第38-10話 逢瀬
No Side
暗黒界軍の一時撤退と夜が暮れたということもあって夜営にと張られた陣幕にアスナは招かれた。
囮部隊の総指揮官であるベルクーリとアリスとレンリとシェータ、部隊の小隊長を務める十名の衛士長、
それにアスナが最初に助けたロニエとティーゼ、この面々に彼女は話をすることにした。
アリスは外の世界、現実世界のことをカーディナルから間接的にだが知らされており、
アスナは現実世界のことと『光の巫女』が『A.L.I.C.E.』であってアリスであること、
彼女を狙って【暗黒神ベクタ】の体を使い自分達の世界の敵が来ていることを話した。
ロニエとティーゼや衛士長達には衝撃的でありレンリやアリスも動揺するが、ベルクーリとシェータは納得した様子を見せ、
他にも現在整合騎士以外には右眼に『コード871』という名の処置が施されていることも伝えられた。
「なるほど、キリトとカーディナル殿はそれを知っていたからこそ、早急に公理教会へ仕掛けてきたわけか」
「そんな、わたしが…」
「アリスのせいじゃないわ。どのみち大門の崩落は訪れていた、そこにわたし達の世界の敵が介入したかしていないかの違いだけよ。
ただ、それがなかったらここまで苦戦はしていなかったとは思うけど」
被害はあっても戦術的な苦戦があったかと聞かれたら、ベクタが居なければ苦戦もせずに快勝していただろう。
キリトによって権限を取り戻したカーディナルが人界側に居たら負けるはずが無いのだから。
捨て駒戦術とはいえ、確かな戦略を駆使してくる辺りは本物の軍人であるといえる。
色々な話で空気が重くなってきたところでアスナは気付いた。
「あ、キリトくんがこっちに来てる」
アスナだからこそ分かる、キリトという存在の接近。
「それは一体…」
「お話し中失礼します! 報告します、こちらに向かって飛来する影あり、数は二、飛竜です!
内一頭は最上位騎士様の氷華でございます!」
「本当ですか!?」
疑問に思ったところへ陣幕内に入ってきた衛士の報告にアリスが驚く、来るはずがないはずの飛竜がやってきたのだから。
そしてアスナももう一頭の主は彼だろうと考える。
「アスナだったな、一先ずは出迎えに行ってもいいかい?」
「はい、わたしもそのつもりですから」
ベルクーリに聞かれて応えるとアリスが我先にと陣幕から出ていき、アスナ達もその後に続いた。
開けた場所に二頭の飛竜が降りてくる、二頭ともこの部隊にいる飛竜より一回り近くも大きく、
羽ばたきによる風を起こしながら素早く降りてきた。
雪のように青白い鱗を持つ飛竜から降りてきた青年にアリスが抱きつき、アスナも黒い飛竜から降りてきた青年の許に歩み寄った。
「飛竜っていうのは凄いものだな」
「僕がちゃんと乗ってあげたのは村の戦闘の時だし、あの時も開戦時の戦闘も余裕なんてなかったからね。
こうやって余裕を持って飛ぶと確かに凄く楽しいって感じられるよ」
普段はALOでは自身の翅で飛ぶかトンキーの背に乗って飛ぶかのどちらかだが、
ケットシーの
現実世界のような感覚で飛竜に乗れるのだから最高だろう。
ユージオもようやく堪能して飛竜に乗れたものだから声色から喜色が窺える。
雲よりも上空を飛ぶ中で眼下に篝火が見える、ダークテリトリー側の夜営だ。
「《武装完全支配術》による上空からの遠距離攻撃でもしてみたいが、狙うのなら総大将で確実に仕留めたいからなぁ」
「暗黒界軍の総指揮官、闇の皇帝ベクタがキリト達の世界の敵なんだよね? 奴を仕留めたら戦争は終わるのかい?」
「そう簡単には終わらないさ。
ただ、ユージオ達みたいに右眼の封印を破れる者が居るとしたら、きっと戦わなくても和平の場は築ける」
「なら彼らにも期待しようよ。少なくとも、この世界を作った一端を担ったキリトはそう思っているんだろ?」
「まぁな」
キリトはユージオに現実世界での自身のことを簡潔にだが話した。
学生であることやSAO事件で戦ったこと、様々な事件に関わったことやこの世界を作る一端を担ったことなど。
出発前に話したのだがその時に一発殴られている、勿論戦争をしなければならないことに関してだけだ。
それまでのUWでの出来事の多くはアドミニストレータが要因のことが多く、
彼女に接触した裏切り者が直接の原因でもあるからだ。
そういうこともあっていまは普通に一緒に移動している辺りは親友だからだろう。
「アスナはあそこか。ユージオ、囮部隊の野営地を見つけたから降りるぞ!
奴らに視認されないよう手早く! 任せた、黒天!」
「了解! 氷華、頼むよ!」
「グルルゥッ!」「クルルゥッ!」
囮部隊の陣内に二頭が素早く降り立ち、氷華の背から降りてきた人物を見て周囲は驚くも直後に歓声を上げた。
自分達を救うために瀕死の重傷を負った騎士が復帰したのだ、当然の反応だろう。
「人気者だな」
「そういうものだっていうのはキリトが一番良く知っているだろう?」
最上位の整合騎士、人界の最高戦力、自分達を救ってくれた救世主、
思われ方はそれぞれだが確かにこういうものというのはキリトも経験上よく理解していた。
一方でキリトに向けられるものは怪訝な視線ばかりである、それもそのはず整合騎士にしか与えられないはずの飛竜に乗り、
その飛竜の鱗は輝きがあるものの黒、そしてキリトの装束も黒衣とくればその印象はダークテリトリーのものと類似するからだ。
そんな時だった、二人に向かって駆けてくる人物がいた。
「ユージオ!」「アリス!」
彼の名を呼びながら抱きついたのはアリスでユージオは彼女を抱きとめる。
周囲は驚きもするがすぐに囃し立て始めるが、ユージオとアリスには周囲の声など聞こえていなかった。
「ユージオ、ユージオ…!」
「アリスも、無事で良かった…」
「っ、馬鹿、毎回人のことばかり…! でも、本当に良かった…!」
泣きだすアリスの頭を優しく撫でて宥めるユージオ。
さすがに周囲もこれを囃し立てるのは気が引けるようで静かになるが、当然ながら貰い泣きしている者達もいる。
そんな中でキリトの許へアスナが歩み寄ってきた。
「お疲れ様、キリトくん。あの様子だとお友達は大丈夫だったみたいだね」
「アスナもお疲れ様。結構危なかったけどな、カーディナルのお陰で間に合った」
【創世神ステイシア】、人間とはいえその身を借りて降り立ったアスナに軽く話しかけるなど畏れ多いことを。
そう思う者達が多い中で整合騎士長であるベルクーリが歩み寄る。
「久しぶりだな、キリト。色々と助けてもらっちまったみたいだな」
「無事のようでなによりだ、ベルクーリ。こいつは土産だ、最高位の治療薬と触媒、砥石それに予備の食糧」
「ありがてぇ。それにしても、
「気が合ったんだよ。主従関係より、相棒というのがしっくりくる」
「なるほどな。積荷は預かるから話を聞かせてもらってもいいか?」
「ああ、こっちとしても話しておきたいことがあるからな」
周囲は笑いながら話をする二人を見て、キリトは整合騎士か公理教会の関係者なのだろうと思う。
神だけでなく(実際には違う)、整合騎士長とも普通に話し、
新たに最高司祭となったカーディナルまで呼び捨てにしているのだから相応の地位に居る人物かもと思われている。
本来のところはそれ以上なのだが、こればかりは知らなくて良いことである。
ようやく人が集まっていることに気が付いたアリスは顔を紅くして俯いてしまい、
ユージオは羞恥を誤魔化すように頬を掻いていたところで、キリト達と共に陣幕へと案内された。
陣幕に案内されたキリトとユージオは本陣での出来事などを話した。
暗殺者ギルドによる襲撃とユージオの機転、キリトとカーディナルによる援護、
それだけではなくカーディナルが北・西・南の出入り口を完全に封鎖したことでそれらからの侵攻はないことを報告。
「ユージオ、無茶をするのは構わないけど命の危機の時にはしないで…!」
「出来るだけしない、としか言えない、ごめん」
「っ…なら、わたしも一緒に無茶するしかないわね。それなら少しはマシかもしれないわ」
「命を擦り減らそうとしていた俺達が言えることじゃないさ、アリス嬢ちゃん。
だがま、ファナティオや皆を守るために咄嗟に動いてくれたこと感謝するぜ、ユージオ」
無理も無茶も無謀も、整合騎士達はしようとしていた、それは人界を守るため。
それをユージオも行っただけだから咎めることはできない。
自分もきっと同じことをしただろう、アリスはそうも思った。
ベルクーリもそれを踏まえた上で彼に礼を言う。
「はい、そこまで。続きはあとでな。まだ報告事項はあるぞ」
彼らのやり取りを少しの間は放置していたキリトだが、報告は他にもあるので中断させる。
「北・西・南、三ヶ所の洞窟の完全封鎖に伴い人界守備軍本隊は明日の出撃準備が整い次第、暗黒界軍に向けて進撃する。
その折、大門跡地を最高司祭カーディナルが神聖術で封鎖し、
セントラル・カセドラルにて進めていた大規模神聖術による結界を発動し、人界を覆うことになる。
よって、この囮部隊と本隊による狭撃を展開することになるが、基本は俺達囮部隊が敵軍を相手取る。
相手の意識がこちらに向いているところをカーディナル率いる本隊が強襲する。
こちらは夜明け前に全員起床、手早く食事などを終わらせて出撃ということになるため、出撃準備は今夜の内に整えておく。
また、偵察の報告や敵の出方次第では時間が繰り上げられることにもなるから注意するよう、以上」
長い報告を終えて一息吐いたキリトにアスナがお疲れ様でしたと声をかけながらお茶の入ったコップを手渡した。
人の前にはよく立つが、人の上に立つことをあまりしないキリトは見知らぬ者が多い場面での長々とした報告を好まない、
というよりも面倒くさがる傾向がある。
アスナとユージオとアリスが居なかったら責任だけはしっかりと果たしていたかもしれないが。
「なるほど、そういうことならすぐに全員に通達しよう。
早く休むも遅く休むも自由だが、明日に支障をきたさないようにしないといけねぇからな。
衛士長達は各部隊にこれを通達、各自明日の準備が整い次第休息を含めて自由行動とすることを伝えてくれ。
通達が終わったらお前さんらも休息に入ってくれ」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
各衛士長達は陣幕から出ていき全部隊に通達が行われ、これにより会議は終了となった。
No Side Out
キリトSide
「気疲れするな、やはり戦っている方が落ち着くかもしれない」
「いまは気分が高揚しているから余計じゃないかな?リラックスできているなら軽い睡眠で十分だと思うけど」
「二時間でも仮眠できれば十分だ、SAO時代は何徹したことやら…」
「そうだね、そういう時期がわたしにもキリトくんにもあったものね…」
二年というこの世界での歳月、整合騎士達やアドミニストレータとの戦いを経たことで、
俺の枷はほとんどなくなったと言っても過言ではない。
そのためか話し合いの場などでは中々落ち着かないのは先程まで戦い、熱が残っているからかもしれないな。
それにアスナが言ったようにリラックスは出来ているから軽い睡眠でこと足りるだろう。
そう、SAOの時に色々あって何徹もしたあの時を思い出せばこれくらい、アスナも俺と同じで遠い目をしているが、思い出すのやめよう。
「それよりも、アスナ。俺の友人と後輩を助けてくれたこと、本当にありがとな」
「気にしないで、キリトくんの為だもの」
お礼を言えばそう返されるが「褒めて褒めて」と言わんばかりの笑顔を浮かべた彼女の頭と腰に、
犬の耳と尻尾を幻視した俺は末期だろう……あぁ、最初から末期だったな(笑)
そんなアスナの頭を優しく撫でてあげれば気持ち良さそうな表情を浮かべるのだから堪らない。
抱きしめたいがさすがに人前でそれをするのはアスナが嫌がる、これが仲間内だけなら彼女も嫌がらないだろうけど。
名残惜しむアスナから手を離し、俺は再会した友人に話しかける。
「久しぶりだな、アリス。カーディナルから記憶が戻されたことは聞いている、ユージオとの仲も良くて安心した」
「久しぶりね、キリト…アリス・ツーベルクとしてなら数年ぶりだから、わたしにとっては余計かもしれないわ。
貴方のお陰でわたしはユージオと幸せで居られてる、だから安心していいわよ」
俺とアリス、かつて幼馴染として別たれた俺達は友人として再会し、握手を交わした。
彼女との再会を喜んだ後は激戦を行い、その果てに副長と絆を育んだこの男だ。
「報告でも言ったが今度は個人的に、ファナティオ達は無事だ。
暗殺者ギルドの頭領と戦っていたが、彼女が無事なのはユージオのお陰だから俺よりも礼はアイツにな」
「だがその頭領とやらを仕留めたのは自分で言ったじゃねぇか、ありがとな。
肝心な時に傍に居られねぇのは、戦争だから仕方が無いといえばそうなんだがな…」
「戦いが終わったら抱きしめてやればいいさ、それでお互い無事だと確認できる」
まずは生き残ること、全部終わったら安心させてあげるのが一番だ。
そして今度はあの一件以来で離れることになった二人の後輩に話しかける。
「ロニエ、ティーゼ、無事でなによりだ。
本当は少しだけでも学院の方に顔を出すつもりだったんだが、すぐに戻らないといけなくなってな」
「いえ、キリト先輩がご無事だったのなら十分です! それにアスナ様に助けていただけましたから!」
「でも、ありがとうございます、キリト先輩。先輩とアスナ様が居なかったら、私達もユージオ先輩も今頃は…」
「そうだな、このあと時間を作ろう。アスナとユージオとアリスも交えて少し話そうか」
「「はい!」」
あの時のメンタルケアもできなかったし、半年が経ったとはいえ戦争中ということもあるから気晴らしをさせてあげないとな。
アスナとアリスがいれば同性ということもあるし話しやすいだろう。
顔見知りとは話し終えたところで一人の少年騎士が歩み寄ってきた。
薄い桃色の髪色だが、ユージオに似てるなぁ。
その後ろには濃い灰色の髪の女性、こっちも整合騎士か。
「整合騎士、確かレンリ・シンセシス・トゥエニセブンだったな?」
「は、はい! 覚えていてくださり、光栄です! レンリで構いません!
あの、よろしければ少しだけでも剣筋を見せてはいただけないでしょうか!」
「俺でよかったら構わないぞ。シェータ・シンセシス・トゥエルブ、キミもそれが望みか?」
「私は別。よかったら、斬り合いたい。貴方は最上位騎士と同じで、断面が見えないから」
「一合でいいか? それ以上はお互いに歯止めが効かないだろう、その一合の剣筋でいいか、レンリ?」
「はい! お二人の立ち合いが見られるのであれば!」
そういうわけで陣幕から出て少し広めの場所に来た俺達。
俺とシェータが間合いを開け、正面から向かい合う。
神器『夜空の剣』を取りだして構え、彼女も神器『黒百合の剣』を構える。
アスナ達だけでなく部隊の者達も観客のように見ている。
「さっきも言ったように一合のみの立ち合いだ」
「構わない。やりましょう」
互いに剣を向け合い臨戦態勢。凄いな、シェータの心意はただ斬ること一点に集中されている。
なら、俺も応えないとなぁ…!集中、刃に剣気を乗せる、ただ目標を斬る。
「「ふっ!」」
同時に距離を詰め、剣を交える。凄まじい音と共に剣がぶつかり合い衝撃が手に響いた、やるな。
一方、彼女は目を驚愕に見開いていた、直後に彼女の後ろの樹が斬り倒れる。お、成功したか。
シェータを斬らずにその後ろの樹を斬る、心意の刃で彼女を斬らずにできた。
「参りました。貴方、凄く強いです」
「キリトでいい、シェータもやるな。
ただ無闇矢鱈に斬るんじゃなく、いま俺がやったみたいに対象を絞れる“斬の心意”の方が多様性に富んでいるぞ」
「分かった。覚えてみる」
彼女とも握手を交わし、立ち合いは俺の勝ちということになった。
「さすがはキリトくんだね!」
「やっぱりキリトは凄いなぁ。僕もいまのは出来るようになりたいね」
「小父様、わたしがおかしいのでしょうか? この二人の反応が正しいのですか?」
「いや、むしろこの二人が特殊なんだろう。他の奴らも俺達と同じようだしな…」
「凄い、これが騎士長達を倒した実力…」
「「……………」」
聞こえてきたそれぞれの感想、アリスとベルクーリは間違ってないぞ、うん。
俺に慣れていない場合はお前らの反応が正しい、アスナとユージオは俺に慣れているからな。
ロニエとティーゼに至っては呆然とし過ぎて言葉も出ないようだしって、それは周りもか。
「おし、これでお開きだな。各自、明日に備えるように!」
ベルクーリが一声掛けるだけで集まっていた人達も残りの作業を行いに、あるいは睡眠を取りにとこの場から去った。
さて、レンリとシェータの要望にも応えたことだし、丁度良いから俺はアスナ達と一緒にロニエ達と話をするか。
陣幕と会議のための机と椅子を借りて俺達は話をすることになったが、
ロニエとティーゼが他にも会ってほしい人達がいるからと言ってそっちに行ったので俺とアスナ、
ユージオとアリスの四人は待っていることになった。
「そういえばユージオとアリスは同棲しているってカーディナルから聞いたが、本当か?」
「うん。というか、キリトが帰って次の日には正式に男女の交際を始めたよ」
「なるほど、それ以上聞くのは野暮みたいだな。おめでとう、二人とも」
「わたしからもおめでとう」
「ありがとう、キリト、アスナさん」
「あ、ありがとう///」
うん、ちゃんと言えてよかった。やっぱり祝いの言葉は面と向かって言いたかったからな。
「で、でも、わたしもキリトにお礼を言いたかったの。
先代最高司祭から人界を助けてくれたこと、それでわたし達が記憶を取り戻せたこと、
ユージオの命を救ってくれたこと、本当にありがとう」
「そういえば、全部含めて言えてなかったね。改めてありがとう、キリト」
「どういたしまして。ま、幼馴染達の危機だったからな」
幼馴染だったことを覚えていたのはUWへダイブした時に記憶を返還された俺だけだった。
ユージオはUWにバグを発生させない処置の為に記憶を剥奪され、
アリスも俺がダイブした同時期に整合騎士となったためにどのみち俺への記憶はなかった。
それでも助けたのはアドミニストレータを倒すことよりも、二人を助けたいという思いの方が強かったからだ。
ユージオとアリスの記憶も戻った、二人が恋人同士になった、間一髪で命を救えた。
あとは明日の戦いを残すだけだな。
「お待たせしました、先輩!」
「皆さんを連れてきました。入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
そこへロニエとティーゼが戻ってきた、その後ろには五人ほどの気配がある。
ともかくそのままではいけないから入ることを促す。
入ってきた五人に驚くと同時に納得もする、それにユージオも同じような反応だ。
「お久しぶりですね。アズリカ先生、リーナ先輩、リーバンテイン先輩とバルトー先輩も」
入ってきた五人の内四人はよく見知った顔、これは嬉しいサプライズだな。
ユージオも嬉しそうだが、複雑そうでもある。まぁ、いまは最上位整合騎士だからな。
「お久しぶりです、騎士ユージオ様、キリト修練士」
やっぱり、話し方はそうなるよな。ユージオも苦笑するが胸中はどんなものか、それならこうするのが一番いいだろう。
「ユージオ、命令を出せばいいだろう」
「あ~、いいのかな? こういうのを命令とかにして」
「そうしないと折角のこの場で話しにくくなるぞ」
「はぁ、それもそうか。入室してきた五人に命じます、学院時代の僕と同じ接し方をするように」
「「「「「……はいっ!」」」」」
そう、学院の時のように話せないのなら命じてしまえばいい。
あまり良くないことだとは思うが、これくらいは許してほしいからな。
間が空いて戸惑いを見せた五人だが、笑みを浮かべて了承したからもう大丈夫だろう。
「では、改めて。久しぶりですね、キリト修練士、ユージオ修練士。
特にキリト修練士はあのあと故郷に帰ったとのことでしたから」
「ええ、元々の目的を達成しましたからね。アズリカ先生もお元気そうでなによりです」
ユージオはあの後で学校に寄って再会したそうだが、俺はあの別れ以来だったからな。
やっぱり恩師との再会は嬉しいものだ、彼女が居なかったら色々と気苦労も絶えなかったかもしれないしな。
「リーナ先輩。また会えて嬉しいですよ」
「私もだよ、キリト。ユージオがあの強さなら、キミはそれ以上なのだろう。その一端を、この戦争で見せてもらえるのかな?」
「当然、命のやり取りですからね」
学院時代にリーナ先輩達に見せたのはあくまでも剣一本での技だけだったからな。
カセドラルでの戦いはベルクーリとアドミニストレータの時のみが《二刀流》だったし、
ここで二刀流をお披露目することになるだろう。
「リーバンテイン先輩、バルトー先輩、お二人もご健勝のようでなによりです」
「久しいな、キリト修練士…と、もう学院生ではないのだったな。
アズリカ女史から話を聞かされた時は驚いたが、家の事情では仕方が無いか」
「うむ、今年の北帝国修剣学院の代表はキリト修練士に違いないと思っていたからな」
確かにあのまま学院生活が順調に進んでいればそうなったかもしれないが、
そのまえに『東の大門』が崩壊し、どのみちこの戦争に発展していたはずだ。
どのみち、そうなることはなかったのだろうな。
そして、最後の一人の少女にも声を掛ける。
「キミには謝らないとな。助けるのが遅れてすまなかった、フレニーカ・シェスキ」
「い、いえ、私こそ、私のせいでキリト先輩とユージオ先輩にご迷惑を…」
「原因はアイツらだったとはいえ、その要因に俺達が居たことも間違いじゃないからさ。
それに俺とユージオにとっては結果的に良い方向に傾いたから構わない。
俺も時期を早めて故郷に帰れたし、ユージオは整合騎士になれた、だからもう気にしなくていい。
俺達のことよりも、キミの方は?」
「まだ、怖くなる時はあります……でも、先輩達に助けてもらえたから、
今度は私が誰かを少しでも助けてあげられればと思って、だから志願兵の修道士隊に入りました」
「そうか…」
そう、五人目はライオスとウンベールに苦しめられたフレニーカだ。
彼女はあの一件を経て、俺達が思っていたよりもずっと強くなっていたようだ。
きっとロニエとティーゼが彼女を支えてあげたのだと思う、俺にできることはもうないだろうな。
再会を整合騎士であるアリス御用達のお茶で乾杯を行ったのだが、まぁいいだろう。
その後、アスナとアリスも話しに加わって俺とユージオの学院時代のことをアズリカ先生や先輩達に聞いていた。
というか、学院の後輩時代の俺達のことが気になるんだろう、俺はリーナ先輩、ユージオはバルトー先輩の傍付きだったからな。
特にアリスと違ってアスナは俺のこの世界でのことをまったく知らなかったから全員に聞いていた。
そして明日に差し支えないようにするために、一時間ほどで俺達はこの小さな茶会をお開きにした。
俺とアスナは急ごしらえだが天幕が用意され、そこで休むことになっている。
寝床も俺達二人が眠るには十分な広さ、装備の類が外して軽い服装の状態だ。
寝床に胡坐をかいて座るとアスナが俺の脚の上に座り、俺の体に凭れかかってきた。
「キリトくん分を補充~」
「じゃあ俺はアスナ分を補充だな」
可愛いことを言ってくれるアスナを優しく抱き締める、現実世界に戻ったはいいものの忙しなかったからな。
いまはゆっくりできているは明日にはまた忙しくなる、だから今を堪能しておくのが一番だ。
「アスナ…」
「キリト、くん…/// んちゅ、んむぅ…///」
名を呼べば振り返ったアスナの唇にキスをし、それに戸惑うことなく応えてきた彼女。
最初は啄ばむように、しかし徐々に深くなっていけばもう止められない。
何度も交わす深いキス、俺達の唾液の混じったキスの音とアスナが僅かに喘ぐ声が天幕内に響く。
「いいよ/// キリトくんにとっては、二年ぶりだもんね……我慢、しないで//////」
「遠慮なく、と言いたいけど今のアスナは初めてだからな、優しくする」
アスナの言うとおり精神的には二年ぶりだから加減は難しいな。
だが、この世界の俺もアスナも、肉体的には初めてなのを忘れてはならない。
アスナもそれにいま思い至ったようで、一層顔の赤みが増した。
現実世界、SAO、ALO、GGO、そしてUW、五度目の初めてが全て同じ愛する人とは、なんて甘美な響きか。
俺達は身に纏う衣服を脱ぎ、互いに深く求め合った。
キリトSide Out
ユージオSide
キリトだけじゃなくティーゼ達との再会も嬉しくて、ああやって話せた時間は凄く幸せなものだった。
落ち着いた場所で改めてゆっくりと話したキリトは相変わらずで、ティーゼとロニエとフレニーカだけじゃなく、
先生も先輩達まで僕とアリスのことに興味津々なのはちょっと困ったけどね。
ただ、いいのかなって思うことがある。
「どうしたの、ユージオ?」
可愛らしく首を傾げて聞いてくるアリス、そうここはアリス用の天幕であり僕はここで休むことになった。
勿論、個人的には嬉しいんだけどさ、こういう時にさすがに彼女と同じ天幕なのは果たしていいのだろうか?
普通は僕とキリトで同じ天幕にして、アリスとアスナさん辺りが同じ天幕になるところじゃないのかな?
というかキリトはアスナさんと同じ天幕に普通に入っていったよね、おかしいのは僕だけ?
「ねぇ、ユージオ、もしかして迷惑だった? わたしと同じ天幕なのは…」
「迷惑なわけがないよ。ただ、いいのかなって思っただけ」
「いいの。わたしは、ユージオが一緒じゃなきゃ…」
少し声が小さくなって僕の肩に凭れかかっていたアリスは服にしがみついて、その手は震えている。
「わたし怖かったのよ、信じていても、貴方が死んじゃうんじゃないかって、思って…」
「っ、ごめん、本当に心配かけて…」
泣いているアリスを強く抱き締める。そうだ、彼女を泣かせてしまったのは僕だ。
あの時、アリスともう会えなくなるかもしれないと思った幼い頃の恐怖を、僕が今度はアリスにさせてしまった。
守るって誓ったのに、泣かせてしまうなんて。
「一人は嫌よ…次にこんなことがあるなら、わたしも一緒に、んっ…//////!?」
死ななかったのは結果論、ならもうそんなことは起こさないし起こさせない。
アリスを一人になんかさせない、一緒に死ぬつもりもない、だからその先は言わせない。
そんな想いを込めてアリスの唇を奪うと、最初は驚いた表情だったけどすぐに目を閉じて彼女も応じてくれた。
「好き…んっ、大好きなの、ちゅっ…//////」
「僕も、愛してる…」
「わたしも愛し、んちゅ…/// 今度は一緒に、んぅ…戦わせて…///」
「うん、今度はみんなで一緒に」
みんなで守り合えば、もしかしたらあの時もなんとかなっていたかもしれない。
明日からはキリトもアスナさんもみんなも居る、みんなで戦えばいい。
「だから、いまは……ユージオ///」
「あぁ、アリス」
不謹慎だろうが知ったことじゃない、いまはアリスを安心させてあげることが一番大切だ。
だから、僕達はお互いの温もりを求め合った。
ユージオSide Out
To be continued……
あとがき
最後の方は多分大丈夫だと信じたい、まぁSAO時代の方がやっぱり過激だったと思うしw
ほとんどを交流的なものにしたのはこの戦争後はキリトがUWに来られるのに間が空くためだからです。
原作ではなかったですし、折角キリトもユージオもいて明るめな雰囲気なのでこうしたいと思いました。
そして久しぶりのキリアス&ユーアリのイチャラブw やっぱりこれこそ本作の持ち味ですよねw
次回も一応閑話になりますが、一方その頃で現実世界の様子を書こうと思います。
キリアスの親友一同、菊岡に凛子さんと比嘉達、ついに動く師匠と大師匠率いる特殊部隊、SAO・ALO・GGOのプレイヤー達、
いまこそ現実世界も大きく動く時なり!
あ、当然ですが出撃前のキリアス&ユーアリによるイチャつきもありますからw
ではまた次回をば!
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第10話目になります。
コーヒー使用推奨、とはいえサブタイのように甘いのは最後だけw
とりあえずどうぞ・・・。