エルダーは、一人魔物の軍勢と戦っていました。
「ジーン、ゲルダ、ヴィアには見捨てられてしまったが……俺は、負けるわけにはいかない!」
襲い掛かってくる魔物には、様々な種類がいました。
鎌のような顎を持つ蜘蛛の魔物、シザースパイダーや、翼を持つ石像型の魔物、ガーゴイルなど……。
中には、魔界からやって来た「悪魔」という存在も混ざっていました。
「悪魔もいるか! だが、俺は全て斬り伏せる!」
他の兵士達も戦い、一般人達は全員避難しているとはいえ、戦わなければ町は破壊されてしまいます。
そのため、エルダーは只管に魔物を剣で切り裂いていました。
「パルスブレイド!」
剣から放たれた衝撃波が、魔物を一網打尽にしました。
しかし、魔物の数は減る事はありません。
むしろ、どんどん増えていくばかりです。
「……駄目だ、追い付かない! せめて、ジーン達がいれば……」
しかし、三女神はエルダーの無謀な行動を見て、彼を見捨ててしまいました。
そのため、今更言っても加勢はしないだろう、とエルダーは思い、
三女神のところには行きませんでした。
しかし、この選択が、後のエルダーの運命を大きく揺るがす事になるとは、
まだ、気付いていませんでした……。
「どうやら、ここまで減らせたようだな」
エルダーの活躍によって、魔物の数は減っていきました。
兵士達の力もあったかもしれませんが、魔物は数時間前の5分の1に減少していました。
残っている魔物は、エルダーにとっては雑魚でしかありませんでした。
「後は雑魚のみか……。さあ、来い!」
エルダーが剣を掲げた、その時です。
「オォーーーーッホッホッホッホッホッホッホォーーーー!!」
「!?」
突然、空から女性の高笑いが聞こえてきました。
「だ、誰だ!!」
女性はふわりと、地上に降り立ちました。
その女性は、長く美しい黒髪と、真紅の瞳を持っており、
身体には非常に面積が少ない服を纏っていました。
それだけならただの妖艶な女性に見えますが、その背にある蝙蝠のような翼と、
頭に生えた鋭利な角から、女性が人間ではない事は明らかでした。
「お前は……淫魔か!」
「そうよぉ~私はサキュバス、誘惑の淫魔よ。あなた、いい男ねぇ。誘惑したくなっちゃったわ」
「くっ! させん!」
エルダーはぎりっと歯を食いしばり、剣を持つ手も強く握りしめました。
「お前を倒し、この町を守ってみせる!」
「できるものならやってみなさ~い!」
いつまでもふざけた態度を取るサキュバスに、流石のエルダーも苛々してきたようです。
思わず斬りかかりそうになりましたが、理性がそれを抑えました。
「さぁ! いっくわよぉ~! ド・ゲイト・デ・テラ・ド・テネブ!」
サキュバスが呪文を詠唱すると、闇の槍が飛んできました。
エルダーはそれを剣で切り裂きました。
「せいやぁっ!」
エルダーの剣技がサキュバスを攻撃し続けます。
サキュバスは物理攻撃にはあまり強くないため、
人間であるエルダーの攻撃でもそこそこのダメージを与えられます。
「うふふっ、私の必殺魔法、い・く・わ・よ! ド・ポプル・ド・ニイス・デ・ハンズ!」
そう言うと、サキュバスは呪文を詠唱し、エルダーに向かってウィンクをしました。
淫魔の十八番の魅了魔法、テンプテーションです。
「く……っ」
それを受けたエルダーは眩暈を患いましたが、エルダーは振り払いました。
「あらぁ~、あなた意外に強情なのね。しょうがない……ならば、こうしてやるわ!」
サキュバスの身体から、闇の魔力が吹き荒れました。
それは、彼女が本気を出した証なのです。
「本気を出してくるか! ならば、こちらも本気を出す!」
エルダーは剣を構え直しました。
「あっはははははは、楽しいわねぇ。じゃあ、再開するわよー!」
そう言い、サキュバスは闇の魔力をエルダーに放ちました。
エルダーはそれを避け、剣で切り裂きました。
しかし、サキュバスは魔法に特化しているとはいえ、れっきとした悪魔です。
その身体能力は人間を上回っていました。
「ぐっ……」
「あらあら、反撃しないの?」
「反撃はするぞ……だが……!」
状況は徐々に、サキュバス側に傾いていきました。
エルダーは何とかサキュバスを倒すために、剣を持って彼女に突っ込んでいきました。
「いくぞ! インフィニット!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そしてエルダーがサキュバスの懐に潜り込み、疾風の刃でサキュバスを切り裂きました。
まさに、肉を切らせて骨を断つ行為です。
サキュバスは大ダメージを受けてしまいました。
「……わ、私にだって、淫魔としての誇りはあるんだからぁ!」
そう言うと、サキュバスは右手に闇の魔力を溜めました。
「デ・ロタ・マ・ギ・ド・テネブ!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、全力で放った闇の魔力が、エルダーを貫きました。
「ふふふ……楽しませてもらった、わ、よぉ……」
そう言うと、サキュバスは塵となって消えました。
「すまない……ジーン……ゲルダ……ヴィア……」
強力な闇魔法を受けたエルダーの身体から、大量の血が流れ出しました。
このままでは、エルダーは命を落としてしまいます。
「……人間が……神を守るなんて……逆、だよな……。でも……彼女達が無事なら……俺……は……」
エルダーは三女神を守れた事への安堵を胸に、息を引き取ろうとしていました。
その時です。
天から、一人の女性が降臨しました。
彼女は煌めく黄金の鎧を身に纏い、長く美しい金髪をなびかせ、聖なる槍を掲げていました。
「我が名は
「い、戦乙女だ……」
「戦乙女が、降臨された……!」
人間もモンスターも、その人間離れした美しさに、思わずその動きを止めてしまいました。
そう、この女性こそ、アールガルドの主神オーディンに仕える女神、ヴァルキリーです。
アールガルドでいつか来る最終戦争「ラグナロク」に備え、
戦死者の魂を「アインヘリアル」として選定します。
また、不死者や悪魔など、負の陣営に属する魔物達を打ち倒す役目もあります。
ヴァルキリーは呼吸を止めようとしているエルダーの前に現れ、問いました。
「お前はよく戦い抜いた。悪魔と戦い、これに勝利した。
だが、お前も悪魔に攻撃され、死に瀕している。問おう……死してもなお、生きたいか?」
「……頼、む……」
エルダーは、息も絶え絶えに小さな声を発しました。
三女神に謝るために……ヴァルキリーの問いを、承諾しました。
「……承諾した。お前に新たな生を与えよう」
ヴァルキリーがエルダーの身体から魂を抜き取ると、
彼女は光の翼を生やし、エルダーの魂と共に神界に去っていきました。
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怒涛(?)の展開になっていきます。