今のところ全てが自分の思い描いたとおりに事が運ぶ。
それは向こうがただの賊であり、訓練など無ければ指揮官すらもいないということだからだろう。
桂花に知略勝負で負けたのは悔しいが、ここで挽回してやろう。
そう考えていた。
馬に乗り、第2陣。つまり賊に止めを刺す最後の伏兵を構え、その場へ向かう。
賊が逃げたのは東南の方角。予想より少し方角がずれてしまったが、問題ない。
十分対応できる範疇である。
賊が通過するであろう場所を確認できる位置まで来た。
【薫】「ふぅ………。……よし」
それほど遠くないところから地鳴りが聞こえてきた。
小さいものだが、相手が歩兵であることを考えればそれはむしろ、相手の数の多さを現していた。
心臓の鼓動が早くなる。
初めての出撃に、初めての指揮。それらの緊張が仕上げに入ると同時に一気に膨れ上がった。
【薫】「大丈夫………大丈夫……大丈夫……」
自分に言い聞かせる。
たかが賊の鎮圧くらいで、何を昂ぶっているのか。
【薫】「さて………。来たよ。追撃の部隊に合わせて左右から挟撃する。合図と同時に2陣は突撃をかけて。」
伝令にそれを伝え、兵は立ち去る。
それにあわせるように、賊の軍がやってくる。
【薫】「旗を振って!!一気に攻め立てるよ!」
旗を振り、伏兵に合図を送る。
それと同時に、隠れていた兵達の声が聞こえる。
後方と左右から挟撃され、賊の部隊が散り散りに乱れ始める。
【薫】「………これで…上手くできたかな…」
目の前では明らかに自分達が圧倒的に勝利している。
だけど、その光景を見てもどこかすっきりとしない。
【薫】「気持ち悪い……」
なんだろう…。これは。
胸が締め付けられ、不快感に満ちている。
今にも嘔吐しそうな気分に、疑問を覚える。
勝ったのに…。上手くできたのに…。
視界がぼやけそうになるところを兵の「司馬懿様」という声で目を覚ます。
【薫】「どうしたの?」
【兵】「いえ、ご気分が優れないのでしたら、この近くに川がありますのでそこで休まれてはいかがかと。」
それほど顔に出ていたのだろうか。兵に注意されるなんて、やっぱり新米の証…だね。
【薫】「ありがと。じゃあ、少し休んでいくよ。……あぁ、皆は先に引き上げておいて。砦までもどれば春蘭もいると思うから」
そういって、あたしはその川へ向かう。兵の「しかし…」という声にも「大丈夫だから」とだけ言い残して歩を進めた。
川というからには、やはりその周りには森ができていた。
森といってもそれほど深いものではないから、道に迷うなんて事はなかった。
水の音が聞こえ、馬から下りて、音のほうへ歩いていく。
馬は近くの木につないでおけば大丈夫だろう。
少し歩いて行くと、木々が開き、川が見えた。
水の流れる音が一段と大きくなり、心に落ち着きを与えてくれる。
【薫】「ふぅ……」
靴を脱いで、足を水につける。
それだけなのに、さっきまでの不快感は一気に吹き飛び、足の間を流れる水が心地よかった。
【薫】「あんまりのんびりもしてられないけど、もうちょっとならいいよね」
自分に言い聞かせるように、呟く。
思えば、少し前までは普通に勉強してただけの子供だったのに、いつの間にか軍を動かすなんて事をしている。
一刀がはじめての戦で気を失ったって聞いたけど、気持ちが分かる気がした。
人の死を初めて現実として直面して、その生々しさに眩暈がするほどだった。
気を失わなかったのは、一刀がそうなったと聞いたから。というのもあるだろう。
同じようになるのは…死んでも嫌だ。
足を遊ばせながら、ここまでのことを振り返る。
結構……あたしの人生って希少価値高いんじゃないだろうか。
そんな結論に至った。
………………。
――ガサガサッ
【薫】「ひゃ!?な、なに!?」
思考に浸っている最中に後ろからの突然の物音。
動物だろうか。小さいものならいいが、熊とか虎だったらどうしよう…。
【???】「いったぁ~~~……」
【薫】「………………」
どうやらその心配はなさそうだ。
【???】「あ~、腰打っちゃったじゃない…」
【薫】「え…えと…」
【???】「ん?………誰?」
急に訝しげな顔で聞いてきた。
いや、こちらのセリフなんだけど…。
どうやら、女の人のようだ。
桃色の髪に、赤いふk……服……にしては隠すところしか隠していないような服…のようなものを着ている。
見た目は…すんごい美人だ。体型なんてまさに華琳とは正反対みたいな。
【???】「あなた、誰?こんなところで何しているの?」
【薫】「えと、あたしは司馬懿っていいます…。ちょっと疲れたから休んでるだけ。」
【???】「ふぅ~ん。司馬懿ちゃんか~」
人の名前を口にすると、こんどはじろじろとこちらを眺めてくる。
【薫】「ちょ、ちょっと…そっちこそ誰?」
【???】「へ?私のこと知らないの?」
【薫】「う、うん…」
なんだろ、前に会ってるのかな?…あれ、それならあたしのこと聞いてくるのもおかしいよね。
【???】「呉で私の事知らないなんて、ある意味すっごいことだけど、まぁいいわ。私の名は孫伯符よ」
【薫】「………は?」
【孫策】「聞こえなかったの?孫策っていうのよ。しらない?」
【薫】「い、いえ…知ってます」
あ、あれ?孫策ってたしか今の呉の……あれ?
【薫】「ちょ、ちょっと待って。今、呉でって言った?もしかしてここって…」
【孫策】「ん?ここは呉の国境付近よ?もうちょっと向こうへ行っちゃえば、曹操の領地に入っちゃうから気をつけなさい」
【薫】「………………嘘…」
あの兵卒~~~~~っ!!!!
【???】「策殿~~~」
【孫策】「あら、祭~~。こっちよ~~」
突然大きな声が聞こえたと思ったら、今度はさらにすごいおっぱい…もとい、女の人が来た。
【???】「探しましたぞ、策殿。……ん??この者は?」
【孫策】「司馬懿ちゃんって言ってね。ここで休んでたんだって」
【???】「は、はぁ…」
こ、これはどうするべきなんだろう……。
今目の前にいるのが孫策って事は、おそらく後から来たこの人もおそらく呉の人だろう。
【???】「とにかく、この付近で賊が逃げ込んだとの知らせがあったのでな。策殿もお戻りくだされ。」
【孫策】「えぇ~~」
【薫】「あ、あの、あたしもそろそろ戻りますね。」
とりあえず一刻もはやくここから抜け出さねば。幸いあたしが華琳側の人間とは気づかれていないみたいだし。
【孫策】「あ、そうなの?じゃあ、しょうがないわね。またね、司馬懿ちゃん」
【???】「ふむ……。」
【薫】「あ、はい~。また」
愛想笑いを浮かべつつ、少しずつ離れて、歩き始める。もう少しここにいたかったけどこんな状況じゃもう無理だ。
近くにおいてあった馬の場所まで向かう。
だが…
【兵】「司馬懿様!!ここは呉の領地ですのでお早くお戻りください!!!」
【薫】「馬鹿………」
【兵】「……あ、あれ?」
【孫策&???】「司馬懿“様”?」
終った…。
あとがき
さて…無事忙しい期間を乗り越えましたよ(`・ω・´)
というわけで、以前のように……と言いたいんですが、さすがに1日1投稿なんてできるかはものすごく不安です。
ただ、週2,3くらいはいきたいとは考えてますのでヨロシクお願いします(、、
それから、同時投稿していたI'M...なんですが、今度のストーリーで少し考えたいところがありますので、もう少し待っていただけますでしょうか(´・ω・`)
あ、完結までは必ずもって行くつもりですのでそこは大丈夫です。
ではでは(、、
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カヲルソラ7話です。
ん~~~っと悩みながら執筆してこの長さです。
ようやくこの先の展開が見えてきて少しスッキリしています。
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