと、

華雄も部隊を率いて連合軍に当たるべく泗水関から出撃する。

 

出撃する華雄を泗水関より見る呂布は華雄の武勇を知っていたので、

その上をいく武将…関羽、張飛が現れるまで引き止めず、

好きに暴れさせることにした。

 

案の定、華雄はその武勇で進攻する連合軍を圧倒。

遂には連合軍の前線を完膚無きに叩き潰し、

連合軍の陣目掛けて突撃していく。

 

 

「ハッハハハ、連合軍の雑魚共め。お前たちの力はその程度なのか?話にならんぞッ!!!」

 

 

高笑いをしながら戦斧を振り回し、

連合軍の兵士たちを薙ぎ倒す華雄。

董卓軍の士気は高揚し、形勢は完全に逆転したかの様に見えた。

 

だが、

そこで恐れていた事態が発生する。

 

 

「我が名は関雲長!!幽州の青龍堰月刀とは私のことだ!!」

 

 

戦場の中でも一際目立つ長刀『青龍堰月刀』を片手に、

同じく一際目立つ綺麗な黒髪を靡かせ名乗りをあげる少女。

 

華雄を斬るだけの技量を持つ猛将・関羽が華雄の前に立ち塞がったのだ。

 

 

「貴様が関羽か………いいだろう。貴様を叩き斬り、奴の悔しがる顔でも拝んでやるとするかッ!!!」

 

 

これに対して華雄は、

呂布の言葉が頭の中を過ぎったのか眉間に力を込めて関羽を睨むと、

戦斧を一振りして馬を走らせた。

 

激しい衝撃音を響かせながら交錯する青龍堰月刀と戦斧。

その音に戦場にいた将兵たちが動きを止め、

二人の一騎打ちを見た。

 

 

「ッ、あの馬鹿!!総大将が簡単に一騎打ちなんかしおって…」

 

 

泗水関から同じく二人の一騎打ちを見た霞が、

華雄の行動に舌打ちをして言う中、

 

 

(…これも“武将の性”というものだろうな。まぁ、同じ立場ならば俺でも挑んでいたが)

 

 

呂布はそれに苦笑しながら、

泗水関から弓を構え矢を番える。

 

その間、

一騎打ちでは激しい攻防…明かに一方的な攻防が展開されていた。

 

 

「フンッ、董卓軍最強の将の力とはこの程度のものなのか?」

 

 

最初は果敢に挑んでいた華雄だったが、

それも三合まで。

関羽は力量が下である華雄に対して容赦無い攻撃を繰り返す。

 

関羽の前に防戦一方になる華雄はそれに焦り、

同時に苛立ちも表れた。

 

“何故勝てない。何故こんなにも強い者が表舞台に現れなかった。何故あの男の言った様に斬られそうになるのだ…”

 

華雄の脳内に様々な思いが交錯すると、

それを振り払わんと彼女は叫んだ。

 

 

「……お、おのれぇぇっ!!!」

 

 

華雄は防御を解いて、

捨て身の攻撃に出る。

 

 

「勝負ありのようだな、華雄ッ!!」

 

 

だが、華雄のその焦りを関羽は逃さず、

隙だらけの大振りを小さな動作で避けると、

 

 

「さらばだッ!!」

 

 

気合いを発して、

がら空きになった華雄の脇腹を狙って青龍堰月刀を振った。

 

目を見開く華雄。

 

 

「ッ!?」

 

 

突如、関羽目掛けてギャリギャリと空気を割く音を響かせながら、

一条の矢が飛んでくる。

 

華雄への攻撃を瞬間的に止め、

紙一重で体勢を崩して馬から落ちながらも矢を避けた関羽は、

片膝をつきながら矢が放たれた場所を見た。

 

 

「何者だ!?」

 

 

関羽の視線が注す場所…泗水関には、

弓を片手に持つ呂布の姿が。

その姿に関羽は驚きの表情を浮かべる。

 

 

「ッ、お前は、業城の時の…」

 

 

呂布も泗水関より、

こちらを見つめる関羽を微笑しながら見つめると、

再び矢を番え始め、ニヤリと笑って関羽に向かって矢を放つ。

 

先程とは状況が違うからか、

関羽はその矢を冷静にかわしてみせると、

 

 

「卑怯者ッ、降りて私と闘え!!」

 

 

青龍堰月刀を呂布に向け、

もはや華雄の事など忘れたのか、怒鳴るように叫ぶ。

 

これに対して呂布は、

隣に立つ音々音を見ると、その身長に合わせるようにしゃがんで耳打ちする。

 

そして、

音々音が頷いて何処かへ走り去ると、

再び呂布は無言のまま関羽を見た。

 

 

「………何をしている。さては、私に臆したのか?」

 

 

暫くしても一向に動かない呂布に更に罵声を飛ばす関羽。

その表情には黒い笑みが浮かぶ。

 

と、突然泗水関の門が開く。

関羽や連合軍がそれに気付いてバッと門を見ると、

中から霞と陽炎を先頭に騎馬数十騎が飛び出してきた。

 

そして、騎馬隊はそのまま動けずにいる華雄目掛けて急接近する。

 

 

「華雄、退場やでッ!!」

 

 

「…お疲れ様でしたぁ」

 

 

騎乗したまま手を伸ばした霞と陽炎は華雄の両手を掴むと、

華雄は宙を浮いた状態で引きずられるように泗水関へ連れていかれていく。

 

 

 

「い、意味が分からんッ!?離せ、離さないか!?」

 

 

だが、華雄の叫びも虚しく、

泗水関へ無理矢理連れていかれ門の奥へ消えると、

同時に呂布が城壁から飛び降りた。

 

ざわめく連合軍。

それもそのはず、関から人が落ちたのだ。

自殺か何かがあったのかと誰でも思ってしまう。

 

しかし、

呂布はその期待を裏切る様に、

泗水関の門が閉まる光景を背にゆっくりと立ち上がる。

 

右手に方天画戟、

左手に朱椰の両刃剣『望』を持つ呂布。

その姿と放つ悍ましい殺気、

まさに鬼神の如き様相をしていた。

 

 

「…ッ、ひ、一人で戦うつもりなのか?」

 

 

呂布の放つ殺気を肌にピリピリと感じるも、

それに怯まず、

門を閉じた泗水関を指差しながら言う関羽。

 

そう言われると呂布は後ろをチラリと見て、

再び関羽に向き直すと、

 

 

「…別に一人でも構わないだろう。ん、何だ、俺に臆したのか?」

 

 

微笑しながら、両手の武器を一振りして走った。

ただ一人で連合軍目掛けて。

 

迫り寄る悪鬼に確実に恐れる連合軍。

そんな中、最前線にいた関羽は自身を鼓舞すると同じく呂布に向かって駆けた。

 

 

「この関雲長をなめるなッ!!!」

 

 

激突する両雄。

激しい衝撃波を放ちながら二人は得物で打ち合い、鍔ぜり合いを始める。

 

歯を食いしばって力を入れる関羽と無表情で青龍堰月刀を受ける呂布。

その光景から、二人の力は拮抗しているかのように見えた。

 

しかし、呂布の一言でその状況は一変する。

 

 

「…女とはいえ、やはり関羽ということか」

 

 

呂布の言葉が言い終わると同時に関羽の身体が鍔ぜり合いをした状態で押され始める。

ズズッと砂埃を上げ下がる足に力を入れる関羽だが、

力をどれだけ入れても呂布の力に敵わないのか、

その速度はどんどん増していく。

 

 

「…手を抜いた事を許してくれ。少し本気を出す」

 

 

そう関羽に謝罪しながら呂布は鍔ぜり合いのまま次第に走り出す。

こうなると関羽は倒れない様に前屈みで必死に体勢を崩さず耐えることしか出来ず、

気付けば二人は連合軍の真ん中まで進んでいた。

 

そこで突然呂布が足を止め、

戟で青龍堰月刀を大きく打ち払うと、

間髪入れずに関羽に向かって剣を振るう。

 

青龍堰月刀を大きく打ち払われて隙が出来た関羽だったが、

呂布の剣をギリギリで避ける。

だが、呂布の攻撃がそれで終わるはずもなく、

嵐のような猛攻を続けた。

 

関羽は呂布の攻撃を何とか防いでいくのだが、

周りにいた連合軍の兵士たちが戟や剣に巻き込まれ、

手足や首、

胴体が辺りに飛び散る。

 

 

「…ッ、腕が…」

 

 

流石の関羽も腕に限界を感じた頃、

 

 

「愛紗っ、鈴々が助太刀するのだ!!!」

 

 

連合軍の兵士を掻き分けて、

赤髪の少女…張飛が蛇矛を振り回しながら呂布に飛び掛かった。

 

しかし、呂布はそれを確認すると攻撃を中断して、

身を軽く翻して避けてしまう。

 

突然、呂布が攻撃を止め身体を下がらせると、

前のめりで踏ん張るように攻撃を防いでいた関羽は思わずバランスを崩し、

前に倒れるように手を地面に付ける。

 

 

「愛紗ッ、大丈夫か!?」

 

 

関羽を護るように呂布の前に立ちはだかる張飛は、

呂布を睨んだまま関羽に安否を尋ねた。

 

 

「…大丈夫だ、鈴々」

 

 

張飛の問い掛けに答えると関羽は一度深呼吸をし、

ゆっくり身体を起こして再び青龍堰月刀を構えて呂布を睨むと、

 

 

「それにしても…」

 

 

「やっぱり、このお兄ちゃん強かったのだ…」

 

 

二人は呂布の強さを改めて身に感じて、

武器をしっかり握り締めて呂布と対峙した。

 

更に呂布、関羽、張飛の三人を取り囲むように連合軍が円を画く。

 

完全なる四面楚歌。

 

だが、呂布はその状況にも関わらずニヤリと笑ってみせると、

関羽と張飛に向かって大振りで、

だが常人では見えない速度で方天画戟を振り回した。

 

余りの速さに死んだことに気付かず体を切断される、

攻撃に巻き込まれた連合軍の兵士たち。

 

関羽と張飛は何とか直撃を防ぐも、

その力にそのまま兵士たちを巻き込みながら後方へ吹き飛ぶ。

 

それを引き金に連合軍の兵士が一斉に呂布に殺到する。

 

剣を砕き、

槍を切断し、

矢を掴む。

 

呂布は微笑を浮かべながら戦闘を愉しむのだった。

 

 

 

 

その頃、泗水関では…

 

 

「離せッ、私は此処の指揮官だぞ!?」

 

 

誰がしたのか、

縄で拘束された状態の華雄が霞たちに牙を剥いていた。

 

 

「まぁまぁ、今は落ち着けって」

 

 

「…そうだ、そうだ」

 

 

「後で良いところをあげるから、許すのです」

 

 

そんな華雄を宥める霞と陽炎、音々音。

その表情は華雄の気持ちも判らないわけでもないのか、

苦笑いを浮かべていた。

 

 

「………ん、貴様、それはどういう事だ?」

 

 

宥められる華雄は、

その中でも音々音の言葉に反応する。

 

 

「ムフフ、呂布殿は素晴らしい必勝の策をお持ちなのですよ!!あぁ流石、呂布殿ぉ…♪」

 

 

華雄の食いつきに音々音は目を光らせると、

呂布の顔が目に浮かんでいるのか、

遠くの空を見上げながら自慢げに華雄に語り出す。

 

 

「策……それは、どんな策なんだ?」

 

 

今にもフワフワと浮きそうな音々音の言葉に、

華雄が前に足を踏み出して聞き出そうとした。

 

と、音々音に代わって答える様に、

突然陽炎が華雄の前に出ると、

バッと一枚の文を目の前に出す。

 

 

その文には『黒山賊』と書かれていた。

 

 


 
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