けたたましい警報ブザーが鳴り響いて、巡航空母”ネアポリス”の艦内は一気に慌ただしく動きはじめた。
「四時方向から高速飛翔体接近、数5!対艦ミサイルです」
「撃ち落とせ、右弦対空砲使用自由」
艦橋オペレーターは艦長の命令を聞くが早いか、素早く指を走らせてセントラルコンピュータへ迎撃指令を発する。
艦体側面に設置された対空レーザー砲が鎌首をもたげ、その数秒の間をおいて眩い光線を発する。
セントラルコンピュータの軌道予測に基づいたレーザー射撃は一秒とたたずに目標に命中。五つの火球が海面を揺らした。
しかして、これはミサイルを発したものの予測の範疇であったらしく爆発したミサイルは通常をはるかに超える爆煙と金属小片をばらまいた。
レーダージャミング。目潰しだ。
「目潰し、古典的だが厄介な手だな」
ネアポリス艦長、ブラン・シュパイヒャー中佐は小さく呟く。
「追撃が来るぞ、警戒厳に。FA小隊はどうだ」
「シガノ隊がもう少しで発進準備が整います。ドーン隊は駄目です、先だっての戦闘での損耗が激しすぎて飛べません」
「そうか……シガノ隊は準備でき次第発艦させて防空に当たらせろ」
了解、とオペレーターが答えたのを聞いてブラン中佐は艦長席に座りなおした。
(まったく、もう少しで寄港できるって時になんてことだ)
そう思って少しため息をついてから、もう一度戦域データを見つめ直した。
(右目を7割がた潰されてる……そう長くも続かんだろうが面倒だな)
『エコー1、発艦』
ブラン中佐がため息をついていると、シガノ隊の隊長であるキヨタケ・シガノ少佐の落ち着いた声とともに青と白のデジタル迷彩を施された”スティレット-M2”が青白い爆炎を煌めかせながらカタパルトを離れて空へ飛び立った。
それに続いて二機の”スティレットM-2”が甲板から飛び立つ。
3機のスティレットは楔形の編隊を組んでネアポリスの右舷方向へ飛ぶ。
「ジャマー弾で牽制をかけるぞ、続け」
シガノ少佐の命令とともに、三機のスティレットがフェイント機動を織り交ぜつつジャミングスモークの中央と外側に向けてライフルのレールにマウントされたフラッシュグレネードを打ち込む。
ランチャー側で自動設定された起爆タイミングに従ってフラッシュグレネードが眩い閃光とジャミングチャフをばらまく。
「ATcs弾装填、警戒怠るな。目を潰されたとなれば、その次は」
シガノのスティレット-M2の持ったライフルが火をふく。
沈んでいくジャミングスモークの雲から青の燐光を発するものが上方へ飛び出す。
放たれた弾丸が飛び出したそれに食らいつく。
弾けた弾丸の甲高い金属音とともに飛び出したもの、紫の巨体。
月から放たれた地上人類に対する敵性フレームアームズの一機、通称”フレズヴェルグ”。
「各機散会!ATcs弾の雨で足を止めろ!」
シガノの命を予測していたように二機のスティレット-M2は素早く上昇し、二機で螺旋機動を描きながら太陽を背にして放たれた無数のATcs弾ーー対T結晶シールド特殊穿孔弾ーーがフレズヴェルグに殺到する。
しかしてフレズヴェルグが水晶の塊のようなその頭をもたげて上方を一瞥すると、機体各所に備えられたTCSオシレータがぼうっと明滅してTCSフィールドが上方へ広がり、群がるATcs弾はフレズヴェルグに届くことなく爆散した。
「……(流石に指向的に広げられたTCSは破れないか、だがこちらからなら、どうだ……!)」
海面すれすれを飛行しながらシガノのスティレット-M2がフレズヴェルグ大腿部の大型ブースターめがけてATcs弾を乱射する。
上方へ注意が向いていたためか、あるいは油断か、接近するスティレットに気づかなかったフレズヴェルグは焦ったように後退機動をとろうとブースターから炎を吐く。
だが至近から放たれた高速の弾丸は逃げることを許さず、フレズヴェルグに食らいついた。
轟音が海面を揺らし、フレズヴェルグの巨体がよろけ、そのまま海に落下した。
「やった、か……?」
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