ある日のこと…
「………ん?」
突然開かれる呂布の部屋の扉。
そこに足音高く入って来たのは…
「奉せーんっ!!」
机に向かって書簡に筆を入れる呂布に、
笑顔で駆け寄る朱椰。
呂布は筆を止めて朱椰を見る。
「…どうした?」
「私と付き合って♪」
「………は?」
朱椰から放たれた言葉にア然とする呂布。
暫くして、その原因に気がついたのか、
朱椰は顔を紅くしながら訂正する。
「ハッ……ち、違う違う、私“に”付き合って、て事!!買い物よ、か・い・も・の」
朱椰はハハハ、と笑いながら必死にごまかす。
呂布はそんな朱椰を見ると微笑して再び筆を動かし始めた。
「…買い物とは、珍しいな」
「仕事が早く済んだの。で、久しぶりに城下街に出ようと思ってね」
「…そうか。だが俺は見ての通り、まだ仕事を済ませていない。他を当たってくれ」
手を止めず、からかうかの様に言う呂布に、
最初は笑顔で話していた朱椰も頬を膨らませ、
「もうっ、今日の私は奉先と買い物に行きたいの!!仕事も明日に回して良いから……これは命令よっ」
と言って呂布に向かってビシッと指を差す。
「…“職権濫用”という言葉を聞いたことないか?」
そんな朱椰に呂布は溜息をつき、やれやれと筆を机に置くのであった。
結局、朱椰の押しに負けた呂布は私服に着替え、
城下街に出ていた。
勿論、その傍らに満面の笑みを浮かべる朱椰が歩く。
「よぉっし、今日はいっぱい買うわよ!!荷物持ちも居るし♪」
「………」
ルンルン気分で歩く朱椰の姿を横目で見た呂布は、
何度目になるだろう、溜息をついた。
朱椰はそのまま上機嫌である店に入る。
呂布も仕方なく朱椰の後をついていく。
「…此処は」
店に入った呂布の目に映ったのは、
桃色の女物の下穿きであった。
それも見たことの無いほど卑猥な下穿き。
これを見た呂布に恥ずかしいという感情は出ないものの、
(…こういう買い物は女同士で行くべきなのではないのか?)
と、困惑した気持ちが心を満たす。
一方の朱椰はというと、
そんな呂布に気も止めず、
商品を見ながらさっさと前へ進む。
そして、
ある商品の前に立ち止まると、
大声で呂布の名を呼んだ。
「奉せーん!!ちょっと来て!!」
その大声に店にいた女性が一斉に朱椰を見ると、
すぐにそのまま視線を呂布に移す。
店内に居る唯一の男性である呂布は、
その痛い視線に溜息をつき、
朱椰の下へ歩み寄った。
「………何だ?」
ぶっきらぼうに言う呂布に対して朱椰は、
もの凄く派手な下穿きを両手で軽く端を引っ張りながら呂布に話し掛ける。
「奉先、どう?私に似合いそう?」
「…分からん」
「…ちょっと、適当に流さないでよ。もっと考えて。例えば、もし私と一緒に寝る事になって、これを着ていたら…」
「…何だ、誘っているのか?」
朱椰の言葉を遮る呂布。
呂布の思わぬ言葉に朱椰は顔を真っ赤にさせた。
「っ、そんな訳ないじゃない」
朱椰は呂布の言葉に顔を真っ赤にして腕をバタバタと動かす。
手に持つ下穿きもそれに合わせてパタパタと宙を泳ぐ。
「…女性物の下穿きを売る店に俺を連れて来るなど、そうとしか考えられんが?」
「か、考え過ぎよっ」
「…フフッ、そうか」
呂布は慌てる朱椰を見ながら、それを愉しむ様に微笑する。
これに対して朱椰は微笑する呂布に頬膨らませるも、
そのまま下穿きの話に戻した。
「と、とりあえず…さぁ、どうなの?この下着は私に似合っているの?」
そのまま、ズイッと下穿きを呂布の目の前に出す朱椰。
顔に付きそうなぐらい下穿きを近付ける朱椰に呂布はバッとそれを退けながら、
「…ん、そうだな、俺はあの下穿きの方が良いと思う」
目に入った下穿きを指差して言う。
呂布の言葉に、
必死に下穿きを呂布の顔に近付けさせようとしていた朱椰もその下穿きを見た。
「あら、可愛いわね、これ」
「…お前がこれを着けて夜俺の寝室に来るとなると俺は緊張の余り眠れなくなるかもしれんな」
「棒読みで言われても何にも思わないわよ」
朱椰は下穿きを見定めながら、
呂布の言葉に流れる様にツッコミを入れる。
だが、その表情には怒りや呆れは無く、笑みが零れていた。
それから暫く店内の商品を見回った朱椰と呂布は、
その手に布で包装された下穿きを手に店から出る。
「…女物の下穿きを手に城下街を歩くなど、妙な気分だ」
「私がいなかったら、貴方ただの変態よ、奉先」
「…原因はお前だろうに」
呂布はそう言うと歩く速度を速める。
流石に怒らせたか、と朱椰は思わず苦笑して自分の頭を掻くのだが、
「…別の物を買って、これをごまかす。付き合ってくれないか?」
呂布は鍛冶屋を親指で差し、
布で包装された下穿きを軽く振って微笑してみせると、
朱椰は安心したのか笑顔で頷き、駆け寄るのだった。
結局、あれから数刻かけて数十もの店に立ち寄った朱椰と呂布は、
二人とも両手で抱える程の大荷物で宮殿に帰ることとなる。
そこにたまたま城外を巡回していた張遼が城に帰還し、
共に宮殿に戻るのだが、
「いっぱい買ったなぁ、これ。ウチん部下に持たせよか?」
張遼は二人の大荷物に思わず苦笑し、
共に巡回をしていた部下を近くに呼ぶ。
それに対して朱椰は、
「ん、ありがとう。けど、これも思い出の一つになるから、今日はいいわ」
笑顔を作って兵を下がらせる。
張遼は朱椰の言葉に、
同じ女の気持ちを悟ったのか、
「要らん気遣いやったな。ほな、二人の一日まだ愉しんでや」
呂布と朱椰の肩にポンと手を置いて笑うと、
部下を引き連れて馬を走らせた。
瞬く間に遠ざかっていく張遼たちを見送る朱椰と呂布。
「…俺は持って貰いたかったのだがな」
呂布が離れていく張遼たちを見ながら真顔で呟くと、
それに朱椰が思わず、
「え!?」
と焦って呂布の顔を見る。
だが、呂布は直ぐに笑ってみせた。
「…冗談だ。たまには、こういうのも悪くない」
呂布はそう言うと再び歩み始める。
朱椰も呂布に続いて歩きだした。
夕暮れを眺めながら黙って歩く二人。
暫くして、
その沈黙を朱椰が破る。
「ねぇ…奉先」
「…何だ?」
歩みを止めず朱椰に答える呂布。
朱椰は言葉を続けた。
「…私の許に来て良かった?」
朱椰のその言葉は呂布の足を止めさせる。
呂布はゆっくりと朱椰の顔を見た。
「…どうしたんだ、突然」
「奉先、貴方が此処に来てから今日で調度、半年。だから……今更だけど再確認」
朱椰の言葉に呂布は漸く、
今日に限って何故付き合わせられたのか、を知る。
朱椰は笑みを浮かべながら呂布の返答を待った。
互いに見つめ合う呂布と朱椰。
そして、
呂布は朱椰の質問に答えた。
「…此処に来て、失ったものを幾つか取り戻せた。お前の許に来れたおかげだ、感謝している」
フッと笑って言う呂布。
それに朱椰は安堵し、
「私も貴方に出会えて幸せよ」
呂布に近寄って、
荷物を持つ呂布の肩に頭を軽く預ける様に付ける。
呂布は朱椰の髪の感触を肩に感じると口許に笑みを浮かべ、
二人だけ空間を愉しむのだった。
その頃、
「奉先様はまだ帰ってこないんですかぁ!?」
「まぁ落ち着け、五月雨」
豪勢な料理を両手に運びながら何儀がギャーギャー吠え、
同じく料理を運ぶ張燕がそれを諌める。
呂布の丁原軍士官半年記念の為に料理を運ぶ何儀たちの会話に、
先に宴会場で酒を飲んで待つ張遼が気づくと、
「…あらら」
今頃二人がどうしているのか知っている為、
一人ニヤニヤとしながら何儀たちには呂布の情報を教えず、
酒を飲み続けるのだった。
拠点フェイズ・朱椰編(終)
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拠点ふぇいず「貴方に出逢えて…」
再版してます。。。
作者同一です(´`)